筆者は、パーソル総合研究所の「フォロワーシップに関する定量調査」を基にして、組織にとって有効なフォロワーシップ行動を5つ抽出し、これらを「フォロワーシップのFIVESモデル」として提唱した(図表1)。
では次に問うべきは、こうしたフォロワーシップ行動はどうすれば育つのかという点である。つい本人の意識や資質、ないしは「やる気」といった個人的な要素に還元したくなるが、今回の調査が示しているのは、むしろ逆である。フォロワーシップは、個人論というより、職場設計の問題として捉えることができる。
本コラムでは、フォロワーシップが育つ職場に共通する条件を整理し、人事や現場が実務として何を変えていくべきなのかについて、直接的・間接的なアプローチの観点から考察していきたい。
まず重要なことは、フォロワーシップは年齢とともに「縮む」ということだ。フォロワーシップ行動の性年代別の特徴を見ると、男女ともに20代から40代にかけてフォロワーシップ行動全体が減少していく。
女性に関しては50代で上がっているが、このデータは正規雇用者のみのデータであり、女性で非正規雇用は含まれない点には留意が必要だ。
これに関連して、興味深い分析結果を紹介したい。かつてから、日本型の雇用、いわゆる「メンバーシップ型」雇用は、メンバーの自発的な貢献行動を「当然」のものとしてみなしてきた。
例えば、フォロワーシップ行動に関連する研究として「OCB:組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)」の研究がある※1。これらは、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に無い組織の助け合いや支援の行動が、組織パフォーマンスにポジティブな影響を与えていることが指摘されてきた。
※1
Organ, D. W. (1988). Organizational Citizenship Behavior: The Good Soldier Syndrome.
Podsakoff, N. P., Whiting, S. W., Podsakoff, P. M., & Blume, B. D. “Individual- and Organizational-Level Consequences of Organizational Citizenship Behaviors: A Meta-Analysis,” Journal of Applied Psychology, 94巻1号, 122–141頁,
この組織市民行動の研究は、アメリカでは豊富に発展した一方で、日本では極めて少ない。その理由として指摘されるのは、アメリカ型のジョブの境界が明確な職場では、OCBは「役割外の自発的行動」として見えやすいが、日本においては、助け合い、気配り、調整などが役割内に織り込まれていることが多く、OCBが「特別なもの」として意識されにくいことだ。つまり、簡単にいえば、「自分の役割以外の行動を行うことなど、日本では当たり前」だと思われてきたということだ※2。
※2
田中堅一郎. “組織市民行動 測定尺度と類似概念, 関連概念, および規定要因について.” 経営行動科学 15.1 (2001): 1-28.
また、以下の実証論文では、長期雇用、生え抜き重視の昇進方針、従業員組織とのコミュニケーション重視度が、OCB活動に正の相関にあることを確かめた上で、「従来の日本型雇用システムが OCB と親和的な関係」にあると述べている。
久米功一・鶴光太郎・佐野晋平・安井健悟「変貌する日本の雇用システムの下での組織市民行動の再評価―所属型・挑戦型組織市民行動の規定要因の実証分析」RIETI Discussion Paper Series 21-J-044、2021年9月
しかし、今回の調査分析では、いわゆる日本的な雇用習慣の中でも、「労働時間の無限定性」「会社都合の異動の多さ」「職務範囲の無限定性」は、フォロワーシップ行動を縮小させていた。
より詳細にいえば、「労働時間の無限定性」は消極的なフォロワーシップ行動とプラスの関係があり、「会社都合の異動の多さ」は、ネガティブ拡散行動を助長し、「職務範囲の無限定性」はフォロワーシップを育てる組織の要素とマイナスの関連があった。つまり、日本企業で「普通」に過ごしていると、積極的なフォロワーシップ行動を起こさなくなってくるということだ。
これは、組織への役割外の貢献が「日本では当たり前」とされてきたことと相反する。そして、よりこの日本的雇用慣行の中心にいる中高年男性において、フォロワーシップ行動が大きく下がっていくという傾向とも整合的でもある。日本の雇用習慣は、少なくともフォロワーシップを自然と育てるような方向には機能していなそうだ。
では、「普通に過ごしていると縮んでいく」フォロワーシップ行動を、いかに維持・向上させていけばいいのだろうか。それは、部下への「意識改革」といったあいまいな施策では心許ない。そのヒントを探るべく行った多変量解析からは、フォロワーシップが育つ職場の条件を大きく2つに整理することができた。
第1に、「タテ(上位層)の関係とヨコ(同僚)の関係のバランス」が取れていること、第2に、「役割の明確さと余白のバランス」が取れていることだ。
