HOMEコラム・レポート レポート HRリーダーズフォーラム 第7講「人材採用論 ~なぜあの会社は採用に成功し、この会社はうまくいかないのか?~」

レポート

2019.01.25

HRリーダーズフォーラム 第7講
「人材採用論 ~なぜあの会社は採用に成功し、
この会社はうまくいかないのか?~」

リテンション 戦略人事 採用

パーソル総合研究所は、「企業経営における戦略パートナーとしての人事」を実現するにあたってキーパーソンとなる次期リーダーの育成を本格的に支援するための学びの場として、「HRリーダーズフォーラム」を開講しました。10テーマにおよぶ人事領域の理論やプラクティスを学ぶ講義と、自社・自組織の課題への打ち手を考察するワークショップ、著名な人事変革リーダーの実体験を聴講する「人事変革ストーリー」など、さまざまな角度から人事パーソンとしての専門性とリーダーシップを高める全15回のプログラムを2019年3月まで開催していきます。


なぜ企業は人を採用するのか

第7講は神戸大学・大学院経営学研究科・准教授の服部泰宏氏による「人材採用論」です。

「そもそも、企業はなぜ人を採用するのか?」という深い問いから始まった今回のセッション。受講者の多くは、実際に様々な形で採用業務に携わっていらっしゃいますが、企業にとって採用とはどのような活動なのかを考察しました。

第7講「人材採用論」セッションの様子

大きくは、以下2つの目的に分類されます。

  1. 企業目標と経営戦略を達成するために、ある時点、あるいは将来のある時点で不足すると予想される人材を獲得するため
  2. 職場や組織を活性化させるため

1つ目の目的のために、多くの企業は「優秀な人材を採りたい」と考えるでしょう。では、「優秀な人材」とは、どんな人材なのでしょうか。採用目的の2つ目と絡めて、服部先生はシュナイダーのASA理論(Attraction Selection Attrition)を用いて説明をされました。

企業にとって、"自社の優秀な人"をベースに採用したい人の人材像をイメージし、自社にマッチしそうな人材を集め、採用され、自社のやり方に定着していく...というのが一般的な採用の流れ。しかし、これを回していると職場や組織は同質化します。職場や組織を活性化させるために新しい息吹を吹き込むという採用目的の2つ目が、達成できなくなる可能性が潜んでいるのですね。変わった人をちょっとだけ採用したとしても、いずれその人は同質化していくと言います。どの程度の「異質性」が、企業の中で良い効果を生むのか。組織の文化や風土によってまちまちではありますが、採用計画を立てる時に、「同質性」と「異質性」は必ず意識したい重要なポイントです。

ASA理論(Attraction Selection Attrition)

国内の新卒採用マーケットでいま起こっていること

少し前から、「ナビサイトを使った画一的な就職活動を行う学生」と、「ナビサイトを使うけど動き出しが早く積極的な学生」、「ナビサイトを使わず独自手法をとる学生」など、大学生の就職活動時の行動パターンが多様化してきているそうです。

企業の方も、採用手法を進化させています。例えば、企業へのエントリーの入り口とその後のフローを複数設定する、または、メインの選考ルートとは別にサブルートを設定するという「採用の複線化」。また、自社の採用フロー自体に名称をつける、あるいは採用をブランド化して社会的な関心を呼び、採用を通じて自社ブランディングをする「採用のブランド化」。SNSやITを活用する企業も増えており、すでに書類選考をAIが行なっている企業も登場しています。

セッションでは、「採用の複線化」と「採用のブランド化」など複数の取り組みを行なっている三幸製菓の事例が挙げられました。業界のトップ2社の就活応募者知名度が95%であるのに対して、三幸製菓の知名度は25%。本社は新潟県。そんな同社が2016年に取り組んだ『カフェテリア採用』は、メディアでも度々取り上げられるほどの新奇性に富んだ打ち手。しかし、その裏にある戦略(経営目標を達成するために考え抜かれたプランであったこと)と、それぞれの打ち手に具体的にどのような目的が設定されているのかを考察しました。

国内の新卒採用活動は、歴史的に「足並みを揃えること」を要求されていた時代があったので、他社の良い取り組みをすぐに自社でも取り入れようと考えてしまいがちかもしれません。また、新しい採用が頻発しているため、「新しい採用を打ち出す」こと自体が流行化している風潮もあるようです。

服部先生から、採用イノベーションの「カギ」を握る他社の事例を読み解く視点として、以下の方程式が提示されました。

●原理・理論 = 具体的実践/他社の特有の状況

         ↓

●自社の実践 = 原理・理論×自社の特有の状況

ある会社の採用がうまくいっているからといって、その手法をそのまま自社の採用に持ち込んでも、うまく機能するかは分かりません。今後も採用手法は多様化していきますが、自社の経営目標を達成するために、現在の自社のポジショニングをしっかりとマーケティングし、戦略的に採用基準を導出することが大切です。

