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香港労働法制
外国法と雇用法が重複する場面につき、裁判所は雇用法の適用の可否の判断を明確にしていないものの、限られた例外を除き、雇用法は国籍にかかわらず香港内で働くすべての労働者に適用される。
従業員を解雇する場合、正当事由が必要となり、会社は、大まかに従業員の問題行動、従業員の能力又は資格、人員調整の必要性、運営上必要な理由、継続的雇用の違法性、その他解雇を正当化するに十分な理由をもって解雇できるとされている。よって、日本との比較で言えば、解雇は容易な政策がとられており、比較的会社に有利な労働政策がとられているともいえる。
香港で働くためには、永住者でない限り就労ビザの取得が求められる。かつては、外国人のビザ取得には比較的寛容な政策がとられていたが、近時は審査基準が年々厳格化しているようであるため、注意が必要である。
2020年6月30日に成立した「香港特別行政区国家安全維持法」による労働法制に対する影響の程度は、現状では必ずしも明らかでないが、今後の状況に留意することが望まれる。
労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況
一国二制度
香港は、1997年に英国から中国に返還され、現在は中華人民共和国の一部となっているが、「香港特別行政区」として、英国統治時と同様の英国法をベースとした法制度を維持している(「一国二制度」政策1)。そこで労働関連法においても、その基本的な考え方は中国本土等におけるシビル・ロー系ではなく、コモン・ローに基づくものとなっており、域内の経済発展を指向する政府の基本的方針のもと、雇用主である会社の経済活動の便宜に比較的重点を置いている傾向にあるといえる。
※コモン・ロー/シビル・ローの概略
「コモン・ロー」とは、イギリスのほかかつて大英帝国領であった諸国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で中心に採用されている、伝統・慣習・先例に基づいて判断してきた判例を重視する法体系を指す。
他方、「シビル・ロー」とは、フランス・ドイツなどの大陸側で発達した概念であり、コモン・ローに比べて制定法を重視する法体系である。なお、日本は、シビル・ローの法体系に属する。
雇用条例による規定
香港における労働法制の基本となる法令は「雇用条例」(香港法例第 57 章)であり、同条例において、香港における雇用契約の内容、賃金、休暇、手当、出産・育児保障、年末手当、雇用契約の終了、解雇等、雇用に当たっての基本的な内容が定められている。
なお、外国法と雇用条例その他の雇用関係法令が重複する場面につき、裁判所はその適用の可否の判断を明確にしていないものの、限られた例外を除き、雇用条例その他の雇用関係法令は、労働者の国籍にかかわらず香港で雇用契約を締結し、香港内で働くすべての労働者に適用されるものと解される。
解雇時の条件
会社が労働者を解雇する場合には、就業規則や雇用契約書に則り、契約上の事前通知期間に通知をすることにより解雇できる。もし特に規定がない場合は、試用期間後であれば、1カ月前の通知、又は1カ月分の給与を支払うことで解雇できる。労働者が以下に該当する場合、事前通知又は1カ月分の給与なしに労働者を即時解雇できる。
- 正当かつ合理的な命令に故意に従わない場合
- 素行不良の場合
- 詐欺行為又は不誠実行為を犯した場合
- 常習的に職務怠慢な場合
政府の方針としては比較的会社に有利な立場をとっているといえる。ただし、妊産婦の労働者、疾病休暇を取得中の労働者等、一定の労働者の場合には解雇が禁止されることになる。
労働組合参加権及びストライキの権利
香港においては、労働者が労働組合に参加する権利及びストライキの権利が法令上保障されており、会社に対しては、労働組合の参加の有無により労働者を差別してはならず、ストライキへの参加を理由とする解雇をしてはならない等の規制が存在する。
強制積立金制度(MPF)
香港においては、会社及び労働者がそれぞれ積立金を拠出する法定社会保険として「強制性公積金」(強制積立退職金、Mandatory Provident Fund、MPF)の制度が存在する。このMPFは、登録された運用会社(保険会社等)により運用され、各労働者の退職金の原資となっている。
ビザの取得
香港で外国人が就業するためには、永住者でない限り、就業可能なビザの取得が求められ、その外国人が香港にとって利益をもたらすものでなければならない。一方で、トレーニング(研修)ビザ、投資・起業のためのビザ等により外国人の経済活動を促進することを指向している。しかしながら、2015年のGEP(一般就業政策)の変更以来、イミグレーション局の査証審査方針は厳格化されており、法律事務所等の信用がおけるところに申請を代行してもらう方法が安全である。又申請許可が下りるまでに通常4-6週間の審査期間がかかり、その間の就業も不法就業となるため、早めに申請準備に取り掛かるべきである。
基本的な労働法制の概要
労働に関する制定法
