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中国労働法制

中国は少なくとも建前上、社会主義国であり、国の主役である労働者に対する保護が一定程度厚いものとなっている。具体的には、解雇時における解雇事由が列挙されており解雇理由が限定されていること、会社に対する経済補償金(退職金)の支払い義務、年次有給休暇の買取義務などである。また、近時は国内各地における最低賃金の上昇圧力も強く、会社における労務管理担当者にとっては留意が必要である。

更に、中国においては地域によって求められる労働実務の運用が異なる可能性があり、各地域の地方法令を確認すべき必要性が高いなど、地方主義の影響を受けている点にも留意が必要である。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

労働者の権利意識の高まり

社会主義国である中国においては、従前、そもそも「企業」や「契約」といった概念に対する意識が乏しかったが、1990年代以降、政策が改革開放路線に舵を切ってからは、これらの概念を正面から認める法制度が整備されてきた。労働分野においても、1994年に初めて「中華人民共和国労働法」が成立して雇用主(会社)と労働者との間における雇用契約に関する規定が定められた(施行は1995年)。しかしながら、同法の施行下においては国全体が経済発展を指向したこともあり、労働法制も会社に比較的有利な内容が中心であった。

もっとも、近時の中国の経済成長に伴い、労働者に対する権利保護の意識が高まってきたことから、2007年には労働者の権利強化等を盛り込んだ「中華人民共和国労働契約法」が成立し(施行は2008年)、かつ、労働仲裁・調停の申し立てに対するハードルも下がったことから、労働者における権利意識が全般的に高まってきているといえる。

解雇法制

上記の「労働契約法」上、会社が労働者を解雇できる事由が限定されており、曖昧な理由での解雇は労働紛争の原因となる恐れがある。又、一定の類型の労働者(職業病に罹患している者、妊娠中の者等)はそもそも解雇が認められない等の制約も存在する。

又、一部の理由による解雇に当たっては経済補償金(退職金に類似する金銭)の支払いが会社に義務付けられており、特に近時における整理解雇(リストラ等)に当たっては、法定水準以上の金額の支払いが求められるケースが少なくなく、留意が必要である。

最低賃金・平均賃金の上昇

中国政府の近時の成長目標(5カ年計画等)に基づき、ほぼ毎年、最低賃金の10%以上の上昇がみられており、これに伴い、労働者全体の平均賃金の上昇傾向も顕著である。ただし、近時の経済減速に伴い、この最低賃金標準の調整スピードを緩める通達を出す地方政府も出始めている(四川省、広東省等)。

地方法令の重要性

広大な国土を持つ中国においては、労働環境における地域格差も大きく、各法令の解釈・運用が地域ごとに異なる可能性があるほか、各地方政府が独自に制定する地方法令が当地の実務の運用の基礎となっており、会社の労務管理においても、これらを参照すべき必要性が高いといえる。

労働組合

中国においては、労働組合が実質的な支配政党である共産党の下部組織であるとの位置づけもあり、比較的重要な意義を持っている。具体的には、就業規則の制定・変更や、一定数(割合)以上の労働者を解雇する場合等において、労働組合との協議や状況説明等が求められる。

外国人の社会保険加入義務

地域によって運用が異なるものの、外国人であっても社会保険への加入(保険料の支払い)が義務付けられている。外国人は、一定期間の赴任を終えて本国へ帰国することが予定されているケースが多数を占めるため、退職後の年金に相当する基本養老保険については帰国時に支払い済み保険料の一部が実質的に返還されうるが、「掛け捨て」となる保険料も少なくないために留意が必要である。ただし、上海等、一部の地域においては実務上、運用が開始されていない。

なお、従前より協議が続けられていた日中間の社会保障協定がついに合意・発効し、2019年9月1日より、中国における日本人被用者に対する基本養老保険の支払いが公式に免除されることとなった。ただし、この協定においては、「年金加入期間の通算」についての規定は含まれておらず、その他の社会保険については対象に含まれない。

外国人就労許可制度の変更

外国人が中国に滞在して長期に働く場合には、就労ビザ(Zビザ)を取得の上、居留許可及び就業許可をそれぞれ取得することが必要となる。このうち就業許可について、従前は「外国専門家」の場合とそれ以外の場合とで許可証の内容が異なっていたが、2017年4月1日以降、これらを統一した「外国人来華業務許可」が全国で発行されることになり、その取得が必要となる。又、就労を希望する外国人の能力や実績に応じた分類管理が実施されることが発表されている。

