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マレーシア労働法制

同じ英国法をルーツにもつマレーシアとシンガポールの法制度は非常に類似しているが、労働法は異なる点が多い。例えば、マレーシアにおいて普通解雇を行う場合、当局の許可、労働組合の同意は必要とされていないものの、シンガポールとは異なり、正当事由が必要であり、解雇に至るまで慎重な手続きを取ることが重要となる。最低賃金命令(Minimum Wages Order 2022)が最低賃金を設定するなど、シンガポールよりも労働者に有利な労働政策がとられている。


他方、労働者の保護について定めた基本的な法律である雇用法の適用範囲が限定されるため、雇用法が適用されない労働者の労働条件は原則として当事者間で合意できるなどシンガポールに類似した点も多くみられる。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

コモン・ローと東部地域自治権

シビル・ローの法体系を採用する日本と異なり、マレーシアは、歴史的経緯により旧宗主国であるイギリスの影響を受けコモン・ロー(common law)の法体系を採用している。そのため連邦憲法、連邦議会による制定法及びその下位規則、州ごとの憲法、法律及び規則のほか、不文法である判例法についての知見が重要となる。

また、東部のサバ州およびサラワク州では歴史的背景から多くの自治権が認められており、法律はもとより法曹資格も異なる。労働法規についても州独自の労働法規を有しているため、当該地域の問題についてはその州の弁護士資格保有者に相談することが必須である。


※コモン・ロー/シビル・ローの概略
「コモン・ロー」とは、イギリスのほかかつて大英帝国領であった諸国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で中心に採用されている、伝統・慣習・先例に基づいて判断してきた判例を重視する法体系を指す。
他方、「シビル・ロー」とは、フランス・ドイツなどの大陸側で発達した概念であり、コモン・ローに比べて制定法を重視する法体系である。なお、日本は、シビル・ローの法体系に属する。

低収入・肉体労働者の保護

マレーシアは雇用法上の「労働者」に該当する労働者に対して様々な法規を定めている。会社は、解雇時には慎重な手続が要求され、労働者を解雇しにくいなどの特徴を持つ。また近年、会社側において外国人労働者の管理についての責任を問う政府施策が示されているため、会社においては雇い入れから雇用契約の終了に至るまでの各段階で注意が必要となる。特に、解雇等労働者にとって不利な扱いをする場合には、内部調査を始めとする証拠の収集・ヒアリングの実施等が必要とされる場合があるため、適正手続の実践についての配慮も欠かせない。雇用契約の改訂についても、労働者に不利益な変更は、後日の紛争を防止するためにも、労働者の契約内容変更にかかる合意を書面化する等の注意が必要となる。

労働者の黙示の権利、団体交渉

マレーシアでは契約や法律等によらず、労働者とは互いに信頼と尊敬を持たなければならないこと、不当な解雇からの保護等の判例・慣習で労働者に黙示の権利として認められているものがあるため、注意が必要となる。このうち労働組合の交渉については、日本と異なりDGTU(Director General of Trade Unions)に申請の上、登録され、かつ会社に認められた労働組合のみが団体交渉を行うことができるとされ、団体交渉の過程についても法律上の規制があるため、労働組合との交渉時には、そのような規制を確認することが推奨される。

近年の労働政策の状況

マレーシア政府は、2010年に発表した経済変革プログラム(Economic Transformation Programme)によって、様々な数値目標を定めていた。また、外国資本と優秀な外国人労働者の誘致を目的としたIT、福祉、観光をはじめとするサービス業の自由化を皮切りとして、政府は今後も労働法を含めた各分野の法制化を進めることが予想され、また、場合によってはこれまでの法制が見直される予定である。

労働法の分野では2017年1月1日にマレーシア国内で就労する外国人労働者に対する会社側の管理と責任を厳しくする規制が設けられている。また、2018年1月1日より外国人労働者にかかる年次人頭税(レビー)の負担が労働者から雇用主に変更され、残業代の支払い、病気休暇の付与、無許可の労働の禁止等が定められている。また、2023年1月には、労働法の適用範囲を大幅に拡大する大幅な法改正が施行された(以下では、この改正された雇用法を改正雇用法という)。

この他、近年注目されたものに最低賃金命令(Minimum Wages Order 2022)がある。マレーシアでは、かねてより最低賃金制度の導入を求める国民・労働組合側とコスト増を懸念して導入に反対する会社経営者側とで議論が重ねられてきたが、ついに最低賃金規制が設けられ、2016年7月に施行された。さらに、2019年1月、2020年2月、2022年4月に最低賃金命令が出され、最低賃金レートはマレーシア全土の従業員全員に対し月額1,500リンギット/時給7.21リンギットが適用されることとなった。最近では同命令に基づく罰則も適用され、17人の労働者に対して最低賃金を下回る支払いをした清掃業者に対し、治安判事裁判所(magistrate's court)が約30,000リンギットの支払いを命じている。

基本的な労働法制の概要

コモン・ロー制度上の労働法

労働法の分野では、連邦議会や州議会で制定された法律のほか、労働裁判所、高等裁判所、上訴裁判所および連邦裁判所の判例が重要となる。具体的事案において該当する規定や事例が存在しない場合には、英国その他のコモン・ロー制度採用国の判例等が参考になる。

実務上では、契約書が作成されている場合には契約書と異なる記載・契約書外の合意の効力が認められにくい点と一般法理としての信義則が採用されにくい点に会社は注意が必要である。例えば前者の契約書外の記載等については、1カ月以上に亘る雇用契約では書面作成をすることが義務付けられている関係で(雇用法2条1項、10条1項)、仮に契約書と異なる口頭での合意があったとしても契約書の記載が優先し、口頭の合意が認められないおそれがある。そのため、労使の合意事項については予め契約書面によって明確にしておくことが望ましい。

雇用法(Employment Act)