香港の労働当局である香港特別行政区政府労工処のウェブサイト(http://www.labour.gov.hk/chs/legislat/contentA.htm)によると、香港における労働に関する主な制定法は以下のとおりである。
- 雇用条例(香港法例第57章)
- 工場及び工業経営条例(香港法例第59章)
- 雇用労働者補償条例(香港法例第282章)
- 職業安全及び健康条例(香港法例第509章)
- 最低賃金条例(香港法例第608章)
このほか、労働組合に関する法令として「労働者組合(職工会)条例」(香港法例第332章)、労働紛争解決機関に関する法令として「労働審裁条例」(香港法例第25章)、労働安全衛生・職業病等に関する法令として「職業安全及び健康条例」(香港法例第509章)及び「雇用労働者補償条例」(香港法例第282章)、社会的弱者保護に関する法令として「性差別条例」(香港法例第480章)、「障害者差別条例」(香港法例第487章)、「門地差別条例」(香港法例第527章)、「人種差別条例」(香港法例第602章)等がある。(なお、これらの各「差別条例」については、2020年6月20日に改正法が成立しており、それぞれ職場におけるハラスメントの禁止が強化されている。これらのうち、「性差別条例」における母乳育児をする女性労働者をハラスメントから守ることを内容とした改正部分は、2021年6月19日から施行されている2。)
これらのうち、労働に関する基本となる事項を定めるものが「雇用条例」である。
雇用条例
雇用条例においては、香港における雇用契約の内容、賃金、休暇、手当、出産・育児保障、年末手当、雇用契約の終了、解雇等、雇用に当たっての基本的な内容が定められている。以下において、同条例の主な内容につき紹介する。
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適用対象
雇用条例は、次を除くすべての被雇用者(労働者)に対して適用される。
- 雇用主の家族及び雇用主と同居する労働者
- 香港以外の場所において就業する者(外国人・出稼ぎ労働者等)
- 船員契約に基づきサービスを提供する者、又は香港以外で登録された船においてサービスを提供する者
- 実習生条例に登録された学生・実習生(ただし、一部の規定は適用あり)
雇用条例が適用される労働者はすべて、その勤務時間にかかわらず、同条例における基本的な保障(賃金の支払い、賃金控除制限及び法定休暇日の取得等)を受けることができる。
又、労働者のうち、同一の会社により連続して4週間以上かつ毎週18時間以上勤務雇用される場合についてはさらに「連続性契約」として、その他の休息日、有給休暇、疾病手当、雇用契約解除時の補償金、長期服務金等の権益も享受することができる。
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雇用条件の細則
会社は、労働者の雇用前に次の雇用条件に関する詳細を説明しなければならない。
- ①賃金、残業代及び各種手当の内訳
- ②賃金の支払い期間
- ②雇用契約を終了させる際に必要な通知期間
- ④年末手当に関する事項(支給対象となる場合)
特に①については、賃金が各種手当の計算の際の基礎となるため、労使双方にて詳細かつ明確に約定しておく必要がある。連続性雇用契約の期間については、当事者間において別途約定がない限り、自動更新の1カ月間の契約であるとみなされる。
なお、雇用契約は必ずしも書面による必要があるわけではないが、書面による雇用契約を締結する方がよいことはいうまでもない。なお、書面による雇用契約を締結した場合には、労働者に対しても一部を保存及び参照用として渡す必要がある。又、会社が雇用条件を変更する場合には、速やかに労働者に対して通知し、同意を得るべきこととされている。
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賃金
後述「4.賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要」を参照。
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休息日、法定休暇及び年次有給休暇
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休息日
休息日とは、労働者が会社のために労働しなくてよい権利を有する連続した24時間以上の期間をいい、労働者は、「連続性契約」に基づき、7日ごとに少なくとも1日の休息日を享受することができる。
休息日は、会社の指定により固定性と非固定性に分けられ、固定性休息日の場合にはその日程を一回、非固定性の場合には毎月の開始前にその月の日程が労働者に対して通知されるべきことになる。又、労働者の同意のもと、当初指定した休息日と異なる日を代休とすることもでき、その場合には、代休は同月の当初の休息日の前又はその後30日以内に手配されなければならない。
会社は労働者に対し、機械・工場設備の故障等といった緊急事故の場合を除いて休息日に労働を強要してはならない。又、休息日に労働を求める場合には、会社は当初の休息日から30日以内に代休を付与し、かつ、当初の休息日から48時間以内に代休の日程を労働者へ通知しなければならない。