基本的な労働法制の概要

労働に関する法制度の概要

中国における労使関係、雇用、労働条件その他の労働に関する事項を主に定めるのは、1995年1月1日施行の「労働法」及び2008年1月1日施行(2013年7月1日改正施行)の「労働契約法」である。

この労働関連法制の中核をなす労働契約法においては、無固定期間雇用契約の締結義務の強化、労務派遣に関する規定の強化、規則制度の制定・変更等に伴う労働組合等との協議・討論手続義務等、従前に比べて労働者の権利保護を意識したものとなっている。

このほか、労働組合との関係を規律するものとして「労働組合法(工会法)」、労働紛争に関するものとして「労働紛争調停仲裁法」、社会保険に関する統一法として「社会保険法」、労働安全・衛生に関するものとして「安全生産法」「職業病防止・治療法」、女性労働者保護に関するものとして「婦女権益保護法」等が存在する。又、立法機関である全国人民代表大会により採択された「法律」ではないものの、行政機関である国務院その他の政府部門(労働分野においては主に「人力資源及び社会保障部」)が定めた各種法規範が実質的な基本ルールを定めているケースも少なくなく、実務においては、それらに対しても十分な注意を払う必要がある。

更に、広大な領土を持つ中国においては地方ごとに労働実務の運用が異なる場合があり、社会保険料率(会社と労働者の負担率)や最低賃金標準等は各地により違いが存在するため、労務管理においては、当該会社が存する地方法令も考慮に入れる必要がある点にも留意すべきである。

労働契約法

上記の通り、現在の中国における雇用契約関係を規律する中心的法律である「労働契約法」は概ね次のような内容となっている。

  1. 適用対象

    労働契約法は、基本的に賃金水準や職務内容を問わず、すべての会社及び労働者に対して適用がある。もっとも、学生や定年退職後に再雇用された者については、適用がない場面もあると考えられている。

  2. 雇用契約の内容

    労使間で労働関係を確立するときは書面による雇用契約を締結しなければならず、雇用契約においては、次の条項を含まなければならない。

    1. 会社の名称、住所及び法定代表者又は主要な責任者
    2. 身分証明カード又は労働者の他の有効な身分証明書上の労働者の氏名、住所及び番号
    3. 雇用契約期間
    4. 業務内容及び業務場所
    5. 業務時間及び休息・休暇
    6. 賃金
    7. 社会保険
    8. 労働保護・労働条件及び職業危害防護
    9. その他の事項

    以上のほか、雇用契約において、試用期間、研修、秘密保持、補充保険及び福利待遇等の事項を約定することもできる。

    この点、書面による雇用契約は労働者使用の日から1カ月以内に締結しなければならず、これを怠った場合には、約定賃金の2倍の賃金を支払う義務が雇用者に生ずるために注意が必要である。

    又、会社の提供した雇用契約が上記の必要記載事項を欠いている場合、又は雇用契約文書を労働者に交付していない場合には、政府当局から是正を命じられ、かつ、労働者に対して損害賠償責任を負うべき可能性もある。

  3. 雇用契約の期間

    雇用契約の期間には、①固定期間、②無固定期間及び③一定の業務任務の完成をもって期間とする場合が存在する。①は有期の雇用契約、②は期限の定めのない雇用契約であり、③は特定の業務の完成をもって契約期間とする場合をいう。②については、雇用契約期間の満了を理由とする雇用契約の終了(雇止め)ができないことになる。

  4. 試用期間

    上記の通り、試用期間は雇用契約における必要記載事項ではないが、会社側にとっても労働者の能力等をみる良い機会であることから、一般的に取り入れられるケースが多いといえる。「労働契約法」上、雇用契約期間と試用期間との関係は次の通りとなっている。

    雇用契約期間
    試用期間
    3カ月未満※
    試用期間の設定不可
    3カ月以上1年未満
    1カ月以下
    1年以上3年未満
    2カ月以下
    3年以上又は無固定期間
    6カ月以下
    ※一定の業務任務の完成をもって雇用契約期間とする場合も、試用期間の設定は不可。

    又、試用期間中の賃金は、その会社における労働者のうち、同一職位における最低ランクの賃金又は契約上合意した賃金の80%以上でなければならず、かつ、会社が所在する地域の最低賃金標準未満とすることはできない。
    更に、試用期間中においては、会社による雇用契約の解除も制限される(後述5章を参照)。

