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オーストラリア労働法制

オーストラリアでの雇用関係は、連邦制を敷く同国の背景から州法との適用関係も確認しなければならず複雑であり、法令上一見使用者に有利にみえても、他で労働者側の保護を定める各種法令等が存在することもあるため総合的な理解が必要となる。


また、解雇時の正当な理由は法令上直接的に必要とされていないものの、公正労働法上(Fair Work Act 2009, Fair Work Amendment Act 2012)労働者は不公正又は不合理な解雇から保護されると定められており、解雇の正当性を争うことも比較的容易であり、事実上、解雇には正当な理由が必要とされていると評価されている。


外国人の就労に対しては、周辺諸国と比較しても高度な技術保有者、医師、企業家等は厚遇されているものの、自国民を保護する傾向が存する。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

オーストラリア及びオーストラリア法の概要

オーストラリア連邦(以後「オーストラリア」)は6つの州と10の準州から成り立っている。同国は、英連邦の一員であるため英国類似の慣習法の法体系を採用している一方で、州及び準州(以後「州」)の法と連邦法があり、どちらも特定の法律分野に適用され、米国の法システムにも類似している。そのため、労働法及び労使関係も例外ではなく、連邦法及び州法の両方の適用を受ける。

他のアジア諸国に比べ厳格な義務

近年、連邦及び州法の双方で労働法分野における政治的な動きがあり、日本やシンガポールなどのアジア諸国と比べ、法制、規制、慣習法の内容において、さらに労使裁定(Modern Award)や労働協約(Enterprise Agreement)などの労働関係文書(Industrial Instruments)などにより多くの義務が会社に課されるに至っている。会社に課された義務に関しては、下記に詳細を記載している。また、オーストラリアの労働組合は労働者と会社との関係において重要な役割を間違いなく果たし、大きな影響力を保持している。詳細については第2章に記載している。

そのため、日本などのアジア諸国に比べオーストラリアではより手厚い労働者保護が間違いなく実現されている。労働者への保障として最低保証基準が数多く設定されており、その例として全国雇用基準(National Employment Standard)(第2章)やオーストラリア最低賃金(第4章)などがあり、オーストラリアで会社運営をし、雇用主になる際の全体的なコストに影響を与える。

新しいフェアワーク法 – 労使交渉、職の保障、性の平等および新保護規制

2022年フェアワーク法改正(安定した職、より良い賃金)法(Fair Work Legislation Amendment (Secure Jobs, Better Pay) Act 2022)により、フェアワーク法の導入以来最も重要な、労使関係の改正が導入された。主な変更点は以下に関連するものである。

  • 複数の雇用主をカバーする労使協定
  • 労使交渉の紛争
  • 労働争議
  • 労使協定の終了
  • 労使協定の承認プロセス
  • 賃金の平等
  • 職場での尊重
  • 差別
  • 有期雇用契約
  • フレキシブルな勤務形態請求
  • 無給の育児休暇の延長請求
  • Australian Building and Constution Commission(ABCC)の廃止
  • National Construction Industry Forumの発足
  • Registered Organisations Commission(ROC)の廃止

これらの変更に関する詳細は、第6章を参照されたい。

外国人向け就労ビザ制度の改正

2017年4月に外国人向け就労ビザの改正が表明され、2018年3月18日から新制度に移行された。そのため各社は、外国人の人材を獲得するまたは海外から現地に人材を駐在させる際は、改正に合わせて対応を迫られている。本件に関しては第7章に詳細を記載している。

改正内容について、2017年4月の内容から現時点では大幅な緩和策が講じられてはいるものの、政府の厳格化路線に変わりはなくその他下記に示される他の要因などが重なり、会社が外国人労働者を雇用することは、当該労働者がオーストラリア市民権、永住権、労働が可能な永住ビザなどを伴わない限り徐々に難しいビジネス環境となりつつある。

職場における新型コロナワクチン接種に関する問題

オーストラリア政府の方針では、ワクチン接種は基本的に任意であるが、職場における新型コロナワクチン接種に関して、雇用者の行為には、一定の義務や制限が存在する。主要なポイントを、第8章で記述する。

基本的な労働法制の概要

2009年フェアワーク法の概要

連邦法である2009年フェアワーク法(Fair Work Act 2009 (Cth), 以下「フェアワーク法」)はオーストラリアにおける労働法の主軸であり、ほとんどの雇用主に適用される。同法に従わなかった場合は厳罰または罰金、さらにはその両方が科されることがある。

フェアワーク法に加え、各州や連邦レベルの機関により立法されている、オーストラリアでの雇用関係の過程で生じる他の問題について定める規定が適用される場合もある。連邦及び各州の立法の例として、差別禁止、労働者災害補償、退職年金、労働安全衛生法制等が挙げられる。本レポートでは、これらの法については関連する一般法を取り上げ、主にフェアワーク法の内容を述べる。

全国雇用基準、労使裁定、労働協約の概要

フェアワーク法は労働条件の最低基準となる内容を包括的に定めており、これらは公務員等の一部の労働者を除きすべての労働者に適用される。但し、フェアワーク法はあくまでも最低基準を定めており、民間企業の経営陣(executives)の雇用に関しては、フェアワーク法だけではなく会社法(Corporations Act 2001 (Cth))の影響を考慮し、さらに幹部専用雇用契約(Executive Agreement)にて両当事者間の関係を明確にし、紛争もしくは法令違反の発生を防止する配慮が求められる。なお、最低基準についてはフェアワーク法で、主に下記の3つに定められている。

    1. 全国雇用基準(National Employment Standards (NES))
    2. 労使裁定(Modern Awards)
    3. 労働協約(Enterprise Agreements)及び登録合意(Registered Agreement)

    (詳細については下記参照)

全国雇用基準
全国雇用基準1では、すべての労働者に公正な最低賃金及び労働条件を守ることを意図した最低限の11項目の権利が示されている(詳細は下記参照)。


労使裁定
労使裁定とは、特定の業界や職種に付与された法的拘束力のある最低労働条件を別途定めた法律文書である。該当業種又は職種に従事する労働者を雇用する会社は、全国雇用基準に加え当該基準に従う必要がある。現在、オーストラリアにて雇用される大多数の人に適用される110を超える業界または職業の労使裁定が存在する。詳細は以下の通りである。


