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フィリピン労働法制

フィリピンでは、労働者の保護に手厚い法制が敷かれており、労働法は賃金区分等の限定などなく、原則としてすべての労働者に適用される。フィリピンでは従業員解雇に、重大な違法行為があった場合等労働法上列挙されるいずれかの事由が必要とされており、雇用主からの一方的な解雇は認められておらず、人員削減の場合にも、原因と各従業員の勤務期間に応じた解雇手当の支払いが義務付けられている。

外国人の就労については比較的寛容な政策がとられており、海外からの一定以上のスキルを有する労働者の就労は歓迎されている。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

労働者保護に配慮した労働法制

フィリピンにおいては、労働者保護に手厚い法制が敷かれている。すなわち、フィリピンの労働法制の基本となるフィリピン労働法(Labor Code of the Philippines大統領令442号)(以下、「労働法」という)は、シンガポールやマレーシア等と異なり、賃金区分等を問わず基本的にすべての労働者に適用され、固定期間で自動的に雇用が終了する定期雇用が認められる場合が厳格に限定されている。

また、会社による労働者の解雇は法定の限定された事由がある場合にのみ認められる点、会社に各種社会保障制度への加入義務が課せられる点等も労働者保護に配慮した特徴であるといえる。

コモン・ロー法制の一部採用

フィリピンの法制度は基本的に、大統領・議会による制定法に基づく運用が行われており、労働法制も基本的に大陸法系であるといえるが、アメリカ法を受け継ぐコモン・ロー法制も一部で採用されており、法を厳格に適用した場合に労働者側に不利に働くような場合には、コモン・ローないし衡平法の観点からの調整がなされうる。また、各種制定法のほか、各ケースによる判断を基にした規範も法的拘束力を持ちうる。
※コモン・ロー/シビル・ローの概略
「コモン・ロー」とは、イギリスのほかかつて大英帝国領であった諸国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で中心に採用されている、伝統・慣習・先例に基づいて判断してきた判例を重視する法体系を指す。
他方、「シビル・ロー」とは、フランス・ドイツなどの大陸側で発達した概念であり、コモン・ローに比べて制定法を重視する法体系である。なお、日本は、シビル・ローの法体系に属する。

社会保障制度

上述のとおり、フィリピンにおける社会保障制度は他国に比して手厚い内容となっており、大きく分けてSocial Security System(SSS、年金・雇用・出産に関する基金)、 Philippine Health Insurance Corp(PhilHealth、健康保険)及びHome Development Mutual Fund(HDMF、持家促進相互基金)が存在する。これらについて、会社は、一定年齢以下で一定の収入を有する全労働者(試用期間中を含む)をカバーしなければならない。会社がこれらの保障制度の掛け金を支払わない場合には、支払い開始までの遅延利息等のほか、罰金や会社の代表者が禁錮刑(imprisonment)に処される可能性もあるため、注意が必要である。

雇用契約の解除

フィリピンの解雇法制は労働者に非常に有利に設定されており、会社は労働法に規定された事由がある場合以外は労働者を解雇することはできないことに、日本企業は注意する必要がある。

一方、労働者側から雇用契約を解除することは、原則的に、1カ月の事前通知を行えば、いつでも可能であり、更に会社側による犯罪行為があった場合その他一定の場合には、会社に対して事前通知なく直ちに労働契約の解除(退職)をすることもできる。

海外への人材派遣ビジネス

フィリピンにおいては周知の通り、国民による海外への出稼ぎが盛んであり、海外労働による収入額はGDP比の10%に達するといわれる。これに合わせて、この出稼ぎを支援するための海外への人材派遣ビジネスが行われている。このビジネスは規制業種であり、資本の75%以上がフィリピン国籍者により所有・支配されている法人等において、当局の認可を取得した場合にのみ従事することができる。

ビザ等

フィリピンにおいて外国人が6カ月以上就業する場合には、労働局(Department of Labor and Employment、以下「DOLE」という)が発行する外国人雇用許可及び出入国管理法に基づく雇用ビザをそれぞれ取得する必要がある。一方、就業期間が6カ月を超えない範囲で就労する外国人は、入国管理局が発行する特別就労許可を取得すれば足りる。

この点、雇用ビザは、事前にフィリピンでの雇用契約が結ばれている外国人に対して発給されるものであり、通常2年間の滞在が認められ、その後ビザ発給要件を満たしている限り、何度でもビザの更新は可能である。このほか、事前にフィリピンでの雇用契約が締結されていないビジネス目的で入国する外国人に対して発給され59日間以内の滞在が認められる「一時入国ビザ」、多額の貿易取引・投資目的での入国を目的とする貿易ビザや投資ビザが存在する。

一般に、これらのビザや就労許可については、必要書類が揃ってさえいれば、取得すること自体はそれほど難易度が高くないといえる。

労働基準の執行状況

フィリピン労働法第128条(番号変更後)および共和国法第11058号に基づく労働基準の管理および執行に関する規則(DOLE Department Order No 238-23)は以下の事業所が監査の優先調査対象となるとしている。

 (1)危険な仕事に従事している場合

 (2)子供や女性を雇用している場合

 (3)建設プロジェクト

 (4)フィリピン籍の船舶または国内輸送に従事する船舶

 (5)漁船

 (6)請負および下請け取引に従事している場合

 (7)シングルエントリーアプローチ(SENA)の紹介、匿名の苦情、または検査要請を取り扱う場合

 (8)その他、労働雇用長官が決定する事業所


また、DO238-23は、通常の監査、申立てによる監査、労働安全衛生基準調査に加えて、労働局が面会者権限と執行権限を行使できる新たな方法として、以下の3つの場合が労務監査の端緒となりうるとされている。

 (1)技術的および諮問的な訪問

 (2)労働監査

 (3)労働安全衛生(OSH)調査(規則第III条第1項)


使用者は、すべての事業所において雇用記録を少なくとも3年間保存することが義務付けられている。記録開示を拒否した場合、刑事処分の対象となる場合がある。

労働監督官による調査または監査の結果、労働基準法違反への対応に不備があった場合、地域監督官により行政指導が行われる。

近時の動き

COVID-19による公衆衛生上の緊急事態の解除に関連する職場における公衆衛生の最低基準に関するガイドライン(Labor Advisory No. 23, Series of 2023)

