どれほど優れたリーダーがいても、チームの成果が伸び悩む場面は珍しくない。むしろ近年は、リーダー個人の力量に依存したマネジメントそのものが、機能不全を起こしやすくなっている。環境の不確実性が高まり、業務が複雑化するなかで、一人のリーダーに組織のパフォーマンスを委ねる構図は、もはや持続可能ではない。
現場を見れば、成果は一人の指揮ではなく、複数のメンバー(フォロワー)たちの働きかけが重なり合う中で上がっている。本コラムでは、その当たり前であるが直視されてこなかった力学に目を向ける。リーダー中心の見方をいったん脇に置き、チームの成果を支えるもうひとつの主役、フォロワーの存在から捉え直していく。
チームの成果を上げるのは、いったい誰なのだろうか。多くの人は、まずそのチームのリーダーを思い浮かべるだろう。会社に良い経営者が、組織に良い上司が、チームに優れたリーダーがいれば、成果は伸びる。そうした発想は、今でも人材マネジメントの中心にある。実際、企業の育成も期待も、かなりの部分がリーダーのパフォーマンス向上に集まり、「次世代リーダーの育成」は世界中の組織が頭を悩ませるテーマだ。
学術界も例外ではない。リーダーシップを語る理論や実証研究は星の数ほどある。組織を語るにあたって多くの議論は、マネジメント行動の重要さ、リーダーの重要さを強調し続けてきた。「Google Scholar」で論文検索をすれば、「リーダーシップ/リーダー行動/上司行動」は、17,600件もヒットするが、「フォロワーシップ/フォロワー行動/部下行動」で検索しても2,150 件と圧倒的に差がある※1。
※1
既存の主要なフォロワーシップ研究には、例えば以下のような研究がある。またリーダーシップ研究もまた、フォロワーの行動がリーダーシップと表裏一体であることを示唆してきた歴史がある。
Kelley, R.E.(1992)The power of followership: How to create leaders people want to follow, and followers who lead themselves. New York: Currency Doubleday.
小野善生(2013)フォロワーシップ論の展開 関西大学商学論集 58, 1, 73-91.小野善生(2012)暗黙のリーダーシップ理論がフォロワーのリーダーシップ認知に及ぼす影響 関西大学商学論集 57, 1, 1-19.
西之坊穂・古田克利(2013)日本版フォロワーシップの構成要素の探索的研究と個人特性間の差の検討経営教育研究, 16, 2, 65-75.
松山一紀 (2016)「フォロワーシップ行動の3次元モデル」『商経学叢』63(2), 37-64.
浜田陽子・庄司正実(2016) 外食チェーン店長のフォロワーシップ認知尺度の作成. 産業・組織心理学研究, 30.1: 13-27. など
しかし、その「リーダーこそが組織を良くする」という信念の足元は今、大きく揺らいでいる。それは、上司、管理職、リーダーが行う組織マネジメントの難易度が、かつてないほど高まっているからである。
例えば、「量」の面だ。人手不足が長らく叫ばれているものの、働く人の数は近年まで増え続けており、2022年には578万人増加した。その一方で、一般的に課長層以上である管理的職業従事者の数は同じ時期で92万人も減少している。この国は、「人手不足」であるよりもむしろ「リーダー不足」なのだ。
パーソル総合研究所の調査でよりミクロな数字を見ても、この8年間で役職者1人当たりの部下人数、いわゆるスパン・オブ・コントロールは増加の一途を辿っている。
