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インド労働法制

インドにおける労働法において最も留意すべき事項としては、中央政府の連邦法と州法との二重構造がある。すなわち、労働法は中央政府および州政府のそれぞれに立法権があるため、各企業は、連邦法に加えて、拠点が存在する州の州法の遵守が求められる。

また、当面の注意事項としては、新労働法典の施行がある。従前、連邦法のみで29もの法律があったが、4法に統合すべく新労働法典が制定され、2025年11月に施行された。もっとも、新労働法典の施行に必要となる連邦政府および州政府の下位法規が一部を除いて未制定であり(2026年2月時点)、その運用は移行期にある。

これらから、インドの労働法令は、他国で類を見ないほど複雑となっており、特に新法における下位法規・実務が固まるまでの間、情報の継続的収集が不可欠となる。


その他のインド労働法令の特徴としては、「ワーカー」と「ノンワーカー」の区分がある。ワーカーには解雇規制を始め労働法令による保護が広く及ぶが、ノンワーカーの保護は限定的である。もっとも、その線引きは必ずしも明確ではなく、判断に注意が必要となる場合がある。

外国人就労については、雇用ビザは原則として高度技能職を想定し、一般的な事務・秘書等の職務は制度上付与されにくい。給与閾値として年間2万5000米ドル以上を満たす必要もある。

労務管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

インド労働法改革の概説と新法の施行開始

インドは28の州及び8の連邦直轄領から成る連邦国家であり、憲法246条および第7別表に基づき連邦と州の間で立法権限が配分されている。労働・雇用および社会保障に関する法律はConcurrent Listに属しており、連邦議会及び各州議会の両方が制定する権限がある。州法が連邦法と競合する場合は、原則として憲法254条により連邦法が州法に優先する。他方、Concurrent List事項について、州法が大統領裁可(Presidential assent)を得て制定された場合には、当該州に限り州法が連邦法に優先して適用されることがあるが、その後に連邦議会が新たな立法を行った場合には再び連邦法が優先する。労働分野では、連邦法に対する州修正法(State Amendments)や州別の規則(State-specific Rules)により、州ごとの制度差異が広く存在している。

「ワーカー」の定義等の全国的な統一が求められる事項や、未成年者の夜間労働の禁止といった社会的弱者保護の分野等では州法修正の余地は限定されているものの、その他の分野では州独自の規律が多く設けられている。このような状況から、労働に関する法規は、連邦法・州法を合わせると500を超えるとされてきた。

こうした複雑な労働法体系を整理・簡素化するため、インド政府は2019~2020年の法改正において、29の連邦労働関連法令を以下の4つの労働法典(Labour Codes)に集約・統合した。

  • 賃金法(Code on Wages 2019)
  • 労働安全衛生・雇用条件法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code 2020)
  • 労使関係法(Industrial Relations Code, 2020)
  • 社会保障法(Code on Social Security 2020)

もっとも、諸般の事情により制定後に未施行の状況が続いていたが、2025年11月21日に労働雇用省通達により施行されることとなった。
ただし、2026年3月時点で、労働法典の施行に必要となる施行規則が連邦政府および多くの州政府で未制定である。施行規則の制定後も、実務運用が固まるまでは相当期間を要することが想定され、当面は、今後の動きについて注意する必要がある。
かかる状況ではあるが、本稿では、基本的に、労働法典の規定に従っている。

廃止される法律
賃金法
  1. The Payment of Wages Act, 1936 (1936年賃金支払法)
  2. The Minimum Wages Act, 1948(1948年最低賃金法)
  3. The Payment of Bonus Act, 1965(1965年賞与支払法)
  4. The Equal Remuneration Act, 1976(1976年均等賃金法)
労働安全衛生・
雇用条件法
  1. The Factories Act, 1948(1948年工場法)
  2. The Plantations Labor Act, 1951(1951年プランテーション労働法)
  3. The Mines Act, 1952(1952年 鉱山法)
  4. The Working Journalists and other Newspaper Employees (Conditions of Service) and Miscellaneous Provisions Act, 1955(1955年労働するジャーナリストおよびその他の新聞被雇用者(サービス条件)および雑則法)
  5. The Working Journalists (Fixation of Rates of Wages) Act, 1958(1958年労働するジャーナリスト(賃金率の固定)法)
  6. The Motor Transport Workers Act, 1961(1961年自動車輸送労働者法)
  7. The Beedi and Cigar Workers (Conditions of Employment) Act, 1966(1966年Beedi(煙草の葉をそのまま巻いた煙草)及び葉巻煙草労働者(雇用条件)法)
  8. The Contract Labour (Regulation and Abolition) Act, 1970(契約労働法)(1970年契約労働(規制および廃止)法)
  9. The Sales Promotion Employees (Conditions of Service) Act, 1976(1976年販売促進被雇用者(サービス条件)法)
  10. The Inter-State Migrant Workmen (Regulation of Employment and Conditions of Service) Act, 1979(1979年州間移民労働者(雇用及び雇用の規制サービス条件)法)
  11. The Cine-Workers and Cinema Theatre Workers (Regulation of Employment) Act, 1981(1981年映画労働者及び映画劇場労働者(雇用の規制)法)
  12. The Dock Workers (Safety, Health and Welfare) Act, 1986(1986年ドック労働者(安全衛生及び福祉)法)
  13. The Building and Other Construction Workers (Regulation of Employment and Conditions of Service) Act, 1996(1996年ビル及びその他の建設労働者(雇用規制及びサービス条件)法)
労使関係法
  1. The Trade Unions Act, 1926(1926年労働組合法)
  2. The Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946(1946年産業雇用法)
  3. The Industrial Disputes Act, 1947(1947年産業紛争法)
社会保障法
  1. The Employee's Compensation Act, 1923(1923年被雇用者補償法)
  2. The Employees' State Insurance Act, 1948(1948年被雇用者国家保険法)
  3. The Employees' Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952(1952年被雇用者積立基金雑則法)
  4. The Employment Exchanges (Compulsory Notification of Vacancies) Act, 1959(1959年雇用交換(求人情報公開の義務化)法)
  5. The Maternity Benefit Act, 1961(1961年出産給付法)
  6. The Payment of Gratuity Act, 1972(1972年退職金支払法)
  7. The Cine-Workers Welfare Fund Act, 1981(1981年映画労働者福祉基金法)
  8. The Building and Other Construction Workers' Welfare Cess Act, 1996(1996年建築物その他建設労働者(の雇用規制及び就労条件に関する)法)
  9. The Unorganised Workers' Social Security Act, 2008(2008年非組織労働者社会保障法)