COVID-19による公衆衛生緊急事態の解除に関連して、DOLEは、使用者はワクチン接種を拒否または怠った従業員を差別してはならないと強調している。また、"No vaccine, no work policy "は禁止されるとしている。使用者は同様に、職場の衛生設備を確保しなければならない。最後に、使用者はワクチンの費用を含め、職場の病気や疾患の予防・管理対策にかかる費用を負担しなければならないとしている。

使用者は、一連のDOLE Advisory(2022 年)に従い、事業所報告システムを通じて労働災害報告書を毎月提出し、事業所を管轄するDOLE地域事務所に年次医療報告書を提出する必要がある。COVID-19 陽性症例の地方自治体(LGU)への報告も同様に行う必要がある。

公衆衛生緊急事態の間のみ有効であった本ガイドラインの付属書Aに記載された通達類、および本ガイドラインに反するその他の発行物は取り消されている。

基本的な労働法制の概要

労働に関する法制度の概要

フィリピンにおける労働法制は、1974年に制定された「労働法」であり、以下のように、雇用に関する事項全般についての基本的な規定が置かれている。

  • 採用及び労働者の配置(第13条-第39条)
  • 労働条件及び休息期間(第82条-第96条)
  • 賃金(第97条-第129条)
  • 労働者の健康安全・社会保障(第162条-第217条)
  • 労働組織・団体交渉・ストライキ(第240条-第292条)
  • 雇用の終了(第293条-第302条)

フィリピン労働法(Labor Code of the Philippines)

上記のとおり、現在のフィリピンにおける雇用契約関係を規律する中心的な法律である「労働法」は、概ね以下のような内容となっている。

  1. 適用対象

    労働法は、農業従事者を含むすべての「労働者」に適用される。そして「労働者」とは、雇用されているか否かを問わず、労働力となるすべての者を含むとされている。
    ただし、労働時間、週休日数、休日、業務奨励休暇(年次有給休暇)、及び賃金サービスチャージに関する労働法の規定(第3巻「労働条件」第1章「就労条件及び休暇」)は、公務員、管理職、現場作業員、使用者の扶養家族、家事労働者、パーソナルサービスに従事する者、及び労働長官(Secretary of Labor)が定める規定に基づく成果型労働に従事する者には適用されない(労働法第82条)。

  2. 雇用形態の種類

    フィリピンにおける雇用形態としては、①通常雇用(Regular Employment)、②簡易雇用(Casual Employment)、③プロジェクト雇用(Project Employment)、④季節性雇用(Seasonal Employment)及び⑤定期雇用(Fixed-term Employment)がある。これらの概要は次の通りであるが、一般には①通常雇用が利用される。このうち特に⑤定期雇用については、6か月間の試用期間内に雇用を終了させて改めて新規雇用するといった会社側による悪用が蔓延し、いわゆるENDO(end-of-contract)問題として社会問題化している。この問題は国会でも議論となっており、是正に向けた法案は、前大統領によりいったんは拒絶された。しかし、現政権は大統領が同法案の修正、再提出、微修正に意欲的であることから、改めて検討している。

    雇用形態
    概要
    ①通常雇用
      (Regular Employment)
    会社の通常のビジネスまたは取引に通常必要な業務に従事している場合で、特定のプロジェクトまたは季節によらないもの。雇用期間は特に設けられない。
    ②簡易雇用
      (Casual Employment)
    通常雇用に該当しない場合。ただし、継続的・断続的を問わず労働期間が1年を超える場合には、通常雇用とみなされる。
    ③プロジェクト雇用
      (Project Employment)
    業務内容が特定のプロジェクトに紐づいており、そのプロジェクトの終了により雇用期間も終了する場合。
    ④季節性雇用
      (Seasonal Employment)
    1年のうち特定の期間(季節)においてのみ従事することが本来的に予定され、雇用期間もその期間の終了時に満了する場合。
    ⑤定期雇用
      (Fixed-term Employment)
    雇用の開始日と終了日が雇用関係発生前に確定している場合。会社による安易な解雇の口実とされることを防ぐため、固定期間雇用は厳格に制限されており、その期間の合意が真に任意になされたこと、及び合意内容が平等であることが求められる。

    このほか、労働法第106条において、請負(Contractor)・再請負(Subcontractor)の形態が認められている。すなわち、会社(就業先)が他人との間で、就業先の業務の遂行のために契約を締結し、他人(請負人)または再請負人(いる場合)が(請負人・再請負人の)労働者に、就業先で業務させる形態であり、その場合には、同法の規定に従い賃金の支払いを受けることになる。この支払いが行われない場合には、就業先及び請負人・再請負人が連帯して責任を負うことになる。

    一方、請負または再請負の形式をとりつつも、請負人または再請負人に実質的な資産・設備・業務場所等がなく、労働者の業務がその就業先の本質的な業務に直接関連する場合には、その請負人・再請負人は、その就業先の単なる代理人としてみなされ、就業先は労働者を直接雇用していた場合と同様の責任を負うことになる(労働力のみ請負(“labor-only” contracting)の禁止)。

  3. 試用期間

    労働法においては、試用期間(Probationary Employment)についても定められている(同法第296条)。

    この試用期間は、労働者の業務開始から6カ月を超えない期間において認められ、期間中、会社は、通常の解雇事由がある場合のほか、雇用時に労働者に通知された明確な基準により通常雇用に耐える能力がないと判断する場合にも雇用関係を終了することができる。ただし、会社は、この「明確な基準」の内容を試用期間開始時に契約書・就業規則等において労働者に明示しておく必要があり、これが明確になっていない場合には、雇用関係を終了させることが認められず、試用期間終了後に通常雇用に移行しなければならない。また、試用期間を超えて業務が継続される場合には、通常雇用として採用されたものとみなされ、法定の事由がない限り解雇が認められないことになる。

