PERSOL HR DATA BANK in APAC
シンガポール労働法制
アジア各国の労働法制を比較した場合、会社に最も有利に設計されている法域のひとつが、シンガポールであるといえよう。近年の改正により雇用法は原則として全ての労働者に適用されることとなったものの、労働時間、休憩、休日等について定めた章が適用される労働者が限定されており、最低賃金法に該当する法令が原則としてないなど会社に有利な規定が目立つ。解雇を行う際にも正当理由が不要である。また、別途合意していない限り事前の通知さえ行えば退職金の支払い義務も発生しないこととなっている。さらに、労働組合の組織率も低く、ストライキも多くない。したがって、日系企業にとって、比較的柔軟に労働者の再編成を行うこともできるといえる。
会社の形態によっては、積極的にこのような会社に有利な労働法制を利用し、(他国の雇用法の強行規定が適用される可能性には留意する必要があるものの)シンガポールを準拠法として雇用契約を締結した上で当該労働者を他国の子会社・関係会社に出向させる形式を取り入れることも有効であるといえよう。
他方、最近は、外国人労働者のビザを取得する要件が困難になってきているなど、比較的外国人の就労に対する政策の厳格化に注意が必要であるといえよう。
労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況
圧倒的に会社に有利な労働法制
シンガポールは、外国資本の受け容れに積極的であり、魅力的な投資環境を作り出すため、会社に非常に有利な労働法制を定めているのが特徴である。例えば、労働法の適用対象となる労働者枠が設けられていること(残業代の支払い義務は雇用法適用者のうち制限された者のみに発生すること)、最低賃金法が存在しない1ため賃金の決定は労使間の契約によること、解雇の際の解雇理由(合理的理由)は不要である点などが典型的なことである。
逆にいえば、日本の会社が、日本の雇用契約および就業規則等を日本法に準拠したまま使用してしまった場合、会社に有利なシンガポールの労働法制のメリットを活かしきることができない。このため、就業規則又は採用通知書(Letter of Appointment)等の個別雇用契約を作成する際に、シンガポールの労働法制に注意し、適合したものに修正する必要があると考える会社もある。
高い離職率
シンガポールにおいては、転職する人材が多く、日本と比較すると全体的に離職率が高い。戦力として期待していた人材が入社後すぐ転職してしまうことが多々あり、会社にとって有利な労働法制が定められてはいるものの、魅力のある職場環境を作りあげる必要がある。
ビザの取得
シンガポールは外資を導入することを政策として重視しているため、比較的、他の法域に比べると外国人のビザの取得が容易な法域であるといえる。しかしながら、近年は、シンガポール国民の高齢化などに鑑み、外国人のビザの要件が徐々に厳しくなってきているため、注意が必要である。また、Covid-19の影響によるシンガポール人の非雇用者率の増加に伴い、以前よりも就労許可の取得がさらに困難になったと一般的には見られている。
労働組合
シンガポールにおいては、労働組合が組織されている割合は非常に低い。又、労働組合の権利も相当程度制限されており、ストライキや集団交渉などの権利も相当制限されている。この点からも会社にとっては非常に労働者の管理を行いやすい法域であるともいえる。
他方、労働組合が組織されている会社においては、労働組合との真摯な交渉が必要になる場合が多くなるため注意が必要である。
コモン・ロー体系であるシンガポール法の存在
シンガポールはイギリス継承型のコモン・ローの制約が適用されるため、雇用関係についてもコモン・ロー上の権利義務が存在する。そのため、明文にはないコモン・ロー特有の権利義務が発生する可能性があることに留意する必要がある。
特に、日本法はシビル・ローであり、コモン・ローとは異なる法体系で成り立っているため、日本法に慣れ親しんできた日本企業にとっては注意が必要である。
※コモン・ロー/シビル・ローの概略「コモン・ロー」とは、イギリスのほかかつて大英帝国領であった諸国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で中心に採用されている、伝統・慣習・先例に基づいて判断してきた判例を重視する法体系を指す。
他方、「シビル・ロー」とは、フランス・ドイツなどの大陸側で発達した概念であり、コモン・ローに比べて制定法を重視する法体系である。なお、日本は、シビル・ローの法体系に属する。
基本的な労働法制の概要
労働に関する制定法の概要
シンガポールにおける、主な労働に関する制定法は以下の通りである。
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労働条件関連
雇用法(Employment Act)
労働者のための基本的な労働条件、会社と労働者の権利義務を明確にすることを目的に制定された。労働者保護が定められているが、残業代等を定める雇用法第4部が適用される労働者の範囲が制限されているのが特徴である。
外国人労働者雇用法(Employment of Foreign Manpower Act)
外国人労働者がシンガポールで労働する際に必要となる就労許可証とその他の条件等を規定する法令である。
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労使関係
労働組合法(Trade Unions Act)
適正な組合活動、組合財政、組合役員の選挙方法を含む労働組合の活動を規定する法令である。
労働争議法(Trade Disputes Act)
労働争議、ストライキ、ロックアウト等の労働争議行為の規制を目的にする法令である。
労働関係法(Industrial Relations Act)
