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タイ労働法制

タイにおいて解雇を行う場合、当局の許可、労働組合の同意は必要とされていないものの、「正当な解雇理由」が必要である。もっとも、法令には「労働裁判所が解雇の理由を不当と判断した場合、労働者を解雇時の賃金で元の職場へ復帰させることを使用者に命じることができる」旨定められているのみであり、個別の判例の集積をもって判断を行わなければならない。総じて、労働者の解雇が容易に認められない点は、日本と必ずしも大きな差異はないといえる。他方、日本と異なり、解雇および定年退職の際には、法定の「解雇補償金」を支払う必要があるので注意が必要である。

外国人のビザを取得する際には、同じ会社内にタイ人の雇用を確保することが必要であり、外国人の就労に寛容な法域であるとはいえない。

なお、恒常的に労働力が不足しているため、労働者のジョブ・ホッピングを防ぐために魅力的な職場環境を維持形成することが日系企業の大きな課題となっている。

※コモン・ロー/シビル・ローの概略
「コモン・ロー」とは、イギリスのほかかつて大英帝国領であった諸国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で中心に採用されている、伝統・慣習・先例に基づいて判断してきた判例を重視する法体系を指す。
他方、「シビル・ロー」とは、フランス・ドイツなどの大陸側で発達した概念であり、コモン・ローに比べて制定法を重視する法体系である。なお、日本は、シビル・ローの法体系に属する。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

大陸法(シビル・ロー)

タイは大陸法(シビル・ロー)体系に属すると考えられている。もっとも、特徴的な点としては、アジアの中では珍しく、欧米諸国による植民地支配を受けていないため、旧宗主国家の影響を強く受けていないことが挙げられる。また、タイの法体系は、憲法を頂点とし、その下に各種個別法が位置づけられており、労働関連法規もその一つとなる。但し、個別法規の下に更に、勅令、省令、条例が位置しており、労働法規の解釈運用の際に、これらの参照が必要となることが少なからずある点に注意を要する。

売り手市場と解雇問題

タイの失業率は、1パーセント前後と非常に低い。売り手市場であることからマネージャー層や優秀な人材については、日系企業や欧米企業で取り合いになっている様子がうかがえる。

また、タイ人の転職率は高い。特に新卒若手のタイ人労働者は、2年~3年程度でジョブ・ホッピングをするといわれている。転職率の高さには、継続勤務による昇給よりも、転職による昇給の方が上昇率が高いと理解されている点も起因しているようである。そのため、タイでは、日本流の終身雇用を前提とした人事管理制度ではなく、ある程度人材が流動することを前提とした制度設計が推奨されている。

このように自主退社は多い一方で、解雇に関するハードルは低くない。タイで日系企業が直面する労働問題で最も多いケースが解雇問題であるといっても過言ではないかもしれない。解雇に際しては、法律に従った手続きを経るのみならず、解雇のための正当な理由が必要となる。裁判所にて不当解雇と判断された場合、裁判所は、解雇時点と同額の賃金にて再雇用する旨の命令、又は、継続雇用が困難と認める場合には損害賠償を命令することができるとされているため注意を要する(労働裁判所設置及び労働訴訟法第49条)。しかし、残念ながら、解雇の正当理由について十分に検討がなされないまま解雇を実行し、結果として労働裁判に巻き込まれる日系企業が後を絶たない。

最低賃金の上昇

タイの最低賃金は、2023年12月28日に発布された賃金委員会の告示により下表のとおり改定され、2024年1月1日より施行開始となった。

最低賃金(1日あたり)
都・県
370バーツ
プーケット
363バーツ
バンコク、ナコンパトム、ノンタブリ、パトゥムタニ、サムットプラカン、サムットサコーン 
361バーツ
チョンブリ、ラヨーン
352バーツ
ナコンラチャシマ
351バーツ
サムットソンクラーム
350バーツ
コンケン、チャチュンサオ、チェンマイ、プラチンブリ、アユタヤ、サラブリー
349バーツ
ロッブリー
348バーツ
ナコンナーヨック、スパンブリー、ノンカイ
347バーツ
クラビ、トラート
345バーツ
カンチャナブリ、チャンタブリ、チェンライ、ターク、ナコンパノム、ブリラム、プラチュアップキリカン、パンガー、ピサヌローク、ムクダハン、サコンナコン、ソンクラー、サケーオ、スラタニ、ウボンラチャタニ
344バーツ
チュムポーン、ペッチャブリー、スリン
343バーツ
ナコンサワン、ヤソトーン、ランプン
342バーツ
ガラシン、ナコンシータマラート、ブアンカン、ペチャブン、ロイエット
341バーツ
チャイナート、チャイヤプーム、パッタルン、シンブリ、アントン
340バーツ
ガンペーンペット、ピチット、マハサラカム、メーホンソン、ラノーン、ラチャブリー、ランパン、ルーイ、シーサケット、サトゥン、スコータイ、ノンブアランプー、アムナートジャルーン、ウドンタニ、ウッタラディット、ウタイタニー
338バーツ
トラン、ナーン、パヤオ、プレー
330バーツ
ナラティワート、パッタニ、ヤラー

タイにおいては、厚生労働省事務次官が議長を務める賃金委員会が最低賃金割合の決定に関する権限と責務を有しており、同委員会は消費者物価やGDP等の10項目について勘案した上で最低賃金を決定する(労働者保護法(Labor Protection Act B.E. 2541)第79条1項3号、第87条及び第88条)。

クラス・アクション制度の導入

2015年12月、民事訴訟法の改正により、労働法に基づく権利の保護のため、クラス・アクションを提起することが可能となった。一定の例外を除き、タイのすべての裁判所がクラス・アクションについて審理する司法権を有することが規定されており、例えばクラス・アクション請求が労働者の権利の侵害に関するものである場合、労働裁判所が管轄を有する裁判所となる。

タイにおいては、「クラス」の定義を、当該クラスの各メンバーが同一の「共通事実」に関して同一の権利を有している場合に、被告に対して互いに類似の特性を有する一人又は二人以上の者を含むものと比較的幅広く定義している。そして、クラス・メンバーは、一定の通知手続により、クラス・アクションの開始について通知を受け手続きを進めることができるものとされている。クラス・メンバーの時効期間は、クラス・アクションが提起された時点でクラス・メンバー全員について時効停止がなされることになる。

タイにおいては、米国のクラス・アクションとは異なり、損害の性質が異なることを理由とする場合にのみクラスのグループ分けを認めており、クラス内で事実上の論点又は法的論点に関する違いがある場合についてはグループ分けを認めていない。

同じクラス・メンバーは、判決の金銭債務に関してのみ上訴する権利を有し、法律又は事実の誤りを理由に控訴裁判所又は最高裁判所に上訴する権利は有しないこととされている。

基本的な労働法制の概要

法体系

前述のように、タイの法体系は日本と同じ大陸法系に分類されるが、アジアの諸国の中では珍しく、植民地化された歴史がないため、独自の文化による要素も見受けられると指摘される。

