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ベトナム労働法制

ベトナムの労働法制も労働者に有利に設計されている。具体的には、解雇事由が法律上明記されており、又、解雇する際には法定の退職金を支払わなければならない、会社が労働者を懲戒解雇する場合には、事前に労働組合と協議し、合意を得なければならない等の手続きが必要である、整理解雇をする場合において、12カ月以上勤務していた労働者の職がなくなった場合には、直ちに解雇することができず、訓練を実施した上で、新たな業務を提供する義務がある、有期契約の更新は1回までしか許容されない、最低賃金が定められているなどとされている。

外国人のビザの取得についても、必ずしも寛容と評価することはできず、ベトナムもインドネシア同様労働管理が非常に難しい法域の一つであると評価できる。

2021年1月より、新労働法が施行された。新労働法の内容の多くは従来のものから変更されておらず、新労働法においても労働者優位の路線は踏襲されている。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

労働者優位

ベトナムではベトナム共産党の一党支配の下、中央集権制と民主制を統合した「民主集中制」に従い、国家運営がなされている。立法権、行政権及び司法権は、抑制と均衡を保つためではなく、このような国家運営を支えるための分業として機能している。このうち行政は、22の省庁で構成される政府(Government)が担っており、労働法制については主に労働傷病兵社会省(Ministry of Labor, Invalid and Social Affairs(MOLISA))の所管となる。

社会主義国家であるベトナムにおいて労働者の保護は手厚く、日本よりも労働者に有利な労働法制となっている。例えば、有期雇用の場合には一定期間以上の雇用が続くと無期雇用化しなくてはならず、会社側から行う解雇についても原因が限定されている等の特色がある。又、紛争となった際にも労働者に有利な判断がなされることが多く、後日の紛争を避けるためには、細心の注意を払い解雇手続きを行う必要がある。

2019年12月6日に、旧労働法(Law No.10/2012/QH13)に代わる改正労働法(Law No.45/2019/QH14、以下「改正労働法」又は「労働法」という)が公布され、2021年1月1日に施行された。

改正労働法においても、既定の労働者優位の路線は踏襲されている。例えば、定年年齢の引き上げや、有期契約の労働者からの事前通知のみで一方的に労働契約の解除が認められるなど、雇用者にとって厳しい改正がなされている。

労働組合とストライキ

社会主義国家であるベトナムは、共産党体制の一部としてベトナム労働総連を頂点とする労働組合が組織されており、企業内だけでなく、中央直轄市・省より一段階下の行政単位である県・区レベルでも労働組合が組織されているのが特徴である。

ベトナムにおいては、一定の類型の労働紛争について、調停や仲裁によって紛争解決がなされなかった場合、法律上ストライキをする権利が認められている(労働法199条)。ストライキはベースアップを求めるものが多いが、過重労働、社員食堂の食事の質の低さを原因とするものもよくみられる。ストライキの手続は、①労働者全体又はストライキを組織する労働組合からの意見聴取、②ストライキ実施の決定、③ストライキ実行、という流れとなる(労働法第200条)。もっとも、法によって定められているストライキの手続きは労働者にほとんど知られておらず、実際には法律に従わない違法なストライキがほとんどであり、違法なストライキであっても労働者の主張を大きく受け入れる形で解決に至る事例が多い。

最低賃金の上昇

2014年以降インフレ率は一桁台で留まり比較的落ち着きをみせている。しかしながら例年最低賃金の増額は続いており、2022年7月から、従前(2020年1月)のものより月額平均で約6%引き上げられている(全地域)。なお、最低賃金の改定前の時点ですでに、改定後を上回る賃金支払いがあったとしても、労働者は最新の改定率に基づきベースアップ要求することが多いため、会社は常時改定内容を確認しておかねばならない。

その他

  1. 転職率の高さ

    ベトナムでは労働者が自身の両親や親戚の面倒までみる社会的慣習があり、給与や福利厚生への関心が高い。多くの労働者は、より良い条件があれば転職に躊躇しないため、有能な人材の流出を防ぐために、給与や待遇について労働者に見合う手当が必要となる一方、一度雇い入れると簡単には解雇できないことにも留意し、会社は、契約期限などバランスの取れた雇用契約を締結することが肝要である。

  2. 定年

    旧労働法における定年年齢は、男性60歳、女性55歳であったが、改正労働法においては、定年年齢は段階的に引き上げられていき、男性62歳(2028年まで毎年3カ月ずつ上昇させる)、女性60歳(2035年まで毎年4カ月ずつ上昇させる)となる(労働法第169条2項)。別段の合意がある場合を除き、定年年齢に達したことは労働契約の解除事由となる(労働者による解除について(労働法第35条2項 e)、(使用者による解除について(労働法第36条1項 đ))。なお、旧労働法においては、定年年齢に基づく労働契約の解除の際には、社会保険の加入期間条件1も必要とされていたところ、改正労働法においてこれは要求されていない。

  3. 労働者の秘密保持

    業界の成熟に伴い、ベトナムにおいて、企業秘密を保護する必要性が高まっている。会社は、労働者が労働法の定める営業又は技術上の秘密に直接的に関係するとき、秘密保持の義務及び違反時の損害賠償につきその労働者と事前に書面で合意する権利を有すると定められている(労働法第21条2項)。企業秘密に触れている労働者からの「秘密保持の義務が明示的に課されていなかった」との後日の反論を許さないためにも、労働契約書や就業規則において秘密保持に関する取り決めを明確に示しておいたり、労働者の在職中に別途秘密保持に関する合意書を締結しておくことが望ましい。

