20代の若者は働くことをどう捉えているのか?仕事選び・転職・感情の観点から探る

公開日 2023/08/09

執筆者:シンクタンク本部 研究員 児島 功和

定点調査コラムイメージ画像

労働市場では人手不足が続いている。パーソル総合研究所・中央大学による「労働市場の未来推計 2030」でも2030年には644万人の人手不足に陥るとの結果が出ていた。「人手不足に対する企業の動向調査」[注1]によると2023年1月時点で人手不足を感じている企業の割合は、正社員でおよそ5割、非正社員でも3割に達している。新卒一括採用が続く中、若者を安定的に採用し、早期離職を防ぎ、いかに育成するかは、企業の持続的成長にとって外せない課題となっている[注2]

パーソル総合研究所では、2017年から毎年「働く10,000人の就業・成長定点調査」を実施してきた。本コラムでは、2019から2023年の過去5年間の結果に基づき、20代若年就業者(民間企業正社員)の「仕事選びの重視点」「転職の捉え方」「仕事に抱く感情」のテーマを取りあげる。企業にとって多くの投資をして採用・育成した若手社員が離職することは大きな痛手となる。特に、将来の管理職候補として期待されるジョブパフォーマンスの高い「ハイパフォーマー」の離職は極めて大きな損失といえることから、20代若年就業者とそのハイパフォーマーにも注目し、これらのテーマを通じて早期離職を食い止めるための示唆を得たい。

  1. 【仕事選びの重視点】求められるのは働きやすく成長できる職場
  2. 【転職の捉え方】今の職場で働き続けながら転職も視野に
  3. 【仕事に抱く感情】ネガティブ感情が高い20代の若者
  4. まとめ

【仕事選びの重視点】求められるのは働きやすく成長できる職場

20代の若者は仕事を選ぶ上で何を重視しているのだろうか。それを見たのが図表1である。2019年から2023年の間に、上下5ポイント以上の変化があった項目を赤と紺で強調している。

浮かびあがってくるのは、職場の人間関係のよさ、仕事とプライベートのバランス、休みのとりやすさなどの「働きやすさ」に関する項目の肯定率が低下傾向ということである。対照的に、知識やスキルの獲得といった「成長」に関する項目の肯定率は上昇傾向にある。もっとも、若者は「働きやすさ」を軽視しているわけではない。「働きやすさ」に関する項目の肯定率は低下傾向であるものの、他の項目よりは高くなっている。すなわち、20代の若者は「働きやすい職場」だけではなく、この数年間で「成長できる仕事」を求めるようになったのである。これは、2022年までの本調査結果を基にしたコラム「20代若手社員の成長意識の変化―在宅勤務下の育成強化も急がれる」でも紹介されており、2023年も同様の傾向が続いているといえる。

図表1:20代が仕事を選ぶ上で重視すること(会社員[正社員])

図表1:20代が仕事を選ぶ上で重視すること(会社員[正社員])


それでは、20代の若者をジョブパフォーマンス別[注3]に見た場合はどうであろうか。2019年から2023年の間に5ポイント以上の変化があった「働きやすさ」「成長」に関する項目だけを取り出したのが図表2である。ハイパフォーマーの若者はローパフォーマーの若者よりも「働きやすさ」や「成長」を重視する割合が高くなっている。ハイパフォーマーの若者よりもミドルパフォーマーの若者の肯定率が高い項目もあるが、ハイパフォーマーとミドルパフォーマーの肯定率はローパフォーマーよりもほとんどの項目で高くなっている。これは仕事や職場への期待値がそれだけ高いということを意味しているだろう。ハイパフォーマーの若者は、この職場では「成長できない」「働きづらい」と感じれば、早々に離職を選択するのではないだろうか。

図表2.20代が仕事を選ぶ上で重視すること(ジョブパフォーマンス別・2023年)

図表2.20代が仕事を選ぶ上で重視すること(ジョブパフォーマンス別・2023年)

【転職の捉え方】今の職場で働き続けながら転職も視野に

次に、20代の若者が転職についてどう考えているのかを見ていきたい。図表3から浮かびあがってくるのは、全般的に転職に対して肯定的傾向が強まっていること、また、転職に対する世代間ギャップが緩やかに縮小しているものの依然として世代間ギャップは残っているということである。転職を積極的に肯定する若者とそこまでは積極的に捉えていない上の世代のギャップがある。

図表3.転職に対して肯定的イメージを持つ割合(年代別)

図表3.転職に対して肯定的イメージを持つ割合(年代別)


しかし、興味深いことに、20代の若者は転職に対して積極的に捉えながらも、現在の勤務先をすぐに辞めようとは思っていない(図表4)。20代では「継続して働きたい」と「他の会社に転職したい」という回答割合がほぼ同じになっている。20代の若者は現在の職場で働き続けたいと思っているが、転職や独立・企業も視野にいれているのだ。一方で、上の世代は年代が上がるほど今の職場でそのまま働き続けたいと考える割合が高くなる。

図表4.継続就労・転職・独立に関する意向(年代別・2023年)

図表4.継続就労・転職・独立に関する意向(年代別・2023年)


