調査・研究コラム

医療従事者のウェルビーイングから見直す職場マネジメント

公開日:

執筆者

  上席主任研究員

上席主任研究員

井上 亮太郎

医療従事者のウェルビーイングから見直す職場マネジメント

コロナ禍を経て、今後、地域に根差す中小病院の倒産(廃業)が増加するとの推計もあり、良質な医療提供体制をいかに維持するかが社会課題となっている。医療機関が直面する構造的な問題は根深いが、医療の現場は、今、この瞬間も患者やその家族らと向き合い、ひたむきに医療サービスを提供し続ける多くのプロフェッショナルによって支えられている。本コラムでは、医療の現場で働く看護師をはじめとしたプロフェッショナル(いわゆるコメディカル職)に着目する。

パーソル総合研究所が実施した「医療従事者の職業生活に関する定量調査」の結果を紹介しつつ、医療系専門職のウェルビーイング(より良くある状態)と職業本来の魅力を高めるために組織として考えるべき課題を考察し、実務上の介入観点を示したい。

医療従事者とはどのような人なのか?

現在、日本の医療・介護の現場で働く人は922万人(2024年・労働力調査)で、就業者全体の約13.6%を占める。また、厚生労働省の資料や職種別統計では、看護師の有効求人倍率が2.41倍(令和6年度)※1、理学療法士(PT)は4.53倍(令和6年度)※2と高水準が続いており、全職種平均(1.26倍)の2倍を超えている。これらのデータは、生産年齢人口の減少に伴い、拡大する医療従事者需要への供給が追い付いていない事を示している。不規則な勤務体系や夜勤、責任の重さなどから割に合わないと忌避される傾向があることも否めない。また、医師と同様に都市部や負担の少ない職場への偏在も指摘されている。

※1

厚生労働省.「職業情報提供サイト(job tag)」.https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/156, (参照 2025-10-30)

※2

厚生労働省.「職業情報提供サイト(job tag)」.https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/167, (参照 2025-10-30)

厚生労働省(2025).「一般職業紹介状況(令和7年3月分及び令和6年度分)について」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57261.html, (参照 2025-10-30)

一口に「医療従事者」といっても関連する専門職種※3は多岐にわたる。本コラムでは、特に労働力不足が指摘されている職種に焦点を当て、以下の4群に分けて分析を行った。①看護師系職群(1,119名:看護師、准看護師など)、②リハビリテーション職群(833名:理学療法士、作業療法士など)、③その他医療職群(1,048名:診療放射線技師、薬剤師、臨床検査技師他)、④医療事務職群(500名)。

※3

医師については、地域や診療科の偏在が指摘されているものの、厚生労働省の医師需給推計では将来的に均衡あるいは供給過剰に転じる見込みが示されているため本調査では対象外とした。

医療従事者の私生活と職業生活のウェルビーイング

まず、医療従事者の生活全般に対する評価を確認した。医療従事者は、幸せな生活を送っている人が多いのかという視点である。

本調査では、直近1カ月ほどを振り返って現在の状態を「0:最も悪い」から「10:最も良い」までの11段階で回答を求めた。この質問形式はキャントリルラダー設問と呼ばれ、直感的に回答できるため、主観的な人生満足度などを測る方法として国際調査でも多用されている。

その結果、医療従事者のスコアは職群を問わず6.5ptほどであり、国際的な調査で示されている平均的な日本国民のスコア(6.15pt*)よりやや良好な傾向であった。また、5年後の未来展望も同様に回答を求めたところ、総じて現在の状態よりも5年後を高く評価していた。生活全般については、明日は今日よりもよくなるとポジティブに捉えている方が多い傾向が見られた(図表1)。

図表1:職種別|人生満足度(現在、5年後予測の平均値/pt)

図表1:職種別|人生満足度(現在、5年後予測の平均値/pt)

*参照値:World Happiness Report 2025, Japan 3-year average
出所:パーソル総合研究所(2025)「医療従事者の職業生活に関する定量調査」

では、職業生活に目を向けるとどうか。はたらく事を通じてどれほど幸福感や不幸感を感じているかをそれぞれ3項目(総合評価・頻度・比較)から成る「はたらく幸せ/不幸せ実感尺度」※4を用いて確認した。結果は、「リハビリテーション職群」の「はたらく幸せ実感」は就業者全体平均(4.03pt)と同等であったが、「看護職群」や「その他の医療職群」、「医療事務職群」は平均を下回った。また、「はたらく不幸せ実感」は、総じて就業者全体平均(3.34pt)を上回っていた(図表2)。医療従事者は総じて人生全般の生活満足度は国内平均を上回るものの、職業生活に焦点を絞るとウェルビーイング(より良くある状態)とはいえない実態がうかがえる。

※4

「私は、はたらくことを通じて、幸せを感じている」(総合評価)の他、頻度、周囲との比較で構成された主観尺度。「1.全くそう思わない~7.とてもそう思う」の7件法で評価(参照:パーソル総合研究所 「はたらく人のウェルビーイング実態調査 2025」 https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/worker-well-being.pdf