労使紛争の抑止、解決の枠組みの設定を目的に制定された。団体交渉、調停、労働仲裁裁判所による仲裁を通じた労使の円満な解決方法を定めている。
シンガポール労働基金法(Singapore Labor Foundation Act)
労働組合員とその家族の福祉を向上させ、シンガポールの労働組合の運動の発展を助成することを目的とする法令である。
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社会福祉関係
定年退職・再雇用法(Retirement and Re-employment Act)
定年退職、その後の再雇用の枠組みの設定を目的として制定された。この法律は、管理職・上級職を含むあらゆる労働者に適用がなされる点に注意が必要である。
本法によると、定年退職は63歳を下回ってはならず、同年齢まで年齢を事由とする解雇が禁止される(2022年定年・再雇用[所定最低退職年齢]告示)。なお、前記の最低定年退職年齢に達した以降にも引き続き再雇用の内定を与える義務が同法に定めてある。
中央積立基金法(Central Provident Fund Act)
中央積立基金(Central Provident Fund 「CPF」)の設立を目的に制定された。同基金は定年退職した労働者に生計費の保障を与えている。
児童育成共同救済法(Child Development Co-Savings Act)
家族を支援する児童育成共同貯蓄施策スキームの設定、妊産婦の保護と出産給付金、養子縁組休暇、育児休暇、無給乳幼児保育休暇制度等について規定する目的で制定された。育児休暇、出産休暇については雇用法においても規定が存在し、労働者に有利に規定されている。子どもがシンガポール国民である場合には、管理職・上級職を含めたあらゆる労働者に適用される点に注意が必要である。
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労働安全衛生関係
職場安全衛生法(Workplace Safety and Health Act)
労働安全に関するルールを規定していた工場法(Factories Act)に代わり、職場の安全と衛生を確保する目的で制定された。
労働災害補償法(Work Injury Compensation Act)
労働災害に遭遇した労働者に対する補償金の支払いについて規定する目的で制定された。賠償の遅延をなくし、迅速に労働者に対する補償を行えるようにする手続きの迅速化のための方策が定められている。
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その他
技能開発課徴法(Skills Development Levy Act)
同法により、会社は、労働者に対して、一定の金額の技能開発課徴金(Skills Development Levy)を毎月支払わなければならず、この資金は技術開発基金(Skills Development Fund)によって、(a)人材の能力の開発、専門的能力の習得や向上等による就職準備者、雇用者、再就職希望者の支援、(b)解雇された人材の再トレーニング、および(c)上記の目的のために、助成金、ローン、その他による資金的援助等を提供するために使用されている。
シンガポール雇用訓練庁法(Workforce Singapore Agency Act)
労働者を訓練し、その技術を育てるための組織であるシンガポール雇用訓練庁(Workforce Singapore Agency)を設立する目的で制定された。
人材紹介代理店法(Employment Agencies Act)
シンガポールにおいて、人材紹介業を営む際に、同法に従わなければならない。
雇用法の適用範囲
上記の通り、シンガポールにおいて最も重要な労働に関する法律は雇用法(Employment Act)であるが、同法の適用される労働者について、その条件や範囲が以下のように限定的に定められており、雇用法第4部については一部の労働者にのみ適用されるため注意が必要である。
まず、雇用法が適用されるためには、契約が雇用契約(Contract of Service)であり、請負などの形態(Contract for Service)ではないこと(契約の種類による分類)が必要となる。
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雇用契約(Contract of Service)が成立しているかどうかの検討
まず、Contract of ServiceとContract for Serviceは、以下のように分類されている。
Contract of Service:
労働者が会社等の企業の監督下において勤務を行う形態、日本法でいう「雇用契約」に該当する概念であるといえる。労働者は、その契約が、このContract of Serviceと判断された場合のみ、雇用法の適用がある。
Contract for Service:
供給契約等の一種である。日本法でいう請負契約、委任契約に該当する契約形態がこれに該当するといえる。具体的には、建設現場における元請と下請の請負契約、社外の弁護士・会計士・税理士などと会社との委任契約等はいずれも雇用契約ではなく、Contract for Serviceである。労働者の契約がこのContract for Serviceと判断された場合は、その労働者には雇用法が適用されない。
具体的に、Contract of ServiceとContract for Serviceは、①監督指揮権限の存否(誰が労働者の採用・解雇を決定しているのか、誰がどのような方法で労働者の賃金を支払っているのか、誰が生産過程、時間、生産方法を決定しているのか、誰が職場規定について責任を負っているのか)、②業務遂行における所有権の有無(誰が生産のための道具、器具を供給するのか、誰が職場、材料を提供するのか)、③経済的対価(労働者が行っている業務は誰のためのものか、その収益、利益はどこから支給されるか、その業務に対する責任は誰がとっているか。)などの種々の要素を総合的に考慮して分類されることとなる。