雇用法(Employment Act 1955)は、長らく一部の労働者に対して一定の保障を定める法律であったが、前述の2023年1月に施行された改正雇用法により、原則的に全ての規定が労働者に適用される。同法により、労働者は残業代の支払いを受ける権利並びに年次休暇、病欠及び産休を取得した際の賃金の支払いを受ける権利が保証されている。雇用法に違反した場合、罰則の対象となりうるため会社は注意を要する。

  1. 対象者

    従来の雇用法は、全ての労働者には適用されなかったが、改正雇用法は全ての労働者に適用される。ただし、月額の賃金が4,000リンギを超える労働者については、残業代、休日・祝日手当、解雇手当等の規定の適用がない点には注意が必要である。また、肉体労働者をはじめとする下記のいずれかに該当する者については、残業代、休日手当、解雇手当の規定は賃金に関わらず適用される。(雇用法2条1項、First Schedule)。
    なお、職人、見習い、商業目的で人員・物品輸送を行う技手・保守を含む肉体労働者※、肉体労働者の管理監督者、一定の船舶乗務員、家事使用人※※については月額の賃金が4,000リンギットを超える場合にも雇用法の全ての規定が適用される。(ただし、雇用法の一部の規定、特に支払われる賃金に関係なく適用される規定が適用されることに留意すること。)


    ※ただし、労働者が、業務の一定割合については肉体労働者として、別の一定割合については非肉体労働者として、会社と雇用契約を締結している場合には、賃金支払の基準となる期間につき、肉体労働の時間が全労働時間の半分を超えない限り、肉体労働者としては分類されない。
    ※※改正雇用法のもとで、「使用人」という文言は「労働者」へ変更された。


    サバ州およびサラワク州については同法が適用されないが、州の労働条例で類似の規定が設けられている。

  2. 各種保障

    雇用法は労働条件の最低水準を定め、これを保障している。契約の基本条項となるような賃金の支払い、労働時間、休憩時間、産休、女性雇用、子供と青少年に関する雇用、契約の終了、解雇、退職手当などについては、基準を下回るものに関して無効となり、基準を超え労働者の有利になるものについては合意した内容がそのまま効力を有する(雇用法7条)。なお、雇用法が適用されない労働者であっても、競合他社より低い条件を提示することは人材確保が困難になるため、雇用法に定める条件以上の条件を付与することが多くなっている。

    Cf.雇用法上の主な保障の内容 1
    概要
    保証の内容
    労働時間(60A条)
    1日あたり8時間、週45時間以内2
    時間外労働
    月104時間まで(雇用法規制3
    時間外手当(月給制の賃金の場合)(60,60A,60D条)
    勤務日・時間外      1.5倍
    休日・時間内 半日以下  1日分
    同 半日超1日以内    2日分
    休日・時間外       2倍
    祝祭日・時間内      2日分(時間外は3倍)
    祝祭日(60D条)
    1年のうち最低11日(うち5日所定)の祝祭日の休み、その他公休日として祝日法(Holiday Act 1951)に定める日の休み
    年次有給休暇(勤務期間により保障される日数が異なる(60E条))
    2年未満の場合      8日
    2年以上5年未満の場合  12日
    5年以上の場合      16日
    病気休暇(勤務期間により保障される日数が異なる(60F条))
    2年未満の場合      14日
    2年以上5年未満の場合  18日
    5年以上の場合      22日
    入院措置が必要な場合  最長60日 
    産休(37条)4
    連続98日(出産の直前30日から開始可能)

その他の法律

  1. 労働組合法

    1959年労働組合法(Trade Unions Act 1959)

    労働組合の活動や設立等について定めた法律である。

    1967年労使関係法(Industrial Relations Act 1967)

    会社と労働者・労働組合の関係を定めた法律で、労使間の労働紛争を解決するための手段が定められている。

  2. 社会保障

    1991年従業員積立基金法(Employees Provident Fund Act 1991)

    政府運用の年金制度である従業員積立基金について定めた法律である。会社及び労働者の加入が義務付けられている。

    1969年労働者社会保障法(Employee's Social Security Act 1969)

    勤務期間中及び勤務時間に事故に遭い、又は疾病にかかった労働者に対して、補償や財政援助を付与することができるよう保険制度を構築することを目的とした法律である。

    1952年労働者災害補償法(Workmen's Compensation Act 1952)

    業務中に事故に遭い、又は疾病にかかった労働者に、補償や財政援助を付与することができるよう保険制度を構築することを目的とした法律である。

  3. 労働者の安全保障

    1967年工場・機械法(Factories and Machinery Act 1967)

    工場労働者の安全、衛生、福祉に関する工場の管理と、機械設備の登録と検査について定めた法律である。同法は工場で働く労働者(性別を問わない)の安全と健康を保護し、全ての製造業者を対象とする。

    1994年労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act 1994)

    労働者の労働の際の安全と健康、福祉を守るための法的な保護を与える目的で制定されたものである。会社による施設・システムの安全検査・整備の義務付け、情報提供、指導、トレーニング、監督のほか、安全・健康規則の作成と実態に応じた適宜の改訂が求められる。安全衛生政策(Safety and Health Policy)に適うよう考慮しなければならない。

  4. 非居住者の雇用

    1959・1963年移民法(Immigration Act 1959/1963)

    マレーシア入国の許可、ビザの認可及びその手続等、移民並びに外国人労働者に関する事項について定めた法律である。

    1968年雇用(制限)法(Employment(Restriction)Act 1968)

    外国人労働者に特に適用される事項などについて定めた法律である。

  5. 労働者の訓練(2001年人材開発公社法(Human Resource Development Act 2001))

    労働者の訓練を促進し、人材開発公社とその基金の設立と管理を定め、会社からの基金拠出を義務付ける法律である。

  6. 定年法(Minimum Retirement Age Act 2012)

    民間企業における最低定年は60歳とされ、これより前に退職させた場合には労働者の復職や賠償義務を負い、また、10,000リンギット以下の罰金が科される。ただし、雇用契約や労働協約上で早期退職が認められている場合には、労働者の選択により早期退職することが可能である。2013年7月に施行され、従業員積立基金(Employees Provident Fund)拠出もこれに伴い60歳まで引き上げて継続することとなった。