そこに、「質」の面での限界が迫る。職場リーダーである管理職の負荷は、成果主義、人手不足、ダイバーシティ推進、働き方改革、ハラスメント対応など、複数のトレンドが重なって増大してきた。部下の数が増えただけでなく、シニア、女性、非正規雇用、副業者など、多様な部下をマネジメントする必要がでてきた。
つまり、今の日本は、「上司の行動が重要ではなくなった」のではなく、「上司の行動が重要だと言い続けること」の限界に近づきつつあるということだ。
筆者は、このように管理職に負荷が高まる中でも経営の期待が管理職に依存してしまっている構造を、著作『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)などで総合的に論じ、多くの企業に課題提起してきた。
管理職だけでは職場は変えられないとしたら、次に目を向けるべきは「部下」、ここでいう「フォロワー」である。ここでのフォロワーとは、職場において部下の立場で働くメンバー層、具体的には係長未満の一般層を指す。
プレイングマネジャーが増えた今、「個人予算を持つ管理職」も当たり前になってしまっているが、本来的には組織の主な成果を創出するのはメンバー層である。当然、フォロワーがどのように職場に関与するかによって、組織のパフォーマンスは大きく左右される。
それにもかかわらず、リーダーシップに比べて、フォロワー側の行動である「フォロワーシップ」は十分に言語化も探求もされてこなかった。学術的研究も、日本のビジネスパーソンを対象にした実証研究は数えるほどしかない。フォロワーシップ行動のカテゴリも粗く、組織成果や人材マネジメントとのひもづきもほとんど分かっていない。
つまり、実務家も研究者も、上司・リーダーに何が求められるかは熱心に論じてきたが、部下側のフォロワーにどんな行動が求められるかは、意外なほど曖昧なまま放置されているのである。
そこでパーソル総合研究所では、このフォロワーシップの在り方を具体的かつ網羅的に把握するために、一般的なビジネスパーソンに向けた大規模な定量調査「フォロワーシップに関する定量調査」を行った。
その結果から、示唆されることを見ていこう。
まず確認できるのは、フォロワーシップ行動の多様性である。部下が職場で行うフォロワーシップ行動には当然積極的なものと消極的なものの両方が存在し、部下側の行動は一様ではない。
もちろん、消極的なフォロワーシップ行動もある。作図は省略するが、例えば、「できるだけ労力をかけずに仕事を終わらせたい」「判断が難しい場面では、最終的な責任は上層部にあると考える」「指摘しても変わらないなら、最初から言わないほうがよい」など、どちらかというとネガティブな態度の行動や意識というのも、多くの部下にあてはまる。
こうしたフォロワーシップ行動の特徴で部下層を分類すると、大きく5つのタイプに分かれることが分類された。「自己成長タイプ」、「職人タイプ」「気づかいタイプ」「まとめ役タイプ」、「批判者タイプ」である。
概要は図表4・5を見ていただきたいが、このような分類的な分析で分かることは、いわば「万能型」の部下のタイプは抽出されなかったことである。どのタイプにも、「得意」な行動と「苦手」な行動の両面が見られたのだ。
多くの経営者やリーダーは、暗黙のうちに「理想の部下」を欲しがるものだ。主体性もあるが職場での協調性もあり、必要なときには必要なことを指摘してくれる。そうした部下像が「リーダーの右腕」として求められがちだ。
例えば、いまだによく引用されるロバート・ケリー(Robert E. Kelley)の古典的フォロワーシップ・モデルも、「高い思考力 × 積極的な組織関与」を行う「模範的フォロワー」を想定している代表例だ※2。
※2
Robert E. Kelley,1992, The Power of Followership, Doubleday Business.
