調査・研究コラム

医療・福祉業の人材不足をどう乗り越えるか―採用難の中で見落とされる「組織内の打ち手」

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執筆者

  研究員

研究員

田村 元樹

医療・福祉業の人材不足をどう乗り越えるか―採用難の中で見落とされる「組織内の打ち手」

医療・福祉業の人材不足は、業界固有の構造によって説明されることが多い。診療報酬や介護報酬などの公定価格、専門資格を持つ人材の不足、夜勤やシフト勤務といった制約があり、個々の組織が働き方を変えられる余地は小さいという見方である。

しかし、外部から人材を確保しにくいからこそ、現在働いている人材の負担を抑え、定着につなげる取り組みは重要になる。実際、医療・福祉業でも、働き方改革は人材確保・定着のために重要だと半数以上が認識している。それにもかかわらず、業務削減・業務棚卸しや管理職への研修など、組織内で検討できる一部の施策は十分に実施されていない。

構造上、すぐには変えにくい領域があることと、組織内で打てる施策がないことは同じではない。本コラムでは、採用の難しさから働き方改革の認識、施策の実施状況までをたどり、医療・福祉業の人材不足に残された「組織内の打てる空白」を考える。

医療・福祉業は採用難だからこそ、人材定着が重要になる

医療・福祉業では、人材確保の難しさが採用課題に強く表れている。パーソル総合研究所が実施した「人事部トレンド定量調査2026」によると、採用上の課題として「応募者数が集まらない」を挙げた割合は、医療・福祉業で54.8%となり、その他業種※1の33.9%を20.9ポイント上回った。また、医療・福祉業では、「採用した人材の質に不満がある」が33.9%、「採用スピードが遅い」が15.3%であった(図表1)。

※1

その他業種は、調査対象のうち医療・福祉業を除く業種を指す。

図表1:医療・福祉とその他業種の比較|採用課題(差が大きい順、複数回答、%)

図表1:医療・福祉とその他業種の比較|採用課題(差が大きい順、複数回答、%)

出所:パーソル総合研究所(2026)「人事部トレンド定量調査2026」を基に筆者作成

医療・福祉業の採用難は、これまでも繰り返し指摘されてきた※2。今回の調査結果も、そうした状況と整合的である。

※2

医療・福祉分野の人材確保は、令和4年版厚生労働白書が白書全体のテーマに「社会保障を支える人材の確保」を掲げ、最重要課題の一つと位置づけるなど、継続的に指摘されてきた。厚生労働省(2022)『令和4年版厚生労働白書―社会保障を支える人材の確保―』 https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/index.html

このように人材を外部から確保しにくい状況では、採用活動を強化するだけで必要な人材を補い続けることは難しい。背景には、専門資格を持つ人材の不足に加え、夜勤・シフト勤務を前提とする勤務条件など、個々の組織だけでは変えにくい要因があると考えられる。

だからこそ、人材不足への対応は、新たな人材を採用することだけでは完結しない。外部からの人材確保と並行して、現在働いている人材の定着にも目を向ける必要がある。

採用の難しさは、働き方の見直しとは別の問題ではない。外から採りにくいほど、今いる人材が働き続けられる環境を整える必要性は高まる。

働き方改革は重要だと分かっていても、医療・福祉業では推進に慎重な傾向

では、働き方改革の必要性は、医療・福祉業でどこまで認識されているのだろうか。

「人事部トレンド定量調査2026」によると、働き方改革を「人材確保・定着のために重要な施策である」とする割合は、医療・福祉業で53.2%となり、その他業種の53.3%とほぼ同じ水準であった(図表2)。

図表2:医療・福祉とその他業種の比較|働き方改革に対する経営・人事の認識(当てはまる・計、%)

図表2:医療・福祉とその他業種の比較|働き方改革に対する経営・人事の認識(当てはまる・計、%)

出所:パーソル総合研究所(2026)「人事部トレンド定量調査2026」を基に筆者作成

しかし、その認識が積極的に推進する姿勢として十分に表れているとはいえない。働き方改革について、「競争力向上のために積極的に推進すべき経営課題である」とする割合は、医療・福祉業で40.3%となり、その他業種の46.8%を6.5ポイント下回った。一方、「事業成長との両立が難しく、見直しが必要である」は37.1%、「コストや業務制約の観点から慎重に進めるべきである」は39.5%となり、いずれもその他業種を上回った。

ここから見えてくるのは、働き方改革の必要性を認識しつつも、事業成長やコストとの兼ね合いから、積極的に進める経営課題としては位置付けにくいという状況である。

組織内に「打てる空白」が残っている

こうした認識のずれは、実際の施策にも表れている。働き方改革のひとつでもある長時間労働への対策を「特にしていない」と回答した割合は、医療・福祉業で24.2%となり、その他業種の15.8%を8.4ポイント上回った(図表3)。

図表3:医療・福祉とその他業種の比較|残業対策・働き方改革の施策(差の順、複数回答、%)

図表3:医療・福祉とその他業種の比較|残業対策・働き方改革の施策(差の順、複数回答、%)

出所:パーソル総合研究所(2026)「人事部トレンド定量調査2026」を基に筆者作成

医療・福祉業で施策の実施率が相対的に低い傾向は、個別の施策にも共通して見られる。「業務削減・業務棚卸し」を実施している割合は、医療・福祉業で13.7%となり、その他業種の19.2%を5.5ポイント下回った。管理職への働きかけも同様である。「働き方に関するマネジメント・管理職への研修・トレーニング」は、医療・福祉業では11.3%にとどまり、その他業種の19.6%を8.3ポイント下回った。