なお、本コラムで扱う「はたらく幸せ/不幸せ実感」とは、仕事への活力・熱意・没頭(ワーク・エンゲイジメント)の土台であり、一般に高ワーク・エンゲイジメントは、労働意欲の高さや離職意向の低さ・定着の高さと結びつく。ゆえに、医療現場の労働力不足を克服するには、はたらく幸せを高め(はたらく不幸せ実感を低減し)・維持する職場設計が不可欠である。

図表2:職種別|はたらく幸せ実感・不幸せ実感(平均値/pt)

図表2:職種別|はたらく幸せ実感・不幸せ実感(平均値/pt)

出所:パーソル総合研究所(2025)「医療従事者の職業生活に関する定量調査」

医療従事者の職業への誇り(professional pride)

医療現場の労働力不足を克服するには、意欲ある人材の採用と定着が求められる。そこで、医療従事者が日々どのような心持ちで職務を遂行しているかを把握するため、職業への誇り(professional pride)の程度を聞いた。

その結果、医療従事者は総じて職業への高い誇りを持っており、とりわけ「看護師群」で高い傾向が確認された。他方で、「看護師群」の約半数(45.8%)は、メディアなどで扱われる職業へのイメージが悪すぎるとも感じていた(図表3)。

図表3:医療従事者の「職業への誇り」と「推奨意向」

図表3:医療従事者の「職業への誇り」と「推奨意向」

出所:パーソル総合研究所(2025)「医療従事者の職業生活に関する定量調査」

高い誇りと外部からのイメージギャップは、過酷な勤務実態など医療現場のネガティブな報道が強調されるあまり、仕事を通じた喜びややりがいといった現場の声が十分に伝わっていない事への不満を示唆すると考えられる。医療従事者の職業生活の実態を偏りなく可視化し、仕事のやりがいなどの魅力についても積極的に発信していくことが求められる。

医療従事者のはたらく実態

次に、医療従事者の勤務時の心理状態を把握するため、ワーク・エンゲイジメント(仕事への活力・熱意・没頭の程度)の度合いとストレスを感じている程度を評価してもらい、それぞれのスコアの組み合わせ(高低)から4つのタイプに類型化して分析を行った(図表4)。

図表4:医療従事者の4類型

図表4:医療従事者の4類型

出所:パーソル総合研究所(2025)「医療従事者の職業生活に関する定量調査」

その結果、心理的ストレスは低いが仕事に対する活力や熱意が低い「不活性型」の割合が最も多く、全体の40%ほどを占めていた。また、高ストレス・低ワーク・エンゲイジメントという離職や不調リスクの大きい「バーンアウト型」が20%を超えていた。組織や患者らにとっても理想的と考えられる、低ストレス・高ワーク・エンゲイジメントな就業状態である「ワーク・エンゲイジメント型」は、職群により差があるものの20%~30%ほどであった(図表5)。

図表5:職種別|医療従事者タイプの実態

図表5:職種別|医療従事者タイプの実態

出所:パーソル総合研究所(2025)「医療従事者の職業生活に関する定量調査」

この結果で注視したいのは「不活性型」で、医療従事者の5人のうち2人が当てはまる割合は際立って見える※5。「不活性型」の属性的な特徴を分析したところ、総じて30代以上の一般・スタッフ層で多く、勤務先では病院勤務群で多い傾向が見られた。

※5

「比較参考データ:パーソル総合研究所が学校教員を対象に実施した同様の調査(2024年)では、小・中学校教諭の「不活性型」割合は26%。(「教員の職業生活に関する定量調査」https://rc.persol-group.co.jp/assets/individual/thinktank/assets/teacher-well-being.pdf

「不活性型」の職員は、現在の職業を志した(最も強い)理由を聞いた設問では、「雇用が安定している」と回答する割合が20.5%と、ワーク・エンゲイジメントが高い2タイプ(「ワーク・エンゲイジメント型」13.6%、「ワーカホリック型」14.0%)と比較するとやや安定志向の割合が高いといった特徴も見られた。だからといって、単に「過度なストレスを回避し、熱心に働く意欲が乏しい職員」と決めつけるのは拙速だ。これまで責任の重圧や感情の摩耗、不規則で過重な勤務、評価への不満などといったさまざまな経験から、一定程度の割り切りを覚えざるを得ない、仕事に対する適応方略の結果という見方もできそうだ。

この結果を解釈するには、今後の実証的な調査とより深い分析が求められるが、いずれにせよ「不活性型」や「バーンアウト型」、「ワーカホリック型」の状態が常態化すれば、医療サービスの質の低下のみならず、離職や心身の不調に至るリスクも高まるため看過できない。

医療従事者のウェルビーイングを高めるポイント

では、総じて職業への誇りが高い医療従事者が、職業生活のウェルビーイング(より良くある状態)を向上させるにはどのような点に注目するといいか。個人が置かれる状況や価値観は異なるが、調査結果が示唆する観点を示したい。

