調査・研究コラム

公務員の副業はこの先広がるのか

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執筆者

  研究員

研究員

中俣 良太

公務員の副業はこの先広がるのか

働き方改革の追い風を受け、民間企業においては副業が当たり前の選択肢として定着しつつある。キャリア自律やリスキリング、あるいはウェルビーイングといった文脈で、組織の外に新たな活躍の場を求める動きは活発化している。しかし、公務員の世界に目を転じれば、その時計の針は長らく止まったままであった。「全体の奉仕者」としての職務専念義務、信用失墜行為の禁止、守秘義務――。これら「奉仕者」としての高い倫理規定が、副業という選択肢の前に厚い壁として立ちはだかってきたからだ。

だが、その潮目が変わる大きな転換点が訪れた。2025年6月、総務省から各自治体に向けて発出された技術的助言(通知)である。ここでは、従来不明確であった副業許可基準の公表が求められるとともに、「地域貢献活動」に関する副業・兼業は積極的に許可すべきという、国としての明確な指針が示された。これは実質的な「公務員副業の解禁」に向けた一歩といえるだろう。

本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した「第四回 副業の意識・実態に関する定量調査」の追加分析データを基に、公務員副業の現在地と、人事担当者が直視すべき組織への示唆を紐解いていきたい。

本コラムにおける「公務員」とは、地方・国家公務員のみならず、農協や漁協などの団体職員を含む広義の定義としている。

許可の壁と厳格な運用実態

まず、公務員の副業実施状況についてデータで確認しておこう。2025年8月時点における公務員の副業実施率は4.8%であった。民間企業の正社員における実施率が9.2%であることを踏まえると、およそ半分の水準にとどまっている。総務省の通知から間もないタイミングであることを考慮すれば、現時点では低い数字にとどまるのは当然の結果ともいえる。

図表1:公務員の副業実施率

図表1:公務員の副業実施率

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

問題はその背景にある阻害要因だ。副業を行わない理由として「会社(組織)で副業が禁止されているから」と回答した公務員は48.9%に達し、正社員(27.4%)を大きく引き離し突出して高い(図表2)。

図表2:副業意向者が副業できない理由(※正社員との比較)

図表2:副業意向者が副業できない理由(※正社員との比較)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

そして、運用の厳しさである。条件付きで副業を容認している組織であっても、そのルールは民間企業以上に厳格だ。図表3を見ると、活動量、業務内容、活動日、時間帯など、あらゆる項目において公務員のほうが制限を感じている割合が高い。

つまり、単に「副業解禁」の号令をかけるだけでは、現場の重い扉は開かないという可能性だ。実態に即して、厳格すぎる運用ルールや煩雑な手続きをセットで見直さなければ、実質的な効果は期待しにくいだろう。

図表3:副業を行う際の制限・ルール(※正社員との比較)

図表3:副業を行う際の制限・ルール(※正社員との比較)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

公務員の副業は「公益性」が強い

では、こうした厳しい制約を越えて実際に副業を行っている公務員は、一体どのような活動をしているのか。ここに公務員ならではの興味深い特徴がある。民間企業の正社員であれば、副業先の6割以上が「民間企業」であるが、公務員の場合、民間企業との取引は2割台にとどまる。代わって多いのが、「公的機関・非営利団体(自治体、NPOなど)」だ。その割合は半数程度であり、正社員とは対照的な結果となっている(図表4)。

図表4:副業の取引先(※正社員との比較)

図表4:副業の取引先(※正社員との比較)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

副業動機についても見てみよう。正社員と比較した際、公務員では「本業の専門性を社外で試したい・深めたい」(正社員の1.65倍)、「社会課題の解決や地域貢献など、社会的意義を実感したい」(同1.58倍)といった、貢献や成長への意欲が上位にきている(図表5)。

この結果は何を意味するか。それは、公務員の副業が単なる「金銭的な収入補填」ではなく、本業で培った公共マインドを組織外で発揮する「越境学習」や「地域貢献」の場として機能しているという可能性だ。現行ルール下において、彼らは自身のスキルを地域社会のために還元しようとしているのではないか。