民商法典(Civil and Commercial Code B.E. 2535(1992))

民事、商事関係の基本法であるタイ民商法典内には第575条~第586条にかけて雇用契約に関する規定が定められている。ここでは、雇用契約の成立条件(第575条)、雇用契約の譲渡(第577条)、雇用契約の解除(第577条~第579条)、労働対価としての給与の支払時期(第580条)などが規定されている。しかし、これらの事項については、後述する労働者保護法の適用を受け、同法の解釈として処理されることが多く、民商法典上の各条項が問題となるケースは多くない。

労働者保護法(Labor Protection Act B.E. 2541(1998))

労働者保護に関する基本法としては、労働者保護法が制定されている。同法には、労働日、労働時間、休日、時間外労働、休日労働、休日時間外労働、年次有給休暇、休暇、懲戒処分、賃金等、雇用契約に関する重要なルールが定められている。

  1. 労働日・労働時間・休日

    労働日

    労働日とは、「労働者が通常働くように定められた日」をいい(労働者保護法(以下「LPA」)第5条7号)、休日及び休暇以外の日をいう。

    労働時間

    労働時間とは、労働の開始及び終了時間を定めたものをいい、原則として、1日の労働時間は8時間以下、1週間の合計労働時間は48時間以下でなければならない(LPA第23条1項)。

    例外として、省令で定められた労働者の健康及び安全に危険を及ぼす可能性のある業務(危険業務)については、1日の労働時間は7時間以下、1週間の合計労働時間は42時間以下でなければならない。危険業務には、水中、地下、洞窟、トンネル、又は気密された場所、放射線に関する業務、金属溶接業務、危険物の運送業務、危険な高温・低温な環境での業務等が指定されている。

    休憩時間

    休憩時間は、1労働日につき、1時間以上、かつ、労働時間が連続して5時間を超過する前に設定しなければならない(LPA第27条1項)。合計で1時間以上となれば、雇用主と労働者の事前合意により分割して休憩時間を設定することも可能だが、当該休憩の趣旨に比して短期に過ぎる休憩時間を設定した場合には無効となる可能性もあるため、注意を要する。

    休日

    休日とは、週休日、祝祭日、年次有給休暇のことをいう(LPA第5条8号)。

    1. ① 週休日
      週休日は、週1日以上設定しなければならない(LPA第28条1項)。もっとも、土日の週休二日制を採用する企業が増えており、採用面接の際などに労働者側から土曜休みであることを希望条件として提示されることが多い状況にある。

    2. ② 祝祭日
      雇用主は、5月1日のメーデーを含めた年間13日以上の祝祭日を設定し、事前に労働者に対し通知しなければならない(LPA第29条1項)。実務上は、雇用主が前年の12月頃に首相府が告示上で定める公休日から選択し、翌年の祝祭日を設定する必要がある。祝祭日が週休日と重なった場合は、翌労働日を振替休日として労働者に与えなければならないことに留意が必要である。労働者へ祝祭日を通知する際は、祝祭日を示した社内カレンダーを配布する等の形で労働者に対し通知をしていることが多い。

    【参考】2024年におけるタイの祝祭日(出典:タイ国政府観光庁提供)
    https://www.thailandtravel.or.jp/wp-content/uploads/2023/12/2024_thai_Schedule_02.pdf
  2. 時間外労働・休日労働・休日時間外労働

    時間外労働

    労働日の労働時間(原則1日8時間以下、1週間48時間以下)を超える場合の勤務を時間外労働という。

    雇用主は、労働者の事前の同意なくして労働者を時間外労働に従事させることは原則できない(LPA第24条1項)。例外として、連続した作業を必要とする特徴又は形態の業務で、作業を停止すると業務に損害が生じる場合、もしくは、緊急の業務の場合、又は、その他省令に規定された業務の場合については、雇用主は必要に応じ労働者を時間外労働に従事させることができる(LPA第24条2項)。

    また、労働時間後に2時間以上の時間外労働を行わせる場合、雇用主は労働者に対し、時間外労働の開始前に20分以上の休憩時間を与えなければならない(LPA第27条4項)。もっとも、労働者が連続作業を必要とする特徴又は形態の業務に従事しており、時間外労働に同意している場合、もしくは、緊急の業務である場合には、このような休憩時間を与えなくとも良い(LPA第27条5項)。

    休日労働

    週休日、祝祭日、年次有給休暇といった休日に勤務することを休日労働という。雇用主は、原則として労働者を休日に労働させることはできない(LPA第25条1項)が、業務の種類や性質上、継続的に実行する必要があり、業務を停止すると支障が生じる場合もしくは緊急の場合、またはホテル、娯楽施設、飲食店、病院等の一定の業種については例外的に休日に勤務させることが認められている(LPA第25条2項)。もっとも、製造、販売、サービス提供を目的とする場合は、使用者は労働者の事前の同意を得た上で、必要に応じて休日に労働させることができる(LPA第25条3項)。

    割増手当

    時間外労働、休日労働、及び、休日時間外労働に対して支払われる割増手当は以下の表の通り(LPA第61条、第62条、第63条)。

    種類
    割増手当(通常賃金比)
    時間外労働手当
    1.5倍 以上
    休日労働(有給時)手当
    1.0倍 以上
    休日労働(無給時)手当
    2.0倍 以上
    休日時間外労働手当
    3.0倍 以上

    休日労働手当は、当該休日が有給であるか無給であるかによって支払うべき金額が変動する(LPA第62条)。一般的に、労働者は週休日、祝祭日、及び年次有給休暇に労働した場合は賃金を受け取る権利を有し(LPA第56条)これを有給と呼ぶ。一方で、日給、時給、出来高払制の労働者は週休日に賃金を受け取る権利を有しておらず(LPA第56条(1))、これを無給と呼ぶ。したがって、週休日に労働した日給、時給、出来高払制の労働者に対し2.0倍以上の賃金を支払う場合を除き、雇用者は休日に労働した労働者に対し1.0倍以上の賃金を支払う必要がある。

    時間外手当等の支給が不要な労働者

    雇用、賞与の付与、又は解雇を行う権限を有する労働者に対しては、時間外労働手当及び休日時間外労働手当を支払う必要はない(LPA第65条1号)。これに該当するか否かは、役職名等の形式面からではなく、具体的な事実に基づき判断される。そのため、例えば、“Managing Director”、“President”という肩書であっても、上記の権限を有していない場合には、時間外労働手当や休日時間外労働手当を支払う必要があるとされる場合があるので注意を要する。

    一時休業における休業補償

    雇用主は、不可抗力ではない事由により一時的に事業の全部又は一部の事業を休止することができる(LPA第75条1項)。休業期間の限度については法律上明記されておらず、その休業期間については休業の理由に応じて事案ごとに考慮される。