労働協約
労働協約とは、最低労働条件に示された内容から、さらに追加的な雇用条件を定める合意を形成するためにそれぞれの職種などの労働組合・雇用主団体などの労働者団体(あるいはその代表者)が会社との団体交渉を通じて締結する協約を意味する。労働協約は、会社の従業員全員に適用される場合や、特定の職種の労働者に適用される場合、特定の地域にいる労働者に適用される場合などがある。現在、オーストラリアで働く大多数の人を対象とした110以上の業種・職種別労使裁定が存在する。


登録合意
登録合意とはオーストラリアの労使関係裁判所であるフェアワーク・オーストラリア(FWA)に登録された合意であり、この内容が上記の労働協約(Enterprise Agreement)の内容となる場合や、その他の形としての労働協約(collective agreement)に関する合意となることがある。

全国雇用基準

表にある最低限の11項目の権利が全国雇用基準の内容を構成している。これらの基準は、すべての労働者(臨時労働者を除く)に対して適用される。さらに、異なる合意、労使裁定、労使協約があった場合であっても適用される。

権利
概略
最大就業時間
週38時間を上限とするが、適正な範囲で延長することができる。法律で規定されている適正な追加時間に関する考慮事項は第4章を参照のこと。
公休日
労働者は会社側の適正な求めに応じ働く必要がある場合以外は、有給で公休日は休むことができる。フェアワーク法では8日、また州レベルで各々定められている公休日がある。
フェアワーク法で定められている公休日(8日):
  • 1月1日(元旦)
  • 1月27日(オーストラリア・デー)
  • グッド・フライデー
  • イースター・マンデー
  • 4月27日(アンザック・デー振替休日)
  • 女王誕生日(各州により祝日が設定される)
  • 12月25日(クリスマス)
  • 12月26日(ボクシング・デー)
年次有給休暇
フルタイムの労働者は、年に4週間の有給休暇を取得することができる。一部の交替勤務の労働者は、年に5週間の有給休暇を取得できる。
臨時労働者は、上記の権利からは除外されている。
有給休暇は、会社と労働者との合意された期間に限り取得が可能である。但し、会社側が正当な理由なく労働者の休暇申請を拒否することは許されない。
柔軟な勤務形態
(フレキシブルワーク)
特定の労働者は、フレキシブルな勤務形態を要求する法的権利を有する。該当する労働者には、同一の会社において12カ月以上勤務している者で、学童期又はそれよりも年少の子の親、養育の責任を有している者、障がい者又は55歳以上に該当する者が含まれる。
育児関連休暇
12カ月以上勤務をした労働者は、12カ月間の無給での育児休暇に加え、さらに12カ月の無給の育児休暇の延長を申請できる。
永年勤続休暇
永年勤続者は、有給で永年勤続休暇を取得することができる。州レベルで申請要件や休暇期間などの規則が定められている。
個人的/介護休暇及び 忌引休暇
自身の病気、けがの場合、又は家族の病気やけがにより介護の提供が必要となった場合にのみ認められる休暇である。
10日間までは年間を通じ有給で取得でき(但し、臨時労働者には適用されない)、無給で2日間追加できる。
忌引き休暇は、直近の血縁関係の家族若しくは同居家族の者が死亡した場合、生命に危険が生じるような病気又はけがを負った場合に、2日間の忌引き休暇が認められる(臨時労働者の場合は無給)。
地域奉仕活動休暇
陪審義務及び地域社会での緊急ボランティア活動のため、無給休暇が認められる。
解雇
該当する労働者、各々の年齢や勤続期間に応じ取り決められた解雇通知、通知期間、人員整理解雇手当が定められている。
フェアワーク情報説明書
会社は労働者に対し、雇用前又は雇用開始とともに速やかにフェアワーク情報説明書(Fair Work Information Statement)を交付する必要がある。詳細は下記を参照とする。
臨時雇用から正規雇用への転換
臨時雇用からの転換(Casual Conversion)は、臨時従業員が正規雇用者になるための道を提供するものである。一雇用主の下で12か月以上労働した臨時従業員にのみ、フルタイムまたはパートタイムの正規従業員に転換する権利がオファーされなければならない。本要件は、小規模事業雇用主(Small Businss Employers)(15人以下の従業員)には適用されないが、転換を拒否する場合に合理的な根拠を記載した書面の返答を提供しなければならない。(小規模事業雇用主を除く)雇用主は、臨時従業員が当該雇用主の下で12か月間勤務し、直近の6か月間は定期的かつ継続的に働き、当該勤務時間をフルタイムまたはパートタイムにて継続的に働くことができる場合には、当該従業員の勤務12か月経過後21日以内に転換させることを書面にてオファーしなければならない。

2021年3月27日に2009年フェアワーク法が改正され、臨時労働者(Casual Employee)が定義付けされた。臨時労働者は、雇用主が合意された勤務パターンに従って継続的かつ無期限に働くことを事前に確約しないことを前提に、雇用主が提示した雇用オファーを受け入れる人のことを指すとされる。労働者がこの基準を満たすか否かを判断する際には、雇用主が業務の提供を選択できるかどうか、本人が業務を受け入れるか拒否するかを選択できるかどうか、雇用が臨時雇用として記述されているかどうか等、所定の事項のみが考慮される。臨時労働者は有給休暇を付与されず、解雇予告は必要ない。臨時労働者は、全国雇用基準に基づく、それぞれ無給での、2日間の介護休暇、2日間の忌引き休暇(1回につき)、5日間の家庭内暴力休暇、地域奉仕活動休暇と臨時雇用から正規雇用への転換のみの権利を有する(フェアワーク情報説明書の内容、及び雇用形態転換(Casual Conversion)の要件を記載した臨時労働者情報説明書の内容をご参照)。雇用形態転換の要件とは、雇用主のもとで少なくとも12ヶ月間働き、そのうちの最後の6ヶ月間は継続的に規則的な時間パターンで働いていた臨時労働者が、フルタイム雇用またはパートタイム雇用への転換を申し受ける又は申し出る権利を有するという臨時労働者の権利(雇用主の義務)であり、上述の法改正により導入された。従業員数15人未満の中小企業は雇用形態転換の要件が免除される場合がある。

労働安全衛生関係

会社は、労働者の健康や危険に配慮した安全な職場環境を確保するために合理的な実効性のある措置をとらなければならない。これらは州法によって措置の実施を厳しく義務付けられており、会社が、必要な州または準州の法律や規則に違反した場合には会社への刑事罰に加えて、違反していることが判明した個人に対しての禁固刑が課されることもある。