この結果、労働者の契約がContract for Serviceに分類された場合は、そもそも雇用法がその労働者には適用されないこととなる。
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(Contract of Serviceであるとして)雇用法第4部が適用される労働者であるか(「労働者」の定義による雇用法適用の制限)
シンガポールにおいて、管理職・上級職(Management or Executive)に該当する労働者には残業代の支払義務等を定める雇用法の第4部の適用がない(それ以外の章の雇用法は適用される)。
「管理職・上級職」の定義は、雇用法上明確には存在しない。そのため、仕事の性質、責任、資格、賃金等を考慮した上で、採用権限、懲罰、雇用契約の終了、業績の評価、および報酬を決定する権限を有しているか、もしくは会社の戦略、方針の策定に関与することができるか等、実質的権限があるか否か等の事情を総合的に考慮して決定される。
なお、注意が必要な点は、シンガポールにおいて雇用法第4部が適用されない「管理職・上級職」とは、日本法のそれよりも広い意義でとらえられていることである。例えば、経営者と一体となって経営を左右する仕事に携わることはない支店の支店長及び支店長代理は、日本における「管理もしくは管理の地位にある者」には該当しないものの、シンガポールにおいては雇用法第4部が適用されない「管理職・上級職」に該当する可能性が高い。
以上のようにシンガポールにおいては、いずれも管理職・上級職の意義が日本よりも広義で用いられており、その分、雇用法第4部の適用範囲が限定されている。この点からも、シンガポールの労働法制は、会社に有利に設計されているということがいえる。
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管理職・上級職に該当しない労働者
さらに、管理職・上級職に該当しない労働者であっても必ずしも、その労働者について、雇用法のすべての条文が適用されるわけではないということにも注意が必要である。
雇用法第4部は、労働者の「休日、労働時間およびその他の労働条件」について限られた範囲のものに適用されている。具体的には、適用される労働者を分類すると、雇用法第4部の規定は、以下の労働者のみに適用される。
- ①基本賃金(月給)が4,500シンガポールドル以下(時間外賃金、賞与支給、年次賃金増補、生産性報奨金およびいかなる名目であれ、その他の支給を除く)、又は主管大臣が定めるその他の金額を受け取っているワークマン(Workman)
- この点、ワークマンとは、肉体労働で雇われる労働者等、例えば、清掃員、建設現場労働者、機械のオペレーター・組立工、電車・バス・バンの運転手又はその検査係などがそれらに当たる。
- ②基本賃金(月給)が2,600シンガポールドル以下(時間外賃金、賞与支給、年次賃金増補、生産性報奨金およびいかなる名目であれ、その他の支給を除く)のワークマン以外の労働者
- ワークマンの場合の方が雇用法の適用の範囲が広く設定されている理由は、ワークマンの方が肉体労働などを行うことが多く、保護の必要性が高いためである。
逆に、上記定義にあてはまらない労働者には、雇用法第4部のみが適用されないが、雇用法の他の部は適用される。
賃金設定の際の注意点
以上を考慮すると、例えば、上級管理職等ではない一般の労働者でワークマンでない従業員の場合、賃金を2,600シンガポールドル以下に設定した場合は、雇用法第4部が適用され、結果として残業代の支払義務をはじめ雇用法第4部規定の種々の義務が生じる。そのため、賃金を敢えて2,600シンガポールドルを超える金額に設定し、残業代の支払い義務等、種々の義務を発生させない等をする会社もある。
就業規則の作成義務およびその内容
就業規則(Employment Handbook)の作成義務
日本とは異なり、シンガポールにおいては、会社が就業規則を定めなければならない法的義務は存しない。しかしながら、実務上、多くの会社が就業規則を整えているのが現状である。
就業規則の目的
法的義務は課されないが、シンガポールの実務において、労働条件の共通部分については就業規則で規定し、固有の部分については採用通知書(Letter of Appointment)をはじめとする個別雇用契約において規定している会社が多い。
理由として、就業規則があれば、労働者の労働条件の共通基準を明示することができること、共通基準であるとして、新入社員を採用する際等に、個別の交渉を行わなくて済むこと、駐在員の労費負担の軽減、恣意的な判断に委ねなければならない部分が少なくなること、日本とは異なり会社が就業規則の内容を一方的に(労働者の不利益にも)変更することもシンガポールでは可能であり、事後的に就業規則を変更することにより、会社の人事管理を機動的に運用できること等が挙げられる。しかし、一方的変更の権利は雇用契約にて明確に定めなければならない。
就業規則に定める以上、会社もこの義務に従わなければならない法的義務が発生する。したがって、日本で作成した就業規則をそのまま適用すると、法律で求められている以上の利益を従業員に与えることになるため、シンガポールの会社に有利な労働法制を活かしきれないとして、シンガポールの労働法制に適した就業規則に作成し直す会社もある。
就業規則の法的拘束力の劣後
シンガポールでは、就業規則の法的拘束力は、個別雇用契約よりも弱く、労働保護法規、労働協約、個別雇用契約と矛盾する記載があった場合は、一般的にはそれらの規定に劣後して、その記載は無効とされる。