    雇用主は、一時休業をする場合、3営業日以上前に労働者及び所管監督官に書面で通知する必要がある(LPA同条2項)。一時休業の間、労働者は、就業日の通常賃金の75%以上の賃金の支払いを受けることができる(LPA同条1項)。なお、雇用主は、通常賃金と同様の支払期日及び支払場所、方法に関する規定に従って支払う必要がある(LPA第75条1項、第55条、第70条1号)。なお、不可抗力であると認定された場合は、上記75%以上の賃金補償は不要となる。

  3. 年次有給休暇

    満1年勤続した労働者は1年間に6労働日以上の年次有給休暇を取得する権利を有する(LPA第30条1項)。勤続1年以上の労働者に対しては一律年6日以上の有給休暇が付与され、勤続年数により変動するものではない。もっとも、雇用主は、勤続2年目以降は、その裁量で6労働日以上に年次有給休暇を増やすことができる(LPA第30条2項)。さらに、雇用主が、勤続1年未満の労働者に対して、勤続期間に比例して年次有給休暇を任意に与えることは裁量により可能である(LPA第30条4項)。年次有給休暇の取得日については、雇用主が指定するか、又は、雇用主と労働者の合意に基づき規定するとされる(LPA第30条1項)。年内に消化されなかった年次有給休暇は、雇用主と労働者の事前合意によって次年度に繰り越すことが可能である。(LPA第30条3項)。

  4. 休暇

    法定休暇

    タイの労働者保護法には、次の休暇が定められている。

    1. ① 病気休暇(LPA第32条)
    2. ② 避妊手術休暇(LPA第33条)
    3. ③ 不可避な用事のための休暇(LPA第34条)
    4. ④ 兵役休暇(LPA第35条)
    5. ⑤ 研修・技能開発休暇(LPA第36条)
    6. ⑥ 出産休暇(LPA第41条)
    ① 病気休暇

    労働者は病気を理由に休暇を取得することができる(LPA第32条)。

    ・ 診断書
    3日以上連続して病気休暇を取得する場合、雇用主は、労働者に対し、第一級医師免許を有する医師又は公立医療機関による診断書を提出するよう求めることができる。

    ・ 有給期間
    病気休暇は、年間30日までは有給で取得する権利が労働者にある(LPA第57条1項)。

    ② 避妊手術休暇

    避妊手術休暇はタイ特有の制度である。労働者は避妊手術を受けるために第一級医師免許を有する医師の診断書にもとづき休暇を取得することができるとされている(LPA第33条)。

    避妊手術のための休暇は、医師により必要と診断された期間取得することが可能となる(LPA第33条)。又、同期間は有給としなければならない(LPA第57条2項)。

    ③ 不可避な用事の為の休暇

    労働者は就業規則に基づき不可避な用事の為に休暇を取得する権利を有し(LPA第34条)、その休暇中、年間3日を超えない範囲までは賃金の支払いを受けることができる(LPA第57条/1)。

    ④ 兵役休暇

    労働者は兵役に関する法律に基づく兵役検査、訓練を受けるために休暇を取得することができる(LPA第35条)。現在の法律では、労働者は、兵役休暇のうち、年間60日までは賃金の支払いを受けることができる(LPA第58条)。

    ⑤ 研修・技能開発休暇

    労働者は、省令で定められた規則等に従い、研修又は技能、能力開発、知識向上のための休暇を取得することができる(LPA第36条)。この場合、18歳未満の労働者に限り、年間30日までは有給扱いとなる(LPA第52条)。18歳以上の労働者については、労働者保護法上は特に有給としなければならないとの定めはないため無給とすることが可能である。

    ⑥ 出産休暇

    妊娠中の女性労働者は1回の妊娠につき、妊娠中の検診のための休暇及び出産前の休暇を含め98日以下の出産休暇をとる権利を有する(LPA41条1項、2項)。この出産休暇にはその期間の休日(週休日や祝祭日)も含まれるため、休日を含めて98日以下が取得可能期間となる(LPA第41条3項)。労働者は出産休暇のうち、45日までは賃金の支払いを受けることができる(LPA第59条)。

  5. 懲戒処分

    懲戒処分の種類

    懲戒処分には、大きく次の6種類がある。

    1. ① 口頭による警告
    2. ② 書面による警告
    3. ③ 停職
    4. ④ 普通解雇
    5. ⑤ 懲戒解雇
    6. ⑥ その他の懲戒処分

    なお、懲戒処分は実行できるように、あらかじめ就業規則に定めておくことを要する。

    ① 口頭による警告

    口頭による警告は懲戒処分の中で最も軽いものとなる。労働者に行動の反省と改善を促すことが主たる目的となる場合に利用されることが多い。ただし、口頭による警告を行った証拠として、書面で残しておくことが必要となる。

    ② 書面による警告

    書面による警告は、口頭による警告とは異なり、将来の解雇処分を見据えて行われる重要な懲戒処分となる。労働者が法律、規則、命令に違反した際に書面にて警告をしておけば、この違反から1年以内に同一理由の違反が行われた場合に、事前通知や解雇補償金の支払いなしに、解雇が可能となるとされる(LPA第17条4項、第119条1項4号)。但し、実際に正当な解雇として認められるかについては、個別のケースごとに具体的に検討することが必要となる。

    ③ 停職

    停職処分は、労働者保護法の定めにある違反事項調査のための有給(一部有給)の停職処分(LPA第116条)と純粋に制裁的な意味合いを有する無給の停職処分との2種類がある。

    • 違反事実調査のための停職
      違反事実の調査のための停職は、就業規則や労働協約に定めがあれば可能だが、最大7日間に限定されている(LPA第116条1項)。停職期間中、雇用主は停職前賃金の50パーセントを支払わなくてはならない(LPA第116条2項)。
      もっとも、調査後、違反の事実がないことが判明した場合には、停職期間中の労働日賃金と同額を支払わなければならない(LPA第117条)。なお、この場合、LPA第116条2項にもとづき支払われた停職期間中の賃金は、当該労働日賃金の一部とし、同時に年利15パーセントの遅延損害金を支払わなければならない。
    • 制裁としての停職
      制裁としての停職処分中は無給とすることが可能と解されており、又、期間についても明確な定めはなく、通常1週間から2週間程度と理解されている。
④ 普通解雇

解雇処分については、後述するが、事前通知、解雇補償金の支払い、正当理由の具備等の手続き、要件についての事前の確認が肝要である。

⑤ 懲戒解雇

以下の(a)~(f)に該当する懲戒解雇事由を有する場合、懲戒解雇が実施可能となる(労働者保護法第119条1項)。実務上よく問題になるのは(d)の事由に該当する場合で、労働者による雇用契約違反や就業規則違反について書面での警告後、1年以内に同一の違反を繰り返した場合に、懲戒解雇することができる。ただし、解雇の正当性は別途問われるため、注意が必要である。