    また、労働者は、当たり前のように、会社メールアドレスをプライベートで使用したり、プライベートのSNSツールを業務で利用している。そのため、これらについての取り扱いルールを明示しておくことも重要である。

基本的な労働法制の概要

基本的労働法制

  1. 特徴

    日本と同じ大陸系シビル・ローを採用するベトナムであるが、労働法の内容については手探りのものが多く、必要に応じて発行される各法規規範(令(Order)、決議(Resolution)、政令(Decree)、決定(Decision)、指示(Directive)及び通知(Circular)で、2015年法規規範文書公布法で定める法規規範文書(Legal Documents)として認められるもの)による充足が必要となることも少なくない。新たに公布された改正労働法下においても、この点は同様であり、労働者の不利に働くような処分を行う場合には、新たに細則やガイドラインが示されていないか、制定されている場合にはこれらの内容に違反した手続きとなっていないかを確認することが求められる。

    ※コモン・ロー/シビル・ローの概略
    「コモン・ロー」とは、イギリスのほかかつて大英帝国領であった諸国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で中心に採用されている、伝統・慣習・先例に基づいて判断してきた判例を重視する法体系を指す。
    他方、「シビル・ロー」とは、フランス・ドイツなどの大陸側で発達した概念であり、コモン・ローに比べて制定法を重視する法体系である。なお、日本は、シビル・ローの法体系に属する。

  2. 労働法制

    ① 2019年労働法(Law No.45/2019/QH14)
    ベトナムの基本的労務関係を総合的に規律する法律である。雇用契約、労働時間、休暇等について定めを置くほか、労働紛争の解決手続(労働法179条以下)、社会保険の大枠(労働法第168条及び第169条)等も定めている。また、労働法の細則として、定年退職年齢に関するDecree No. 135/2020/ND-CP、労働条件や労使関係に関するDecree No.145/2020/ND-CP、およびベトナムで就労する外国人労働者に関するDecree No. 152/2020/ND-CPが公布されている。

    未成年者や高齢者、身体障害者、女性について、労働時間の短縮や追加休暇等の保障があり、勤務時間が法定の勤務時間よりも短いパートタイマーについてもフルタイム労働者と平等の待遇・賃金体系が保障されていることに、注意が必要である(労働法第32条3項)。

    ② 労働組合法(Law on Trade Unions 2012(Law No. 12/2012/QH13))
    2013年1月より施行されている新労働組合法は、労働組合の結成、権利、義務等につき定めている。労働組合の就業規則作成への関与や労働協約交渉、労働紛争窓口としての機能(紛争関与、訴訟提起)、労働局との関係(調査協力等)をはじめとして、適法なストライキ手続等も規定されている。

    会社は労働組合設立に協力しなければならず、組合設立後に労働組合への情報提供、協議、協力等の義務が課され、社会保険算定の基礎となる賃金の2%相当を労働組合基金に拠出しなければならない(労働組合法26条)。

    ③ 雇用法(Employment Law 2013 (Law No. 38/2013/QH13))
    全7章62条で構成され、雇用の創出、労働市場に関する情報、国家技能資格、人材募集サービス、失業保険等について規律する。

    ④ 社会保険法(Social Insurance Law 2014(Law No. 58/2014/QH13))
    全9章125条で構成され、社会保険にかかる会社と労働者の権利及び義務、基金の積み立て等の詳細を定める。会社及び労働者は、社会保険、健康保険及び失業保険への加入・拠出が義務付けられている。2018年12月1日より、改正法では、ベトナムで働く外国人についても、法定の要件をみたす場合は、原則として強制社会保険の対象者に含まれることとなった(Decree No.143/2018/ND-CP)。

    ⑤ 健康保険法(Health Insurance Law 2008 (Law No. 25/2008/QH12))
    2015年1月施行の健康保険について定めた法律である。2014年の政令(Decree No. 105/2014/ND-CP)によって、支払いに関する条項が一部補完されている。

    ⑥ その他
    ・職業教育訓練法(Law on Vocational Education and Training 2014 (Law No. 74/2014/QH13))
    職業教育訓練機関の組織や運営方法、職業教育訓練内容等について定めている。

    ・男女平等法(Law on Gender Equality 2006 (Law No. 73/2006/QH11))
    男女平等を促進するための諸施策について定めた法律である。雇用に関しては、職場における取扱いの平等などが定められており、民間企業も対象とされている。

    ・障害者法(Law on Persons with Disabilities 2010 (Law No. 51/2010/QH12))
    障害者の権利義務及び国家、家族、並びに社会の責任について定めている。障害者の教育訓練や社会活動への参加の保障等、障害者の社会参加を促す法律である。

    ・労働安全衛生法(Law on Occupational Safety and Health 2015 (Law No. 84/2015/QH13))
    労働安全衛生の確保、労働災害・職業病の被災者に対する政策・制度、労働安全衛生に関する各団体・個人の責任及び権利、労働安全衛生に関する国の管理について定めるもので、労働契約書を交わしていない労働者も対象に含まれる。

雇用契約

  1. 労働法と労働者

    労働法は、①ベトナム人労働者、②雇用者、③ベトナム国内勤務の外国人労働者、④労使関係に直接関連を有するその他の機関・組織・個人に適用される(労働法第2条)。役員等管理職についても、国内外を問わない「雇用者」(例:外国親会社の上司)の指揮命令に服しているものと実質的に判断される場合には「労働者」として労働法が適用される可能性があるため注意を要する。

    会社は、人民委員会に属する労働管理機関に対し、雇用状況について、事業を開始した日から30日以内に届出を行い、事業の過程で生じた労働に関する変更状況を定期的に報告しなければならない(労働法第12条2項)。

