調査・研究コラム

育児・介護中の社員が活躍できる職場作り ~データが示す3つの処方箋~

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中俣 良太

育児・介護中の社員が活躍できる職場作り ~データが示す3つの処方箋~

コラム「就業者の6人に1人が育児・介護と仕事を両立する「ケア就業者」になる未来」では、2035年に育児や介護を担うケア就業者が1,285万人に達し、就業者の6人に1人がケアと仕事を両立する、という未来予測を提示した。この数字は、2つの重要な意味を持つ。1つは、性別や年齢を問わず、誰もがケアの当事者になる可能性があること。そしてもう1つは、ケアを担う同僚と共に働くのが当たり前になるということだ。

つまり、ケアと仕事の両立は、一部の従業員個人の問題から、組織全体で取り組むべきテーマへと、今後その位置づけを変えていくことになるだろう。職場内にケア就業者がいることが当たり前になる未来を見据え、企業はこれからどのような一歩を踏み出すべきだろうか。

本コラムでは、パーソル総合研究所「ケア就業者に関する研究」の調査データを基に、ケア就業者が活躍できる職場の在り方について、具体的な処方箋を提示したい。

ケア就業者のいる職場の課題:制度と活用の溝

上記で掲げた問いを明らかにするため、パーソル総合研究所は全国の就業者20~69歳を対象とした定量調査を実施した。本調査では、ケア就業者自身の意識や実態に加え、ケア就業者と共に働く就業者(非ケア就業者)の声も聴取することで、課題を多角的に捉える設計としている。

参考情報として、社会的な背景にも触れておきたい。2025年4月1日から「改正育児・介護休業法」が段階的に施行されている。その趣旨は、ケア就業者がより柔軟に働き続けられるよう、企業に対して両立支援制度の整備を促すことにある。この改正により、企業にはこれまで以上に具体的な両立支援措置を講じる義務が課せられることになった。このように、法律の面からも、企業がケア就業者を支える環境を整えることの重要性は、ますます高まっている。

では実際に、職場の両立支援制度は、現在どの程度整備されているのだろうか。本調査の結果を見ると、制度の種類によって濃淡はあるものの、主要なものでは、既におおよそ4割から6割の企業で導入されている傾向がうかがえる(図表1)。特に、従業員規模が大きい企業ほど、その整備率は高い。

図表1:柔軟な働き方に関する制度の企業整備率(%)

図表1:柔軟な働き方に関する制度の企業整備率(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

しかし、問題の核心は、柔軟な働き方に関する制度の整備率と、個人の利用実態との間にある大きなギャップだ。各制度を平均すると、実にケア就業者の約8割が、制度の利用が認められているにもかかわらず、実際には利用していない可能性が明らかになったのだ(図表2)。制度という「ハコ」はあっても、それが機能していない。制度の整備状況と、実際の活用実態との間に存在するこの大きな乖離は、ケア就業者が活躍できる職場の在り方を考える上で、まず向き合うべき重要な論点といえるだろう。

図表2:柔軟な働き方に関する制度の企業整備率、個人利用率(%)

図表2:柔軟な働き方に関する制度の企業整備率、個人利用率(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

柔軟な働き方に関する制度の利用をためらうのはなぜか

では一体、なぜケア就業者は柔軟な働き方に関する制度を利用しないのだろうか。分析を進めると、その背景に、日本企業に根強く残る仕事の進め方と、そこから生まれる心理的な障壁の存在が浮かび上がってきた。

性別や年齢などの基本属性を統制した多変量解析を行った結果、柔軟な働き方制度の利用を促進するのは、「自律的な業務」や「成果が明確な業務」といった、個人の役割が明確な仕事であることが分かった(図表3)。

日本の職場では、欧米のジョブ型雇用とは異なり、個人の職務範囲を明確に定めないメンバーシップ型の雇用が今なお主流といわれている。そこでは、「誰が担当というわけではないが、チーム全体で対応すべき業務」が数多く存在する。部署で共有している問い合わせ対応や、複数人で担当する資料作成などがそれに当たるだろう。

こうした、メンバー間の暗黙の連携を前提とした「あいまいな仕事」の進め方が、結果として、誰かが休むことで生じる「しわ寄せ」への懸念を生み、柔軟な働き方に関する制度の利用をためらわせる一因となっている可能性が考えられる。

