調査・研究コラム

AIは私たちを幸せにしたのか、不幸せから遠ざけたのか

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執筆者

  研究員

研究員

田村 元樹

AIは私たちを幸せにしたのか、不幸せから遠ざけたのか

AIを使うほど仕事は効率化し、働く人も幸せになる。そう考えたくなるが、実際はどうだろうか。

本コラムでは、2025年10月と2026年5月の両時点で同じ設問に回答した971人を追跡し、両時点でAIを利用していた671人(AI継続利用群)と、両時点ともAIを利用していなかった300人(AI継続非利用群)について、「はたらく幸せ」「はたらく不幸せ」の変化を比較した。

その結果、はたらく幸せには両群で明確な変化がみられなかった。一方で、はたらく不幸せは、AI継続非利用群ではほぼ変化しなかったのに対し、AI継続利用群では低下していた。

AIは、私たちを積極的に幸せにしたというより、不幸せから遠ざけたのだろうか。本コラムでは、この非対称な結果を手がかりに、AIの効用を「何を増やしたか」だけで捉える見方を問い直す。

AIの利用頻度は高まったが、幸せは増えなかった

2025年10月から2026年5月の約7カ月間で、AI継続利用群の利用頻度は高頻度側へ移っていた。比較すると、「ほぼ毎日」利用する人は23%から26%へ、「週4日以上」利用する人は13%から15%へ増加した。一方、「数か月に1日」の利用者は12%から8%へ減少している(図表1)。

図表1:AI継続利用群におけるAI利用頻度の変化

図表1:AI継続利用群におけるAI利用頻度の変化

出所:パーソル総合研究所が2025年10月および2026年5月に実施した調査のコホートデータを基に筆者作成

では、この間に、働く人の幸せや不幸せはどのように変化したのだろうか。AI継続利用群671人と、両時点ともAIを利用していなかったAI継続非利用群300人に分けて確認した。

「はたらく幸せ」は、AI継続利用群で3.59から3.62へ、AI継続非利用群で3.30から3.39へ上昇していた。ただし、いずれの群でも前後差は統計的に有意ではなかった。約7カ月間、AIを継続利用していても、働く人の幸せが明確に高まったとはいえない。

一方、「はたらく不幸せ」には異なる動きがみられた。AI継続利用群では3.36から3.26へ低下し、群内の前後差は統計的に有意であった。これに対して、AI継続非利用群は3.58から3.58と、ほぼ変化しなかった(図表2)※1。

図表2:AI継続利用群・AI継続非利用群における「はたらく幸せ」「はたらく不幸せ」の変化

図表2:AI継続利用群・AI継続非利用群における「はたらく幸せ」「はたらく不幸せ」の変化

出所:パーソル総合研究所が2025年10月および2026年5月に実施した調査のコホートデータを基に筆者作成

※1

尺度は、「はたらく幸せ」は、「はたらくことを通じて幸せを感じている」「はたらいていて幸せを感じることが多い」「はたらくことを通じて、まわりよりも幸せを感じていると思う」の3項目で構成した。「はたらく不幸せ」は、同じ3項目の「幸せ」を「不幸せ」に置き換えて測定した。各項目は1~7点で尋ね、3項目の平均値を尺度得点とした。得点が高いほど、それぞれの状態を強く感じていることを示す。Cronbachのαは、「はたらく幸せ」が2025年10月調査で.937、2026年5月調査で.942、「はたらく不幸せ」がそれぞれ.941、.949であった。

ただし、一方の群で有意差があり、もう一方の群で有意差がなかったことだけで、両群の変化に差があるとは判断できない。では、両群の違いを考慮した上でも、不幸せの側に差は残るのだろうか。

AI継続利用群では、不幸せが低下

AI継続利用群と継続非利用群では、調査開始時点の幸せ・不幸せの水準や、年齢、職種などの属性が異なる可能性があるため、統計的に調整した上で、2026年5月時点の「はたらく幸せ」「はたらく不幸せ」を比較した。

その結果、「はたらく幸せ」には両群で明確な差はみられなかった。一方、「はたらく不幸せ」は、AI継続利用群のほうがAI継続非利用群より低かった(図表3)。

図表3:AI継続利用群とAI継続非利用群における「はたらく幸せ」「はたらく不幸せ」の比較

出所:パーソル総合研究所が2025年10月および2026年5月に実施した調査のコホートデータを基に筆者作成

ただし、これは観察された群間差であり、AIの継続利用による因果関係を示すものではない。また、継続利用者の中では、利用頻度をさらに高めるほど不幸せが低下するという明確な関係も確認されなかった。