  2. 労働契約

    労働契約とは、報酬、賃金を得られる業務、労働条件、労使関係における労働者と使用者の権利および義務に関する労働者と使用者の合意と定義されており、加えて、契約の名称を問わず、報酬、賃金が得られる業務及び当事者の管理、監督に関する記載があれば、それは労働契約とみなされる(労働法第13条1項)。

    労働法上、労働契約には以下の内容を記載する必要がある(労働法第21条1項)。

    参照 労働契約書記載内容
    ①雇用者情報(企業の名称・住所、署名者の役職・氏名)
    ②労働者情報(労働者の氏名・生年月日・性別・住所・身分証番号)
    ③職務内容・勤務地
     ※変更には労働者の同意が必要となるため、限定しすぎない方が会社の便宜にかなうこともある。
    ④労働契約の期間
    ⑤賃金(支払時期・支払方法・手当・その他の付加的給付)
    ⑥昇給・昇進制度
    ⑦勤務時間・休日
    ⑧労働者の労働安全設備
    ⑨社会保険・医療保険・失業保険
    ⑩訓練・技能向上のための研修等

    労働契約は、書面の他、電子メールなどの電子的形式によって締結することが可能である(労働法第14条1項、電子取引法10条)。なお、契約期間が1カ月未満の労働契約は、口頭で締結可能とされている。

    労働契約には、①無期契約、②36カ月までの有期契約の2つに分類されている(労働法第20条1項)。旧労働法においては、12カ月未満の契約、12~36カ月の契約、及び無期限の契約の3つに分類されていたところ、現在は上記のとおりの2つの分類となっている。

    ①無期契約(労働法第20条1項(a))

    無期限雇用の労働契約で、ベトナムでの基本的な労働契約となる。労働法上解雇原因が限定されており、労働者への保護は手厚い。

    ②36カ月までの有期契約(労働法第20条1項(b))

    契約期間が36カ月までの有期とされている労働契約で、契約期間の満了により会社は契約関係を終了させることができる。有期契約の更新は1回に限り可能で、有期契約を再度締結することを会社が望む場合には、新たに有期契約を結びなおさなければならない。期間満了後30日以内に労働契約が締結されないまま、労働者が勤務を続けた場合には無期契約への切り替えとみなされるため注意を要する(労働法第20条2項)。更新後に期間満了を迎えた際には、契約を終了するか無期の契約を結ぶかを会社が選択しなければならない。契約終了にあたっては黙示での契約更新等とならないよう、その旨書面にて事前に通知しておくことが推奨される。更新が一度に限定されるため、有期契約による雇用は最長でも6年間(36カ月間の初回雇用+36カ月間の雇用契約の更新に基づく追加雇用)となる。

    これらに反する運用をする現地会社も少なくないが、罰金(2千万ドン以下)や後の紛争手続で契約無効と判断されるリスクを抱えることになる。

    会社は、労働者に対して、労働契約締結時に、下記情報を提供しなければならない(労働法第16条1項)。

    参照 労働者への事前告知事項
    ①業務内容
    ②勤務地
    ③勤務条件
    ④勤務時間
    ⑤休憩時間
    ⑥職務の安全・衛生条件
    ⑦賃金
    ⑧賃金の支払方法
    ⑨社会保険・医療保険・失業保険
    ⑩営業秘密・技術秘密の保護に関する規定(もしあれば)
    ⑪その他労働契約締結にあたって直接関連する事項のうち、労働者が要求するもの
  3. 試用期間

    ベトナムにおいても労働者を試用することは可能である。ただし、労働者の試用は、1つの業務について1回のみ可能とされており、また、職務内容によって試用可能な期間の上限が定められている(労働法第25条)。

    職務レベル
    上限日数
    企業法等に定める企業の管理者(現地法人の社長等の候補者など)
    180日以内
    短期大学以上の専門性、技術水準を必要とする職
    60日
    中程度の専門性を有する職(中程度の専門性・技術を要する職位。技術職者、専門性を有する者も当カテゴリーに含まれる。)
    30日
    その他(単純作業等)
    6日

    試用期間中の賃金は、両当事者の合意で決定されるが、最低でも同種業務の賃金の85%以上に設定する必要がある(労働法第26条)。

    会社は、試用契約期間終了の際に、採用の諾否を通知しなければならず、試用結果が使用者の要求レベルに達していた場合、会社は試用者と雇用契約を結ばなければならない(労働法第27条1項)。

    試用期間中は、使用者・労働者のいずれも、事前通知や損賠賠償を行うことなく、試用契約を中途で解除することが可能である(労働法第27条2項)。

就業規則の作成義務及びその内容

就業規則の作成義務・登録等

旧労働法においては、労働者を10名以上雇用する会社は、就業規則の作成・通知及び勤務地での掲示が義務付けられていた(旧労働法119条1項、4項)。改正労働法においては、雇用する労働者の人数にかかわらず、すべての使用者に就業規則の作成・通知及び勤務地での掲示が義務付けられている(改正労働法第118条1項、4項)。

労働者を10名以上雇用する会社は、後の「3-3 手続き」で述べるように、一定期間内に就業規則の登録申請を労働当局へ実施することが必要となることも忘れてはならない。

内容

社内に労働組合がある場合、労働組合から意見を聴取し、それを参考としなければならない(労働法第118条3項)。就業規則に記載が必要な内容は、以下のとおり(労働法第118条2項)。旧法において定められていた内容に加えて、改正労働法においては、以下のうち、④、⑦及び⑩が新たに必要的記載事項となっている。