就業規則の法的拘束力が個別契約に優先する日本とは異なる点に注意が必要である。
なお、就業規則の内容が個別雇用契約書と矛盾する場合に、どちらが優先されるのかが不明確である場合も少なくないため、就業規則ならびに個別雇用契約書において、優越を明記しておくことが推奨される。
就業規則の不利益変更
シンガポールにおいては、就業規則に「会社は、事前の通知によって、その必要に応じて随時、就業規則の条件、方針、又はその一部を、解釈し、変更し、修正し、補足し、無効とする権利を有する。」等と規定することが多く、このような規定も、実務上、有効と考えられている。この会社と労働者の入社時における合意を前提に、会社は、就業規則を雇用がスタートした後でも修正することが可能であると考えられている。
もっとも、シンガポールにおいても、上記のような規定があるからといって、あらゆる不利益変更が有効となるとは限らないことに注意が必要である。
賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要
2019年4月の雇用法改正により、全ての従業員が雇用法適用の対象となった。このため、これまで原則として会社との合意ですべての条件が決定されていた管理者・上級者についても関係法令の適用を遵守する必要がある。具体的には、年次休暇、傷病休暇、出産休暇、育児休暇、祝祭日に関する定めや、従業員情報の保管義務、雇用契約上の重要条項(Key Employment Terms)の発行義務や給与明細(Pay Slip)の交付義務といった主要条文(Core Provision)が、これまで適用の無かった管理者・上級者を含む全ての労働者に適用されることとなる。賃金に関して言えば、以前は管理者・上級者には適用されなかった給与計算の締め日から7日以内に支給しなければならないとする規定が上記改正により全ての従業員に適用されることになった点に注意が必要である。
賃金の計算期間の設定と支払い時期
会社は賃金の計算期間を設定することができるが、その期間は1カ月を超えてはならない。1カ月以上の期間が設定されている場合は、1カ月とみなされる。
全額支払いの原則
一般に、会社は基本的に賃金から一定の又は不確定の金額を控除してはならず、全額支払いの規定に従う。控除が許されるのは、従業員から書面同意があった場合(ただし、従業員は違約金なしにいつでも同意を撤回できる)、雇用法に規定がある場合、裁判所、公的機関の命令がある場合に限られる。
又、欠勤に対する控除、損害賠償による控除、所得税による控除、CPFに対する控除等、例外的に控除が許される場合も規定されている。さらに、労働者の怠慢、不履行等による損害又は損失に対する控除については、原則として1カ月の賃金の4分の1を超えてはならず、かつ従業員がこの控除に反対する機会を与えられなければならない。なお、従業員の書面同意に基づく控除は賃金の半分を超えてはならない(雇用法32条1項)。
通貨払いの原則
労働者の賃金は、法定通貨での支払い限定であり、現物による支払いは許可されない(雇用法32条1項)。
退職金(Retirement Benefit)
退職金の支払い義務を定める規定は、雇用法上存在しない。しかしながら、別途労働協約、就業規則、又は個別雇用契約に規定がある場合は、それらの規定に従わなければならない。
ボーナス、年次賃金増補(Annual Wage Supplement)
ボーナスの支払い義務は雇用法上存在しない。しかし、労働協約、就業規則、又は個別雇用契約に規定がある場合は、それらの規定に従わなければならない。
シンガポールでは、年次賃金増補(Annual Wage Supplement、AWS)を支給する制度が一般化している。これは、1年に1回会社が1カ月分の賃金を従業員に与えるものであり、慣例上、多くの会社が導入している。これも雇用法上に支払い義務が定められているわけではなく、労働協約、就業規則又は雇用契約に定められている場合のみ支払い義務が認められる。
最低賃金
シンガポールにおいて警備会社等の一部の業態を除き最低賃金を定める規定は存在しない。したがって、賃金は、労働力の需要と供給(すなわち労使間の契約)により決定される。
又、政府、企業、労働組合の代表からなる全国賃金審議会(National Wage Council)が長期経済目標に沿って、賃金政策について政府に勧告するとともに、賃金引き上げに関するガイドラインを示している。
普通解雇、整理解雇、懲戒解雇のそれぞれの方法と留意点
会社が労働者を解雇する場合、主に3つの方法、すなわち普通解雇、整理解雇、懲戒解雇に分類される。以下、シンガポールの解雇について、それぞれ述べる。
普通解雇
会社は一方的に解雇通知を送付することによって、「特段の事由なく」労働者を普通解雇することが可能であるが、個別雇用契約に特別な解雇制限の規定がない場合に限られる。
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解雇理由の明示
特別な条件の定めの有無にかかわらず、雇用契約は、特段の事由なく、会社あるいは労働者のいずれからも解除の予告通知をすることにより、解除することができるが、そのためには予告通知期間、或いはその代わりの賃金支給が必要である。このように、解雇のための正当事由は不要であり、会社は特段の事由なく、解雇を行うことができる点がシンガポールの労働法制の特徴の1つである(雇用法11条1項)。
日本においては、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)とされており、日本とシンガポールの労働法制の最も異なる点の1つであるといえよう。
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雇用契約の終了における予告通知期間
