調査・研究コラム

副業推進の質的転換点―副業は「キャリアの自己防衛」の手段へ

公開日:

執筆者

  研究員

研究員

中俣 良太

副業推進の質的転換点―副業は「キャリアの自己防衛」の手段へ

厚生労働省が「モデル就業規則」を改定し、副業解禁の流れが本格化した2018年の「副業元年」。以来、パーソル総合研究所では、副業に関する全国的な定量調査※1を続け、その動向を追いかけてきた。興味深いことに、正社員の副業実施率は2018年の10.7%から2023年の7.0%まで、微減トレンドをたどる。ところが、4回目となる2025年調査でその流れは反転し、過去最高となる11.0%を記録するに至ったのである。この上昇の裏には、一体何があるのだろうか。本コラムでは、最新の調査データから、副業推進の「今」とその背景を読み解く。

※1

パーソル総合研究所がこれまでに実施した副業に関する定量調査は以下の通り。
2018年調査:「副業の実態・意識調査
2021年調査:「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査
2023年調査:「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査
2025年調査:「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査

副業実施率の微減トレンドはなぜ反転したのか

今回の要因を考察するにあたり、まずは過去の動向を振り返ることから始めたい。筆者は、2023年に公開したコラム「副業における最新動向とその課題 ~副業の活性化には「歯車連動型」副業への転換がカギ~」において、当時の副業実施率の微減トレンドの要因について考察した。その際に指摘した主な要因は、以下の3つである。

  1. 副業人材の受け皿の少なさ(企業の副業受入率の低さ)
  2. 副業求人のアンマッチの多さ
  3. 出社回帰の動きによる、副業を行う余裕の喪失

これらの阻害要因が、2023~2025年の2年間でどのように変化したのか。ひとつずつ見ていこう。

第1に、「副業人材の受け皿」の観点である。企業が副業人材を受け入れる割合(副業受入率)の推移を見ると、2023年調査から4.7ポイント上昇しており、ようやく企業の門戸が広がりつつあることが確認できる(図表1)。いまだ3割に満たない水準ではあるものの、労働力不足の深刻化などを背景に、外部人材の活用に対する企業の意識が変化したことで受け皿が増えてきた、という可能性が示唆される。

図表1:企業の副業受入率の推移(%)

図表1:企業の副業受入率の推移(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

次に「副業求人のアンマッチ」の観点はどうだろうか。この点を考察する上で、まず確認すべきは副業意向率の推移である。図表2を見ると、副業実施率が過去最高を更新する一方で、副業意向率は過去最低を記録している。2023年の40.8%から2025年は32.9%へと、この2年間で大きく減少していることが分かる。

図表2:正社員(副業未実施層)の副業意向率の推移(%)

図表2:正社員(副業未実施層)の副業意向率の推移(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

これは一見矛盾するようだが、アンマッチの緩和という観点から説明できる。すなわち、これまで「副業意向はあっても自分に合う副業が見つけられない」状態にあった層が、実際に副業を始めることが可能になった結果、実施者が増える一方で、副業を探し続ける意向者が減った、という解釈だ。

実際に、副業意向者が副業できない理由の変化を見てみると(図表3)、2023年調査で最も高い理由であった「自分の希望やスキルに合っておらず、応募を控えてしまう(29.7%)」は、2025年調査で20.8%と大幅にスコアが減少していることが分かる。

このアンマッチ緩和の背景には、昨今のプラットフォームやテクノロジーの台頭に伴う「副業機会の創出」が関係していると考える。2023~2025年の2年間で、スキマバイト(スポットワーク)サービスは急速に普及し、短時間・単発の仕事にアクセスしやすくなった。さらに生成AIの台頭に伴い、従来は難易度が高かった業務も多くの人が取り組みやすくなった。その活用実態は数字にも表れており、ある調査では、副業者の4割強がすでに業務に生成AIを取り入れているとの結果が出ている※2

※2

株式会社マイナビ「マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)」より

こうした変化が、スキルに自信のなかった人や副業探しに苦労していた人と企業との間の溝を徐々に埋めつつあるのではないだろうか。

図表3:副業意向者が副業できない理由※3(%)

図表3:副業意向者が副業できない理由※3(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

※3

選択肢「会社で副業が禁止されている」は、前回調査と今回調査で表示条件が異なるため、本グラフ上からは除外している。

第3の「出社回帰」の影響についてはどうか。2023年調査時は、コロナ禍からの揺り戻しで出社回帰が進み、副業に充てる時間や精神的な余裕が失われたことが一因と考察した。しかし、図表3を見ると、「本業が忙しく時間がない」という理由は前回からほぼ変動がない。

また、パーソル総合研究所「第十回・テレワークに関する調査」によれば、テレワーク実施率は2023年以降、ほぼ横ばいで推移している。これらのことから、今回の副業実施率の向上に、働き方の物理的な変化は寄与していないと考えられる。