又、会社が合理的な理由なく労働者に休息日を付与しない場合には、5万香港ドル以下の罰金が科される可能性がある。会社が休息日に労働を強制した場合も同様である。
工場等で働く18歳未満の者である場合を除き、労働者が自主的に希望する場合には、休息日に労働することができる。しかしながら、雇用契約において、休息日の労働を毎年の報償等の条件とすることは無効である。なお、休息日を有給とするか無給とするかについては、労使間の合意により決定する。
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法定休暇
すべての労働者は、勤務年数の長短にかかわらず、次の法定休暇日を与えられる。
- ①1月1日
- ②陰暦元旦
- ③陰暦正月2日目
- ④陰暦正月3日目
- ⑤清明節
- ⑥労働節(5月1日)
- ⑦仏誕節(2022年より発効)
- ⑧端午節
- ⑨香港特別行政区成立記念日(7月1日)
- ⑩中秋節の翌日
- ⑪重陽節
- ⑫国慶節(10月1日)
- ⑬冬至又はクリスマス(会社の選択による)
- ⑬クリスマスの翌平日(2024年より発効)
この点、2021年7月16日、雇用条例の改正が公布され、2022年から2030年にかけて段階的に法定休暇日が増加し、その合計日数が現在の12日から17日となることとなった3。具体的には次の通りである。
会社が法定休暇日に労働者に労働を求める場合には、規則又は合意に則り振替休日を与えなければならない。
法定休暇日の3カ月前から連続性契約を締結している労働者は、休暇日報酬を受領することができる。会社は、遅くとも法定休暇日直後の賃金支払日には休暇日報酬を支払わなければならない。この休暇日報酬の金額は、直近12カ月の一日当たり平均賃金に相当する額であるとされるが、この計算にあたっては、休息日・法定休暇日・年次有給休暇その他の休暇日を期間から除き、かつ、それらの休暇日に支払われた金額も除いた上で行われるべきことになるため注意が必要である。
又、代わりに賃金を支払うことによって、所定の法定休暇日を与えないで労働させること(いわゆる休暇の買い取り)も禁止される。会社が合理的理由なく労働者に対して法定休暇日・代休等に休暇を取らせず、又支払うべき休暇日報酬の支払いを怠った場合には、5万香港ドル以下の罰金が科される可能性がある。
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年次有給休暇
連続性契約に基づき12カ月以上雇用された労働者は、その12カ月以上の雇用を受けた後、その後の12カ月間において、勤続年数に応じて、次の通り7日から最大14日までの年次有給休暇を取得する。
年次有給休暇日の指定は、会社が労働者又はその代表者に確認後に行うべきものとされ、指定日の14日以上前(合意により短縮可能)に書面により労働者に通知される。年次有給休暇は原則として連続した日数が与えられなければならず、会社は、労働者の要求により次の要領で付与することができる。
又、労働者が10日以上の年次有給休暇を取得する権利を有する場合には、10日を超過する日数分は手当として受け取ることもできる。又、会社の同意があれば、取得権利日数以上の年次有給休暇を得ることも可能である。
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疾病手当
連続性契約を締結する労働者が次のすべての条件を満たす場合には、疾病手当の受給が可能である。
- ①連続4日以上の病気休暇を取得したこと(ただし、女性労働者が妊婦健診や出産に関連した検査等により休暇を取得する場合には、1日ごとの取得が可能)
- ②労働者が適切な医師による診断書を提出したこと
- ③十分な疾病手当(下記を参照)の取得権利日数が蓄積されていること
この疾病手当の取得可能蓄積日数は、最初の12カ月目までは1カ月ごとに2日であり、13カ月目からは1カ月ごとに4日の割合で、最高120日までとなっている。
労働者の病気休暇に関連し、会社は、次の記録を保管しなければならない。
- ①各労働者との雇用契約の開始日及び終了日
- ②各労働者の蓄積有給病気休暇の全日数
- ③各労働者が既に取得した有給病気休暇の日数及び有給病気休暇の日数の合計から引いた日数の記録
- ④各労働者が既に取得した疾病手当の金額及び取得した病気休暇の日付
この記録については、労働者が復帰した後7日以内に署名がなされなければならず、労働者はこの記録を閲覧する権利を有する。会社が合理的理由なく労働者に対して病気休暇手当を支払わなかった場合には、5万香港ドル以下の罰金が科される可能性がある。
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出産・育児保障
連続性契約に基づき雇用されている女性労働者は、会社への事前通知により、次の条件により産前産後休暇を取得できる。
- 期間は連続した14週間
- 実際の出産が予定日より後であった場合、出産予定日の翌日から実際の出産日までの期間を加えた日数
