未来の人材力を創造する 「中期要員計画」とは?

従来の要員計画では何が不十分なのか?

最近、増えているのが「中期要員計画」に関する相談である。断片的な相談も、多くは突き詰めるとこの問題に行き着く。

「中期要員計画」とはあまり聞きなれない言葉かもしれない。一般的な「要員計画」は、人員の量を1年単位でコントロールする。それに対し「中期要員計画」は企業の中期経営計画との関連性が強い。中期経営計画で素晴らしい事業戦略を描こうとも、遂行する人材がいなければ絵に描いた餅である。そこで遂行する人材を創るための「中期要員計画」が必要になってくるわけだ。期間も1年ではなく中期経営計画のスパンを踏まえることになる。

人材創りのためには、中途採用や社内での配置の見直し、人材の定着や育成などさまざまな取り組みを行わなければならない。また、圧倒的な人材不足に直面している雇用環境と、AIをはじめ急速なテクノロジーの進化による人間の仕事内容の変化という2つの大きな潮流を取り込む必要もある。

ところが従来の人事部の動きでは採用なら採用のみ、評価なら評価のみと機能別になっているため、潮流の変化を踏まえあらゆる手段を組み合わせて人材創りを実現するというテーマは手に余る。つまり「中期要員計画」を策定、実行するには人事制度や人事戦略そのものの変革が必須であり、コンサルへの相談が増えている理由もそこにある。

ありたい姿と成り行きの未来のギャップから問題を特定する

では人事戦略を抜本的に見直し、適切な「中期要員計画」を策定、実践するにはどうするべきか。
人事戦略の変革と実践のフローは、下図の7つのステップに整理できる。

「人事戦略の変革と実践」7つのステップ

まず現状把握した上で、現状の要員計画を継続した場合の「成り行きの未来」を予測する。一方、事業戦略を実現する人材の質・量について「ありたい未来」を定義し、両者のギャップを明確にする。

成り行きの未来とは単なる現状ではなく、現状の要員計画や育成施策を継続した未来のことである。これを踏まえないと問題の特定やインパクトの見積もりを誤るリスクがある。

ギャップとは、解決すべき問題である。問題を特定できたら、解決するための計画の策定、実行、モニタリングを行っていく。ただしその道は険しく、手間も時間もかかる。

例えば競合他社との同質化に陥った小売企業が、製造小売業への転換を中期経営計画で打ち出したとしよう。必要になるのはどのような人材だろうか。小売業なら主に店長であるが、製造小売業では製品開発から生産、物流、販売までトータルで意思決定ができる事業責任者になるであろう。店長は会社の方針に則り、いかに店舗を効率的に回していくかが主要な評価軸であったのに対し、事業責任者にはいかに事業開発を行い、生産や物流、販売のプロセスを構築するかという店長とはまったく異なる能力や適性が求められる。しかし社員は従来の評価軸でしか評価されていないので、誰が事業責任者の資質を持っているかがわからない。そこで新たな評価軸を策定し、評価していく必要がある。

実際に8000人規模の企業でこれらの取り組みを実施した時は、あらゆる職種について新たな評価軸を策定し、今いる社員を照らし合わせてギャップを洗い出すのに3年の時間を要した。

「中期要員計画」の成功は経営者の関与が鍵

特定したギャップを解消する手段としては、5つの施策がある。①採用、②人材の発掘と適正な配置、③評価と処遇、④能力開発、⑤定着と代謝で、一貫したストーリーの中でこの5つを組み合わせて実行し、統合的に問題の解決を図る。ポイントになるのが定期的なモニタリングで、ありたい未来における人材の状態と実態のギャップを定期的に確認し、必要があれば施策を見直していく。

「中期要員計画」の達成がどの程度、中期経営計画の達成に貢献したか、あるいは業績の向上に貢献したか効果測定するのは、他の因子を排除できないため難しい。ただ、10年前から人材ギャップに問題意識を持ち、「中期要員計画」の策定とそれに基づく人事制度・戦略の見直しを複合的に取り組んだ企業では、新たに導入した制度や仕組みが定着している。それは新たな仕組みがうまくいっている傍証となる。また、人材の採用や定着に関する測定可能な指標が明らかに改善しているケースも多い。

人材の採用や定着で効果が出る企業の特徴は、経営者へきちんとレポートしていることである。モニタリングが実効性を持つからで、見方を変えれば経営者が強い意志を持って「中期要員計画」に取り組む企業では効果が出やすいともいえる。

中期経営計画の達成には人事部門が密接に関わる必要があり、その重要性を理解していない経営者が存在するのも確かである。そうした経営者は往々にして人材はいくらでも替わりがいるという誤った認識を持っているか、成功者たる自分が歩んできたキャリアをモデル化し過ぎる傾向がある。しかし、今や人材市場は企業が選ばれる時代であり、個人のキャリアパスも多様化している。経営者が時代遅れの人材観の持ち主であれば、誰かが指摘しなければ是正もされない。その点でも人事の役割は大きいといえよう。

執筆者紹介

伴 雄峰

コンサルティング事業本部 コンサルティング部
ディレクター

伴 雄峰

Yuho Ban

株式会社伊勢丹(現・三越伊勢丹ホールディングス)に入社後、商品計画・販売サービスを担当。その後、株式会社サンエーインターナショナル(現・TSIホールディングス)において人事実務・システム導入を経験し、株式会社NTTデータ経営研究所に入社。人材育成体系構築、人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。直近では株式会社ミスミグループ本社人材企画・管理室の責任者を務める。経営戦略および組織構造との密接なつながりを重視し、人材育成を主眼においた複数の人事制度・人材マネジメントフロー改革をリード。2017年11月より現職。

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