若年層が牽引する副業推進の質的変化

副業人材の受け皿拡大やアンマッチの緩和といった環境要因に加え、2025年調査では、個人の意識、特に若年層の意識に大きな変化が見られた。図表4を見ると、今回の副業実施率の上昇を牽引しているのは、20代、30代の若年層であることが一目瞭然である。特に男性20代は、2023年の8.8%から20.2%へと劇的に上昇し、実に5人に1人が副業を実施している計算になる。

図表4:正社員の副業実施率の推移(年代別)(%)

図表4:正社員の副業実施率の推移(年代別)(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

若年層はなぜ、これほどまでに副業へと向かうようになったのだろうか。その動機を探ると、副業がもはや単なる「お小遣い稼ぎ」ではない、新たな側面が浮かび上がってくる。

図表5は、副業を行う理由の推移を示したものだ。「副収入を得たい」「本業の収入だけでは不十分」といった収入補填を目的とする理由は依然として上位を占めるものの、そのスコアは調査を重ねるごとに減少トレンドにある※4。一方で、「副業で好きなことをやりたい」「自分のスキルが他の場所でも通用するか試したい」といった、自己実現やスキル検証に関連する項目のスコアが上昇している。

※4

図表5では2023年調査との差分のみを掲載しているが、過去4回分のデータを見ると、スコアには一貫した減少傾向が確認されている。(報告書P27

図表5:副業を行う理由の推移

図表5:副業を行う理由の推移

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

そして、この傾向は、若年層においてより顕著である。図表6は、特徴的な2つの副業実施理由の推移を年代別に見たものだ。「自分のスキルが他の場所でも通用するか試したいから」という理由は、20代において48.9%と高く、上昇傾向にある。また、「本業では自分の好きな仕事ができないから」という本業への不満の理由も、20代が最も高く、かつ上昇トレンドを描いている。

これらのデータは、若手社員が必ずしも本業だけでキャリア形成や自己実現が完結するとは考えておらず、その代替手段あるいは補完手段として、組織の外に新たな活動の場を求めている実態、すなわち「キャリアの多拠点化」ともいえる動きを映し出しているのではないか。

図表6:副業を行う理由の推移(年代別)(%)

図表6:副業を行う理由の推移(年代別)(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

こうした意識の背景には、現代の若者が抱えるキャリアに対する強い危機感が潜んでいると考えられる。仕事に関する不安と副業実施有無の関係性をクロス分析したところ、「自分のスキルが陳腐化していくリスク」や「現在の業界が衰退していくリスク」といった項目で、副業実施者は未実施者に比べて高いスコアを示しており、そのギャップは若年層で大きい(図表7)。これは、終身雇用が当たり前ではなくなり、1つの企業や業界に依存し続けることへの不安が、若者を副業へと突き動かす強い動機となっている可能性を示唆している。

図表7:仕事への不安と副業有無の関係(年代別)(%)

図表7:仕事への不安と副業有無の関係(年代別)(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

まとめ

本コラムでは、副業に関する定点調査のデータを基に、その量的拡大と、背景に潜む質的変化について論じてきた。今回の調査から明らかになったのは、正社員の行う副業が、単なる収入補填のためではなく、自らのキャリアを守り、築くための「戦略」へと、その意味合いを変えてきている実態である。

特に若年層にとって、副業は本業で満たされない成長機会や自己実現を求め、自身の市場価値を確かめる「実践場」となっている。その根底にあるのは、本業で望む仕事や役割を得られないという閉塞感や、1つの会社に依存し続けることへの危機感であるかもしれない。「主体的なキャリア形成」といえば聞こえはいいが、その実態は、キャリアの主導権を企業任せにできず、「組織の枠からはみ出てでも、自らの手で活躍の場を切り拓かなければならない」という切実な焦りに近い。その動きは、まさに「キャリアの自己防衛」と呼ぶべきものである。

個人が自らのキャリアを主体的に守り、築く時代の中で、企業も変わらざるを得ない。個人よりも企業が強い時代は終わった。この先企業は、「いかに従業員をとどめるか」ではなく、「多様な個人から選ばれ続ける魅力とは何か」をより一層考えていく必要がある。

執筆者紹介

  研究員 中俣 良太

研究員

中俣 良太 Ryota Nakamata

首都大学東京大学院 観光科学域 博士前期課程 修了。
大手市場調査会社にて、金融業界の調査・分析業務に従事した後、2022年8月より現職。人と組織に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。現在の主な調査・研究領域は、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

THEME

注目のテーマ

    CONTACT US

    お問い合わせ

    こちらのフォームからお問い合わせいただけます

    お問い合わせフォーム

    FOLLOW US

    最新情報をチェック!

    メルマガ登録・公式SNSフォローで最新情報をお届けします。