図表3:柔軟な働き方に関する制度利用に影響する仕事特性

図表3:柔軟な働き方に関する制度利用に影響する仕事特性

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

実際に、この「しわ寄せ」への懸念は、単なる杞憂ではないことが調査データからも明らかになっている。本調査では、柔軟な働き方制度を利用しているケア就業者ほど、周囲の同僚に自身の業務を代替してもらう、いわゆる「業務フォロー」を依頼する割合が、非利用者に比べて2倍以上高いという関係性が見られた。

問題は、依頼される非ケア就業者側の負担の増加である。具体的には、業務をフォローする非ケア就業者の42.6%が不満を感じており(図表4)、月間の平均残業時間も、そうでない同僚に比べて5.6時間長い(図表5)。この見過ごせない負荷が、職場の空気感を少しずつ変えていくのである。

図表4:ケア就業者に対する不満(%)

図表4:ケア就業者に対する不満(%)

出所::パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

図表5:月間残業時間の比較(%)

図表5:月間残業時間の比較(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

こうした状況を、ケア就業者自身も敏感に察知している。その結果生まれるのが、「制度を使いたいが、使うと周りに迷惑がかかる」という罪悪感だ。パーソル総合研究所の調査では、周囲に仕事を任せることがあるケア就業者ほど、「人に相談したり援助を求めたりすることに心苦しさを感じる」といった「援助要請への抵抗感」が強いこともデータで示されている(図表6)。

図表6:周囲からの業務フォローと、援助要請の抵抗感の関係

図表6:周囲からの業務フォローと、援助要請の抵抗感の関係

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

ケア就業者のいる職場の課題解決に向けて

育児や介護を担うケア就業者が、利用できるはずの働き方制度をためらう背景には、職場の人間関係やチーム全体のパフォーマンスを維持しようとする、彼ら・彼女らなりの合理的な判断がある。この根深い構造的な課題を解決するには、どうすればよいか。重要なのは、ケア就業者本人に制度利用を直接促すこと以上に、その周囲で業務を支える非ケア就業者の不満や不公平感をいかに抑制するか、という視点ではないかと考える。

上記の視点に基づき多角的な分析を行った結果を踏まえ、実効性が見込まれる3つの解決策について提言する。

解決策①:「激励」より「調整」を重視するマネジメントへ

まず、上司のマネジメントスタイルが、周囲の非ケア就業者の意識(「ケア就業者への不満」、「ケア就業者の特別扱い感」)に与える影響を分析した(図表7)。分析の結果、非ケア就業者の不満を抑制する上で有効だったのは、メンバーの仕事量を適切に分担し、突発的な事態に柔軟に対応するといった「調整型」のマネジメントであった。

一方で、部下への声がけや励ましといった「激励型」のマネジメントは、むしろ不満を高める傾向が見られた。これは、精神論や個々の頑張りに依存したマネジメントの限界を示唆している。「大変だろうけど、理解してあげて頑張ってくれ」といった言葉は、何ら具体的な解決策を示しておらず、部下からは「マネジャーが調整責任を放棄している」と受け取られかねない。今後の管理職には、個々の事情に配慮しつつ、チーム全体の業務量を客観的に把握し、公平に再配分する、実務的な調整能力が強く求められるのである。

図表7:マネジメントが非ケア就業者の意識に与える影響

図表7:マネジメントが非ケア就業者の意識に与える影響

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

解決策②:業務をフォローする同僚への支援を手厚くする

管理職の「調整」を円滑に機能させるには、それを支える組織的な仕組みが不可欠である。そのひとつが、ケア就業者の業務を代替する同僚への、正当な評価と支援制度だ。パーソル総合研究所の調査では、ケア就業者の業務をフォローする非ケア就業者の7割が、「企業からの支援が手薄い」と感じていることが明らかになった(図表8)。

図表8:企業からの支援不足の実感(%)

図表8:企業からの支援不足の実感(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

昨今、産休・育休のような長期の欠員に対しては、支援が拡大する動きも見られる。例えば、三井住友海上は育休取得者の職場に一時金を給付する「育休職場応援手当」を創設し※1、大和リースは育休取得者の賞与を原資に、業務を代替した同僚へ再分配する「サンキューペイ制度」を導入している※2

