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韓国労働法制
韓国における雇用及び労働法は、韓国人はもちろん、韓国で働く外国人に対しても同一に適用され、他国の準拠法を選択しようとも被雇用者は雇用及び労働法に基づき与えられる雇用者への保護の恩恵を受けることができる。労働基準法は労働条件の最小基準を規定し、韓国国内で働く労働者を幅広く保護している。
会社は正当事由なしに労働者を解雇することができず、正当事由は雇用の継続が雇用主にとって過度の負担となる重要な要素でなければならないと裁判所は示しているなど労働者を厚く保護している。
外国人労働者はビザの種類によって就労の可否が区分されており、細分化されたビザ制度を有しているものの、外国人も比較的ビザを取得しやすい政策がとられている。
労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況
個人の保護を目的とする労働法制
韓国における雇用及び労働に関する法律は、韓国人はもちろん、韓国で働く外国人に対しても同一に適用され、他国の準拠法を契約時に選択しようとも、労働者は雇用及び労働について定めた法律に基づき保護の恩恵を受ける。
雇用関係を規定する主な法源として、憲法、勤労基準法(日本の労働基準法に該当する法律)(以下、「勤基法」という)、低賃金法、勤労者退職給与保障法等が、労働条件を整える主な法律の中心として挙げられる。
勤基法は、労働条件の最低基準を規定し、韓国国内で働く労働者を幅広く保護し、労働者に不利な規定に優越する法律として適用される。よって例えば、労働者が結んだ契約と勤基法との間で矛盾が生じ、勤基法の定める基準にその労働契約の条件が達しない場合、その労働契約は無効となる。一方で、勤基法の基準を上回る特約については無効にはならないためその点については注意が必要である。つまり、矛盾が生じた労働契約のすべてが無効となるのではなく、勤基法が定める基準に達しない労働条件を定めている契約部分のみが無効とされ、その契約部分は法定基準に置き換えられる。
また、会社は正当な理由無しに労働者を解雇することができない。裁判所によると、ここで必要とされる正当な理由は、雇用の継続が会社にとって過度の負担となる重要な要素でなければならない。会社は、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に労働者にその予告をしなければならず、30日前に解雇予告をしない場合には、その代わりとして通常賃金の30日分以上を労働者に支払う。(当該予告義務については2019年1月15日に改正がなされている。5-1(4)に詳細記載)
一方、日本の場合も、解雇の場合、客観的に合理的な理由によらなければ正当な解雇として認められず、それは、社会通念上相当と認められる理由であり、かつ、30日前に労働者に解雇予告をすることが義務付けられている。
あえて両国間の差を述べるならば、例えば韓国では、解雇の意思表示につき、解雇理由と解雇時期につき書面で通知することが義務付けられている点や、整理解雇の具体的要件が勤基法に明確に定められている点など、若干の差異は存在する。ただし、決定的な差異はみられない。日韓双方とも、厳格な手順を設け、かつ解雇の際は正当かつ合理性のある事由を必要とする点からみても労働者保護に厚い立場を採用していることが分かる。また、OECDが発表した直近のEPL指標(雇用保護規制の強さを測る指標)(Employment Protection Legislation)をみても、日本と韓国は両国ともに正規雇用に対する保護の強い国として同等の強度に位置づけられている。
以上の点から、両国は共に、容易に解雇ができない制度設計のもと、労働者側を手厚く保護する類似した労働法制を有しているといえる。
ビザの取得
外国人が韓国で就業する場合、就業活動ができる滞在資格を受けなければならない(出入国管理法第18条)。
就業活動の可否は支給されるビザで区分される。外国人は、一般的にビジネスや仕事の目的で韓国に入国する前に、適切なビザを取得しなければならない。会社は、適切なビザを持っていない外国人を雇用することはできない。よって、適切なビザの取得が重要となるわけであるが、日本企業が韓国へ進出する際や、日本人が韓国で起業する際、韓国では主に駐在ビザ(D-7)又は、企業投資ビザ(D-8)を取得することが一般的である。
ビザの取得につきかかる期間は、一般的に約1カ月から1カ月半が必要とされ、費用は通常約100ドル未満で申請ができる。期間及び価格については、一見迅速かつ容易に取得できるように見えるものの、就労資格の該当性及び活動範囲についての審査が非常に厳格であり、高度な技術、専門性、学位を保持している者でない限り、許可が容易に降りず、ビザの取得は容易ではない。
一方、海外企業が日本で仕事をする場合、就労が可能な在留資格、すなわち就労ビザを入国管理局で申請及び取得しなければならない。かかる費用は韓国と同程度の予算が設定され、3カ月から4カ月ほどの時間がかかる。ビザにはそれぞれ審査基準が設けられているものの、その内容は非常にあいまいとされ、審査官の判断基準も明確化されておらず、判定基準は、そのときの社会・国際情勢などにより適宜変更されることもある。よって日本もまた、韓国と同様にビザを取得し働くことが容易な国とはいえない。
上記の現状を比較するに、多少の制度の差異はあるものの、両国ともに、ビザの発給を容易には行っておらず、審査面につき厳しい姿勢を貫いていることが分かる。
労働組合
労働組合の組織形態は、職業別組合、産業別組合、企業別組合、一般組合、ナショナルセンターなど様々であるが、最上部の組織形態として、全国中央組織であるナショナルセンターである。韓国のナショナルセンターには、韓国労働組合総連盟(韓国労総、FKTU)と全国民主労働組合総連盟(民主労総、KCTU)の「二大労総」が存在する。
韓国労総は25の産業別組織を傘下に持ち、金属・金融・自動車・タクシー・化学・公共部門などに従事する組合員が多い。韓国労総が結成されたのは1961年であり、その後約30年に及ぶ軍政期において韓国労総は政府の労働統制を受け入れる御用組合の性格が強かった。しかし1993年の文民政権発足により民主化が達成されてからは、韓国労総傘下の組織によるゼネストや民主労総との共同闘争など従来の親政府的路線から一線を画すようになった。
また、韓国労総は政労使合意方式による政策決定空間への参与が度々みられたが、労働関係法改定等をめぐり政府・会社側と激しく対立し、労使政委員会を脱退するなど政策参加は必ずしも上手くいかなかった。
民主労総は、公務員・教職員・金属・金融・公共運輸・建設などの産業別組織のほか、女性労働組合や学校非正規職組合など、その傘下には16の加盟団体が存在する。1995年、民主労総は1987年の労働者大闘争を契機に成長した在野労働運動勢力により発足された。民主労総の組合数が韓国労総に比べて大幅に少ない理由としては、産別化推進による組合の統合が挙げられる。また、民主労総の組合員数は韓国労総に比べて20万人程度少ないが、現代自動車など大企業の組合が多く加盟していることから、労働争議が発生すると、大規模化・深刻化するケースも度々みられる。
他方、民主労総は、非正規職の組織化に重点を置いており、民主労総の支援を受けて非正規職独自の組合が設立されることが多い。
基本的な労働法制の概要
労働に関する制定法の概要
韓国における、主な労働に関する制定法は以下のとおりである。
以下、主要な法源の概要を述べる。
憲法
韓国の憲法では、雇用における基本原則が謳われている。憲法第32条は、すべての市民が「働く権利を有する」ことを規定し、最低賃金と労働条件に関する法律を設けることで人間の尊厳を保障しなければならないと定めている。また、雇用及び労働条件における性差別、働く未成年者のための特別保護、職務遂行中に負傷した退役軍人及び警察官並びに職務遂行中に死亡した軍人及び警察官の家族の優先的な就労機会について規定している。
上記のように、憲法は、最上位の概念として、すべての市民の働く権利を保護している。憲法に定める「働く権利」の実現のため、様々な労働法によって具体的にその実現が図られているが、韓国の労働法はさらに、大きく【個別的勤労関係法】と【集団的労使関係法】に分けることができる。
前者は、国家が労働関係の内容や成立、その種類において一定の水準以上を保障しているところにその特徴を有し、その代表例として、勤基法、期間制・短期間勤労者保護法、勤労者退職給与保障法、最低賃金法、男女雇用平等及び仕事と家庭の両立支援に関する法律等が挙げられる。勤基法に関しては、改正案が2018年2月28日、韓国国会で採決され、賛成多数で可決、成立している。後者は、会社と労働者間の集団自治の基準につき定めた法体系であり、その代表例として、労働組合及び労働関係調整法、労働委員会法、労働者の参加及び労使協力増進に関する法律等が挙げられる。
個別的勤労関係法の主な対象法律