  1. 職務上の不正を行い、または使用者に対し、故意に刑事事件を犯した場合
  2. 使用者に対し、故意に損害を与えた場合
  3. 使用者に対し、過失により重大な損害を与えた場合
  4. 就業規則、規律または使用者の適法かつ正当な命令に違反し、使用者が書面により警告を行ったにもかかわらず、違反行為を行った日から1年間以内に同じ違反行為をした場合。ただし、重大な違反の場合には使用者の警告を要しない。
  5. 合理的な理由なく、間に休日があるかないかにかかわらず3日間連続した勤務日に職務を放棄した場合
  6. 最終判決により懲役刑を受けた場合

労働裁判では、解雇補償金の支払いを回避するために解雇通知書に記載していない解雇理由を後に追加することが認められない(労働者保護法第119条3項)。そのため、解雇通知書は必ず発行し、明確に、かつ解雇理由を具体的かつ網羅的に記載しておくことが必要である。

⑥ その他の懲戒処分

上記以外の懲戒処分として、減給処分や降格処分が想定されるが、原則としてこれらの処分を実施することは困難と理解されている。雇用主が減給処分や降格処分を実施する場合には、事前に、専門家に相談することを推奨する。

<タイの労働裁判について>
タイにおいて、労働者は口頭で(同法35条)、休日に(同法28条)無料で(同法27条)訴訟提起が可能となっている。労働裁判所は、労働者の労働条件、生活費、労働者の困苦、賃金水準、同種の事業で働く労働者の権利と利益、使用者の事業の状況や経済社会状況を考慮し、審理を行い(同法48条)、労働者を解雇時と同等の賃金で復職させるか、または損害賠償金の支払い(労働者と雇用者が協力して業務を遂行できないと判断された場合)かのどちらかが命じられる(同法49条)が、一般的には損害賠償金の支払いを命じられていることが多い。

  • 雇用主の変更

    事業継続中、会社の合併や買収が発生する可能性がある。 このような合併や買収により雇用主が変更になる場合、労働者は新しい雇用主のもとで就労することを選択しない権利を有する。そして、労働者が新しい会社での就労を拒否した場合、旧会社はその労働者に対し解雇補償⾦を支払わなければならない(LPA第118条1項)。

    また、労働者が新会社で働くことを選択した場合、新会社は、旧会社の労働者に対する権利及び義務をすべて引き受けることを保証しなければならない(LPA第13条)。

  • 労働関係法(Labor Relation Act B.E. 2518(1975))

    労働関係法は、団体交渉、ストライキに関する手続き等が定められている。

    労働裁判所設置及び労働訴訟法(Act Establishing Labor Courts and Labor Procedure B.E. 2522(1979))

    労働裁判所設置及び労働訴訟法は、労働訴訟に関し専属管轄を有する労働裁判所における訴訟手続等に関する定めを置いている。

    社会保障法(Social Security Act B.E. 2533(1990))

    社会保障法は、疾病給付金、出産給付金、障害給付金、死亡給付金、児童扶養手当、老齢年金、失業保険等につき定めている。

    2022年2月28日まで社会保険事務所よりコロナ禍の手当として各種手当が支給されていたが、現在は廃止されている。なお、社会保険事務所が手当算出時のベースとする月額賃金は最大15,000バーツとなっている。

    解雇の場合
    通常時の手当
    手当額
    賃金の50%(最大180日間)
    解雇理由
    どのような理由でも可
    自己都合退職の場合
    通常時の手当
    手当額
    賃金の30%(最大90日間)
    解雇理由
    どのような理由でも可
    一時休業の場合
    通常時の手当
    手当額
    賃金の50%(最大180日間)

    外国人就労管理に関する緊急勅令(Foreign Nationals Working Management Emergency Decree B.E. 2560/2561(2017/2018))

    外国人就労管理に関する緊急勅令は、タイ国籍を有しない外国人がタイで就労する場合に労働許可が必要となること等について定めている。同勅令では、労働許可を得ていない外国人を雇うことだけでなく、外国人に許可された範囲外の業務を行わせることが禁止され、罰則の対象となった。

    外国人就労法(Alien Working Act B.E. 2551(2008))は、2017年外国人就労管理に関する緊急勅令の制定により廃止された。

    就業規則の作成義務及びその内容

    法令上の作成義務

    10名以上の労働者を雇用する雇用主は、タイ語の就業規則を作成しなければならない(LPA第108条1項)。

    作成期限

    雇用主は、労働者が10名以上になった日から15日以内に就業規則を公表しなければならない(LPA第108条2項)。

    保管・周知義務

    雇用主は、就業規則の写しを職場に常時保管しなければならない(LPA第108条2項)。

    又、雇用主は、就業規則を公表し、労働者が容易に閲覧できるように職場内の公の場に掲示する必要がある。さらに電子的方法による配布を行っても良いとされる(LPA第108条3項)。なお、新しく就業規則を作成した場合、又は、改定した場合、それから15日以内に労働者に公表、配布する必要がある(LPA第110条)。

    届出義務の撤廃

    従前、雇用主は、就業規則の施行日から7日以内に当該就業規則の写しを労働保護福祉局長又はその指定する者に届け出なければならず、その際、労働保護福祉局長又はその指定する者が必要に応じてその修正を命じる権限を有すると規定されていた。

    しかし、2017年4月4日付で公布、施行されたタイ国家平和秩序維持評議会(NCPO)布告NO.21/2560及び労働者保護法第6号B.E.2560(2017)により、届出義務が撤廃された。

    労働者が10名未満に減少した場合

    就業規則の公表後に労働者が10名未満となった場合でも、雇用主は継続して就業規則の作成、保管、周知義務を負う(LPA第111条)。

    義務違反と罰則

    就業規則の作成、保管、周知義務を怠った雇用主には2万バーツ以下の罰金が科せられる(LPA第146条)。

    必要記載事項

    就業規則の必要記載事項は次の通りである(LPA第108条1項各号)。実際の就業規則の項目も以下に従った形で設定されることが多い。

    1. 労働日、労働時間及び休憩時間
    2. 休日及び休日取得に関する規則
    3. 時間外労働及び休日労働に関する規則
    4. 賃金、時間外労働手当、休日労働手当及び休日時間外労働手当の支給日及び支給場所
    5. 休暇日及び休暇取得に関する規則
    6. 規律及び懲戒処分
    7. 苦情申し立て
    8. 解雇、解雇補償金及び特別補償金

    このうち、⑦苦情申し立てについては、少なくとも次の事項を記載する必要がある(LPA第109条)。

    1. ・ 苦情の範囲及び意味
    2. ・ 苦情申し立ての方法及び手続き
    3. ・ 苦情の調査及び検討
    4. ・ 苦情解決手続
    5. ・ 苦情申し立て人及び関係者の保護

    賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要

    賃金の定義

    賃金とは、雇用契約に基づいた労働の対価として労働者に現金で支払われる金銭をいう(LPA第5条)。また、判例上、賃金には基本給に加え、労働の対価として毎月(定期的に)、固定額で、無条件で支払われる手当も含まれる点に留意すべきである。

    賃金の支給日

    原則、賃金は、月給、日給、時間給又は1カ月を超えないその他の期間で計算する場合、若しくは出来高で計算した成果に基づき計算する場合、支払いは、原則、月に1回以上支払わなければならない(LPA第70条1項1号、2号)。