先述のように、主観的な職業生活のウェルビーイングは「はたらく幸せ実感」と「はたらく不幸せ実感」の尺度を用いて計測できる。そして、それぞれの要因は7つの因子で説明することができる。すなわち、「はたらく幸せ実感」に影響する因子を高める観点と「はたらく不幸せ実感」に影響する因子を低減する観点の2つの側面から職場のマネジメントを見直すことが有効となる(図表6)。

図表6:はたらく幸せ因子・不幸せ因子

図表6:はたらく幸せ因子・不幸せ因子

出所:パーソル総合研究所・慶應義塾大学前野隆司研究室(2020)「はたらく人の幸福学プロジェクト」

まず、「はたらく幸せ実感」に対して、医療従事者に共通して関係が強い因子は以下の4つであった。

【はたらく幸せ実感に影響する因子】

  1. 自己成長因子:新たな学びや能力向上に取り組む(職務外の趣味的領域も含む)
  2. 他者貢献因子:自身が周りから関心を持たれ、評価されていることを実感する
  3. 役割認識因子:仕事に意義を見出し、自分なりの役割を能動的に果たす
  4. リフレッシュ因子:私生活をないがしろにせず、時に仕事と適切な距離を置き英気を養う

過重労働やストレスによって心身が疲弊している場合、4.リフレッシュ因子に着目する人が多くなるが、その一点だけを過度に焦点化しないように余裕をつくること(組織的に体制を整えること)が重要だ。

次に、「はたらく不幸せ実感」に対しては、以下の3つの因子に着目したい。

【はたらく不幸せ実感に影響する因子】

  1. 評価不満因子:日々の貢献や努力について適切な評価と処遇がなされ、報われなさを解消する(金銭的報酬に限らない)
  2. オーバーワーク因子:私的な時間を断念することなく、過度なストレス状態が常態化することを回避する
  3. 不快空間因子:見た目や匂いなど、物理的な労働・衛生環境を整える(職場に自分なりの嗜好で手を加える)

図表7:はたらく幸せ・不幸せ実感と、はたらく幸せ・不幸せ因子との関係

図表7:はたらく幸せ・不幸せ実感と、はたらく幸せ・不幸せ因子との関係

出所:パーソル総合研究所(2025)「医療従事者の職業生活に関する定量調査」

医療従事者の職業生活のウェルビーイングを高めるには、各因子を向上(既に十分なら維持)させる仕組みを職務設計や勤務体制に反映することが有効である。その際、取り組みの主目的が因子の直接向上でなくても構わない。

例えば、来院者の待ち時間を短縮する施策を検討するなら、同時に職員のオーバーワーク低減の観点を意図的に織り込み、アイデアを練る。業務の引き継ぎを見直す場面では、「前任者の貢献と感謝を、次の担当者へ引き継ぐ際に明記する」といった運用を定め、他者貢献(誰かが見てくれている感)の向上につなげる。

こうした工夫を職場の実情に合わせて設計し、定期的な職場アンケート(ウェルビーイング・サーベイ)で7因子尺度を用いて定量的に検証することで、より良い施策へと継続的に見直していくことが肝要だ。

まとめ

  1. 医療従事者は、高いプロフェッショナル・プライドを抱きながらも、現場では仕事へのやりがいも、ストレスもあまり感じていない「不活性型」や、仕事にやりがいを感じておらず、ストレスを強く感じている「バーンアウト型」の割合が相対的に多い。
  2. 医療従事者の職業生活のウェルビーイング向上には、①「はたらく幸せの因子」の「自己成長(新たな学びや能力向上に取り組む)」「他者貢献(自身が周りから関心を持たれ、評価されていることを実感する)」「役割認識(仕事に意義を見出し、自分なりの役割を能動的に果たす)」「リフレッシュ(私生活をないがしろにせず、時に仕事と適切な距離を置き英気を養う)」を高め、②「はたらく不幸せの因子」の「評価不満(日々の貢献や努力について適切な評価と処遇がなされ、報われなさを解消する))「オーバーワーク(私的な時間を断念することなく、過度なストレス状態が常態化することを回避する)「不快空間(見た目や匂いなど、物理的な労働・衛生環境を整える)」を組織的に低減する視点が有効。

医療従事者の職場マネジメントを見直しする際は、まずは「不活性型」「バーンアウト型」「ワーカホリック型」の早期検知(簡易サーベイ+面談)と業務量・責任の偏在是正を起点としたい。その上で、学習の場づくりや他者貢献を実感できる運用を職場に実装し、医療サービスの質の向上と離職・不調の抑止の両立を図ることが求められる。

職場マネジメントの見直しに際するより具体的な観点については、コラム「医療現場のモチベーションとリテンションのための処方箋」の中で、本調査のデータと共に掘り下げていく。

執筆者紹介

  上席主任研究員 井上 亮太郎

上席主任研究員

井上 亮太郎 Ryotaro Inoue

大手総合建材メーカーにて営業、マーケティング、PMI(組織融合)を経験。その後、学校法人産業能率大学に移り組織・人材開発のコンサルティング事業に従事した後、2019年より現職。
人や組織、社会が直面する複雑な諸問題をシステマティック&システミックに捉え、創造的に解決するための調査・研究を行っている。

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