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勤労基準関連法令
- ①勤労基準法
- ②最低賃金法
- ③公認労務士法
- ④賃金債権保障法
- ⑤勤労者退職給与保障法
- ⑥派遣勤労者保護に関する法律
- ⑦期間制・短時間勤労者保護に関する法律
- ⑧勤労福祉基本法
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雇用平等関連法令
- ①男女雇用平等及び仕事と家庭の両立支援に関する法律
- ②障害者雇用促進及び職業リハビリ法
- ③雇用年齢差別禁止及び高齢者雇用促進法
- ④女性の経歴休止等における経済活動促進法
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職業訓練・資格関連法令
- ①労働者職業能力開発法
- ②職業教育訓練促進法
- ③国家技術資格法
- ④熟練技術奨励法
- ⑤資格基本法
- ⑥韓国産業人力公団法
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産業安全保健関連法令
- ①産業安全保健法
- ②塵肺予防と塵肺勤労者の保護に関する法律
- ③韓国産業安全保健公団法
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雇用・産災保険関連法令
- ①雇用保険法
- ②雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収に関する法律
- ③産業災害補償保険法
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雇用サービス法令
- ①雇用政策基本法
- ②職業安全法
- ③社会的企業育成法
- ④建設勤労者の雇用改善に関する法律
- ⑤青少年雇用促進特別法
- ⑥外国人勤労者の雇用に関する法律
- ⑦自由貿易協定締結に伴う貿易調整支援に関する法律
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労使協力関連法令
- ①勤労者参与及び協力増進に関する法律
- ②労働委員会法
- ③経済社会発展労使政委員会法
- ④勤労者の日制定に関する法律
- ⑤労使関係発展支援に関する法律
集団的労使関係法の主な対象法律
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労働組合関連法令
- ①労働組合及び労働関係調整法
- ②公務員の労働組合設立及び運営に関する法律
- ③教員の労働組合設立及び運営に関する法律
雇用関係を規定する主な法源の概略
(1)勤労基準法
勤基法は、賃金・労働時間など労働条件に関する最低基準を定めることにより労働者の基本的な生活を保障、向上させ、バランスの取れた国民経済の発展を図ることをその目的としている。労働法の中心的な部分を担い、会社が労働者に提供しなければならない残業手当、休暇及びその他の有給休暇、退職金、及びその他の手当及び給付の基準を含む最低限の労働条件を規定している。
2018年2月28日、主に下記の内容を含む勤基法の改正案が成立した。従業員300人以上の事業所と公共機関に対しては、2018年7月1日から改正法の適用が開始されている。その一方で、従業員50人から299人の事業所は2020年1月1日から(これに関してなされた最新の発表については4-3(1)に詳細を記載)、従業員5人から49人の事業所は2021年7月1日からの適用となる。
主な改正内容としては、主に下記の事項が挙げられる。
- ①休日を含む1週間の最大労働時間の実質的上限の短縮(52時間)
- ②30人未満の規模の事業所につき特別延長勤務を一時的に認定
- ③18歳未満の未成年労働者の最大労働時間の上限の短縮
- ④休日労働時の給与割増率の明示化
- ⑤労働時間における特例業種の改正
- ⑥大統領令により指定された休日の有給保障
勤基法は、5人以上の労働者を継続的に雇用しているすべての会社に適用される。また、5人以上の労働者の雇用という条件については、外国人労働者も含まれ、韓国国内のあらゆる職場において同様に適用される。特定の基準法規定の違反は、刑事制裁によって処罰される場合もある。
2019年7月16日には、職場でのハラスメント行為を禁止する内容の勤基法の改正が施行された(詳細については3-4に記載)。
(2)最低賃金法
2015年1月1日に改正された同法律は、労働者の賃金の最低水準を保障し、労働者の生活安定と労働力の質的向上を図ることにより、国民経済の健全な発展に寄与することをその目的として掲げる。同法律は、労働者を使用するすべての事業又は事業場に適用される(適用対象)が、以下の賃金であって雇用労働部長官が定めるものに該当する場合は、最低賃金の算入範囲から除かれる。
- ①毎月1回、定期的に支給される賃金以外の賃金
- ②所定の労働時間又は所定の労働日に対して支給される賃金以外の賃金
- ③その他最低賃金額に算入するのが適当でないとされる賃金
最低賃金制度は、国が賃金の最低水準を定め、強制して低賃金労働者を保護するようにする制度である。
2021年の最低賃金の引き上げ率は、前年に比べ高くないものの、時給8,590ウォン(2020年最低賃金)から8,720ウォン(1.5%の引き上げ)、2022年は、9,160ウォン(2021年から5.1%の引き上げ)、2023年は、約5%引き上げられ、9,620ウォンとなった。
2024年は、前年度に比べて240ウォンが引き上げられ最低賃金を時間給9,860ウォンとする決定が告示された(2023年から2.5%の引き上げ)。 各事業場では、現在の給与支給額を基準に最低賃金未達可否を確認し、2024年1月から支給される賃金を調整しなければならない(詳細については4-1に記載)。
また、最低賃金に算入される項目の範囲が2024年から変更される。従来は、「一部算入」とされており計算が複雑との声が上がっていたが、これが簡素化され「全額」算入されることになった。(詳細については4-1に記載)。
(3)勤労者退職給与保障法
韓国政府は、すべての事業場に対し退職給与制度を施行するよう義務付けている。但し、同法は、すべての事業又は事業場に適用されるが、同居する親族のみを使用する事業や家族内の雇用活動については適用されない。
同法律は、高齢化時代に備え労働者に安定的な老後所得を保障することを目的としている。但し、継続労働期間が1年未満、又は短時間労働者(4週間を平均して1週当たり15時間未満の労働者)に対しては、適用義務が免除されるので注意が必要である。
2022年4月14日からは、中小企業退職年金基金制度が施行される予定である。中小企業退職年金基金制度とは、中小企業(常時30人以下の労働者を雇用する会社)で働く労働者の安定的老後生活を保障するための公的制度である。労働者と会社が各々一定額を負担し、その負担金等による合同基金が労働者に対して退職給与が支払われる公的年金サービスとして運営される。
(4)労働組合及び労働関係調整法
1953年「労働組合法」及び「労働争議調整法」から始まり、1997年「労働組合及び労働関係調整法」の制定を経て、2014年に一部改正がなされた。憲法に基づく労働者の団結権、団体交渉権、及び団体行動権を保障し、労働条件の維持・改善と労働者の経済的かつ社会的地位の向上を図り(目的①)、労働関係の公正な調整を通じ労働争議を予防・解決することによって産業平和の維持及び国民経済の発展に寄与することを目的とする(目的②)。
(5)雇用・産災保険関連法
雇用労働部は、産業災害から労働者を守るため28年ぶりに産業安全保健関連法規(産業安全保健法、産業安全保健法施行規則、産業安全保健法施行令)を大幅に改正し、2020年1月16日付で施行した。主な改正内容は以下の通りである。
- 保護の対象を従来の「労働者」から「労務を提供する者」へ拡大。
- 産業災害の予防責任の対象を、従来の「事業主」のみから「代表理事」「工事発注者」「フランチャイズ加盟本部」にも拡大。
- 下請け労働者の安全確保を強化するため、請負人(元請け)の責任範囲を拡大し履行を強化。
- 従来認可してきた、有害・危険物質に関する作業の社内下請けを原則禁止とし、雇用労働部長官の承認を得た場合のみ可能とした。
- 事故災害が多発する建設業への安全確保を強化。
- 化学物質など安全データシート(MSDS)の作成・提出義務の対象を「(化学物質を)譲渡、提供する者」のみから「(化学物質の)製造・輸入者」まで拡大。
(6)重大災害処罰法
重大災害処罰法が2022年1月27日より施行されている。当該法律は、事業主や経営責任者に安全確保における著しい義務違反が認められる場合に適用される法律である。
長期的には、従業員が5人以上の全ての会社に適用されるが、現場の混乱を軽減するため、50人未満の会社又は工事金額が50億ウォン未満の場合については、2年間その適用が猶予される(50人以上の会社又は工事金額が50億ウォン以上の場合は2022年1月1日から適用、5人以上50人未満の会社又は工事金額が50億ウォン未満の場合は2024年1月1日から適用となる)。