  7. 若年者・子どもと青少年雇用法(Children and Young Persons(Employment) Act 1966)

    児童労働による搾取の予防を定めた法律である。15歳未満の子どもについては、原則として労働時間は1日6時間まで、午後8時から午前7時までの労働は禁止され、15歳以上18歳未満の者は原則として労働時間は1日7時間まで、午後8時から午前6時までの労働は禁止されているなどの制限が設けられている5

  8. 法律以外の主なガイドライン

    2022年最低賃金命令(Minimum Wages Order 2022)

    最低賃金を定めたものである。基本賃金を指し、賞与やその他の報酬は含まれない。(詳細は4章賃金を参照)

    1975年労使協調行動規範(The Code of Conduct for Industrial Harmony 1975)・整理解雇処置のガイドライン(Guidelines on Retrenchment Management)6

    労使関係構築の指針を定めたガイドラインであり、会社による整理解雇手続等を定めている。

    1999年職場におけるセクシャルハラスメントの防止・撲滅に関する実務規範(The Code of Practice for the Eradication and Prevention of Sexual Harassment in the Workplace 1999)

    セクシャル・ハラスメントを防止するための指針について定めたガイドラインである。

就業規則の作成義務及びその内容

法令上の作成義務

法令上、就業規則の作成は要求されておらず、就業規則についての定義・規定する法律は存在していない。しかしながら、社内運営について労働者により深く理解してもらい、会社の生産性を高め、未然に紛争を防止するため、多くの会社が就業規則をはじめとする社内規則を定めている。社内の慣習や方針への理解を求めたい場合には、全労働者に社内規則のコピーを配布したうえで担当者から口頭で説明を行い、労働者側において内容を理解してもらうほか、更に社内規則を十分に理解しこれに従う旨の署名入り書面を取っておくことも後の紛争の予防の観点から有益である。

就業規則を設けた場合には、就業環境に応じて適宜アップデートをすることに加え、周知することも大切である。掲示は、事業運営における会社の透明性、即ち会社側が労働者に不公平な扱いをしていないことを示し、労働者の信頼を得ることにも繋がると考えられる。

内容

就業規則で細部にわたり網羅的に全ての定めを置くことは現実的でないだけでなく、労働者の混乱を招くことがある。そのため、労使双方にとって特に重要な問題となる点、例えば、将来の懲戒手続に通ずる可能性がある事業分野について、具体的かつ明確に懲戒の対象となる行為を定め、労働者において懲戒対象行為を認識できるようにすることが望ましい。

記載内容例

マレーシアで一般的に就業規則に規定されているのは、以下のような項目である。

会社概要
・ビジョン、ミッション・ステートメント
・社史
・組織図
・主な商品やサービスの紹介
雇用条件等について
・労働時間
・賃金、賞与、昇給(評価基準/方法)
・各種手当(残業、祝祭日勤務等)
・各種保険(健康保険、年金等会社によって拠出されるもの)
・休暇・祝祭日
・秘密保持に関する条項
・試用期間(解雇を含む)
・解雇にあたっての事前通知期間
・退職金
・転籍/異動
・健康診断
・施設利用
会社の方針
・研修
・ドレス・コード
・顧客及び取引先との贈答品のやりとり
・昇進
・就業環境(セクシャル・ハラスメント、喫煙、安全等)
各種手続等
・懲戒
・昇進、業績評価(方法)、表彰
・欠勤/遅刻の報告
・休暇取得
・異動願
・事故の報告・届出
・緊急時の避難方法
・担保/保証
・会社に対する提案(目安箱)等
(参考:Aminuddin, Maimunah. MALAYSIAN INDUSTRIAL RELATIONS & EMPLOYMENT LAW. ninth edition Selangor: McGraw-Hill Education Sdn Bhd., 2016)

賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要

賃金の定義

賃金とは、雇用契約に基づいた労働の対価として労働者に現金で支払われる基本給およびその他すべての手当てをいう。ただし、以下のものは含まれない(雇用法2条1項)。


  • 住宅費、食事手当、燃料費、水道光熱費、医療手当、その他認められた福利厚生
  • 会社が自らの計算で支払う年金基金、退職積立、老齢退職手当、整理解雇・契約終了・レイオフ・定年退職に関する手当、貯蓄、労働者のためのその他の基金や福利厚生制度のための支払い
  • 旅費交通費・出張特別手当
  • 業務の性質上必要な、労働者に支払われるべき費用
  • 解雇や定年退職に対して支払われる給付金
  • 年次賞与の全部またはその一部

残業代は賃金に該当するが、賞与、退職金などの労働の対価でないもの及び雇用契約に基づかないものについては賃金に該当しない。なお、賞与については、雇用契約や就業規則に定めがない場合には、雇用法上、支払義務を負わない。

支払方法・頻度・支払額

賃金期間7は1カ月を超えてはならないと規定されているため(雇用法18条1項)、賃金は1カ月に最低1回以上支払わなくてはならない。現金で支払わなくてはならないが、労働者の書面による同意を得て労働者の銀行口座への振込や小切手による支払いをすることも可能である(雇用法25A条)。なお、現物支給は認められない。

残業手当は、支払額についても雇用法上の規制がある。

改正雇用法では、労働者が、①雇用開始が給与計算期間途中であったため、②期間満了前に退職したため、③期間中に無給休暇・欠席をしたために、1カ月に満たない労働となった場合、以下の計算式に基づいて給与を計算することが明記された(雇用法18A条)。

(月額給与/特定の賃金期間の日数) X (賃金期間の対象日数)