①就業時間・休憩時間

②勤務地規則

③勤務地における職務の安全・衛生

④職場のセクシャルハラスメントの予防・防止に関する事項及び職場においてセクシャルハラスメントがなされた際の懲戒処分手順、手続

⑤会社の資産、営業秘密、技術上・営業上の秘密、知的財産の保護

⑥懲戒事由、懲戒内容、(設備等に関する)損害賠償責任

⑦労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合

⑧労働者の労働規律違反行為及び懲戒処分の形式

⑨損害賠償責任

⑩懲戒処分権限を有する者

手続き

10名以上の労働者を雇用する会社は、就業規則の公布後10日以内に、労働組合がある場合には労働組合との協議を持ったことを示す議事録、懲戒事由等について定めた書面等と併せて就業規則を現地の省レベル労働当局に提出しなければならない(労働法第119条2項、第120条)。労働当局は就業規則の内容を審査し、法令上問題がなければ登録を行う。以下で述べる修正や再提出等が必要なければ、労働局の受理から15日後に就業規則は有効となる(労働法第121条前段)。労働局は就業規則の内容に法令違反を発見したとき、修正や再提出のための指導を行う。問題がある場合には労働局が申請を受理した日から7営業日以内に指導を行うこととなっているが(労働法第119条3項)、実際は提出から2週間、長くて1カ月程度かかることも珍しくない。

上記以外の場合(10名未満の労働者を雇用する会社)は、就業規則公布後、就業規則に定める有効期間の開始日より、就業規則が有効となる(労働法第121条後段)。

就業規則に関する注意事項等

会社が懲戒処分をしようとする場合、会社の裁量権濫用から労働者を保護するため、労働法上以下の事項が要請されており(労働法第122条1項)、①けん責、②6カ月を超えない昇給期間の延長、③降格及び④解雇の4種類のみ行うことができる(労働法第124条)。罰金や減給を懲戒処分として実施することはできない(労働法第127条2項)。又、懲戒事由が複数にわたる場合であっても、処分は最も重い処分が予定されている一つの事由に限られる点(労働法第122条2項)や、懲戒処分該当事実の発生から原則として6カ月以内(財務や技術上の秘密の漏洩に関する場合には12カ月以内)に行わなければならない点に留意が必要である(労働法第123条1項)。

参照 懲戒処分について
①労働者の過失(落ち度)についての会社側立証責任負担
②労働組合の懲戒手続への参加
③労働者の懲戒手続参加及び防御の機会の保障
④書面での議事録作成

就業規則、労働契約その他労働法に定めのない違反行為を理由とする懲戒処分は禁止されている(労働法第127条3項)。したがって、就業規則において、使用者が任意に設定する個別の懲戒事由及びこれに該当する具体的行為を明示しておくことが実務上重要となる。ただし、懲戒処分としての解雇を実施可能な場合は、法によって定められている(詳細は、「5-3 懲戒解雇」参照)。

なお、実務上、後日の紛争に備えた証拠確保の観点から、違反の事実があったときに労働者から署名付き書面を得ておくことも推奨される(例えば、違反の事実があった際に、違反の具体的な事実や懲戒事由等を記載した書面を労働者に交付し、文書の内容の詳細に同意する旨の署名を得ておく等)。

賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要

賃金

  1. 支払等

    賃金とは、合意に基づいた業務を行うために支払われる金銭で、業務や職位に基づく報酬、賃金手当その他の支払いを含むものである(労働法第90条1項)。

    会社は、労働者に対して直接、全額、期限通りに賃金を支払わなければならない。(労働法第94条1項)。賃金の支払いは、現金払いでも銀行振込払いでも可能であり、銀行振込払いの場合、口座開設および振込手数料等は使用者の負担となる(労働法第96条2項)。

    賃金の支払い時期は以下の通りである。

    参照 賃金形態別の支払時期(労働法97条)
    賃金形態
    支払時期
    時給・日給・週給
    当該時期の完了後又は合意によりまとめての支払い(ただし15日に一度以上の頻度での支払)
    月給
    1カ月又は半月に一度
    出来高、請負
    合意による。作業が数カ月に亘るときは、当月完了分の作業量に応じた前払いの受領可

    使用者は、賃金の支給根拠として、賃金等級、賃金表等を作成しなければならない(労働法第93条1項)。昇給を実施する場合には、当該賃金等級表及び賃金表に基づくものとする。なお、旧法下では、賃金表は最高賃金と最低賃金の額面差や等級間の賃金差等について規制する政府の規則に基づき作成する必要があったが、現在は各社で自由に賃金表を設定できるようになった。

  2. 時間外労働

    1. ①残業等

      ベトナムは社会主義国であるため、あらゆる労働者が残業代等支払い対象となる。通常労働時間は、原則として1日当たり8時間、かつ1週間当たり48時間を超えてはならないとされている(労働法第105条1項)。通常時間外の労働を行わせる場合、使用者は、労働者に対して通常の給与に対する以下の割増賃金の支払いが義務付けられる(労働法第98条1項(a))。

      平日
      150%以上
      休日
      200%以上
      祝日・正月休暇(paid days off)
      300%以上
    2. ②深夜労働

      深夜労働(午後10時から翌午前6時における労働)については、通常の賃金に対して30%以上の割増賃金が加算された金額を支払う(労働法第98条2項)。

    3. ③時間外かつ深夜労働の場合

      時間外かつ深夜労働の場合には、上記①及び②において記載した割増賃金の支払いに加えて、更に時間外労働の割増賃金の20%に相当する金額が加算される(労働法第98条3項)。