- 妊娠、出産が原因での疾病や怪我により業務ができない場合には、追加で4週間を超えない日数
産前産後休暇の取得は、次の通りの日から開始される。
産前産後休暇の取得開始日前に40週間以上連続性契約に基づき雇用されている女性労働者は、産前産後休暇取得の旨と妊娠証明を会社に提出することにより、平均賃金日額の80%に相当する金額の産前産後休暇手当を受給することができる。
この点に関し、産前産後休暇の期間は、従前は連続した10週間であったのが、2020年の雇用条例改正により、連続14週間に延長された(同年12月11日施行)。これは女性労働者保護を強化する施策であるが、一方で会社は、休暇中の従業員に対する産前産後休暇手当を4週間分、多く支払わなければならないことになり、負担が増加することになるといえる。そこで、会社が政府に請求できる従業員一人当たり8万香港ドルを上限として、第11週目から14週目分の産休産後手当の払戻しを会社が政府に請求できるスキームも併せて発表された(Reimbursement of Maternity Leave Pay (RMLP) Scheme)4。
このほか、上記の改正においては、雇用条例上の「流産」の定義の変更による女性労働者保護も図られた。従前は、妊娠28週目以降の場合に初めて、雇用条例上の「流産」として傷病休暇・傷病手当の支給対象となっていたのが、改正により、妊娠24週目以降であれば「流産」の定義に該当することになり、女性労働者保護の対象範囲が拡大された。
合理的な理由なく産前産後休暇の付与及び産前産後休暇手当の支払いを怠った会社は、5万香港ドル以下の罰金の対象となる可能性がある。
連続性契約に基づき雇用されている女性の労働者で、妊娠通知を会社に提出している場合には、会社は、原則としてこの労働者を解雇することができない。例外的に次の場合にのみ解雇できる。
- 当該労働者が重大な過失により即時解雇される場合
- 12週間を超えない試用期間内において、妊娠以外を理由として解雇される場合
会社がこの規制に違反した場合には、10万香港ドル以下の罰金の対象となる可能性がある。さらに、労働契約終了後7日以内に、当該労働者に対して次の金銭を支払わなければならない。
- 事前通知に代わる金銭
- 加えて1カ月分の賃金に相当する賠償金
- 当該労働者が産前産後休暇手当を取得する資格を有する場合には、14週間分の産前産後休暇手当
以上の他、妊娠した労働者については、危険又は有害な業務に従事させてはならない等の制限がある。
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出産補助休暇・手当
2019年の改正5により、連続性契約に基づき雇用されている男性の労働者が、2019年1月18日以降に生まれた子供の父親であって、規定に則り会社に通知した場合には、配偶者/パートナーの出産ごとに5日の出産補助休暇を取得することができるようになった(改正前は3日)。この場合、当該労働者は事前に会社に通知するとともに、休暇を取得する具体的な日付を明らかにしなければならない。
又、出産補助休暇を取得する前において、連続性契約に基づき40週間以上雇用されている場合で、当該休暇の初日から12カ月以内又は雇用停止後6カ月以内に所定の文書を会社に提出したときは、当該労働者は、直前の1日当たり平均賃金の80%に相当する額の出産補助休暇手当を取得することができる。
なお、この出産補助休暇及び手当を取得するための申請にあたり提出する子供の母親に関する資料の公開・使用等については、「個人資料(プライバシー)条例」(香港条例第486章)の関連規定に適合する必要があり、会社は労働者に対して、母親の資料を提出する前にその母親の同意を取得するよう促さなければならない点に留意が必要である。
又、会社は、各労働者の過去12カ月の賃金及び雇用記録を常に保管しなければならず、状況により、その雇用記録には上記の出産補助休暇及び支払い済みの同手当に関する詳細も含める必要がある。
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雇用保障
雇用条例における「雇用保障」に関する部分については、会社が同条例に定める責任を逃れる形で解雇し、又は契約を変更することを防止することを目的としている。雇用保障を求め得る条件及びその補償内容については次の通りである。
上記に基づき、この雇用終了金に含まれるものには、次がある。
- ①雇用契約に基づき労働者が享受する権利を有する賃金及びその他の支払い
- ②事前通知に代わる金銭の支払い
- ③年末手当
- ④産前産後休暇手当
- ⑤解雇補償金・長期服務金
- ⑥疾病手当
- ⑦休日手当
- ⑧年次休暇手当
- ⑨雇用条例及び雇用契約に規定された支払い
労働審判処が補償金の支払いの要否及びその金額を判断するにあたっては、次のような要素が考慮される。
- ①会社と労働者との状況
- ②労働者の雇用期間
- ③解雇が行われた状況
- ④労働者が解雇により被った損失
- ⑤労働者が別途新規の仕事を獲得できる機会
- ⑥解雇が本人の過失であったか否か、及び
