近年、日本の働き方の潮流が変化する中、働く意識をいち早くアップデートしているのが若手社員である。そのような若手社員とミドル・シニア社員の意識のギャップは、多くの職場で問題となっており、若手社員のマネジメントの処方箋を知りたい、という声が多く聞かれる。
そこで今回は、「働く10,000人の就業・成長定点調査」のデータから、若手社員の成長や就業に関する意識変化に着目し、今の若手社員像を浮き彫りにしたい。また、2020年から急速に普及した在宅勤務が、若手社員の働く意識にどのような影響を与えているのかも提示したい。
公開日:2022年8月18日
20代正社員(20‐24歳、25‐29歳)では、仕事での成長について「キャリアの明確化」のイメージを持つ傾向が上昇。若手社員において自律的なキャリア形成に対する意識が高まっている。
20代前半正社員の仕事選びの重視点は、休みの取りやすさ、人間関係、収入などが減少する一方で、社会貢献や、知識・スキルが得られるといった「自己成長」に関する項目が上昇傾向。今後のキャリア形成を考えて、自身を成長させてくれる会社を選びたいという意向が強まっていることがうかがえる。また、SDGs 世代として社会貢献意識の高まりも見える。
20代前半の学習・自己啓発実施率も、過去5年間で微増傾向にあり、他年代と比べて最も高い。
自己成長の重視度が高まっている変化の影響を受けてか、20代正社員の成長実感は増加傾向にあり、20代前半の70%が過去1年間に成長を実感している。
会社を辞めて独立したい人の割合は、男性20代前半で最も高く、2017年に20%であったのが、2022年には31%まで上昇。一方で、男性の40代以上や女性では横ばい傾向。
現在の会社で管理職になりたい人の割合は、男性20〜30代では微減。
女性20〜24歳では増加傾向にあり、2022年には24%が管理職になりたいと回答。
20代前半では、他年代と比べて転職へのイメージがポジティブに変化している傾向が顕著。
転職を「積極的にしていくほうがよいこと」と捉えている20代前半社員は、78%にのぼる。
一方で、20代の転職意向、転職回数はともに横ばいで推移。
実際に転職する若手社員が増加しているわけではないようだ。
副業・兼業実施者は、男性20〜24歳で特に多く2022年は14%にのぼる。
副業のきっかけとしては、20代は他年代よりも収入目的が少なく、学びやキャリア形成、仕事での行き詰まり解消が多い。
20代正社員の在宅勤務者の副業実施率は、出社者(5.2%)に比べて16.2%と高い。
在宅勤務を可能としている企業では副業制度の整備も進んでおり、また従業員側も在宅勤務の方が、副業が実施しやすいことが要因として考えられる。
好きな時間に働く、好きな場所で働く、といった自由な働き方を希望する人は、この6年の間に20~30代社員で増加傾向。
特に20代前半には多く、2022年には約52%が好きな時間、約44%が好きな場所で働くことを希望。
週休3日制といった勤務日数選択制度の希望者はいずれの年代もここ4年間で増加しているが、20代前半の希望者は2022年には17%と最も多い。
在宅勤務希望者は、20〜24歳では45%にのぼる。
仕事選びの重視点について、20代社員のうち、在宅勤務者は出社者と比べて自分のやりたい仕事であることや収入を重視し、企業理念への共感や社会的成功は重視しない傾向があった。在宅勤務をすることで、より個人的な事柄を重視しやすくなっていることがうかがえる。またこの影響は、20代で特に強かった。
転職に対しても、在宅勤務者は出社者と比べて「成長につながる」や「多様な経験ができる機会である」、「キャリアアップできる」など、成長につながるものとしてポジティブに捉える見方が強い傾向がある。
20代在宅勤務者は出社者に比べ、企業規模に関係なく残業時間が長い。30代以上ではこのような傾向はみられず20代特有。また残業理由は、「突発的な仕事への対応」 「与えられた仕事を最後までこなしたいから」が多くなる傾向。出社と異なり退勤をうながす声掛けなどきめ細かいフォローが難しいことが一因と考えられるため、注意を要する。
20代正社員において、もし自由な時間が10時間あったら何に時間を使いたいかを尋ねたところ、在宅勤務者は出社者と比べ、学習、友人と過ごすために使う時間を長めに回答し、レジャーにあてる時間を短めに回答する傾向があった。また成長志向(仕事での成長を重視する傾向)も高い傾向があり、学習意欲の高さがうかがえる。