    例外は次の通り。

    1. 上記と同様に賃金を計算する場合で、労働者の便宜のためこれと異なる方法で支払うことを雇用主と労働者で合意した場合には、当該合意に基づく支給日に支給する(LPA同条1項1号)
    2. 上記と異なる方法で賃金を計算する場合には、雇用主と労働者の合意に基づく支給日に支給する(LPA同条1項2号)
    3. 雇用主が労働者を解雇した場合、解雇理由のいかんを問わず、雇用主は解雇日から3日以内に賃金及びその他の手当を支払わなければならない(LPA同条2項)。

    雇用主は、賃金や法律により支払いが義務づけられているその他の金銭の支払いを怠った場合、未払金に対し年15%の利息を労働者に支払わなければならない(LPA第9条1項)。

    また、合理的な理由なく未払い期間が7日以上経過した場合、雇用主は支払期日から7日を経過した日から7日間ごとに未払金に対し年15%の追加金を支払わなければならない(LPA第9条2項)。

    時間外労働手当等の支給日

    時間外労働手当、休日労働手当及び休日時間外労働手当等やLPAにおいて雇用主に支払いが義務づけられている金銭は、月に1回以上支払わなければならない(LPA第70条1項3号)。

    もっとも、雇用主が労働者を解雇した場合は、解雇理由の如何を問わず、この時間外労働労手当等を解雇日から3日以内に支払わなければならない(LPA同条2項)。

    なお、遅延利息及び追加支払いに関する規定は、この支払いにも適用される(LPA第9条1項、2項)

    賃金の支給場所

    原則として、雇用主は、労働者に対する賃金、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当及び雇用により生じるその他の金銭的報酬を、勤務場所にて支払わなければならない(LPA第55条)。

    例外的に、労働者の同意を得た場合には、勤務場所と異なる場所その他方法にて支払うことができる(LPA同条)。したがって、雇用主が銀行振り込みにより賃金の支給をしたい場合には、労働者の同意が必要となる。

    賃金からの控除

    賃金、時間外労働手当、休日労働手当、及び休日時間外労働手当から控除できるのは以下の項目である(LPA第76条1項)。

    1. 支払義務のある所得税、その他法律で定められた支払い
    2. 労働組合規約に基づく労働組合費
    3. 労働者の事前の承諾を得た貯蓄協同組合又はこれと同様の性質を有する協同組合に対する負債の支払い、又は、労働者のみの利益となる福利厚生のための負債の支払い
    4. 労働者の事前の承諾を得たLPA第10条に基づく保証金又は労働者の故意過失により被った損害の支払い
    5. 積立基金に関する合意に基づく積立金

    なお、労働者の同意がない場合、上記②~⑤に基づく各控除は、賃金、時間外労働手当、休日労働手当、及び休日時間外労働手当の10%以下であり、かつ、控除額合計が賃金、時間外労働手当、休日労働手当、及び休日時間外労働手当の20%以下でなければならない(LPA同条2項)。

    賞与

    賞与に関する法律上の定めはない。したがって、法的には雇用主が景況や労働者のパフォーマンス等を加味して自由な裁量により支給の有無及び金額の多寡を決定することができる。

    退職金

    所属する会社に定年退職の定めが存在しない場合、又は60歳を超える年齢の定年退職の定めがある場合、60歳に達した労働者は、雇用主に対して退職の意思表示を通知することによって定年退職をすることができる。この場合、退職は、労働者による通知日から30日後に効力を生じる(LPA第118条/1)。

    雇用主は、60歳での定年退職を選択した退職者に対し解雇補償金の全額を支払わなければならない(LPA第118条2項)。雇用主が解雇補償金を支払わなかった場合、6カ月以下の禁固刑、若しくは10万バーツ以下の罰金、又は両方が科される(LPA第144条)。

    普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のそれぞれの方法と留意点

    解雇について

    労働者保護法のもと労働者は手厚く保護されているため、解雇は困難となることも多いとされる。又、タイでは労働裁判の提起が容易なことから、不当解雇が後日争われることも多い。したがって、トラブル予防のために、法律に定められた解雇手続を履践することはもちろんのこと、雇用契約書、就業規則において解雇の根拠条項を整備しておくこと、解雇の正当性を裏付ける客観的な証拠保全をすることが重要となる。

    解雇手続

    タイでは普通解雇、懲戒解雇及び整理解雇(但し後述の機械の導入等による整理解雇を除く)につき法律上明確には区別はされていない。そこで、以下では、タイにおける解雇に共通する法定の手続きにつき紹介する。

    1. 事前通知

      原則

      雇用契約に期限の定めのない労働者を解雇する場合、原則、書面により事前通知をしなければならない(LPA第17条2項)。

      通知時期は、解雇予定日より1賃金支払日前又はそれ以前に行う必要があるが、3カ月より以前に通知をする必要はない(LPA同条同項)。当該通知期間の満了をもって解雇は有効となる。

      なお、ここで注意が必要なのは「1賃金支払日前又はそれ以前」という解雇通知のタイミングである。例えば、毎月末日に賃金を支払っている会社が3月末日をもって労働者を解雇する場合、2月末日かそれより前に事前解雇通知をしなければならない。これが1日遅れ、3月1日に通知をした場合には、解雇の効力発生日は4月末日となる。このように、事前通知のタイミングを誤ると、本来予定していたよりも1カ月程度長く雇用を続けなければならない事態となるので、注意を要する。

      例外

      以下の場合には、例外的に、事前通知期間を経ずに即時解雇することが可能である(LPA第17条3項、同4項)。

      ① 解雇通知書に記載された解雇日予定日に支払うべき金銭を前払いして即時解雇する場合。なお、この場合、雇用主は解雇日にその金銭を労働者に支払わなければならない(LPA第17条/1)。

      ② 以下の理由により解雇する場合(LPA第119条1項、2項、民商法典第583条)

      ・業務上の不正、又は、雇用主に対する故意の犯罪行為がなされた場合

      ・意図的に雇用主に損害を与えた場合

      ・不注意により雇用主に重大な損害を与えた場合

      ・就業規則や法律等への重大な違反の場合

      ・書面による警告後1年以内に同一の就業規則・法律違反があった場合

      ・正当な理由なく3日間連続して職務を放棄した場合

      ・禁固刑以上の判決が確定した場合

    2. 解雇補償金

      原則

      雇用主は労働者を解雇する際、解雇補償金を支払う必要がある(LPA第118条1項)。解雇補償金の金額は、労働者の勤続年数に応じて異なる。詳細は以下の通りである。

      解雇補償金額
      勤続年数
      解雇補償金の額
      120日未満
      支払義務なし
      120日以上1年未満
      最終賃金の30日分以上
      1年以上3年未満
      最終賃金の90日分以上
      3年以上6年未満
      最終賃金の180日分以上
      6年以上10年未満
      最終賃金の240日分以上
      10年以上20年未満
      最終賃金の300日分以上
      20年以上
      最終賃金の400日分以上