シンガポールにおいての雇用契約終了の予告通知期間は、会社、労働者側いずれも同期間でなくてはならないとされている。その規定さえ守れば、日本とは異なり、シンガポールにおいて雇用契約は一方的な解雇通知によって、理由なく終了させることができる。又、予告通知期間は、労働協約、就業規則、又は個別雇用契約によって定められている場合には、その定めに従って措置を講じる必要があることにも注意する。
他方、予告期間に際する賃金額を先方へ支払えば、予告期間なしで雇用契約を即時終了も可能である。(雇用法11条1項)
上記によると、例えば会社は5日の予告期間でよいが、労働者は1カ月の予告通知期間を就業規則に定めた場合、その規定は無効とされる。他方、会社と労働者でこのような予告通知期間を不要とした場合、その規定は有効とされる。実際の実務では、シンガポールでは、就業規則、又は個別雇用契約において、会社、労働者ともに1カ月前の予告通知が必要と記載されている例が多い。
仮に、労働協約、就業規則、又は個別雇用契約に、予告通知期間の定めがない場合は、雇用法が適用され、以下の通りの予告通知期間が必要である。
整理解雇
整理解雇においても、解雇できるか否か、予告通知期間の考え方は、普通解雇と同じで、理由は不要であり、予告通知期間が必要である。したがって、日本法における場合のように、厳格な整理解雇のための4要件に該当するものは存在しない。但し、普通解雇と異なる点としては、「①整理解雇手当の支払いがある」、又「②10人以上の従業員を有している場合、1人でも整理解雇の通知をした企業は、シンガポール人材省Ministry of Manpower(MOM)への通知が必要である」という2点である。なお、企業は整理解雇通知から5営業日以内にMOMへの通知義務を負う。
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整理解雇か否かの区別
まず、普通解雇と整理解雇の区別は、会社の業務の合理化等のために解雇を行っているか否かであるが、具体的な要件が法律上定められているわけではないため、会社と労働者の間で整理解雇であるか否かが争われることがある。具体例としては、解雇の後に人員補充を行わなかった場合、整理解雇とみなされる可能性がある。
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整理解雇手当
整理解雇手当については、以下の通り処理がなされる。
勤続2年未満の労働者の場合
整理解雇に関して整理解雇手当と呼ばれる一時金の支給義務について、「勤続2年未満の労働者には、余剰人員や、企業の業務の再編の理由により解雇された際に整理解雇手当を要求する権利がない。」とされている(雇用法45条)。したがって、勤続2年未満の労働者を整理解雇したとしても、整理解雇手当の支払い義務は発生しない(もっとも、会社が任意に褒賞金(Ex-gratia payment)を支払うことは、問題ない)。
勤続2年以上の労働者の場合
他方、勤続2年以上の労働者が整理解雇手当を要求することができるか否かについては、その旨を明示的に定めた規定は法令上存在しないため争いがある。
この点に関しては、まず、上記雇用法45条の解釈をめぐって「勤続2年以上の労働者は整理解雇手当を要求する権利があるとは解釈されない。」とする裁判例がある。他方、MOMは、雇用法45条の反対解釈を根拠に、「会社は、勤続年数2年以上の労働者を整理解雇する場合、関連労働者は整理解雇手当を受け取る権利がある何らかの整理解雇手当を払うべき」との見解をとっている。さらに、2008年11月19日、MOM、シンガポール全国企業連盟、全国労働組合会議からなる三者機関は、余剰人員削除に対する見通しを立てるべく、「余剰人員管理に関する三者機関ガイドライン」を発表した。この中では、整理解雇手当の支給について、「勤続2年以上の労働者は整理解雇手当の支給を支払われる資格を有する」旨、記載されている。もっとも、このガイドラインは、法規ではなく、法的拘束力まではない。それゆえ、裁判例上は支払い義務がないものとされる一方、MOMの行政上の見解、および三者機関ガイドライン上は支払い義務あり、という矛盾した状況となっている。
もっとも、裁判例は10年以上前のものであること、現在、MOMが整理解雇手当の支給を後押ししていること等の事情があることから、今後、裁判例が変更される可能性がないとはいえない。それゆえ、実務的な対応としては行政の見解に従っておくことも1つの方策である。
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整理解雇手当の金額
まず、整理解雇手当の金額は、労働協約、就業規則、又は個別雇用契約の定めによることになる。そのような定めがなかった場合については、雇用法には整理解雇手当の金額に関する規定はない。さらに、MOMの見解においても、金額は規定されておらず、会社および労働者の交渉、および会社の財務状況により決定されるべきであるとされている。
他方、三者機関ガイドラインにおいては、一般的な基準として「勤続年数1年に対して2週間から1カ月」と記載されている。又、同ガイドラインでは、団体協約にて整理解雇手当の支払いが明記されている組合加盟企業については、「勤続年数1年に対して1カ月分」とも記載されている。
したがって、実務においては、会社および労働者間の交渉、財務状況をもとに、上記の水準を基準に検討する会社が多い。
懲戒解雇
労働者が違法行為を行っている場合、会社は、十分に調査をし、その上で労働者を懲戒解雇することができる(事前通知が不要な即時解雇)。雇用契約に違反する行為(Misconduct)、窃盗、不正、職務命令違反等が該当するが、実務上は、就業規則、個別雇用契約等に、その違法行為の内容について詳細に定められていることが多い。