    よって、会社としては、契約書・就業規則等において明確な基準を記載し、雇用時に労働者に説明することが望まれるといえる。

  4. 労働時間制度

    労働法においては、労働時間についての規定も置かれている(同法第82条-第90条)。

    まず、1日の労働時間は8時間を超えることはできず、業務時間中の短時間の休憩時間のほか、会社は最低60分の労働時間外の食事休憩を与えなければならない。

    また、会社は7日に1回は必ず、連続24時間以上の休息時間(Rest Period)を労働者に与えなければならない(労働法第91条)。

  5. 休暇制度

    フィリピンにおける法定の年次有給休暇は、業務奨励休暇(Service Incentive Leave)と呼ばれ、勤続1年以上の労働者に対して与えられる(労働法第95条)。日数は勤務年数を問わず、年間5日間である。ただし、この業務奨励休暇は、次のような労働者には適用されない。

    • 既にこの休暇を取得している労働者
    • 5日間以上の有給の長期休暇(Vacation leave with pay)を取得している労働者
    • 常時10名未満の労働者しかいない会社に雇用されている労働者

    有給の出産休暇(Maternity Leave)は、女性労働者に対して、産前産後を合わせた形で最大105日まで認められており(取得時期については産前産後を問わない)、加えて30日間の無給休暇の取得も可能である。当該女性労働者がSolo Parents’ Welfare Act of 2000 (Republic Act No. 8972)における一人親に該当する場合、これに加えて15日間の有給休暇が認められる。

    このほか、父親の育児休暇(Paternity Leave)、シングルペアレント用育児休暇(Parental Leave for Solo Parent)、女性特別休暇(Special Leave Benefits for Women)、女性及び子どもに対する暴力の被害者のための休暇(Leave for Victims of Violence Against Women and Their Children)が有給休暇制度として存在する。

  6. 社会保障制度

    フィリピンにおける社会保障制度には、大きく分けてSocial Security System(SSS、年金・雇用・出産に関する基金)、Philippine Health Insurance Corp(PhilHealth、健康保険)及びHome Development Mutual Fund(HDMF、持家促進相互基金)が存在し、会社は、一定年齢以下で一定の収入を有する全労働者(試用期間中を含む)に対してそれぞれ加入させることが義務となっている。

    なお、関連法令上、会社がこれらの保障制度の掛け金を支払わない場合には、支払い開始までの遅延利息等のほか、罰金や会社の代表者が禁錮に処される可能性もあるために注意が必要である。


    SSS(年金・雇用・出産に関する基金)

    現在のSSSの制度は、Social Security Act of 2018(Republic Act No. 11199)により概要が定められており、主な内容は次の通りである。

    項目
    概要
    対象
    すべての60歳以下の労働者(被雇用者)及び自営業者、専門職等(1年以上サービス提供したDomestic Workerも含む)。また、労働者の配偶者で家事を専業で行う者や、外国企業に雇用され外国で働く者については任意加入とされている。
    月額給付金額
    次の金額のうち最も高い額。ただし、勤続10年以上の者に対しては最低1,200ペソ、勤続20年以上の者に対しては最低2,400ペソとする。
    (1)300ペソ+平均月額賃金の20%+10年以上の勤務の場合、10年を超える各年の平均月額賃金2%の合計
    (2)平均月額賃金の40%
    (3)1,000ペソ:ただし、最低支払い金額は60カ月分とする。
    保険料率等
    実際の月額賃金金額の幅ごとに定められる標準金額に対して、法定の社会保険料率(2021年は13%、段階的に引上げられ2025年には15%となる見込)を、会社および労働者が法定の負担割合で分担負担する(*)。更に労災補償分として10ペソ(定額。ただし、標準金額が月額15,000ペソ以上の場合は30ペソ)を会社が負担する。
    退職年金
    退職までに120カ月以上の保険料を支払い、かつ、(1)60歳以上である退職者、または(2)65歳以上の者は、上記月額給付金額が年金として支給される。なお、最初の18カ月分については、一定の利率を割り引いた一時金として受け取ることも可能である。 また、60歳以上で上記支給基準を満たさない者についても、退職して保険料の支払いが継続していない場合には、それまでに支払い済みの分を一時金として取得することも可能とされている。
    死亡年金
    36カ月以上の保険料を支払った者が死亡した場合には、その配偶者及び子が第一受益者として上記月額給付金額を支給される。配偶者も子もいない場合には、親またはその他指定された者が第二受益者として、36カ月分の上記月額給付金額を取得する。 また、これとは別途、葬儀手当として20,000-40,000ペソ相当の現金または現物が支給される。
    障害年金
    障害が認定される以前に保険料を36カ月以上支払っている者が永久的完全障害を負った場合には、障害年金が支給される。ただし、その者が再雇用された場合、障害が治った場合、適切な年次医療検査を受けなかった場合は、停止される。
    保護者(扶養者)
    年金
    死亡年金、障害年金または退職年金を支給されている者で、その年金の原因となった事象の発生以前に未婚の子(21歳未満の要扶養者)を有する場合には、子一人当たりにつき、上記月額給付金額の10%または250ペソのうち高い方の金額が支給される。ただし、支給対象の子の数は最大5人までである。
    傷病手当
    傷病直前の12カ月のうち3カ月以上の保険料を納付した者が傷病により4日間以上入院等した場合には、年間最大120日分の傷病手当が支払われる。
    出産休暇手当
    出産直前の12カ月のうち3カ月以上の保険料を納付した女性が出産または流産した場合には、一定の条件のもと、105日分(流産の場合は60日分)の出産休暇手当を取得する。
    https://www.sss.gov.ph/sss/appmanager/pages.jsp?page=ssbenefits参照

    SSSは2022年12月13日付通達第2022-033号により、保険料の改訂を行っており、2023年1月から適用される。
    なお、公務員に対しては、公務員保険機構(Government Service Insurance System:GSIS)が運営する年金制度が別途存在する。

    SSS通達第2022-033号は、SS負担料率を14%に、MSC(Monthly Salary Credit)の下限を4,000PHPに、上限を30,000PHPに引き上げた。
    共和国法(R.A.)11199の第4条または2018年社会保障法(Social Security Act of 2018)に基づき、14%の拠出率は2024年も維持される。