セッションの様子

「何を見ないか」という発想

「コミュニケーション能力があって、高学歴で、誠実で、協調性があって...」というのが多くの企業の発想です。しかしこれは、競合他社ももちろんイメージしている人材要件。自社ポジショニングから、戦略的な採用基準を導き出すには、今まで当たり前に考慮してきた条件を、思い切って切り捨てる勇気を持つ必要がある場合もあるそうです。いわば、「何を見ないか」という発想ですね。

「採用基準」は、採用時点での能力をマッチングするものか、それとも、入社後にどれだけ活躍してもらえそうかという未来の能力をマッチングするものか。実は人間の能力は、①「変化させやすいもの:コミュニケーション力や目標設定力など」、②「変化させにくいもの:情熱や粘り強さなど」に分かれるそうです。「何を見ないか」という発想の中で、採用時に思い切って削ぎ落とす要素は、入社後のトレーニングなどで後天的に変化させることができる能力を検討するのも有効かもしれませんね。

実際に、「自社が重視している●●という志向は強いけど、面接時のコミュニケーション力は少々難ありだった」というケースで、面接時のコミュニケーション力を考慮せず採用し、後にその人は企業内で大活躍したということもあるそうです。採用基準を検討する際には、自社が重視したいポイントを、やはり自社特有の状況をしっかりと押さえた上で考えることが大切です。

セッションの様子

世界で最も有名な募集広告から読み解く「リアリティショック低減策」

求む男子。
至難の旅。わずかな報酬。
極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。
生還の保証はない。
成功の暁には栄誉と賞賛を得る。

By アーネスト・シャクルトン卿

これは、セッションの中で取り上げられた南極探検隊の募集広告。100年以上前のロンドンのとある新聞に掲載され、実に5000名を超える応募者が集まったという、世界で最も有名な募集広告のひとつです。セッションでは、「シャクルトン卿がこの募集広告を出した意図を、推測し考察してみよう」というディスカッションタイムが設けられました。

ディスカッションタイム

様々な考察のあるこの募集広告ですが、今回のセッションでは、「リアリティ・ショック(期待・現実ギャップ)」の事例として取り上げられ、この募集広告がシャクルトン卿の目的達成に大きく寄与した可能性について議論されました。

新人離職のほとんどの原因が、リアリティ・ショックによるものだと言われています。アメリカでは、1970年代以降、採用ミスマッチを解消するために、採用前にできる限り真実の情報を伝えようとしたRJP(Realistic Job Preview)という考え方が浸透してきたそうです。これは採用に限らず、結婚やサークル活動など、全ての人間関係構築において、共通する理論です。

しかし、日本の採用シーンでは、まだ一部のインターンシップなどを除けば、リアルな情報の開示はまだまだ発展途上なんだとか。ミスマッチを減らすためにRJPが有効であることは理解できても、RJPと自社ブランディングとのジレンマに、人事は悩み続けているのかもしれませんね。

服部先生のスライドで、とても印象に残ったのが、「自社なりのニッチを目指して」というメッセージ。自社のポジションとリソースを冷静に分析して戦略を練ることが、採用の鉄則です。採用に成功している企業とうまくいっていない企業を分けているのは、このポイントについてどれだけ深く検討されているかということかもしれません。

プログラム監修委員 櫻井's VIEW

「採用」という行為が「どのように人材(数)をそろえるか」から「どのように良い(高い能力の)人材を採用するか」にその目的をシフトしてきている。それは当然、少子高齢化の中での人材獲得競争である、という点が根本的な理由として挙げられるが、さらに、企業の競争環境が大きく変わってきていることも大きく影響している。日本のマーケットを主たるビジネスの場としている「内需型」のビジネスですら、外資との競争は避けて通れなくなってきており、その結果、日本の企業とだけ人材の取り合いをしていればいい、という時代ではなくなってきている。

その意味で今回の服部先生の「人材採用論」は、ともすると自社のブランド力と都合で採用をしてきたがゆえに、大きく変わる採用環境下、ターゲットマーケットやそこにリーチする手法に苦労している日本企業にとってはとても学びが大きい講義だったのではないだろうか。

採用を「戦術論」から「戦略論」にいかに高めるか。採用の巧拙が企業の成長を左右する時代、採用担当者の手腕が大きく問われている。(櫻井 功  パーソル総合研究所 副社長 兼 シンクタンク本部 本部長)

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