又、解雇の代替措置としては、直ちに労働者を降格させる、又は直ちに1週間を上回らない期間で、労働者を無給の出勤停止とするなどの方法も存する。
労働協約、就業規則、又は個別雇用契約の規定にもよるが、これらに特別な規定がない場合は、懲戒解雇の場合は、予告通知期間の設定は不要であり、即時解雇が可能である。
労働者が上記のような理由がないにもかかわらず不当に解雇されたと考えた場合(Wrongful Dismissal)、従前は、解雇後1カ月以内に、復職できるよう労働大臣に書面で抗議することが可能であった。もっとも、2019年4月の雇用法改正により、上記のような不当解雇や20,000シンガポールドルを越えない賃金に関する紛争解決は全てEmployment Claims Tribunals(ECT)と呼ばれる仲裁機関によって解決が図られることなった。また、いかなる場合が不当解雇に該当するかについて、2019年4月に第三者機関による「不当解雇に関するガイドライン」が発表された。同ガイドラインにおいては、雇用契約に違反する行為、成績不振、余剰労働者の整理等を理由とする解雇が不当解雇に該当しないことが明示される一方で、仮に解雇の理由が明示されていない場合でも、労働者の側で、当該解雇が差別や従業員の利益を奪うもの(deprivation of benefit)、または従業員による権利行使を罰するものであると立証した場合には、不当解雇に該当する旨記載されている。なお、労働者はECTに案件を持ち込む前提として、まずTripartite Alliance for Dispute Management (TADM) という調停機関に申立を行い、紛争の解決を図る必要がある。同調停によっても労使間の合意が出来ない場合に初めてECTが判断を行う。ECTは解雇に理由がないと判断した場合、復職、又は損害賠償の支払い命令を出すことができる。また、調停にて労働組合が代理した場合、請求金額の上限は30,000ドルとなる。(Employment Claims Regulations第17条2項)
なお、シンガポールにおいて横領行為は汚職防止法が適用される可能性があるため、会社としては、労働者について同法等に基づく刑事告訴・告発を検討すべきであり、この際、会社は、犯罪行為についての通報義務が発生しないかという点にも注意が必要である。
外国人ビザ(Pass)の種類および取得要件
外国人労働者雇用法(Employment of Foreign Manpower Act)
シンガポールは外国人労働者に対しては比較的寛容な政策をとっている。外国人労働者雇用法(Employment of Foreign Manpower Act)は、外国人労働者とその福祉の保護、有効な就労ビザの保持を目的として制定されている。
外国人労働者雇用法は、有効な就労ビザを持たない外国人労働者の就労を禁じている。不法雇用と積極的な不法行為に対しては罰金又は禁錮、もしくはその両方が併科される。同法は検査官に、就労パスを一時停止し、取り消し、又は条件の変更をする権限を与えている。
シンガポールは外国人労働者に対して比較的寛容な政策をとっているものの、会社は外国人労働者を雇う場合、外国人雇用税を支払わなくてはならない。なお、同税についてEmployment Pass保有者は対象外である。
ビザ申請の際に記載した申請給与額よりも低い給与を外国人労働者に支払う企業や、一度外国人労働者に支払った給与を現金で返金させる等の悪質な企業が存在する。近年、そのような企業が多額の罰金を支払うこととなった事例も存在するため、注意が必要である。
ビザの種類
シンガポールにおいて外国人が取得可能な主なビザの種類は以下の通りである。
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Employment Pass
外国人で認定専門資格の保有者がEmployment Pass(EP)の適用対象となっている。2020年9月1日から、EP申請の要件とされる最低給与額は4,500シンガポールドルに引き上げられた。なお、金融業に従事する者については、2020年12月1日より最低給与額は5,000シンガポールドルに引き上げられた。かつ、前記の最低供与額は2023年9月1日より5,000シンガポールドル及び5,500シンガポールドルにそれぞれ引き上げられる。EP保有者の家族は、Dependant's PassおよびLong Term Visit Passの申請を行うことができる。既存のEPを持つ者の更新については、2023年9月1日から当該新基準が適用されている。
2023年9月1日から、最低給与額に加えて、COMPASSという評価基準にて40点以上を取得する追加条件も適用される。COMPASSでは、実際賃金、資格、従業員一同の多国籍性、シンガポール人・永住民の雇用状況等の要素が評価される2。
すでにEPを保有している外国人のEP更新については、期限の6か月前以降に申請することで最長3年間までの更新が認められる。
さらに、シンガポールでは2014年8月より外国人就労規制が強化され、シンガポール人に雇用の機会を与えることを目的として、外国人を雇用するためにEPを申請する会社は、まずMyCareersFuture.sg (旧JobsBank)と呼ばれるウェブサイトにおいて、当該ポジションに対するシンガポール人および永住権保持者を公募することが義務付けられている。但し、従業員数が10名未満の会社や月給20,000シンガポールドル(2023年9月1日からは22,500シンガポールドル)以上のポジションである場合には、MyCareersFuture.sg(旧JobsBank)への掲載が免除される。