    施行年度
    負担料率
    使用者負担率
    従業員負担率
    最低月額賃金クレジット
    最大月額賃金クレジット
    2023
    14%
    9.5%
    4.5%
    PHP 4,000.00
    PHP 30,000.00
    2024
    14%
    9.5%
    4.5%
    PHP 4,000.00
    PHP 30,000.00
    PhilHealth(健康保険)

    現在のPhilHealthの制度は、National Health Insurance Act of 2013(Republic Act No. 10606)により概要が定められており、主な内容は次の通りである。

    1. 対象者の範囲
      PhilHealthにおいては、公務員、民間企業従業員、自営業者、家事従事者等を含み、移民や二重国籍者も対象となる。基本的にフィリピンにおける労働者はすべて含むに等しいと考えられる。また、それらの扶養者も対象となる。民間セクターにおける事業者は、このPhilHealthに加入することが義務づけられている。
    2. 保険料率等
      保険料は、各労働者の実際の月額賃金の幅ごとに定められる月額標準金額に保険料率を乗じた額となり(2021年については保険料率が3.5%であり、月額保険料は、月額標準金額10,000ペソ以下は350ペソ、10,000ペソ超から70,000ペソ未満は350.00~2,449.99ペソ、70,000ペソ以上は2,450ペソとなる)、会社及び労働者がそれぞれ50%ずつ分担する。労働者負担分については、賃金から毎月自動控除される。

    3. 今後の所得に応じて決定される拠出者の保険料率は以下のとおりである。

      年度
      負担料率
      収入下限
      収入上限
      2019
      2.75%
      PHP 10,000.00
      PHP 50.000.00
      2020
      3.00%
      PHP 10,000.00
      PHP 60,000.00
      2021
      3.50%
      PHP 10,000.00
      PHP 70,000.00
      2022
      4.00 %
      PHP 10,000.00
      PHP 80,000.00
      2023
      4.50 %
      PHP 10,000.00
      PHP 90,000.00
      2024
      5.00 %
      PHP 10,000.00
      PHP 100,000.00
      2025
      5.00 %
      PHP 10,000.00
      PHP 100,000.00

      2023年、PhilHealthの保険料率は4%から4.5%に、2023年の所得上限は80,000ペソから90,000ペソに引き上げられる予定であった。しかし、大統領府は、COVID-19パンデミックによってもたらされた社会経済的課題を考慮し、PhilHealthに値上げを一時停止するよう指示する命令を発行した。

      現時点では、2024年の引き上げを一時停止するような命令は発行されていない。したがって、PhilHealthはすでに2024年の4%から5%への引き上げを実施した。しかし、大統領は現在、保険料の値上げを一時停止するか、あるいは2024年には法令で定められた5%ではなく、年率0.5%(4.5%)の保険料の値上げにとどめるよう、保健長官の要請を検討している。

    4. 給付内容
      給付内容としては、大きく分けて次の4つが主なものであり、入院時の直近12カ月において、入院時の直近3カ月間の保険料、及び当該3カ月以前に6カ月以上の保険料(合計9カ月間)を納付している場合に給付を受けることができる。
       ・入院時の医療費(入院時のベッド代、食費、薬剤費、検査費及び診察費、医療教育パッケージ代金等)
       ・外来治療費(薬剤費、検査費及び診察費、予防医療費等)
       ・緊急時の搬送サービス
       ・その他、必要と認められるサービス

    これらの給付内容は、ケースごとにレートが定められている。1

    HDMF(持家促進相互基金)

    このHDMFは、Pag-IBIGとも呼ばれ、現在はHome Development Fund Law of 2009(Republic Act No. 9679)により概要が定められている。その主な内容は次の通りである。

    1. 対象者の範囲
      HDMFにおいては、上記のSSS及びPhilHealthの加入が法定とされている者が加入義務者とされる。すなわち、フィリピンの労働者のほぼすべてが対象に含まれることになる(60歳を超える者、月額賃金1000ペソ未満の家事労働者等を除く)。
    2. 基金の積立率
      HDMFの積立率についても、各労働者の実際の月額賃金の幅ごとに標準金額が定められており、労働者と会社がそれぞれ負担する。月額賃金が1500ペソを超えない労働者は1%、同金額を超える労働者は2%であり、会社側の負担は各労働者一律、月額賃金の2%である。労働者負担分については、賃金から毎月自動控除される。

      HDMF拠出金の引き上げは、2024年1月に実施される予定である。毎月の基金給与(MFS)は5,000ペソから10,000ペソに引き上げられ、それに伴い拠出率も1%から2%に引き上げられる。組合員の拠出金は2024年に100ペソから200ペソに倍増する。使用者も100ペソを拠出する予定である。
    3. 給付内容
      HDMFに加入している労働者は、所定の条件での住宅ローン(住宅購入時または増改築時)、多目的ローン、災害時のローン等を組むことができる。また、240カ月以上の積立を条件に、積立金の払戻しも認められる。
      また、加入者の死亡時には、相続人は積立金の払い戻しのほか、死亡手当を取得することもできる2
  7. 社会保障に関する日本・フィリピン間の協定

    日本・フィリピン間で相手方の国に派遣される企業の駐在員等においては、従前より、日本・フィリピン両国の社会保険制度に加入が義務付けられることから、①保険料の二重払いが発生し、また、派遣期間が短い場合には、②保険料が掛け捨てとなるという問題が存在していた。これらの問題を解消するため、2015年11月、両国において社会保障に関する協定が締結されている3

    この協定によると、①二重払いの問題の解消のため、相手方の国における滞在期間が5年以内の場合には派遣元の国のみ、5年を超える場合には原則として派遣先の国のみの制度に強制加入されることになる。また、②掛け捨ての問題の解消のため、両国における保険期間を通算できるものとされている。

  8. 労働者によるストライキの権利

    フィリピンにおいては、私企業に勤務する労働者がストライキを行う権利が労働法上、規定されており、ストライキは「産業上の紛争または労働争議の結果生じた労働者の協調行動により、発生する一時的な業務の停止」と定義されている(労働法第219条)。一方、同条によると、労働争議は、雇用条件について生じる争議であり、労働組合等の正当な労働者組織のみが合法的にストライキを行うことができる。また、労働組合のみがストライキ開始に関する通知を提出し、ストライキに関する決議を行うことができるため、労働組合に加入していない労働者はストライキを行うことができない。