  5. 労働時間制度

    中国の労働関連法上、法定の標準労働時間は1日8時間、週40時間以内である。この点、「労働法」上はこれが週44時間以内と規定されているが、下位法令により週40時間以内に修正されている。

    この標準労働時間の延長(残業)は法律上、1日3時間まで、月合計で36時間までのみ可能となっているが、次のような場合にはこの制限を受けない。

    1. 自然災害や事故等の原因で労働者の生命・健康・財産の安全が脅かされ、緊急対応が必要な場合
    2. 生産設備や公共交通機関等に故障が発生し、生産及び公益に影響が及び、緊急の対応が必要な場合
    3. その他の事由

    又、会社は労働者に対して、週に最低1日の休日を保証する必要がある。

    そして、会社が上記の規制に違反して労働者に残業させた場合には、当局による警告・是正命令及び罰金の処分を受ける可能性がある。

    もっとも、上記の規制にかかわらず、実際はこれを超えた時間の残業が常態化しているケースも少なくないが、地方から大都市に出稼ぎに来ている労働者等にとっては、長時間の労働をむしろ望んでいる場合もあり、当局も黙認しているケースもあるために難しい問題となっている。

    残業代の賃金割増率は次の通りである。

    残業の時期
    割増率
    通常の稼働日
    賃金の50%を加算(合計150%)
    休日※
    賃金の100%を加算(合計200%)
    法定休暇日・祝祭日
    賃金の200%を加算(合計300%)
    ※法律上、休日に勤務させた場合には、会社は原則として代休を手配しなければならず、代休が手配できない場合に初めて割増賃金の支払いをすべきことになるが、実際には割増賃金の支払いで済ませるケースも少なくない。

    なお、2024年時点の法定休暇日・祝祭日の日数は次の通りとなっている。

    1. 元旦:1日
    2. 春節(旧正月):8日
    3. 清明節:3日
    4. 労働節:5日
    5. 端午節:1日
    6. 中秋節:3日
    7. 国慶節:7日

    通例においては、前後の土日をこれらの法定休暇日の前後に振り替えることにより、春節及び国慶節は5-7連休、その他の休暇日は3連休とする例が多い。ただし、その分、通常の土曜日や日曜日が振替出勤日となることもあるため注意が必要である。 なお、2024年は春節休暇が8連休となり、史上最長の休暇期間と言われた。同年は中華人民共和国成立75周年にあたり、中央政府から各地の各部門に対して、休暇期間における市民の移動や各種供給の確保、伝染病対策等を十分に行うべき旨の通知が特に出された。

    <労働時間総合計算労働制、不定時労働制>

    上記のほか、職種や職位が一般的な標準労働時間制になじまないケースを主な想定対象として、これとは異なる労働時間制度の適用が許容される例がある。具体的には、「労働時間総合計算労働制」及び「不定時労働制」である。

    「不定時労働制」とは、一日の労働時間を固定の標準労働時間で設定しないで行う勤務制度であり、会社における高級管理職、外勤、販売人員、長距離運転手、タクシー・鉄道・港湾労働に従事する者等について、労働当局の認可を得た場合には、一日の標準労働時間制限(8時間)を超過して勤務させた場合でも残業代の支払いが不要となる。

    又、「労働時間総合計算労働制」とは、労働当局の認可を得て、労働時間の計算を一日単位でなく、週・月・四半期又は年等を一単位として計算する制度であり、交通・鉄道・郵便・電信・水運・航空・地質・資源・建築・旅行等の、業務の性質又は自然条件等の制約等に鑑みて連続的な作業が必要となる場合等に適用される。

    ただし、これらの場合でも、労働者の休息休暇が確保されるように手配されなければならず、計算単位を基準として、平均して標準労働時間と同等の労働時間を超過する場合には、やはり残業代の支払いが必要となる。

  6. 年次有給休暇

    労働者は、社会に出て累計で1年以上勤務した場合には、自己の所属する勤務先において、正常な勤務期間と同一の賃金による年次有給休暇を取得する権利を有する。勤務年数と取得し得る休暇の日数との関係は次の通りである。

    累計勤務年数※
    取得し得る年次有給休暇日数
    1年以上10年未満
    5日
    10年以上20年未満
    10日
    20年以上
    15日
    ※この類型勤務年数は、当該労働者の所属勤務先だけではなく、異なる使用者において勤務した期間、及び行政法規又は国務院の規定により勤務期間にみなされる時間も通算して累計勤務年数に算入されるため注意が必要である。