また適用を受ける職場の安全衛生を規定する州法によれば、会社は健康や安全のリスクから労働者を保護するためにすべての労働者に必要な情報を提供することが求められる場合もある。ニューサウスウェールズ州の例によれば、同州の労働安全衛生法2011(NSW)では、工場、物質、建物のデザイン、製造、輸入、供給、設置の事業の会社は、とりわけ、これらの業務活動によって健康や安全に影響を受ける可能性がある従事者や職場周辺の人に対し、各人に十分な情報を提供するよう定めている。

コロナ禍の現在は、関連する州法において、企業が物理的な距離と密度の要件を遵守し、業務に起因するCOVID-19症例について州の規制機関に通知し、その他のすべての州及び連邦政府の公衆衛生の指示(一般的なものと業界固有のものが存在する。)を遵守することが定められている。COVID安全計画(COVID Safe Plan。各州により異なる。)は、ウイルスの蔓延と戦うためのリスク管理措置を定めたもので、特定の業界において実施が必須となっている。

各州で定められている労働安全衛生に関する法律や規則を遵守しない場合、単純に営業利益や企業評判の低下といった損害に限られず、重大な損害を被ることとなるため会社において法律遵守は非常に重要なものとなる。

労災補償

労働者は勤務中に傷病を被った場合、各州または連邦政府の労災補償制度に基づき定期金又は一時金の支払いを請求することができる。現在、オーストラリアには11の労災補償制度(連邦において3つ、および州・準州において8つ)が存在し、各州の法律に従い、通常すべての会社は労災保険への加入が義務付けられている。

不利益行為からの保護

労働者又は第三者団体が職場における権利を行使した際に、会社が労働者に対して不利益行為(adverse action)を行うことは許されないものとされる。

フェアワーク法では、不利益行為は、解雇に限らず、労働者を職場にて不利な行為に甘んじさせる事、労働者の地位を損なう行為又は差別する行為等を含んでいる。同法ではさらに、職場における権利とみなされる一連の活動につき、それらが認められる場面として以下を示している。

労働者が、
・労働法により保護が与えられている場合
・労働法に基づき手続きを履践できる、又は規制当局に対し自己の雇用について質問や異議を申し立てることができる場合

差別からの保護

オーストラリア法では、保護属性(protected attribute)が規定されており、それに基づき、会社が労働者に対し上述した不利益行為を行うことを防ぐ。保護属性としては、以下の内容が規定されている。

  • 年齢
  • 性別
  • 人種
  • 肌の色
  • 性的指向
  • 婚姻の有無
  • 妊娠
  • 家族又は要介護者に対する責任
  • 宗教
  • 社会的出身
  • 国民的系統(national extraction)
  • 身体的・精神的障害
  • 政治的立場

2022年12月に施行されたフェアワーク法の最新の改正により、フェアワーク法は他の連邦反差別法と整合された。特に、授乳、ジェンダーアイデンティティ、およびインターセックスに関する保護の追加、ならびに職場での平等性を実現するための規制の明確化がなされた。

上記以外にも連邦単位、州単位の法律において、差別の禁止や機会均等などを一般的に保障する具体的な法律が数多く存在し、会社はそれらの法を遵守することが求められている。該当する法としては、以下の法律が挙げられる。

  • 人種差別禁止法1975年
  • 性差別禁止法1984年
  • オーストラリア人権委員会法1986年
  • 障がい者差別禁止法1992年
  • 年齢差別禁止法2004年

2022年12月には、2022年反差別および人権法改正(職場での尊重)法(Anti-Discrimination and Human Rights Legilation Amendment (Respect at Work) Act 2022 (Cth))が施行され、1984年性差別法(Sex Discrimination Act 1984 (Cth))、1986年オーストラリア人権委員会法(Australian Human Rights Commission Act 1986 (Cth))、2012職場性平等法(Workplace Gender Equality Act 2012 (Cth))、2004年年齢差別法(Age Discrimination Act 2004 (Cth))、1986年諜報安全保障総監法(Inspector General of Intelligence and Security Act 1986 (Cth))、1992年障害差別法(Disability Discrimination Act 1992 (Cth))および1975年人種差別法(Racial Discrimination Act 1975 (Cth))への変更がなされた。


当該改正は、主に、差別を止め、人権および性の平等を支持することを目的として新たな命令を導入した。主な条項及び変更点は以下を含む。


セクシュアルハラスメントを積極的に防止する義務(Sex Discrimination Act 1984 (Cth))

本法令には、すべての雇用主または事業主が職場での違法なセクシュアルハラスメントおよび差別を排除するために「合理的かつ相当な対策」を実施する新たな積極義務要件が設けられている。何をもって「合理的かつ相当な対策」とみなすかは、それぞれの事業の性質、規模およびリソースを当該行為を排除するためのコストと実行性に照らして検証し、判断される。


オーストラリア人権委員会(Australian Human Rights Commission Act 1986 (Cth))

本法令への改正は、オーストラリア人権員会に積極義務(上記に概説)を執行する権限を与えるために導入された。


敵対的な労働環境に対抗するための対策(Sex Discrimination Act 1984 (Cth))

本法令は、他者を性的に敵対的な職場環境に置く行為を禁止するために改正された。特筆すべきは、すべての状況を鑑みて、職場が威圧的、侮辱的または攻撃的なことが推察できるか否かの判断に、「合理的な者」の要件が適用されることである。行為を評価するにあたり、行為の重大性・反復性、および加害者の役職・影響を検討する必要がある。


法的手続き(Australin Human Rights Commission Act 1986 (Cth))

本法令に関する改正により、代理機関は個人に代わって連邦裁判所に代理申請を行うことができるようになった。また、オーストラリア人権委員会の委員長の苦情を終了する権限は、24か月を経過後に提出された苦情にのみ適用される。

いじめやハラスメントからの保護

オーストラリア法では、労働者を職場でのいじめから守る法律が規定されている。フェアワーク法でのいじめの定義は「勤務中の労働者または、労働者の集団に対して、反復してなされる不合理な行為であって、健康または安全上のリスクを生じさせるもの」とされ、職場における精神的または身体的な暴力によるハラスメントもこの定義内における不合理な行為である。ただし、管理者が不正行為をおこなった者に対して合理的な懲戒処分を行う場合など、合理的な方法で実行される管理行為はいじめに該当しない。

オーストラリアではフェアワーク・コミッション(Fair Work Commission)が無料でいじめ対策やその他の雇用関連の問題について相談したい人々や会社に対して法的なサポートを行い、必要であれば法廷に行くことなくヒヤリングを行う権限を持ち、苦情を処理するための最良の方法を決定する。ただし、フェアワーク・コミッションは金銭的なペナルティーを課すことはできない。


