イベントレポート

生成AIはなぜ職場に広がらないのか— 調査から読み解く普及へのヒント

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生成AIの登場以降、技術革新の話題は尽きず、企業でも各業界·職種で導入が進んでいます。一方で、「導入したものの現場ではほとんど使われていない」という声も少なくありません。

パーソル総合研究所が実施した「生成AIとはたらき方に関する実態調査 」から明らかになったのは、生成AIの利用実態とレディネス(準備度)の全体像、多くの企業が直面する普及の壁、そして利用が広がる企業に共通する特徴でした。

そこで、生成AIの普及が進まない背景を理解し、職場での活用を加速させたい方に向けて、生成AI利用者と非利用者の間に存在する心理的・行動的な違い、統制が強すぎるガバナンスの影響、学び合い・共有文化が利用促進に果たす役割を示し、レディネス向上に向けて企業が取り得る具体的な打ち手を整理し、実務に直結する視点とヒントを研究員 田村元樹が解説しました。

(2026年2月に開催したイベント「パーソル総合研究所 Think Forward2026春 -HRの課題を読み解くネットワーキング・セッションー」のイベントレポートです。)

イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

生成AIへの社会的関心の高まりとインフラ化の兆し

Googleトレンドの日本における人気度推移を見ると、2022年11月のChatGPT登場直後は社会的関心が低かったものの、2025年にかけて関心が急速に高まり、2025年は1年を通して高い関心が持続しました。報道や各種調査でも、生成AIと働き方に関するテーマが多く取り上げられています。

図表1.Google Trend | 日本における生成AIの人気度の動向

図表1.Google Trend | 日本における生成AIの人気度の動向

2025年は法整備やAIの基本計画の策定が進み、AIの普及・実態を把握する調査も国の機関やテック企業を中心に多数行われました。報道においても「AIで雇用が失われるのではないか」という不安と、「AIと共に進む」共生の視点が併存し、社会的な盛り上がりが見られました。

パーソル総合研究所が発行する機関誌「HITO」 においても、2025-2026年の人事トレンドワードとして「生成AIのインフラ化」を取り上げました。こうした動きを踏まえると、生成AIは不可避なインフラ化へと移行しつつあるといえるでしょう。

図表2.生成AIに関する政府、調査機関、報道の動き

図表2.生成AIに関する政府、調査機関、報道の動き

生成AIの導入は進むが職場で定着していない

一方で、現場で話をすると、いくつかの疑問が浮かび上がります。例えば、財務省の調査では「AIを導入している」と回答した企業が75.4%(大企業では約9割)に上ります。しかし「職場では活用が進まない」という声も多く、話題になっているにもかかわらず定着しない「普及の壁」が存在します。

また、生成AIの導入が進む中で、労働時間は実際に減ったのかという問いもあります。さらに、組織の中には生成AIの扱いが得意な個人がいる一方で、その力を組織的に生かしているケースと、個人にとどまるケースが混在しているのではないか。こうした点を分析する必要があると考え、調査を実施しました。

図表3.生成AIの導入が進むにつれて現れてくる問い

図表3.生成AIの導入が進むにつれて現れてくる問い

生成AIの利用率・利用層

調査は、全国の就業者2万人を対象に実施し、そのうち正規雇用者の分析も行いました。就業者全体の生成AI利用率は32.4%。正規雇用者では41.9%と、約10ポイント高くなります。注目すべきは、私たちが定義した「週4日以上使う日常的な利用者」、いわゆるヘビーユーザーが、どちらの群でも1割強にとどまる点です。

図表4.生成AIの業務利用頻度

図表4.生成AIの業務利用頻度

年代別の生成AI利用率は、若年層が先行しており、特に男女とも20~30代の利用が高い傾向が見られました(図表5左)。職位別では、係長・課長以上から執行役員層までの利用が高い一方、一般従業員と経営者層の利用は相対的に低い状況です(図表5右)。