支払時期

原則として、賃金は賃金期間の最終日から7日以内(7日目が休日の場合にはそれ以前)に支払われなくてはならない(雇用法19条)。

雇用契約が終了した場合には、終了原因によって以下のように支払日が異なる。

  1. 期間の定めのある雇用契約が期間の満了により終了した場合、事前の通知により雇用契約が終了した場合及び会社が事前の通知によらないで雇用契約を終了させた場合には、会社は、賃金全額をその雇用契約の終了日までに支払わなくてはならない(雇用法20条、21条1項)。
  2. 労働者が事前の通知によらないで雇用契約を終了させた場合には、終了日から3日以内に賃金が支払われなくてはならない(雇用法21条2項)。(5章参照)

最低賃金命令(Minimum Wages Order 2022)

2022年最低賃金命令が2022年5月1日に施行され、新しい2022年最低賃金命令は、雇用地域によって従業員を区別しないため、最低賃金レートはマレーシア全土で月額1,500リンギット/時給7.21リンギットに引き上げられた。本命令はメイドなどの家庭内労働者には適用されない。

最低賃金レート
月額 日額 時給
RM 1,500 1週間の勤務日数 RM 7.21
6 5 4
RM 57.69 RM 69.23 RM86.54

賃金が基本給ではなく、出来高、数量、タスク、旅行、歩合に応じて支払われる場合も、上記基準に従い月額1,500リンギットを下回ってはならないとされている。

賃金の前借

  1. 金額

    会社は賃金を事前に貸すことができるが、利息を付することはできない(雇用法22条、24条1項c号)。その額は前月1カ月分の賃金を超えてはならないのが原則であるが、下記の目的での労働者による借入である場合にはそれ以上の金額の貸し付けが認められている。

    • 家屋の購入、建築、改築
    • 土地の購入
    • 自動車、バイク、自転車の購入
    • 勤務先の事業の持分購入
    • コンピューターの購入
    • 労働者又は近親者の医療費(改正雇用法で配偶者が含まれた)
    • 1969年社会保障法に定められた一時的就労不能に対する定期的な支払いを労働者が受け取るまでの間、日々の費用を支払うことができるようにするための支払い
    • 労働者又は近親者の教育費(改正雇用法22条で配偶者が含まれた)
    • 労働局長の承認がある場合 等
  2. 返済

    前借金はその後の賃金から控除し返済に充てることも可能であるが、控除額は原則として1カ月あたりの賃金の50%までとされている(雇用法24条8項)。

賃金からの控除

賃金からの控除が認められるのは以下の項目についてである。

  • 過去3カ月の間になされた会社の誤りによる過払い
  • 雇用契約違反に基づく補償
  • 前払い賃金の返済
  • 法律により認められている場合(従業員積立基金、労働者社会保障基金への出資等)

控除額は一賃金期間中に支払われる額の50%までが原則だが、労働者側から予告通知なく雇用契約を終了した場合や、労働者が会社に返済義務を負っている場合にはこの限りでない(雇用法24条8項、24条9項a,b号)。また、住宅ローンを新規で支払うときには、労働局長の事前承認を書面で得れば、最大75%まで控除することが可能となる(同条項c号)。

13カ月手当等

シンガポールのAWS(the Annual Wage Supplement)と同様に、マレーシアにおいても13th Month Salary(Bonus)等の名称で13カ月目の給与を支給する慣習があり、多くの企業が現実に支払いを行っている。この他にも更に個人の業績に応じた賞与やContractual Bonusとして1カ月程度の賞与を支払う企業もある。ボーナスの支払いについて雇用契約で支払いを明示した場合には会社に支払義務が生じるため、「業績による」旨の記載にとどめることが多い。

労働時間、時間外労働、休日・休暇

  1. 労働時間

    労働時間

    雇用法上、雇用契約において定めうる労働時間は原則1日8時間以内、週45時間以内と定められている(雇用法60A条。また、休憩時間を含めて1日最大10時間超拘束してはならない)。なお、旧雇用法においては原則1日8時間以内、週48時間以内とされていたため、45時間を超える勤務時間に対しては残業代を支払う等従前の労働時間の運用を見直す必要がある。労働時間数について規定されているものが45時間を超えている場合は、労働契約を修正する必要がある場合がある。

    なお、フレックスタイム制度については、改正雇用法において、労働者は、雇用主に対し雇用の就労時間、就労日もしくは勤務地の変更を申し出ることが出来るとされた(雇用法60P条1項)。当該申請を受領した雇用主は、60日以内に、これに対する承認もしくは却下をしなければならず、却下した場合には、その理由を書面で従業員に通知しなければならない(雇用法60Q条)。

  2. 休憩時間

    労働者は、5時間を超えて継続して労働する場合は、少なくとも30分の休憩が与えられなければならない(雇用法60A条(1)(a))。30分未満の休憩は、上記「5時間の継続性」を止めることは出来ない(同雇用法60A条(1)(i))。

    就業時間中におけるイスラム礼拝に関するガイドライン(Guidelines On The Performance Of Solat During Working Hour)は礼拝の時間につき、毎日の礼拝につき少なくとも各20分、金曜日の昼の礼拝は少なくとも1時間半を与えるべき旨、規定されている。実際には、月曜日から木曜日の日常の礼拝(Zuhur、Asar)については、勤務時間中に各15分程度祈祷時間を認めるという運用が多く(休憩時間ではなく)、金曜日については2時間程度の休憩時間を認めることが多い(人種間の格差をなくすため全従業員の休憩時間を2時間とすることが多い)。

  3. 時間外労働

    雇用契約書等で合意された通常の労働時間を超えて労働を要求された労働者のうち、月額の賃金が4,000リンギット以下の者については、時間外労働手当を受給する権利を有する(月額の賃金が4,000リンギットを超える者については、雇用契約書等で合意がある場合に限り同様の権利を有する)。