  3. 最低賃金

    ベトナムにおいて最低賃金とは、「経済・社会の発展条件に適合する、労働者とその家族の最低限の生活水準を保障するために、通常の労働条件下で最も単純な業務を行う労働者に支給される最も低い賃金」と定義されている(労働法第91条1項)。ベトナムでは、シンガポールやマレーシアとは異なり、あらゆる労働者に対し最低賃金が保障される。具体的な額は、政府・商工会議所・労働総連の三者で構成される国家賃金評議会が定める。

    最低賃金は、ほぼ年に一度のペースで引き上げられており、2022年6月1日から地域別最低賃金(Regional Minimum Wage(RMW))が従前(2020年1月1日)比6%引き上げられた(下記表参照)。主に公務員に適用される一般最低賃金(General Minimum Wage(GMW))も2023年7月から149万ドンから180万ドン引き上げられる。

    従来、最低賃金は訓練等を受けていない未熟な労働者を前提として適用されるため、これに当たらない者については労働法の規定よりも7%以上高い最低賃金が保証されていた(Decree No. 49/2013/ND-CP第7条3項(b)、Decree No. 141/2017/ND-CP第5条)。2022年7月の最低賃金改定の際、本規定は撤廃された。

    参照 地域別最低賃金
    地域
    主要地域
    最低賃金
    Region 1
    ハノイ市、ホーチミン市、ハイフォン市等
    442万ドン
    Region 2
    ダナン市、バクニン省等
    392万ドン
    Region 3
    ハナム省等
    343万ドン
    Region 4
    Region1~3で規定されている以外の地域
    307万ドン
  4. 試用期間者の賃金等

    試用期間中の賃金は、両当事者の合意によって決定されるが、最低でも同種業務の賃金の85%以上に設定する必要がある(労働法第26条)。

賞与

賞与等についてのガイドラインや規制などは特に設けられていないが、慣習上「13th month salary」等の名称で13カ月目の賃金を支払う。既に支払われている賞与等についてこれを制限又は剥奪する場合には労働組合との協議が必要となるため注意を要する。

「13th month salary」はベトナムのテト正月(旧正月)頃に支払われることが多いため、「テトボーナス」と呼ばれることも多い。一年で最も長い休暇であり、多くの人が帰省するテトの時期に支払われるため、ボーナスについて労働者に明確に通知しなかったり、労働者が帰省したまま会社に戻ってこないことを防ごうと、休暇を挟んで2分割して支払うなどするとかえって労働者の反発を招き、ストライキにつながることが多い。1年で最もストライキが発生しやすい時期とも言えるため、早めに具体的な支給額を明確に労働者に通知しておくことが望ましい。

残業代

「4-1(2)時間外労働」を参照。あらゆる労働者に対して適用される点で注意が必要である。時間外労働を求める場合には労使の合意によらなければないが、その残業時間は1日の通常労働時間数の50%、1カ月40時間、年間原則200時間(特別な場合でも最大年間300時間)のいずれも超えてはならない(労働法第107条2項)。月当たりの残業時間が基準を超過した場合には、実務上、超過分の残業代が経費と認められないなど、影響は大きい。

年間200時間の枠は会社にとっての足かせとなっているため、経済界から強い改善要望が出ており、この点を緩和する形で労働法改正が進められる見通しとなっていたが、結局、月の上限残業時間は30時間から40時間に引き上げられ、年間の上限残業時間200時間、繊維・縫製・履物・電気・電子製品の輸出のための製造・加工、農業・林業・塩業・水産養殖製品の加工など特定の業種や、高度な専門・技術水準を必要とするが、労働市場において十分かつ適時に提供されない労働を必要とする業務を処理する場合等についてのみ300時間までの残業をさせることができると規制している。

退職手当及び失業手当

  1. 退職手当

    使用者は、労働契約終了時点において12カ月以上連続して勤務していた労働者に対して退職手当を支払わなければならない。ただし、以下の場合には退職手当の支払いを行う必要はない(労働法第46条1項)。

    1. ・労働者が社会保障に関する法令の定めるところにより年金を受給する条件を満たした

      ・労働者が正当な理由なく5営業日以上連続して無断欠勤した

    退職手当の計算式は以下のとおり(労働法第46条、Decree No.145/2020/ND-CP第8条)。

    【直近6か月の平均賃金+各種手当】×0.5×退職手当計算用勤務期間(年数)
    ※失業保険加入期間は退職手当計算用勤務期間に含まれない
    ※半年未満の退職手当計算用勤務期間は6か月に切り上げられ、半年以上勤務期間は1年に繰り上げられる。

    上記勤務期間について、労働者が失業保険に加入している期間は算入されない(労働法第46条2項)。2009年からベトナム人労働者は失業保険に強制加入となっているため、勤務期間が0となる場合もあり得ると考えられる。勤務期間が0であれば、退職手当を支払う必要は無い。ただし、試用期間や産休期間も勤務期間に含まれるため、この期間に失業保険に加入していないことが多く、この期間分についてのみ退職手当を支払う義務が発生することがある。

  2. 失業手当

    失業手当は、整理解雇を実施する際、その対象となる者に対して支払う必要がある。退職手当の計算式は、上記退職手当と同様である。ただし、失業手当については、12カ月以上連続して勤務していた労働者には最低2カ月分の賃金による失業手当を支払わなければならない(Decree No.145/2020/ND-CP第8条2項)。

その他(一般的な休日等)