    この年次有給休暇は、原則として1年以内にすべて消化させるべきであるが、業務上の都合によりやむを得ない場合には、年度をまたいだ支給も可能である。ただし、年次有給休暇を支給すべきなのに支給しない場合には、当該労働者の一日当たり賃金(※)の300%を支払う(買い取る)必要があるため注意が必要である。又、労働者との雇用契約を解除する場合に未消化の有給休暇が残存していた場合にも同様の買い取りが必要となる。

    なお、労働者が法令等に基づき取得する帰省休暇、慶弔休暇、出産休暇等の休暇、及び労災による出勤停止期間は、この年次有給休暇期間に算入しない。

  7. 社会保障制度

    中国における社会保障制度としては、大きく分けて社会保険(基本養老保険、基本医療保険、労災保険、失業保険及び出産・育児保険のいわゆる「5険」)及び住宅積立金(前出の5険と併せて「5険1金」ということがある)の制度が存在する。都市在住の労働者と地方出身の出稼ぎ労働者で加入できる社会保険が異なるケースもあるため注意が必要である。

    このうち社会保険については、従前は個別の法令においてそれぞれ規定されていたものが、近時は「社会保険法」として1つの統一的な法律に統合されている(2011年7月1日施行)。例えば上海の都市社会保険における各社会保険の加入(保険料の支払)義務者・保険料率の例は次の通りである(2023年7月〜2024年6月)。近時は景気の安定・企業の負担軽減の観点から、保険料率については引き下げの傾向にあり、基本養老保険料については企業負担分が20%から16%に引き下げられた。また、労災保険については各業種の労災リスクに応じて異なる料率が定められているが、現在はこれがどの保険料率も20%減額となっている(0.16%~1.52%)。一方で、料率の基数は月賃金であり、この金額は年々上昇している。例えば、上海市においては2020年7月時点で下限が4,927人民元、上限が28,017人民元、2021年7月時点で下限が5,975人民元、上限が31,014人民元となっていたのが、2022年7月からは、下限が6,530人民元、上限が34,188人民元に、更に2023年7月からは、下限が7,310人民元、上限が35,549人民元へと上昇した。

    社会保険の種類
    加入義務者(料率)
    基本養老保険
    会社(16%)及び労働者(8%)
    基本医療保険
    (出産・育児保険を含む)
    会社(10%)及び労働者(2%)
    労働災害(労災)保険
    会社のみ(0.16-1.52%)
    失業保険
    会社(0.5%)及び労働者(0.5%)

    これらの各保険の保険料については、各地により異なっており、当地の地方法令を確認する必要がある。

    社会保険法においては、中国国内の会社に就業する外国人に対する加入義務についても言及しており、これを受けて2011年10月15日より、中国で働く外国人が上記「5険」に加入することが法令上、義務付けられた。このうち基本養老保険については、外国人が一定年数の勤務の後は本国へ帰国することが通常想定されることから、養老保険金の受領年齢に達する前に中国を離れる場合に、個人口座への預入額を一括して本人に支払うことも認められる(預入金額を留保の上、再度中国で勤務する際に累計することも認められる)。

    一般に社会保険料率は、各労働者の月賃金をベースとした一定割合(上限あり)に基づき算出されるところ、外国人(特に駐在員)は通常、月賃金が高額であるため、上限一杯の金額を納付しなければならないケースが多い。

    もっとも、上海等、外国人労働者の特に多い一部の地域においては実務上、上記の加入義務が執行されていないケースもあるため、各地の最新状況を確認する必要がある1。なお、外国人に対する社会保険料納付義務をめぐっては、本国の社会保険料との二重納付による負担が従前より問題となっていたが、日本との間では、日中間の社会保障協定が合意されるに至り、2019年9月1日に、中国における日本人被用者に対する基本養老保険の支払いが、原則として赴任後5年間は公式に免除されることになった。ただし、この協定においては、「年金加入期間の通算」についての規定は含まれておらず、その他の社会保険については対象に含まれないため注意が必要である。

    一方、住宅積立金は、労働者の住宅購入のために労働者個人及び会社が労働者のために預け入れる、自己居住用住宅の購入・建築・大規模修繕等のための長期貯蓄金であり、労働者の個人所有に属する。この住宅積立金の預け入れ率も、各労働者の月賃金をベースとした一定割合により算出され、地方ごとに異なる。例えば上海(2023年7月〜2024年6月)においては、基数を当人の前年度の月平均賃金とし(ただし、上限は36,549人民元、下限は2,590人民元)、労働者個人・会社それぞれにつきその7%(合計14%)が原則的な預入比率となる(ただし、会社の業績や規模等に応じて、各5%(合計10%)又は各6%(合計12%)が適用可能な場合もありうる)。また、月ごとの預入金額について上限・下限が設定されており、合計14%の企業では、上限が5,116元、下限が362元となっている。