まず重要なのは、コミュニケーションのありようである。上位層と「タテに対話できる関係」と同僚と「ヨコの感情交流」の両方が重要であった。「両方」といっている意味は、ヨコの水平方向の交流が多いだけでは上位層への意見が出にくく、逆に上位層との対話関係だけでは現場での感情的な寄り添いが生まれにくくなっていたからだ。つまり、どちらか片方だけでは不十分なのである。
簡単に言い換えれば、「仲が良い」だけの職場では、空気を壊したくなくて本音が出ない。逆に、上司には意見を言いやすいがメンバー間の交流が乏しい職場では、職場の支え合いやケアが生まれにくい。フォロワーシップとは、率直さと寄り添いの両立であり、そのためにはタテとヨコ両方の回路が必要になるということだ。
第2の条件は、役割設計である。分析の結果は、「各個人の役割が明確でありつつ、厳密すぎないという役割と余白のバランスがとれていること」だった。役割が明確になっているからこそ、そこを良い意味ではみ出す行動の余白が現れる、ということを示唆する。
一般的に思われがちなのは、「部下が主体性を発揮してほしいなら、自由に仕事をさせたほうがいい」というものだ。しかし実際には、曖昧すぎる役割は、かえって責任回避や静観する行動を生みやすい。「手を挙げると負担が上がって割りを食うから、自ら手を挙げない」という現象は、日本の多くの職場で見られるものだ。先ほどの日本的な慣習がフォロワーシップ行動を引き出さないのも、こうしたことが影響していそうだ。
どこまで自分が判断してよいのかがわからないと、人は日和見的に仕事をするが、逆に、役割がきちんと理解されているとその輪郭を踏まえた上で必要な一歩を踏み出しやすくなる。フォロワーシップとは、境界がない自由から生まれるのではなく、境界が見えているからこそ生まれる自発性のようだ。
では、実務的にはいったい何をすればよいのか。提案できるアプローチは大きく2つある。
ひとつは、フォロワーシップ行動の規範を、直接組織に埋め込むことだ。例えば、企業の行動規範やアクションポリシーへの盛り込み、メンバー向け研修、新人研修やキャリア研修への組み込み、従業員サーベイへの反映などである。
教育・訓練の領域の事例でいえば、筆者が今、各企業で盛んに行っているのは、上司と部下に「同じ内容」を教育することである。ほとんどの研修訓練は管理職やメンバーといった一部だけを対象とし、対象外の層にとってその内容は「ブラックボックス化」する。リーダーシップも、コミュニケーションも、目標管理もバラバラに教えられる。そうではなく、上司と部下に同じ知見とノウハウを与えることで、直接的に組織力は「底上げ」できる。
コスト・メリットのことを考えれば、既存のキャリア研修や新人研修、主任研修といった、管理職未満のメンバー層への研修にフォロワーシップに関する内容を盛り込むこともできる。そうした場で、フォロワーとして求められる行動をより具体的なレベルで期待することを伝える場になる。
もうひとつのアプローチは、フォロワーシップが醸成されるような組織に変えることだ。
例えば、職場内のコミュニケーションに課題を感じているとき、多くの企業は「上司部下」関係の改善か、「横のつながり」の向上かのどちらかに発想を偏らせる。それでは、フォロワーシップ行動を引き出すには限界があるということが分析結果からの示唆である。
上司部下のタテの対話関係を再構築し、「情報共有」以上のヨコのコミュニケーション施策を行うとともに、上司の振る舞いを「ガチガチ」のマイクロマネジメント型であれば余白づくり型へ、「ゆるゆる」の放置放任型であれば役割明示型へ変えていくことである。
「関係性づくり」の発想において重要なのは、単に「信頼」や「関係性の質」といった仲の良さではない。関係性づくりの具体的な施策の整理はコラム「ダイバーシティの『手応えの無さ』を乗り越えるために―関係のダイバーシティという提案」でも行っているので参照されたい。
本コラムでは、フォロワーシップを「個人の資質」や「善意」の問題としてではなく、「職場の設計」の問題として捉え直してきた。調査結果が示していたのは、誰か特別な人だけがフォロワーシップを発揮しているのではなく、発揮せざるを得ない、あるいは発揮してもよいと感じられる環境に置かれているかどうかが、行動を大きく左右しているという事実である。
年齢とともにフォロワーシップが自然と縮んでいくこと、日本的雇用慣行の中核的要素が、必ずしも積極的なフォロワーシップを育てていないことは、筆者を含む多くの実務家にとって耳の痛い結果かもしれない。しかし同時に、これらは「変えられない個人の問題」ではないという意味でもある。部下の主体性を引きだす2つの方法として紹介した、対話の回路を縦横に整え、役割の輪郭を描き直すことで、フォロワーシップは一定程度、意図的に引き出すことができる。
重要なのは、「もっと主体的に」「もっと考えて動いてほしい」といった精神論を、これ以上、現場に投げかけることではない。これからの組織に問われるのは、普通のメンバーが、必要なときに一歩前に出られるかどうかであり、その一歩が歓迎され、意味をもつ職場をつくれているかどうかだ。フォロワーシップを「暗黙の期待」ではなく、「共有された知識」にできるか。その可否が、組織の持続力を大きく左右していくだろう。
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