インタビュー

新体制で挑む人材の早期戦力化とOJTの深化

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日本や中国における医療用眼科薬市場でトップシェアを確立する参天製薬。世界60以上の国と地域に製品を展開し、供給の大部分は石川県の能登工場と滋賀県の滋賀プロダクトサプライセンター(滋賀PSC)が支えている。その生産部門の人材育成を推進するため、2025年2月、教育専門の新部署を新設した。育成の鍵を握る新たなOJTの仕組みとそのねらいについて伺った。

網 邦延 氏


参天製薬株式会社 生産本部 MTDC Head

網 邦延 氏

平川 陽一 氏


参天製薬株式会社 生産本部 MTDC Specialist

平川 陽一 氏

グローバル市場における事業成長および、新領域への事業拡大などを背景に、当社では製品の安定供給体制の強化に取り組んでいます。滋賀PSCでは、2022年に新たに第3棟が竣工し、操業を開始しました。それに伴い、この数年間に大幅に採用を増やして増員したことから、新入社員の「早期戦力化」と「多能工化」を進めることが急務となっています。そこで、製造部門の人材育成体制の強化と組織風土改革を担う専門部署として、MTDC(Manufacturing Training and Development Center)を新設しました。

高水準の品質管理が求められる中、増産・増員で早期育成が急務に

MTDCの人材育成体制の強化における役割は主に3つです。1つは新入社員の「早期戦力化」と「多能工化」を支援するOJT領域。残る2つは、「導入研修」と「継続研修」というOff‐JT領域です。現在、最も注力しているのは新入社員の「早期戦力化」であり、早期戦力化に向けた育成がある程度進んだ段階で、「多能工化」を進める方針です。

まず前提として、当社が扱う無菌点眼剤は、外科手術と同等レベルの無菌状態で製造しなければならない工程を含んでおり、非常に高度な品質管理が求められます。そのため、すべての作業を文書化し、各作業に従事するための社内資格の取得を義務付けています。資格は無菌室への入室段階から必要であり、容器に薬液を入れる充填作業への従事、大型充填機の操作まで各工程に細かく設定されています。社員は段階的に教育を受け、資格認定を経て初めてその作業に従事することができます。

他方で、製薬業界全体の動きに目を向けると、近年、「医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)」などに改正があり、製造管理や品質管理への要求水準は高まるばかり。GMPは国によっても違いがあるため、グローバル市場の拡大に伴い、生産現場の人材に求められるスキルレベルも高まっています。そのような中での急増員であるため、新入社員の育成は急務なのです。

網 邦延 氏

現場任せによる教え方のばらつきを 横串を通して平準化する

しかし、従来のOJTの進め方は現場に委ねられていたため、いざ現状を見てみると、計画通りに資格取得が進んでおらず、原因も不明瞭なケースが散見されました。また、教える側の人材不足により、ベテランが第一線の仕事を担いながら新人育成までしなければならない状況や、指導役になるまでに理想的とされる習熟年数を経ていない人が指導役にならざるを得ない状況も生じ始めていました。過去、事業環境の変化に伴い採用を抑制した影響から、指導役に適した中間層が不足していたのです。また現状を調べていくと、チーム間はもちろん、同じチーム内でも製造ラインや教える人によって教え方にばらつきがあることも分かりました。

そこで、MTDCが入り、製造ラインおよびメンバー間に横串を通すように教え方を共有することで、チーム内の教え方の平準化を図るなど、新しい形でのOJTを始めたところです。例えば、2025年度入社の新入社員には、習熟をサポートする現場の指導員(OJT担当者)が新入社員ごとに「能力開発計画表」を作成し、取得すべき資格とその期限を明確化。その内容をMTDC担当者と所属チームのマネジャーがレビューし、指導員と新入社員の間で認識をすり合わせた上でOJTを開始するようにしています。MTDC担当者には、工場長経験者など現場の熟達者もいるため、未熟な指導員に対してMTDC担当者が教育しています。

また、以前は資格取得のKPIがチーム単位で設定されていなかったため、自身の配属された製造ライン内で必要な資格のみ取得する傾向がありました。新たなOJTでは、「どの資格を何人が取得するのか」をチーム単位で話し合い、KPIを設定。四半期ごとに新入社員、指導員、MTDC担当者が相互面談を行って進捗を確認し、チームの課題解決や目標達成も図っています。これにより、個人の技術の幅が広がることはもちろん、ラインを越えた資格の取得が促進されることで多能工化が進み、組織全体の活性化につながることを期待しています。

チームで育てる視点を持ち原理原則まで教える

平川 陽一 氏

こうしたチーム目線での育成は、教えられた人が次に教えていく上でも重要だと考えています。マニュアルや資格制度が充実していても、教える人によってどうしても教え方にばらつきは生じてしまいます。また、「育てられていないから育てることができない」といったこともあり得ます。未熟な指導員が教えなければならないケースでは、「教えるのが怖い」「正しく教えられているのか自信が持てない」といった声もあります。

そこで重要になることのひとつが、「チームで育てる」という意識や指導員同士のコミュニティの存在です。ベテランの教え上手な指導員は、自分だけで対応しようとせず、「より上手に教えられる人」をアテンドする能力にも長けています。つまり、指導員一人ではなく、チームで育てる視点を持ち合わせているのです。MTDCでは、指導員に向けた心得研修を実施し、「チームで育成する」という意識の共有を図っています。これに関しては、すでに指導員のマインドの変化や横連携の動きが見られ始めています。

もうひとつ重要なこととして、「原理原則を教える」という点があります。先述した通り、当社の製造工程は高度な品質管理が必要なことからマニュアルが充実しており、検証工程も厳格です。こうした高度に手順化・標準化された生産現場では、従業員の意識がマニュアルに従うことばかりに向き過ぎて、OJTにおいても「(例えば科学的な観点から)なぜその操作が必要なのか」といった「原理原則」までを理解させるような場面が少なくなってきているように感じます。

しかし、この「原理原則」こそが、製造現場の複雑な機械操作の土台であり、そこが形骸化すればトラブルの予見や初期対応の遅れにつながる恐れがあるのです。今後さらに高度な機械化・自動化が進み、操作や見るべきポイント、判断力などの技術レベルも高まっていくでしょう。だからこそ、OJTで教える内容についても、「原理原則」まで習得がなされるよう深めていく必要があると考えています。

チーム間でナレッジを共有し自律的な育成のサイクルへ

今後のMTDCの取り組みテーマとしては、各チームで培ったナレッジや指導方法をチーム間で横断的に共有する仕組みづくりを視野に入れています。これまでは、優れた指導法があってもチームをまたいで共有されることは少なく、貴重なナレッジが縦割りで分断されていたからです。若手社員向けの集合研修では、すでにチーム横断の少人数グループによるリフレクション(振り返り)の時間を設けています。

また、将来の後輩のために用語集を作成する取り組みも進行中です。新入社員が業務上の専門用語を先輩に教わって記録していくもので、指導員との接点を生み出すねらいもあります。全体を構想する中で、地道な仕掛けも講じることで、少しずつ現場のコミュニケーションが活性化され、将来に向けて「教えられ・教えていく」という育成のサイクルが自然に回っていくことを期待しています。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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