- ⑦労働者が解雇に関して受給権を有する金銭(雇用終了金を含む)
なお、以上の雇用保障は、次に関する雇用差別には例外として適用されないため、注意が必要である。
- 性別に関する差別(「性的差別条例」に基づき処理される)
- 身体障害に関する差別(「身体障害差別条例」に基づき処理される)
- 家庭状況に関する差別(「家庭状況差別条例」に基づき処理される)
- 民族に関する差別(「民族差別条例」に基づき処理される)
雇用保障に関連し、2018年の改正により新たに労働審判処の管轄権についての条文が記載されるようになった。労働審判処は雇用条例に基づく従業員からの申立を調査、聴取及び決定する権限を有することが明記され、従業員への保護が以前より強くなった。
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労働組合活動への参加に対する差別待遇の防止
すべての労働者は、等しく次の権利を有する。
- ①労働組合に参加して労働組合の組合員又は組合専従者になる権利
- ②労働者が労働組合の組合員又は組合専従者である場合には、適当な時間(※)にその労働組合に参加して活動を行う権利 ※適当な時間とは、業務時間外、又は会社の同意を得て取り決められる業務時間内をいう。
- ③他人と共同して労働組合を組織し、労働組合の登録に関する事項につき処理する権利
よって、会社は、労働者のこれらの権利を保護するため、次の内容を遵守しなければならない。
- ①労働者によるこれらの権利行使を阻止し、又は思い止まらせてはならない。
- ②労働者がこれらの権利を行使したことを理由として解雇し、罰則を付与し、差別してはならない。
- ③雇用条件中において、これらの権利行使を禁止してはならない。
会社が上記の規定に反した場合には、10万香港ドル以下の罰金の対象となる可能性がある。
就業規則の作成義務及びその内容
香港においては日本とは異なり、労働者数の如何を問わず、就業規則の作成及び届出は義務付けられていない。しかしながら、雇用契約において会社と労働者との関係をすべて規律できるわけではないため、当然ながら、就業規則を定め、労使間のルールを事前に明確に定めて労働者に署名してもらっておくことがトラブル防止のためにベターであるといえる。
就業規則に記載すべき内容としては、日本の就業規則をベースにし得る部分もあるものの、2.「基本的な労働法制の概要」で記載したような雇用条例の内容に則り、香港法に基づくカスタマイズを行うことが必須となる。香港における就業規則上にみられる条項としては、次のようなものがある。
- 雇用
雇用契約の期間、途中解除、定年退職、昇進、異動等 - 業務場所・時間
- 報酬
賃金、残業代、賞与、各種手当(住宅手当、教育費、食事補助、交通費、緊急時(台風・停電等)における扱い)等 - 休暇
法定休日、年次有給休暇、その他の休暇(病気休暇、育児休暇等)及び代替措置に関する取り決め、その取得・申請方法等 - 福利厚生
医療費・歯科医療費補助、労働者割引、食堂・レジャー施設等に関する事項 - 労働者の養成・訓練に関する事項
新入社員教育、海外研修等 - 健康安全
業務場所における喫煙、飲酒、薬物使用、勤務中の事故及び補償、火事における取り扱い等 - 悪天候時の取り扱い
台風、暴風雨時の警報が出た場合の取り扱い等 - 連絡
通知の方法、連絡網等 - 服務規律
服装、出退勤、遅刻、勤務態度、汚職、窃盗・詐欺、利益相反、秘密保持、勤務時間外の行動、コンピュータの利用に関する事項等 - 懲罰
- 労働者の機会平等
- 個人情報保護
- セクハラに関するガイドライン
賃金(賞与・退職金・残業代)などの法制の概要
賃金
香港の雇用条例において、賃金とは労働者が提供する役務に対して、会社から支払われるすべての報酬、収入、手当等を指す。交通費手当、勤労手当、コミッション、又は残業代も「賃金」に含まれる。
「賃金」に含まれないものとして、次のものがある。
- 会社から提供された住居費、教育費、食費、光熱費、医療費
- 退職積立金制度に対する会社拠出分
- 慰労的な又は会社の裁量によってのみ支払われるコミッション、勤労手当、勤労ボーナス
- 非経常的な交通費、交通費のディスカウント差額、又は雇用によって発生した交通費実費
- 雇用の性質上発生した労働者が負担する特別な費用
- 慰労的な又は会社の裁量によってのみ支払われる年末手当、又は年次賞与
- 雇用終了、又は雇用満了における慰労金
特に香港の雇用条例においては、標準労働時間や残業時間の制限等に関する規定が設けられておらず、残業代も賃金の概念に含まれることから、労使間のトラブルを避けるため、雇用契約・就業規則等においてできるだけ明確かつ詳細に雇用条件について定めておくことが望まれる。なお、近時、政府が標準労働時間の導入を検討しているとの情報もあり、将来的な取り扱いの変更がありうることに留意する必要がある。
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記録の保管
会社は、労働者の過去12カ月間分及び退職後6カ月間の労働者の賃金及び雇用記録を常に保管しなければならない。