    なお、この住宅積立金については、外国人による預入義務は存在しないため注意が必要である。

就業規則の作成義務及びその内容

労働規則の制定義務

「労働法」第4条において、会社に対し、労働規則制度を確立・完全化し、労働者の権利保障を行うべき旨が規定されている。又、この労働規則制度に定められる内容としては、少なくとも次の事項が予定されていると解される。

  • 賃金
  • 業務時間
  • 休息・休暇
  • 労働安全・衛生
  • 保険・福利
  • 労働者のトレーニング
  • 労働規律
  • ノルマ管理
  • 女性労働者保護2

上記とは別途、「婦女権益保護法」が2022年10月30日に改正され、2023年1月1日に施行された。この改正法では、会社のセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)予防義務が新たに規定され(同法第25条)、会社にセクハラ禁止の関連規則・制度の制定義務等が新たに設定されることになったため、対応が求められる。

手続義務

労働関連法上、会社が、上記(3-1)に列挙したような「労働者の切実な利益に直接かかわる」規則制度又は重大な事項を制定・変更等する場合には、これを一方的に行うことができず、労働者代表大会又は労働者全体との討論を経た後に案及び意見を提出し、労働組合又は労働者の代表と平等に協議の上確定しなければならないものとされている。又、この決定の過程において、労働組合又は労働者が不適当と認める場合には、会社に対して意見を提出し、協議により変更等を求める権利を有する。更に、上記のような重要な規則制度及び重大な事項の制定・変更等が決定された場合には、それを公示して労働者に告知する義務が会社に存する。

このような決定・変更手続の履行義務の存在は会社にとって負担となり得るが、これに違反した場合には、労働者からの雇用契約の解除事由となり、又損害賠償責任を負うべき可能性もあるため注意が必要である。

賃金(賞与・退職金・残業代)等の法制の概要

概要

中国の労働関連法上、一般に、賃金には、基本賃金、賞与、手当、残業代及びその他が含まれる。2022年における行政区域(上位10省・市)ごとの都市部における平均賃金は次の通りと報道されており3、地域格差が大きい。又、都市非私営組織4と都市私営組織5とでも差異が存在する。更に、これらはあくまで全業種における各行政区域全体の平均値であり、実際には、業種及び行政区域内での格差も大きいと言える。

都市非私営組織の2022年平均賃金上位10行政区域(単位:人民元)
番号
省・市
年平均賃金
1
上海市
212,476
2
北京市
208,977
3
チベット自治区
154,929
4
天津市
129,522
5
浙江省
128,825
6
広東省
124,916
7
江蘇省
121,724
8
青海省
115,949
9
寧夏自治区
114,631
10
重慶市
107,008
都市私営組織の2022年平均賃金上位10行政区域(単位:人民元)
番号
省・市
年平均賃金
1
上海市
104,560
2
北京市
104,542
3
広東省
77,657
4
浙江省
71,934
5
江蘇省
71,835
6
天津市
67,258
7
海南省
65,519
8
福建省
65,392
9
チベット自治区
62,927
10
重慶市
60,380

最低賃金制度

「労働法」第48条は、「国は、最低賃金保障制度を実行する。最低賃金の具体的な標準は、省、自治区、直轄市の人民政府が規定し、国務院に届け出る。」と規定しており、各地の物価水準や労働生産性、就業状況等に応じて、それぞれの地方政府が最低賃金標準を定めている。一般には月の最低賃金標準と1時間当たり最低賃金標準が存在する。

そして、法令上、最低賃金には次の手当等を除かなければならないとされている。

  1. 業務時間を延長した場合の賃金
  2. 中直(夕方から夜間にかけての勤務)、夜直(夜間から早朝にかけての勤務)、高温、低温、坑道及び有毒・有害等の特殊な労働環境・条件下における手当
  3. 法律、法規及び国が規定する労働者の福利待遇等

報道によると、主な都市における1カ月当たり最低賃金標準の推移は次の表の通りであり6 、急激な上昇がみられるといえる(金額の単位は人民元)。なお、北京市及び上海市は各種社会保険料・住宅積立金を含まない金額であり、天津市及び深セン市は含む金額となっている。