※1

三井住友海上火災保険株式会社. (2023年3月17日). 育休職場応援手当(祝い金)の創設. https://www.ms-ins.com/news/fy2022/pdf/0317_1.pdf

※2

大和リース株式会社. (2023年12月12日). 女性の社会進出と活躍支援に向けて 育児休業を支える同僚への賞与「サンキューペイ制度」を新設. https://www.daiwahouse.co.jp/about/release/group/pdf/g_release_20231212.pdf

しかし、今後より頻繁に発生してくるのは、子どもの発熱や親の通院といった、数時間から数日単位の突発的な業務の穴である。こうした、公式な欠員とは見なされない「時間単位の労働力不足」をカバーする同僚の貢献は、これまで見過ごされがちであったといえるだろう。その背景には、従業員を常に「1人」という単位で捉え、時間単位での労働力の変動に目を向けてこなかった、従来の画一的な考え方があるのかもしれない。

今後は、この「見えざる貢献」を可視化し、業務をフォローした従業員へのインセンティブ支給や、人事評価への明確な反映といった、実質的な形で報いる仕組みの導入が必要になってくるだろう。企業には、労働力をより柔軟に捉え、支援の在り方を模索していく姿勢が求められる。

解決策③:「特別扱い」をやめ、誰もが使える制度にする

第3の解決策は、柔軟な働き方に関する制度の「ユニバーサル化」である。これは、制度の利用対象を「育児・介護中の社員のみ」といった特定の属性に限定せず、全従業員が利用できるよう門戸を開くアプローチを指す。

なぜなら、「条件付き」の制度は、ケア就業者を「特別扱い」されている存在として際立たせ、結果として職場の不公平感を助長することが予想されるからだ。事実、パーソル総合研究所の調査では、「条件付き」制度のほうが「全員向け」制度よりも、非ケア就業者に対する特別扱い感が強い傾向が出ている。

さらに重要なのは、ケア就業者自身の制度利用率も、「全員向け」制度のほうが格段に高いという点だ(図表9)。例えば、テレワークの利用率は、「条件付き」制度の職場では22.3%にとどまるのに対し、「全員向け」制度の職場では48.8%にまで上昇する。ケア就業者だけがテレワークを許可されても、それは「特別な配慮」に過ぎず、本人は周囲の目を気にしてかえって利用しづらい。誰もが「当たり前の権利」として使える制度だからこそ、ケア就業者も気兼ねなく、それを一つの選択肢として活用できるのである。

図表9:働き方制度の整備状況別 働き方制度の個人利用率(%)

図表9:働き方制度の整備状況別 働き方制度の個人利用率(%)

出所:パーソル総合研究所(2025)「ケア就業者に関する研究」

まとめ:ケアと共に働く社会の到来に向けて

本コラムでは、多くの企業で育児や介護との両立支援制度が整備されているにもかかわらず、8割のケア就業者が制度を活用しきれていない可能性がある、という課題を示してきた。その根底には、制度利用が周囲の同僚への「しわ寄せ」に直結する日本的な雇用慣行と、それによって生まれるケア就業者の「罪悪感」という、根深い課題構造がある。

この課題を解決する処方箋として、本コラムは3つの具体的な打ち手を提示した。第1に、管理職は精神論的な「激励」から、実務的な「調整」へと役割をシフトすること。第2に、組織は業務をカバーする同僚の「見えざる貢献」を正当に評価し、報いること。そして第3に、制度の利用を特定の属性に限定する「特別扱い」をやめ、誰もが使える「ユニバーサル」なものへと開くことである。

これらは個別の施策であると同時に、ひとつの共通した考え方に基づいている。それは、もはや個人の頑張りや善意に依存した、偶発的な「助け合い」に頼るのではなく、誰もが制約を持つことを前提とした、変化に強い高耐性(ハイレジリエンス)な組織を、意図的に設計するということだ。

ケア就業者が本当に活躍できる職場とは、特別な支援制度が数多く用意された場所ではない。それは、誰もが気兼ねなく柔軟な働き方を選択できる、公平で、しなやかな職場環境そのものなのである。

執筆者紹介

  研究員 中俣 良太

研究員

中俣 良太 Ryota Nakamata

首都大学東京大学院 観光科学域 博士前期課程 修了。
大手市場調査会社にて、金融業界の調査・分析業務に従事した後、2022年8月より現職。人と組織に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。現在の主な調査・研究領域は、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

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