「重大災害」は、大きく「重大産業災害」と「重大市民災害」に分けられる。産業現場で1人以上が死亡したり、6ヵ月以上治療しなければならない負傷者が2人以上発生した場合、又は職業性疾病者が1年に3人以上発生する場合「重大産業災害」に分類される。「重大市民災害」は、特定原料若しくは製造物、公衆利用施設又は公衆交通手段の設計、製造、設置、管理上の欠陥により災害が発生した場合を指す。
両災害共に、経営責任者が安全保健義務を守らず事故が発生したと認められると、刑事処罰が課される。特に、労働者が死亡した場合、経営責任者は、1年以上の懲役又は10億ウォン以下の罰金に処され、法人や機関には50億ウォン以下の罰金が科される。
労働部は、重大災害処罰法が事業主・経営責任者を「処罰」することに焦点を当てた法ではなく、あくまで重大災害の「予防」に焦点を置いた法だとし、安全保健管理体系の構築を促している。
2024年、1月27日から5人以上の事業場に対しても全面施行された。
(7)男女雇用平等及び仕事と家庭の両立支援に関する法律
2022年5月19日から雇用上の性差別職場内セクハラ被害者保護措置の違反に対する労働委員会救済制度が施行される(「男女雇用平等及び仕事と家庭の両立支援に関する法律」の施行)。
労働者が性別を理由に募集、採用、賃金等の雇用上の差別を受けた場合や職場内セクハラ被害労働者に対して会社が適切な措置義務を履行せず、又は不利な処遇をする場合、被害労働者は、労働委員会に救済を申請することがでるようになる。
差別的処遇等(雇用上の性差別及び職場内セクハラ被害者保護措置の違反)を受けた被害者が労働委員会に是正の申請をすると、労働委員会は、調査及び尋問等の過程を経て差別的処遇等の中止及び適切な賠償等の是正命令を行うことができるようになる。労働委員会により確定した是正命令を履行しなかった会社に対しては、1億ウォン以下の過料が課されることになる。
(8)未来労働市場研究会による勧告文の発表
現政権が進める労働市場改編の大枠が、2022年12月に労働市場改革推進のために設けられた専門家議論機構である「未来労働市場研究会」より発表された。発表された勧告文の主な内容としては、現在は週単位で規制されている延長労働時間の管理単位を月や四半期、半期、年単位と多様化し柔軟に適用できる様にする、といったものである。また、残業時間を弾力的に運営することに加えて、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、11時間の休息時間(インターバル)を設ける「勤務間インターバル制度」の導入も提案された。ただし、この場合、現行の1週間最大52時間である労働時間が、80.5時間まで可能になる等、労働時間短縮の流れに逆行するという批判の声もあがっている。当該見直しの流れが韓国経済にどのように影響を与えるか、今後の動向に注目する必要がある。
就業規則の作成義務及びその内容
就業規則の作成義務
韓国でも、日本同様、常時10人以上の労働者を使用する会社には、就業規則の作成義務及び雇用労働部長官への申告義務がある。勤基法第93条に基づき、以下の事項が必須記載事項として定められている。
勤基法第93条に違反した場合、同法第116条第2号により、500万ウォン以下の過料の制裁を受ける。
韓国の労働条件の決定過程は日本とほぼ同様であり、勤基法が労働条件の全体的な最低ラインを決め、労働協約や就業規則、個別の労働契約によって詳細な労働条件が決定される。
就業規則の作成・変更手続の場合も日本と同様の過程が要求される。
会社は、就業規則の作成又は変更の際、労働者の過半数により組職された労働組合がある場合にはその労働組合の意見を、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数の意見を聞かなければならない。この場合、意見を聞くことで十分であり、会社がその意見に拘束される義務はない。意見聴取手続に違反した場合には、同法第114条第1号により500万ウォン以下の罰金に処されるとされている。
2019年7月16日付でなされた職場でのハラスメント行為を禁止する内容の勤基法の改正に伴い、就業規則への記載事項に変更が生じており、注意が必要である(詳細については3-4に記載)。
就業規則の法的拘束力の劣後
会社により作成、変更されたすべての有効な就業規則は、労働関係を定める効力を有している。明確な証拠がない限り、その文言の客観的意味を無視する解釈や事実認定は、慎重かつ厳格ではなければならないというのが判例の立場とされる。
労働関係の内容を定めるものには、就業規則以外にも労働契約、団体協約、労働関係法令等があり、これらの間には、その効力において優劣の順位が存在する。すなわち、勤基法第96条、労働組合労働関係調整法第33条第1項によれば、就業規則は、法令又は当該事業所で適用される団体協約に違反してはならず、違反する内容を定めた就業規則は、いかなる効力も有しない。しかしながら、就業規則は労働契約上、個別約定よりも優先して適用されるのが原則とされる。従って、就業規則に定められた基準に対し、これに満たない労働条件を定めた労働契約は、その部分が無効となり、無効となった部分は就業規則に定められた基準によるものとなる。
就業規則の不利益変更
韓国で会社が就業規則の不利益変更を行う場合、労働組合等の集団による同意を必要とする原則が確立している。
日本同様、韓国でもまた、就業規則変更による労働条件の不利益変更については、大きな問題として議論され続けてきた。日本と異なる点として、韓国では1977年に不利益変更に関し集団的同意が必要であるとする明示的な判決がなされた。また、その後、1989年、勤基法改正時には、就業規則の不利益変更に集団的合意が必要だとする旨のルールが明確に確立されたものの、依然として、合理性があれば不利益変更を可能とする判例法理は裁判所によって併用される流れが続いた。
現行の勤基法第94条1項(就業規則の作成、変更手続)では、「会社は就業規則の作成又は変更に関して、当該事業又は事業場に労働者の過半数で組織された労働組合がある場合にはその労働組合、労働者の過半数で組織された労働組合がない場合には労働者の過半数の意見を聞かなければならない。但し、就業規則を労働者に不利に変更する場合にはその同意を得なければならない」と規定している。
従って、同条但書により、就業規則による労働条件の不利益変更には労働組合又は労働者の過半数(日本の過半数代表者とは異なる)の「同意」を得ることが要件とされている。この但書は、1977年の判例法理が1989年の勤基法改正を経て明文化されたものである。しかしながら上記で既に述べたように原則は明文化されているものの、裁判所は依然として、制定法上の同原則に反する合理性論を維持・展開し、相矛盾するルールが並存している点につき注意しなければならない。
一方、日本法は、判例法理である就業規則の合理的変更法理がそのまま立法化されている。
制定法上確立されている過半数による集団的合意の原則は、一見、労働者の保護に厚い立場にもみえる。しかしながら他方で、過半数が合意さえすれば不利益な内容でも変更が可能だということは、裏を返せば、これに反対する少数者は変更が過半数によって決定されれば、その不利益の内容に関係なく、強行され拘束力が発生してしまうこととなり、著しい侵害問題が惹起され得る。そのため裁判所は、集団的合意がなくとも、合理性のある変更であるならば変更が可能とする選択肢を開いておくことで、著しい人権侵害や不合理な問題等の新たな発生を防ぎ、複雑な労使関係に対し、必要に応じ合理的に対応していくという方針を取っている。
職場におけるハラスメント行為を禁止する勤基法の改正の施行
2019年7月16日より、職場でのハラスメント行為を禁止する内容の勤基法の改正が施行された。改正法の施行により、会社が留意すべき内容は下記の点が主な例として挙げられる。
- 就業規則に▼禁止対象となるパワハラ行為▼予防教育▼事件の処理手順▼被害者の保護措置▼加害者への制裁▼再発防止措置等を記載しなければならない。
- 職場でのハラスメント加害者に対する懲戒規定を新設する場合は、「就業規則の不利益変更」に当たるため、労働者の過半数の同意を得る必要がある。
- 会社は、職場でハラスメントについての通報があった場合又は事件を認識した場合等に速やかに事実確認のための調査に着手しなければならない。
- これらの過程で、被害者に対しては有給休暇を与える等の保護措置を取らなければならない。また、ハラスメントが事実と確認されれば、加害者に対して懲戒や勤務場所変更などの措置を行わなければならない。
上記に基づく対応が不十分な会社の経営陣は、最長3年の禁錮刑又は最大3,000万ウォン(約275万円)の罰金などが科せられる可能性がある。韓国において会社に対しハラスメント行為への対応を義務づける具体的な規制が設定されるのは今回が実質上初めてであり、注意が必要である。