図表5.生成AIの業務利用割合

図表5.生成AIの業務利用割合

生成AIを使わない理由

生成AIを使わない理由は、大きく3つに集約されます。「自分の業務に必要性を感じない」「使い方が分からない」「どの業務で使えるかイメージできない」。年代別に見ても、これらの理由が上位です(図表6左)。

一般層では「使い方」「セキュリティ」への不安が高く、経営層では「必要性」「活用イメージ」の不足が目立ちます(図表6右)。

図表6.生成AIを使わない理由

図表6.生成AIを使わない理由

生成AIの利用でタスク効率は向上も総労働時間は減らず

生成AIを利用した業務について、未利用時と利用時の時間を比較すると、週当たり16.7%削減され、時間に直すと26.4分/週の削減が確認されていました(図表7左)。削減時間はタスクによって差があり、「企画・相談・思考整理系」で効果が大きい傾向です(図表7右)。

図表7.生成AIを活用した業務タスクの平均所要時間と削除時間

図表7.生成AIを活用した業務タスクの平均所要時間と削除時間

しかし、削減できているにもかかわらず、「削減時間あり」と回答したのは約25%、4人に1人にとどまりました(図表8左)。さらに、生成AIの利用頻度が高い層ほど残業時間が長いという結果も得られています(図表8右)。性別や業種などの要因を取り除く他変量解析でも、この傾向は残り、無視できない結果です。

図表8.生成AIによる業務削減時間の有無と利用頻度別の週の残業時間

図表8.生成AIによる業務削減時間の有無と利用頻度別の週の残業時間

ヘビーユーザーの残業が長い理由を深掘りすると、普及の負担が一部に集中している可能性が見えてきます。生成AIの普及に伴う課題では、「関心の低い人に教える負担が大きい」「社内で使い方の指導・支援を担っている」「教育・サポートが正式な業務評価に位置づけられていない」が見られました(図表9左)。

また、生成AIのアップデート頻度が多く、学習時間や人へ教える頻度が増加し、負担が増していることがうかがえます(図表9右)。

図表9.生成AIヘビーユーザーの負担

図表9.生成AIヘビーユーザーの負担

生成AIで浮いた時間の使い方を見ると、約6割が「仕事をする」と回答しています(図表10左)。しかしその仕事の内訳は、メール対応や定型報告など「日常の業務」への配分が75.4%と高く、ルーチンワークに消化されている可能性が高いことが分かります(図表10右)。

生成AIに任せられる業務は任せ、人間は付加価値業務へ時間を振り向けたり、業務自体のやり方を改良したりする方向への再配分が進んでいない実態です。

図表10.生成AIで浮いた時間の過ごし方

図表10.生成AIで浮いた時間の過ごし方

生成AIによって部分最適は実現、全体最適は未達

ここまでをまとめると、生成AIによってタスクレベルの効率化(部分最適)は確認できました。一方で、労働時間全体の最適化(全体最適)にはつながっていません。全体の労働時間が削減されない理由は大きく3つです。

1.活用領域が狭い:生成AIの日常的利用者が1割程度で、利用タスクも限定され、インパクトが小さい。
2.普及コストの集中:非公式・ボランティア的な努力に依存する構造がある。
3.浮いた時間の吸収:生成AIによって浮いた時間がルーチンワークに回り、クリエイティブ業務への転用が進まない。

図表11.生成AIによって全体の労働時間が削減できていない理由

図表11.生成AIによって全体の労働時間が削減できていない理由

追うべきは生成AIの利用率から成熟度へ

では、生成AIを職場で活用するためには何に着目すればいいのか。それは、生成AIの「利用の有無」ではなく「活用の成熟度」を追うべきだと考えます。生成AIのライトユーザーが増えても、使い方が限定的なままでは、生産性は頭打ちになるからです。

「どう使いこなしているか」に注目し、生成AIを用いて業務プロセスを変革したり、創造的な使い方を広げたりすることで生産性を高める。この視点が組織活用の突破口になります。

