調査・研究コラム

人生100年時代、シニア社員(60代社員)の副業をどう位置付けるか

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執筆者

  研究員

研究員

中俣 良太

人生100年時代、シニア社員(60代社員)の副業をどう位置付けるか

労働力不足が慢性化する日本社会において、シニア人材の活用は待ったなしの課題だ。多くの企業が定年延長や継続雇用制度の整備を進めているが、労働市場全体を俯瞰すると、組織の内側だけでなく、外側へ向かう潮流が見え始めている。

パーソル総合研究所が実施した「第四回 副業の意識・実態に関する定量調査」を追加分析したところ、年代別の副業実施率が特徴的な「V字カーブ」を描くことが確認された(図表1)。一般的に、副業実施率は年齢とともに低下する傾向にある。実際、50代後半では5.6%まで落ち込み、底を打つ。ところが、定年退職というキャリアの節目を迎える60代前半で6.3%、60代後半には7.6%へと、再び上昇基調に転じているのだ。

彼らは何のために、どのような副業をしているのか。本コラムでは、パーソル総合研究所の調査データを用い、シニア(60代)の副業の実態について読み解いていく。

図表1:有業者の副業実施率(年代別)

図表1:有業者の副業実施率(年代別)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

「短時間・高単価」というシニア副業の実態

シニアの副業というと、警備や清掃、軽作業といった「労働集約型」の業務をイメージされる読者も多いのではないだろうか。しかし、データが示す副業の実態は、そうしたステレオタイプとは大きく異なる。

調査結果によれば、60代副業実施者の平均時給は4,606円であった(図表2)。これは、働き盛りである30代・40代の平均値を1,000円近く上回り、全年代で最も高い水準である。

図表2:副業の平均時給(年代別)

図表2:副業の平均時給(年代別)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

さらに注目すべきは、その働き方の「良質性」だ。月間の副業活動時間は20.2時間と比較的短い稼働であり、副業によって過重労働を感じている割合はわずか9.5%に過ぎない(図表3)。つまり、体力を切り売りして長時間働くのではなく、短時間で効率的に高い付加価値を生み出す働き方が実現されているのである。

図表3:本業の残業時間、副業の活動時間・過重労働の実態

図表3:本業の残業時間、副業の活動時間・過重労働の実態

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

職種の内訳を詳しく見ると、「教員・講師・インストラクター」(12.4%)や「専門職」の割合が比較的高い(図表4)。自身の長年のキャリアで培った知識やスキルを活かし、スポット的なアドバイザーや技術指導役として価値を提供する。いわば「知識集約型」の副業が確立されていることが推察される。

図表4:副業の仕事内容(年代別)

図表4:副業の仕事内容(年代別)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

また、こうした専門性の発揮は本人のウェルビーイングにも直結しているようだ。副業を行う60代の「はたらく幸せ実感(働くことを通じて幸せを感じている)」は3.64ptと、全属性の中で最も高いスコアを示している(図表5)。社会との接点を持ち、感謝されながら働くことは、定年後のアイデンティティ維持においても重要な役割を果たしていることが示唆される。

図表5:はたらく幸せ実感(副業実施有無×年代別)

図表5:はたらく幸せ実感(副業実施有無×年代別)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

人脈依存による副業機会の偏り

しかし、ここでのデータの読み解きには慎重さが求められる。「シニアが副業すれば誰でも高時給で幸せに働ける」と楽観するのは早計だ。こうした高生産的な働き方を享受できているのは、現状ではごく一部の層に限られている可能性が高いからだ。

データからは、シニアの副業における参入経路の偏りが見て取れる。60代が副業を始めたきっかけを見ると、「友人・知人・取引先からの紹介」が約4割を占めており、他年代と比較して突出して高い(図表6)。Webサービスなどの公募よりも、個人的なネットワーク(縁故)経由での副業が主流となっているのが現状だ。これは裏を返せば、社外に個人的なつながりを持たない「会社人間」として生きてきた層などにとっては、参入障壁が高いことを意味するのではないか。

図表6:60代が副業を始めたきっかけ

図表6:60代が副業を始めたきっかけ

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

このような歪みは、意識と実態のギャップとしても数値に表れている。副業意向を持つ60代後半の4人に1人(25.5%)が、「自分のスキルに合う求人がなく、応募を控えている」と回答しているのだ(図表7)。

たとえ、社内で部長や専門職として活躍した人材であっても、その能力が「社外でも通じるポータブルスキル」として翻訳・可視化されていなければ、市場では評価されない。豊富な知見を持ちながら、それを生かすルートを持たずに労働市場で退蔵されていく「埋蔵人材」の存在は、労働力不足にあえぐ日本社会にとって大きな機会損失といえるのではないだろうか。

図表7:60代の副業意向者が副業できない理由

図表7:60代の副業意向者が副業できない理由

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

「出口戦略」としての副業支援

こうした現状に対し、企業はどのように向き合うべきだろうか。「定年後のことまで会社は面倒を見切れない」と切り捨てるのは簡単だ。実際、本調査において60代社員の副業に対し、「特に働きかけはない」とする割合は76.9%に達しており、個人の自助努力に委ねられているのが実態だ(図表8)。

図表8:副業に対する本業先企業からの働きかけ(サポート)

図表8:副業に対する本業先企業からの働きかけ(サポート)

出所:パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」を基に筆者作成

しかし、60代のシニア社員が社外に活躍の場を見つけられないことは、巡り巡って企業自身のリスクになるかもしれない。社外に選択肢を持たない人材は、必然的に再雇用制度のみに依存することになり、モチベーションや生産性が低いまま社内に滞留する「ぶら下がり化」を招きかねない。それは結果として、ポスト不足や組織の新陳代謝の停滞を引き起こす。

企業に求められるのは、定年直前になってからの慌ただしい支援ではなく、早期からの「キャリア自律」の促進である。現役時代から副業や越境的な活動を推奨し、自身のスキルが社外でどう評価されるのかを肌感覚として理解させる。そうしてポータブルスキルへの転換を促すことが重要だ。副業を単なる収入手段としてではなく、円滑なセカンドキャリアに向けた助走期間として位置づける。そうした戦略的な視点が必要ではないだろうか。

まとめ

本コラムでは、最新の調査データをもとに、シニア(60代)の副業の実態を確認してきた。そこで見えてきたのは、高いポテンシャルを秘めながらも、副業の機会が不均等になっている現状だ。

個人的な人脈に依存した現状のままでは、多くの貴重な知見が活かされないまま埋もれてしまう。求められるのは、個人のネットワークに頼らずとも、スキルベースで仕事に出会える透明な仕組みづくりだ。

そして企業にとっても、60代のシニア社員の社外活躍を支援することは、単なる福利厚生や温情的な措置ではない。結果として社内の健全な新陳代謝を促し、組織の活力を維持するための生存戦略である。自社のシニア社員が定年後も社会で活躍している状態を作ることは、中長期的に見れば企業のブランド価値を高め、現役世代のエンゲージメント向上にも寄与するのではないだろうか。

執筆者紹介

  研究員 中俣 良太

研究員

中俣 良太 Ryota Nakamata

首都大学東京大学院 観光科学域 博士前期課程 修了。
大手市場調査会社にて、金融業界の調査・分析業務に従事した後、2022年8月より現職。人と組織に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。現在の主な調査・研究領域は、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

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