136万人が働き手に変わる“サテライトオフィス2.0”の提言136万人が働き手に変わる“サテライトオフィス2.0”の提言

パーソル総合研究所は「労働市場の未来推計」において2025年に日本が583万人の人手不足になるという推計と、その解消に向けて、(1)生産性を向上させる、(2)働く女性を増やす(3)働くシニアを増やす、(4)日本で働く外国人を増やすという4つの方向性を提示しました。

今回、これら4つの方向性のうち、生産性の向上や女性やシニアなどの新規雇用創出が見込め、かつ通常の職場と同様に周囲の人々とのコミュニケーションや協業も期待できる「サテライトオフィス」に注目し、雇用創出効果を推計したところ、約136万人の新たな雇用が見込めることがわかりました。

サテライトオフィスとは、企業または団体の本拠から離れた所に設置されたオフィスのこと。しかし、136万人という数値は、単にこうした定義通りのサテライトオフィスを設置するだけで見込めるものではありません。新規雇用を促すには、サテライトオフィスが持つ既存のコ・ワーキングスペース機能に加え、新たな機能を備えた次なるサテライトオフィスの形が必要です。こうした新たなサテライトオフィスの形を「サテライトオフィス2.0」とし、推計結果とともに紹介します。

サテライトオフィスの設置で働ける可能性のある人〈推計結果〉

現在働いていない 705.5万人 / 働きたいと思っている人 432.5万人 / 働ける可能性のある人 135.9万人 そのうち 未就学児の母親 78.9万人 / 就学時の母親 14.1万人 / 介護者 10.5万人 / 60歳以上のシニア層 32.3万人

今回の推計は、時間や場所がハードルとなり働けていない人が多いと考えられる4つのセグメント(「未就学児の母親」「就学児の母親」「介護者」「60歳以上のシニア層」)を対象としました。この4セグメントのうち現在、働きたくても働けていない人は432.5万人、その中でも自宅近くにサテライトオフィスがあれば働ける可能性のある人は135.9万人であることがわかりました。

ただし、この135.9万人は、単に従来型のサテライトオフィスを設置しただけで、働けるようになるわけではありません。

現在働いていない人々のスキルや経験の状況

パソコンの利用経験がない人 “3割以上

未就学児の母親 20〜49歳 33.5% / 就学時の母親 30〜59歳 36.1% / 介護者 20〜59歳 30.0% / 60歳以上のシニア層 40.4%未就学児の母親 20〜49歳 33.5% / 就学時の母親 30〜59歳 36.1% / 介護者 20〜59歳 30.0% / 60歳以上のシニア層 40.4%

OAスキルを身に付けたい人 “6割以上

OAスキル(Excel、Wordなどのオフィスソフト利用の能力)OAスキル(Excel、Wordなどのオフィスソフト利用の能力)

託児サービスがあれば、働ける可能性のある育児中の女性(※)“1.4倍up

託児所無しの場合 働けるようになる11.4 働けるようになる可能性がある34.5 → 託児所有りの場合 働けるようになる28.9 働けるようになる可能性がある35.5託児所無しの場合 働けるようになる11.4 働けるようになる可能性がある34.5 → 託児所有りの場合 働けるようになる28.9 働けるようになる可能性がある35.5

※育児中の女性(20-39歳)で働ける可能性のある人数〔同じ距離(最寄り駅より徒歩15分圏内)のオフィスにおいて、託児サービスの有無による比較。n=394

サテライトオフィスでの業務は、パソコンを使ったオフィスワークが中心となります。これまで接客業にしか就いた経験がない人や仕事のブランクが長期間にわたる人などにとって、パソコンを使用した業務はハードルが高く感じられるでしょう。

実際、今回の推計の対象者である「未就学児の母親」「就学児の母親」「介護者」「60歳以上のシニア層」のうち現在働いていない人について、スキルや経験を調査したところ、3~4割の人がパソコンの利用経験がなく、身に付けたいスキルとしてもOAスキルを挙げた人が6割以上に上りました。サテライトオフィスに、こうした人々の支援ができる機能が備わっていれば、新規雇用の効果をより高められます。

雇用創出に求められる新しいサテライトオフィス形の
サテライトオフィス2.0

サテライトオフィス2.0には、従来のコ・ワーキングスペース機能に3つの新機能が追加

コ・ワーキングスペースコ・ワーキングスペース

業務スペース、電話スペース、各種オフィスファシリティ、会議室、ワークスペースなど、サテライトオフィスに備わる従来の機能を指す。

××
スキル習得支援サービス / 託児サービス / キャリア支援サービススキル習得支援サービス / 託児サービス / キャリア支援サービス

スキル習得支援サービス

eラーニング教材やパソコンを利用したスキル講座・資格講座の受講サービス、
またはグループでの実地研修サービスを提供することにより、
働けるようになる人は、全国で27.3万人に上る。