そうした人物像はたしかに魅力的だが、現実の職場はそうではない。実務を先回りして回す人、場を整える人、あえて本音を言う人など、それぞれが違う形でチームを支えている。重要なのは、なかなかいない「理想の右腕」を探すことではなく、部下それぞれの異なる強みをどう伸ばし、どういった組み合わせとしてチームを眺めるかである。
では、組織にとって本当に有効なフォロワーシップ行動とは、何だろうか。「積極的」「主体的」くらいの大雑把なくくりでは、実務的な意味は見いだせない。より具体的なレベルで知る必要がある。
今回の分析からは、部下層の無数の行動の中から、組織パフォーマンスへとプラスの影響を持つ5つの行動が抽出された。それが以下の、〈場づくり〉〈踏み出し〉〈本音発言〉〈寄り添い〉〈学び共有〉の5つのフォロワーシップ行動である。それぞれ簡単に見ていきたい。
〈場づくり〉とは、チームを円滑に回す土台を整える行動である。周囲が仕事をしやすいよう配慮し、建設的に議論し、雰囲気を整える。場づくりは、組織のコミュニケーションの潤滑油となるような行動である。
〈踏み出し〉とは、自分の役割に閉じこもらず、必要なら一歩前に出る行動である。職務外でも必要があれば動くことで、職場は滑らかに回るだろう。
〈本音発言〉とは、必要な違和感や矛盾を建設的に言葉にする行動である。空気を読んで黙るのではなく、言うべきことを率直に伝える。組織の思考停止を防ぐうえで欠かせない行動である。
〈寄り添い〉とは、同僚の感情を支える行動である。落ち込んでいる人に声をかける、感謝や労いを伝える、悩みに耳を傾ける。こうした働きかけは、職場を安心して力を出せる場にする。
〈学び共有〉とは、出来事を個人の経験で終わらせず、チームの知恵に変える行動である。うまくいった理由や失敗の背景を言葉にし、皆で共有することで、経験は集合知になる。
これらの行動の英語の頭文字をとって「フォロワーシップのFIVESモデル」と筆者は呼んでいる。強い組織とは、目立つ個人が引っ張る組織というより、こうした地味だが確かにチームのためになるような行動が循環している組織だといえる。
さらに、この分析のポイントは、「職場の上司から見た重要な行動」と「組織にとっての重要行動」を分けて分析している点である。つまり、「上司から見たフォロワーの姿」と「組織に役立つフォロワーシップ行動」は異なるものとして分析した。
そうすると、図表7にあるように、「踏み出し」「場づくり」行動は、上司からも見えやすく、組織にも好影響を与えていることが分かる。その逆に、「学び共有」と「本音発言」については、「組織には好影響だが、現場の上司は軽視しがち」だということが分かる。先ほどの5つのフォロワーシップ行動のうち、これらは上司からは相対的に見落とされやすいということだ。言いにくいことを言ってくれる本音発言は上司の意に沿わないこともあるだろうし、経験や学びをシェアしてくれる部下は見えにくいのかもしれない。
その延長線上に、さらに見逃せないポイントが、先ほどの5つのフォロワータイプと「人事評価」とのズレである。組織パフォーマンスが高いタイプと人事評価が高いタイプは必ずしも一致しない。
具体的には、「職人タイプ」「気づかいタイプ」「まとめ役タイプ」タイプは組織パフォーマンスが高い一方で、人事評価が低めであり、「自己成長タイプ」「批判者タイプ」タイプは、フォロワーシップ行動は消極的だが、人事評価が高い傾向がみられたのだ。
これは実務においてかなり重い示唆である。企業が評価しているのは、見えやすい成果や成長意欲の強さかもしれないが、実際に職場を支えているのは、必ずしもそうした部下ではなく、コミュニケーションの潤滑油やまとめ役を買って出てくれる部下である。
人は誰しも自分の職場の全体像を見通せているわけではない。いつの間にか「自分の目につきやすい」メンバーを重宝し、その他のメンバーの役割を軽視している可能性がある。
つまり、「リーダーシップ幻想」の裏には、このような「フォロワーシップ幻想」もまた貼りついているということだ。フォロワーシップ行動を客観的に論じることの実践的意義は、ここにある。
こうしたフォロワーシップ行動をいかにして醸成していくか。その具体策は別所に譲るが、その出発点として、職場でチームを本当に動かしている行動を可視化し、それを正しく理解し評価するための視点を持ちたい。そうした透徹したメタ視点でチームを見るとき、人はようやく「リーダーシップ」への幻想から解かれるのかもしれない。
管理職・リーダーに組織成果を依存することは、多くの企業で限界に近づきつつある。つまりそれは、「良い上司をどう増やすか」だけに教育コストをかけても、その効果が薄くなってくるということである。部下が、どのような行動で職場を支えているのかを見つめ、行動期待や育成を施し、フォロワーシップ行動を引き出す施策のほうが、投資対効果も期待できる。
今回見えたようなフォロワーシップ行動は、ただの「脇役論」ではない。「上司」に偏ってしまった組織を動かす主語を、徐々に現場全体へと広げるための視点である。次回は、そのフォロワーシップを、どうすれば職場の中で育てられるのかを考えたい。
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