賃金(賞与・退職金・残業代)等の法制の概要
賃金
概要
1986年12月31日制定後、2015年1月1日改正、同日施行に至った最低賃金法によると、まず、雇用労働部長官により、最低賃金に対する審議の要請がなされる。その後、最低賃金委員会が、90日以内に審議し、審議案が提出され、雇用労働部長官がその結果を告示する。そして、労働者・会社代表から異議提起を受けた後、必要に応じ再審議が要請され、雇用労働部長官が最低賃金を決定・告示に至るといった過程を踏む。適用期間は、翌年1月1日から12月31日となる。最低賃金委員会は、労・使・公益を代表する各9人で構成(計27人)され、雇用労働部長官の推薦によって大統領が委嘱する。
最低賃金は1人以上の労働者を使用するすべての事業・事業場に適用されるが、労働者の一部に対しては最低賃金額が減額適用される。例えば修習期間中の労働者においては約3カ月の期間にわたり最低賃金額の10%ほどが減額された額がその最低賃金として適用される等の措置がある。会社は労働者に対し、告示された最低賃金額を上回る賃金を支給しなければならない。これに違反した労働契約は無効であり、最低賃金額と同じ金額を支給する契約であったとみなされることとなる。違反時には3年以下の懲役又は2,000万ウォン以下の罰金に処される(併科可能)。
最低賃金は、同法律に従い、最低賃金委員会により毎年決定される。
2017年適用された時間給最低賃金は、2016年(6,030ウォン)より7.3%引き上げられ、6,470ウォンとなった。2017年の最低賃金は、近年、他に類がないほど長期の審議期間を経て決定した。というのも、会社側は2016年の6,030ウォン(1時間当たり)の据え置きを、一方、労働者側は1万ウォンの最低賃金への増加を主張し、当初から意見が真っ向から対立し、双方とも当初案を譲らないまま激論を続けたものの、どちら側からも修正案が出ないまま、議論は平行線を辿ったためである。結局、何ら進展をみないまま、2016年7月16日の最低賃金委員会において、上記事項が決定され、8月5日、雇用労働部長官によって告示された。
また、最低賃金が2018年1月より大幅に引き上げられている点にも注意が必要である。近年、韓国における最低賃金は、約7%前後の割合で毎年引き上げられる傾向にあった。そのうえ、2018年の最低賃金として突如16.4%の引き上げを最低賃金委員会は可決し、最低賃金は「7,530ウォン」に引き上げられることとなった。会社側からは短期間での大幅な引き上げに反発する声が多く上がったものの、全国一律で2018年1月より施行されている。
2020年の最低賃金
2020年1月1日、最低賃金は8,590ウォンにさらに引き上げられた(前年度は8,350ウォン)。金額としては240ウォン、約3%の引き上げにあたる。最低賃金を月給基準(209時間)に直すと、1カ月179万5310ウォンで、2019年の174万5150ウォンより5万160ウォン引き上げられた。月給基準の労働時間が209時間になる理由は週休手当が含まれているからである。週休手当とは、1週間の規定された勤務日数をすべて満たした労働者に支給される有給休日当のことで、雇用形態に関係なく週15時間以上働いた場合に支給される。
2021年の最低賃金
2021年1月、最低賃金は時給8,590ウォン(2020年最低賃金)から8,720ウォン(1.5%の引き上げ)へと引き上げられた。1.5%の引き上げはアジア通貨危機当時の1998年(2.7%)の引き上げ率を下回り、最低賃金制度が導入された1988年以降で最も低く、前年度まで続いた大幅な引き上げ傾向にストップがかかる結果となった。
当初、労働者側は、2020年度比16.4%引き上げとなる1万ウォンを、経営者側は2.1%引き下げた8,410ウォンをそれぞれ提示していたものの、双方の溝を埋めることは困難だったため、最終的には専門家により提案された案が取り上げられる形となった。新型コロナウイルスの感染拡大で韓国経済は危機的な状況にあり、中小企業や零細自営業者の経営難を考慮して引き上げ率を抑えたとみられる。
2022年の最低賃金
韓国雇用労働部は、2021年8月5日、2022年の最低賃金(時給)を前年比5.1%増の9,160ウォンと決定した。日給で計算する場合(8時間基準)73,280ウォン、月給で計算する場合(週40時間基準)1,914,440ウォンとなる。最低賃金の影響を受ける労働者は、韓国全国でおおよそ76万8,000人~355万人(就業人口の4.7~17.4%)になると推計されている。
雇用労働部長官は、韓国雇用労働部の決定に先立ち最低賃金委員会により先に開かれた第9回全員会議(2021年7月12日開催)にて議決された金額を公開し、利害関係者の意見聴取を経た上で最終決定をすると発表していた。決定された最低賃金の金額に対しては、労働者側からの異議申し立てはなく、3つの経営者団体から異議申し立てがあったものの、最低賃金法及び同委員会の審議・議決内容を考慮してそれらの異議申し立ては不受理となった。なお、最低賃金は韓国国内にて一律全ての業種に対し適用されている。
2023年の最低賃金
資源や食料などの輸入価格高騰を受けて物価高が続く韓国の2023年の最低賃金が、22年比5.0%増の9,620ウォンに決まった。伸び率は前年水準を維持し、10年前と比べて98%増となった。
労使双方の有識者、学識経験者らで構成する最低賃金委員会は「政府や韓国銀行などの経済成長率、物価上昇率の見通しを反映した結果だ」と説明した。
韓国の最低賃金が過去10年間で2倍に増えており、2018年には最低賃金は16%、2019年には11%へと大幅に引き上げられた。ただ、この急速な賃金上昇が商店や飲食店を営む自営業者らの廃業を招いたことから、20年には3%、21年は2%と上昇率を抑えた経緯があった。
2023年の時点では、全国一律の最低賃金制度の採用につき批判の声が上がっており、24年以降は日本同様に地域水準に合わせた最低賃金が制定される可能性もある。
2024年の最低賃金
2023年8月4日、雇用労働部は、2024年に適用される最低賃金を時間給9,860ウォンと決定・告示した(2023年に比べて240ウォンの引き上げ、2.5%の引き上げ)。 これを月給に換算する場合、2,060,740ウォン(週40時間勤務、月209時間勤務を基準とした場合)であり、事業の種類に関係なく全ての事業場に同じ最低賃金が適用される。
雇用労働部は、7月20日、最低賃金委員会が15回の会議を経て議決した最低賃金案を告示した。 7月31日まで異議申し立て期間を設け、その間に異議も提起されたものの、最低賃金法規定の趣旨・内容及び最低賃金委員会の審議・議決過程等を総合的に考慮し、提起された異議を受け入れず最終決定に至った。
雇用労働部は、「2024年の最低賃金は、難しい経済状況と労働市場条件、低賃金労働者及び零細自営業者の声を総合的に考慮し、非常に多くの議論を経た上で決定されたものであり、これは尊重されなければならない。」と強調した。
また、「1988年に導入され、大きな枠組みの変更なしに続いている最低賃金制度は日々変化している経済・労働市場の条件が反映されなければならず、毎年、これらの決定過程で繰り返される葛藤・対立構図もまた改善されなければならないという指摘も多いだけに、今後多様な意見を取りまとめ改善方案を模索していく」と明らかにした。
最低賃金の算入範囲の変更、「全額算入へ」
2024年から定期賞与金及び福利厚生費は、最低賃金を算定する際に全額算入されることになった。
2024年以前までは、定期賞与金及び福利厚生費は、最低賃金を算定する際に全額算入されることなく、その年の最低賃金額を基準に算定された月換算額を超えた部分のみ算入されていた(最低賃金法第6条第4項、同法附則第2条)。
例えば、2023年を基準とする場合、
(1)定期賞与金は、その年の最低賃金額を基準に算定された月換算額の5%を控除した部分が、
(2)福利厚生費は、その年の最低賃金額を基準に算定された月換算額の1%を控除した部分が各々反映されていた。
2023年までの制度と2024年を比較すると、次のようになる。
上記表のように、2024年からは、例えば基本給180万ウォン、食費(福利厚生費)が20万ウォン、毎月支給される定期賞与金が20万ウォンの場合、これら全額が最低賃金の算入範囲に含まれ、これら全てを合算した220万ウォンが最低賃金計算の際の基準となる。但し、賞与金が定期的に支払われず、例えば各月で支払われる等、定期性がない場合においては算入範囲から除外されるため注意が必要である(賞与が定期的に支払われない場合は、2024年の場合、200万ウォンの受け取りと判断される)。
要するに、最低賃金の算入範囲が変更となることにより「毎月定期的に支払われる全ての金額」が含まれるようになった。
残業代の規定
勤基法第56条(延長、夜間及び休日労働)
会社は、延長時間労働(第53条、第59条及び第69条但書の規定によって延長された時間の労働をいう)及び夜間労働(午後10時から午前6時までの労働をいう)又は休日労働については、通常賃金の100分の50以上を加算して支給しなければならない。