      例外

       例外として、以下の通り解雇補償金の支払いが不要となる場合がある。

      ① 勤続期間が120日未満の場合(LPA第118条1項1号参照)

      ② 季節労働等2年以内に終了する特殊な有期雇用契約の場合(LPA第118条3項、4項)

      ③ 以下の理由により解雇する場合(LPA第119条1項、2項)

      ・業務上の不正、又は、雇用主に対する故意の犯罪行為がなされた場合

      ・意図的に雇用主に損害を与えた場合

      ・不注意により雇用主に重大な損害を与えた場合

      ・就業規則や法律等への重大な違反の場合

      ・書面による警告後1年以内に同一の就業規則・法律違反があった場合

      ・正当な理由なく3日間連続して職務を放棄した場合

      ・禁固刑以上の判決が確定した場合

    3. 解雇の正当な理由

      解雇を行うためには、解雇に正当な理由が必要である(労働裁判所設置及び労働訴訟法第49条)。

      労働裁判において解雇の理由が不当であると判断された場合には、労働裁判所は、解雇時の賃金と同額の賃金率にて当該労働者を継続して雇用するよう命令を出すこと、又は、労使関係からみて継続雇用が相当ではないと判断した場合には、雇用主に対して損害賠償金を支払うよう命じることができる(同法同条)。後者の金額については、労働裁判所が当該労働者の年齢、勤続年数、解雇された場合の困窮の度合い、解雇の原因及び受領する権限を有する補償金額を総合的に考慮して決定することとなる(同法同条)。

      なお、妊娠中の女性労働者を、妊娠を理由に解雇することは明文で禁止されている(LPA第43条)。

    4. 未消化年次有給休暇に対する支払い

      労働者を解雇する際、雇用主は、未消化の年次有給休暇につき以下の通り支払いをしなければならない。

      解雇された年の年次有給休暇

      雇用主は労働者を解雇する場合、解雇が有効となる年に当該労働者が有する年次有給休暇(解雇日までの日割り計算とする)のうち未消化分につき原則支払いをしなければならない(LPA第67条1項)。

      例外的に以下の理由により解雇する場合には、年次有給休暇の未消化分の支払いは不要となる(LPA同条同項)。

      ・業務上の不正、又は、雇用主に対する故意の犯罪行為がなされた場合

      ・意図的に雇用主に損害を与えた場合

      ・不注意により雇用主に重大な損害を与えた場合

      ・就業規則や法律等への重大な違反の場合

      ・書面による警告後1年以内に同一の就業規則・法律違反があった場合

      ・正当な理由なく3日間連続して職務を放棄した場合

      ・禁固刑以上の判決が確定した場合

      蓄積した年次有給休暇

      解雇される労働者が有している蓄積した未消化の年次有給休暇については、繰越しに関する合意の有無に関わらず、例外なく支払いをしなければならない(LPA第67条2項)。


    特別解雇補償金を伴う特殊な解雇

    事業所の移転による解雇、及び機械の導入等に伴う整理解雇の場合には、それぞれ別途特別な手続きが定められている。

    1. 事業所移転による解雇

      事前通知

      雇用主が事業所を移転させる場合、雇用主は、労働者に対し、移転日の30日以上前までにその旨を通知しなければならない。その移転が労働者又はその家族の日常生活に重大な影響を与える場合で移転先での就労を望まない労働者は、当該通知日又は当該通知がなされていない場合は移転日より30日以内に、雇用契約を終了させる権利を有する(LPA第120条3項)。

      特別解雇補償金

      労働者が上記理由により雇用契約を終了させる場合、雇用主は、当該労働者に対して、通常の解雇の際にLPA第118条1項に基づき支払うべき補償金よりも高い金額の補償金(特別解雇補償金)を支払わなければならない(LPA第120条3項)。

      特別解雇補償金は、雇用契約終了日から7日以内に労働者に対し支払う必要がある(LPA同条4項)。

      手続違反

      ① 通知手続違反と罰則
      雇用主が、当該事業所移転に関する通知を怠った場合、労働者に対し、最終賃金の30日分相当額の補償金を支払わなければならない(事前通知に代わる特別な補償金、LPA同条2項)。

      ② 特別解雇補償金支払懈怠と不服申し立て
      雇用主が特別解雇補償金又は事前通知に代わる特別な補償金の支払いを怠った場合、労働者は、支払期日より30日以内に労働検査官に対し申し立てをする権利を有する(LPA第123条第1項)。申し立てを受けた労働検査官は、申し立てから60日以内に審理をし、労働者が特別解雇補償金又は事前通知に代わる特別補償金を受け取る権利があると判断した場合には、雇用主に対し、命令を受け取った日から30日以内に支払わなければならない旨の命令を下す(LPA第124条1項、3項)。

    2. 機械導入等による整理解雇

      事前通知

      機械の導入、機械又は技術の変更による組織再編において、雇用主が製造、販売、又は役務提供を改善するために労働者の削減が必要となった場合、雇用主は、雇用終了の60日前までに、雇用終了の対象となる労働者及び労働検査官に対し、通知をしなければならない(LPA第121条1項)。通知書には、対象労働者の氏名、雇用契約の終了日、雇用契約を終了させる理由を記載する(LPA同条同項)。

      他の解雇と異なるのは、通知の対象者に労働検査官が含まれている点である。また、上記理由により解雇をする場合には、ここで述べられている全ての手続きに従わなければならず、通常の事前通知による解雇を実施することはできない(LPA同条同項)。

      特別解雇補償金

      当該整理解雇により雇用契約が終了する労働者の勤続年数が6年以上である場合、雇用主は通常の解雇補償金に加えて、勤続年数1年につき、最終賃金の15日分以上の特別解雇補償金を支払う必要がある(LPA第122条1項)。

      手続違反

      雇用主が当該事前通知を怠った場合、労働者に対し、通常の解雇補償金に加えて、最終賃金の60日分相当額を支払わなければならない(LPA第121条2項)。

    不当解雇に対する救済

    労働者は不当解雇を争いたいときには、労働裁判所に訴訟を提起することができる(労働裁判所設置及び労働訴訟法第8条)。原則として、勤務先を管轄する労働裁判所に提起をすることとなる(同法第33条1項、2項)。

    特徴的な点としては、口頭による提訴が認められている点(同法第35条1項)及び裁判所手数料が免除されている点(同法第27条)が挙げられる。

    前述の通り、労働裁判において解雇の理由が不当であると判断された場合には、労働裁判所は、解雇時の賃金と同額の賃金率にて当該労働者を継続して雇用するよう命令が出すこと、又は、労使関係からみて継続雇用が相当ではないと判断した場合には、雇用主に対して補償金を支払うよう命じることができる(同法第49条)。