    ストライキの類型として、団体交渉の行き詰まりによって生じる、いわゆる経済的ストライキ、及び労働法第259条に列挙されている会社による不当な労働行為に起因するストライキの2種類のみが認められる。有効なストライキを行うためには、労働組合が国家調停仲裁委員会(National Conciliation Mediation Board、 以下「NCMB」という)に対し通知を事前に提出し、労働組合が独占的な団体交渉に関する代表権を持たない場合を除き、ストライキの目的に応じて15日または30日間の冷却期間(Cooling Off Period)を待つ必要がある。またこの冷却期間中にNCMBの面前で調停に応じ、ストライキの秘密投票を実施し、その結果をストライキ開始日の7日以上前にNCMB及び会社に正式に通知すべきとされる。加えて、義務的または任意の仲裁判断に従うべき争議については、ストライキの対象と認められないことがある。

  9. フィリピンから海外への人材派遣ビジネスについて

    前述のとおり、フィリピンにおいては、活発な海外への出稼ぎ労働を支援するための人材派遣ビジネスが行われている。

    このフィリピンから海外への人材派遣業は規制業種であり、労働者の勧誘及び海外勤務先への派遣事業は、営業免許またはフィリピン海外雇用事務局(the Philippine Overseas Employment Administration 、以下「POEA」という)の認可を要する。この認可は、資本の75%以上がフィリピン国籍者により所有・支配されている法人、パートナーシップ、または団体のみが取得することができる。勤務先または船員の海外派遣事業の最低資本金額は、500万ペソである(POEAのフィリピン人海外地上職採用派遣に関する改正規則2016年及び船員採用派遣に関する改正規則2016年)。

    POEA の正式な認可なくこの派遣業に携わった場合、移民労働者法違反として刑事罰の対象となり得る。また、違反業者は勧誘派遣した労働者に対し民事上の責任も負う。違反者が法人の場合、刑事上の責任を負うのは、(a)その法人の支配権を有し、または運営、管理、監督する個人、及び(b)法人の担当責任者である労働者またはその代理人である。

就業規則の作成義務

会社は労働法及びその施行規則、その他関連法令上に規定されている範囲の労働条件(労働時間、休憩時間、休暇及び休暇時の給与、福利厚生としての各種休暇、最低賃金及び給与支払方法)及び労働者の解雇に関する実質的要件・手続きについては、就業規則(従業員手帳等)を制定する法的義務はなく、労働法上、必要的記載事項等も定められていない。実務的には、会社は労働者の活動を規制し、労使関係を管理するため特定の規則が必要と考えた場合についてのみ就業規則を作成するケースが多い。

但し、労働安全衛生法 (R.A. 11058, 以下「OSH法」という)とその施行規則(DOLE Department Order 198-18)では、対象となる職場は、以下の方針、指針または情報を含む安全衛生プログラムを有していなければならないと規定している4

  • OSH要求事項を遵守するためのコミットメントの表明
  • 薬物のない職場を含む一般的な安全衛生
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)および後天性免疫不全症候群(AIDS)/結核/肝炎の予防管理
  • 会社またはプロジェクトの詳細
  • 安全衛生委員会の構成と任務
  • 労働安全衛生の人員と施設
  • 安全衛生の推進、トレーニング、教育
  • ツールボックスミーティングの実施
  • 予期しない出来事・事故・疾病の調査、記録、報告
  • PPEの提供及び使用
  • 安全標識の設置
  • 粉塵の制御と管理、仮設構造物の建設、電気・機械・通信システム及びその他の機器の吊り上げ及び操作等の活動に関する規制
  • 労働者の福利厚生施設の提供
  • 緊急事態への準備と対応計画
  • 廃棄物管理システム
  • 禁止行為と違反に対する罰則

さらに、以下の事項については特別法及び関連当局の規定により、会社が個別に規則を定める法的義務がある。

 (1)セクシャルハラスメント(共和国法第7877号すなわち反セクシャルハラスメント法および共和国法第11313号すなわちセーフスペース法)

 (2)母乳授乳(共和国法第10028号または母乳授乳推進法及び労働雇用局令第143-11号)


2023年版Labor Advisory第19号は、職場におけるメンタルヘルス方針およびプログラムの実施に関する補足指針を提供している。

DOLEは、従業員がメンタルヘルスおよびセルフケアサービスを効果的に利用できるようにする使用者の責任を改めて強調した。したがって、使用者は、メンタルヘルスサービスを必要とする従業員に対し、相談、スクリーニング、診断、投薬、治療、心理社会的支援のための適切な施設を紹介しなければならない。使用者は、さらに医学的な治療が必要な従業員に対し、勤務上の便宜を図ることが奨励される。

使用者は、医療記録がデータプライバシー法に従って取り扱われ、年次医療報告書にメンタルヘルスプログラムに関する必要な情報を記載するよう注意喚起される。

賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要

賃金

労働法上、「賃金」とは、形式を問わず、金銭によって表せる形で、時間・業務・手数料その他の方法に基づき計算され、労働契約に基づき会社から労働者に支払われ、またはサービスの提供にあたり支払われる報酬、収入その他のものをいうとされる(労働法第97条(f))。

賃金は、労働者の明示的な求めがあった場合でも、法定通貨以外の約束手形、チケット、クーポンその他の形式で代替することは認められず、一方で小切手による支払いは認められる場合がある(労働法第102条)。

また、賃金の支払いは、最低2週間ごとまたは月に2回、16日以上の間隔を空けずに支払われなければならない。2週間では完了しない業務の対価としての賃金については、最長16日ごとの業務に対応した割合として支払われなければならない(労働法第103条)。

このほか、ホテルやレストランにおいてサービスチャージが徴収されている場合があるが、これについては労働法上、労働者に100%分配されるべきことが規定されている(労働法第96条)。