2018年より、休日労働に関し支払われなければならない賃金について、その基準がより明確に勤基法第56条に定められることとなった。8時間以内の休日労働の場合は、通常賃金の150%、8時間超過した休日労働の場合は、通常賃金の200%が支払われなければならない旨が定められているため、注意が必要である。
会社と労働者が合意すれば、週当たり12時間までの法定労働時間を超える時間外労働が認められる。
また、会社が労働者と書面で合意した場合、例外的に週12時間を超えて時間外労働をさせることができる規定につき、その対象となっていた業種が、2018年の改正により大幅に削減された。本来の規定は、超過労働を強いることのできる業種の対象範囲が広いことから、長時間労働問題の主な原因として長い間、批判されてきた。2018年の改正により、旧勤基法が指定していた26業種から5業種へとその対象が制限された。また、改正に伴い、改正後の勤基法の対象業種に該当する場合には、会社は労働終了時、次の労働開始時までに労働者に対して連続11時間以上の休憩時間を与えることも併せて規定された。
【旧勤基法の対象業種】
- 運輸業、物品販売及び保管業並びに金融保険業
- 映画製作及び興行業、通信業、教育研究及び調査事業又は広告業
- 医療及び衛生事業、ホテル及びレストラン業、焼却及び清掃業又は理美容業
- その他公衆の便宜又は業務の特性を考慮し大統領令で定める事業(社会福祉事業)
【改正後の勤基法の対象業種】
- 陸上運送及びパイプライン運送業。但し、「旅客自動車運輸事業法」第3条1項第1号による路線旅客自動車運送事業を除く。
- 水上運送業
- 航空運送業
- 保険業
また、韓国では、勤基法第57条(補償休暇制)によって補償休暇制が導入されている。よって会社は、労働者との書面合意により、勤基法第56条による延長労働・夜間労働及び休日労働が発生した際、賃金の支給に替えて休暇を与えることもできる。旧勤基法では、何らかの違反が発生した場合、2年以下の懲役又は1,000万ウォン以下の罰金に処するよう規定されていたが(旧勤基法第110条)、改正後の勤基法からは罰金が2,000万ウォンに引き上げられ、2018年5月29日より施行されている。
週休手当廃止の議論
週休手当廃止の議論が始まっている。
週休手当とは、勤基法に基づき、一週間15時間以上勤務と定められた勤務日数を満たす場合、一日分の日給をさらに与える有給休日制度である。当制度は、決められた勤務日を誠実に満たし、一週間に15時間以上働くことになった場合、一日分の賃金をさらに払う制度として、勤基法制定当時、長時間低賃金勤労働に対し、休日を補償するために施行された制度である。
週休手当て制度は日雇い、短期アルバイト、契約社員を含めて条件に該当すれば支給しなければならず、5人未満の事業場にも該当する制度とされる。
まだこちらの廃止は検討段階であるため、今後の流れを注目する必要があるが、廃止が決定される場合、1日8時間勤務を条件として、最低月給額に変動が発生することになる。
労働者退職給与補償法
会社は退職給与制度(退職金制度及び退職年金制度(確定給付型及び確定拠出型))のうち、一つ以上を設定しなければならず、退職給与制度の種類を選択したり、変更したりするときは、労働者過半数(過半数労組)の同意を得なければならない。
確定給付型(Defined Benefit)
労働者の年金給与が事前に確定され、会社の積立負担は積立金の運用結果によって変動する。
確定拠出型(Defined Contribution)
会社の負担金が事前に確定され、労働者の年金給与は積立金の運用結果によって変動する。
会社が退職年金制度を設定する場合、「退職年金規約」を作成し、労働者過半数の同意を得て、雇用労働部に申告しなければならない。
退職年金規約は、個別事業場の退職年金制度の設計書に該当するもので、必須作成項目及び法定最低基準を満たさなければならない(退職給与制度の設定)。
退職年金制度の運営に関連する業務(運用管理業務及び資産管理業務)は、退職年金事業者(金融機関)に委託しなければならない(退職年金制度の運営方法)。
運用管理業務とは、積立金運用方針の提示、運用現況の記録管理業務をいい、資産管理業務とは、会社負担金の受領、積立金保管・管理業務をいう。退職年金の取扱金融機関(退職年金事業者)として、退職年金を取り扱う者は、一定の要件を備え、雇用労働部長官(金融委員会に委託)に登録しなければならない。また、退職年金事業者は、加入者に退職年金制度の運営状況などを年1回以上説明・教育する事が求められる。登録要件は、資産運用会社・保険会社・銀行・証券会社・その他上記に準ずる者で、大統領令で定める財政健全性基準・人的・物的要件を備える者を指す。転職時、受領した一時金を個人退職口座に積み立てる場合には、課税が繰り延べられ、一定の受給保障を受けることができるとされる。
労働時間制度
勤基法は、重要な労働条件の一つである労働時間に対し「法定基準労働時間」を、「休憩時間を除き1日8時間、1週40時間以内」と規定(勤基法第50条)しており、法定基準労働時間を超過する場合には、必ず当事者間の合意を要すると規定している。
2018年2月28日、週7日間の労働時間の上限が68時間までと解釈され得る規定から、52時間までにその上限を明確に短縮する改正が成立した。
現在、週40時間勤務制度は、労働者5人以上の事業場に適用されている。但し、労働者の5人未満の事業場に対しては、勤基法に基づく労働時間及び休暇関連規定が適用されないため、週休二日制度が適用されない点には注意が必要である。
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法定労働時間の原則
- 勤基法第50条(労働時間)
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①1週間の労働時間は、休憩時間を除き、40時間を超過することができない。
②1日の労働時間は、休憩時間を除き、8時間を超過することができない。
③第1項及び第2項による労働時間を算定することにおいて、作業のために労働者が会社の指揮・監督のもとにある待機時間などは、労働時間としてみなす。
本来、週5日勤務制(40時間労働)に向け勤基法が改正され(2003年8月)、これにより、2004年7月以降、労働者数等に応じ、段階的に法定労働時間が週44時間から40時間に短縮されてきた。2011年7月からは、適用除外となる5人未満の事業場を除き、全事業が適用対象となっていた。2018年2月28日をもって、重要な改正が成立しているため注意が必要である。
旧勤基法では、週当たりの労働時間を40時間に定め、12時間の超過勤務のみを認めているものの、雇用部によって、休日労働は週当たりの労働時間の40時間には含まれないと行政解釈されてきた。つまり、週当たりの労働時間の実質的上限は、月曜日から金曜日までの40時間に、超過勤務可能時間の12時間及び休日労働可能時間の16時間を加えた68時間が上限と解釈されてきた。しかしながら近年、国際的にも韓国の労働時間の長時間化が問題視されてきたことから、「1週40時間以内」とされてきた第50条の「1週」の定義は週末を含んだ7日を意味する旨の定義が加えられ、週末を含め52時間を超過することがないよう修正が加えられた。
従業員300人以上の事業所と公共機関は、2018年7月1日から改正法が適用されている。その一方で、従業員50人から299人の事業所は、2020年1月1日から、従業員5人から49人の事業所は2021年7月1日からの適用となる。但し、あくまで週40時間勤務制度は、労働者5人以上の事業場に適用されるものであることに変更はない。
2020年1月1日からは予定通り従業員50人から299人の事業所に対し上記の改正の適用が開始された。但し、雇用労働部による2019年12月11日に行われた発表に基づき、1年間はトライアル期間が置かれ、違反があったとしても取り締まりの対象にはならないものとされている。また、労働者による告発があり違反が確認されたとしても、最大で6カ月間の時間が与えられ、その期間内に会社が自律的に違反事項を解決した場合、罰則等が付与されることなく案件が終結するものとされている。
2021年1月、2020年から与えられていた改正導入のための猶予期間が終わり、労働時間の上限を週52時間に制限する制度が従業員50~299人の企業に本格的に適用された。当該制度は、従業員5~49人の企業にも2021年7月から適用された。
ただし、雇用労働部は、現場の困難を考慮し30人未満の事業場に対しては、2021年7月1日から導入期間を付与し、長時間関連の監督対象から除外してきていた。このような導入期間が再度1年延長され、2024年1月1日から2024年12月31日までも導入期間となることが決定した。
導入期間中には、30人未満事業場は、長時間関連の労監督対象から除外され、労働時間の限度に関連して違反が確認されても、必要に応じて3~6ヶ月の是正機会が提供される。