  1. 週休・年休

    原則1週間当たり1日(厳密には連続した24時間)の週休が与えられる(労働法第111条)。就業規則において日曜を休日と定めないことも可能である(同条2項)。

    12カ月以上勤務した労働者については原則12日間の年次有給休暇(年休)が付与され(労働法第113条1項)、その後、勤続5年ごとに1日ずつ年休が加算されていく(労働法第114条)。なお、勤務期間が12カ月未満の者については、勤務した月数に比例して年休が付与される(労働法第113条2項)。具体的取得日については会社が労働者の意見を参考にして年休取得のスケジュールを設定し、それを労働者に事前通知することが必要となる(労働法第113条4項)。なお、未消化の年休について、労働者は、退職時に、その買取を使用者に対して求めることができる(労働法第113条3項)。

  2. 祝日等

    労働者には、下記祝日及び正月休暇が保障される(労働法115条1項)。外国人労働者は更に、自国の伝統的・国家的祝日について各1日を休暇とすることができる。改正労働法において、新たに建国記念日が1日追加され、年間の祝日日数は11日となった。新たに追加される祝日は、ベトナムの建国記念日である9月2日の前後、9月1日か3日のいずれかの一日となる(前後どちらの一日を祝日とするかは、首相が毎年決定する(改正労働法第112条1項dd、同3項))。

    期間
    日数
    祝日
    1月1日
    1日
    陽暦の正月
    1月末~2月上旬
    5日
    テト(旧正月)
    3月10日(陰暦)
    1日
    フンブオン記念日
    4月30日
    1日
    戦勝記念日
    5月1日
    1日
    メーデー
    9月2日とその前後一日(首相がいずれかを決定する)
    2日
    建国記念日
  3. 慶弔休暇

    労働法第115条1項で、下記事由による休暇が認められている。

    休暇の原因 日数 有給/無給の別
    結婚 3日 有給
    子の結婚 1日
    両親、義理の両親、配偶者、子の死亡 3日
    祖父母、兄弟の死亡又は父、母若しくは兄弟の結婚 1日 無給

普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のそれぞれの方法と留意点

解雇

労働契約の終了事由は法定されており(労働法第34条)、会社が労働者を解雇する場合、下記のいずれかに該当していなければならず、双方の合意によるほかは解雇のためのハードルが高いといえる。労働契約の終了事由には例えば、懲戒解雇や、整理解雇等がある。

参照 雇用契約の終了原因
①労働契約の期間満了
②労働契約所定の業務の終了
③契約当事者双方の合意
④労働者が死刑、懲役又は契約上の業務遂行禁止の判決を受けた場合
⑤外国人労働者が国外退去処分となった
⑥労働者の死亡又は行為能力の喪失
⑦個人雇用主の死亡若しくは行為能力の喪失、又は会社等の営業の終了
⑧懲戒解雇
⑨労働法に従った労働者側からの契約解除
⑩労働法に従った会社側からの契約解除、又は経済的理由(リストラ等)若しくは合併等の理由による解雇
⑪使用者が、組織変更、技術の変更または経済的な理由による解雇をした、企業分割、事業譲渡等による解雇をした
⑫外国人労働者に対する労働許可証の有効期間の満了
⑬試用期間において、使用者の要求する水準に達していない、または一方当事者が試用の合意を解除した

普通解雇

ベトナムにおける使用者からの一方的な解雇は、一般的に難しいということができる。普通解雇の場合、会社は労働者の度重なる契約上の業務の不履行が証明できた場合や正当な理由なく5日以上連続で欠勤した場合等の限定された場合にのみ、一方的に労働者を解雇することができる(労働法第36条1項)。その他、長期間の療養(無期契約の場合連続して12カ月、12カ月以上36カ月未満の有期契約の場合連続して6カ月、12カ月未満の有期契約の場合は契約期間の2分の1を超える期間)の場合や、兵役等による労働契約休止期間後15日以内に労働者が出勤しない場合などにも解雇が可能である。

なお、契約上の業務の不履行について、具体的業務の完了基準に照らした判断が求められるところ、当該基準は社内労働組合の意見を参考にして作成されたうえで、社内に告知されている必要がある。

懲戒解雇

懲戒解雇は、法で定められている一定の行為が認められる場合に限って可能である(労働法125条)。立証責任は会社側にあり、解雇手続についても以下で述べる通り、解雇の正当性を担保するために慎重に行わなければならない。

参照 懲戒解雇の対象となる行為
①犯罪等の権利侵害行為
  • 職場における窃盗、横領、賭博、故意に人を傷つける行為、又は麻薬使用等の一定の犯罪行為
  • 企業秘密の漏えい、知的財産への侵害その他使用者の財産・利益に重大な損害を発生させる行為又は就業規則に規定されている職場でのセクシャルハラスメント行為
  • その他特に会社に重大な損害を与える又はそのおそれのある行為
②昇給停止に当たる度重なる行為等
  • 昇給停止期間中の再犯
  • 免職(降格)該当行為の再犯
③正当な理由なく30日間に5日以上又は365日に20日以上の無断欠勤をしたこと
(正当な理由には、災害、本人又は親族の病気(医療機関等による適切な証明を要する)、及び就業規則で定める事項が含まれる)。

整理解雇

整理解雇は、法で定められている場合に限って実施することができる(労働法第42条、第43条)。ただし、法で定められている内容が曖昧であるため、実際に実施可能かは、現地の専門家に相談を行う必要がある。

参照 整理解雇が実施可能な場合
①組織再編または技術的変更により労働者の雇用を維持することができない場合:
  • 組織構造の変更、労働の再編成
  • 使用者の業種、職種にかかる工程、技術、機械、生産設備の変更
  • 製品または製品構造の変更
②経済的理由により労働者の雇用を維持することができない場合:
  • 経済の恐慌や後退
  • 経済の再編成時における国家の政策、法令の施行または国際条約の施行
③分割、合併、事業譲渡等により労働者の雇用を維持することが不可能な場合

