企業の成長には、組織改革が欠かせない。その重要な鍵となるのが管理職の存在だ。管理職の課題が浮き彫りとなる中で、これからの組織、そして管理職はどう変わっていくべきか。著書『冒険する組織のつくりかた』で組織の新たな世界観を提示する安斎勇樹氏と、『罰ゲーム化する管理職』で、管理職の疲弊を明らかにしたパーソル総合研究所主席研究員の小林祐児に、「管理職は冒険できるのか。それが可能な組織には何が必要なのか」について語ってもらった。

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員
安斎 勇樹 氏
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を生かした新しい組織・キャリア論について探究している。2021年に組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI」を創業。『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社)など著書多数。

パーソル総合研究所 主席研究員/執行役員/シンクタンク本部長
小林 祐児
上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。

小林:安斎さんと私の著書は、現状の組織に対する課題感や、日本企業を変えるトリガーにしたいという思いは共通していると感じます。
安斎氏:私は自身の学問的背景から、知識は現場の問題解決に役立ってこそ意義があるという思想が根底にあり、本書も企業の現場で疲弊している人たちに「少しの時間と努力によって、組織を変えられるかもしれない」と思ってほしいという気持ちで執筆しました。
小林:私の書籍では、管理職として働くことが罰ゲーム化している現状がなぜ起こっているのかを、構造的に明らかにしようと試みました。罰ゲーム化している理由のひとつとして、企業が「リーダーシップ幻想」※に頼り過ぎているという内部的要因があります。経営者や人事が組織を変えたいと思ったときに、ターゲットとなるのは管理職です。外部環境が厳しさを増す中で、組織改革を求める圧力だけが高まっていき、その矛先がマネジャーに向けられ続ければ、精神的にも物理的にも負荷がかかり過ぎ、管理職は潰れてしまうでしょう。そのため、「罰ゲームの作り手」の一員である人事に対するメッセージも込めました。
組織を変革するにはマネジメントや管理職が重要だと言われがちですが、安斎さんはその方向で論を展開されていないところに共感します。
※
会社の業績や組織の状況を生み出す原因をことごとく「リーダーが発揮しているリーダーシップに原因がある」と結論付ける傾向
安斎氏:私はファシリテーターとして企業内の対話を支援し、その延長で、大企業のコンサルティングも行ってきました。その経験から、どの会社にも部門や役職にかかわらず5%程度は、「組織を変えたい」という強い意志を持つ社員が存在すると実感しています。組織変革には、この5%の人たちの割合を高めていくことが重要です。そのためには、人事を含め「もぐら叩き」的な短期的視野での対処ではなく、組織の世界観そのものを転換する必要があると考えています。
多くの企業はこれまで長らく、まるで軍隊のように、企業が作ったミッションや戦略に従って社員が管理される「軍事的世界観」の上に成り立っていました。しかし、昨今の不確実な世界では、長期的な視点で社員の好奇心を尊重しながら、探索的に価値を見いだしていく「冒険的世界観」にシフトチェンジしていくべきだと考えています。組織に属する社員は、単なる一兵士ではなく、長いキャリアを通して一人ひとり異なる関心や強み、内面的な資源を持つ人々です。それを会社の方針と共鳴させ、整合させていくことが、今求められているマネジメントではないでしょうか。そうした思想に共感する人々が役職を超えてつながることで、組織に新たな動きが生まれていくと考えています。
小林:安斎さんと私の主張の大きな共通点として、「戦略を描くべき」と強調しない点が挙げられると思います。「軍事的世界観」といえば、昨今のリスキリングに関する議論も「軍事工場的」に語られており、課題に感じています。つまり、組織の目標に照らして不足しているスキルを計算し、足りないスキルを社員に注入するという、「軍事工場的」なリスキリングを実践すれば組織は良くなるという考え方です。しかし、スキルは強制的に注入できるものではなく、このVUCA時代に将来必要になるスキルを正確に計算することも不可能です。人間の内的な側面や社会的な側面を無視し、計算によってはじき出した合理性だけに頼っていては、組織として発展していくことは難しくなるでしょう。これからは「組織は戦略に従うのではなく、戦略が組織に従う」くらいに、組織自体や人間の側面が重視されるようになると考えています。
また、生成AIがここまで言語に特化した形で高度に発展すると、戦略の言説が似過ぎてしまい、戦略を立てても差別化が難しくなるとも考えられます。そうなると、組織内の多様な問題を解決していくには、改めて組織資本や組織開発について考えることが重要になるでしょう。
安斎氏:とても共感します。私は企業内の学習論的観点がアップデートされていないことにも強く課題を感じてきました。工場的なリスキリングモデルもしかり、1920年代に提唱された「行動が変わることが学習である」という行動主義的な考え方にいまだに頼っています。しかし、人間の学びは思っている以上に複雑で、かつ主体的なもの。個人によって動機や認識は異なり、その上、コミュニケーションを通して変化もしていきます。納得したふりをしていても、実は腑に落ちていないという矛盾を抱えていることもあります。そうした人間の学びを捉えて尊重するという視点が、今の企業から抜け落ちていると感じています。
さらに、生成AIが組織の中で存在感を増していくにつれ、人間の学びの本質を捉えた企業の問題設定はますます重要になっています。技術コンサルはAIに取って代わられ、組織内の重要な仕事ももっとAIが担うようになっていくでしょう。そうした変化に人間の感情が追いつかないまま進んでいくと、目に見えないズレや憎悪が組織に蓄積していきます。組織の問題は、人間の感情に起因したものがメインとなっていくでしょう。