また、グループ企業内における異動(Intra-Corporate Transferee、以下、「ICT」という)に伴うEPの申請である場合、MyCareersFuture.sg(旧JobsBank)への掲載が免除されてきた。この点、MOMは、ICTを利用したEPの申請に対する新たな要件を明らかにした。この新要件によれば、①原則としてEP申請者の家族はDPやLong-Term Visit Passの保有による帯同をできず、②ICT就労許可の期限が終了した場合、一般的にはシンガポールにおいて就労すること、シンガポールの永住権(Permanent Residency、PR)を申請することもできないとされている。したがって、ICTを申請する際、企業は注意が必要となる。
なお、MOMに当該新要件について確認を行ったところ、「今後、ICTについて、さらなる変更が行われる可能性がある」との回答を得た。このため、今後、ICTの取扱いについて、その動向を慎重に確認する必要があると言える。
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S Pass
「中級レベル」の熟練労働者に対する需要に対応するため、2004年に導入された。S Passについては、最低基本月給が2023年9月1日から3,150シンガポールドルに引き上げられた。そのため、S Pass申請のためには、高等専門学校または専門学校と同等の学歴・技術資格の保有者であること、関連する何年かの実務経験があること、固定月給が3,150シンガポールドル以上の給与が支払われること等が申請資格となる。既存のS Passを持つ者の更新については、2024年9月1日から当該新基準が適用される。
S PassおよびWork Permit(WP)保有の外国人労働者を雇用するためには、ローカルの労働者に対する外国人枠がある(Quota)。すなわち、シンガポール国民の雇用を脅かさないよう、一定数のローカルの労働者を雇用していないと、S Pass、WP保有の外国人労働者を雇用することはできない。
なお、Quota確保を目的とするローカルの労働者1名としてカウントされる最低月額給与額は、2020年7月1日に1,400シンガポールドルに引き上げられた。また、これに伴い、0.5名カウントできる最低月額給与額は650シンガポールドルから700シンガポールドルへと変更された。
さらに、会社は、S Passで雇用できる外国人労働者の比率制限(S Pass Sub-Dependency Ratio Ceiling)を守らなくてはならないが、この点については、2020年度予算において、建設業・造船業・加工関連業のS Pass Sub-Dependency Ratio Ceilingが、2023年1月1日から15%へ段階的に引き下げられた。製造業については、S Pass Sub-Dependency Ratio Ceilingが、2023年1月1日からは、建設業・造船業・加工関連業と同様に、15%へ引き下げられた。
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Work Permit
Work Permit(WP)は、特定の分野で働く半熟練労働者、家事労働者、産褥アマ、バー、ホテル、ナイトクラブでの公演者、6カ月以下の研修を受ける外国人研修生のための就労許可証(Work Permit)の5種類がある。このうち、現場作業員については更に上級技能者(R1)と基礎技能者(R2)に分けられる。WPの所持者は配偶者、21歳未満の未婚の実子および養子のためのDependant's Passは取得できない。
また、会社には、労働者数を管理するために毎月の外国人雇用税(Foreign Worker Levy)、技術開発課徴金(Skills Development Levy)の支払いが義務付けられている。
さらに、会社は、外国人労働者の雇用制限(Dependency Ratio Ceiling)を守らなくてはならない。外国人労働者の雇用制限とは、職場と業界における労働者の人数をもとにした外国人労働許可数の労働者数の最大雇用比率のことである。
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Personalized Employment Pass
EPは、特定の会社の下での雇用に対して発給されるものであるため、EPの保有者は離職した場合、シンガポールから出国せざるを得ない。EPの保有者が引き続きシンガポールで就労することを促進するためPersonalized Employment Pass (PEP)が導入され、同制度では、外国人就労者は離職後も最長6カ月間シンガポールに滞在し、新たな就職先を探すことができる。
PEP保有者は、すでに有効な雇用パスを保有する申請者の場合は、月額固定賃金による年間総所得が各年度において、22,500シンガポールドル以上、新規申請者の場合は18,000シンガポールドルなければならないほか3、それを証明する所得申告を含めて、個人情報に関する変更を随時MOMに届け出なければならない。(しかし、両場合の最低基本月給は2023年9月1日より22,500シンガポールドルに引き上げられる。)PEPは、EPの保有者又は一定の資格基準を満たすもののみを発給対象とする。PEPは1回限りしか交付は認められず、3年間の有効期限付きで更新はできない。
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Entre Pass
Entre Passは、外国人起業家に適した就労許可書で、シンガポールで新たな事業を立ち上げようとする者、又はシンガポールで法人を設立して6カ月未満のもので、かつ①起業家(Entrepreneur)(政府公認のベンチャーキャピタル等から最低100,000シンガポールドルの資金調達を受けている等)、②革新者(Innovator)(公認の国家知財管理機関(approved national IP institution)に登録された知的財産を保有している等)、③投資家(Investor)(大企業における上級管理職または役員として最低8年間の経験がある等)のいずれかの基準を満たす者に申請資格が認められる。