この賃金及び雇用記録には、次が含まれる。
- ①労働者の氏名・香港身分証番号
- ②雇用開始の日付
- ③役職
- ④賃金支払形態(時間払い・日払い・月払い)及び賃金額
- ⑤賃金計算期間
- ⑥当該賃金支払い期間のそれぞれの合計就業時間(もしあれば)
- ⑦取得可能な、及び取得済みの年次有給休暇、病気休暇、産前産後休暇、育児休暇、休日の期間
- ⑧年末手当の金額及びそれに関連する期間
- ⑨雇用契約解除のための通知期間
- ⑩雇用契約終了の日付
会社が労働者の賃金及び雇用記録を保管しない場合には、1万香港ドル以下の罰金となる可能性がある。労働当局の職員は、雇用条例に基づきこの記録を検査し、任意の人に質問をし、犯罪の証拠であると思われるあらゆるものを押収することができ、会社がこの要求に応じないときは、10万香港ドル以下の罰金及び1年以下の禁固刑に処される可能性があるため注意が必要である。
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賃金の支払い
賃金は、賃金計算期間の最終日又は最終日から7日以内に支払われなければならない。この期間に支払わなかった場合には、遅滞利息が発生する。
又、会社が合理的な理由なく故意に賃金の支払いを怠った場合には、35万香港ドル以下の罰金及び3年以下の禁固の刑に処され得る。合理的な理由なく故意に遅滞利息を支払わなかった場合には、1万香港ドル以下の罰金となり得る。
年次休暇手当の支払い
年次休暇手当は直近12カ月の日額平均賃金相当であり、年次休暇直後の通常の賃金支払日までに支払われなければならない。この日額平均賃金の計算方法は次の通りである。
日額平均賃金 = (直前12カ月の間に労働者が取得した賃金-除外賃金※)÷(365-除外期間※)
※除外賃金及び除外期間について
次のような状況において、賃金の一部又は全部が支払われなかった場合には、その総額及び対応する期間を平均賃金計算から除外しなければならない。
- 雇用条例に定める休暇(休息日、法定休暇、年次有給休暇、病気休暇、産前産後休暇、育児休暇、病気休暇)
- 労働者災害補償条例に基づく業務災害による疾病休暇
- 会社の同意に基づき取得した休暇
- 通常の就業日に業務が与えられなかった場合
会社が正当な理由なく、年次休暇を付与しなかった場合には、5万香港ドル以下の罰金となる可能性がある。
疾病手当及び産前産後休暇手当
疾病手当の金額は日額平均賃金の80%であり、会社はこれを疾病休暇直後の通常の賃金支払日までに支払わなければならない。
又、連続性契約に基づき40週間以上雇用されている女性労働者は、産前産後休暇取得の旨と妊娠証明を会社に通知することにより、産前産後休暇手当を受領することができる。この産前産後休暇手当の金額も、日額平均賃金の80%である。
なお、この疾病手当については、近時の新型コロナウィルス感染症の流行と関連し、2022年6月より、次の改正が加えられている。
すなわち、香港政府は、「疾病予防及びコントロール条例」(香港法例第599章) 6に基づき、対象となる市民に対し強制隔離や検疫を行うべき命令を出すことができるところ、その命令を出された従業員が隔離先で業務を行うことができない等の場合には、有給休暇や無給休暇の取得を余儀なくされる事態が生じていた。これに対し、「雇用(改正)条例2022」7 により、次のような条件を満たす場合には病欠扱いとして、疾病手当が受けられるようになった。
- 従業員が、雇用契約に基づき、同一の雇用主により、連続4週間以上かつ18時間/週以上、継続して雇用されていること
- 「疾病予防及びコントロール条例」に基づき、隔離命令や検疫命令が出されたこと
- 当該命令に従うため、欠勤が連続4日以上必要となること
- 取得に十分な疾病休暇日数を有していること
- 従業員の氏名(または従業員を識別できる情報)、強制命令の内容及び開始日・終了日が記載された政府発行の書類を有していること
- 故意による感染等の場合でないこと
また、この強制命令による欠勤を理由とする上記従業員の解雇、または雇用条件の不利益変更は、不当解雇ないし雇用条件の不当な変更とみなされることになる。
一方で、当面の間、免除対象となる場合を除き、従業員が、所定の要件を満たす「正当なワクチン接種要請」から 56日以内にワクチン接種をした証拠を提出しなかった場合には、会社は、その従業員を有効に解雇することができる。
年末手当
所定の算定期間(雇用契約で約定された期間又は陰暦の一年間)、連続性契約に基づき雇用されている労働者は、雇用契約所定の年末手当を享受する権利を有する。なお、金額が雇用契約で定められていない場合には、月額平均賃金に相当する額となる。
又、連続性契約に基づき所定の算定期間内に3カ月以上雇用され、かつ、次の条件を満たす労働者は、按分額の年末手当の支給を受けることができる。
- 算定期間後も引き続き雇用されること。
- 会社に解雇されたこと(労働者の重大な違法行為により即時解雇された場合を除く)。