  4. 時間外手当
    (月給制の賃金の場合)
    勤務日・時間外
    休日・時間内 半日以下
    同 半日超1日以内
    休日・時間外
    祝日・時間内
    祝日・時間外
    労働者の時給の1.5倍*
    追加で半日分
    追加で1日分
    労働者の時給の2倍
    追加で2日分
    労働者の時給の3倍
    時間外手当
    (時給制・日給制の賃金の場合)
    勤務日・時間外
    休日・時間内 半日以下
    同 半日超1日以内
    休日・時間外
    祝日・時間内
    祝日・時間外
    労働者の時給の1.5倍
    追加で1日分
    追加で2日分
    労働者の時給の2倍
    2日分
    労働者の時給の3倍
    * 1.5倍を計算する際の基となる労働者の時給(hourly rate of pay)は、月給制の労働者については、月給(コミッションを除く)を26で割って日給を算出した上、これを通常の勤務時間(the normal hours of work)で割った金額である(60I条(1)及び(1A))。
  5. 休日・休暇(年次有給休暇、祝日、その他休暇など)

    マレーシアにおいては以下の休日・休暇が雇用法上認められている。なお、改正雇用法により月額賃金に関わらず休日及び各種休暇に関する規定が適用されることになった点に注意が必要である。

  6. 休日 週に1日(具体的な日にちは使用者が決める。勤務のない日が週に2日以上ある場合、その最後の勤務のない日が法律上の休日となる(59条1項)
    祝日 1年のうち11の官報祝祭日(うち5つの祝祭日は指定されている)およびその他公休日として祝日法(Holiday Act 1951)8条に定める特別日
    年次有給休暇(勤務期間により保障される日数が異なる) 2年未満の場合      8日
    2年以上5年未満の場合  12日
    5年以上の場合       16日
    病気休暇(勤務期間により保障される日数が異なる) 2年未満の場合       14日
    2年以上5年未満の場合  18日
    5年以上の場合       22日
    入院措置が必要な場合  最長60日
    産休 連続98日(出産の直前30日から開始可能)
    男性従業員の育休 連続7日間

普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のそれぞれの方法と留意点

解雇について

解雇は労働者の収入を奪うものであるため、紛争が起こりやすく、慎重に手続きをすすめることが望ましい。解雇は困難となる場合が多いとされ、不当解雇が後日争われることもあるため、トラブル予防のためには事前の客観的な証拠保全が重要となる。解雇はその原因によって、大きく①普通解雇②懲戒解雇③整理解雇に分かれ、会社が労働者を解雇するにあたっては、雇用法の適用の有無に関わらず原則として正当な理由(just cause or excuse)8が必要となり、解雇の原因・具体的な事案によって正当な理由の判断が異なる。

  1. 事前通知

    労働者及び会社は共に相手方に対して事前通知を行うことで雇用契約を終了させることができる。会社が労働者を解雇するにあたっては、原則として労働者の不正行為や成績不振といった正当な理由が必要となる点に注意を要する。

    事前通知の期間は、雇用契約書に解約予告通知期間の定めがあればこれに従い、雇用契約書に定めのない場合には雇用法の適用対象者においては雇用法12条2項による下記期間に従う。当事者間の合意で下記期間と異なる定めを設定することは可能だが、通知期間は労働者・会社双方に対して同一の条件を設定する必要がある(雇用法12条2項)。

    勤続年数
    必要通知期間
    2年未満
    最低4週間前
    2年以上5年未満
    最低6週間前
    5年以上
    最低8週間前
  2. 例外

    しかし、以下の場合には、例外として事前通知を要しない(雇用法13条)。

    • 相手方に対して、通知期間の間に労働者が受領できるはずであった賃金と同額の金額を支払った場合(雇用法13条1項)。
    • 相手方当事者による、故意に基づく雇用契約の違反があった場合(雇用法13条2項)。
    • 労働者が、自らの職務の明示的または黙示的な条件の履行に違反する不正行為を理由として解雇された場合であって、かつ適切な内部調査を行った場合(雇用法14条1項a号)。
    • 労働者またはその扶養者が、第三者により死、暴力又は疾病の危機に直ちにさらされている場合(雇用契約に予告通知を要しないとの記載がない場合を含む。)(雇用法14条3項)。

普通解雇

普通解雇とは整理解雇や懲戒解雇以外の解雇を指し、能力不足や勤務態度の不良など従業員の側に解雇事由がある場合に行われる解雇も含まれる。

  1. 普通解雇に至るまでの流れ

    成績不振を理由とする解雇も正当な理由となり得る。しかし、他の解雇手続と同様、個別案件ごとに正当な理由及び適切な手続きが必要と解されている。適切な手続きという面では解雇に至るまで労働者の能力を発揮させるために会社側として方策を尽くしていることを示し、書面等を通じて会社と労働者が十分にコミュニケーションをとることが重要と考えられている。労働者の成績不振には様々な原因が考えられるため、原因の究明とともに配置転換等の解雇回避の努力をすることが会社には期待される。

    成績不振を原因とする解雇につき、実務上は以下のような手続が一つの流れとして考えられている。

    1.  ① 下記事項を含む労働者に対する警告書の提示
    2.   ・労働者の業務上の具体的問題点(原因・理由)のリスト
    3.   ・成績が回復しない場合には解雇の可能性があること
    4.   ・改善のための必要期間
    5.  ② 評価期間(改善の機会として付与された期間)の実施
    6.   ・期間中の成績改善の監視
    7.   ・研修やトレーニング・コーチング機会の付与等
    8.  ③ 労働者の再評価・評価期間の延長又は解雇要否の判断
  2. 普通解雇の留意点

    労働者が成果を出せないことには様々な原因が考えられるため、原因の究明とともに本人の適性を加味し、配置転換をすることなどで解雇を免れうるのであればそのような努力をすることが会社には期待されている。また、会社が評価システムを構築している場合には、評価期間に入る前に、その内容や基準を労働者に示して認識してもらったうえ、再度業務にあたってもらうことが望ましい。労働者から評価システムとその内容等についての理解が得られたときには、評価システムについて理解した旨の署名をもらっておくと有用である。

懲戒解雇

懲戒解雇とは一般的に会社が労働者に対する懲戒の手段として解雇することを意味する。懲戒事由の有無・解雇という手段の選択の妥当性を含めて、紛争になる場合が多い。労働者保護に手厚く、解雇についての労働裁判所の判断が厳しいマレーシアでは、後の紛争になった場合に備え、会社は不正行為発覚後、関連証拠収集及び解雇にいたるまでの手続を慎重に行わなければならない。

