精神障害者雇用を一歩先へ

第1弾調査結果

本プロジェクトの調査からは、精神障害のある人に対し、
戦力化を求め育成すること、「はたらくWell-being」を高めることが、
定着や活躍につながることが分かりました。
その詳細と、マネジメントのポイントを紹介します。

戦力化を求め育成し、
「はたらくWell-being」を高めること
それが精神障害のある就業者の
定着や活躍につながる

精神障害者の「雇用の数」が増加を続ける中、精神障害のある就業者が「働き続けキャリアを形成する」「能力を活かし活躍する」といった「雇用の質」の向上は道半ばの状況です。かつて身体障害者・知的障害者がそうであったように、精神障害者の雇用を当たり前にし、長く安定的に活躍できる環境を整えていくために、企業はどのような点に注力すべきなのでしょうか。
精神障害者雇用の分野ではすでに多くの雇用事例が共有され、事業者・行政機関が支援を行っています。しかし、企業の取り組みについて、実証的なデータに基づく効果検証はほとんど行われてきませんでした。そこで今回、パーソル総合研究所では、企業の障害者雇用担当者※1と、障害のある就業者※2にそれぞれアンケート調査を行い、精神障害者雇用の現在地と、マネジメントのポイントを探りました。

その結果、次のようなトピックスが浮かび上がってきました。
雇用現場においては、精神障害を抱える個々人との対話が最も重要ではありますが、調査から見えたこれらの結果を、ひとつの拠り所として活用いただけたら幸いです。

なお、この調査結果を踏まえ、第2弾調査として現場の上司や同僚の意識・行動の実態と影響について調査を実施しています。ご関心のある方は第2弾調査の結果もぜひお読みください。 

※1

障害者手帳保持者を3名以上雇用する企業に限定して調査

※2

障害者手帳保持者のみを対象に調査

それでは、トピックス01~04について、一つずつ解説していきましょう。

精神障害者の雇用の増加に対し、
雇用ノウハウの蓄積が追いついていない

今回の調査結果から、精神障害者の雇用は、図中の7つの障害種のうち、最も雇用ノウハウの蓄積に課題があることが明らかになりました。直近5年以内の雇用増減を障害種別に尋ねた設問において、「増加した」という回答がもっとも多かったのは精神障害者(33.8%)であったのに対し、雇用ノウハウが「蓄積途上」または「手探り状態」の企業もまた57.0%と全障害の中でもっとも多くなりました。雇用ノウハウが蓄積途上の状況であっても、精神障害者の雇用を増やしている企業が多いようです。
民間企業における障害者の法定雇用率は、今後さらに上昇し、2024年4月に2.5%になる予定※3です。法令順守の観点からも、精神障害者の雇用は避けては通れない状況になっており、今まさに雇用ノウハウの蓄積が求められています。障害者雇用は売り手市場の様相であり、精神障害者の雇用意欲が高い企業のほうが、応募者確保が容易になっている傾向が見られました。

※3

2023年度現在は2.3%

図1.一般企業における障害者の雇用ノウハウの蓄積状況(障害種別)

57.0%の企業で、精神障害者の雇用ノウハウが
「蓄積途上」または「手探り状態」

一般企業における障害者の雇用ノウハウの蓄積状況(障害種別)

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本調査での一般企業は、障害者を3名以上雇用している企業に限定

福祉・法的義務の発想から、育成・戦力化と多様性包摂へ、
雇用の意義をとらえなおす必要がある

企業における障害者雇用に対する態度について障害者雇用担当者に聞いた調査では、「障害者には成果発揮を求めない」とする企業が55.3%と半数を上回っています。しかし、昨今のESG投資やDI&Eの流れの中で、障害者に対してのみ福祉的対応、もしくは法的義務(法定雇用率)の達成に偏った対応をすることは、もはや時代にそぐわないのではないかと考えます。人手不足が深刻化する中、育児や介護、疾病や障害など、多様な制約をもった就業者を包摂できる組織を作ることは、企業利益につながります。企業は、そのような組織を実現するための取り組みのひとつとして障害者雇用をとらえていく必要があるのではないでしょうか。
特に、精神障害者の雇用においては、「戦力化を求め育成を重視」する企業で定着・活躍度が高い傾向が見られます。また、精神障害のある就業者は、他障害に比べて障害者枠での就労において「成長機会のなさ」に不満・困りごとを抱える傾向も見られました。精神障害のある就業者には就労の経験や能力がある人が多いため、障害に対する合理的配慮を行いながらも、育成・戦力化に取り組むことがポイントといえます。