    労働裁判は3審制を採用しており、労働者又は雇用主が第1審の労働裁判所の判決に不服がある場合には、判決が下された日より15日以内に、控訴裁判所に対し控訴することができる(同法第54条2項)。但し、労働者又は雇用主は事実認定に対する不服を理由に控訴することはできず、法律問題に関する不服のみが控訴理由としてみとめられる(同法第56条2項)。また、当事者が控訴裁判所の判決に不服がある場合、控訴裁判所の判決が下された日から1ヵ月以内に最高裁判所に上告することができる(同法57条/1条)。但し、上告理由は、重要な法令上の問題や最高裁判所の判例に相反する判断がなされている場合などに限定される。

    外国人ビザの種類及び取得要件

    ビザの種類

    在東京タイ王国大使館にて提供しているビザは大きく分けて以下の4種類がある1

    1. 観光ビザ
    2. トランジットビザ
    3. ノン・イミグラントビザ
    4. スマートビザ
    1. 観光ビザ

      観光ビザは、タイへの観光目的での入国を許可するものである。有効期間は、シングルエントリーの場合3カ月間、マルチプルエントリーの場合6カ月間。1回のタイへの入国における滞在可能日数は60日以内である。但し、タイ入国管理事務所において延長許可申請ができる。

    2. トランジットビザ

      トランジットビザは外国人にトランジット目的での入国を許可するものである。外国人がタイを経由して第三国に行く場合、すべての経路の航空券を所持し、12時間以内の乗り継ぎでタイの空港内に留まる場合ビザは不要である。この条件から外れる場合には、トランジットビザの申請が必要となる。タイの国際空港でトランジットに12時間以上かかる者は、タイ王国に入国しなくてもトランジットビザを申請しなければならない。トランジットビザの有効期間は3カ月間である。トランジットビザでの滞在期間は30日以内であるが、タイ入国管理局にて滞在延長の申請をすることができる。

    3. ノン・イミグラントビザ

      ノン・イミグラントビザは以下の種類がある。

      対象者 種類
      就労、教師、事業主、投資家 Bビザ
      タイ国籍者 またはBビザ保有者の配偶者・家族 Oビザ
      学生の保護者
      ボランティア
      治療
      年金受給者
      50歳以上のロングステイヤー O-A、O-Xビザ
      学生 EDビザ
      ジャーナリスト、映画・ドラマ等の撮影者 Mビザ

      タイ国内で就労する目的の場合には、外国人はビジネスビザ(Bビザ)を取得し、タイに入国することとなる。

      タイ国内の就労者の家族がタイに入国、滞在する場合には、就労者家族ビザ(Oビザ)を取得する。

    4. スマートビザ

      スマートビザ2は、「13-S-Curve」(13のターゲット産業分野)において就労・投資しようとする高度熟練専門家・投資家等の高度人材に対して発行される。就労先・投資先は、ターゲット産業分野における技術ベース製造業又はサービス提供事業として関連機関によって認証される必要がある。

      13のターゲット産業分野

       ① 次世代自動車
      ② スマート電気機器
      ③ 豊かな観光・医療ツーリズム
      ④ 農業・バイオテクノロジー
      ⑤ 未来のための食品
      ⑥ 自動化・ロボット
      ⑦ 航空・物流
      ⑧ バイオ燃料・バイオケミカル
      ⑨ デジタル
      ⑩ 医療ハブ
      ⑪ 裁判外紛争解決手続
      ⑫ 科学技術系人材育成
      ⑬ 環境管理再生可能エネルギー


      5種類のスマートビザ

       ① スマートT
      ターゲット産業分野において就労する科学・技術の専門家

       ② スマートI
      ターゲット産業分野の1以上の企業に2000万バーツ以上を直接投資する投資家

       ③ スマートE
      ターゲット産業分野において就労する上級幹部職員

       ④ スマートS
      ターゲット産業分野において新規に起業をする外国人起業家

       ⑤ スマートO
      スマートビザ保有者の配偶者・子供


      スマートビザ保有者への特典

       ① 最長4年間のビザ。ただし雇用契約期間を超えないこと。
      (なお、スマートSについては、初回に1年間のビザを取得した人を除き、その後諸条件充足の場合は最長2年間の延長が可能)

       ② 認められた企業・プロジェクトにおける就労について労働許可証(ワークパーミット)は不要。
      仕事の内容変更・追加の場合は、事前に当局の承認を得る必要がある。

       ③ 入国管理局への居住地報告が90日毎から1年毎に延長。

       ④ 再入国許可は不要。

       ⑤ 配偶者・子供にもタイ滞在許可が支給され、就労活動に労働許可証は不要。
      (ただし、外国人に禁止されている職業リスト上の職業は不可。)

    労働許可証(ワークパーミット)とBビザ

    1. 労働許可証

      外国人がタイで適法に就労するためには、ビジネスビザ(Non Immigrant Visa B、通称“Bビザ”)に加えて、外国人就労管理に関する緊急勅令に基づく労働許可証を取得しなければならない(外国人就労管理に関する緊急勅令第8条)。Bビザを取得すれば、申請者(外国人)がタイ国内において適法に就労可能と誤解されることがあるが、誤りであり、就労のためには別途労働許可証の取得が必要である。

    2. Bビザ及び労働許可証の取得

      在東京タイ王国大使館等タイの在外公館にてBビザを取得しタイ入国後、労働許可証の申請手続を実施する。

      労働許可証の取得については、雇用主がタイで設立された法人の場合、原則、外国人1名につき最低200万バーツ以上の払込資本金がなされること(外国人の就労許可審査の原則についての雇用局規則第5条)等の条件を満たす必要がある。但し、投資奨励法(Investment Promotion Act B.E.2520(1977))に基づきタイ投資委員会(The Board of investment in Thailand、通称BOI)から恩典を付与された場合にはこの条件は適用されない(投資奨励法第25条、第26条)。

    3. Bビザの更新

      Bビザの当初有効期間は90日であるが、労働許可証の発行を受けた後1年間に延長申請をすることができる。延長の条件として、原則として、外国人1名につきタイ人4名の雇用が要求され、又、日本人の場合には、月額5万バーツ以上の給与を受領していることなども要求される。

    4. 労働許可証が必要とされる場合と各種例外

      労働許可証が必要な場合

      外国人がタイで就労する場合には労働許可証が必要である。この点、外国⼈の就労管理に関する緊急勅令B.E.2560(2017)第5条によれば、「就労」とは被雇⽤者であるか否かを問わず職業行為を行うことと規定され、報酬の受取りや雇用関係があることに限定されていない。したがって、無報酬の活動であっても、就労行為に分類される可能性があり、その場合には労働許可証の取得が必要となるので注意が必要である。