  1. 対象行為

    不正行為は懲戒解雇の原因となる。不正行為には、不適切な行動、故意に基づく不正行為、意図的な規則違反等の労働者の義務(注意深く真摯に勤務しなければならないとの雇用契約上の黙示の義務を含む)に反する行為が含まれると解されている。不正行為には軽重があるが、原則として懲戒解雇の原因となる不正行為は重大なものである必要があると解されている。重大な不正行為は2連続営業日を超える無断欠勤9(雇用法15条2項)、上司の指示の不遵守、セクシャル・ハラスメント、盗難、暴力、詐欺等の犯罪行為、飲酒の上の業務遂行、薬物使用などが考えられる。

  2. 懲戒解雇に至るまでの流れ

    ① 不正行為の適切な内部調査

    不正行為が発覚し、懲戒解雇を行うことを検討する場合には、まずは不正行為の詳細を記載した書面を準備することが有用と考えられている。その準備のための社内調査は、不正行為防止の対策を十分に行っていたかも含めて一般的に次の事項の有無・内容を確認することが必要と解される。

    • 違反した規則の内容(明示・黙示問わず)
    • 不正行為の発生状況(日時、場所、場面)
    • 目撃者・証人の存否(いる場合には目撃内容の聴取)
    • 関連証人・関連情報の有無
    • 不正行為の物的証拠(書面・物証等)の有無

    調査期間中、書面(Show Cause Letter)により不正行為者に対して弁解を求めることも広く行われている。



    ② 社内審問手続(“Due inquiry”)

    ①で取得した不正行為の調査結果をもとに労働者を解雇するには、社内審問手続であるDue inquiryを経ることが要求されている(雇用法14条)10。本手続は以下に挙げるような公正な審問と予断が生じない規則により運営され、社内の第三者的機関により検証される。

    • 労働者が、懲戒手続にかけられている理由を書面により知ることができること(不正行為の日時や場所を特定してあること)
    • 労働者に審問および反論の機会が与えられていること
    • 労働者は代理人(組合、同僚などの社内の人間11)を立てる権利を有すること
    • 予断や偏見のない第三者による手続実施であること

    ③ 懲戒処分の決定

    上記の手続きを経て、口頭での注意処分、書面での注意処分、最長2週間の停職処分等の比較的軽微な処分(雇用法14条1項(c))、降格(同条項(b))、解雇(同条項(a))の処分を決定する。なお、罰金は通常雇用法上許されていないと解されている。

  3. 停職処分

    雇用法の適用がある労働者に対しては、書面で通知の上、半額分の給与を支払えば最長2週間の出勤停止処分にすることができる(雇用法14条2項)。ただし、不正行為の証拠が発見されなかった場合は、全額分の給与を支払う必要がある(同条項)。また、雇用法の適用がない労働者に対しては契約書に記載がない限り、全額分の給与を支払わなければ出勤停止処分を行うことができないと解されている。なお、停職処分とするためには、下記のいずれかの事項に該当していることが実務上要求されている。

    【Cf.停職処分の原因】
    ① 労働者の存在が職場環境に悪影響を与える場合
    ② 労働者が冷静になる期間が必要な場合(例:職場内暴行)
    ③ 労働者による不正行為の継続を防ぐ必要のある場合(例:横領)
    ④ 労働者による証拠隠滅・証人脅迫のおそれのある場合

整理解雇

  1. 定義

    法律上整理解雇の定義は存在しないが、整理解雇処置のガイドライン(Guidelines on Retrenchment Management)によれば整理解雇とは、会社の閉鎖、会社の構造改革、生産の減少、合併、テクノロジーの変化、買収、景気の下降などの様々な理由で労働者数が過剰化し、その結果として雇用契約を解除するとされている。

  2. 整理解雇の正当性

    整理解雇は、1975年労使協調行為規則(The Code of Conduct for Industrial Harmony 1975)に従って行われることが有効とされている。同規則はガイドラインであるものの、一般的に裁判所において公平で合理的な手段として参考にされている。なお、整理解雇処置のガイドラインが整理解雇に関して取るべき手段等を記載しているが、同ガイドライン自体が1975年労使協調行為規則を参照していることから、以下1975年労使協調行為規則及び整理解雇処置のガイドラインに従って記載している。


    ① まず、整理解雇を検討するにあたって、労働者の代表、組合、人的資源省(Ministry of Human Resources)と相談しながら、下記の事項を検討・実施することが望ましい(同規則20条)。

    • 労働者の新規採用の凍結
    • 超過勤務の制限
    • 休日及び祝祭日の労働の制限
    • 就業日数の削減
    • 就業時間の削減
    • 労働者の再訓練の提供
      また、整理解雇処置のガイドラインによれば、下記の事項が追加されている。
    • 同一会社内で別の部署への配置転換・業務変更
    • 臨時のレイオフを実施するにあたって、例えば業務を再開できるまで、適切な給料の支払いを提供し、他の場所で臨時の仕事を取得できるよう援助すること(会社が臨時レイオフを実施する場合には、そのレイオフに関し、前述の労働者の再雇用が認められるのか、または自主退職制度を提供されるのか、または永久的なレイオフになるのかを把握するために会社は、管轄官庁に報告しなければならない)
    • 労働者への給料カットはその他の全ての費用の節約を実行後の最後の手段とすること
    • 解雇される労働者に対して提供できる社内の欠員を確認すること