年※
北京市
天津市
上海市
深セン市
2005
580
590
690
690
2006
640
670
750
810
2007
730
740
840
850
2008
800
820
960
1,000
2009
800
820
960
1,000
2010
960
920
1,120
1,100
2011
1,160
1,160
1,280
1,320
2012
1,260
1,310
1,450
1,500
2013
1,400
1,500
1,620
1,600
2014
1,560
1,680
1,820
1,808
2015
1,720
1,850
2,020
2,030
2016
1,890
1,950
2,190
2,030
2017
2,000
2,050
2,300
2,130
2018
2,120
2,050
2,420
2,200
2019
2,200
2,050
2,480
2,200
2021
2,320
2,180
2,590
2,360
2022
2,320
2,180
2,590
2,360
※必ずしも毎年1月1日から変更されるわけではない。

会社が最低賃金標準に関する定めに違反した場合には、労働当局から対応する期間を定めて不足分の賃金を支払うよう命じられるか、又は未払い賃金の5倍以下に相当する賠償金の支払いを命じられる可能性があるため注意が必要である。

この点に関し、近時の経済減速に伴い、この最低賃金標準の調整スピードを緩める通達を出す地方政府も出始めている(四川省、広東省等)。

解雇の方法と留意点

概要

中国における労働者の解雇(雇用契約の解除)は、労使間における合意による方法のほか、会社側に解除事由がある場合、労働者に解除事由がある場合それぞれについて、事前通知が必要な場合と必要ない場合(即時解除)に分けられている。このほか、整理解雇を行う場合の事由・手続きや解雇が禁止される場合についても法令によって定められている。

労働者による解除

労働者は、会社に次のような事由がある場合には、30日前までの書面通知により雇用契約を解除することができる。

  1. 雇用契約の規定通りに労働保護又は労働条件が提供されない場合
  2. 賃金の支払いの遅れ又は全額支払われなかった場合
  3. 法に基づく社会保険料の納付がなされない場合
  4. 就業規則制度が法令と異なり、労働者の権益を損なう場合
  5. 法定の事由に該当して雇用契約が無効となった場合
  6. その他、労働者が法律法規に従って労働契約を解除される可能性がある状況

又、会社に次のような事由がある場合には、労働者は直ちに雇用契約を解除することができ、事前に会社に告知する必要はない。

  1. 暴力、威嚇又は人身の自由を不法に制限する手段をもって労働を強要する場合
  2. 会社が規則に違反して指揮命令を行う場合
  3. 危険を冒す作業を強要して労働者の人身の安全に危害を及ぼす場合

このほか、試用期間中は、労働者は3日前までに会社に通知することにより雇用契約を解除することができる。

会社による解除(解雇)

会社は、労働者に次のような事由がある場合には、30日前までに書面によりその労働者に通知し、又は1カ月分の賃金を代わりに支払った後に、雇用契約を解除することができる(事前予告解雇)。

  1. 労働者が病気又は負傷(労災を除く)をした場合において、所定の医療期間満了の後に業務に従事することができず、又、会社が別途手配した業務に従事することもできない場合
  2. 労働者の能力が業務の要求水準に達せず、トレーニング又は配置転換を行ってもなお業務に堪えることができない場合
  3. 雇用契約締結の際に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じて雇用契約が履行できなくなり、労使間の協議を経ても雇用契約の内容の変更につき合意に達することができない場合

又、労働者が次のような場合には、即時解除が可能である。

  1. 試用期間において採用条件に適合しないことが証明された場合
  2. 会社の規則制度に大きく違反した場合
  3. 職責を大きく損ない、私利を図り、会社に重大な損害を与えた場合
  4. 同時に他の会社と労働関係を確立し、現在の会社の業務・任務の完了に重大な影響を与え、又は会社がそれを指摘したのに是正を拒絶した場合
  5. 法定の事由に該当して雇用契約が無効となった場合
  6. 法律に従って刑事責任を追及された場合

上記の通り、試用期間中に解雇する場合には、会社が採用条件への不適合を証明する必要があると考えられるため注意が必要である。

又、会社が雇用契約を一方的に解除する場合には、事前に理由を労働組合に通知すべきとされており、会社に違法又は雇用契約違反がある場合には、労働組合が是正を求める権利を有する。