Entre Passは更新可能で初回及び更新1回目までは1年間有効、更新2回目以降は2年間有効である。
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Dependant's Pass
EP保有者、S Pass保有者、PEP保有者、Entre Passの条件を満たす外国人については、その配偶者又は21歳未満の未婚の実子および養子は、Dependant's Pass(DP)の申請を行うことができる。DPはEPや他のWP等に付属する形となり、EP等が無効となれば、同時にその効力を失う。
DP保有者が就労を希望する場合、会社はMOMにLetter of Consentを申請し、認められた場合にはDP保有者は就労をすることが可能であったが、この制度は廃止され、DP保有者が就労を希望する場合には、EP、S Pass、Work Permitのいずれかを取得することが必要となった。
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Long Term Visit Pass
EP、S Pass、PEP保有者、又はEntre Passの条件を満たす外国人は、内縁関係にある配偶者、配偶者、未婚で障害のある21歳以上の子、未婚で21歳未満の継子、月額一定以上の給与を得る両親などに対し、Long Term Visit Passの申請を行うことができる。
Long Term Visit Pass保有者がシンガポール国内で就労を希望する場合、EP、S Pass、WPなどのいずれかの就労の許可を別途取得しなければならない。
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Tech.Passの導入について
2021年1月19日、シンガポール政府は情報技術分野の人材の誘致へ向けて、新たにテック・パス(Tech.Pass)と呼ばれる就労許可を導入した。通常の就労許可は、MOMが監督官庁であるが、テック・パスは経済産業省(Economic Development Board)が監督している。初回の発給枠は500人に限定されているが、適宜、拡大が予定されている。
テック・パスの取得要件
2021年1月19日から申請を受け付けているテック・パス取得には以下の要件のうち2つを満たすことが求められ、非常に高度な要件が求められている。
- ・直近(1年以内)の月額固定給与支給額が少なくとも22,500シンガポールドル4であること
- ・評価額/時価総額が5億米ドル以上もしくは資金の調達を3,000万米ドル以上行なったテクノロジー企業にて少なくとも累積5年以上の主導的役割を担ったことがあること
- ・アクティブユーザーが10万人以上、もしくは年間収益が少なくとも1億米ドルあるテクノロジー製品の開発において少なくとも累積5年以上主導的役割を担ったことがあること
テック・パス取得者の自由度
上記のように取得要件は厳しい一方、取得者の勤務の自由度は高く設定されている。通常のEmployment Passなどのビザは就職先が固定されており、自らで起業をしたり、複数の企業に勤務したりすることは原則禁止されているが、テック・パス取得者は、シンガポールに来て起業する、複数の企業の従業員やアドバイザーになることなどが認められている。主なテック・パス取得者の特徴は以下のとおりである。
- ・1つ以上のテクノロジー企業を起業、運営できる
- ・1つ以上のシンガポールに拠点をおく企業の従業員にいつでもなることができる
- ・従業員と起業家との間を自由に変更できる
- ・コンサルタントまたはメンターになる、高等教育機関にて講義をする、もしくは1つ以上のシンガポールに拠点をおく企業の投資家または取締役になることができる
- ・配偶者、子供および両親がシンガポールに滞在するためにMOMから扶養者パス(DP)、長期滞在パス(LTVP)の発行を受けることができる
- ・更新の要件を満たした場合、さらに2年更新することができる
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Overseas Networks & Expertise (ONE) Pass
ONE Passはビジネス、美術、文化、スポーツ、学界及び研究において一番優秀な人材にアピールする就労ビザである。
Tech.Passと同様に、他の就労ビザと比べるとONE Passの保有者は生活上の柔軟性が与えられている。なぜなら、ONE Passは職業ではなく保有者本人につくため、同保有者は同時に複数の職業を持ったり、自身により起業したりすることができる。すなわち、転職する場合に改めてした就労ビザの申請が不要となる。なお、ONE Pass保有者の雇用主においては外国人労働者割当および雇用税は課されない。
- ONE Pass保有者はその親族のために、以下のビザを申請する資格を有する。
- ①DPの資格:法的配偶者、未婚子供(21歳未満)
- ②LTVPの資格:親、内縁配偶者
なお、ONE Pass保有者の配偶者はDP保有者としてLetter of Consentに基づいてシンガポール国内にも就労できるとされる。
ONE Passの基本有効期間は5年となり、毎回5年の更新ができる。収入要件は基本的に(申請時点の過去一年以内の、またはシンガポールの内定元に基づく)少なくとも月給3万ドルとされたものの、厳密な要件ではなく、関連分野にて優秀な実績がある場合、前記要件を満たさない場合においても、ONE Passの資格を有する。