    ② また、整理解雇が必要であると判断した場合でも、それでも下記の手続きを経ることが望ましい(同規則22条(a))。

    • できる限り早期の労働者に対する事前通知
    • 早期退職制度の設定
    • 労働局への通知
    • 人的資源省と連携した再雇用支援
    • 長期間に亘る整理解雇の実施
    • まずは労働者の代表・組合への通知すること
      また、整理解雇処置のガイドラインによれば、下記の事項が追加されている。
    • 妥当な金額の補償の支払いを有する自主退職/引退の制度の提供
    • 定年に達している労働者の労働契約の解除
    • 受領する権利のある労働者に対する解雇補償金の支払い(雇用法が適用される労働者については下記記載が最低日数分の手当。雇用契約書に条件が記載されている場合はその条件に従う)
       ・ 勤続年数1年以上2年未満の場合、勤続年数1年につき10日間の手当て
       ・ 勤続年数2年以上5年未満の場合、勤続年数1年につき15日間の手当て
       ・ 勤続年数5年以上の場合、勤続年数1年につき20日間の手当て
    • 解雇通知又は通知に変わる補償金の支払い(雇用法が適用される労働者については下記記載が最低通知期間。雇用契約書に条件が記載されている場合はその条件に従う)
       ・ 勤続年数2年未満の場合、4週間前の通知
       ・ 勤続年数5年未満の場合、6週間前の通知
       ・ 勤続年数5年以上の場合、8週間前の通知

    ③ そして、整理解雇の対象となる労働者を選択する際には、まずは外国人労働者から解雇すべき旨、雇用法60N条に規定されている(Foreign Workers First Outの原則)。外国人労働者を解雇した後、さらに残りの労働者の中から整理解雇の対象となる労働者を選択する場合には、直近で雇用された者から順に遡る形で解雇の対象とするべきという原則を考慮することが望ましい(Last In First Out原則(LIFO原則))。また、同規則22条(b)には下記の事項を考慮し、決定されるべきと記載されている。

    • 業務の効率性を上げる必要性
    • 業務の効率性を上げるために必要な個々の労働者の能力、経験、技能及び資格
    • 勤続年数及び立場(外国人か、正規採用か、一時採用か)
    • 年齢
    • 家族の状況
    • その他、国で定められた基準

    ④ なお、整理解雇処置のガイドラインによれば、会社は整理解雇、自主退職、レイオフ、給与カットの処置を講じる少なくとも30日前に人的資源省所定の用紙(書式PK)に記入し、最寄りの労使関係局に報告しなければならないとされている。

解雇手当

  1. 原則

    会社は12カ月以上継続して雇用した労働者の雇用契約を終了させる場合(ただし、月額賃金が4,000リンギを超える労働者に適用はない)12、原則として勤務年数に応じた解雇手当を支払わなければならない(1980年雇用(終了および一時解雇手当)規則(Employment(Termination and Lay-off Benefit)Regulations 1980)3条1項)。

    下記の通り、勤続年数に応じて解雇手当を支払う必要がある(同規則6条)。

    勤続年数
    解雇手当の日数
    2年未満
    10日分
    2年以上5年未満
    15日分
    5年以上
    20日分

    勤務日数につき1年未満の部分がある場合には、解雇手当は、契約が終了した日に最も近い月までの分が、比例配分されて支払われる。

  2. 例外

    以下の事由により、雇用契約が終了した場合には、会社は解雇手当を支払う必要はない(同規則4条および8条)。

    • 労働者が雇用契約で定めた定年に達した場合
    • 適切な社内審問手続を行った上での、雇用契約の明示または黙示の条件に反する労働者の不正行為に基づき会社が雇用契約を終了させた場合
    • 労働者の自主退職
    • 従前の雇用契約より不利にならない条件を内容とする契約の更新・再雇用
    • 雇用終了後、直ちにその契約更新・再雇用の効力が生じる場合
    • 更新される雇用契約や新たに締結される雇用契約の条件(その労働者が従事する業務および場所に関する条件やその他の条件を含む)が、その直前の雇用契約の条件より有利であって、その従前の契約が終了する7日以上前に労働者に対して提示されたにもかかわらず、労働者が不合理に拒絶したとき
    • 会社に対する契約の解約に関する適切な通知がなされた後、当該通知の期間満了前に、労働者が会社の事前の同意なくして退職した場合、または雇用法13条に基づく通知に代わる適切な金銭を会社に支払わずに退職した場合
    • 労働者の従事している事業の全部または一部の事業主の変更があった場合で、新たな事業主が、事業主の変更後7日以内に、従前の雇用契約よりも不利にならない条件での契約の継続を提示したにも関わらず、労働者がそれを不合理に拒絶した場合13
  3. 支払時期

    会社は、上記の解雇手当を、雇用契約が終了してから7日以内に労働者に対して支払わなくてはならない(同規則4条及び11条1項)。

不当解雇に対する救済

労働者14は不当解雇を争いたいときには、解雇から60日以内に労使関係局長に対し、復職を求めて書面によって申立てをすることができる(労使関係法20条)。労使関係局長は自ら解決に必要な手続きをとるか、解決できないと判断した場合には、労働裁判所での審理を求めなければならない(2020年の改正前には、人的資源大臣に裁量権があったが、改正後は裁量権については、大臣から労使関係局長に権限が移され、自動的に労働裁判所にて審理請求されるようになった)15

審理の結果、労働裁判所は労働者の復職を会社に命ずることができるが、労働者が既に別の仕事に就労済みであったり、会社との信頼関係が破壊されていて効果的な復職が困難であったりする等の事情のために、復職ではなく会社に対する損害賠償16を命じることも多いとされる。

外国人ビザの種類及び取得要件

出入国・滞在に関するビザ各種

マレーシア滞在ビザには①シングル②マルチプル③トランジットの3種類ある。

  1. ① シングル・エントリー・ビザ(Single Entry Visa)は、主に社交目的の訪問者に対し発行され、通常発行から3カ月間、1回限り有効とされる。
  2. ② マルチプル・エントリー・ビザ(Multiple Entry Visa)は、ビジネス・外交目的での来訪者に対し発行され、通常は発行後3カ月から12カ月の間で有効とされ、有効期間内での複数回渡航・滞在は1回当たり30日を上限(延長不可)として許可される。
  3. ③ トランジット・エントリー・ビザ(Transit Entry Visa)はマレーシアを経由して第三国に渡航する者に対し発行される。ただし、空港敷地内から出ないまま同じフライトで次の目的地へ向かう場合には発行は不要である。

