調査結果 03
就業者の社会貢献意識
(ソーシャル・エンゲージメント)
に関する定量調査
企業活動において、SDGs、ESG投資など、持続可能な社会づくりが強く求められている一方で、日本人個人の社会課題への意識や行動は、国際的に極めて低いことが指摘されています。
そこで今回、就業者の社会課題への関心や社会変化への効力感を、「社会」へのエンゲージメントとし、「ソーシャル・エンゲージメント(社会貢献意識)」という独自の概念を用いてその実態を調査しました。
また、ソーシャル・エンゲージメントは幸せな活躍*につながるのか、どのような学校教育経験や社会人になってからの経験、人材マネジメントなどがそうした社会意識に影響を与えるのかを分析しました。
*本調査での「幸せな活躍」の定義と測定:「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの5項目を「個人の主観的な幸せ」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。
ソーシャル・エンゲージメントの定義
就業者の社会課題解決への関心の強さや責任感、課題解決への効力感を「ソーシャル・エンゲージメント」として測定した。
図1.ソーシャル・エンゲージメントの定義
幸せな活躍実態
ソーシャル・エンゲージメントが高い層(全体平均以上)は、低い層(全体平均未満)と比べ幸せな活躍をしている人の割合が2.9倍であった。
図2.ソーシャル・エンゲージメント高低別の幸せな活躍層の割合
仕事上の意義・成果
ソーシャル・エンゲージメントが高い層は、ジョブ・パフォーマンス、ワーク・エンゲイジメント、
ジョブ・クラフティング(※)、革新的行動(アイデアの提案・創造)の指標において、すべて高い傾向が見られた。
※働く人が自分の仕事を主体的に再構築し、自分にとってより意義のある形に変えるプロセス
図3.ソーシャル・エンゲージメント高低別の仕事実態
SDGsに関連した意識・行動、学びへの意欲
ソーシャル・エンゲージメントが高い層では、環境配慮や人権配慮行動を行っている割合が高い。
また、ソーシャル・エンゲージメントが高い層では、学びに意欲的である。特に、学びへの前向きな行動の割合は2.3倍の差が見られた。
図4.ソーシャル・エンゲージメント高低別のSDGsに関連した意識・行動
図5.ソーシャル・エンゲージメント高低別の学びへの意欲
ソーシャル・エンゲージメントと関連する社会人になってからの経験
社会人になってからの3つの経験、「手触り経験(仕事や社会参加における直接的な身体感を伴う経験)」「見渡し経験(組織や仕事を俯瞰して見る経験)」「踏み出し経験(仕事以外での越境経験)」が多いほど、ソーシャル・エンゲージメントが高い。性年代別に見ると、仕事に関する「手触り経験」「見渡し経験」において、中高年になるほど男性の方が経験率が高くなっていく。
図6.経験の多さ別/ソーシャル・エンゲージメントの高さ
手触り経験:直接的な身体感を伴う経験
仕事
- 汗水たらして頑張った経験
- 社会課題に関する現場フィールドワーク
- 上司と、対面で本気で議論したり、本心で語り合った経験
- 仕事に対して、顧客や同僚から直接感謝された経験
- 仲間で打ち上げして盛り上がった経験
- 社会的困難を抱えている人へのインタビュー実施
社会参加
- 競技会・イベント・祭りへの参加
- 友人・知り合いと社会的課題についての長時間にわたる議論
- 身体を動かすボランティア活動(炊き出し・ゴミ拾いなど)
- 社外活動に対する周囲の人からの直接的な感謝
- 社会的困難を感じている人との会話(貧困、病気、戦争など)
見渡し経験:組織や仕事を俯瞰して見る経験
- 会社もしくは部署の戦略・企画の策定業務
- 事業再編、制度改革など、変化を生みだす活動に参加した経験
- 専門性を深める研修・訓練や仕事への従事
- 他部門や外部組織と連携しながら仕事をした経験
- リーダーや複数人が関わるプロジェクトマネジメントの経験
- 長期にわたるプロジェクトの遂行
- 高度な知識・スキルが必要な仕事への従事
- 部下や後輩の育成・相談役
踏み出し経験:仕事以外での越境経験
- ボランティア
- 海外旅行
- 生活圏が変わる引っ越し
- 自分とは育った環境や学歴・職種が異なる人との交流
- NPOなどの団体経験
- PTA活動
- 町内会・マンションの理事会・自治会活動
- 留学・海外在住
- 社会人になってからの大学・大学院・専門学校への進学
- 仕事外での勉強会等の主催・運営
- 異なる世代の人との交流
図7.性年代別の経験
ソーシャル・エンゲージメントと関連する学生時代の経験
ソーシャル・エンゲージメントが高い若年層は、学生時代に「積極的に行動」し、多様な人と交流する「ネットワーク行動」や「内省」を行っていた人が多い。また、「職業と学びの紐づけ(ラーニング・クラフティング)」「領域を超えたカリキュラム」「能動的な学び」を行っていた。
図8.ソーシャル・エンゲージメントが高い若年層の学生時代の経験
ソーシャル・エンゲージメントと関連する組織要因
従業員のソーシャル・エンゲージメントを促している人事管理は、1.キャリア目標が明確であること、2.多様な人材の活躍が支援されていること、3.過剰な労働密度が回避されていることである。これらが視野の広さや仕事上の余裕につながり、従業員のソーシャル・エンゲージメントを促している。
図9.ソーシャル・エンゲージメントと人材マネジメントまとめ
まとめ
今回の調査で、ソーシャル・エンゲージメントが高い従業員は、目の前の仕事に主体的に取り組み(ジョブ・クラフティング)、学びの意欲が高く、業務上の成果や主観的な幸せ(ウェルビーイング)も高いことがわかりました。
ソーシャル・エンゲージメントの高さには、学生時代・社会人の経験との関連が見られ、社会人の経験では直接的体感を伴う「手触り経験」、仕事以外の越境経験である「踏み出し経験」、組織や仕事を俯瞰して見る「見渡し経験」といった経験が、ソーシャル・エンゲージメントを育てていることが浮かび上がってきました。
また、ソーシャル・エンゲージメントには企業の人事管理も影響しています。キャリア目標を明確化することや、長時間労働を防止することなどは、ソーシャル・エンゲージメントを促していることがわかりました。また、業務命令による異動・転勤の多さはソーシャル・エンゲージメントを抑制しており、伝統的な日本の配置転換の在り方が、就業者の社会課題への関心を下げている可能性も考えられます。
CSR活動や金銭支援といった直接的な社会貢献だけではなく、主体的に社会のことを考えられる人材を育てることも、企業の重要な社会的責任として認識されるべきではないでしょうか。そのために、社会課題を解決する「社会志向」の人材マネジメントが重要であるといえます。
調査概要
調査名称 | パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳 「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」 |
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調査内容 | ①有期雇用を含む10代から60代の就業者において、ソーシャル・エンゲージメント(社会貢献意識)が高い層の特徴を明らかにする ②ソーシャル・エンゲージメント(社会貢献意識)、および、ソーシャル・レリバンス(今の会社での仕事を通じた社会への貢献実感)に影響する要因を探る |
調査手法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査時期 | 2023年1月27日–1月30日 |
調査 対象者 |
有期雇用を含む18~69歳の就労者 6000名 ※2020年の国勢調査をもとに就労者の性年代(5歳刻み)で割付 ※学生アルバイト(通学のかたわら仕事をしている人)は除く |
実施主体 | パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳(ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ) |
※引用について
本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」