整理解雇実施の手続として、①労働者使用計画の立案(労働法第44条)、②事業所労働組合との意見交換、③30日前までの省級人民委員会および労働者への通知(労働法第42条6項)、及び④失業手当の支払いが必要となる(労働法第47条)。

解雇手続

ベトナムにおいて解雇は極めて限定された場合にしか許されておらず、解雇したとしても後日の労働紛争において労働者に有利な判断がなされることが多いため、会社側は細心の注意を払い解雇手続を行う必要がある。違法な解雇又は不当な退職強要等については、刑事責任を問われる可能性があるため注意を要する(刑法第162条第1項、2項参照)。

解雇を実施する際には、一部の例外を除いて、使用者から労働者に対して事前の通知が必要となる。雇用形態に応じて、以下表のとおり、通知の期限が異なっている(労働法第36条2項)。

雇用形態
期限
無期契約
45日前まで
12カ月以上36カ月以下の有期契約
30日前まで
12カ月未満の有期契約
3営業日前まで

労働紛争

  1. 労働紛争の種類

    ベトナムにおける労働紛争は、まず、労働者個人と使用者との紛争(以下「個別的労働紛争」という)と労働者代表組織と使用者との紛争(以下「集団的労働紛争」という)に大別される。そして、集団的労働紛争は、更に既に存在する労使間の合意・権利関係に関するもの(以下「権利に関する集団的労働紛争」という)と、労使間における新たな労働条件の形成に関するもの(以下「利益に関する集団的労働紛争」という)に分かれる(労働法第179条参照)。

  2. 労働紛争の流れ

    いずれの労働紛争においても、まず当事者による協議によって解決を図り、それでも解決ができない場合、原則として調停を前置した上、所定の紛争解決手続きの流れを経ることとなる。

    労働紛争の流れについて、その概要は、以下のとおり。

    ①個別的労働紛争及び権利に関する集団的労働紛争の場合

    当事者による解決⇒調停⇒労働仲裁評議会による調停または裁判所へ提訴

    ②利益に関する集団的労働紛争の場合

    当事者による解決⇒調停⇒労働仲裁評議会による調停またはストライキの実施

    もっとも、労働紛争の解決手続きについて、上記のとおり手続きが煩雑であるため、労使ともに労働法に従った合法的な手続きの流れを理解しておらず、実際には調停や仲裁が利用される例は少ないといわれている。

その他

  1. 労働者側からの解除の場合

    労働者は、雇用形態に応じて、以下表のとおり、事前の通知を行うことで、労働契約を一方的に解除できる。使用者のように解除事由が限定されていない点が特徴である(労働法第35条1項)。

    雇用形態
    期限
    無期契約
    45日前まで
    12カ月以上36カ月以下の有期契約
    30日前まで
    12カ月未満の有期契約
    3営業日前まで

    ただし、以下の場合、事前通知は不要であり、労働者はただちに労働契約を解除することができる(労働法第35条2項)。

    参照 事前通知が不要な場合

    ① 労働契約と異なる業務への労働者の一時的な異動の場合を除き、労働契約で合意された業務や勤務地に配置されないまたは労働条件を保証されない場合

    ② 不可抗力により賃金の支払いが遅れた場合を除き、賃金が十分支払われないまたは賃金の支払いが遅延する場合

    ③ 使用者による暴力、侮辱的言動、健康、人格、名誉に悪影響を与える行為がなされた場合、強制労働がなされた場合

    ④ 職場においてセクシャルハラスメントがなされた場合

    ⑤ 勤務継続が胎児に悪影響を与えるという判断を医療機関がした妊娠中の女性労働者

    ⑥ 定年退職年齢に達している場合(別段の合意がある場合を除く)

    ⑦ 労働契約締結時の情報提供義務を使用者が誠実に履行せず、労働契約の履行に影響を与える場合

  2. 未消化の年次有給休暇の精算

    前記のとおり、未消化の年休について、労働者は、退職時に、その買取を使用者に対して求めることができる(労働法第113条3項)。精算額は、日割りの賃金に未消化の年休を乗ずることによって、算定される。退職時に思いがけず大量の年休の買取義務を負うことの無いよう、適切な管理を実施することが推奨される。

外国人ビザの種類及び取得要件

ベトナムで外国人が就労するためには、①ベトナムへの入国及び滞在について認められるビザ及び②ベトナムでの就労が認められる労働許可証の双方の取得が必要となる。

①につき、日系企業就労者は企業就労者向けのLDビザを取得するのが通例である。なお、要件を満たせば①のビザの代わりに一時在留許可証(TRC)を取得することも可能である。

なお、ビザ取得に関するルールを定めた外国人の出入国・乗継及び居住に関するLaw No. 47/2014/QH13は、2020年7月1日施行されたLaw No. 51/2019/QH14(以下「改正入管法」という)により、改正されている。改正入管法は、電子ビザを正式に導入すること、電子ビザ保有者に国内でのビザの種類の変更を認めること、ノービザで入国が認められている外国人に対する出国後30日の再入国制限の廃止などを規定している。ただし、改正法についての詳細なガイドラインも存在しないため、今後追加の情報を確認していく必要がある。