図2.企業における障害者雇用への態度(一般企業と特例子会社での比較)

55.3%の企業が、障害者の戦力化を
いまだ重視していない

企業における障害者雇用への態度(一般企業と特例子会社での比較)

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数値は、「とてもあてはまる」「あてはまる」合計値

本調査での一般企業は、障害者を3名以上雇用している企業に限定

図3.企業の障害者雇用への態度別に見た、精神障害者の定着・活躍度の違い

戦力化を求めた育成重視の企業のほうが、
精神障害者の定着・活躍度が高い

企業の障害者雇用への態度別に見た、精神障害者の定着・活躍度の違い

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「わからない」回答者除外

本調査での一般企業は、障害者を3名以上雇用している企業に限定

また、雇用経験がない、もしくは浅い時点では、企業の障害者雇用担当者が、精神障害のある就業者の就労可能性や能力を過小評価してしまう傾向も見られました。これは、実際に採用することで、「こんなに働けるなんて。想像と違った」と先入観が解消されたり、ノウハウの蓄積によってさらに活躍を見せる姿を目の当たりにしたりするためと考えられます。メディアなどで取り沙汰されがちな偏った情報に振り回されずに雇用を進めることが求められます。

図4.雇用ノウハウ状況別に見た、精神障害者雇用担当者の持つ精神障害者へのイメージ

雇用経験が積み重なると、
精神障害者に対するイメージが変わる

雇用ノウハウ状況別に見た、精神障害者雇用担当者の持つ精神障害者へのイメージ

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上位5項目と有意差のあったものを抜粋掲載。数値は「そう思う」の回答率

障害の有無を問わず、
「はたらくWell-being」が働く人の定着・活躍を促進する

「はたらくWell-being」とは、「仕事を通じて、喜びや楽しみを感じることが多く、怒りや悲しみといった嫌な感情をあまり感じずにいる状態」を表す概念です。一般的な就業者に対する調査で、「はたらくWell-being」は就業者の定着・活躍を促進することが明らかになっています。今回の調査からは、障害者枠で働く、精神障害のある就業者についても同様に、「はたらくWell-being」が定着・活躍を促進する傾向が確認されました。
障害者の「はたらくWell-being」のことを考えている企業は、現時点ではおそらく多くはないでしょう。障害の有無にかかわらず、「はたらくWell-being」が定着・活躍につながることは誰にとっても同じです。精神障害のある就業者を含め、従業員の「はたらくWell-being」を意識することが、結果的に企業の利益につながるといえます。

図5.精神障害者の「はたらくWell-being」と定着や活躍との関係

精神障害のある就業者の
「はたらくWell-being」が高いほど、
定着度や活躍度が高い

精神障害者の「はたらくWell-being」と定着や活躍との関係

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精神障害のある就業者の「定着・活躍」を促す
マネジメントのポイント

精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」や「定着・活躍」※4に影響を及ぼしている上司・同僚の対応や、人事施策を分析したところ、以下のようなポイントが浮かび上がりました。