図表12.今後着目すべき「活用の成熟度」

図表12.今後着目すべき「活用の成熟度」

そこで、パーソル総合研究所では、独自の10項目で「生成AIの成熟度」を測定し、生成AI活用パフォーマンスとの関係を見ました。生成AI活用のパフォーマンスとは、仕事のスピード向上、時間短縮、業務負担軽減などの「作業の効率性の高さ」と、抜け漏れの減少、成果物の質向上などの「品質・創造性の高さ」を指します。その結果、生成AIの成熟度と生成AI活用のパフォーマンスは強い相関が確認できました。

図表13.個人の生成AIの成熟度と生成AI活用のパフォーマンスとの関係

図表13.個人の生成AIの成熟度と生成AI活用のパフォーマンスとの関係

さらに、生成AIの成熟度の高低と削減時間・時間の再配分先を比較すると、高成熟度群は低成熟度群の2.3倍時間を削除できており(図表14左)、空いた時間を業務改良や新しい取り組みの探索に振り向ける傾向が強いことが分かりました(図表14右)。

図表14.生成AI成熟度別|削減時間と時間の再配分先

図表14.生成AI成熟度別|削減時間と時間の再配分先

生成AI成熟度を上げるポイント

そこで、個人の生成AIの成熟度を上げるポイントをはたらく個人と組織の観点で分析しました。

生成AI成熟度が高い個人は、「問いを楽しむ志向」と「他者に共有する志向」が高い傾向があります(図表15左)。「なぜ・なに・なんで」「みてみて聞いて」といった姿勢が強い人ほど成熟度が高い。年代別では、若年層ほどその傾向が高いことも確認できました(図表15右)。

図表15.生成AI成熟度が高い個人の特性

図表15.生成AI成熟度が高い個人の特性

生成AI成熟度の高い組織には、目先の成果より長期的成果の追求を重視する文化があります(図表16左)。例えば、一定の時間内に送れるメール通数の増加といった古典的生産性に時間を使うのではなく、業務の改良や創造に投資する長期視点が重要です。

上司のマネジメントとしては、上司自身が生成AIを使っていること、ルールが整備され明確であることが、成熟度の高さに関連します(図表16右)。

図表16.生成AI成熟度が高い組織の特徴

図表16.生成AI成熟度が高い組織の特徴

生成AI普及パターンの4タイプ

続いて、企業内の普及パターンについて、企業の生成AIの方針・利用ルール・レビュー・監査などの回答傾向から、企業の生成AI普及タイプを「仕組み化タイプ」「手探り運用タイプ」「現場任せタイプ」「統制タイプ」の4タイプに分類しました(図表17左)。

図表17.企業の生成AIの普及タイプとガバナンスの特徴

図表17.企業の生成AIの普及タイプとガバナンスの特徴

各タイプの生成AIのガバナンスの特徴として、「仕組み化タイプ」は現場裁量に委ねながら、相談・教育の役割を整え、テンプレ更新に取り組み、対極にある「統制タイプ」は厳格にルールやツールを定めてリスクヘッジを重視します。その中間に、他社事例を参考にしながら試行する「手探り運用タイプ」と、リスクヘッジは行うが、現場に運用を委ねる「現場任せタイプ」があります。

図表18.企業の生成AIの普及タイプ別の特徴

図表18.企業の生成AIの普及タイプ別の特徴

生成AIの普及タイプ別の削減時間と生成AI成熟度を見ると、削減時間は「現場任せタイプ」が最も長い一方、成熟度は「仕組み化タイプ」が最も高い。「仕組み化タイプ」は削減時間も一定の効果が出ているため、仕組み化の進め方が重要です。

対照的に、「統制タイプ」は成熟度・削減時間ともに最も低く、生成AIを生かせていない現実が見えます。統制過多は手続きが増え、使用が億劫になるため、現場の活用を阻害する可能性があります。持続的に成果を出すには、仕組み化によるガバナンスと現場の自律的活用の両立が要点です。