ワーカー(Worker)保護の概念

新労働法典は、従業員・労働者にあたる概念について、ワーカー(Worker)・ノンワーカー(Non-worker)、これらを総称する従業員(Employee)という3つを使い分けている。本稿においても、この区分にしたがっている。

なお、労働法典制定前から、ワーカー・ノンワーカーはそれぞれワークマン・ノンワークマンと呼ばれていたが、ジェンダー中立的な表現に変更したものであって、この基本的な建付けに変更はない。
この区別は、概念としては、日本の労働基準法上のいわゆる管理監督者と非管理監督者の区別に近いが、インド法におけるワーカーとノンワーカーの区分による影響はより多岐にわたる。
ワーカーとノンワーカーの該当性は実態に即して判断され、肩書き・役職等から形式的に判断することはできないが、雇用契約書では、ワーカー・ノンワーカーの該当性を十分に吟味したうえで明確に記載しておき、後日の紛争リスクを可能な限り低減させることが重要である。

適用法令の特定と留意点

インドの労働法規制は、日本の労働基準法のように一律ではなく、事業所の形態(工場かオフィスか等)、事業所の規模、従業員・ワーカー数、所在する州等によって適用される法令が異なる点に大きな特徴がみられる。
新労働法典下でも、事業所の性質によって適用法令は異なり、例えばオフィスや店舗、商業施設等の場合には、店舗及び施設法(Shops and Establishments Act,19531)が適用されると考えられる。店舗及び施設法は州法でもあるため、休日、労働時間の上限、年次休暇の付与日数等の労働条件が州ごとに異なる点にも注意しなければならない。一方、工場の場合には、主に労働安全衛生・雇用条件法(従前は連邦法である旧工場法 Factories Act,1948)が適用され、安全性や健康基準、労働時間等の労働条件が定められている。
また、300人以上のワーカーを雇用する(過去12カ月のうちに雇用していた場合を含む)事業所は、労使関係法に基づき、法定要件を満たした「就業規則(Standing Orders)」作成の義務が発生する。
新労働法典の成立に伴い、連邦レベルでの統一が進んだものの、旧法の内容の多くは新法に盛り込まれており、さらに州による独自の規定も追加されうるため、自社のインド各拠点の性質、規模等によって遵守すべき労働条件が異なる可能性がある点につき注意が必要である。

基本的な労働法制の概要

労働に関する制定法の概要

インドでは、2019年から2020年にかけて、複雑な労働法体系の改革がなされ、計29の連邦労働法が以下の4つの労働法典(Labour Codes)に整理・統合された。労働安全衛生・雇用条件法、賃金法、労使関係法、社会保障法の4法は、2025年11月21日に施行が開始した。

法令・法典 内容
基本的人権 憲法(Constitution of India) 基本的人権。強制労働の禁止(23条)及び14歳以下の工場等での労働禁止(24条)
労働条件・安全衛生 労働基準法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020) 工場法、鉱山法、契約労働法、州外労働者法等を統合。10人以上の労働者を雇用する事業所に適用され、以下を含む事柄を規定する。
①雇用契約書の交付義務
(旧工場法等では作成義務なし)
②職場における労働時間、休息、休日、残業等。1日あたりの労働時間は8時間が上限(旧工場法は9時間)
③安全配慮義務・危険防止策
④女性の保護。女性労働者の同意を条件として夜間労働可(旧工場法は夜間労働禁止)。
賃金 賃金法(Code on Wages, 2019) 賃金支払法、最低賃金法、賞与支払法、均等報酬法の各法を統合。
労使 労使関係法(Industrial Relations Code 2020) 産業紛争法、労働組合法等を統合し、以下を含む事柄を規定する。
①就業規則の作成義務。(従業員300人以上の施設で必要。旧法では100人以上)
②解雇、労働条件変更
(300人以上の解雇に政府承認必要、旧法では100人以上)
③スト等労働争議、紛争解決
④労働組合の登録等
社会保障 社会保障法(Code on Social Security, 2020) および労働基準法典(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020) 従来は複数の連邦法が別々に規定していた事項を総括。
その他 ①(各州法において)店舗施設法(Shops and Establishment Act)
②児童労働法(Child and Adolescent Labour (Prohibition and Regulation) Act, 1986 and 2016)
③見習工法(Apprentices Act, 1961)
① 商業施設やオフィスでの労働条件等
② 子供の労働禁止及び未成年労働者の保護
②見習工の資格、育成、条件

以下、労働に関し中心的役割を担う主な法律につき、詳細を述べる。

  1. 賃金法

    2019年8月に公布された同法は、賃金関連の4つの旧法、すなわち、賃金支払法、最低賃金法、賞与支払法、均等報酬法を統合したものである。賃金の統一的な定義、全国的な最低賃金、賞与支払い義務、性別による賃金差別の禁止などを包括的に定めている。

  2. 労働安全衛生・雇用条件法

    労働安全衛生・雇用条件法は、工場法を含む13の旧法を統廃合し、職場の安全基準、労働時間、休暇など、人道的な労働条件を確保するための法的枠組みを定めている。

    具体的には、全従業員(every employee)に対する雇用契約書(Appointment Letter)の交付義務、労働時間(原則として1日あたり上限8時間)、休息、休日、残業等の規程、安全配慮義務や危険防止策の策定義務、女性の保護等を定めている。労働安全衛生・雇用条件法の規定は、10人以上のワーカーを雇用するすべての事業所に適用される。

  3. 労使関係法

    労働組合法、産業雇用(Standing Orders)法、産業紛争法の3法を統合したもの。ワーカーの定義、ワーカー300人以上の事業所における就業規則の制定義務、解雇条件や労働条件、ストライキ等の労働争議・紛争解決、労働組合の登録等を定めている。

  4. 社会保障法

    社会保障法は、福祉や社会保障に関する9つの法律2を統合したもので、従業員国家保険制度(ESI)、従業員積立基金(EPF)、出産手当、退職金に関する規定を定めている。また、ギグワーカーやプラットフォームワーカーといった非組織部門ワーカー(Unorganised Workers)に対する社会保障の枠組みも新設された。

ワーカーとノンワーカーの制度

  1. 定義

    ワーカーは比較的安価な報酬で単縦な業務を行うために雇われた者を指し、法令による手厚い保護を受ける一方で、ノンワーカーは、比較的高額の報酬で管理監督的な業務を行う者であり、会社と対等の当事者関係に近い者として、法令による保護が限定的に規定されている。