図表5:公務員が副業を行っている理由

図表5:公務員が副業を行っている理由

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

また、ウェルビーイングの観点でも示唆的なデータがある。副業を行っている公務員の「はたらく幸せ実感(働くことを通じて幸せを感じている)」スコアは、行っていない公務員よりも高い(図表6)。もちろん、これは「副業をすれば幸せになれる」という単純な因果だけではないだろう。制約の中でも主体的に活動の場を見いだし、自律的にキャリアを切り拓こうとする「意欲の高い人材」が、副業というフィールドを選んでいると捉えることもできる。組織にとって重要な問いは、こうしたエネルギーあふれる人材を、組織内にどう生かすかにある。

図表6:公務員・正社員のはたらく幸せ実感(副業実施有無別)

図表6:公務員・正社員のはたらく幸せ実感(副業実施有無別)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

「人材流出」のトリガーと「隠れ副業」のリスク

今後、自治体が副業制度を考える上で、向き合うべきデータが2つあると筆者は考えている。これらは、組織の人事戦略における重大なリスク要因となり得るものだ。

1つ目は、若手・中堅層における「キャリア自律」への渇望と、組織の硬直性が生むギャップである。今回の調査では、副業を行っていない20代男性職員の33.0%、30代男性職員の32.1%が「副業を行いたい」と回答している(図表7)。これは、男性若手・中堅層の約3人に1人が、組織の外での経験や成長を潜在的に求めていることを意味する。

地域における労働力不足が深刻化する中、自身のキャリア形成に対して意欲的な人材ほど、旧態依然とした「禁止の壁」や「許可の壁」には敏感だ。組織がかたくなにその扉を閉ざし続ければ、それは優秀な人材が「ここでは成長できない」と組織を見限る離職のトリガーとなりかねない。副業解禁を単なる福利厚生などの一環として捉えるのではなく、「自律的な人材を惹きつけ、定着させるための生存戦略」として捉え直す必要があるのではないだろうか。

図表7:公務員(副業未実施層)の副業意向

図表7:公務員(副業未実施層)の副業意向

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

2つ目は、過度な規制が招く「ガバナンスの形骸化」である。本調査において、副業実施者の35.5%が職場に「報告していない」という実態が明らかになった(図表8)。スマートフォンひとつで誰もが手軽に収入を得られる現代において、実態に即さない厳格なルール・制約は、かえって職員の活動を水面下へと潜らせてしまう。組織が関知できない「ブラックボックス化した副業」を放置することは、極めて危険だ。長時間労働による健康被害のリスクや、予期せぬ利益相反のリスクを管理できないからである。

実態から乖離した「厳格な運用」に固執するよりも、適切なルールの下で活動を透明化し、健康管理やコンプライアンスをコントロールするマネジメントへ舵を切るほうが、組織として遥かに健全なガバナンスといえるのではないか。

図表8:副業実施の報告有無

図表8:副業実施の報告有無

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

まとめ:横並びの「管理」から、意志ある「活用」へ

本コラムでは、調査データを通じて公務員の副業の現在地を確認してきた。見えてきたのは、高いハードルの中でも、地域貢献や自己研鑽のために一歩を踏み出す職員の姿と、副業制度と実態の間に広がる乖離であった。

今まさに、多くの自治体が副業制度の見直しを迫られていることと思う。しかし、そこで最も避けるべきは、近隣自治体の動向を伺いながらの「横並びの基準作り」や「前例踏襲」による制度設計だ。「リスクをゼロにするために、何を禁止・制限するか」という減点方式の発想からは、組織を強くする変化は生まれない。

問われているのは、「自組織の職員に、外の世界でどのような経験をしてほしいのか」「地域社会とどのような関係を築いてほしいのか」という、組織としての意志ではないだろうか。単に他の自治体の事例をコピーするのではなく、それぞれの地域の実情に即した環境整備が求められている。前例踏襲の「管理」から脱却し、職員の自律的な挑戦を応援する「活用」のフェーズへと舵を切る。その決断こそが今後、公務員の副業につながり、結果として組織の活力を高め、ひいては公務の質の向上へとつながっていくはずだ。

執筆者紹介

  研究員 中俣 良太

研究員

中俣 良太 Ryota Nakamata

首都大学東京大学院 観光科学域 博士前期課程 修了。
大手市場調査会社にて、金融業界の調査・分析業務に従事した後、2022年8月より現職。人と組織に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。現在の主な調査・研究領域は、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

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