整理解雇

会社が労働者を20名以上又は全労働者数の10%以上を削減する場合には、次の事由のいずれかが存在しなければならず、又、その30日前までに労働組合又は労働者全体に状況を説明し、労働組合又は労働者の意見を聴取しなければならない。更に、人員削減に関する案につき、労働当局に報告しなければならない。

  1. 会社更生を行う場合
  2. 生産・経営活動に重大な困難が生じた場合
  3. 会社の生産製品の変更、重大な技術革新又は経営方法の調整により、雇用契約の変更を経た後に、なお人員削減を必要とする場合
  4. 雇用契約締結の際に根拠とした客観的経済状況に重大な変化が生じたことに起因して、雇用契約を履行することができなくなったその他の場合

又、人員を削減する時は、次の類型の労働者は優先して継続雇用しなければならない。

  1. その会社と比較的長い期間の固定期間雇用契約を締結している者
  2. 無固定期間雇用契約を締結している者
  3. 家庭に他の就業者がおらず、扶養を必要とする老人又は未成年を有する者

更に、会社は、上記により人員削減した後6カ月内に新たな採用を行う時は、削減された人員に通知し、かつ、同等の条件にて、削減された人員を優先して募集採用しなければならないものとされている。

解雇の際の制限(解雇禁止)

上記のうち、会社からの雇用契約解除(即時解雇を除く)及び整理解雇に際しては、次の類型の労働者については解雇が禁止される。

  1. 職業病の恐れのある作業に従事しているのに職位を離れる前の職業健康検査をしておらず、又は職業病の疑いがあり、診断中若しくは医学観察期間中である場合
  2. 職場で職業病を患い、又は業務中に負傷して労働能力を喪失(一部喪失を含む)した場合
  3. 病気又は負傷(労災の場合を除く)により所定の医療期間内にある場合
  4. 女性労働者で妊娠期間、出産期間又は授乳期間にある場合
  5. その職場において満15年連続で勤務し、かつ、法定の退職年齢まで5年未満の場合
  6. 法定のその他の事由

又、試用期間中の労働者については、即時解除事由がある場合及び事前予告解雇の(1)又は(2)の事由がある場合を除き、解除することができず、又解除する場合でも、労働者に理由を説明する必要がある。

なお、会社が法令に違反して雇用契約を解除する場合において、労働者が雇用契約を継続して履行することを要求する時は、会社は、これを継続履行しなければならない。労働者が継続履行を求めず、又は継続履行が不可能な時は、会社は法定の経済補償標準の2倍に当たる損害賠償金を支払わなければならない。

経済補償金

会社は、上記(5-2.参照)の労働者により雇用契約が解除された場合、会社の提案により雇用契約が合意解除された場合、事前予告解雇を行う場合及び整理解雇の場合等には、当該対象者(労働者)に対して経済補償金を支払う義務を負う(なお、雇用契約期間満了に伴う終了の際にも、一定の場合には経済補償金の支払い義務が発生する)。

この経済補償金の金額の算定は、法律上、当該会社の元で勤務した期間に応じて行われ、勤続1年ごとに1カ月分、6カ月以上1年未満で0.5カ月分となる。又、当該労働者の月賃金(解雇直前12カ月の平均賃金)が会社の所在する行政区域における前年度の労働者月平均賃金の3倍を超える場合には、経済補償金の支払標準は労働者月平均賃金の3倍の額となり、年数は最高で12年となる。

しかしながら、実務上は法定の標準による金額では労働者の合意が得られない場合もあり、特に整理解雇の場面においては、労働組合側との間で交渉を行い、法定基準を上回る水準での経済補償金の支払いが必要となるケースが少なくない。特に日本の会社においては、紛争を避けるために法定標準を大幅に上回る金額の支払いを行うケースがあるが、可能な限り整理解雇のコストを低減化するため、日頃から労働組合に属する労働者や地域の労働当局との関係を良好にし、いざという時にサポートを受けられるようにしておく配慮等も必要となる。

外国人ビザの種類及び取得要件

中国における外国人就業に関する制度の変更

中国において外国人を雇用する場合には、特別な必要性があり、中国国内では適当な人材が欠けており、かつ、外国人に提示される職位が法令上許容されるものである必要がある。

この点、従前、中国において就業する外国人は、「外国人の中国における就業管理規定」(1996年5月1日施行)に基づき、就労ビザ等を保有して入国し(ビザの相互免除合意のある国の場合には、その合意に従う)、入国後に「外国人就業許可証」及び「外国人就業証」及び外国人居留証書を取得する必要があった。又、専門知識・技能を有する外国人については、「外国専門家来華業務許可証」及び「外国専門家証」を取得することにより就業することが可能であった。