ただし特別監督、告訴・告発事件の場合には、導入期間の付与と関係なく直ちに法的に処理される対象となるため、この点につき留意する必要がある。
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時間外労働、深夜労働及び日曜・祝祭日労働
会社と労働者が合意すれば、週当たり12時間までの法定労働時間を超える時間外労働が認められる。時間外労働、深夜労働(22時から6時まで)及び日曜・祝祭日労働に対しては、割増賃金として時給の50%以上を会社は加算する必要がある。また、労働者と会社が合意すれば、割増賃金を支払う代わりに所定労働時間に代償休暇を与えることもできる。
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弾力的労働時間制度
- 勤基法第51条(弾力的労働時間制)
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- ①会社は、就業規則(就業規則に準ずるものを含む)で定めるところにより、2週以内の一定の単位期間を平均して1週間の労働時間が第50条第1項の労働時間を超過しない範囲内で、特定の週に第50条第1項の労働時間を、特定の日に第50条第2項の労働時間を超過して労働をさせることができる。但し、特定の週の労働時間は48時間を超過することができない。
- ②会社は、労働者代表との書面合意によって、次の各号の事項を定めれば、3カ月以内の単位期間を平均して1週間の労働時間が第50条第1項の労働時間を超過しない範囲内で、特定の週に第50条第1項の労働時間を、特定の日に第50条第2項の勤務時間を、超過して労働させることができる。但し、特定の週の労働時間は52時間を、特定日の労働時間は12時間を超過することができない。
- 1.対象労働者の範囲
- 2.単位期間(3カ月以内の一定の期間に定めがなければならない)
- 3.単位期間における労働日及び当該労働日別労働時間
- 4.その他大統領令で定める事項
- ③第1項及び第2項の規定は、15歳以上18歳未満の労働者及び妊娠中の女性労働者に対しては、これを適用しない。
- ④会社は、第1項及び第2項の規定によって当該労働者を労働させる場合には、既存の賃金水準が低下しないように賃金補填方案を講じなければならない。
弾力的労働時間制とは、2週間、3カ月間など一定期間を平均して1日又は1週間の労働時間が法定労働時間を超過しない範囲内で、特定日又は特定週に基準労働時間を超過しても労働時間の違反とならず、超過した時間に対しても延長労働の加算手当を支給しなくてもよい制度である。仕事が多いときは労働時間を長くし、仕事が少ないときは労働時間を短くするなど、会社による労働時間の運営に弾力性を賦与する。
2週間以内
時間の制限
2週以内の弾力的労働時間制を導入しても、特定週の労働時間は48時間を超過することができない。しかし、特定日に対する労働時間制限規定はないので、法的には特定日に徹夜作業などが可能であると解釈することができる。
弾力的労働時間制を施行するときの延長労働
弾力的労働時間制を施行しても、従来のごとく勤基法第53条第2項の規定により1週12時間を超過しない範囲内で延長労働をすることができる。
就業規則などの規定
2週以内の弾力的労働時間制は、就業規則又はこれに準ずるものに規定して運営することができる。適法な手続きによって就業規則を作成・変更して弾力的労働時間制を明示している場合には、労働者個人の同意は必要とされない。
該当労働日別に労働時間を事前明示
労働契約や就業規則には、始業と終業の時間を明示する必要があるため、2週以内の弾力的労働時間制を導入する場合には、特定週の始業及び終業時間は事前に明示しなければならない。
有効期間
法令上、有効期間に対する規定は格別定められていない。その運営は就業規則に従うことになるので、別途に有効期間を定めていない場合には、期間に制限なく実施することができる。
3カ月以内
労働者代表との書面合意
「3カ月以内の弾力的労働時間制」は、2週以内の弾力的労働時間制に比べてその対象期間が長い点でその要件を制限しており、会社と労働者代表の間で書面合意をしなければならない。労使間の書面合意によりこの制度を導入して運用すれば、会社が別途個々の労働者の同意を得ることは必要とされない。
労働者との書面合意内容
「3カ月以内の弾力的労働時間制」を導入するためには、次の事項について会社と労働者は書面合意をしなければならない。
- ①対象労働者の範囲:制度を適用する対象業務、対象職業などを定めた後、これに該当する労働者が対象となる。
- ②単位期間:1日の労働時間と1週間の労働時間の平均を出した単位期間を3カ月以内に定める。
- ③単位期間における労働日及び当該労働日別労働時間:対象労働者が自身の労働を予め把握できるよう、精算期間と精算期間における労働日及び当該労働日別労働時間を明確に定める。
- ④有効期間:濫用を防止するため書面合意によって有効期限を定める。
時間の制限
「3カ月以内の弾力的労働時間制」を導入しても、特定週間労働時間は52時間を、特定日労働時間は12時間を超過できない点に注意が必要である。
6カ月以内
2021年より、弾力的労働時間制の単位期間が最長6カ月に延長され、注意が必要である。
勤基法改定前の弾力的労働時間制では単位期間を2週間から3カ月までの間で選択することができたが、改定によって最大で6カ月までその範囲が広がる。もし、6カ月以内で適用する場合は労働者代表と合意が必要とされ、労働時間は1週間の労働時間が52 時間、1 日の労働時間は12 時間を超過してならない。
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選択的労働時間制度
- 勤基法第52条(選択的労働時間制)
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会社は、就業規則(就業規則に準じるものを含む)によって始業及び終業時刻を労働者に任せることにした労働者に対しては、労働者代表との書面合意によって次の各号の事項を定めたときは、1カ月以内の精算時間を平均して、1週間の労働時間が第50条第1項の労働時間を超過しない範囲内で、1週間に第50条第1項の労働時間を、1日に第50条第2項の勤務時間を超過して労働させることができる。
- ①対象労働者の範囲(15歳以上18歳未満の労働者を除く)
- ②精算期間(1カ月以内の一定期間を定めなければならない)
- ③精算時間における総労働時間
- ④必ず労働しなければならない時間帯を定める場合には、その開始及び終了時刻
- ⑤労働者がその決定によって労働することができる時間帯を定める場合には、その開始及び終了時刻
- ⑥その他大統領令で定める事項
「選択的労働時間制」とは、就業規則に定めた始業及び終了時刻を、労働者の決定に任せることにし、労働者との合意を通じて1カ月以内の精算期間を定めて、総労働時間の範囲内で出退勤時刻と1日の労働時間を労働者が自主的に決定させる制度である。即ち、精算期間中の週当たりの平均労働時間や40時間を超過しない範囲内で、特定日又は特定週に法定基準労働時間を超過して勤務することができる。出退勤時間と1日の労働時間を対象労働者が自主的に定めることができるので、専門職又は研究職労働者の業務能率向上を図ることができるほか、主婦労働者の採用を促進することができる。
「選択的労働時間制」を導入するためには、まず就業規則にその対象を規定しなければならない。これは、労働者が始終業時刻を自らの意志によって決定することが選択的労働時間制の核心であるので、これを担保するため規則に明示するように要求している。
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特別延長勤務の一時的認定
1週8時間の特別延長勤務
勤基法第53条が改正され、常時30人未満の会社に限り、一定の事項(超過する必要がある理由、労働時間、対象労働者の範囲)につき労働者の書面による合意が明確にある場合は、勤基法第53条1項及び2項に基づき延長された労働時間に加えて1週間に8時間を超過しない労働時間を延長することができる規定が一時的に認められることとなった。但し、本規定は2021年7月1日より2022年12月31日まで限定的に認められるものであるため注意が必要である。また、本規定は15歳以上18歳未満の労働者には適用されない。
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家族介護等労働時間短縮制度
家族介護等労働時間短縮制度
雇用労働部は、2022年1月1日から一人以上の事業所にまで「家族介護等労働時間短縮制度」が拡大施行されると明らかにした。
「家族介護等労働時間短縮制度」は、労働者が家族介護等の理由で労働時間の短縮を事業主に申請できる権利(労働時間短縮請求権)を制度的に保障したもので、2020年に公共機関や従業員が300人を超える事業所を対象に初めて施行され、企業規模別に2022年まで段階的に拡大施行となっている。