13カ月目手当

フィリピンにおいては、いわゆるボーナス(賞与)に関する一般的な法令の定めはなく、会社に賞与の支払い義務は存在しない。その一方で、The 13th-Month Pay Law(Presidential Decree No. 851)その他の関連法令に基づき、すべての会社に対して「13カ月目手当」(The Thirteenth-Month Pay)の支払い義務が課せられている。

すなわち、すべての会社は、その労働者(従業員)に対して「13カ月目手当」を行わなければならない(それ以外に賞与等を支払う法律上の義務はない)。この「13カ月目手当」は、1暦年間(Calendar Year)に1カ月以上労働した非管理職の労働者(Rank-and-File Employees)に対して、実際に支払った12カ月分の基本賃金合計額の1/12を支払うべきというものである。この「13カ月目手当」は、年の途中で退職した対象労働者に対しても、勤務月数に応じた支払いが必要となる。この支払いは原則として、毎年12月24日以前に行われる必要がある。

退職金

労働法第302条によると、会社に退職金に関する制度や合意がなく、労働者が60歳以上65歳(法定退職年齢)以下であって、その会社のもとで5年以上勤務した場合には、退職時に退職金を請求することができる。金額は、勤務1年ごとに半月分の賃金と同額の割合で認められ、6カ月以上の勤務期間は1年として計算される。例えば、勤続30年の労働者の退職金は15カ月分の賃金となる。

残業代

一日の労働時間が8時間を超える場合には残業代の支払いが必要となるが、この残業代については、平日の場合と休日(Holiday)・休息日(Rest Day)の場合とで扱いが異なり、前者は通常賃金(諸手当を含んだ現金の支給、以下同じ)の25%以上、後者は同30%以上の割増賃金の支払いが必要となる。また、労働法上、ある一日の勤務時間が所定の時間を下回っていたとしても、それを別の日の残業時間と相殺してはならない旨が規定されている。

夜間勤務の場合(午後10時から翌朝6時まで)は、更に通常賃金から10%以上の割増賃金が必要となる。

このほか、会社は次のような場合に、労働者に対して緊急の残業を要求することができるものとされている。ただし、この場合でも所定の残業代を支払う必要はある。

 (1)戦争時、または国・地方の緊急事態宣言が出された場合

 (2)重大な事故や天災に起因する、生命、財産、公共の安全等に対する実際のまたは差し迫った危険を防止するために必要な場合

 (3)機械・設備等に対する重大な損失または損害を防止するために作業が必要な場合等

 (4)腐敗しやすい商品に対する損失または損害を防止する必要がある場合

 (5)勤務8時間目に入る前に開始した業務につき、事業の重大な障害の発生を防止するために継続する必要がある場合等


休日等の勤務手当は概ね次の通りの形で認められる。

勤務した日
割増賃金等
休日(Rest Day)
通常賃金の30%以上の割増
勤務日でもRest Dayでもない日
日曜または祝日に行われた労働に係る賃金の30%以上の割増
特別休暇日
通常賃金の30%以上の割増
特別休暇日が休日と重なる場合
休日に行われた労働に係る賃金の50%以上の割増

最低賃金制度

フィリピンにおいては、各地域及び業種(農業・非農業)により、最低賃金基準が定められている。Wage Order第 NCR-24 号により、首都圏の民間部門の最低賃金労働者は、1 日あたり基本賃金 40 ペソ増額された。
首都圏における最低賃金は以下のとおりである。

産業種別
現在の最低賃金金額
新賃金増加金額
新最低賃金金額
非農業
PHP 570.00
PHP 40.00
PHP 610.00
農業(プランテーション・非プランテーション)
サービス業、小売業(従業員15人以下)
PHP 533.00
PHP 40.00
PHP 573.00
製造業(正規雇用従業員10人未満)

解雇の方法と留意点

概要

既述のとおり、フィリピンにおいては、労働者保護に手厚い法制が敷かれており、労働法は賃金区分等の限定などなく、すべての労働者に適用される。フィリピンの解雇法制は労働者に非常に有利に設定されており、会社は労働法に規定された正当事由(Just Cause、すなわち労働者側の理由)または承認事由(Authorized Cause、すなわち会社側の理由)がある場合しか、労働者を解雇することはできない。すなわち、フィリピン法はアメリカ法の影響を受けているものの、労働法は独自の制度を採用しており、アメリカのような理由なき解雇(At-Will Employment)は許容されていないため、日本企業は留意が必要である。

フィリピン法の解雇法制のひとつの特徴は、以下に述べるように労働者側の理由である正当事由(Just Cause)及び会社側の理由である承認事由(Authorized Cause)が分離されて労働法上に記載されており、これらについてそれぞれ別途の解雇手続が規定されている点である。

また、もうひとつのフィリピン法の特徴として、日本法における懲戒解雇に該当する正当事由(Just Cause)、日本法における整理解雇に該当する承認事由(Authorized Cause)は労働法に記載されているものの、能力不足による解雇などに代表される普通解雇が明示されていない点である。この点、能力不足に基づく解雇などを行うことが極めて難しい(場合によっては不可能である)ため、日本企業は普通解雇を行う際には細心の注意が必要である。

上記の正当事由または承認事由に基づかない解雇は、違法な解雇として解雇無効となり、会社は復職させる義務を負うとともに、不払い賃金及び手当の支払い義務及び発生した損害について賠償義務を負うことになる。

また、下記の解雇手続に沿わない解雇を行った場合、(仮に実際に正当事由または承認事由が存した場合は)解雇自体は有効となる可能性が高いが、会社は労働者に対して名目的損害賠償義務を負うことになるため、解雇手続きを慎重に行う必要がある。名目的損害賠償の金額は、種々の事情を総合的に考慮の上、決定されるが、裁判所及び労働審判廷は一般的には3万ペソから5万ペソの範囲で認めることが多いとされている。

労働者による解除

まず、労働者側から雇用契約を解除することは、原則的に、1カ月の事前通知を行えば、いつでも可能である。仮に、1カ月の事前通知がなかった場合、会社は当該労働者に対して損害賠償請求を行うことが可能である。

また、次のような場合には、労働者は会社に対して事前通知なく労働契約の解除(退職)をすることができる。

  1. 労働者の名誉及び人格に対する会社側からの重大な侮辱があった場合
  2. 非人間的かつ受容不可能な処遇が行われた場合
  3. 労働者本人またはその家族に対する犯罪または違法行為が行われた場合
  4. 上記に類似したその他の事由がある場合