      労働許可証が不要な場合

      他方で、以下の7つの行為は「就労行為」に該当せず、労働許可証の取得が不要とされている3

      1. ① 会議・セミナーの「参加者」の立場で、当該事業の実現に関与することなく入国する者(会議・セミナーの主催者の従業員や請負人は就労に該当)
      2. ② 展覧会・展示会の「見学者」の立場で入国する者
      3. ③ 企業の「視察・商談担当者」の立場で入国する者(「企業視察・商談をセッティングする者の従業員又は請負人」は就労に該当)
      4. ④ 特別・学術講演の「聴講者」の立場で入国する者
      5. ⑤ 技術研修・セミナーにおける講義の「聴講者」の立場で入国する者
      6. ⑥ 展示会における「商品購買者」の立場で入国する者(展示会設営者の従業員又は請負人は就労に該当)
      7. ⑦ 自社の取締役会への参加
      15日の緊急業務届出制度

      ① 労働許可証が不要とされないケースであっても、15日以内の緊急業務については、トートー10という書式の緊急業務届出を行い、受領印を得ることで就労行為を実施することが可能とされている(外国人就労管理に関する緊急勅令第61条1項)。但し、あくまで緊急性がある場合のみ適用される制度であるので、注意が必要である。緊急性がある場合の例としては、タイ国内で修理できる者がいない機械が故障した場合、当該機械を修理できる外国人がタイに入国して修理を行うような場合とされる。

      なお、一時期、雇用局の担当官から、緊急業務届について年間の同一人物による取得回数を3回に制限するという条件が提示され、トートー10が受領されないことがあったが、現在は、トートー10を受領するか否かの判断は、毎回の入国が必要かつ緊急な事情によるものであるという事実があるか否かに依拠し、回数の制限はないことが明らかにされている。

      さらに、15日間が経過する前に延長申請を行うことで、トートー10をさらに15日間延長することができることとなった。

      ② 緊急業務には以下の活動が含まれる4

      1.  ・ 会議、トレーニング、セミナー、展示会、および/または物産展の開催または設定
      2.  ・ 特別学術講演
      3.  ・ 航空管理
      4.  ・ 臨時の内部監査
      5.  ・ 検査フォローアップ作業及び技術的な問題解決作業
      6.  ・ 製品又は商品の品質検査
      7.  ・ 生産工程の検査又は改善作業
      8.  ・ 機械及び発電設備・システムの点検又は修理作業
      9.  ・ 機械の修理又は設置作業
      10.  ・ 電車システムの技術的作業
      11.  ・ 航空機又は航空設備の技術的作業
      12.  ・ 機械修理又は検証作業の助言
      13.  ・ 機械のデモンストレーション及び試運転
      14.  ・ 映画又は写真の撮影
      15.  ・ 国外での就労希望者の選定作業
      16.  ・ 国外での就労を希望する技能者の試験
    5. 外国人に禁止されている職種

      労働許可をとればすべての職種での就労が可能となるわけではない。タイ政府と外国政府との間に合意があるか、国際協定または条約に基づく条件が満たされているか、熟練労働者または半熟練労働者の条件が満たされている場合を除き、次の40種の職務5は、外国人が従事することが禁止されている(2020年外国人就労を禁ずる仕事及び職業を定める労働省告示)。

      1. 肉体労働(但し、後記2の漁業は除く。なお、タイ政府と他の政府との間の契約の下でタイに在留することを許可された外国人で、合法的にタイに入国し居住証明書を持っている場合は除く)
      2. 農業・畜産業・林業・漁業への従事(但し、特殊技能業種、農業管理、海洋漁業船舶における肉体労働を除く)
      3. レンガ職人、大工その他の関連建設業者
      4. 木彫品製造
      5. 自動車などの運転や非機械操縦/機械操縦の運搬具の操縦(但し、国際線のパイロットを除く)
      6. 店員
      7. 競売業
      8. 会計業の監督、監査、役務の提供(但し、臨時的な内部監査を除く)
      9. ダイヤモンドや貴石類の切削や研磨
      10. 理容師、美容師
      11. 織物製造
      12. アシ、籐、麻、藁、竹を原料とするマットやその他の製品の製造
      13. 手すき桑紙製造
      14. 漆器製造
      15. タイ特産楽器製造
      16. 黒金細工
      17. 金・銀・ピンクゴールド製品の製造
      18. ブロンズ工
      19. タイ特産人形の製造
      20. マットレス、キルトの上掛け毛布類の製造
      21. 托鉢用鉢の製造
      22. 絹手工芸品の製造
      23. 仏像製造
      24. ナイフ製造
      25. 紙製・布製の傘製造
      26. 靴製造
      27. 帽子製造
      28. 仲介業、代理店業(但し、国際貿易業務を除く)
      29. 土木施工に関し、設計、計算、組織、分析、計画、検査、建設監督、助言をする業務(但し、特殊技能を必要とする業務を除く)
      30. 建設業における設計、図面引き、コスト計算、建設指導、助言をする業務
      31. 服仕立業
      32. 陶磁器類の製造
      33. 手巻きタバコ
      34. 観光案内人及び観光案内業
      35. 行商・露店業
      36. タイ字のタイプ
      37. 絹を手で紡ぐ業務
      38. 事務員、秘書
      39. 法律・訴訟に関する業務(但し、仲裁人又は仲裁における弁護士としての業務を除く)
      40. タイ式マッサージ

    外国人就労管理に関する緊急勅令B.E. 2560/2561(2017/2018)における罰則

    雇用主の責務

    雇用主は、外国人就労者を雇用した場合、雇用日から15日以内に雇用者の氏名、国籍、従事する職務の種類を届け出なければならない。また、外国人就労者が辞職・退職した場合にも、離職日から15日以内に届け出が必要である。(外国人就労管理に関する緊急勅令第13条)

    届け出を怠った場合、雇用主は2万バーツ以下の罰金に科せられる。(同第103条)

    それに加えて労働許可証を得ていない外国人を雇用すること、及び外国人に許可された範囲外の業務を行わせることは禁じられている(同第9条)。

    違反した場合、雇用した外国人1人当たり10,000バーツから100,000バーツの罰金が課せられ、違反を繰り返した場合は50,000バーツから200,000バーツの罰金、1年以下の懲役、またはその併科が課せられる。また、この場合、雇用者は3年間、外国人の雇用が禁止される(同第102条)。

    就労者の責務

    タイ王国に入国し、15日間の緊急業務に就こうとする外国人は、業務開始前にトートー10を提出することにより届け出をしなければならない。(外国人就労管理に関する緊急勅令第61条)

    届け出を怠った場合、外国人就労者は5万バーツ以下の罰金に科せられる。(同第119条)

    労働許可証を得ずに労働すること、及び許可された範囲外の業務を行うことは禁じられている(同第8条)。

    違反した場合は、外国人に5,000バーツから5万バーツの罰金が課され、罰金を支払った後、その外国人は直ちにタイ王国からの出国が命じられる(同101条)。

    労働許可証を得た外国人は、勤務開始日又は転職日から15日以内に雇用者、就労場所、従事する職務の種類を届け出なければならない。(外国人就労管理に関する緊急勅令第64条の2)

    届け出を怠った場合、外国人就労者は2万バーツ以下の罰金に科せられる。(同第119条の1)

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    1. 公開日:2017/09/17 更新日:2024/06/24