風通しの良い組織を作りたい――。そう願わない経営者やリーダーはいないだろう。企業規模の大小を問わず、組織開発の文脈において、このキーワードは常に重要課題として挙げられてきた。
特に近年、ダイバーシティや人的資本経営が推進される中で、その重要性は加速度的に増している。多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、それぞれの知見を生かしてイノベーションを生み出す。そのためには、誰もが自由に意見を言い合える「風通しの良さ」が不可欠であることは、論をまたない。
しかし、実態はどうだろうか。「風通しを良くしよう」と号令をかけても、現場では当たり障りのない会話に終始し、肝心な場面では沈黙が支配する。あるいは、意見を求めた途端に感情的な対立が勃発し、かえって溝が深まってしまう。そのようなジレンマに頭を抱える現場は少なくない。
本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」のデータに基づき、真に「風通しの良い組織」とは何か、そしてそれを実現するための具体的な処方箋について考察していきたい。
まず、本調査における「風通しの良い組織」の定義を明確にしておこう。なんとなく「仲が良い」「言いたいことが言える」といった曖昧なイメージではなく、組織内の「コンフリクト(対立)」の状態に着目することで、その実像が明確に浮かび上がってくる。
組織における対立には、大きく分けて2つの種類がある。ひとつは、「タスクコンフリクト」である。これは、仕事の進め方や方針、資源の配分など、業務上の意見の食い違いを指す。もうひとつは、「関係性コンフリクト」である。こちらは、性格の不一致や感情的な反発など、人間関係そのものに起因する摩擦やあつれきを指す(図表1)。
多変量解析を行ったところ、興味深い傾向が確認された。タスクコンフリクト、すなわち仕事上の意見対立は、イノベーション活動を促進し、従業員の働くことを通じて幸せを感じている「はたらく幸せ実感」を高める傾向。そして、関係性コンフリクトは、それとは真逆の傾向を示したのである(図表2)。
つまり、組織にとって必要なのは、対立そのものをなくすことではない。人間関係のあつれき(関係性コンフリクト)は極小化しつつも、仕事上の対立(タスクコンフリクト)はむしろ積極的に引き起こしていく。この絶妙なバランスが保たれている状態こそが、真に「風通しの良い組織」なのだ。
本調査では、この2つのコンフリクトの程度によって、組織を4つのタイプに分類した(図表3)。
ここで警鐘を鳴らしたいのが、「無風型」の組織である。
日本企業においてしばしば見られるのが、対立を恐れるあまり、タスクコンフリクトさえも回避してしまう傾向だ。波風を立てないことが「是」とされ、異論を唱えることが「和を乱す」と見なされる。そのような組織では、確かに人間関係の摩擦は起きないかもしれない。しかし、それは単なる事なかれ主義の蔓延であり、イノベーションの芽も摘み取られてしまう。多様な人材を集めながら、その多様性を生かせない「宝の持ち腐れ」状態に陥ってしまうのである。
さて、「風通しの良い組織」と聞いて、近年注目されている「心理的安全性」という言葉を思い浮かべた読者も多いかもしれない。「心理的安全性を高めれば、自然と活発に意見が出るようになるはずである」。そう考えるのは自然なことだ。
しかし、今回のデータは、その常識に対してひとつの問いを投げかけている。
調査データを見ると、意外なことに、心理的安全性のスコアが最も高いのは「風通し型」組織ではなく、「無風型」組織だったのである(図表4)。
「何も言わなければ、批判もされない」。そのような消極的な安心感が、見かけ上の心理的安全性を高めている可能性があるのではないか。対立がないから安全なのではない。安全地帯に引きこもっているから、対立が起きないだけかもしれない。
もちろん、心理的安全性が不要だといっているのではない。それは前提として不可欠だろう。だが、それだけでは不十分なのである。「何を言っても大丈夫」という土台の上に、「あえて異論を唱える」「健全にぶつかり合う」という意図的な仕掛けがなければ、組織はぬるま湯化してしまうリスクを孕んでいる。
目指すべきは、「傷つかない組織」ではなく「傷ついても修復できる組織」、すなわち、摩擦や対立に対してしなやかに適応できる組織であるはずだ。
では、どうすれば「無風型」や「炎上型」に陥ることなく、理想的な「風通し型」組織を作ることができるのだろうか。分析から導き出された、4つの特徴的なポイントを紹介しよう。
まず1つ目は、「関係のダイバーシティ」が高いことである(図表5)。
関係のダイバーシティとは、仕事における「つながり(ネットワーク)」と「つながり方(コミュニケーション)」の多様性を指す。詳細についてはコラム「ダイバーシティの『手応えの無さ』を乗り越えるために―関係のダイバーシティという提案」に譲るが、重要なのは、普段から多様な相手と接点を持ち、「あの人はこういう考え方をする人だ」という理解が進んでいることである。