    ワーカー・ノンワーカーの定義は下記の表のとおりである。

    ワーカー ノンワーカー
    定義 肉体的、非熟練的、熟練的、技術的、作業的、事務的、または監督業務的業務のために雇用された者(賃金法典2条、労働基準法典2条)
    ただし、
    1. ①空軍、陸軍、海軍関係者
    2. ②警察官、刑務所で雇用される者
    3. ③経営的又は管理的立場として雇用されている者(managerial or administrative capacity)
    4. ④月の賃金が一定額3を超えており、かつ監督的立場(supervisory capacity)か、主に管理者として雇用されている者。上記①から④の者は、「労働者」に該当しない。
    ワーカーの定義を満たさない者
    (左記の例外要件を満たす者)。
    法的地位 会社よりも弱い立場にある者として、すべての労働関連法令による保護を受ける。 会社と実質的に対等の地位にあるものとして労働関連法令による保護は限定される。
    法令による解雇規制 あり なし

    このように、ワーカー・ノンワーカーの区分は、ワーカーの定義に該当するかにより決される。民間企業においては、但し書きの③または④に該当するかで判断されることとなる。
    文言は必ずしも明確でないため、事案に応じ、下記の判例による判断基準も参照が必要となる。

  2. 該当性判断

    ワーカーの該当性は、実態に即して判断される。判例上、以下の基準が提示されている。

    1. その者の雇用状況が、正規雇用、臨時雇用、試用期間中の雇用のいずれであっても、ワーカーに該当し得る。
    2. 付随的に監督業務的な作業を行っていたとしてもワーカーへの該当性が直ちに否定されるものではない。
    3. ワーカーへの該当性を判断するためには、肩書や役職ではなく、その者の職務の性質に着目しなければならない。
    4. ワーカーへの該当性の判断に際しては、その者の賃金ではなく、職務の性質が主要な判断基準とされるべきである。
    5. 単に小規模部門の責任者であることは、ワーカーへの該当性を直ちに否定するものではない。

    又、経営的立場、管理的立場、又は監督業務的立場にある者で、ノンワーカーに該当すると判断する際の考慮要素として、以下のような要素が考慮されている。

    1. ある者が多様な任務を任されている場合において、ワーカーへの該当性が問題となった場合、その者の基本的かつ主要な作業内容を検討する必要があり、付随的な作業内容は、労働の性質を変更するものではない。よって、主要な作業内容として監督業務的な作業を行う者が、付随的に又は部分的に、事務的、肉体的又は技術的作業に従事したとしても、その者は監督業務的立場で雇用されたと判断すべきである。
    2. 「経営的立場又は管理的立場」の意味は、旧産業紛争法及び労使関係法に定義されていないため、一般的な意味に従って解釈すべきである。経営的立場にいるというためには、必ずしもその者が階層組織の頂点に位置していたり、すべての事項について絶対的な権限を有している必要はない。さらに、その者が組織や組織内の部門を単独で管理する立場にいる必要もない。
    3. 経営的立場、管理的立場又は監督業務的立場にあるためノンワーカーに該当すると判断するに際して、裁判所が考慮した具体的な事実としては、(a)他の者を様々な職種に配置する立場にあること、(b)他の者の出席を確認する立場にあること、(c)他の者に対して説明を求める立場にあること、(d)他の者に仕事を割り振る立場にあること、(e)他の者に対して休暇を許可する立場にあること等が挙げられる。
  3. 区別が適用されない場合

    連邦法である旧工場法は、主に工場における労働時間、時間外労働の際の賃金、休暇等につき定めていた。又、各州の店舗施設法は、インドで運営される当該州の店舗や商業施設等における労働時間、時間外労働の際の賃金、休暇等につき定めた法律である。これらの規制はノンワーカーへの適用が排除されていない。その他にも、賃金や賞与や退職金の支払いに関する法律、労災補償制度、年金制度や保険制度等の社会保障制度においても、ワーカーとノンワーカーの区別によってその適用対象は制限されていない。今般の労働関連法改正により、州法である店舗施設法を除く上記の規制は、新労働法典に組み込まれている。

雇用契約の締結

日本においては雇用契約の成立自体は口頭合意によっても可能とされている。一方インドでは、今般の労働安全衛生・雇用条件法施行により、すべての従業員に対し雇用契約書(Appointment Letter)を交付することが義務付けられた。雇用契約書には、労働安全衛生・雇用条件規則(Occupational Safety, Health and Working Conditions (Central) Rules, 2025)(2026年1月時点では同規則案が公開されている)に定められる事項を明記することとなる。また、必要な記載事項を含む雇用契約書を交付していない従業員にも、本規則の施行後3カ月以内に交付することが義務付けられる。

労働時間

ワーカーの労働時間については、労働安全衛生・雇用条件法において、一日の上限が8時間(同法25条1項a)、週6日まで(同法26条1項)と規定された。この8時間には休憩時間は含まない。ただし、同意に基づく時間外労働は可能であり、その場合は別途残業代として通常賃金の2倍を支払うこととされている(労働安全衛生・雇用条件法27条)。なお、鉱山労働者、自動車運送労働者、ジャーナリストに関しては、労働の性質に応じた規定を別途定めている。なお、ワーカーが10人未満の事業所は、同法の適用対象外となる(労働安全衛生・雇用条件法2条1項v)。

  1. (1) 法定労働時間

    原則として、15歳以上のワーカーの労働時間は、原則1日8時間がその上限として規定されている(労働安全衛生・雇用条件法25条1項a)。

    又、年少者に対してはさらなる保護が設けられている(The Child and Adolescent Labour (Prohibition and Regulation) Act, 1986、「児童労働禁止法」)。14歳以上から18歳未満の未成年者(Adolescent)は、時間外労働は禁止され、また、午後7時から午前8時までの時間帯の労働も認められない(児童労働禁止法7条4項、5項)。

    なお、女性の労働時間に関しては、夜間(午後7時から午前6時まで)の労働自体を禁止する法律(1948年工場法第66条1項b)もあったが、労働安全衛生・雇用条件法においては、会社が安全管理や労働条件等の法令を遵守することを前提に、本人の同意があれば夜間の労働も認められることと定められた(労働安全衛生・雇用条件法43条)。

    (2) 時間外労働

    ワーカーに労働時間外の労働をさせる場合、必ず本人の同意が必要とされる。又、1日8時間、週に6日を超える労働には、当該法定の労働時間を超える時間外労働について、通常の賃金の2倍の賃金を支払わなければならない(労働安全衛生・雇用条件法27条)。時間外労働の上限に関し明確な規定はないものの、政府は時間外労働の総時間数を規定することができるため(同法27条)、今後、各州において上限が定められる可能性がある。