このうち「外国人就業許可証」・「外国人就業証」及び「外国専門家来華業務許可証」・「外国専門家証」については、「外国人が来華業務許可制度の試行実施法案に関する通知」(外専発〔2016〕151号)に基づき、2016年11月1日より、天津・上海・広東・四川・雲南等の一部の地域において統合が行われ、「外国人業務許可通知」及び「外国人業務許可証」が新たに発行されることとなり、これが2017年4月1日より全国において統一的に実施されることとなった。

上記の通知においては、このほか、中国において就業する外国人について分類管理を行い、又審査に関する資料の簡素化についても規定している。このうち分類管理については、外国人であってもその能力(学歴や資格、中国語力等)、年齢、年収、勤務年数等に基づき、外国人を「ハイレベル人材」(A類)、「専門人材」(B類)及び「普通人員」(C類)の3段階にランク分けするものであり、A類に該当する人材については審査要求が緩和されるのに対し、C類の場合には許可に一定枠の人数制限が加えられるものであり、ランク分けの基準の厳しさと相まって議論の対象となっている。

なお、中国には、国家公務員等の一定のケースを除き、外国人の雇用制限は特に存在せず、雇用人数の比率等も基本的に制限がない(ただし、外国会社の駐在員事務所(在中国代表処)においては原則として4人以上の労働者(代表者)は認められない)。

ビザ

現行法上、中国におけるビザ(普通査証)の種類は次の通りである。なお、冒頭のアルファベットは、対応する中国語(ピンイン)の頭文字である。

ビザの種類 発給対象
Cビザ 国際列車乗務員、国際航空機乗組員、国際航行船舶の船員・随行家族、国際自動車運輸の運転手等
Dビザ 永久に在留(定住)する者
Fビザ 交流・訪問・視察等の活動に従事する者
Gビザ 中国を経由して越境する者
J1ビザ 外国の中国常駐ニュース機構の外国常駐記者
J2ビザ 短期(180日以下。以下同じ)の取材・報道をする外国記者
Lビザ 旅行者。団体旅行の場合には団体Lビザが発給される。
Mビザ 商業貿易活動を行う者
Q1ビザ 家庭の集合のために申請する中国国民又は中国に永住する外国人の家族等
Q2ビザ 短期(180日以内)に親族を訪問する、中国国内又は中国に永住する外国人の親族等
Rビザ 国が必要な外国高層人材及び緊急に必要な専門人材
S1ビザ 長期(180日超)に親族を訪問する、業務・学習等の理由により中国国内に居留する外国人の配偶者、父母、18歳未満の子女等
S2ビザ 上記の場合で親族訪問期間が短期の場合
X1ビザ 中国国内における長期学習者
X2ビザ 中国国内における短期学習者
Zビザ 中国国内における就労者

なお、日本国パスポートを保有している者は、原則として、ビザ不要で14日間以内の滞在が可能であるところ7、この点については、2015年1月1日より管理が厳格化している。すなわち、上記期間内の短期滞在であっても、業務目的により中国に滞在する場合に、「就労」に当たるとしてZビザが必要となるケースや、Mビザが必要となるケースが示されており、注意が必要である。

このうちZビザが必要となるケースは、中国国内における協力先での技術指導や管理を行う場合や、映画や広告の撮影等であり、Mビザが必要となるケースは、購入した機器の設備維持、補修、設置、中国国内で入札したプロジェクトの指導、中国内の支店・子会社・駐在員事務所等に派遣されて短期業務を行う場合、運動競技や、ボランティアに参加する場合等であるとされている。この点に関する詳細については、在中国日本国大使館のウェブサイト等も参照されたい。
参照:http://www.cn.emb-japan.go.jp/consular_j/joho150113_j.htm

なお、近時、外国人のハイレベル人材に対する便宜提供を目的として、Rビザ制度に関する「外国人材査証制度実施弁法」が施行され、全国で実施されている。同弁法に基づくと、Rビザは申請から取得までの所要期間が比較的短く、かつ、有効期間が比較的長い等、通常の就労ビザ(Zビザ)に比べて有利な内容となっている部分がある。

また、入国が可能な外国人に対する入管手続き自体は、利便性とアクセシビリティ向上の観点から、全体的に簡素化される傾向となっている8

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  1. 公開日:2017/09/17 更新日:2024/06/24