労働組合の影響力

オーストラリア統計庁(Australian Bureau of Statistics)によると、労働組合への参加率は継続的に減少傾向にあり、1992年から、労働組合に参加する従業員の割合は、41%から12.5%に減少した2。もっとも、参加率自体は減少しているものの、いまだに会社側に対する影響力は間違いなく有しており、特に組合員に関する事項における影響力は大きいとされる。労働組合が会社に対し保持している影響力として、以下の内容が挙げられる。


交渉の代表(Representation to negotiate):

労働組合の組合員である労働者の労働協約の交渉に際し、労働組合は、労働者を代表し又は支援することができる。


支援員(Support person):

労働者は、懲戒審問の討議で支援員に対してサポートを求めることができる。その際に、労働者は組合代表を支援員として選ぶことができる。フェアワーク法セクション387(d)によれば、会社が労働者を解雇する場合の解雇の審議に支援員のサポートを不当に許可しなかった場合、当該解雇は、不公正な解雇とみなされる。


政治的影響力:

連邦で2013年から野党となったが、2007年から2013年の連邦選挙の時点までは与党であったオーストラリア労働党にオーストラリア労働組合は加盟している。

Modern Slavery Act(現代奴隷法)

2015年に英国で、現代の奴隷制を防止する法、2015年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015、以下「英国法」)が制定された。現代奴隷とは脅迫、暴力、強制、権力の濫用または詐欺的行為によって、労働者が仕事を拒否または辞めることのできない状況を意味する。この法案は、事業とサプライチェーンにおいて上記の奴隷行為を特定し根絶するため、該当する企業に対し会計年度に一度、現代奴隷のリスクとその防止策についての報告を義務付けるものである。オーストラリア議会は、これに続く形で、2018年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018 (Cth)、以下「連邦法」)を制定した。連邦法においては、年間の連結収益が1億豪ドルを超えるすべてのオーストラリアの企業及びオーストラリアで事業を営む企業は報告義務を負う。特筆すべきは、報告を怠ったとしても連邦法上、罰則や逮捕に至ることはない。ただし、政府は連邦法を遵守しない企業を公表することができ、その場合に企業にとって風評リスクとなる可能性がある。ニューサウスウェールズ州において、一時期、州法である2018年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018(NSW)、以下「NSW州法」)が施行され、年間売上高5,000万豪ドルというより比較的低い基準額、及び最高で110万豪ドルの罰金を伴う、類似の報告義務が課された。議会での審議ののち、NSW州政府は、2021年現代奴隷改正法(the Modern Slavery Amendment Act 2021(NSW))を可決し、当該報告義務を撤回した。現在、企業は連邦法に基づく報告義務のみを負う。

就業規則の作成義務

フェアワーク情報説明書(Fair Work Information Statement)

日本と異なり、フェアワーク法では就業規則を作成し、それらを関係政府機関に対して申請することは明示的に求められていない。

もっとも、全国雇用基準の内容の一部としてすべての会社はフェアワーク情報説明書を新しい労働者に交付することが義務付けられており、労働者が就業を開始する前、又は開始次第すみやかに交付する必要がある。フェアワーク情報説明書は、フェアワーク法に基づき以下の内容を含まなければならない。

  • 全国雇用基準
  • 労使裁定
  • フェアワーク法に基づき作成された労働協約
  • 結社の自由
  • フェアワーク・コミッション(Fair Work Commission)とオンブスマン(Ombudsman)の役割の説明
  • 雇用の終了
  • 個人に対する柔軟な対応
  • プライバシー法に基づく個人情報保護も含んだ職場立入権

記録

フェアワーク法及び2009年フェアワーク規制(Fair Work Regulations 2009)に基づき、会社は、各労働者の詳細な記録を7年間保管することが義務付けられている。保管義務がある記録として、下記の内容がある。

記録の種類
記載を要する内容
一般情報
  • 労働者が所属する会社側の名前
  • 労働形態(フルタイムかパートタイムか)
  • 終身雇用、短期雇用、臨時雇用の種類
  • 労働者の就業開始日
  • オーストラリアビジネス番号(存在する場合)
賃金
  • 労働者に対する賃金
  • 給料の総額及び差引支給額
  • インセンティブに基づく報酬の詳細、ボーナス、付加保険料、懲罰金利、その他手当又は個々人の資格に基づく支払い
  • 総額から控除された額
  • 労働者には、賃金の支払いと共に支払日翌日までに紙媒体又は電磁媒体で発行された給与明細書が発行される。
勤務時間
  • 残業時間、残業開始・終了時間、残業手当
  • 臨時労働者、パートタイム労働者の労働時間
  • 会社と労働者の勤務時間に関する合意書
休暇
  • 取得された休暇
  • 労働者が有する休暇
  • 休暇の買い取りを請求できる場合
  • 買い取り合意の書面
  • 買い取った休暇の日数、買い取り金額、支払日
  • 労働者が会社から報償として年次有給休暇を事前に取得することに合意した場合は、会社は取得された休暇の日数と、その開始日が書かれた合意書のコピーを保管する。
退職年金
  • 金額
  • 支払期間
  • 支払日
  • 積立ファンドの名前
  • 積立ファンドに拠出した理由(例:労働者の積立ファンドの選択履歴と、その基金を選択した日)
  • 退職年金の記録は、会社が確定拠出年金を確定拠出年金基金に支払っている場合は必要ない。
登録合意、賞与などの個別取り決めがあれば、その合意内容
  • 合意書のコピー
  • 個別取り決めの終了の通知、合意書のコピー
年間保証所得
  • 保証の内容
  • 保証が取り消された日
雇用の終了
  • 雇用終了の方法(詳細は下記を参照)
  • 通知期間(雇用の終了が実施された場合)
  • 雇用を終了させた担当者の名前

上記のほかに、未成年/子どもの雇用記録は(適用される場合に)各州・準州の法令に基づき保管されなければならない。

上記の記録は、法令で定められた下記の方法で保管する必要がある。

  • 英語による記載であること
  • 解読が可能な形式であること
  • フェアワーク監督官が監督に当たる際、容易にアクセスが可能であること
  • 7年間は保管されていること

また、会社は当該記録を、個人情報保護法(Privacy Act 1988)を遵守した上で保管しなければならず、詳細については下記に記載している。

記録の保管を怠り、フェアワーク監督官からその違反が重大、故意による、又は反復的だとみなされた場合、当該会社は、罰金や裁判所への出頭を命じられることがある。会社の記録保管義務違反等についての罰則が2017年10月のフェアワーク法改正によって引き上げられ、現在、重大な違反一つに対する罰金最高額は個人は133,200豪ドル、企業に対しては666,000豪ドルとなっている。