    項目 概要
    労働時間 1日8時間(休憩含まず)
    女性労働者
    午後7時から午前6時までの時間帯の労働は本人の同意が必要
    14歳以上18歳未満の未成年労働者
    原則:午前8時から午後7時までの時間帯にのみ労働可能
    時間外労働 残業時間の上限に関する明確な規定なし
    通常賃金の2倍の残業代を支払う

就業規則の作成義務及びその内容

就業規則の作成義務

インドにおいては、日本や一部他国における就業規則に相当する包括的な社内規定の制定が、全ての事業所に義務付けられているわけではない。
例外として、労使関係法に基づく「Standing Orders」がある。この法定就業規則は、全ての事業所に求められるわけではなく、一定数以上のワーカーを雇用する場合にのみ、作成の義務が課される。但し、要件については、各州において変更が加えられているかどうか、適用を受ける事業所の雇用人数等も含め各州における規則を確認する必要がある。
また、2013年会社法や2013年職場における女性に対するセクシャル・ハラスメント(防止、禁止及び救済)法等の特定の法律は、会社の就業地における施策制定を義務付け、従業員に対する一定の付加的な保護を与えることとされている。4

法定就業規則(Standing Orders)作成が求められる場合

法定就業規則の作成及び提出義務の状況は、労使関係法第4章によって定められている。同法は、ワーカーに適用される労働条件の最低基準を規定し、どの雇用主がそれらの規定の適用対象となるかを定めている。法定就業規則の作成等に関する労使関係法第4章は、300人以上のワーカーが、現に雇用されているか、又は、過去12カ月間のいずれかの日において雇用されていた産業施設を適用対象とし(労使関係法28条1項)、適用対象となる産業施設は、法定就業規則を作成及び提出しなければならない(同法30条)。産業施設とは、産業活動を行っている施設や事業体をいう(同法2条p)。適切な行政府(州又は国)による官報での通知により、任意の又はある種の産業施設において条件付きで、又は無条件で、これら就業規則に関する規定の適用から除外されることもある(同法39条)。

法定就業規則の作成手続及び内容

会社は、労使関係法の規定が適用されることとなった日から6カ月以内に法定就業規則の案文を作成し、政府の認証官(Certifying Officer)に提出しなければならない(同法30条)。政府の認証官とは、旧法である産業雇用法上、労働監督官(Labour Commissioner)又は地方労働監督官(Regional Labour Commissioner)その他政府が指名する担当官を指す。

会社は、法定就業規則案に、以下の11項目(労使関係法別表1)及びその他必要と判断する項目を規定し、記載しなければならない。なお、モデル法定就業規則を基に自社の法定就業規則の作成が行われるところ、2026年2月現在、政府はサービス部門及び製造・鉱業部門のモデル法定就業規則案を公開しており、各産業施設における法定就業規則を作成することとなると予想される。

就業規則の必要記載事項
労働者の分類(例えば、正社員、臨時社員、見習工、試用社員、代理社員など)
就業期間(Periods of work)・就業時間(Hours of work)、休日、賃金支払日及び賃金水準を労働者に知らせる方法
勤務シフト
出勤及び遅刻に関する事項
休暇・休日を取得する条件、申請手続、及び承認機関
施設立入条件、(施設に入る際の)検査に服する義務
産業施設の部門の閉鎖及び再開、労働の中断、並びにそれに伴う権利及び義務
雇用の終了、並びに会社及び労働者による雇用の終了の通知
懲戒事由に基づく停職又は解雇及び懲戒事由に該当する行為
会社又は会社の代理人・使用人による、不公平な取扱い又は不当な要求に対する労働者の救済手段
その他政府が規定する事項

法定就業規則案は、認証官による認証作業の後に最終版として認定され、認証官は認証後の法定就業規則のコピーを労働組合又はワーカーの代表者に送る必要がある(労使関係法30条)。

認証官は、ワーカーと会社の両方の意見を考慮した後、必要に応じて規定を修正する。その法定就業規則が適法か否かの判断に加えその内容が公平かつ合理的か否かも判断し、認証作業を遂行する。会社は一般的に公平かつ合理的と考えられているモデル法定就業規則の内容に従って法定就業規則案を作成する。

法定就業規則の内容は、認証を受けた法定就業規則が会社と労働組合又はその他ワーカーの代表者に送付されてから30日後に確定される(同法33条)。会社は、同法に基づき最終的に確定した法定就業規則の内容を、所定の言語で、且つ、所定の方法で掲示しなければならない(同法33条)。所定の言語及び掲示方法は関連規則で規定されることとなる。旧法においては、英語及びワーカーの過半数が理解する言語で、ワーカーの過半数が利用する入口付近の特別な掲示板に目立つように掲示することとされた。

会社が法定就業規則の作成義務を怠っている場合、モデル法定就業規則の内容が、該当する法定就業規則としてその施設に適用される(同法29条2項)。

罰則

会社が法定就業規則案を提出せず、又は手続きに違反した場合、一定額(5万ルピー超)の罰金が科される(労使関係法86条10項)。

変更手続

法定就業規則の変更を希望する会社又はワーカー(又は労働組合その他ワーカーの代表)は、認証官に対しその変更を申請することができる(労使関係法35条2項)。但し、法定就業規則の施行後6カ月間は、会社及びワーカー(又は労働組合その他ワーカーの代表)が相互に合意しない限り、変更することはできない(同法35条1項)。その後の変更手続は、当初の法定就業規則の作成手続の手順を踏むものとされる(同法35条3項)。

賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要

概要と適用範囲

賃金に関しては、2019年賃金法5によって規律されている。賃金法は、賃金の統一的な定義や支払い時期、控除等について定め不要な紛争を回避し、かつ不当な賃金の未払い、罰金の賦課、賃金からの天引きといったものを排除し、最低賃金につき保証し、従業員の利益を保護することを目的としている。

同法が適用される「Employee」の範囲は広く、雇用条件の明示・黙示を問わず、賃金により事業所に雇用される全ての者(1961年養成訓練法に基づく実習生(Apprentice)を除く)が対象となる(同法第2条k項)。

賃金の定義

従前は法ごとに賃金の定義が異なっていた。改正により、各種手当の算定根拠となる「賃金(Wages)」の定義が、新労働法典で統一され、手当や控除の扱いが統一されることとなった。
賃金法第2条(y)に基づき、「賃金」とは、雇用契約に基づいて労働の対価として支払われる全ての金銭的報酬を指し、以下が含まれる。

  1. 基本給(basic pay)
  2. 物価調整手当(dearness allowance)
  3. 留保手当(retaining allowance)(該当する場合)

