第3回:「One on Oneでの商談確認の限界」テレワーク環境での商談管理

新型コロナの影響を受け、BtoBの営業も大きく変わろうとしています。

そこで本連載ではシリーズテーマ「テレワーク時代のBtoB営業組織のあり方」として全5回のコラムをお届けいたします。

第3回は、「One on Oneでの商談確認の限界」テレワーク環境での商談管理について考えていきます。

目次

「One on Oneでの商談確認の限界」とは

テレワーク環境においては、お客様との面談がオンラインになるのと同時に、「商談管理」などの日常のマネジメントもオンラインになります。

※本稿では「面談」と「商談」の意味を使い分けています。
「面談」:1回の面談
「商談」:≒「案件」成約に向けた一連の営業行為

 

コロナ禍でテレワークが進む以前から、商談のリアルタイムマネジメントの為にSales Techの活用が志向され、いまでは多くの企業においてSFA/CRMツールが導入されています。しかしツールは導入したものの「十分には利用できていない」という営業組織は多く、フォーキャスト(見込み)管理など比較的利用が進んでいる組織でも、実態を調べてみると、案件の一つひとつについて、マネジャーがメンバーとOne on Oneで確認をし、受注確度を見極める〝読み〟を加えなければならず、「マネジャーに多くの負担がかかっている」「マネジャーの経験値に左右されて合理的でない」といった課題をよくお聞きします。

 

こうした状況に加えて、否応なくテレワークによって、マネジャーとメンバーが対面でコミュニケーションをとることが難しくなってしまった今、いったいどのように商談をマネジメントしていけばよいのでしょうか。

 

気軽に「おい、あの案件どうなった?」と、思いつくままに声をかけたり、電話をしているメンバーの会話のトーンから商談の成否を推察したり、同行訪問の移動中に話を聞く、といった手段はもう使えません。

 

逆説的に言えば「商談管理にも、より有効にSales Techを活用せざるを得ない」状況となり、SFAなどツールの利用が促進されるという見方もありますが、利用する側にしっかりとした方法論とマネジメント力がなければ、混乱は必至です。そこで、以前からオンラインによる商談マネジメントを効果・効率的に行ってきた事例を基に解決方法を考えてみたいと思います。

 

商談の状況を可視化する

リモートワークの環境下で商談の管理をするには、「都度確認する」という方法が使えませんので、意図的にメンバーと商談の状況確認の時間や方法を設定し、効果・効率的にすり合わせを行わなければなりません。そのために必要なことは判断基準の明確化と優先順位付けです。

 

例えば商談に関する情報のなかでも、SFAに登録されている情報が「販売想定額」「受注予定日」「現状の商談進度」だけで、その他は「活動」の定性情報しかないといった場合、マネジャーは不足している情報を全て自分で収集しなければならず、そこに膨大な時間がかかり、結局は面倒になって、メンバーを捕まえて「一から確認する」といったことをしてしまいがちです。

 

余談ですが、1日の活動報告に対して「オンライン」にこだわるあまり「せっかくメンバーが入力したのだから、必ず全員の報告に気の利いたコメントを返して下さい」とった指導がマネジャーになされ、メンバー10人×1人4件、合計40件の活動報告に対するコメントを毎日ヘロヘロになりながら返信し、とても「合理的」なマネジメントどころではないという笑い話を聞きます。

 

こうした状況を改善するためには、「良い商談の状況はどのようなものか」について、客観的な指標と判断基準を共有したうえで可視化、スコアリングし、優先順位を付けて「管理する商談としない商談」を決めておく必要があります。

 

たとえば、商談の良し悪しを見極める「適切な提案活動」を可視化する方法については、以下のような考え方があります。

 

 

FunnelMgt_smp.png

 

 

最も簡単な例ですが、商談の進度とそれぞれに影響を及ぼす要因を、ある基準に基づいてスコアリングします。そして、メンバーの感覚的な受注確度の読み(確度ランク)と、客観的な基準によるスコアが乖離している、受注予定日の残日数に対してスコアが上がっていない、といった矛盾した状況があれば、要注意の商談として確認します。

 

その際に重要なことは、様々な指標のスコアリングの基準に対して、その意味づけや判断の目安となる背景情報や根拠、商談の状態に関する認識がマネジャーとメンバーとの間で一致していることです。

例えば商談進度の「提案」についてみると、参考として見積を出しただけの状態も、お客様から最終的な比較検討のための見積を求められた状態も同じ「提案」になってしまします。

 

同様に「キーマンが自社寄り」とはどういう状態を指すのか、単にスコアリングの選択肢を決めれば良いわけではなく、状態の判断基準についてメンバーの理解や認識を確認し、必要であれば日々すり合わせを行って認識を一致させていくことが不可欠です。そうしたことを丁寧に続けていくができてはじめて、マネジャーがあれこれと詳細を確認しなくても、メンバー自身がスコアリングを行う瞬間に、なぜそのようなスコアになるのかを(言い訳含め)主体的に考えるようになります。それ自体が〝メンバーの育成〟につながるのです。