プライバシー保護

1988年連邦プライバシー法(Privacy Act 1988(Cth)、以下「プライバシー法」)によると、オーストラリアの雇用主が、登録された政党を除く政府機関、又は年間売上高が300万豪ドル以下の中小企業を除く民間組織(例:法人、合名会社、トラスト)である場合は、13のオーストラリア・プライバシー原則の適用対象となる(Australian Privacy Principles entity(APP Entity))。オーストラリア・プライバシー原則の適用対象及びその関係会社は、(プライバシー法で詳細に規定されているように)とりわけ、個人情報に関し本人の適切な同意を得たり、自社が保有する情報を悪用、干渉、紛失、不正アクセス、改造、開示等をされぬよう保護するための合理的な措置を講じたりしなければならない。従業員の記録の取扱いについては、プライバシー法の適用除外の対象となるのが一般的だが、情報の種類、取扱い目的、労働者の種類(例:従業員、契約社員、派遣労働者など)によって適用除外の対象となる範囲が限定される。一般的に、従業員の記録は会社、給与計算担当、労働者又は権限のある個人にのみアクセス権限がある。但し、労働者やフェアワーク監督官が記録の閲覧を希望した場合、会社はそれに応じる義務がある。

雇用関係の終了後、義務とされる7年の保管期間が経過した後は、他の法律又は裁判所からの命令により保管が必要な場合を除けば、会社はすみやかに法律に沿った適当な方法で個人情報を破棄又は匿名化しなければならない。

また、上述のオーストラリア・プライバシー原則の適用対象は、ある個人の情報について、その個人に重大な損害をもたらす恐れのある情報漏洩若しくは紛失が発生し又は疑われる場合に、豪情報委員会(OA I C)への報告が義務付けられた。

最近の2022年プライバシー法改正(施行およびその他の措置)法(Privacy Legislation Amendment (Enformcenet and Other Measures) Act 2022 (Cth))の導入に伴い、同法を遵守しない場合、違反企業は最高5000万豪ドル、違反の利益の3倍、または(利益を決定できない場合は)国内売上高の30%の民事罰を課せられる可能性がある。また、OAICの調査権限、他の規制当局との連携権限、プライバシー遵守の審査権限、情報提供命令に従わなかった場合の侵害通知発行権限も新たに追加された。


更に、改正の結果、オーストラリアのプライバシー法は、個人情報がオーストラリアで収集されたか否かにかかわらず、オーストラリアで事業を行う組織に適用が拡大された。

賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要

支払い

オーストラリアの労働者は、該当する労使裁定(上記2章に記載)又は登録合意(上記2章に記載)で設定された最低賃金の支払いを受ける権利がある。労働者の最低賃金は、年齢や雇用の種類(フルタイム、パートタイム、臨時雇用、期間限定雇用)、業務時間・時間帯、職種、職務、資格の有無及びその責任の重さなどにより決定される。加えて、労使裁定の適用対象になる場合は、登録合意により賃金を設定する際は労使裁定で設定されている基本賃金よりも低く定めることはできない。また、適用可能な労使裁定が存在しない場合は、全国最低賃金(National Minimum Wage)よりも低く登録合意を定めることはできないものとされている。もっとも、これは基本賃金にのみ適用されるものであり、罰金、付加保険料又は労働者に関する手当等は登録合意に基づき決定されるため注意が必要である。

労使裁定又は登録合意のどちらも適用されない場合、労働者は少なくともフェアワーク・コミッションにより毎年検討される全国最低賃金の支払いを受ける権利を有しており、最低賃金額の増加があった場合は賃金に反映される。最低賃金の増額がある場合は、労使裁定の賃金にも適用され、通常7月1日以降の最初の賃金支払から反映される。

フェアワーク法は別途合意しているか又は法律で認められている場合を除き、書面での合意なく会社が労働者の報酬を減額することを禁じている。労働者は最低でも月ベースで報酬を受ける権利を有し、場合によっては毎週又は隔週でも支払いを受けることもある。

退職年金

オーストラリアにおける退職年金制度は、労働者が退職した後に生活するために必要な収入を得ることができるよう、就労期間にわたり十分な額が基金に貯蓄されるよう設計されている。

すべての会社は、所定の臨時労働者を除き、退職年金制度に基づき設定された相場に従って、全従業員の退職年金を支払う必要がある。

現在、会社は退職年金基金に基づき、18歳以上、又は18歳以下で週に30時間以上労働している労働者の所得の10.5%を最低限の割合として退職年金基金を支払わなければならない(2022年7月1日〜2023年6月30日までの割合)3 。2022年7月1日以前は、月収450豪ドル未満の従業員に対して雇用主が退職年金基金を支払う必要がないという閾値が存在したが、現在はこれが廃止されている4

残業代

国家雇用基準(National Employment Standards)には、就業時間は最大で週に38時間までと定められているが、会社は合理的な理由に基づき残業を要求した場合、労働者は通常それに従うことを求められる。残業を計算するための数式などは一般的には規定されていないものの、残業が合理的であるかどうかを判断するにあたり以下のことが考慮される。

  • 残業による労働者の健康及び安全性のリスク
  • 家庭状況等を含む労働者の個人的事情
  • 労働者が雇用されている職場又は会社側のニーズ
  • 労働者の残業手当、特別手当、その他の追加手当を受ける権利又は残業時間を反映した給与を受ける地位の有無
  • 求められた残業に関し会社からの通知の有無
  • 労働者が残業に対し拒否する旨の通知の有無
  • 労働者が働く業界又はその一部での慣習
  • 労働者の基本的役割の内容及び責任の度合い
  • 残業時間が、労使裁定又は労働協約で定められた平均的な時間内であるか又は会社と労働者間で取り決められた平均的な時間内であるか
  • その他関連する事由

残業手当や残業をさせるために必要な条件に関しては、通常、労働契約や、適応される労使裁定又は登録合意に加え一部の業種では関連する法律規制によって決定される。さらに労働者がフルタイム、パートタイム等の職位や雇用形態などの要因も影響してくる。また、残業代の補償として休暇を受けることもできる5