それでは、20代のハイパフォーマーの若者は転職に対してどう考えているのだろうか。それを見たのが図表5である。ハイパフォーマーの若者は「他の会社に転職したい」「独立・起業したい」と考える割合が最も高い。しかし、同時に「継続して働きたい」と考える割合も最も高くなっている。高いパフォーマンスを発揮できている今の職場に居心地のよさを感じながらも、高いパフォーマンスを発揮できているがゆえに他の会社でも「勝負」をしたいと考えているのではないだろうか。

図表5.20代の継続就労・転職・独立に関する意向(ジョブパフォーマンス別・2023年)

図表5.20代の継続就労・転職・独立に関する意向(ジョブパフォーマンス別・2023年)

【仕事に抱く感情】ネガティブ感情が高い20代の若者

最後に、20代の若者が仕事を通じてどのような感情を抱いているのかを見たところ、特にネガティブな感情に特徴が確認されたので触れておきたい(図表6)。「私は、はたらくことを通じて、不幸せを感じている」に対する回答になる。20代の若者の数値が最も高くなっており、50代とは10ポイント以上の差がある。20代の若者は精神的なつらさを抱えながら働いているのだ[注4]

図表6.はたらくことを通じた不幸せ実感(年代別・2023年)

図表6.はたらくことを通じた不幸せ実感(年代別・2023年)


20代の若者のネガティブな感情をジョブパフォーマンス別に示したのが図表7である。ハイパフォーマーの若者は、ミドルパフォーマー、ローパフォーマーの若者以上に働くことを通じて不幸せな感情を抱いているのだ。こうした仕事で抱くネガティブな感情は「もっと早く仕事ができるようになりたい」という「成長」志向が背景にあるのではないだろうか。しかし、ネガティブな感情の高まりはジョブパフォーマンスの低下や休職・早期離職に繋がる可能性がある。近年、従業員の健康増進が経営的にも重要であるとの議論がなされているが、今回の調査結果はそうした動きを後押しするものであろう[注5]

図表7.20代のはたらくことを通じた不幸せ実感(ジョブパフォーマンス別・2023年)

図表7.20代のはたらくことを通じた不幸せ実感(ジョブパフォーマンス別・2023年)

まとめ

本コラムでは、「働く10,000人の就業・成長定点調査」2023年度の結果に基づき、20代若年就業者(民間企業正社員)の「仕事選びの重視点」「転職への捉え方」「仕事に抱く感情」に着目し、早期離職を食い止めるための示唆を得ることを目指した。

本コラムのポイントは次の通りである。

・20代の若年就業者は知識やスキルの獲得ができる「成長できる仕事」を重視するようになってきている。他方で職場の人間関係のよさ、仕事とプライベートのバランス、休みのとりやすさなどの「働きやすさ」に関する項目の肯定率が低下傾向にある。ハイパフォーマーの若者はローパフォーマーの若者よりも「働きやすさ」や「成長」を重視する割合が高く、成長が実感できない仕事、働きづらいと感じる職場を早々に離職を選択する可能性を示している。

・20代の若年就業者は上の世代と比べると転職に対して肯定的イメージを持っており、他の会社に転職したいと考えている割合も高い。特にハイパフォーマーの若年就業者がそうであるが、現在の勤務先で働き続けることも肯定的に捉えている。

・20代の若年就業者は上の世代よりも働くことを通じて不幸せを実感している割合が高かった。そして、ハイパフォーマーの若者はミドルパフォーマー、ローパフォーマーの若者よりもそうしたネガティブな感情を感じている割合が高い。こうしたネガティブの感情の高まりは、休職や早期離職に繋がる可能性がある。

企業の持続的成長を考えるとき、若者の早期離職を食い止めることは重要になる。そのためには「働きやすい」環境を整備するだけではなく、「成長」を実感できる機会をどれだけ若者に提供できるかが鍵となる。特にハイパフォーマーの若者にとってはそうであろう。転職を肯定し視野に入れている20代の若者が、現在の職場で働きつづけたくないと思っているわけではないと上の世代が認識することも重要である。また、メンタルヘルスに注目し、ネガティブな感情を抱えながら働いている若者(特にハイパフォーマーの若者)をどう支えるかは喫緊の課題になっているといえるだろう。


注1:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p230207.html(2023年7月26日アクセス)。

注2:「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)の施行(2015年10月)により、事業主に対して若者の雇用促進、職業能力の開発、職場への定着等が求められるようになったことも企業と若者の関係を考えるうえで重要である。

注3:「任された役割を果たしている」「担当業務の責任を果たしている」「仕事でパフォーマンスを発揮している」「会社から求められる仕事の成果を出している」「仕事の評価に直接影響する活動には関与している」に対する五件法の回答のうち「あてはまる」を5点~「あてはまらない」を1点とし、上記設問を「ジョブパフォーマンス」を示す変数として統合した(α係数は0.828)。その上で、得点の高さに応じて「ハイパフォーマー」「ミドルパフォーマー」「ローパフォーマー」に三分割した。

注4:高見具広も調査結果に基づき、「若年層や主任~課長代理相当職クラスで、心理的ストレス反応など、メンタルヘルスに何かしらの問題を抱える割合が大きい」と指摘している(「働き方が変化する中での健康確保の課題」第126回労働政策フォーラム)https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20230320/index.html(2023年7月26日アクセス)。

注5:経済産業省「健康経営」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html(2023年7月26日アクセス)。

執筆者紹介

児島 功和

シンクタンク本部
研究員

児島 功和

Yoshikazu Kojima

日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。


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