※4

「はたらくWell-being」は個人調査の分析結果、「定着・活躍」は企業調査の分析結果。

現場の上司・同僚の対応のポイント

精神障害のある就業者を受け入れる現場の上司・同僚の対応のポイントとして明確に浮かび上がったのは、「平等な対応」の重要性です。精神障害のある就業者のうち、上司や同僚から、職場の他のメンバーと区別なく平等に接されている人は、「はたらくWell-being」が良好な傾向が顕著に見られました。気遣いのつもりでも、「決めつけ」からくる特別対応は「自分は期待されていないのだ」などと感じさせ、ストレスになる場合があります。障害者枠で働く精神障害のある人に行ったヒアリングでも、「特別扱いされないことが心地よい」「腫れ物に触るように扱われるのではと不安だった」という声が多く聞かれました。特別な対応や配慮は本人の意見を聞いた上で行い、それ以外の面では他の従業員と平等に接することを心がけたほうがよいでしょう。
他方で、「障害への配慮」や「障害への否定的態度のなさ」も重要です。上司の対応に関する分析では、配慮と平等性どちらかに偏る場合は「はたらくWell-being」が高まらず、両方が高い時にはじめて「はたらくWell-being」が高まるという傾向が見られました。障害への配慮と平等な接し方を両立することがポイントといえます。
また、精神障害のある就業者は、他の障害種と比べて、同僚の態度・行動に「はたらくWell-being」が影響されやすい傾向がありました。同僚にも障害への配慮や接し方のポイントについて理解してもらうことが重要です。

図6.精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高める「上司」の行動

平等性と配慮の両立が重要

精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高める「上司」の行動

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はたらくWell-beingは、「私は、はたらくことを通じて、幸せを感じている」「私は、はたらくことを通じて、
不幸せを感じている(逆転項目)」の平均値

実施率は「とてもあてはまる」「ややあてはまる」合計値

図7.精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高める「同僚」の行動

同僚の態度・行動の影響も大きい

精神障害のある就業者の「はたらくWell-being」を高める「同僚」の行動

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はたらくWell-beingは、「私は、はたらくことを通じて、幸せを感じている」「私は、はたらくことを通じて、
不幸せを感じている(逆転項目)」の平均値

実施率は「とてもあてはまる」「ややあてはまる」合計値

人事施策のポイント

人事施策としては、3つのポイントが浮かび上がりました。
1つ目は、「採用時のマッチング強化」です。企業調査の結果からは、「事前の採用計画」、「職場見学・実習」、「障害者トライアル雇用(短時間トライアル雇用を含む)※5の活用」が、精神障害のある就業者の定着・活躍度を高めることが確認されました。また、「採用時に合理的配慮を丁寧にすり合わせてもらえた」という就業者側の実感は、就業開始後の高い「はたらくWell-being」につながっていました。個々人で異なる障害特性を把握し適切な配慮をすることが難しい精神障害では、採用時の能力の見極めと配慮のすり合わせを丁寧に行うことが重要です。《始めが肝心》といえるでしょう。
2つ目は、「受け入れ先現場への支援」です。調査結果から、障害者雇用に意欲的な配属先現場の管理職・一般社員は約2割と低く、多くが身構えていたり、抵抗を感じていたりします。精神障害者が担う業務内容を切り出す、配慮内容を事前に説明する、トラブル対応方法を明文化するといった支援が、スムーズな受け入れにつながります。特に、「雇用管理方法やトラブル対応方法の明文化」は、精神障害のある就業者に生じやすい属人化によるコミュニケーションの齟齬や対人関係のトラブル、曖昧さからくる不安感を予防する効果が期待されます。
3つ目は、「精神障害のある就業者個人への支援」です。特に、セルフケア支援として「休暇を取得しやすくする制度の整備」や「時短勤務制度・テレワークといった柔軟な働き方の整備」は、精神状態が変化しやすい精神障害のある就業者の定着・活躍を促進します。また、「上司との定期的な面談」などの相談機会は、状態の変化を聞き取り、配慮内容を継続的にすり合わせていくためにとても効果的です。

※5

障害者を試行雇用し、適性や能力を見極め、継続的に雇用するきっかけを作ることを目的とした助成金制度。精神障害者は原則 6~12カ月間(給付金は最長6カ月間)の試行雇用が可能。短時間トライアル雇用は、週10以上20時間未満の試行雇用から雇い 入れ、期間中に週20時間以上を目指す制度。3~12カ月間(給付金は最長12カ月間)の試行雇用が可能。

図8.精神障害のある就業者の定着・活躍を促す3つの「人事施策」ポイント

① 採用時のマッチング強化、
② 受け入れ先現場への支援、
③ 精神障害のある就業者個人への支援

精神障害のある就業者の定着・活躍を促す3つの「人事施策」ポイント

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