労働時間短縮を申請できる事由として、「家族介護」、「本人の健康上の理由」、「引退のための準備(55歳以上)」、「学業」等が該当し、労働者は、このような事由により労働時間短縮を申請する権利が与えられ、会社は要件を満たす場合、これを許容しなければならない義務が課される。ただし、会社は代替人材の採用が不可能な場合や正常な事業の運営に重大な支障をきたす場合等、許容例外事由が認められれば、勤労時間短縮を許容しないことも可能とする余地が与えられている。労働時間は、週当たり15時間以上30時間以内の範囲で労働者が申請する時間に沿って短縮しなければならない。
会社は、労働時間短縮を理由に、当該労働者に解雇等その他の不利な処遇をしてはならない。また、労働条件を不利に変更することはできず、労働時間短縮労働者に延長労働を要求することも許されない。また、労働時間短縮を申請していた期間が終了した場合、会社は、労働時間短縮前と同じ業務、又は同水準の賃金を支給する職務に復帰させなければならない義務が課される。
ウォラベル雇用奨励金制度
一方、雇用労働部は、勤労時間短縮による負担を軽減するため、会社に「ウォラベル雇用奨励金」を支援する。労働時間の短縮を認めた会社は、「ウォラベル雇用奨励金」を通じて間接労務費、賃金減少額補填金の支援を受けることができ、労働者は、会社を通じて賃金減少額の一部の支援を受けることができる。
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休憩・休日
1日当たりの休息時間
会社は、労働時間が4時間の場合には30分以上、8時間の場合には1時間以上の休憩を労働時間の途中に与えなければならない。休憩時間は、労働者が自由に利用することができ、休憩時間が労働時間に含まれることはない。
1週当たりの休日
会社は労働者に対して1週間に平均して1日以上の有給休暇を与えなければならない。
大統領令により指定された休日の有給保障
2018年の勤基法改正により、勤基法の適用対象となる会社は、労働者に対して、大統領令によって指定されたすべての休日につき有給で保障しなければならないことが明確に定められた。本改正により、団体協約や就業規則に休日が有給休日として指定されていなかった中小・零細企業の労働者、特に休日に休むために無給休暇を取らざるを得なかった労働者達が恩恵を被ることとなる。但し、労働者代表と書面による合意がある場合は、変更が可能であるため注意が必要である。本条項は、会社の規模に応じて2020年より2年間にかけて段階的に施行される。
2020年1月1日より、まずは従業員300人以上の事業所に対し、大統領令によって指定されたすべての休日につき有給による保障の適用が開始された。今後、従業員30人以上の事業所は2021年1月より、従業員5人以上の事業所は2022年1月より段階的に適用される予定となっている。指定された休日に勤務をした場合は、労働者の代表との書面による合意によって、他の勤務日を休日として代替することもできる。指定された休日になされた労働については割増料金にて対価を支払わなければならず、これを遵守しない場合は、最大2年の懲役または2,000万ウォン以下の罰金刑に処される可能性があり注意が必要である。
2022年1月より従業員5人を超える事業所に対しての本制度の適用が開始されている。
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年次有給休暇
1年の所定労働時間の80%以上を勤務した労働者に対し、年間最低15日の年次有給休暇が付与される。日数は勤続年数2年当たり1日を加算して最大25日まで付与される。会社が、以下に述べるような積極的な休暇使用の促進措置を講じたにも関わらず、労働者が休暇を使用しない場合、会社は休暇における金銭補償義務が免除される。
- 年次有給休暇使用可能期間(付与されてから1年間)が終了する6カ月前を基準に、10日以内に会社が労働者別に未使用休暇日数を示し、労働者がその使用時期を決めた上で、会社に通知するよう書面で要求した場合
- 上記の要求にも関わらず、労働者が通知を受けてから10日以内に未使用休暇の全部又は一部の使用時期を決めて会社に通知しない場合、年次有給休暇使用可能期間が終了する2カ月前までに会社が未使用休暇の使用時期を決め、労働者に書面で通知した場合
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育児休職及び育児期労働時間短縮制度に関する法改正
2019年10月1日より、本来は、育児休職及び育児期労働時間短縮制度につき双方あわせて最大1年まで保障されていた(まとめて取得することも分けて取得することも可能)期間が1年から2年に延長された。
また、2021年には、育児休職に関する取得形態に変更が加えられている。今までは育児休職を分割できる回数が1回とされていたが、2021年からは、2回にまでの分割が可能となる。コロナの影響により様々な形で育児休職を必要とする労働者を考慮した変更と言える。
妊娠中の労働者に対する保護の強化
2021年11月から「妊娠中の労働者」も育児休職が可能になり、この期間において3カ月間で最大150万ウォン、その後は120万ウォンまで育児休職給与を支給する制度が始まった。また、これまで比較的に保護制度が脆弱であった妊娠12週以降~35週以内の妊娠中の労働者に対しても、1日の労働時間を維持しながら出勤・退勤時間を変更できる労働時間短縮制度の道が開かれた。
これまで育児休職は、満8歳未満又は小学校2年生未満の子どもを持つ労働者のみに使用できる権利が付与され、妊娠中の労働者が健康を保護するために休職が必要な場合に、育児休職を活用できていないという限界が指摘されてきた。今後、妊娠中の労働者においても育児休職の活用が可能となり、妊娠中に育児休職を使用する場合は、休職開始予定日の30日前までに会社に申請すれば良いものとされる。
また、業務時間の変更を希望する場合は、変更開始予定日の3日前までに申請書に妊娠事実確認のための医師の診断書を添付し会社に提出すれば、出勤・退勤時間を変更することができるものとされる。会社は特別な事由がない限り、妊娠中の勤労者の出退勤時間の変更を許容しなければならない。ただし、正常な事業運営に重大な支障をきたす場合等においては、例外として許容の義務が猶予されるものとされている。
6 + 6 両親育児休職制の施行
夫婦が共に、又は順次、育児休職制を使用する際に利用されていた「3+3両親育児休職制」が「6+6両親育児休職制」に拡大・改編された(雇用保険法施行令95条の3)。既存の制度(3+3両親育児休職制)との相違点は以下の通りである。
当該制度は、養育が必要な子供に対して両親双方が育児休職を使用できるよう作られた制度である。必ず、両親が同時に育児休職を使用する必要はなく、お父さんが最初に使用、その後にお母さん、といった使用方法も可能。
当該制度の核心は、育児休職給与を一定期間の間、より多く受け取れるよう制度設計されている点(両親が双方共に育児休職制を使用した場合、最初の6ヶ月に対する育児休職給与を通常賃金の100%で支援が受けられる仕組み)にある。2023年までは、生後12ヶ月以内に子供の世話をする親が最初の3ヶ月間に限り通常賃金100%を受けることのできる「3+3」制度だったが、2024年からはこの運営範囲が「6+6」に拡大された。上限額も1ヶ月目に200万ウォンから毎月50万ウォンずつ引き上げられ、6ヶ月目には450万ウォンまで増える。よって、両親共に通常賃金が月450万ウォンを超える場合、両親が合わせて6ヶ月に最大3千900万ウォンを受けることも可能となる。7カ月目からは通常賃金の80%(150万ウォンを上限)の一般育児休職給与を受ける。
雇用保険法上、雇用保険被保険者である労働者であれば誰でも当該制度を使用することができる。よって、雇用保険被保険者でない公務員や私立学校の教員は該当しないため、例えば両親のうち一人は一般労働者、もう一人は公務員や私立学校の教員である夫婦がすべて育児休職制を使う場合、一般労働者だけが当該制度の適用を受ける。
普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のそれぞれの方法と留意点
解雇の制限
- 勤基法第23条(解雇の制限)
- 会社は、正当な理由なく労働者を解雇、休職、停職、転職、減俸、その他の懲罰をすることができない。
解雇は、労働者本人の意思に反して会社の一方的な意志表示により労働契約を終了させる点で、勤基法上に一定の制限を置いている。
勤基法では、「正当な理由」なく解雇などの懲戒をすることはできないと規定しており、労働者を懲戒又は解雇するためには「正当な理由」を備えていなければならないと明示している。
解雇の正当な理由は、勤基法には明示されていないものの、社会通念上の労働者の故意、過失、非能率など労働者側の理由による場合とやむを得ない経営上の必要により減員する会社側の理由による場合とに区分される。