ここで注目したいのは、実施率が低いこれらの施策の性質である。業務削減・業務棚卸しや管理職への研修は、診療報酬や介護報酬などによる収入上の制約、専門人材の供給不足、夜勤やシフト勤務を伴うサービス提供体制を直接変えるものではなく、主に組織内の業務設計やマネジメントに関わる施策である。

組織ごとに実施の条件は異なるため、容易に導入できるとまではいえない。しかし、その未実施を、業界構造だけで説明することはできない。少なくとも、構造を理由に検討の対象から外してよい施策ではない。

この点を踏まえると、構造上打ちにくい手と、組織内で検討できるにもかかわらず十分に打たれていない手は、分けて捉える必要がある。両者を一括して「業界固有の構造だから変えられない」とみなせば、後者まで検討の対象から外れてしまう。

両者を分けて見れば、医療・福祉業には、構造的制約では説明しきれない領域が残っていることが分かる。組織内で検討できるにもかかわらず、十分に打たれていない施策の余地である。これが、医療・福祉業に残された「打てる空白」である。

現場の努力で業務が回ると、課題は見えにくくなる

では、必要性が認識されているにもかかわらず、なぜ「打てる空白」が残るのだろうか。

医療・福祉のサービスは、患者・利用者の命や暮らしに直結するため、人材が不足しても容易に先送りできない。そのため、職員が互いに業務を補い、管理職が欠員を埋めることで、日々のサービスが維持されていると考えられる。こうした対応は、現場にとって必要であり、責任ある行動でもある。

しかし、現場の努力によって業務が回り続けると、かえってその負担は組織から見えにくくなる。余裕のなさは、本来なら改善の必要性を高めるはずである。ところが、表面的には業務が滞りなく終わって見えると、進め方を見直すべき課題としては浮かび上がりにくい。その結果、働き方改革の必要性が認識されていても、業務削減・業務棚卸しや管理職への研修といった個別施策の優先順位は上がらないまま残るのではないだろうか。

ここで問うべきなのは、現場の意識や努力の不足ではない。むしろ、現場が責任を果たし、業務を成立させているからこそ、仕組みの問題が表面化しにくいという点である。現場の善意によって業務が回ってしまうために、仕組みの問題が組織の課題にならず、「打てる空白」が残るのである。

変えにくい構造と、組織内で打てる手を分ける

ここまで見てきた「打てる空白」は、具体的にどこにあるのか。個々の組織では変えにくいものと、組織内で検討できるものに分けて考えたい。

両者を分ける基準となるのは、個々の組織の意思決定によってどの程度見直しの余地があるかどうかである。診療報酬や介護報酬などによる収入上の制約、専門人材の供給不足、夜勤やシフト勤務を伴うサービス提供体制などは、1つの組織だけで変えることが難しい。しかし、こうした制約があっても、業務の進め方や役割分担、情報共有、マネジメントの方法には、組織内で検討できる余地がある。両者を具体的に整理すると、図表4のようになる。

図表4:医療・福祉業における変えにくい構造と、組織内で検討できることの整理

出所:以下の※3~6資料を基に筆者作成

※3

パーソル総合研究所(2026)「人事部トレンド定量調査2026」, https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/hr-trend2026/

※4

厚生労働省「タスク・シフト/シェア推進に関する検討会 議論の整理」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15678.html (2026年8月6日アクセス)

※5

厚生労働省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」, https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/kaigoprdcimp/kaigoprdcimp_001.html (2026年8月6日アクセス)

※6

厚生労働省・日本看護協会「看護業務の効率化先進事例アワード」,https://kango-award.jp/works1/ (2026年8月6日アクセス)

例えば、人材確保・業務分担の面でいうと、専門人材の供給量は変えられなくても、業務の専門性に応じて役割分担を見直すことはできる。また、勤務体制・人員配置の面では、夜勤やシフト勤務そのものをなくせなくても、業務量や負担の偏りを把握し、シフトや引き継ぎの方法を見直す余地はある。この切り分けによって、構造的制約の中でも、組織内で優先順位を付けて検討できる領域が見えやすくなる。

ただし、施設の機能や職種構成によって、実施できる取り組みは異なる。重要なのは、これらの施策を一律に導入することではない。まず、自組織が抱える問題を、組織だけでは変えにくいものと、組織内で検討できるものに分ける。その上で、後者に十分な優先順位が与えられているかを確認することが必要である。

まとめ

医療・福祉業では、専門人材を外部から確保しにくく、採用だけで人材不足を補い続けることは難しい。だからこそ、今いる人材が働き続けられる環境を整えることが重要になる。しかし、働き方改革の必要性は認識されていても、業務削減・業務棚卸しや管理職への研修など、組織内で検討できる一部の施策は十分に実施されていない。

その背景には、現場の努力によって日々の業務が維持されるほど、負担や仕組みの問題が組織から見えにくくなることもあると考えられる。問題が表面化しなければ、組織内で検討できる施策も、優先順位が上がらないまま残りやすい。

医療・福祉業が抱える構造的制約を認めることと、その下で組織にできることを探すことは両立する。自組織の課題を、組織だけでは変えにくいものと、組織内で検討できるものに分け、後者に十分な優先順位が与えられているかを確かめる。変えにくい構造の手前に、まだ十分に検討されていない打ち手が残されていないか。それを問い直すことが、「組織が打てる空白」を埋める出発点になる。

執筆者紹介

  研究員 田村 元樹

研究員

田村 元樹 Motoki Tamura

大学卒業後、2011年に大手医薬品卸売業社へ入社。在職中に政府系シンクタンクへ出向。その後、千葉大学予防医学センター特任研究員、介護系ベンチャー企業の事業部長などを経験。高齢者を対象としたボランティア活動など多数の調査・研究に携わり、2024年1月から現職。公衆衛生学・社会疫学・行動科学の知見を活かし、働き方などの社会問題の解決に取り組んでいる。

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