解雇の方法と留意点

概論

雇用の終了は、契約上又は法律の権利として双方の合意又は法律の効果によりさまざまな方法で行われる。

通知要件

全国雇用基準では、雇用の終了時に最低限必要な通知期間を規定している。労働者は雇用終了の通知を受けるか又は通知の代わりに支払いを受ける権利を有している。もっとも、通知期間の長さは労働者の継続的勤務期間及びその年齢によって異なる。以下、雇用の終了において最低限必要とされる通知期間の概要を述べるが、裁定合意(specific awards)又は登録合意における特定の通知期間の場合は別途確認が必要である。

45歳以上で2年以上同一の会社にて勤務をした労働者については、以下の最低通知期間にさらに1週間を加えた期間が通知期間とされる。

通知期間
継続的勤務期間
1週間
1年以下
2週間
1年超3年以下
3週間
3年超5年以下
4週間
5年超

但し、特に幹部労働者又は役員の場合には、労働契約により少なくとも1カ月から3カ月の範囲でより長期の通知期間が設けられることがある。

会社と労働者は互恵待遇として、労働者が契約を終了する場合もまた、会社に対し最低限の通知期間として設定される期間と同じ又は合意された期間の通知をもって会社側との契約を解除しなければならない。

会社による解雇 - 即時解雇

重大な違反行為により労働者が即時解雇された場合、最低限の通知期間の規則は適用されない。裁判所により重大な違反行為として認められた例としては以下の内容がある。

  • 医療証明書の偽造
  • 薬物テストの不合格
  • 同僚に対する暴力行為

2009年フェアワーク規則では、重大な違反行為として以下の例を挙げている。

  • 盗難行為
  • 詐欺行為
  • 暴行行為
  • 勤務中の酩酊状態
  • 労働契約に合致した合法かつ合理的な指導を拒否する行為

解雇手当

労働者は解雇された際、最終的な報酬の一部として解雇手当を受け取ることができる場合がある。解雇手当の一例としては、提供された労働に対する未払い賃金、未取得の年次有給休暇、及び該当がある場合には年次有給休暇上乗せ賃金、未払い又は割合に応じた永年勤続特別休暇上乗せ金又は整理解雇手当などが含まれる。これらに加え、労働者は雇用の終了の際に契約上取得できる権利を得る場合がある。

整理解雇

労働者が従事する仕事の必要性の消失又は会社の破産を理由として労働者が整理解雇された場合、労働者は整理解雇手当(退職金としても知られている)の支払い及び予告通知期間が設けられる権利が保障される。フェアワーク法は以下に示す条件を満たす場合において、正規の整理解雇(genuine redundancy)とみなす。

  • 会社において当該業務の必要状況が変化し、一定の業務の遂行がそれ以上不要となった場合
  • 会社側が労使裁定又は労働者との整理解雇に関する労使協定に定められた該当する協議義務を遵守している場合

フェアワーク・オンブズマンのガイダンスに従い、整理解雇時に会社は、以下の協議要件を果たす必要がある。

  • 提案される人員整理により影響を受ける可能性のある労働者に対して通知を行うこと。
  • 労働者に対し当該変更についての情報及び予想される影響につき情報を提供すること。
  • 労働者と協議し、労働者に生じうる悪影響をできるだけ最低限にとどめること。
  • 当該変更についての労働者からなされる意見や提案に対し検討をすること。

正規の整理解雇ではないと判断される場合、労働者は不当な解雇である旨の主張をする可能性がある。もっとも正規の整理解雇である旨の根拠が存在する場合には、解雇された労働者は整理解雇手当等の退職金を受ける権利を得ることとなる。


整理解雇手当は、フェアワーク法に基づき、スライド制が採用されており、解雇される前の時点での継続的勤務期間、該当する労使裁定及び登録合意をもとに計算される。勤務期間に応じた整理解雇手当の支給期間が下記の表に従い決定される。

労働契約終了時の労働者の継続的勤務期間
余剰人員整理手当の支払い期間
1年以上2年未満
4週間
2年以上3年未満
6週間
3年以上4年未満
7週間
4年以上5年未満
8週間
5年以上6年未満
10週間
6年以上7年未満
11週間
7年以上8年未満
13週間
8年以上9年未満
14週間
9年以上10年未満
16週間
10年以上
12週間

もっとも次に挙げた労働者の場合は、会社は整理解雇手当を支払う必要がない。

  • 特定の業務、特定のプロジェクト、特定の期間又は特定の季節に限定して雇用された労働者
  • 臨時雇用労働者
  • トレーニング契約に基づき一定期間働く研修生又は見習い
  • 15人未満の会社で雇用された労働者
  • 重大な違法行為によって解雇された労働者
  • 連続勤務期間が12カ月に満たない労働者
  • 労使裁定(賃金と労働条件の定めが規定されている)によって整理解雇手当の適用対象外である旨が明記されている場合

会社は整理解雇手当の減額をフェアワーク・コミッションに申請することができる。

不当解雇

フェアワーク法に基づき、労働者は、会社側の主導のもと労働契約を終了、又は会社側に強制されるかたちで会社を辞職した場合には、解雇されたものとみなされる。

労働者は、当該解雇が厳しく、不公平、又は不合理(harsh, unjust, or unreasonable)であった場合、不当解雇である旨を主張することができる。不当解雇であることが確定した場合、会社は、復職措置又は補償の命令を受ける可能性がある。15人未満の労働者が雇用されるオーストラリアのすべての小規模事業の会社に対しては、フェアワーク法の特則として設けられた小規模企業解雇規則(Small Business Fair Dismissal Code)が適用される。同ルールに基づくと、小規模事業の会社の労働者は解雇時までに12カ月の労働期間を経ていることを条件として不当解雇の主張をすることができる。小規模事業の会社は、不当解雇に関して同ルールを遵守することで、労働者から主張される不当解雇に対抗することができる。

新しいフェアワーク法 – 労使交渉、職の保障、性の平等および新保護規制


2022年12月6日に勅許を受けた2022年フェアワーク法改正(安定した職、より良い賃金)法(Fair Work Legislation Amendment (Secure Jobs, Better Pay) Act 2022)により、フェアワーク法の導入以来最も重要な、労使関係の改正が導入された。主な変更点は以下を含む。

複数の雇用主をカバーする労使協定
本改正の結果、雇用主は複数の従業員をカバーする労使協定の交渉を義務付けられ、従業員はこれらの協定を支持するため保護された労働争議や交渉命令を求めることができるようになった。

労使交渉の紛争
フェアワーク委員会は、労使交渉が困難な職場に介入して決定する、より広範な権限を与えられた。

労使争議
複数企業協定に関連する保護される労使争議に関する制限が撤廃され、保護される労使争議が行われる前にフェアワーク委員会の調停または和解に出席する義務が新たに導入された。