以下の手当や拠出金は原則として「賃金」から除外されるが、(a)〜(i)の合計が全報酬の50%を超えた場合、その超過分は「賃金」として算入される。

  1. (a) 法定ボーナス(雇用条件上の報酬構成に含まれないもの)
  2. (b) 住宅、水道光熱、医療等の福利サービス提供の価値
  3. (c) 年金基金又は積立基金(雇用主負担分及びその利息)
  4. (d) 通勤手当、出張旅費
  5. (e) 雇用・業務上の特別経費清算額
  6. (f) 住宅手当(house rent allowance; HRA)
  7. (g) 裁定、和解、又は裁判所・労働審判所の命令に基づく報酬
  8. (h) 残業手当(overtime allowance)
  9. (i) 従業員に支払われるコミッション
  10. (j) 退職金(gratuity)
  11. (k) 整理解雇補償金、退職手当、見舞金(ex gratia payments)

ただし、「男女同一賃金」の確保及び「賃金の支払い」の算定においては、除外項目である(d)(f)(g)(h)も「賃金」に含めるものとする。また、現物支給が含まれる場合、賃金総額の15%までは「賃金」の一部とみなす。

支払い方法・支払期日

すべての会社は、1カ月を超えない範囲で賃金支払期間を確定する必要がある(同法16条)。月給制の場合、賃金支払期間の最終日(月末)から7日以内に、賃金を支払わなければならない(同法17条1項4号)。また、会社によって雇用契約が終了された場合、又は従業員が辞職した場合、当該従業員に対する賃金は、終了日から2就業日以内に支払われなければならない(同法17条2項)。

賃金の支払いには現金、小切手、銀行振込又は電子的方法を用いることができる(同法15条)。

賃金控除

賃金法に規定する場合を除き、賃金からの控除は認めらない(同法18条~25条)。その項目としては、同法では、罰金、損失、損害、ローンや前払い金の回収など、控除の対象が包括的に規定されている。

最低賃金制度

旧法では指定業種(Scheduled Employments)のみが対象であり、州ごと、業種・職種ごとに最低賃金や基準が乱立していた。賃金法6では、業種や雇用形態を問わず、全ての従業員(非組織化部門を含む)に最低賃金が適用される(同法5条)。
賃金法では2階層構造が導入されている。連邦政府は、生活水準に応じた全国的な下限賃金(floor wage)を定める。各州政府は独自に最低賃金(minimum rate of wages)を定めることができるが、連邦政府が定めた下限賃金を下回ってはならない(同法9条)。
これにより、全業界を通じて最低賃金の統一基準が維持されることになる。実務上は、州政府による最低賃金の改定が毎年行われることが多い。

法定賞与

会計年度中に20名以上を雇用した事業所は、以下の条件に従って賞与を支払う義務がある(賃金法第26条、41条2)。

  1. (1) 支給対象者
    政府が定める月額賃金上限(通知により決定される)以下の賃金の従業員であり、当該会計年度内に合計30日以上勤務した者
  2. (2) 賞与額の算定基準
    ・最低金額:賃金の8.33%又は100ルピーのいずれか高い方(配分可能な剰余金(allocable surplus)の有無にかかわらず支払必須)
    ・最高金額:賃金の20%(配分可能な剰余金がある場合の上限)
    ・計算上限:従業員の実際の賃金が政府通知額を超える場合は、「政府通知額」を賃金とみなして計算する(同法26条2項)

退職金(Gratuity)

  1. 適用範囲

    社会保障法は原則、5年以上継続勤務した従業員に対し、以下に示すいずれかの事由が生じた場合、退職金を支払うことを定めている(第53条)。

    1. ① 定年退職

      ② 退職又は辞職

      ③ 事故又は疾病による死亡又は労働不能(5年間の勤続要件は免除)

      ④ 有期雇用契約の契約期間満了による退職(5年間の勤続要件は免除)

    退職金の支払いは、工場、鉱山、油田、プランテーション、港湾及び鉄道会社に加えて、10人以上の従業員が現に雇用されているか、又は過去12カ月間のいずれかの日において雇用されていた店舗又は施設に適用される(社会保障法別表1v)。

    但し、雇用の終了原因が、会社に属する財産の損害、損失、破壊を生じさせる行為、意図的な怠慢、又は過失による場合は、かかる損害及び損失の範囲で退職金の権利は失われる。

  2. 支給額

    月給制の従業員の場合、以下の計算式で算出される額を法令上の最低額として支払われる(社会保障法53条2項、説明3)。

    退職金額=(直近の月額賃金÷26)×15×勤続年数(※)

    6カ月を超える端数は1年に切り上げる(例:5年7カ月勤続であれば、6年として計算)。

    会社がその裁量で最低額を超える退職金を支給することは可能である(同法53条5項)。雇用契約の際一定の支給額について双方が合意している場合は、会社は合意された額を全額支給しなければならない。但し支給額の上限は連邦政府が別途通知する額を超えてはならない(現行200万ルピー)。

解雇制度と留意点

概要

インド労働法上の解雇規制は、原則、ワーカーについてのみ適用され、ノンワーカーはその対象とされない。これは、インドにおける解雇規制につき最も大きな特徴といえる。ノンワーカーについては、労使関係法上定められた解雇規制が存在しないため、解雇をする場合、店舗施設法や産業別の他の適用し得る法令に反しない限り会社とノンワーカーの間で合意した雇用契約や就業規則(当該ノンワーカーにも適用される場合)に基づき進めることになる。

労使関係法は、ワーカーの保護を強化しており、会社が解雇を行う際は、法定の手続きを履践するとともに、法定の補償金を支払う義務を課している。又、会社は最後に雇用されたワーカーから解雇の対象としなければならないため、解雇の対象者を自由に選ぶことは許されない。

労使関係法は、日本の労働法と同様、「解雇の際に行わなければならない手順」を定めているにとどまり、「どのような場合について解雇が認められるか」という実体的な基準を定めてはいない。企業はこの点については十分な注意が必要である。又、手続きさえ正しく遵守すれば如何なる時でも自由に解雇ができるというものではなく、判例上(労働裁判所 Labour Court)、解雇には相当な理由がなければならないとされている。よって、少なくともワーカーについて、整理解雇や、能力不足等の理由による容易な解雇は非常に困難であり、実務上はそれらの場合に当てはまる場合には、ワーカーに好条件等を提示した上で自主的な退職を促す方法が一般的に用いられている。これらの解雇規制に対応する手段として、企業は1)雇用の初期の段階から正式雇用とせず、3カ月から半年程度の試用期間(Probation Period)を設ける、又は、2)雇用を有期雇用にする等の対策を講じている。