30代以上正社員においては在宅勤務者が出社者に比べパフォーマンスや成長実感が高い傾向があるが、20代正社員においては差がみられない。20代在宅勤務社員は、長い残業時間、高い学習意欲にもかかわらず、その成果が出せていない傾向がある。
20代在宅勤務者は、30代以上と異なり、幸福度や会社満足度といった心的状態が出社者と変わらない。20代の在宅勤務では、他の年代に比べて不幸せ度が高い、という傾向は過去の調査(*)でも確認されているが、要因として能力不足に対する不安、コミュニケーション不足による疎外感やチームワーク不全、オーバーワークになりやすいことが挙げられる。特に20代社員において、このような在宅勤務の弊害に注意を要する。
ここ数年の20代社員の変化をみると、「仕事での成長=自らのキャリアを明確にすること」と捉える意識が強まっている。昨今の社会の変化を目の当たりにしてきた20代社員は、上の年代と比べ、従来の企業従属型ではなく主体的なキャリア形成を目指す価値観を身に付けている。それと同時に、企業に対しては成長機会を求める意識が高まっている。その成長が意味するのは、社内での出世というよりも、転職・独立も視野に入れた、他社でも通用するポータブルスキルを得ることだろう。
そこで、20代社員の定着には、20代社員が自身の市場価値を高められるような、汎用的なスキルが身につく仕事を与えることが重要だ。また、社内における将来的なキャリアや身につくスキルの選択肢について説明すること、本人のキャリア意向と業務内容のすり合わせをこれまでよりも丁寧に行うことも重要だろう。放任型のマネジメントや、近年働き方改革の影響で増加する甘やかし型のマネジメントでは、若手社員が「この会社に居続けても自分の市場価値を高められないのでは」と不安を感じてしまう恐れがある。
20代社員はフレックスや在宅勤務といった時間や場所が選べる働き方への希望も強い傾向がある。しかし、柔軟な働き方をいたずらに許容することは、特に育成期間である20代社員においてはリスクになりかねないことも調査から明らかになった。
具体的には、20代社員の在宅勤務実施者は出社者に比べ、残業時間が長く学習意欲が高いにもかかわらず、パフォーマンスや満足度、勤務先での継続就業意向が高まっていない。一方、30代以上社員の在宅勤務者は、出社者と比べてパフォーマンスや満足度、継続就業意向が高い。20代社員では在宅勤務によるプラスの効果が得られず、頑張りが空回りすることが増えているのではないか。
この背景として、20代社員は育成期間のため仕事の裁量が少なく、上司とコミュニケーションを取りながら業務を行う必要があるが、在宅勤務で情報不足やフォロー不足などが発生しがちであること、上司・先輩の仕事ぶりを見て学ぶことが従来よりも難しいことなどが挙げられる。
このような弊害を防ぐには、リモート環境に合わせて20代社員にも一定の裁量を持たせ、その上で相談できる場づくりやこまめな声掛けを行い丁寧に育成するといった工夫が必要だ。時には対面形式を取り入れてチームビルディングを行うことも重要だろう。
加えて、在宅勤務を行う20代社員は出社者に比べ、仕事を選ぶ上で、「やりたい仕事であること」や「希望する収入」をより重視し、「企業理念への共感」や「社会的成功」は重視しない傾向があった。キャリア初期に在宅勤務を行うことで、仕事を個人的な事柄としてとらえ、企業や社会とのつながりに対する意識が薄れると推測される。このような仕事の私事化は、組織として成果を出していく上で障壁となりうるため、組織への帰属意識を高める施策が重要だろう。
在宅勤務に適したマネジメントに転換し、柔軟な働き方と若手の育成・定着を両立していくことが求められる。
働き方の実態と意識、成長について聞いた
働く10,000人の就業・成長定点調査
(調査開始2017年~)
その年の社会影響が色濃く表れたもの、ある視点で一部を切り取って詳細に分析したものまで、さまざまな角度から、人々の「働くことを通じた成長」の実態や変化についてご紹介しています。
株式会社パーソル総合研究所
働く 10,000人 の就業・成長定点調査
全国男女 15-69 歳の有識者 10,000 人
(性別及び年代は国勢調査の分布に従う)
2017年より毎年2〜3月に実施
※このページのグラフ内数値について
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【出典記載例】 出典:株式会社パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」
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