労使協定の終了
労使協定の解除が許容される範囲は、特に交渉期間において大幅に縮小された。

労使協定の承認プロセス(BOOTおよび事前承認要件)
労使協定の本事項に関し、以下を含む変更がなされた。

  • 特定の状況において、従業員の代表交渉者が通知した時点で、労使交渉を開始することができるようになった。
  • いくつかの事前承認要件が廃止された。
  • スタートアップ労使協定の使用に制限が課せられた。
  • BOOT(Better Off Overall Test)が簡略化され、総合的な評価を実施しなければならなくなった。
  • 労使協定の有効期間中に、協定の当事者はBOOTの再評価を申請することができるようになった(例:従業員の勤務形態が変更された場合など)。
  • フェアワーク委員会は、承認プロセスにおいて労使協定を修正する権限を付与された。

賃金の平等
フェアワーク委員会は、賃金平等命令(Equal Payment Orders)や雇用契約における給与の秘密条項の禁止など、より大きな権限を持つようになった。また、フェアワーク委員会内に、給与の公平性とケア・コミュニティ部門を扱う 2 つの専門家委員会が設置された。

職場での尊重
職場でのセクシャルハラスメントの禁止が実施され、従業員や代理人の行為に対して、事業主が責任を負うことになった。また、フェアワーク委員会には、セクシャルハラスメントの紛争に対処するためのより大きな権限が付与された。

差別
連邦の差別禁止法を反映させるため、フェアワーク法の差別禁止規定に微修正が加えられた。

有期雇用契約
特定の状況下での固定または最長期間契約の禁止が設定された。

フレキシブルな勤務形態請求
従業員が柔軟な勤務形態を請求できる権利が拡大された。

無給の育児休暇の延長請求
無給の育児休暇の延長請求に対する雇用者の義務が拡大された。

フェアワーク法の目的
フェアワーク法の対象が拡大され、雇用の安定と男女平等の促進が追加された。

Australian Building and Constution Commission(ABCC)の廃止
ABCCは廃止され、その機能はFair Work Ombudsmanに移管された。

National Construction Industry Forumの発足
オーストラリア政府に対し、建築・建設業界における業務に関する助言を行う機関が発足された。

Registered Organisations Commission(ROC)の廃止
本委員会は廃止され、その権限はフェアワーク委員会に移管された。

外国人ビザの種類及び取得要件

ビザ

外国人労働者に適用されるビザの種類は多数あり、その中には以下のものがある(但しこれらに限定されるものではない)。

オーストラリアで働く海外労働者雇用のための会社のビザのオプション
ビザの種類
ビザの詳細
就労ビザ(482)
Temporary Skill Shortage (subclass 482)
本件ビザは、オーストラリアの会社がスポンサーする外国人労働者に対し発給され、2年から4年の期間の滞在が許可される。
雇用主指名ビザ(永住権)
Employer Nomination Scheme
本件ビザは永住ビザであり、オーストラリアにおいて事業を展開する雇用主に対し発給される。
地方雇用主指名ビザ
Regional Sponsored Skilled Migration Scheme
本件ビザは地域の承認機関(Regional Certifying Body)より許可された地方地域でのビザである。
グローバルタレント雇用主指名ビザ
Global Talent Employer Sponsored program
本件ビザは、雇用主がオーストラリア人労働者および就労ビザ(サブクラス482)などの他の就労ビザでは埋められない高度なスキルを要するポジションの労働者をスポンサーする場合に発給される。
短期特定就労ビザ
Temporary Work (Short Stay Specialist) Subclass 400 Visas
本件ビザはオーストラリアではまかなえない高度な専門的技術(オーストラリアでの技術の供給が限られている又は海外での高度な技術などであって、継続的な性質ではないもの)や、オーストラリアの国益に影響を与える労働(例えば、外交や貿易、ビジネスにおける利益に対しての影響)に対して数カ月の短期間で発給される。
トレーニングビザ
Training Subclass 407 Visas
本件ビザは職業訓練生の又は専門的能力開発プログラムの一環として一般的に2年間有効なビザとして発給される。
暫定アクティビティビザ
Temporary Activity Subclass 408 Visas
本件ビザは、イベントやスポーツ関連の活動に招待された参加者、宗教的な労働者、家事労働者、オーストラリアの教育機関との研究活動の参加者、エンターテインメント関連活動のために招待された参加者又は特別プログラムに参加する労働者のためのビザであり、一般的に約2年間有効なビザが発給される。

上記のビザに加え、専門職、技術職、その他技能を有する技術移住が認められる可能性がある労働者は各自の申請又は各州レベルで指名されることでビザを取得することができる。また、オーストラリアでの事業を立ち上げ、買収を目的としている事業経営者や、事業経営又は投資をするためオーストラリアへの移住をする経営者に対してのビザもある。これらのビザについて(及び、その他の家族・婚姻などを含むビザについて)は詳述しないが、詳細はオーストラリア政府の内務省のウェブサイトで確認することができる6。もっとも、オーストラリア政府は規則的ではないにしろ、定期的に外国人労働者と技術移住に対する規制を改正しているので注意が必要である。

そして、2017年4月にこの就労ビザに関して大改正があり、これまで、日系企業にとって、通常最も汎用性の高いとされていた就労ビザ(457)が完全に廃止され、新たな就労ビザ(TSS)に置き換わることとなった。この法改正について以下詳述する。

就労ビザ(457)(Temporary Business Sponsorship (subclass 457 visa))の廃止及び新たな就労ビザ(Temporary Skill Shortage(TSS))制度の開始

就労ビザ(457)が廃止された2017年4月以前は、大部分の企業が、各種のスポンサー義務や取引き上の指標を満たしていれば、標準のビジネススポンサーとして従業員のために457ビザを申請していた。当該就労ビザが日系企業にとり最も典型的なビザであった。

前述の通り、オーストラリア政府は大幅なビザ制度改正に基づき、オーストラリアの労働者を優先・保護することを目的として、就労ビザ(457)を廃止し、新しい就労ビザTemporary Skill Shortageビザ(サブクラス482)(TSS)を2019年3月19日より導入した。

Temporary Skill Shortageビザ(サブクラス482)

TSSビザには、主に、(1)最長2年間(国際取引義務(International Trade Obligations)が適用される場合は4年間)有効の短期、及び(2)最長4年間有効の中長期の二つのストリームが設置されている。