スキル習得支援サービスの設置で働けるようになる推計人数=27.3万人スキル習得支援サービスの設置で働けるようになる推計人数=27.3万人

  • オンラインでスキル講座や資格講座を受講できるeラーニングサービス
  • サテライトオフィスを会場に開かれるグループ研修など各種研修サービス

キャリア支援サービス

サテライトオフィス内でキャリア・カウンセリングサービスを提供したり、
パソコンを用いたジョブサーチサービスを設置することにより、
働く場所と職とのマッチングが実現し、働けるようになる人が58.9万人見込める。

キャリア支援サービスの設置で働けるようになる推計人数=58.9万人キャリア支援サービスの設置で働けるようになる推計人数=58.9万人

  • 対面や電話・WEB会議などで、キャリアカウンセラーにキャリアに関する相談ができるサービス
  • オンラインで就職面接が受けられるサービス
  • パソコン経由で条件に合う仕事を検索することができるジョブサーチサービス

スキル習得支援サービスとキャリア支援サービスの両方設置で働けるようになる推計人数=49.7万人スキル習得支援サービスとキャリア支援サービスの両方設置で働けるようになる推計人数=49.7万人

託児サービス

サテライトオフィス内に託児サービスを設けることで、
働ける可能性がある育児中の女性の人数は、
託児サービスがない場合に比べて1.4倍増える。

託児サービスの設置で働ける可能性がある育児中の女性(※)の人数= 1.4倍up ※20-39歳託児サービスの設置で働ける可能性がある育児中の女性(※)の人数= 1.4倍up ※20-39歳

  • 託児スペースを併設し、常駐する保育士に
    幼い子どもを預けられるサービス
  • 子どもを自転車に乗せて送迎・通勤ができる
    距離にある託児サービス

仕事と人を〈場〉で結ぶ〈ハブ〉として
人手不足解消の有効策となるサテライトオフィス2.0

昨年、パーソル総合研究所は、2025年に国内で583万人の労働力が不足する、という独自の推計結果を発表しました。総人口が1億人を切る未来が近づく中で、労働力不足の問題もますます注目を集めています。

ですが、東京で人波に飲まれて毎日を過ごしていると、この問題の切迫感を肌で感じにくいところがあります。それは、労働人口(昼間人口)の都心部への過剰集中という背景があるからです。都市化が進んだ高度成長期以降、三大都市圏に事業所は集中し、働く人が溢れる一方で、地方・郊外の労働人口は減少してきました。

こうした集中化は、「働ける人」と同時に「働けない人」も生み出してきました。もともとの労働時間の長さと往復1時間を大きく超える通勤時間、さらにラッシュによる乗車ストレスや疲労が加わると、利用できる託児施設がない育児中の女性、介護を抱える人々、高齢層などが働ける余地は極めて小さくなります。しかし人手不足の大きな波の中で、こうした状況をいつまでも放置しておくわけにはいきません。そこで課題解決のための一つの大きな選択肢として浮上するのがサテライトオフィスです。家と仕事を近づけ(職住近接)、都心部への一極集中を分散させる可能性を持ったサテライトオフィスは、ICTが発展し遠隔勤務の体制が整ってきた今こそ、労働力の創出に大きな可能性を持つように思われます。

今回のサテライトオフィスプロジェクトの調査研究結果から、サテライトオフィスによる雇用創出実現のための鍵は、やや逆説的ではありますが、物理的な〈場〉の拡充そのものではない、という結論が見えてきました。遠隔地のオフィスで働くための基礎スキルが不足している人は多く、そうした人々には教育機会を用意することが必要です。また、働く〈場〉としてのサテライトオフィスは〈人〉と〈仕事〉とを結びつけるためのハブとしての機能をきちんと持っていなくてはいけません。私たちは、これら「スキル習得支援サービス」「キャリア支援サービス」に、ボリューム層となる育児中の女性のための「託児サービス」を加えたサテライトオフィスの新しいモデルを、〈サテライトオフィス2・0〉として描き出しました。

サテライトオフィス2.0は、これまで構造的に「働けない」側に追いやられていた人々のニーズをすくい取り、〈人〉〈仕事〉〈場〉を結びつけていくためのあくまで一つのモデルの提案に過ぎません。また、複数企業が利用する集合型でありながら<ハブ機能>をも有するサテライトオフィス2.0の導入は、一企業ではなかなか困難な側面があるでしょう。しかし、企業のサテライトオフィス導入を支援する取り組みは、さまざまなところで始まっています。当社グループでも、2017年、職住近接を掲げたジョブシェアセンターの開設や、ファシリティマネジメントのコンサルティングを担う新会社の設立など、続々と新たな試みを進めています。サテライトオフィスに関心を持つ企業が導入を検討できる環境は整いつつあるといえます。

本推計結果および“サテライトオフィス2.0”の提案が、企業、そして社会全体において、この人手不足時代を乗り越えていく一つのヒントとして、本推計結果が少しでもお役に立てれば幸いです。

より詳しい情報は機関誌特別号HITO REPORT vol.2にてご覧いただけます。