 

そして次に、商談の優先順位付けについては、以下のような考え方があります。

 

Deal_priority

 

 

「どのような商談を管理して、どのような商談を管理しないのか」、商談を重要度と上記のような注意度によって分類し、重要な商談で注意度が低いもの(図2の左上)は週次の「進捗確認」を行い、注意度が高くなった段階(同、右上)で、速やかにまとまった時間を取って「攻略シナリオの立案や見直し」を行う。反対に重要度が低くて注意度が高いもの(同、右下)は単に営業活動をしていないために情報のメンテナンスができていない場合が多いので「見極め指示」を行う。両方とも低いもの(同、左下)については特にメンバーの報告は求めず、SFAの情報から「全体見込みに活用する」というものです。

ただ、どのような仕組みを作ろうとも、前述のように判断基準とその根拠について認識が一致していなければ、すぐに瓦解し、結局時間と労力をかけたOne on Oneの確認作業に戻ったり、マネジャー個々の基準による「別表管理」(Excelなどを使って二重管理)が始まったりしてしまいます。

 

キーパーソンとの関係性を可視化する

第2回で、弊社は「ソリューション型」の商談の支援を強みとしているという話をしましたが、「ソリューション型」は「プロダクト型」とは反対に「お客様」を固定して、そのお客様が必要とするものを組み合わせて「ソリューション」として提供する側面があります。

 

したがって、1社1商談ではなく、1社で常に複数の商談が発生したり消えたりしています。その際、取引部門ごとに意思決定に係る関係者は共通していることが多く、前述のような「商談の良し悪し」を全ての商談情報の中に記述してすり合わせをするような管理は、情報量が膨大で非効率なものになります。こうした「ソリューション型」のお客様に関しては、個別の商談を進める活動だけでなく、お客様の組織全体を見て、影響力のあるキーパーソンと日頃からいかに良い関係性を築いておくかということも重要になります。

 

「商談情報」だけでなく「顧客担当者」に関するデータベースに、該当する取引部門で「どのくらいの影響力があるのか」「(起案や最終決裁などの段階で)どのような役割を果たすのか」「問題意識は高いか」「自社を良く思っているか」などを、商談と同じように客観的な指標と基準を設けてスコアリングします。

そのうえで、日々そのスコアの変動を意識して行動しつつ、商談が発生したときには、その商談に係るキーパーソンとの関係性スコアを、上記の商談スコアに反映して、商談自体の注意度の判定に使用する、といった活用をします。

 

チームを成長させるマネジメントとは

これまで述べてきたように、リモートワークの環境下でも、商談管理におけるメンバーとマネジャーのコミュニケーションは、SFA等のツールを有効活用しながら、工夫次第でより洗練されたものに進化させることができます。

一方で、メンバー同士の交流やコミュニケーションは、相当意識して機会を設けない限り、激減します。とはいえ、ただ単にメンバーの案件状況や商談の進捗をメンバー全員で一緒に共有することは効果的とは言えません。マネジャーは意図してメンバー同士が主体的に交流し、意見を交換する場を演出しなければなりません。

 

前述のような重要商談について攻略シナリオをチームで考えることや、商談活動以外にチームとして取り組まなければいけない施策についてみんなで議論することも効果的でしょう。短期的な目標達成に関わる話題だけでなく、少し先の将来に目を向けて、会社やお客様にどう貢献していきたいかといった話題に触れる機会を設けることや、ビジネス中心の堅い話だけでなく、雑談も含めた柔らかい話ができる場づくりにも意図的に取り組まないとチームとしての一体感を醸成することや、より高い目標を目指して成長していくことは容易ではありません。

今求められるマネジメントとは、決してリモートワークやオンライン営業だから必要なことではなく、不変的にマネジャーに求められてきたことばかりです。ただ、このような状況下では、あやふやな状態を、時間と労力をかけて埋めていくということができなくなり、全てのマネジメント行為を「仮説」と「勝算」をもって「意図的」に進めていく〝本物のマネジメント〟が求められています。

次回は、第4回「成果に近づいているか」オンライン環境における戦略遂行・タスク管理を掲載いたします

全5回コラム一覧

執筆者紹介

河村 亨

株式会社パーソル総合研究所 シニアコンサルタント

河村 亨

Toru Kawamura

1990年、機械商社を経て(株)富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に入社。営業・営業マネジメントを経て、SFAの現場定着や戦略実行をテーマとした営業マネジメント力強化コンサルティングに従事。「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」、「Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化」などを執筆。セールスフォース社との「訪問しない時代の営業力強化の教科書」を共著。

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