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2011.04.11

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特集Report Vol.2 震災復興による 雇用創出効果について

キャリア

本レポートでは、震災復興による雇用への波及効果について考察しています。現在、被災地ではインフラ復旧が喫緊の課題となっていますが、今後の復興には雇用の確保や創出が重要な課題となります。本レポートを通じて今後起こりうる雇用動向を考察することが、各社の採用活動の一助となり、一人でも多くの雇用を生み出すことを願っています。

※なお、現時点では被害状況の全容が判明していないこと、また考察の基にしたデータが過去の統計に依拠するものであることから、内容が限定的かつ暫定的な範囲に留まることをご了承ください。

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中途採用マーケットの最新動向

前回のレポート「震災における採用活動への影響について」では震災後の採用マーケットについて自社データをもとにご紹介しました。その中で、メーカーを中心に事業計画見直しや新卒採用延期を加味した採用計画がまだ立たず、見通しが立つのはGW明けになる見込みであることをお伝えしました。
4月1-2週も加えると、その傾向はさらに顕著です。建設/不動産、メーカー(素材・食品・その他)、IT/通信/インターネットなどの新規求人数が震災前の水準を上回ったのに対し、メーカー(電気・電子・機械・輸送機器)に関しては依然7割のままとなっており、電気・電子・機械・輸送機器分野におけるメーカーの採用活動再開が遅れていることが伺えます。

【図表1】新規求人数 (3月第1週~4月第2週)

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※DODA人材紹介サービスよりHITO総研作成

復興支援投資による各産業への生産波及効果

では今後、震災によって雇用にどのような影響が出てくるのでしょうか?阪神大震災では復興特需の発生により建設業を中心に103万人もの雇用波及効果が生まれたとされています(国交省推計)。
今回も雇用の受け皿となることが期待されていますが、どの産業でどれほどの雇用が生まれるのでしょうか?そしてそれは失業者の受け皿になり得るのでしょうか?総務省および国交省の産業連関表をもとに産業連関分析を行いました。

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今回、建設復興投資額が未確定なため、阪神大震災における被害額・投資額と内閣府発表の被害総額をもとにその算出を試みました。兵庫県によると、阪神大震災の被害総額は9兆9268億円とされ、復興のための投資額は国交省推計で8兆5051億円。うち平成6年~8年度の3年間では6兆5968億円の投資がなされました。一方、東日本大震災については、内閣府から16兆円~25兆円という被害額が発表されています。被害額に対する投資額の比率が一定だと仮定すると、今後3年間で、約10兆6327億円~16兆6136億円の建設投資が行われるものと推計されます。(図表2青枠部分)

【図表2】 復興建設投資額の推計

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※内閣府、国交省、兵庫県の各発表をもとにHITO総研算出

 前述した復興投資推計額と、2009年に総務省から発表された平成17年産業連関表産業をもとに産業連関分析を行った結果、各産業に及ぼす生産波及効果は次のように算出されます。

【図表3】生産誘発額

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※総務省、国交省の産業連関表をもとにHITO総研算出
※1次誘発効果は、逆行列係数の均衡産出高モデルにより算出。尚、建設業に関しては直接額に逆行列を乗じた直接効果を表記している。今回は2次誘発効果については分析せずあくまで直接効果と1次誘発効果のみに限定している。
※「その他の対個人サービス」・「その他の対事業所サービス」・「その他の公共サービス」を「その他サービス」としてまとめ、うち波及の大きい「物品賃貸サービス」のみ切り出している。
※産業連関表対象年の価格によるものであり、分析対象時点の価格考慮は排除している。
以上のように、今後3年間で商業、鉄鋼、金属製品、窯業・土石製品、運輸...などの順で生産が誘発されることが分かりました。建設にいたる原材料需要の増加以外にも、資材を調達する卸売業や小売業、専門商社などの「商業」。それらを運搬する「運輸」、掘削機、運搬機、打設機などの建設機械をリースする「物品賃貸サービス業」など多くのサービス業にも生産需要が波及することが見て取れます。

生産波及に伴う雇用創出効果

では、雇用面への波及を考えた場合、どういった影響があるのでしょうか?産業によって労働生産性が大きく異なるため、仮に生産額が1,000億円増加したからといってどの産業も同じ人数が必要になるわけではありません。特に、建設業やサービス業は製造業に比べ労働集約性が高い産業とされ、生産増加により誘発される雇用ニーズは他産業以上に多く増加することが見込まれます。
今回、総務省発表の産業連関表雇用表をもとに就業係数を算出し、先ほどの生産誘発額(図表2)に乗じることで必要となる就業者数を試算しました。