整理解雇(Retrenchment)の要件と手続

労使関係法上、整理解雇とは、会社によるワーカーの雇用の終了(懲戒処分以外の理由に基づく場合)を意味するが、以下を含まない(同法2条zh)。

  1. ワーカーによる自主退職
  2. 労働契約に定年の定めがある場合における定年退職
  3. 雇用契約期間満了時の契約不更新、又は当該契約の規定に基づく契約終了による雇用の終了
  4. 有期雇用契約の任期満了による雇用の終了
  5. 継続的な健康不良を理由とする雇用の終了
  1. 通知

    会社は、1年以上継続的に労働をしたワーカーに対して、整理解雇の合理的理由を示した書面による1カ月前の解雇通知を行わなければならない(労使関係法70条a)。但し会社は、同期間に相当する賃金を支払うことにより、当該通知を省略することが認められている。なお、整理解雇の際には合理的な理由の存在も必要とされ、当該理由は、余剰の労働力を解消する等、妥当かつ合理的な理由である必要がある。よって、かかる理由が存しない限り整理解雇を当然のこととして行うことはできない。

  2. 解雇補償金の支払

    会社はワーカーに対して、解雇補償金として、継続勤務1年ごとに(6カ月を超える端数期間は1年として計算)、平均賃金の15日分、または政府が別途通知で定める日数分の平均賃金に相当する額を支払わなければならない(労使関係法70条b)。解雇補償金の支払は、整理解雇の前提条件とされている。

  3. 政府機関への通知

    会社は、所定の政府機関に対して、所定の通知を行う必要がある(労使関係法70条c)。

保護が強化された整理解雇

労使関係法上、一定の産業施設におけるワーカーについては、保護が強化されている。過去12カ月の各就業日における平均のワーカーの数が300人以上である工場、鉱山及びプランテーションにて勤務するワーカーの解雇規制は、上記の整理解雇のための手順に加えさらに保護を強めた規定となっている。具体的には、工場法に定義される「工場」、鉱山法(Mines Act, 1952)に定義される「鉱山」又はプランテーション労働法(Plantations Labour Act, 1951)に定義される「プランテーション」に該当する産業施設(industrial establishment)(併せて以下、「特別産業施設」という)で整理解雇を行うためには、ワーカーに対する通知及び解雇補償金の支払に加え、更に、政府の特別の許可がなければならない(労使関係法77条1項、3項、79条1項b)。これらの大型施設において解雇が容易になされてしまうことで大規模な失業者が発生し得る可能性を防ぐために当該制度が規定されていることは明確であり、当然、その可否を判断する政府も整理解雇の許可について基本的には消極的な姿勢を保持している。但し、整理解雇に政府の許可が必要とされる特別産業施設のワーカー数の要件について、旧産業紛争法においては100人以上であったが、労使関係法上は、需要に応じてワーカーの数を調整する必要がある業界団体の要請も加味し、300人以上と改正されていることに注意が必要である。


  1. 通知

    まず、特別産業施設において整理解雇を行う場合、会社は、ワーカーに対して、整理解雇の理由(前述のとおり、合理的な理由に基づく解雇であること)を示した通知を3カ月前に行うか、又はこの通知に代えて、その期間に相当する賃金を支払わなければならない(労使関係法79条1項)。一般的なワーカーに対する通知は1カ月前で十分とされている点と比較すると、保護が明らかに強化されていることが分かる。

  2. 解雇補償金の支払

    ワーカーは、政府機関からの承認があった場合、その整理解雇の時点において、上記のような整理解雇での、一般的なワーカーに対する解雇補償金と同様、6カ月を超えて継続的雇用関係にあった各年の平均賃金の15日分の支払いを受領する権利を保障される(労使関係法79条9項)。

  3. 政府機関の承認

    特別産業施設において、1年以上の継続的雇用関係にあるワーカーを整理解雇する場合、会社は、予め労使関係法所定の政府機関に対して整理解雇の理由を明確にし、許可を得なければならない(同法79条1項b号)。当該許可の申請にあたり、会社は整理解雇の理由を付した上で許可申請を行う(同法79条2項)。政府機関は会社、ワーカー及びその利害関係者との間で聴聞の機会を持ち、並びに整理解雇理由の真実性・相当性、ワーカーの利益その他の事情に基づく審査を遂行する(同法79条3項)。政府は、会社、ワーカー及び利害関係者から意見を聴く際、1)会社が主張する理由の真実性及び十分性、2)ワーカーの利益、及び3)その他すべての諸事情を勘案した上で、その承認の可否を判断する。又、会社による申請の後、60日が経過してもなお結論が示されない場合は、その60日の経過後より承認が与えられたものとみなされる(同法79条4項)。

懲戒解雇

懲戒解雇は、上記解雇規制の適用の対象とはならない。但し懲戒事由の明確化のために、予め就業規則等に、違反行為や秘密保持義務違反等具体的な事由が発生した場合は懲戒事由に当たる旨を規定しておく必要がある。

定年退職

インドの労働法条、定年退職制度につき定めた明文規定は存在しない。旧産業雇用規則所定のモデル就業規則では定年退職の年齢を58歳としているものの、当該規則は、個別に作成される労働契約又は就業規則においてこれと異なる年齢を定めることを妨げるものではない。

みなし解雇規制

「みなし解雇規制」とは、事業体の経営主体が従来の会社から新たな会社に移転する場合、その移転の直前に1年以上の継続的雇用関係を築いていたワーカーが、普通解雇された場合と同様に事前通知及び解雇補償金の支払いを受ける権利の保障制度である(労使関係法73条)。例えば、事業譲渡、合併、会社分割が行われた場合や、一定の資産(工場等)がワーカーと共に事業体の新しい経営者や管理者に承継された場合において、これらは会社の主体が変更されることになるため、ワーカー保護の観点からこの規制が設けられた。

当該規制には以下の例外事項がある。

  1. ワーカーの勤務(サービス)が事業の移転により中断されないこと。
  2. 事業の移転後にワーカーに適用される雇用条件が、移転の直前に適用されていた雇用条件と比較していかなる点においても不利ではないこと。
  3. ワーカーがその事業移転の条件その他により整理解雇される場合には、そのワーカーの雇用が移転により中断されずに継続している前提で算定した補償金を、そのワーカーに支払う法的義務を新たな会社が負うこと。