主なパス各種

マレーシア市民権を有さない者は、マレーシアで就労するには有効な就労許可証を得ることが必要となる(雇用制限法(Employment(Restriction)Act 1968)5条1項)。

東部のサバ州とサラワク州については別途各種パスが必要となるため申請者は、連邦移民局(State Immigration Office)への確認を要する。

以下では主なパス・ビザについて取り上げる。


Employment Pass

Visitor's Passでの就労目的のマレーシア滞在は許されないため、マレーシア国内で適法に就労しながら滞在するためには、通常雇用パス(Employment Pass(EP))が必要となる。

EPは3つのカテゴリー(①企業幹部クラス(Expatriate, Category I)、②専門職クラス(Expatriate, Category II)、③一般職クラス(Knowledge/Skilled Worker, Category III))に分類されており、EP取得者は承認を受けた期間内(①Category Iは5年以下、②Category IIは2年以下、③Category IIIは12カ月以下)での就業が認められる。なお、2021年1月1日より、雇用パスの申請に対し、会社のCEOなどの重要ポストであり、かつ、月額基本給が1万5000リンギット以上の者の雇用パス申請など一部の例外を除いて、そのポストに対する事前のマレーシア人向けの求人の実施を求める運用が開始されている。

雇用パスの取得にあたっては、下記の通り、資本要件が定められている。

資本構成
払込資本金
100%ローカル資本(マレーシア)
25万リンギ
ローカルと外資の合弁
35万リンギ
100%外国資本
50万リンギ
流通やレストランなどのサービス取引を行う外資が51%以上の会社等
100万リンギ

Professional Visit Pass(PVP)

専門家の12カ月を超えない短期滞在を認めるための就労パスの一種である。対象となるのはボランティア、各種業界等での学生インターンシップ、研究者、専門家等とされている。


Dependent Pass

一般職クラスを除くEP保有者の配偶者・子はDependent Passの取得ができる。対象はEP保有者の配偶者、18歳未満の子、養子及び(身体)障害児である。EP保有者の両親、内妻(大使館による証明を要する)、18歳を超える子及び継子についてはSocial Visit Passの取得が認められる。雇用パスを取得している家族の就労の場合、別途雇用パスの取得が必要となり、配偶者及び子の就学については別途許可(Study Approval)が必要となる。


Work permit for the Spouse of a Malaysian Citizen

移民局から既に就労の許可を得ているマレーシア国籍者の配偶者は、改めて雇用パス(EP)を取得せずとも就労許可を取得可能である。


Student Pass

あらゆるレベルで教育を受ける者について、Student Passの取得が要求される。各学校を通じた手続となるため申請者は、学校への問い合わせを要する。修士・博士課程の学生は子、配偶者、両親のDependent Pass取得が可能である。

パスの種類・概要・取得要件
パスの種類
概要
取得要件等
Employment Pass (EP)
雇用パス
長期滞在・就労目的用で、3つのカテゴリーに分かれる。
マルチプルビザ。
申請の際には、会社によるオンライン申請と保証人を要する。
CategoryIII保持者はDependent Passの取得不可。
Category I
・月額最低10,000リンギ以上の給与取得
・5年以下の雇用契約

Category II
・月額最低5,000-9,999リンギの給与取得
・2年以下の雇用契約

Category III
・月額3,000~4,999リンギの給与取得
・12ヶ月以下の雇用契約
Visit Pass / Professional Visit Pass (PVP)
プロフェッショナルパス
専門家による短期就労目的での滞在用。例:特別プロジェクトや技術協力等。会社によるESDのオンライン申請手続(原則)。
・マレーシア国外の企業が雇用
・最長1年間の就労(ただし、企業研修生は6ヶ月を超えることができない)
※家族の帯同は認められていない
Student Pass
学生パス
就学用ビザ。留学期間が3ヶ月を超える場合に申請が必要。1年間の滞在が可能(延長可能)。
・承認教育機関での学生登録 ※卒業高校の英文成績証明書及び卒業証明書、健康診断結果等
・アルバイト就労用パス取得により週20時間以内の就労が可能。必要書類を提出した後各学校が申請を行う。取得まで約2ヶ月。
MM2H Visa (Malaysia My Second Home Visa)
MM2Hビザ
最長10年(移民局の許可を得て更新可能)。
条件によりパートタイムでの就業も可能。
・50歳以上の場合:月額10,000リンギ以上の収入証明及び350,000リンギ以上の資産証明
・50歳未満の場合:月額10,000リンギ以上の収入証明及び500,000リンギ以上の資産証明
Residence Pass-Talent (RP-T)
レジデンスパス
重要経済分野での外国人人材の誘致・確保目的。最長10年の就労、滞在が可能(就労先変更可能)。
※本人の配偶者及び18歳未満の同伴家族も申請が可能。18歳以上の同伴家族、両親、配偶者の両親についてはSocial Visit Pass(5年滞在可能)の申請が可能。
※就労にあたり配偶者は雇用パス不要
Visitor Visa
ビジター ビザ
短期訪問目的
・90日以内の観光、業務(会議等)、外交等目的
・復路/第三国行航空券の所有
※就労目的滞在は認められていない
Dependent Pass
家族用VISA
帯同する扶養家族など。有効期間は代表者の雇用パス等の有効期間に従う。
配偶者がDependent Passの取得を許していること
上記の表記載のVISAの他に、マレーシア人の配偶者向けのVISA、永久許可証(Permanent Residency)等が存在する。

パスの更新等の申請中に、手続遅延等によって有効期限が切れてしまった場合には、不法滞在とはならないものの、就労・就学ができなくなる点に注意が必要である。

超過滞在や資格外活動に該当すると禁錮、罰金、国外退去の他、再入国拒否の可能性もある。

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  1. 公開日:2017/09/17 更新日:2024/06/24