小林: 組織の世界観を変えていくには、意思のある5%の人の周囲に共感層を増やしていくことが重要で、安斎さんは外から組織に入ってその支援を対応されています。その際、もともと安斎さんの考え方に近しい思考の人であれば共感は早いと思いますが、停滞感のある組織を変えるには、違う考え方の人をどう巻き込むかが鍵です。安斎さんの考え方を受け入れられない勢力がいた場合、どのように巻き込んでいますか。
安斎氏:ご指摘の通り、私がファシリテーターとして組織に入っても、反発的な反応をする人はいて、一時的に分断をあおってしまうことはあります。そういうときこそ、対話をコーディネートして、共感派のネットワークを増やしていくことが非常に重要だと思っています。実際に、弱っている軍事的側面の再強化に関心が高いような人々と対話を重ね、「軍事的な発想から冒険的世界観にシフトしよう」という結論に着地したこともあります。だからこそ、企業に支援に入るときは、課題設定から一緒に考えますし、長期間伴走しながら組織内での整合性を図っていくことを心掛けています。
小林:冒険的世界観の組織を目指す上で、安斎さんは「成長」の捉え方を「望ましいスキル・行動の習得」から、「新たなアイデンティティの探究」へ変えるべきと指摘されています。私は、孤立が進む今の日本で、個人にアイデンティティ(私らしさ)を追い求め(自己探究)させ過ぎると、孤立化を進めることになってしまうと考えているので、安斎さんの意見に全面的には賛成できないところがあります。そもそも最近は、社員にWILLや好奇心が生まれにくくなっています。背景としては、賃上げによって手取りは増加、未婚化によって生涯年収が高くなくてもいいという人も増えており、冒険しなくても満足に生きていける状態にあることが挙げられます。また、管理職は罰ゲーム化して魅力がない上に、今の会社で冒険しなくても副業で冒険したり、投資で稼げる環境があります。
この点については、安斎さんも著書で「自己探究の神格化は危ない」と指摘されていますよね。
安斎氏:自己探究のハードルが高いという問題意識は、私も強く持っています。しかし、それ以上に外的プレッシャーに対して、多くの人が自動的に反応するリアクションボットのようになってしまっていることに危機感を抱いています。転職時にすら、経験やスキルを棚卸しせず、やりたいことも明確にしないまま、転職すること自体が目的になってしまっている人が増えていますよね。
昨今は「世の中の正しさの平均値」といった社会的規範や、年収などの市場におけるスコア、組織内の空気や期待される役割などが、デジタルプラットフォームで可視化されるようになっています。その結果、個々の事情が加味されないまま、「こうすべき・ああすべき」という「騒音」が重圧になり、それに対して自分を押し殺してリアクションし続けている状態になっています。外的圧力から距離を置き、もう少し静かに自分の内面を見つめ直す時間をつくったほうが、人は幸せになれるのではないでしょうか。
好奇心が生まれにくくはなっていますが、好奇心のセンサーが死滅したわけではなく、少し視点を変えれば、つまらないと思っていた仕事を面白がることができる余地はあるように思います。興味のない仕事を我慢するのではなく、楽しんで技術を磨くことに集中していたら成果が上がったというような、因果の入れ替えは可能だと考えます。
小林:私は、現在の社会情勢においては、自己実現を求めても、「他者との比較」による自己探究にしかならない気がしています。そのため、「私(I)」という個人ではなく、「私たち(We)」を起点に考えたほうがよいと思っています。人と人との関わりの中にいたほうが、人は力付けられる気がするからです。
ただし、「We」で重要なのは、「自分に合う人探し」をするのではなく、「相性に関係なく、気付けば長く一緒にいた」という関係性をいかに設計するかです。そこで、私が期待しているのが、「会社」です。会社は仕事の好き嫌いに関係なく、生きるために所属しなければならない場所で、「何だかんだ、10年間一緒に働いたよね」という関係性が構築できます。そういうつながり方は、強いと思っています。安斎さんも、マネジメント層の横のつながりの重要性に言及されていますよね。
安斎氏: まさに、管理職の冒険の鍵を握るのは2人目の賛同者だと思っています。私はマネジメント研修を請け負うことも多いのですが、「今日は無礼講で、一番手を焼いている部下について話してください」と促したことがあります。すると、「毎回、1on1をスキップする部下がいる」など、同じ立場だからこそ話せる本音が出てきて、マネジャーの相互ケアの場となりました。しかし、しばらくすると、互いにねぎらう中で、自分たちの至らなさや新たな気
づきに変わっていったのです。
小林:そうしたつながりを、いかに組織的に設計していくかが大切ですね。単なる情報共有の場ではなく、部下の悩みを話し合うなど、情緒的なものが加わることが必要でしょう。
安斎氏:マネジャー層が集まる場を設けても、お互い規範的に振る舞おうとしてしまい、なかなか本音で話せないものです。そうした中で、マネジャー同士の対話を深められた成功例が、マネーフォワード社の事例です。ミドルマネジャーの研修を実施した際、その部門のトップの方が「実は役職を引き受けるかどうかためらっていた」と、そのときの心情や葛藤を正直に綴った日記を公開したのです。それを機に、他の参加者たちも武装が解けて、対話が一気に深まりました。
小林:最も避けるべきは、管理職がリーダーシップ幻想を内面化して、「自分がロールモデルにならなくては」と、一人で頑張ってしまうこと。他の管理職とつながり、アイデアを出し合いながら仲間と一緒に冒険し、組織を変えていけるといいですね。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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