以上の3つの要件がいずれも満たされている場合、当該規制は適用から外れる。なぜならばこの場合、すでにワーカーの保護が十分に満たされているからである。

最後に雇用された者からの解雇(“last come first go”)ルール

労使関係法には、会社とワーカーの間で別段の合意が存しない限り、会社は、インド国籍のワーカーを整理解雇する場合において、原則、当該ワーカーの特定の職種や所属する部門において最後に雇用された者を解雇しなければならないとする規定がある(last come first goルール)(同法71条)。つまり、会社は任意に整理解雇の対象者を選択することはできない。但し、会社が当該原則に従うことができない特別の事情がある旨を立証できた場合には、例外的に当該原則の適用を免れる余地があるとされている。

当該原則に則った運用のため、旧産業紛争規則において、会社は、整理解雇の少なくとも7日前までに、整理解雇の対象者が属する部門の労働年数の順にワーカーを記載したリストを作成し施設内の目立つ場所に掲示することが義務づけられていた(1957年産業紛争(中央)規則77条)が、詳細は労使関係規則の制定を待つ必要がある。

なお、各職種や部門が完全に区別・分離されておらず、ワーカーが部門間で移動することがある場合には、各部門ごとではなくその事業に従事するすべてのワーカーを1単位として捉えるべきであると判例は示している。

再雇用時の優先原則

また、ワーカーが整理解雇され、かつ当該整理解雇から1年以内に会社が新規採用を行う場合、会社は当該整理解雇されたインド国籍のワーカーらに対し、再雇用の希望を申し出る機会を与えなければならない。また、再雇用の申し出を行った当該整理解雇されたワーカーらは、他の者よりも優先されるものとする旨を労使関係法は定めている(同法72条)。よって、再雇用の際、会社は、当該整理解雇されたワーカーに対して再雇用が行われる職務の詳細等を通知する義務が課せられる。また、再雇用の際、募集人数が整理解雇されたワーカーの数を下回る場合には、労働年数の長い順に、募集される人数の2倍の数のワーカーに対し通知を行えば足りるとされていたが、再雇用の詳細規則については、労使関係規則の制定を待つ必要がある。なお、当該整理解雇されたワーカーを再度雇用する場合、上記の整理解雇と同様に再雇用の対象となるワーカーは部門ごとに考え、部門の捉え方についても上記判例を基準とすれば十分とされる。

集団的労使関係

労働組合

インドの労働組合は、労使関係法に登録基準及び権利等が規定されている。
登録基準については、当該事業所のワーカーの10%以上又は100人のいずれか少ない方の人数(ただし最低7名の組合員が必要)が組合員として署名し、申請を行う必要がある(労使関係法第6条1項、2項)。この基準を下回る場合は登録が認められず、また登録後もこの要件を維持できなくなった場合には登録が取り消される対象となる。労働組合には、14歳以上の者が加入できる(同法20条)。

正式に登録された労働組合は、法人格が付与され、資産の保有や契約締結が可能とりなり、訴訟当事者となることができる(同法12条)。また、正当な組合活動(労働争議の推進や、他者の契約違反の誘発など)の結果生じた損害や共謀について、刑事免責及び民事免責が認められる(労使関係法16条、17条)。

インドにおいて労働組合の存在は珍しいものではなく、交渉手段としてストライキ等の活動も活発になされており、時には労働問題に重大な影響を与える場合もみられる。

ストライキ及びロックアウト

ストライキやロックアウトを行うには、①実施日前の60日以内に、会社又はワーカーに対し通知する必要があり、②最低14日の予告期間が必要である(労使関係法62条1項a、b)。

具体的には、ストライキを予定する場合、その予定日の2週間前までに、会社等に対して通知する必要がある。また、労使交渉の長期化等によりストライキ実施日を変更することは可能ではあるが、その場合でも、上記の規定により、最初の通知日の14日後から60日以内にストライキを実施することとなる(すなわち、通知自体の有効期限は60日間、ストライキを実施できる期間は46日間となる)。例えば、ストライキの予定日を3月15日とすると、予告は遅くとも3月1日までに会社に通知する必要があり、実際のストライキ実施が予定日の3月15日より後になる場合でも、通知が有効である4月30日までが実施可能期間となる。それ以降のストライキ実施には、新たな通知が別途必要となる。

ストライキの予告通知を受けた会社は、5日以内に、適切な政府当局及び調停官(Conciliation Officer)に対し報告しなければならない(同法62条6項)。ストライキは、調停手続(Conciliation Proceeding)や審判(Tribunal)の期間中及び終了後7日間、又、仲裁人による仲裁手続の係属中及びその手続の終結後60日は実施できない(労使関係法62条1項)。
また、会社によるロックアウトの実施の場合も、ストライキと同様の通知が必要となる(同条2項)。

旧産業紛争法では、ストライキ等の制限は公共部門にのみ課せられていたが(旧産業紛争法23条、22条1項)、労使関係法では、民間部門に対しても制限が課せられている(労使関係法62条1項a~g)。通知義務により、会社にとっては対応のための猶予期間ができたが、労働組合及びワーカーにとってはストライキの実施が困難になったと言える。

労使紛争の解決手続

概要

労働紛争(Industrial Dispute)は、会社間、会社とワーカー間、又はワーカー間のあらゆる紛争又は対立と定義されている(労使関係法2条q)。労使関係法上、会社とノンワーカーの紛争は、労働紛争には該当しない。

労働問題の解決手続きは、大きく分けて、(1)仲裁手続、(2)準司法機関(産業審判所又は国家産業審判所等)による手続、(3)司法裁判所(労働裁判所)による手続の3つがある。

仲裁手続(arbitration)

労働紛争は、当事者の合意に基づき、仲裁手続により解決することができる(労使関係法42条1項)。産業審判所等に持ち込まれた労働紛争は、ワーカーに有利な判断になりやすいと一般的に理解されていることから、会社にとっては、仲裁手続を利用して紛争を早期に解決することを期待できるメリットがある。

産業審判所等

労働紛争の当事者の一方又は双方が申請することで、紛争解決機関(調停委員会、産業審判所、国家産業審判所、労働裁判所等)を利用して紛争を解決することができる。
紛争解決機関として、ワーカー側は実務上、準司法機関である産業審判所(Industrial Tribunal)(労使関係法44条)に紛争解決を直接求めるケースが一般的であるが、紛争が複数の州にまたがる場合等は、州の産業審判所ではなく、連邦政府の国家産業審判所(National Industrial Tribunal) (同法46条)が利用される。

労働紛争が紛争解決機関に係属している間は、ストライキやロックアウトが禁止され、すでに発生しているストライキやロックアウトも政府命令により中止することも可能であるという点において、会社・ワーカーともに産業審判所等を利用するメリットが大きい。

但し、産業審判所の判断が出されるまでには、2年から3年程度かかるケースが多く、又、産業審判所では、ワーカーの立場に近い判断が出されやすい傾向があるとされる点は留意しておく必要がある。