それでも、幸せと不幸せで結果が分かれた点は重要である。AIの継続利用は、働く人に新たな幸せを加えるというより、仕事に伴う不幸せを和らげる側に関係していた。

では、継続利用群では何が起きていたのか。次に、不幸せが低下した継続利用者の特徴から、その手がかりを探る。

AIは何を増やしたかだけでなく、何を減らしたか

AIに期待されてきたのは、仕事を速くし、新しい価値を生み、生産性を高めることだろう。いずれも、望ましいものを増やす「足し算」の効用である。

しかし、AIの効用を「足し算」だけで判断してはならない。幸せが増えていないからといって、働く人の状態に違いがなかったとはいえないからだ。

では、不幸せが低下した継続利用者には、どのような特徴があったのか。非利用者と比べて探ったところ、統計的に明確な差がある項目はなかったものの、相対的に高い傾向を示したのは、「ミスや抜け漏れが減った」「アイデア出しやブレストの相手として使った」「重要な仕事に時間を回せた」といった項目である(図表4)。

図表4:はたらく不幸せが低下したAI継続利用者にみられた特徴(上位)

図表4:はたらく不幸せが低下したAI継続利用者にみられた特徴(上位)

注:各項目に「あてはまる」と回答した割合。いずれも統計的に有意な差ではない(最小p=.121)。不幸せ低下の要因を示すものではなく、特徴の候補である。分析対象は、はたらく不幸せが低下したAI継続利用群のうち各設問に回答した203人、継続非利用群98人。

出所:パーソル総合研究所が2025年10月および2026年5月に実施した調査のコホートデータを基に筆者作成

いずれも、仕事に新たなやりがいを生むというより、負担や不安を減らす働きに近い。例えば、ミスや抜け漏れが減れば、やり直しへの不安が軽くなる。ブレストの相手がAIになれば、一人で行き詰まらずに済む。そして、重要な仕事に時間を回せれば、雑務に追われる感覚も薄れていく。

つまりAIは、幸せを積み増すのではなく、こうした不安や停滞を減らす形で、働く人に関わっていたのかもしれない。幸せは変わらず、不幸せだけが和らいだ今回の結果は、この見立てに基づけば理解しやすい。

こうした見方は、今回のデータに限ったものではない。フィンランドの企業を対象とした研究でも、AIの導入はウェルビーイングを直接高めるのではなく、仕事のタスクを最適化することを介して、間接的にウェルビーイングを高めることが示されている※2。

※2

フィンランドの企業207社を対象とした構造方程式モデリングによる分析。AI導入はタスク最適化を介してウェルビーイングを高め、タスク最適化からウェルビーイングへのパス係数は0.679(p<.001)であった。Valtonen, A., Saunila, M., Ukko, J., Treves, L., & Ritala, P. (2025). AI and employee wellbeing in the workplace: An empirical study. Journal of Business Research, 199, 115584. https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2025.115584

ただし、この研究で回答したのは各社の管理職であり、ウェルビーイングも1つの設問で測られている。これに対して本コラムは、働く人自身が「はたらく幸せ」と「はたらく不幸せ」を分けて評価したものである。両者を切り分けてみたことで、AIの効用が幸せの側ではなく、不幸せの側に表れるという違いが浮かび上がった。

私たちは、AIの価値を「何を増やしたか」で測ることに慣れている。しかし、幸せを増やせなかったからといって、AIが働く人に何も残さなかったわけではない。以前ほど不幸せではない状態をつくることは、幸せを増やせなかった埋め合わせではなく、それ自体が確かな効用である。

AIが何を増やしたかだけでなく、働く人から何を減らしたのか。その問いを持てるかどうかが、AIの価値を見誤らないための分かれ目になる。

まとめ

AIは、私たちを幸せにしたのか。今回の追跡では、はたらく幸せに明確な変化はみられなかった。一方、AIを継続して利用していた群では、利用していなかった群に比べ、はたらく不幸せが低かった。AIは人を積極的に幸せにするよりも、不幸せから遠ざける側に関係していたのかもしれない。

AIが仕事を速くしても、それだけで仕事に意味や充実感が生まれるわけではない。しかし、その効用は、幸せの増加とは異なる形で表れることがある。

AIによって何が増えたのか。そして、私たちは何から遠ざかることができたのか。AIの価値を考えるには、その両方を問わなければならない。

執筆者紹介

  研究員 田村 元樹

研究員

田村 元樹 Motoki Tamura

大学卒業後、2011年に大手医薬品卸売業社へ入社。在職中に政府系シンクタンクへ出向。その後、千葉大学予防医学センター特任研究員、介護系ベンチャー企業の事業部長などを経験。高齢者を対象としたボランティア活動など多数の調査・研究に携わり、2024年1月から現職。公衆衛生学・社会疫学・行動科学の知見を活かし、働き方などの社会問題の解決に取り組んでいる。

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