インタビュー

意味ある経験と多様な経験で「人材の質」を高めていく

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NECグループのコーポレート機能を集約し、業務の効率・高度化を担うNECビジネスインテリジェンス。同社では、デジタル技術の活用による改革を本格化する中で、自ら改革を推進できる人材の育成が重要な課題となっている。育成の新たな施策と今後の展望について話を伺った。

坂井 泰久 氏


NECビジネスインテリジェンス株式会社 ピープルディベロップメント統括部 人材開発グループ ディレクター

坂井 泰久 氏

当社では近年、一人ひとりの専門性を高め、業務に対する目的意識を醸成する人材育成に力を入れています。なぜなら、顧客満足につながる価値提供を真の成果として、迅速に生み出せる専門性が必要になっているためです。

外部環境の変化に対応するため、NECグループでは2024年度を機にジョブ型人事制度を導入。また、当社は同年4月に社名を「NECマネジメントパートナー」から「NECビジネスインテリジェンス」に変更しました。新たな社名の下、従来の強みである業務改善の枠にとどまらず、データ、デジタルおよびAIを最大限に活用することで、NECグループのスタッフ機能全体に変革をもたらすような効率化・高度化を実現し、これまで以上にスピード感を持って成果を出すことが強く求められています。しかしながら、すべての社員が急激な変化にすぐに対応できるわけではなく、「現状維持バイアス」が働くことが想定されます。

「現状維持バイアス」を抜本的に変えていくために、まずは「隗より始めよ」ではありませんが、2025年度からピープルディベロップメント統括部(当社の人事機能)において新たな育成施策がスタートしました。それが、「やったこと(Y)/分かったこと(W)/次にやること(T)」を振り返る枠組み、いわゆる「YWT」の導入です。

日本能率協会コンサルティング(JMAC)が開発した振り返りの考え方・実践手法。

経験を学びに変える 振り返りと内省の仕組み

当社では、業務経験から学ぶことを、「OJT」ではなく「OJD」と呼んでいます。これは「Training=訓練」ではなく、「Development=成長・開発」という考え方に基づいています。また、近しい概念として「パフォーマンスマネジメント」があります。いわゆる「目標管理+α」で、組織の目標が個人の業績目標にカスケードダウン(細分化され、伝達)され、目標の達成に向けて業務を通じて指導し、定期的な1on1で個々人のパフォーマンスを引き出す仕組みです。こうした個人の成長支援が実践される一方、組織開発的な視点はあまり語られておらず、そのギャップを埋めるために「YWT」を導入しました。

坂井 泰久 氏

業務に追われていると、「やったこと」が成果として語られ、本来の目的である顧客やステークホルダーへの成果が見落とされる傾向がありました。YWTを通じて業務を振り返り、内省し、次にどこへつなげるかを言語化することで、「この仕事は何のために、誰のために行っているのか」に意識を向け、業務に意味を持たせることをねらいとしています。

価値観や行動様式を共有 自律的な経験学習を目指す

現在は、当社の人事機能を担うピープルディベロップメント統括部約50名を対象に施策を回しています。まず週次で個人単位の振り返りを実施し、組織内で共有するためビジネスチャットツールに投稿。統括部長が全員分の振り返りを確認し、その中から優れた考え方や内省・学習の仕方、行動・経験、発想などをピックアップし、ポジティブなコメントとともに統括部全体にフィードバックしています。この取り組みにより、組織で求められる価値観や思考・行動様式の認識が、徐々に揃ってきています。今後は、この価値観や思考・行動様式が全員に浸透し、日々の業務経験を振り返って意味付けし、学びとして次に生かす「経験学習サイクル」を自律的に回せるようになることを目指しています。

従来の定例会議は、各グループ長による一方的な実績報告が中心でしたが、今年度からは週次YWTの発展型である月次YWTを実施しています。統括部全員が月に一度集まり、ランダムに編成された8〜10チームで「自分の所属グループが次月に何を遂行するか」を各チーム内で共有し、質疑応答を行います。人事機能のプロフェッショナルとして、個人の業務だけではなく、所属グループ単位で仕事を捉える視点が重要である、との考え方を基にした取り組みです。

開始当初は、YWTの多くは「やったこと」が中心でした。また月次YWTでは、グループ長とメンバー間の情報共有が不十分なために、個人の目標しか語れないメンバーも少なくありませんでした。しかし、全員が所属グループのYWTを伝える機会があることや、自分以外の業務を知ること、そして週次の統括部長のフィードバックを確認することで、開始から3カ月の実施を経て、メンバーが主体的に所属グループの情報を収集し、自分の言葉でグループの目標を語る姿が見られるようになりました。さらに、取り組みに対する疑問や改善のアイデアを発信するメンバーも現れるなど、ポジティブな変化が生まれています。

また、マネジメント側にも好影響が表れています。テレワークの普及もあり、メンバーの業績結果は見えているものの、過程や働きぶりは見えづらい状況がありました。しかし、YWTを通じてメンバーの振り返りを確認することで、業務課題への取り組み状況のほか、「どのような思考でその行動に至ったのか」「どのような感情を抱えていたのか」など内面も把握できるようになりました。

現状維持バイアスを打破するジョブローテーション

坂井 泰久 氏

YWTは社員に「意味ある経験」をさせる意図がありますが、一人ひとりの意識改革を促すには、「多様な経験」を通じて視野を広げることも不可欠です。ジョブ型人事制度の導入により個々人の専門性は高まりましたが、組織間の異動機会の減少や、役割ごとの最適化が進み過ぎることで生じる偏りにより、成長機会が失われる懸念もあります。

現状維持バイアスを打破し、新たな環境に積極的に挑戦する人材を育成する目的で、当社では異動施策も推進しています。その一例として、「社内インターンシップ制度」があります。一定期間、他組織の業務を体験することができる施策で、異なる価値観や業務フローに触れることで、「意味ある経験」をしてもらうことを期待しています。また、NECグループ全体の「ジョブマッチング制度」を整備し、社員が自ら主体的にキャリアを築ける支援体制も充実しています。

ただし、制度を充実させても、社員の意識や行動は変わりません。実際に、制度を活用している社員は限定的な範囲にとどまっています。だからこそ、こうした制度の利用促進による「多様な経験」と、YWTのような「意味ある経験」の両軸で、中長期的に人材育成を進めていくことが重要だと考えています。

チームで行うYWTで「育成の質」を高める

業務を通じた育成の本質は、時代が変わっても変わりませんが、技術の進歩や仕事のスピードの加速により、業務の指導から知識の伝達、動き方や学び方の指南、さらにはキャリアの方向性や個人的な悩みへの相談対応まで、マネジメントに求められる育成の難易度は高まっています。こうした状況に対応するために、作業手順などの指導はAIに任せ、悩みは上司でなく、斜めの関係の人が聞くなど、役割を細分化するのもひとつの方法です。それでもなお、マネジャーが担うべき育成の役割として残るのは、関係性構築やカルチャーの浸透といった組織開発的な要素です。これらは、意図的に同じ場や時間を共有し、チームで行うことが重要だと考えています。

「育成の質」を高めるには、自分の業務の意味や価値を自分で解釈できるといった「人材の質」そのものを高めることが不可欠です。YWTはその第一歩。小さなことでも愚直にやり続けることで、今後も改善を重ねながら、「育成の質」を高める取り組みを進めていきます。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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