なお、ワーカー個人の契約終了に伴う紛争に関しては、調停(Conciliation of the dispute)を経て、45日経過しない限り、Industrial Tribunal(労働審判)に申し立てることはできない(同法4条10項)。
産業審判所の判断に不服がある場合、不服のある者は高等裁判所に上訴することができる。

労働裁判所

旧産業紛争法の下では、労働紛争の当事者又は双方からの申請に基づき、政府は当該労働紛争をどの機関に付託するかを決定する。労働裁判所は産業審判所と並び紛争解決機関の一つであり、政府からの付託を受けて当該労働紛争に対する判断を行う。

また、旧産業紛争法では、労働裁判所の専属的審理事項として、就業規則の適用及び解釈に関する争い、不当に解雇されたワーカーの復職又は救済、ストライキ又はロックアウトの違法性、その他産業審判所の管轄外の事項を定めていた(同法7条、別表2)。これらの付託の規定や労働裁判所の専属的審理事項の規定は、労使関係法では定められておらず、異なる運用がなされるかどうか今後の制定される施行規則等を留意する必要がある。

外国人ビザ(Pass)の種類及び取得要件

インドに入国を予定する日本国籍渡航者は、観光、商用などその渡航目的の如何を問わず、インド入国前までに適切なビザを取得しなければならない。

ビジネス渡航に関し関連性が高いビザとして、主に商用ビザと就労ビザが挙げられる。

  • 商用ビザ(Business)
    拠点設立準備又は設立可能性の検討、インド企業との商談や取引先の開拓など、外国人がインドでビジネスを行う際に発給されるビザである。日本国籍の場合、原則として、最長10年有効の数次ビザが発行される(1回の滞在は180日以内)。
  • 就労ビザ(Employment)
    インドで就労する目的で入国する外国人に対して与えられるビザである。原則として、申請者は、インドで事業を行う企業、組織と契約又は雇用関係にある高度な技術・資格を有する外国人専門家であり、かつ年間2万5000米ドル以上の収入が保証されている者でなければならない。国籍や職種等により最大5年間有効の数次ビザが発行される。外国籍を有することで就業が制限される職業は存在しない。180日以上有効な就労ビザの場合、外国人登録事務所(Foreigners' Regional Registration Office:FRRO)に登録する必要がある。
商用ビザ 就労ビザ
有効期間 最長10年(数次入国) 最長5年(又は雇用期間)
1回の滞在制限 180日以内 制限なし(ビザの有効期限内)
外国人登録(FRRO) 原則不要(年間の合計滞在が180日超なら必要) 必須(入国後14日以内)
最低年収要件 なし 年間2万5000米ドル以上
主な必要書類
  1. *パスポート
  2. *オンライン申請書
  3. *インド側企業の招聘状
  4. *日本側企業の推薦状
  1. *パスポート
  2. *オンライン申請書
  3. *就労先インド企業の招聘状
  4. *日本側企業の推薦状
  5. *インド雇用主との雇用契約書(ルピー建て給与明記)
  6. *申請者の英文履歴書、学歴・職歴証明
  7. *インド企業の法人証明(COI等)
  8. *宣誓書(インド人ではなく日本人を雇用することの正当化理由書)
  9. *インドでの居住証明(賃貸契約書等)

州民優先雇用に関する法律

インドでは近年、一定の割合で州の住民を採用することを民間企業等に義務付ける州法が、各地で成立している。このような状況の中、新たに制定された州法に対し各産業界から反対する声が挙げられ、違憲性や有効性を争う複数の訴訟が係属しており、その動向が注目されていた。

そのうち、ハリヤナ州では2022年1月、月給3万ルピー以下の従業員の75%を州民から雇用することを州内の民間企業等に義務付けるハリヤナ州民雇用法(The Haryana State Employment of Local Candidates Act, 20207 )が施行された。これに異議を唱えた業界団体がパンジャブ・ハリヤナ州高等裁判所に提訴し、同年2月に同法の暫定停止が命じられた。その後、最高裁判所は高等裁判所の決定は理由不十分であるとして同法の暫定停止を取り消し、高等裁判所の審理が続いていた。2023年11月、パンジャブ・ハリヤナ州高等裁判所において、憲法第19条各号(移動、居住、職業選択等の自由)等に反するとして、同法を施行日に遡って無効とする判決が出された。
これにより現時点では同法は無効であるものの、その後州政府は最高裁判所に上訴し、審理が係属中である。同州法に関する最高裁判決は今後のインド各州における雇用政策及び雇用関連法に影響を与える可能性があり、今後の動向に注意が必要である。

マハーラーシュトラ州では、2018年に、州内の教育機関及び地方公務員における雇用枠の16%(後にそれぞれ12%、13%に改正)を、同州の特定の民族(Maratha。同州の人口の約3割を占めるといわれる)を含む社会的・教育的に下位にあたる階層(以下、「SEBC」)8 のために割り当てるものとする法律(SEBC法)9 が制定された。しかし、同法に基づいた場合、Marathaの雇用割合が最高裁判例で定められた上限50%10 を超えることから、2021年5月、最高裁判所は同州法を支持したボンベイ高等裁判所の判決を覆し、同法を違憲と判断した。
これを受け、州政府は2024年2月に、SEBC法に置き換わる新たな法律(2024年SEBC法)11を制定し、Marathaに対し教育・公務員枠で10%の予約枠を再び設けた。本法についても、既存の優先雇用枠との合算が50%の上限を超えるとしてボンベイ高等裁判所で争われているため、同訴訟の最終結果に左右され、さらに最高裁判所への上告が行われる可能性もある。なお、2019年に、州の産業政策12において、大規模プロジェクト等を計画する民間企業等が州による優遇措置を受ける条件のひとつとして、雇用する従業員の80%を州民とする雇用基準を定めている。
現時点ではマハーラーシュトラ州において州民の雇用割合を民間企業に一律に義務付ける法律はないものの、企業が特定の優遇措置を受けるには従業員における州民の割合を厳密に管理する必要性が生じる。

また、民間企業等に対し一定割合の州民の雇用を定めた州法(The Andhra Pradesh Employment of Local Candidates in the Industries / Factories Act, 2019)13を最初に導入したアンドラ・プラデシュ州でも、同法の合憲性をめぐり高等裁判所で係争中である。マディヤ・プラデシュ州やカルナータカ州についても州民優先雇用の法律は発表されたが、いまだ施行されていない。

いずれも今後法律が施行されることがあれば日本企業による採用活動にも影響が出ることが想定され、今後の動向に注目する必要がある。

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  1. 公開日:2017/09/17 更新日:2026/06/29