なお、明確な試用期間の合意がある場合には、その期間は、3カ月を超えない範囲で、当該按分額の年末手当の計算期間から除外することができる。もっとも、試用期間を除く算定期間が3カ月以上となる場合には、研修期間を含む全雇用期間が算定期間となる。
最低賃金
香港においては、従前、最低賃金が法制化されていなかったが、2010年7月17日に立法協議会において、初めて「最低賃金条例」(Minimum Wage Ordinance)が可決され、1時間28香港ドルの金額により定められた(2011年5月1日施行)。その後、最低賃金額(時間当たり賃金)は、法定最低月額賃金が2017年5月1日より13,300香港ドルから14,100香港ドルに引き上げられることとなったことに伴い、これに足並みをそろえる形で、1時間当たり34.5香港ドルとなり、さらに2019年5月1日より、1時間当たり37.5香港ドルに引き上げられた。2023年5月1日からは、法定最低月額賃金が16,300香港ドルに、また時間当たり賃金が1時間当たり40香港ドルにさらに引き上げられた。
この「最低賃金条例」においては、次のような内容が含まれる。
- 最低賃金の金額の見直しを、2年に1回行う。
- 作業時間であるか訓練時間であるかを問わず、当直勤務時間1時間を時間標準とする。
- 業務にかかる交通所要時間も勤務時間に入るが、通勤時間は含まれない。
- 例外として、家政婦や勤務日数が60日以下の実習生(インターン)などは、最低賃金制限が適用されない。
賃金未払いによる刑事責任
賃金、年末手当、産前産後休暇手当及び解雇補償金、長期服務金、疾病手当、休暇手当、年次有給休暇手当その他の支払いにつき、会社がこれらを支払わず、さらに労働審裁処(Labor Tribunal)又は少額雇用請求裁決委員会(Minor Employment Claims Adjudication Board)の裁決が出されたにもかかわらず、これらの裁決が行われた後14日以内にこれらの支払いを行わなかったときは、会社は「雇用条例」に基づき、35万香港ドル以下の罰金及び3年以下の禁固刑に処される可能性がある。
この点、「雇用条例」によると、会社が1カ月以上にわたり、労働者への賃金の支払いを怠った場合には、労働者は、雇用契約が会社によって終了したものとみなすことができ、会社は当該労働者に対し、事前通知に代わる金銭の支払いを行い、さらにその他の法定及び契約上の解約金を行わなければならないため注意が必要である。
解雇に関するそれぞれの方法と留意点
普通解雇
会社又は労働者が雇用契約を解除する場合には、相手方に対し適当な事前通知期間又は事前通知に代わる金銭の支払いが必要となる。具体的には次の通りである。
即時解雇
一定の事由がある場合には、会社は、労働者の雇用契約に対する事前通知、又は通知に代わる金銭の支払いなしに、その労働者を即時解雇することができる。又、その基準となる判断については次のような要素が必要である。
- 適法かつ合理的な業務指示に意図的に従わなかった場合
- その労働者に非行事項が認められた場合
- その労働者が詐欺により有罪と認められた場合
- その労働者が継続的に役務を怠った場合
この点に関して、香港の基本法上、労働者がストライキに参加することは権利として保障されているため、ストライキの参加は、会社による事前通知、または通知に代わる金銭の支払いなしに解雇する事由とはならない。
なお、即時解雇は重大な懲戒手続であるため、それは労働者が重大な過失、又は違反行為を行った場合に適用されるべきと解釈され、会社からの警告に関わらず継続的にそのような非行が認められた場合に適用されるべきと考えられている。
労働者の申し出により雇用契約を事前通知(又は事前通知に代わる金銭の支払い)なしで解除するためには、次の条件のいずれかを満たす必要がある。
- 病気や暴力により身体的に衰退し、就業の継続が困難と判断された場合
- 労働者が会社により虐待を受けている場合
- 5年以上就業している労働者で、登録医師、又は登録のある中国医師から当該労働者の役務が生涯不適切であると判断された場合
解雇補償金(解雇手当)・長期服務金
解雇補償金(解雇手当)及び長期服務金とは、労働者が一定の条件の下、解雇ないし退職した場合に会社から支給を受けられる金銭である。もっとも、これらを同時に受給することはできない。
解雇補償金の受給資格は次の通りである。
長期服務金の受給資格は次の通りである。
解雇補償金及び長期服務金の計算方法は次の通りである。
- 月払い労働者については、(1)最終の月額賃金×2/3×就業年数、又は(2)22,500香港ドル×2/3×就業年数、のうちいずれか少ない方が適用される。又、(1)の場合には、基準を最終賃金ではなく、直前12カ月の月額平均賃金を労働者が選択することも可能である。
- 日払い/出来高払いの労働者については、直前の30日間のうち労働者が選択した通常の労働日のうち18日間の賃金×就業年数、又は22,500香港ドル×2/3×就業年数のうちいずれか少ない方が適用される。雇用期間が1年未満の場合には、按分計算される。
上記につき、会社が合理的な理由なく解雇補償金を支払わない場合には、5万香港ドル以下の罰金を科される可能性がある。