下記(4)で述べる解雇予告対象の例外に当たらない限り、適法な解雇には、正当な理由及び解雇予告が求められる。
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労働者側の個人的理由による解雇(普通解雇)
会社は、正当な理由が存在しなければ、労働者を解雇することができない。
解雇の「正当な理由」の中で、労働契約を維持することができないほどの責任が労働者にあり、労働契約や就業規則などにそれらにつき規定がある場合、それが勤基法に違反することなく社会通念上合理性が認められる解雇ならば、正当な解雇としてみなされる。
例)勤務態度の不良、違法行為、経歴偽造その他
留意点として、会社は、労働者が会社の正当な職務上の命令を拒否すれば、懲戒事由を得るが、職務上の命令が次のように労働契約の範囲内において有効でない場合、不当懲戒になることがある。
- ①人事異動は、原則的に会社の権限に属しているため、相応な裁量が認められるが、人事異動の命令が勤基法に違反、又は権限乱用として該当する場合、正当性が認められない。人事異動の正当性を認められるためには、当該発令に対する業務上の必要性の検討、会社の裁量の程度、人事異動による労働者の生活上における不利益と比較考量し、労働組合又は該当労働者との協議など、信義誠実において要求される手続きを踏まなければならない。
- ②延長労働は、労働者との合意があれば可能であるが(勤基法第53条)、各労働者との個別的な約定(労働契約書)や各労働者の合意権を制限しない範囲内で団体協約として合意することも可能である。しかし、合意が全く存在しないのならば、延長労働を拒否する労働者に対して懲戒することはできず、また、入社当時に合意を行っていたとしても当初の予想範囲を超えるほどの延長勤務を会社が要求しているのであれば労働者は正当に拒否することができる。
- ③違法行為をした労働者が始末書の提出を拒否することは、それ自体が会社による正当な業務上の命令を拒否することになるため、別途の懲戒事由になることがある。しかし、労働者に良心の自由に反する内容(例:本人は深く悔いており、今後これに類似したことが再発したときには、いかなる処罰も受け入れることを誓約する)の謝罪文や覚書を要求することは正当ではなく、労働者がこれを拒否したとしても懲戒事由とすることはできない。
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懲戒解雇
韓国の懲戒解雇は日本の懲戒解雇制度と酷似しており、大きな差異は見受けられない。労働者が極めて悪質な規律違反や違法行為を行った場合等に懲戒処分が可能であり、当該処分を行うため、就業規則や労働契約書にその要件を具体的に明示しておくことが求められる。懲戒解雇の場合、他の解雇手続に求められる解雇予告が不要とされる。
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経営上の理由による解雇(整理解雇)
経営上の理由による解雇が正当となるためには、次の事項がいずれも充足されていなければならない。
- ①解雇時において、買収、合併等人員削減しなければならない緊急的な経営上のやむを得ない必要性が存在すること。
- ②解雇回避の努力が尽くされたこと。
- ③解雇対象者の選定に際して、客観的合理性を有する人選基準を設定し、かつ、これを公平に適用したこと。但し、会社は、人選基準の設定及びその適用に際しては、再就職の難易度及び生活上の打撃など労働者の被る不利益に配慮しなければならない。
- ④解雇対象者である労働者(当該労働者が労働組合に所属している場合には当該労働組合を含む)及び労働者の過半数で組織する労働組合があるときは当該労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者(以上の労働者、労働組合を以下、「労働者等」という)に対して、解雇の必要性、解雇回避の努力の内容、人選基準等につき、その根拠となる具体的な資料を提示した上で説明し、労働者等との協議を尽くしたこと。
一方、整理解雇の際、日本も判例法理により、下記の4要件を充足することが求められる。
- ①業務上の必要性
- ②人選基準の合理性
- ③組合や労働者への説明義務の履行
- ④解雇回避義務の履行
日本は基本的に、韓国の勤基法に定められた4要件とほぼ同一の基準を採用していることがわかる。
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解雇予告
会社は、労働者を解雇(経営上の理由による解雇を含める)するときは、少なくとも30日前にその通知をしなければならず、解雇予告をしないときは、30日分以上の通常賃金を支給しなければならない。但し、天災その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能な場合又は労働者が故意に事業に重大な支障を招き、又は財産上損害を与えた場合として労働部令が定める事由に該当する場合を除くものとする。
但し解雇予告については、2019年1月15日をもって改正がなされており注意が必要である。本改正により解雇予告をする義務を負わない例外対象につき修正がなされた。下記のいずれかに該当する場合は一律的に例外に該当し、予告義務を負わない。
勤労基準法第26条(解雇予告)- 従来の第35条は削除
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- ①労働者が継続的に労務を提供した期間が3カ月未満である場合
- ②天災その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能な場合
- ③労働者が故意に事業に重大な支障を招き、又は財産上損害を与えた場合として労働部令が定める事由に該当する場合
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不当解雇に対する救済
会社が労働者に対して正当な理由なく不当解雇をした場合には、労働者は労働委員会に救済を申請することができる。この申請は不当解雇があった日から3カ月以内に行わなければならない。
労働委員会は、関係当事者から証拠の提出を受けて当事者を審問し、不当解雇の事実の存在が認められると認定された場合、会社に対し救済命令が出される。労働者が現職の復帰を望まない場合には、期間中の賃金相当額以上の金銭補償命令を出すことができる。
外国人ビザの種類及び取得要件
ビザの種類
韓国には、日本人を含む外国人が就業を許されているビザとして主に、駐在ビザ(D-7)、企業投資ビザ(D-8)、ワーキングホリデービザ(H-1)、専門職業ビザ(E-5)、技術指導ビザ(E-4)、芸術興行ビザ(E-6)、船舶業務(E-10)などがある。ただその中でも、日本企業が韓国へ進出する際や、日本人が韓国で起業する際に取得するビザは、主に駐在ビザ(D-7)と、企業投資ビザ(D-8)が一般的である。
日本人が観光、通過、単純訪問、短期商用、会議参加等の目的で韓国に90日を超えない期間の間滞在する場合、ビザを取得する必要はない。但し、滞留期間が90日を超えない場合であっても一時興行、広告、ファッションモデル、講義、講演、研究、技術指導等、収益を目的とする短期間就業活動又は営利活動を目的に入国する場合、短期就業(C-4)等のビザを取得しなければならないので注意が必要である。
下表に記載されているが駐在ビザ(D-7)と、企業投資ビザ(D-8)が主に赴任者が使用するビザの資格とされる。
近年の外国人をめぐる動向
韓国では継続して少子高齢化による生産年齢人口の減少に対する対策がとられている。その一つとして外国人労働者の受け入れが積極的に促進されており、在留外国人数は年々増加傾向にある。
韓国の外国人労働者の受入れ政策は、大きく「優秀専門外国人労働者の誘致戦略」と「非専門外国人労働者の効率的活用」に区分される。優秀専門外国人労働者の誘致戦略は、「投資移民の活性化」、「留学生の誘致及び管理強化」、「電子ビザの発給」、「点数移民制の施行」等が挙げられる。また、非専門外国人労働者の効率的活用と関連した代表的な政策としては、雇用許可制が挙げられる。雇用許可制とは、国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府から雇用許可書の発給を得て、合法的に外国人労働者を雇用する制度である。
韓国企画財政省による「2023年経済政策方向」では、人口減と経済人材難の解消に向け、外国人人材のクォーター(受け入れ人数枠)を11万人に拡大するとの発表があった(4万1000人の追加)。これを受け2023年には、月平均1万人以上の入国が迅速に推進されることが予想されている。
その他にも2023年には、外国人労働者雇用保険の適用拡大(改正後は10人未満の事業場にまで保険の適用拡大)、訪問就業(H-2)ビザ許容業種の拡大(宿泊業等が追加)が新たに行われる予定である。