TSSビザを申請する前に、雇用主は、就労ビザ(457)と同様、少なくとも内務省により標準のビジネススポンサーとして承認を受ける必要がある。さらに、雇用主が指名する職業は、短期技能職リスト(STSOL)または中長期戦略技能リスト(MLTSSL)に含まれている必要がある。現在、短期ストリームには200以上の職業、中長期ストリームには300以上の職業がそれぞれリストアップされており、中長期ストリームには最高経営責任者またはマネージングディレクター、コーポレートジェネラルマネージャーといった役職を含む。

また、(TSSビザ)申請者への給与は、自立した生活がおくれるだけの基本給が一時高度人材移住者の給与基準値(Temporary Skilled Migration Income Threshold(TSMIT))を満たすことに加え、提案された給与が客観的にみて当該職種において妥当な金額であることが必要となる。

上述のような就労ビザ(457)と類似した要件を満たすことは、両ストリームにおいても引き続き要求され、さらに国民や永住者の雇用を確保する目的で、指名された役職に海外の労働者を雇う前に労働市場調査(Labor Market Testing)と呼ばれる現地人向けの求人広告や面接を実施する義務が、標準のビジネススポンサーにはある。また、労働者を育てるための研修ファンド(Skilling Australians Fund)に、小規模売上企業(年間総売上高1,000万豪ドル未満)は、外国人労働者ごとに年間もしくはそれ以下の期間につき1,200豪ドル、それ以外は年間もしくはそれ以下の期間につき1,800豪ドルをノミネーション申請時に納める義務も継続して課せられる。

あるいは、企業がオーストラリア政府と労働協約を結んだ場合、その企業は高度人材を受け入れるにあたり、標準的な移民方法が適切ではない場合に、当該労働者がオーストラリアにおいて必要であるということを証明してスポンサー企業となることができる。これには、当該職種が真にオーストラリアにとり必要であり、国内でみつけようと努力したにも関わらず構造的に困難であることを証明したうえで、会社がオーストラリア人に適切な研修を実習することを約束することを要する。

新制度の導入(Global Talent Scheme)

オーストラリア政府は、「Global Talent Scheme」という全く新しい就労ビザ制度を2019年8月から導入している。Global Talent Schemeのうち、Global Talent Employer Sponsoredプログラム(GTES)は、イノベーション人材を呼び込むべく、人材を受け入れるスポンサー企業が、STSOLやMLTSSLの職業リストに載っていない人材でもビザの発給対象に指名する制度のことである。スポンサー企業はイノベーション人材の就労ビザとして一般的なTSSビザでは対応できないことを証明する必要があるだけではなく、オーストラリアの労働市場で適切な人材を確保できないことを証明しなければならない。2020年12月時点で、オーストラリアの52法人が、政府との間でGTES協定を締結し、プログラムに参加している。

Administrative Appeals Tribunalの廃止

移民・難民ビザに関して決定を下していた政府機関である行政不服審査所(Administrative Appeals Tribunal)は2023年に廃止され、新たな機関が設立される予定である。これにより、移民や外国人労働者のビザ申請に関する不服申し立てに大きな影響が及ぼされることが予想される。

コロナ禍のビザ制限

オーストラリアでは、COVID-19の制限と国境管理が以下のようにさらに緩和された。

  • 2022年9月9日より、オーストラリアへのフライトでマスクの着用が義務付けられなくなった。
  • 2022年7月6日以降、ワクチン接種状況証明書、デジタル旅客申告書、およびワクチン未接種の旅行者の渡航免除は、オーストラリア入国に際し不要となった。

しかしながら、パンデミックを取り巻く状況は急速に変化する可能性があるため、すべての渡航者及びビザ申請者においては、内務省のウェブサイトで最新の情報を確認されたい

職場における新型コロナワクチン接種に関する問題

連邦レベルではワクチン接種は基本的に任意だが、オーストラリアでは業種や州・準州によって異なるワクチン接種の義務が存在する。具体的には、州・準州政府は、高齢者介護、検疫・輸送、ヘルスケア、学校・幼児教育などの産業で働く労働者に関して、公衆衛生命令を出している8

法律によりワクチン接種が義務付けられていない場合も、雇用主は、合法的かつ合理的な指示であり、雇用契約、適用される労使裁定(Modern Award)、適用される労働協約(Enterprise Agreement)及び関連法(例:2009年フェアワーク法に基づく一般保護及び反差別法)に準拠する限り、従業員にワクチン接種の義務付け方針を課すことが可能である。

合法的かつ合理的な指示であるか否かは、各職場の性質、地域社会の感染拡大の程度、公衆衛生命令、ワクチンの効果、労働安全衛生義務、各従業員の事情9などの様々な要因に依拠し、雇用者は各職場に適した独自の判断をすることが求められる。フェアワーク・オンブズマン(Fair Work Ombudsman)は、以下のような一般的なガイダンスを提供している職種を、従業員が感染の危険性が高い人と接する必要があるTier 1職(例:ホテルの検疫、国境警備)、従業員が健康への影響を特に受けやすい人と密接に接するTier 2職(例:医療、高齢者介護)、従業員と顧客など他の人との間に交流がある又は交流が見込まれるTier 3職(例:店舗)、及び従業員が対面する機会がほとんどないTier 4職(例:在宅ワーク)の4職種に分け、Tier 1またはTier 2の業務を行う従業員に対するワクチン接種指示は合理的である可能性が高く、Tier 4の業務は合理的である可能性は低い。Tier3業務に対するワクチン接種指示の合理性は、地域感染のリスク、及び、職場が地域社会で活動する必要性による。

従業員は、雇用主の合法的かつ合理的な指示に従うことを拒否することができる。従業員が健康状態等の正当な理由で拒否した場合は、雇用主は代替業務等の他の選択肢を検討すべきである。従業員に正当な理由がない場合は、2009年フェアワーク法の一般保護規定に従って、状況に応じて妥当な場合に限り懲戒処分を行うことができる(一方で、無給での停職処分は認められないことが多い)。オーストラリアでは、解雇または不利益処分に対する様々な労働者保護が存在するため、雇用主はこれらの事項に関して法的助言を求めることが推奨される。

一般的に、雇用主は、ワクチン接種を合法的かつ合理的に指示した場合に、ワクチン接種または健康状態の証拠を従業員に提出するよう要求することができる。証拠を要求することもまた、合法的かつ合理的な指示でなければならない。このような証拠は1988年プライバシー法(Privacy Act 1988 (Cth))に基づく機微な情報である個人情報であるため、情報の収集には従業員の同意、及び情報通知の提供など同法に基づく他のプライバシー義務を遵守しなければならない。

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  1. 公開日:2023/06/29