又、会社が故意に合理的な理由なく長期服務金を支払わない場合には、35万香港ドル以下の罰金及び3年以下の禁固刑を科される可能性がある。
解雇が禁止される労働者
法令で定められた解雇禁止の対象となる労働者の区分は次の通りである。
会社が上記の各類型の労働者の解雇を行った場合、10万香港ドル以下の罰金の対象となる可能性がある。
強制積立金制度(Mandatory Provident Fund:MPF)
強制積立退職金制度
香港において、会社及び労働者がそれぞれ積立金を拠出する法定社会保険として「強制性公積金」(強制積立退職金、Mandatory Provident Fund、MPF)の制度が2000年12月より導入された。このMPFは、強制性公積金計画管理局(MPFA)により認可を受けた保険会社や銀行の信託子会社により管理運営される。
対象となる労働者は香港における会社に雇用される18歳から65歳までの労働者で、60日以上雇用される者である。ただし、次の場合は適用範囲外とすることができる。
- 就労1年未満の労働者、及び香港外で年金制度に加入する者(例:日本の厚生年金加入者)
- 家政婦
- 法定の年金制度に加入している者(公務員等)
なお、この制度の対象者は、日本人駐在員など香港にて現地採用されていない外国人の加入は強制されない。又、収入額が既定の下限(月額7,100香港ドル)に達していない場合、労働者側の拠出は免除される。
積立額
会社及び労働者はそれぞれ、労働者の月額収入の5%(月額30,000香港ドル以上の場合、強制拠出上限の1,500香港ドル)を、登録されたMPF運営会社に預託する必要がある。なお、現在は、会社がMPF積立金を解雇補償金ないし長期服務金として当該労働者の退職時に使用(充当)することができる場合がある8が、2022年6月9日、このMPFの充当制度について、2025年に廃止することが議会により可決され、2023年4月にはこの廃止措置が2025年5月1日に発効することが発表された。これは会社側にとって負担増となるが、これに配慮し、政府による助成金が併せて計上される予定となっている。
労働者の月額収入とは、住宅手当を除く月々の全支給額であり、年末手当、賞与、残業代及び交通費等も含まれる。ただし、退職金及び長期服役金は対象外となる。
又、会社及び労働者は、義務的な拠出に加えて任意の拠出を追加することができ、会社拠出分と労働者拠出分をそれぞれ別のMPF運営会社に預託することも可能である。
なお、会社が合理的な理由なく義務的なMPFの積立を行わない場合には、10万香港ドル以下の罰金及び6カ月以下の禁固刑に処される可能性があるため注意が必要である。
このほか、自営業者の対象となるMPFは次の通りである。
受給
受給対象年齢は65歳からである。次のような場合には例外として、早期受給が可能な余地がある。
- 60歳以上で早期退職制度を適用する者
- 永久に香港から離れる者
- 労働者の死亡時、又は重度の障害発生時
労働者の転職の際には、従前の積立金を引き続き同一のMPF口座に保管しておくか、又は転職先のMPF管理会社の口座に移転させるかを労働者が選択することが可能である。
外国人ビザの種類及び取得要件
外国人が香港において就業する場合には、その外国人が、香港にとって利益をもたらし、香港にはない特別な技術や知識、又は経験を有しているか、若しくは香港経済に実質的に貢献できることが求められる。香港におけるビザの区分については、入国管理局(Immigration Department)のページ(http://www.immd.gov.hk/eng/services/index.html)において、大きく次のようなタイプに分類されている。
なお、以上のほか、香港政府は2003年10月より海外からの投資家に対する居留許可として、「資本投資者入境計画/Capital Investment Entrant Scheme(CIES)」を設置し、一定額以上の資産を保有していることが審査・確認されることによりビザが発給されていたが、この制度は2015年1月15日より停止となり、現在に至っている。これに対し、2024年中にも新CIESが開始されることが、香港政府により2023年12月に発表された9。これは、3,000万香港ドル以上の純資産の保有等、所定の条件を満たす外国人等に対し、本人及び家族等の滞在を認めるものであり、新CIESの導入により、香港における人材が更に豊富となり、更なる資本の誘致が実現することが期待されている。
このほか、就業ビザは延長することもでき、当該ビザの期間満了の4週間前から入国管理局において手続きが可能である。
以上のほか、香港においては、近時、一定のビジネスセクターに関する短期滞在ビザ免除スキーム10が導入されている。これは、香港における国際仲裁手続の関係者(当事者や仲裁人、弁護士等)に対して、2020年6月から、本来はビザが必要な場合でもその手続への参加促進のために14日間まではビザなしでの香港滞在を認めていた11のを、2022年6月より、医療、高等教育、文化芸術、スポーツ等のセクターにも拡大していたものである。このスキームが、2023年2月から、更に金融・開発建設という2セクターにも拡大された。