ビザ

  1. ビザの種類

    最大5年間のビザが設けられており、組織や役職に応じ種類が多くあるため、大使館等への問い合わせをして適切なビザを確認することが好ましい。

    参照 主なビザ(Law No.17/2014/QH13)
    ビザ記号
    対象者の主な例
    期間
    LD
    長期就労者
    最長2年間
    NN1
    国際組織、NGO及び国際プロジェクト等の代表
    最長12カ月
    NN2
    外国会社、支店等の代表者又は在ベトナム外国法人の代表者等
    最長12カ月
    NN3
    外国事業の出張所、支店、駐在所等の就労者等
    最長12カ月
    DT
    投資家、弁護士
    最長5年間
    DH
    学生等
    最長12カ月
    DN
    ベトナム企業の短期就労者
    最長3カ月
    HN
    会議、セミナー等への出席者
    最長3カ月
    TT
    上記ビザ(※NN3,DN, HNを除く)を有する外国人の配偶者若しくは18歳未満の子又はベトナム国籍者の子、親、兄弟、若しくは配偶者
    最長12カ月
    VR
    親族の訪問その他社交目的での入国を望む者
    最長6カ月
  2. 取得要件

    取得要件

    各ビザに応じ、改正入管法に規定された書面の提出が必要となる。

    手続き等

    ビザ取得のためには、会社から出入国管理局への書面提出が必要となる。ベトナム法人発行の労働者の招聘状をはじめ、指定書面の必要書類はビザの種類に応じ異なるが、一般的には、①ビザ申請書(書式指定)、②パスポートコピー(6カ月以上有効期限があるもの)と写真、③在ベトナム会社の法律上の登録状況に関する証明書コピー((i)設立許可証又は設立に関する認可機関決定書謄本、(ii)会社印、代表者署名付き登録書)等が要求される。

  3. 違反の影響

    違反の内容に応じて、罰金が科される。(例:労働者が許可なくビザ発給の際に承認されたものと異なる活動を行った場合には1,000万~2,000万ドンの罰金が科される。)

  4. 一時在留許可証(Temporary Residence Card(TRC))

    外国人労働者の一年を超える滞在の場合には、ビザの代わりに、一時在留許可証を申請することも可能である。対象は上記ビザの表ではĐT, NN1, NN2, DH, LĐ, TT(その他にLV1, LV2, PV1)に該当する者であり、許可される期間は種類により異なる。各発給条件はビザと類似しており、有効期間は1年から最長で5年である。但し、一時在留許可証の有効期間は、パスポート有効期間や以下でみる労働許可証の期限に応じることとなるため通常は実質最長2年となる。

労働許可証

雇用に先立ち、会社は中央直轄市・省人民委員会へ報告し、労働許可証を取得しなければならず、違反すると外国人労働者が国外退去となる可能性があるため注意が必要である。

労働許可証の期限は、雇用契約内での期限にもよるが最長で2年を超えない。更新は可能だがこの場合も最長2年間となる。

  1. 種類

    職種により3種類に分けられる。即ち、①代表者又は管理職、②各分野の専門家、及び③技術者である。いずれについても当該資格についての職務・勤務経験等が必要となり、専門家についてはその専門性立証のための学位取得証明書を求められる。

  2. 発給要件と手続き

    ベトナム人労働者では事業上のニーズに対応できない管理職,経営職,専門家及び技術労働者の職位に限り、外国人労働者を雇用することができる(労働法第152条1項)。このため、当該労働者が管理者、代表取締役者等、専門家若しくは技術的な労働者であることを示す文書、及び管轄機関から当該雇用の承認文書を予め得ておかなければならない。承認文書を取得後、会社が労働者の勤務開始15営業日前までに就労予定地を管轄する労働傷病兵社会局(DOLISA)に対し、申請する。

    一般的には下記の書類が必要となる。

    又外国人労働者の使用については、これとは別個に使用予定日の30日以上前に個々の場合に応じて労働傷病兵社会省(MOLISA)又は省レベル人民委員会委員長に対し採用計画の提出が義務付けられるため、注意が必要である(Decree No. 152/2020/ND-CP)。

    参照 必要書類の一例
    • 労働許可証申請書(指定形式)
    • 健康証明書
    • 前科証明(前科がないことの証明書)
    • 卒業証明書等の労働許可証発給対象となる能力を示す証明書
    • パスポートのコピー、写真
    • その他適宜指定される書類
    • 省人民委員会委員長の外国人労働者就労にかかる承認

    労働許可証の発給を受けた後、会社は労働者との間で書面による労働契約を締結する。労働契約は就労予定の前までになされなければならない。又、労働契約締結後は、7営業日以内に会社がDOLISAへ労働契約のコピーを提出しなければならないとされている。

  3. 不要となる場合

    発給が不要となるのは以下の場合である。但し、この場合にも会社は当該労働者の就業開始日の30営業日前までに労働者傷病兵社会局に申請を行い、外国人労働者雇い入れの承認を得なければならない。

    参照 労働許可証が不要となる外国人労働者
    労働法第154条 抄訳
    1. 有限責任会社の出資者又はオーナー
    2. 株式会社の取締役会の構成員
    3. 国際組織若しくはNGOの在ベトナムの駐在所又はプロジェクトの代表者
    4. 販売活動目的で入国し、ベトナムに滞在する期間が3カ月未満の者
    5. 現在ベトナムにいるベトナムの専門家や外国人専門家では解決できない生産活動や事業活動に影響を与えるおそれのある複雑な技術上の問題に対処するため、ベトナムに3カ月に満たない間滞在する者
    6. ベトナムで弁護士業の免許の発給を受けた外国人弁護士
    7. ベトナム社会主義共和国が調印した国際条約で認められる者
    8. ベトナム人配偶者を持ち、ベトナムで生活する外国人
    9. その他政府が定める者
  4. 違反の影響

    違反については、労働者自身が国外退去となる他、使用者についても罰金(3,000万~7,500万ドン)などが課される(Decree No. 28/2020/ND-CP 第31条4項、5項)。

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