会社による解除(解雇)原因

フィリピンにおいては、労働法上、正当事由(Just Cause)及び承認事由(Authorized Cause)の場合にのみ、解雇が可能である。

まず、正当事由(Just Cause)については、労働法297条に以下の通り規定されている。こちらは日本法における懲戒解雇事由に該当する事由が主に記載されている。

  1. 会社による適法な業務命令に対する重大な違反行為または意図的な不服従があった場合
    (軽微な違法行為だけでは労働者を解雇する正当な理由にはならず、労働者による違法行為が重大な性質のものであり、雇用者の下で働き続けるのに不適格であることが要求される。例えば、職場におけるセクハラ行為、暴力行為、上司に対する度重なる不適切な発言または暴言等が含まれる)
  2. 労働者が、その職務を重大かつ常習的に懈怠した場合
    (重大性及び常習性が求められており、職務怠慢が一度だけ、または散発的である場合は解雇の理由には該当しない。例えば、遅刻が一度あっただけでは、解雇の正当な理由に該当する可能性は低いが、常習的に遅刻する労働者が正式な許可も受けずにその後さらに1カ月近く欠勤した場合には、解雇の正当な理由に該当する可能性が高い)
  3. 会社またはその正当な授権を受けた者による信任に対し、詐欺的または意図的に違反した場合
    (当該事由に該当するためには、労働者が、信用・信頼される地位の者であることが要求され、管理職レベルの労働者や、現金出納係、監査役及び財産管理人等、会社の資金や財産を日常的に取り扱う者がこれに該当する可能性が高い)
  4. 雇用主、その近親者またはその正当な授権を受けた者に対して、犯罪または違法行為をした場合
  5. 上記に類似したその他の事由

次に、承認事由(Authorized Cause)については、労働法298条及び299条に以下の通りに記載されている。以下(1)~(4)記載の事由については、主に日本法における整理解雇に類似した事由が記載されている。

  1. 省力化を可能とする装置の導入
  2. 人員余剰(Redundancy)
    (人員余剰が解雇の理由として認められるためには、重複している職掌の存在が適切に証明されなければならず、かつ、重複している職掌及び解雇する労働者を決定する際には、公正かつ合理的な基準を以って決定したことも立証されなければならない)
  3. 損失を防止するための人員削減(Retrenchment to Prevent Losses)
    (損失の防止のため、縮小または削減が必要であることが、会社の監査済み財務諸表等の証拠によって証明されなければならない。また、想定される損失が単なる表面的なものではなく実質的なものであり、現実的にあるいは合理的に切迫したものであるとの要件も求められる)
  4. 閉鎖または操業停止
  5. 労働者が病気に罹患し、当該労働者による継続的な勤務が法律上禁止されているか、若しくは本人または同僚の健康に害を与える場合
    (上記の疾病を理由に解雇する場合、会社は適切な医療処置を6カ月間経た後においても、当該疾病が治癒しないことについて、医療機関から証明書を入手する必要がある)

上述の通り、解雇理由が限定されており、普通解雇が極めて難しいため、注意が必要である。

正当事由(Just Cause)に基づく解雇の手続き

上記の正当事由に基づく解雇の場合、まず会社は労働者に対し、どのような事由に基づき解雇手続を進めるかについて書面において通知(弁明の機会のための通知)しなければならない。そして、通知を行った後、当該労働者に対して聴聞の機会を与えなければならない。その際、弁護士などの支援を必要とする場合、支援の機会を与えなければならない。

当該聴聞を経た後、それでも会社が解雇手続を進めると決定した場合、当該決定について再度書面(最終決定通知)を送付しなければならない。

このように2種類の通知の送付義務があることに注意が必要である。

承認事由(Authorized Cause)に基づく解雇の手続き

上記記載の承認事由に基づく解雇の場合、少なくとも1カ月前までに、会社は当該労働者とともに、労働局(DOLE)に対して通知を行わなければならない。その際、いつ整理解雇を実行するのかも通知しなければならない。

また、承認事由に基づく解雇の場合はすべて、労働者は解雇手当の支給を受ける権利を有する。当該解雇手当の金額は、省力化を可能とする装置の導入及び人員余剰の場合は、原則、勤務1年につき1ヶ月分の給与と同額の解雇手当が必要とされる。他方、損失を防止するための人員削減、閉鎖または操業停止及び疾病の場合は、勤務1年につき半月分の給与と同額の解雇手当が必要とされている(ただし、閉鎖または事業停止の場合において、上記の解雇手当が不要とした判例も存する)。

外国人ビザの種類及び取得要件

フィリピンにおける外国人就業に関する制度

フィリピンでは、外国人が、6カ月以上に亘り就業する場合、労働局(DOLE)が発行する外国人雇用許可(Alien Employment Permit、以下「AEP」という)を取得する必要がある。また、後述の通り、フィリピンに就労目的で滞在する外国人は、AEPに加えて、雇用ビザを取得する必要があるので、留意が必要である。

AEPは、外国人が就業する職種がフィリピン人では従事が難しいこと、また、申請者がそれを履行する能力と意思を申請時点で持っていることが認定された後、申請者または申請者の会社に対して発行される許可証である。このAEPの有効期間は、1年以上5年以下となっており、許可なく6カ月以上、フィリピンで就労する外国人に対しては、1年あたり1万ペソの罰金が課される。

他方、就業期間が6カ月を超えない範囲で就労する外国人は入国管理局(Bureau of Immigration)が発行する特別就労許可(Special Work Permit、「SWP」)を取得する必要がある。このSWPは、3カ月有効であり、1回に限り延長可能となっている。SWPに基づき就労している外国人が就労延長を希望する場合には、SWPの期限が切れる21営業日前までに、DOLEにAEP取得を申請する必要がある。