図表19.生成AI普及タイプ別|生成AIによる時間削減効果と生成AI成熟度

図表19.生成AI普及タイプ別|生成AIによる時間削減効果と生成AI成熟度

施策への落とし込みは「定める」「任せる」「整える」

では、生成AIを組織で活用するための具体的施策が何か。施策は「定める」「任せる」「整える」の3つに整理できます。

定める:出口戦略の明示

1つ目は、生成AIの活用によって業務の削減時間を得ること自体をゴールにせず、浮いた時間を何に使うかという「出口戦略」を明確にします。例えば、削減時間の最低2割を改善・探索に充当するなどの再配分ルールを事前に明示し、改善・探索業務の具体例を提示したり、AI活用と並走して、対人業務の質向上など、人間にしかできない改善業務を同時に走らせたりすることが考えられます。

図表20.生成AIを組織で活用するための施策1:出口戦略の明示

図表20.生成AIを組織で活用するための施策1:出口戦略の明示

任せる:公式な役割任命と評価

2つ目は、生成AIの普及が特定部門や個人のボランティアに依存する構造を改め、普及を公式の役割として任命し、評価に反映します。例えば、生成AIを試す人と広げる人の役割を明確化して連携したり、各部署に「AIアンバサダー」を置き、共有のハブを構築したり、業務への展開活動を業務目標・評価に位置づけることが考えられます。

また、「現場任せ」になりやすい経営・役員に対して教育訓練を実施し、旗振り役として適切に指揮できるようにすることもひとつです。

図表21.生成AIを組織で活用するための施策2:公式な役割任命と評価

図表21.生成AIを組織で活用するための施策2:公式な役割任命と評価

整える:知見が循環する場の整備

3つ目は、個人の知見を組織に波及させる場と仕組みを整備します。例えば、AI活用に関する相談窓口の一本化や、プロンプトや事例、注意点などのナレッジ基盤の構築、チェックリストの導入などが考えられます。

また、プロンプトギャラリーは部門適合性が弱くなりがちです。部門ごとの標準プロンプトを整備することにより、適用性と再現性を高め、組織の底上げを実現できます。

人事の役割としては、研修やOJTの展開により個人差を埋め、組織開発を担うべきです。

図表22.生成AIを組織で活用するための施策3:知見が循環する場の整備

図表22.生成AIを組織で活用するための施策3:知見が循環する場の整備

以上をまとめると、次のような役割分担が有効です。 経営層は、生成AI普及の旗振り役として、AIの活用によって削減できた時間の活用先を組織のビジョンと連動させ、推進にコミット。DX/情報システムなどの専門部隊は、AIの利用環境の整備や技術基盤の構築を担う。そして、両者をつなぐ調整役として、人事・人材開発担当者は、人事評価や活用機会の提供、研修/OJTによる学習サイクルの設計をする。この三位一体により、AI活用を個人の努力から組織の力へと転換していきます。

図表23.AI活用の推進を担う経営層、DX部門、人事の連携

図表23.AI活用の推進を担う経営層、DX部門、人事の連携

3つの壁を越え、相互学習の仕掛けを

生成AIの普及・活用は、個人の努力に依存する段階から、組織設計によって成果を最大化する段階へ移行すべきです。施策の方向性は「定める」「任せる」「整える」の3つ。組織的な検討を開始し、組織が直面する3つの壁(ルーチンワークへの吸収、ボランティア頼みの運用、個人止まり)を突破するために、浮いた時間を何に使うのかの合意形成を急ぐべきです。

そして、普及途上の組織は、全体で高め合う「相互学習の仕掛け」を整えるのが望ましいでしょう。「なぜ」「なに」「なんで」「みてみて聞いて」といった探究と共有の文化を育み、組織的な学習を仕掛けることで、生成AIの成熟度を高め、組織の力に変えていくことが期待されます。

図表24.まとめ

図表24.まとめ

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登壇者紹介


研究員

田村 元樹

大学卒業後、2011年に大手医薬品卸売業社へ入社。在職中に政府系シンクタンクへ出向。その後、千葉大学予防医学センター特任研究員、介護系ベンチャー企業の事業部長などを経験。高齢者を対象としたボランティア活動など多数の調査・研究に携わり、2024年1月から現職。公衆衛生学・社会疫学・行動科学の知見を活かし、働き方などの社会問題の解決に取り組んでいる。

  • 文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

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