人事部においても、AIは日常業務で使われ始めている。文書の作成や要約など、その活用はすでに珍しいものではない。
では、AIを使う人事部は、AIが変える仕事や組織にも向き合えているのだろうか。使うことと、変化に関わることは、必ずしも同じではない。
本コラムでは、「人事部トレンド定量調査2026」の結果から、AIを使うことが当たり前の時代において、人事部が担う役割を考える。
パーソル総合研究所「人事部トレンド定量調査2026」によれば、人事部でAIを日常的に活用している企業は39.2%であった。一方、「活用していない」は36.6%であり、その他にも任意利用にとどまる企業が一定数みられる。人事部におけるAIの利用状況は企業によって分かれるものの、日常業務での活用はすでに始まっている(図表1)。
AIを活用する業務では、「一般的な事務・デスクワーク」が最も多く、「人事評価・タレントマネジメント」「研修・人材開発」が続いている。文書作成や要約、評価コメントや研修資料の作成など、現在の業務を支援する用途が中心である(図表2)。
こうした用途は、現在の制度や役割分担を大きく変えずにAIを取り入れやすい。人事部で中心となっているのは、現在の業務を支援する使い方である。
一方で、AIを全社で活用しようとする動きに、人事部はどこまで加わっているのだろうか。「DX・デジタル化・AI活用の推進」を人事部が主導している企業は9.0%にとどまり、49.1%は「原則関与しない」と回答している(図表3)。
しかし、AIが全社に広がれば、変わるのは業務の進め方だけではない。人とAIの役割分担が変わり、組織に必要な仕事や能力も変化する。それは、人と組織のマネジメントを担う人事部にとって、無関係ではいられない変化である。
自部門ではAIを使いながら、全社のAI推進には関わっていない。調査結果から見えてくるのは、こうしたねじれである。
なぜ、人事部は自らの業務でAIを使いながら、全社のAI推進には十分に関与していないのだろうか。
一つには、人事部が置かれている状況があると考えられる。同調査によれば、人事部の内部課題では、人員の不足と専門性の不足が上位を占めている(図表4)。加えて、企画・構想力や、人事部内でのビジョンの共有にも課題がみられる。日々の業務を担う体制や専門性が不足する中では、全社のAI活用にまで関与する余力を持ちにくい。
加えて、AI活用は、技術導入や業務効率化の問題として捉えられやすい。その場合、全社のAI推進はDX・IT部門、人事部は採用や育成、評価などを担うという、従来の機能別の役割分担に沿って進みやすいと考えられる。
しかし、この役割分担のままAI活用が進めば、技術の導入と、人や組織のマネジメントが切り離される恐れがある。AIによって変わる仕事や、そこで必要となる能力を捉えなければ、人事施策をその変化に対応させることは難しい。
全社のAI推進をDX・IT部門が担うこと自体が問題なのではない。問われるのは、技術の導入を担う部門と、人と組織のマネジメントを担う人事部を、どのようにつなぐかである。AIを技術の問題として扱うことが、既存の機能別の役割分担を固定化し、人事部を全社のAI推進から遠ざける。その可能性を見落とすべきではない。
では、人事部が全社のAI推進に十分に関与しない場合、何が問題になるのだろうか。
人事部が主導するAI活用の取り組みについて尋ねたところ、「取り組みは行っていない」とする回答が45.6%であった(図表5)。実施されている取り組みでは、「AIの基礎スキルの教育・勉強会」が16.1%、「AIの専門・応用的スキルの教育」が14.1%である。一方、「評価・処遇への反映」は12.0%、「組織体制の整備」は8.2%、「人員配置・業務見直し」は6.4%にとどまる。
AIを使うための教育は、必要なスキルを備えた人材の育成にはつながる。しかし、仕事や評価、配置の仕組みそのものは、教育だけでは変わらない。全社のAI推進に人事部が関与しないままでは、AIによって変わる仕事に、評価や配置、処遇が追いつかない恐れがある。問われているのは、AIを使える人材を増やすことにとどまらず、変わる仕事に人事施策をどう対応させるかである。
この課題は、人事部だけで解決できるものではない。AIの導入はDX・IT部門、人と組織のマネジメントは人事部と、担い手が分かれているからである。では、この2つを、どうつなぐのか。
その方向性を示す事例も出てきている。2026年6月、メルカリはCTOがCHRO兼CAIOに就任し、AI戦略と人事戦略の責任者を一体化した。同月、Sansanも、CHROが新設のCAXOを兼務し、AIによる組織変革を統括する体制へと移行している。技術部門からAIと人事を束ねるメルカリと、人事部門からAI変革を担うSansanは、出発点こそ異なるものの、AIを人と組織の設計に直結させる点は共通している※。
※
メルカリは2026年6月、CTOの木村俊也氏がCHRO(最高人事責任者)兼CAIO(最高AI責任者)に就任し、AI戦略と人事戦略の責任者を一体化する体制へ移行した。同月、Sansanも取締役/CHROの大間祐太氏が新設のCAXO(Chief AI Transformation Officer)を兼務し、全社のAI変革を統括する体制を発表している。
メルカリ(2026.6.1)https://about.mercari.com/press/news/articles/20260601_chrocaio/ (2026年8月6日アクセス)
Sansan(2026.6.1)https://jp.corp-sansan.com/news/2026/0601_02.html (2026年8月6日アクセス)
重要なのは、AIと人事の責任者を兼務させること自体ではない。AI戦略と人事戦略を、別々の部門に閉じ込めないことである。AIによって仕事の分担が変われば、求められる能力や人材も変わる。その変化に合わせて、配置や育成、評価、処遇を組み替える上で、人事部が果たす役割は大きい。
全社のAI推進をDX・IT部門だけで完結させれば、技術の導入は進んでも、人と組織に関する対応が後追いになりかねない。人事部がAIの技術的な導入を主導する必要はない。しかし、AIによって変わる仕事に、配置や育成、評価、処遇を合わせるには、人事部が中心的な役割を担う必要がある。
人事部においても、日常業務におけるAIの利用は始まっている。一方、全社のDX・デジタル化・AI活用には「原則関与しない」とする人事部が多い。自らの業務ではAIを使いながら、全社のAI推進には十分に関与していない。ここに、人事部のAI活用をめぐるねじれがある。
AIが変えるのは、業務の進め方だけではない。仕事の分担が変われば、求められる能力も、人と組織の在り方も変わる。その変化に、人事部はどこまで関わろうとしているのか。
人事のAI活用がどこまで進んでいるかは、人事部内でAIを使う人や業務の数だけでは測れない。問われるのは、AIによって変わる仕事と組織に、人事部が関われているかである。AIを使うだけの人事にとどまるのか、それとも、AI推進に関わる人事へ進むのか。それが、これからの人事部に問われている。
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