ビザの種類

フィリピンにおけるビザは、出入国管理法(The Philippine Immigration Act of 1940, Commonwealth Act No. 613)及び関連規定に規定されており、その種類と概要は以下の通りである。なお、前述の通り、就労目的でフィリピン入国を希望する外国人は、AEPに加えて、出入国管理法9条(g)に基づいて、雇用ビザ(Prearranged Employee Visa)を取得する必要があるため、雇用ビザの取得については、後半で詳述する。

(1)ビザの種類・概要・取得要件

フィリピンにおけるビザは主に14種類があるが、ここでは就労やビジネスに関連するもののみを記載する。

ビザの種類
概要
一時入国ビザ
(出入国管理法9条(a)に基づく)
一時入国ビザは、フィリピン国内で雇用契約を締結していない、ビジネス、会議、研修、観光、スポーツ、映画の撮影、取材などを行う外国人に対し発給され、最大59日間の滞在が許可される(許可された滞在期間については、別途手続きを経れば、最長6カ月まで延長することが可能)。
貿易取引契約者または投資契約者に対するビザ(出入国管理法9条(d)に基づく)
申請者がフィリピンと申請者が国籍を有する国との間で多額の貿易の実施を目的として、もしくは、憲法及び法律に従って、申請者が既に投資している事業もしくは多額の資本を投資しようとしている事業の開発及び運営を目的として、フィリピンに入国する外国人及びその配偶者、未婚の子女(21歳未満)は、外国人が国籍を有する国において、フィリピン人が同様の扱いを受けるのと同じ条件で、本ビザを取得することが可能。
なお、本ビザの発給を受けることができるのは日本、米国、ドイツ国籍の者に限定されている。
雇用ビザ
(出入国管理法9条(g)に基づく)
事前にフィリピン国内での雇用契約が締結されている外国人に対して発給され、通常2年間の滞在が認められる。詳細は(2)に記載。
割当移住ビザ
(覚書回覧第RPL-11-003号に基づく)
割当移住ビザは、本ビザの発行数が毎年各国50件までに制限されており、ビザが承認されるかどうかは、その国とフィリピンとの外交状況及び互いのフィリピン人に対する入国特権付与の状況次第である。
特別非移住者ビザ
(出入国管理法第47条(a)に基づく)
フィリピン大統領が承認する場合、次の者は特別非移住者ビザの交付を受けることが可能である。
(1)石油掘削にかかわる者
(2)フィリピン経済区庁の登録企業
(3)投資委員会の登録企業
数次入国特別ビザ
数次入国特別ビザは特定の事業に携わる外国人に対して付与されるビザであり、数次入国特別ビザは有効期間1年で、毎年更新が可能。
特別ビザ
特別な法令に基づき、特定の要件を満たす場合において、特別ビザが発給されるケースがあるが、ここでは詳細は省く。

(2)雇用ビザについて

雇用ビザは、事前にフィリピンでの雇用契約が結ばれている外国人に対して発給されるものであり、初回取得時には1年、2年または3年の滞在が認められ、合計5年間までの延長も認められている。なお、ビザ発給要件を満たしている限り、何度でもビザの更新は可能である。

当該ビザにより就労しようとする者は、いかなるかたちの報酬にせよ明確な雇用契約書があること、またAEPの取得と同様に、申請者が就業する職種は、経営トップ、財務担当、高度な技術を要する熟練エンジニアなどフィリピン人では代替できない職種である必要があり、申請者はまた、仕事内容がフィリピンの国益に資することを説明する義務がある。

なお、申請者に同伴する配偶者、未婚の子女(21歳未満)についても、雇用ビザの発給を受けることができる。

雇用ビザの申請方法については、駐日フィリピン大使館では雇用ビザの申請受付を行っていないため、以下の順序で申請を行う必要がある。

まず、上記表で説明した一時入国ビザをフィリピン大使館にて申請及び取得し、次にフィリピンに入国後、申請者の会社と共同で、移民局に雇用ビザの申請を行い、一時入国ビザを雇用ビザに切り替える流れとなる。雇用ビザへの切り替えは、移民局での面談を受け、同局の承認を得た上で、許可される。

なお、雇用ビザ取得までには、最長6カ月程度要することが多かったが、2016年6月以降は、通常2~3カ月程度で発行されるようになり、ビザ発給手続が短縮されている。

申請時に必要な主な書類は以下の通りである。

  1. ① 申請者と会社共同の長官宛のビザ申請書
  2. ② 正式に承認された非移民ビザのConsolidated General Application Form (CGAF)
  3. ③ 申請者のパスポートの写し(身元情報及び直近の適法な滞在が承認された入国履歴)
  4. ④ 給与の詳細、雇用期間、企業内での役職の範囲及び内容が記載された雇用契約書、採用に関する秘書役の証明書(これに相当する書類)の写し
  5. ⑤ 申請者(会社)の直近の確定申告書、所得税の支払い証明書(納付書、銀行の領収書、Bureau of Internal Revenue(BIR、内国歳入庁)のeFPS支払い証明等)の写し
  6. ⑥ 法人または組合の場合、Securities and Exchange Commission (SEC、証券取引委員会)発行の会社登記簿、定款、SECの受領印が押印された当該年度のGeneral Information Sheet(GIS、一般情報シート)の写し
  7. ⑦ 個人事業主の場合、Department of Trade and Industry(DTI、貿易産業省)への事業名の登録証明書及び市長の許可証の写し
  8. ⑧ 労働局(DOLE)発行の外国人雇用許可(AEP)及び申請者の承認済みAEPの広告、または広告会社による広告の証明書の写し
  9. ⑨ 会社の外国人及びフィリピン人労働者数に関する公証された証明書
  10. ⑩ Professional Regulation Commission(PRC、職業規制委員会)による規制された職種を行う申請者に対する特別一時許可証
  11. ⑪ Bureau of Immigration(BI、移民局)によるClearance Certificate
  12. ⑫ 申請者がImmigration Operations Order No. SBM-14-059-AのA表に掲げられた国の国籍を有するものであり、2014年6月以降にフィリピンに入国したものである場合、Bureau of Quarantine Medical Clearanceの原本または謄本5

以上

5https://immigration.gov.ph/wp-content/uploads/pdf/visas/V-NI-007-Rev_1Conversion.pdf
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  1. 公開日:2017/09/17 更新日:2024/06/24