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算出の結果、産業別に必要となる就業者数を示したのが次ページの図表4です。産業全体では158万1千人~247万1千人が必要になり、そのうち建設業は97万3千人~152万人と全体の約6割をしめることが分かりました。
先ほどの誘発生産額(図表3)と比較すると「鉄鋼」、「石油・石炭製品」、「非鉄金属」、「化学製品」など労働生産性の高い(=就業係数の低い)産業への雇用波及効果は低くなる一方で、「運輸」、「農林水産業」など労働生産性の低い産業への雇用波及効果は高くなることが分かります。

【図表4】 誘発就業者数

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※図表3および総務省の雇用表をもとにHITO総研算出

では、こういった誘発就業数は被災地域の失業者数の受け皿になり得るのでしょうか?今回の震災による失業者は未だ把握されていないものの、震災前の被災地における就業者数が84万人(厚労省発表)だったことから、一見、建設業だけで失業者の受け皿に成り得るように見えます。しかし、建設業の雇用だけで失業者を補うことは現実的には難しいと私たちは考えます。
まず1つめの理由は、建設業は"人余り"の状態だったという点です。図表5に示す通り、建設業では建設投資額が年々低下するにも関わらず、建設業に従事する就業者数の低下は緩やかとなっていました。また、日銀の雇用人員D.Iをみると、人員過剰な状態が続いていたことが伺えます。(図表6)
先ほど算出した誘発就業者数は、そのまま新規雇用数を示すのではなく、あくまで誘発される生産を生み出すために必要となる就業者数の値を示しています。従って、稼働率上昇や時間外労働、他地域からの応援等が発生し、新規雇用は大幅に圧縮されることが予想されます。

【図表5】建設投資額および建設業就業人口推移  【図表6】建設業における雇用人員DI

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※労働力調査、経済調査会よりHITO総研作成 ※日銀短観よりHITO総研作成

そして2つめの理由は質のミスマッチです。例えば土木では技術士や測量士、土木施工管理士といった人材が、建築・設備においては建築士や電気・空調・給排水の設計、施工管理など特殊知識を持つ人材が必要とされます。今回はスピードが優先される中、土工やとび工、大工、左官についても被災者の未経験者層では現実的には難しく、経験や技術をもった即戦力人材に対するニーズの殺到が予想されます。これは阪神大震災の時にも同様の事象が発生し、復旧事業における雇用の多くが被災地外に流出したことが報告されています。そういった質のミスマッチを軽減すべく、厚生労働省は建設機械を扱う職業訓練の期間短縮を打ち出し、短期戦力化を図る対策がとられています。こういった育成施策は、一定有効ではあるものの、建設業だけではなく商業、運輸、金属製品、情報通信などの他産業についても行うことが望ましいと考えます。
今回の試算結果により、建設業以外の産業における雇用波及効果が60万8千人~95万1千人と、全産業の4割にあたる雇用ニーズが発生することが明らかになりました。建設業のみならず全ての産業が、未経験者も含めた雇用受け入れ準備を行うとともに、官民挙げて未経験就業者の早期戦力化に向けた体制を整えることが必要です。攻めの姿勢で積極的な雇用や生産を行うことで各産業の各企業がこの復興支援投資の恩恵を積極的に享受し、新規投資でさらなる雇用を生み出していく連鎖こそが復興へのカギとなります。
その中で人材サービス企業やハローワークにおいては、未経験者であってもその求職者の能力やスキルを活かせるような類似性の高い職種・業種を分析しマッチングを行うことで、1人でも多くの雇用を生み出していくことこそが社会的使命であると私たちは考えます。
今回は土木・建設を中心した復旧需要のみに焦点を当てましたが、実際は原発や電力対策も大きく影響を及ぼしています。次回は原発や電力不足などがもたらす影響について考察したいと思います。

【参考資料】
国土交通省 建設経済局調査情報課「平成2年建設部門地域間産業連関表について(要旨)
財団法人 建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見通し」
内閣府 「月例経済報告等に関する関係閣僚会議 震災対応特別会合資料」
・兵庫県 企画県民部防災企画局復興支援課 「阪神・淡路大震災の 復旧・復興の状況について」
厚生労働省 3月28日発表報道資料
・総務省「労働力調査」
・日本銀行「日銀短観」
・総務省「産業連関表」
国土交通省「建設部門の産業連関表」

【産業連関分析についての参考資料】
・中島隆信・吉岡完治『実証経済分析の基礎』慶應義塾大学出版会(2000/6)
・国土交通省「建設部門分析用産業連関表」の概要
建設部門の産業連関表>公表資料「建設部門分析用産業連関表」の概要」>平成17年>解説編

2011年4月11日
主任研究員 美濃 啓貴
研究員 田中 聡/森安 亮介
URL:http://rc.persol-group.co.jp

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