相手の背景や人となりを知っていれば、意見が対立したとしても、「人格攻撃」とは受け取らず、「視点の違い」として冷静に受け止められる。関係のダイバーシティは、タスクコンフリクトが関係性コンフリクトへと引火するのを防ぐ、防火壁の役割を果たすといえるだろう。
2つ目は、対立が起きた際の話し合い方についてである。
風通しの良い組織では、対立時に「回避」するのではなく、「協調的」に対話を行う傾向が強く見られた(図表6)。互いの意見を出し合い、WIN-WINの解決策を探る姿勢である。
ここまでは予想通りの傾向かもしれない。だが、興味深いのは、同時に「競争的対応(自分の意見を押し通す)」もまた、有意な傾向を示していた点である。
一見矛盾するように見えるかもしれない。しかし、考えてみてほしい。
多様な専門性を持つメンバーが集まれば、意見が異なるのは当然だ。まずはプロフェッショナルとして、自分の意見や視点をしっかりと主張する。健全な「押し付け」があるからこそ、互いの違いが明確になり、そこから高次の協調へと至ることができるのではないだろうか。
個としての積極的な主張なき協調は、単なる同調圧力に過ぎない。まずは健全に戦わせる。そのプロセスを許容することが、風通しの良さへの第一歩といえるだろう。
3つ目は、組織に対する期待認知である。
風通しの良い組織のメンバーは、2つの重要な期待を抱いていることが分かった。
ひとつは、「関係修復への期待」。「たとえ議論が白熱しても、最終的には関係は壊れないだろう」という組織への信頼感である。
もうひとつは、「上司介入への期待」。「いざとなったら、上司が間に入って調整してくれるだろう」という安心感である(図表7)。
「異論を唱えても大丈夫」。そう思えるからこそ、人はリスクを取って本音でしゃべることができる。逆にいえば、現場のメンバーが萎縮してしまうのは、個人の勇気の問題ではなく、この組織的セーフティネットが機能していない、あるいは信じられていないからかもしれない。
リーダーに求められるのは、全知全能の正解者として振る舞うことではない。「いざとなったら私が守るから、思い切ってやってくれ」。そう言える黒子としての度量こそが、現場の背中を押すのではないだろうか。
そして、4つ目のポイントは、「組織の共通認識(コモン・センス)」の蓄積だ。
コモン・センスとは、単なる知識の共有ではない。「メンバーが知っている」という事実に加え、その事実を「みんなも知っているはずだ」という、メンバー間で認知されている状態を指す。いわば、言葉にせずとも通じ合える、その組織の「前提条件」のようなものだ。
今回の分析によれば、「目標・理念」や「議論の場のルール」に関するコモン・センスが蓄積されている組織ほど、風通しが良い傾向にあった(図表8)。
「何のために議論するのか(パーパス)」、「この場では反対意見も歓迎される(グランドルール)」といった前提が、深く共有され、互いに信じられている。この基盤があるからこそ、対話が単なる「言いっ放し」で終わらず、安心して意見を戦わせることができるのだろう。
一方で、「業務の進め方」に関するコモン・センスは、風通しの良さをむしろ下げる傾向が確認された。
例えば、「この業務をいつものように丁寧に」という指示でも、それが何に対しての丁寧さを指しているのかが食い違うケースは珍しくない。
理念のような抽象的なものとは異なり、実務におけるこのズレは、手戻りやミスに直結し、やがて「なぜ分かってくれないのか」という苛立ちへと発展しかねない。こうした具体的なレベルであるほど、「阿吽の呼吸」を過信しすぎず、丁寧にすり合わせる姿勢が求められるのではないだろうか。
本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」に基づき、真に「風通しの良い組織」の正体と、それを実現するための4つのポイントについて見てきた。
目指すべきは、単に「仲の良さ」だけを追求した組織ではない。異質なものが混ざれば、摩擦が起きるのは必然である。その摩擦を恐れて「無風」を決め込めば、組織の活力は失われていく。必要なのは、摩擦を「人間関係のあつれき」として消費するのではなく、推進力としての「熱」に変えるための土壌だ。
多様なつながりを確保し、プロとしての健全な自己主張を促す。そして、「異論を唱えても大丈夫」というセーフティネットを張り巡らせ、組織の理念やルールのコモン・センスを蓄積する。
風通しの良い組織作りとは、自然発生的に生まれるものではない。意図的に仕事上の喧嘩(タスクコンフリクト)を引き起こし、同時に人間関係の摩擦(関係性コンフリクト)を最小化する。この一見矛盾する状態を両立させるための、緻密なマネジメントが求められる。
過度な同調圧力や、空気を読み合うだけの沈黙に未来はない。多様な意見が飛び交い、健全にぶつかり合うこと。そのプロセスの先にこそ、組織の進化とイノベーションが待っているはずだ。
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