調査・研究コラム

製造業中心地域に見られる「女性《活用》」の実態―真の「女性活躍」に向けた処方箋とは

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  研究員

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中俣 良太

製造業中心地域に見られる「女性《活用》」の実態―真の「女性活躍」に向けた処方箋とは

深刻な労働力不足が構造的課題となる中、「女性活躍」は経済成長と社会の持続可能性を両立させるための最重要アジェンダの1つである。とりわけ地方創生の文脈では、女性が働きやすい環境を整え、その力を最大限に引き出すことが地域の活力維持に直結する喫緊の課題である。

もっとも、「女性活躍」の進捗は地域によって大きく異なる。パーソル総合研究所が発表した「ニッポンのはたらく地図2025レポート」では、独自の女性活躍指標を作成し、47都道府県の現在地を可視化している。本コラムでは、同指標の結果を手掛かりに、地方における女性活躍の実像を読み解き、真に実効性のある「女性活躍」への処方箋について考えたい。

女性活躍指標が示すこと

まず、本レポートにおける「女性活躍」指標の定義を確認しよう(図表1)。この指標は、単に「女性が労働市場にどれだけ参加しているか」という量的な側面(女性有業率)だけでなく、「どのような形で参加しているか」という質的な側面も重視している。具体的には、「女性の非正規雇用率の低さ(=女性の正規雇用率の高さ)」や「女性の管理職・役員比率の高さ」、「男女賃金格差の低さ」といった雇用の質を測る項目が含まれる。さらに、個人の状況だけでなく、「企業の女性活躍推進の度合」といった、企業側の取り組みや風土などの環境的要因も加味しているのが特徴である。

図表1:「女性活躍」の指標内項目一覧

図表1:「女性活躍」の指標内項目一覧

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」

「女性活躍」指標の都道府県ランキング(図表2)を見ると、興味深い傾向が浮かび上がる。1位は東京都。これは、女性の管理職比率や企業の推進度合が高いことに加え、多様な産業が集積し、キャリアの選択肢が豊富な大都市の特性を反映したものだろう。

注目すべきは、2位の高知県、3位の沖縄県といった地方県が僅差で続いている点である 。これらの地域は、女性の有業率や管理職比率が全国平均を上回る傾向にある。一方で、ランキングの下位には青森県(45位)、岐阜県(46位)、山口県(47位)が位置した。

図表2:「女性活躍」の都道府県ランキング

図表2:「女性活躍」の都道府県ランキング

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を基に筆者作成

パーソル総合研究所の分析からは、このランキングは地域の産業構造と密接に関連している可能性が示唆される。情報通信業や宿泊・飲食サービス業などが盛んな地域では「女性活躍」指標が高い一方、製造業が基幹産業となっている地域では、そのスコアが伸び悩む傾向が確認された※1

※1

女性活躍指標との相関係数は以下の通り(報告書P47参照
「製造業」(-.492)、「情報通信業」(.489)、「宿泊・飲食サービス業」(.444)

エリア類型に見る「女性活躍」の実態

このランキングの背景を多角的に捉えるため、エリア別の分析に注目したい。本レポートでは、9つの指標を基に、47都道府県を8つのエリアに類型化している(図表3)。

図表3:都道府県の類型化

図表3:都道府県の類型化

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」

この8つのエリアの中で、「女性活躍」指標に着目して見てみると、最も順位が低いエリアは「工業心臓部エリア」であることが分かる(図表4)。「工業心臓部エリア」は、岐阜県や愛知県、茨城県などの、製造業が基幹産業となっている地域で構成されるエリアだ。これは前述した、「女性活躍」指標と製造業比率の負の相関とも整合的である。

図表4:エリア別9指標の平均順位

図表4:エリア別9指標の平均順位

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」

また、この「女性活躍」指標の詳細項目の順位を細かく見ていくと興味深い傾向が見られた 。それは、「工業心臓部エリア」における「女性有業率の高さ」(量)は、8エリア中比較的上位(全体15位相当)であるという傾向だ(図表5)。

図表5:エリア別 女性活躍指標の平均順位

図表5:エリア別 女性活躍指標の平均順位

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を基に筆者作成

本指標は、図表1で紹介した5項目の平均値となっており、重みづけ(特定の項目の影響度を変えるような統計的な調整)などは特段行っていない。女性の有業率が高いのに「女性活躍」指標(総合37位相当)が低いということは、有業率以外の項目の順位が圧倒的に低いということだ 。

実際に図表5を見ると、「企業の女性活躍推進の度合」(30位相当)、「女性管理職・役員比率の高さ」(35位相当)、「男女賃金格差の低さ」(36位相当)、「女性の非正規雇用率の低さ」(36位相当)といった、雇用の「質」に関わる項目が軒並み低迷している。それはすなわち、女性の雇用の質が圧倒的に低いということである。

このように「量」(有業率)は確保されている一方で「質」(待遇や登用)が伴わない状態は、日本が目指す「女性活躍」とは似て非なるものである。実態は「活躍」ではなく、労働力不足の穴埋めとしての「活用」にとどまる可能性が示唆される。

処方箋としての「静かな女性活躍推進」

では、この「工業心臓部エリア」に代表される製造業中心地域で、女性の「活用」から真の「活躍」へ転換するには何をすべきか。

これらの地域には、男性中心の雇用慣行や組織文化がなお根強い。長時間労働、年功序列、性別役割分業意識が残る中で、「女性活躍」を正面から掲げ制度導入を急げば、「逆差別だ」といった反発を招くおそれがあるかもしれない。経営の意図に反して、現場の抵抗や無関心が「雇用の質」の改善を阻害している構図がうかがえる。

筆者は、こうした地域での鍵は「あえて『女性活躍推進』を前面に出し過ぎないこと」であると考える。これは理念を捨てるということではない。「女性のため」を掲げて対立軸を強めるのではなく、別の施策の《裏側》で、あるいは《結果として》女性活躍を進めるアプローチが有効ではないだろうか。

その「別の施策」の有力候補が「生産性改革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」である。工場の自動化や業務プロセスのデジタル化は、一見すると女性活躍と無関係に見える。しかし、これは従来の性別役割分業を更新する好機となりうる。DXの進展により、これまで「男性の仕事」とされてきた重作業は機械が代替し、「プロセス管理」や「データ分析」といった新たなスキルが重視される。これにより、性別ではなく能力本位での配置・登用を進める合理的な土壌が生まれる。

また、DXはテレワークやフレックスタイムなど柔軟な働き方の基盤でもある。これらは「生産性向上」の手段として導入されるが、結果として育児や介護と仕事の両立を望む人材が正規雇用のキャリアを継続しやすくなるという強い副次効果をもたらす。

つまり、「女性活躍」を目的にせず、「生産性改革」や「DX」という組織全体が合意しやすい中立的目的の下で、実質的な「雇用の質」の改善を静かに進める。ただし、DXを単なるツール導入に終わらせてはならない。そのプロセスにおいて、性別にかかわらず誰もが新たなスキル(データ分析やプロセス管理など)を習得できる研修機会を公平に提供し、それを適正に評価する仕組みを同時に整備することが不可欠である。

この「静かな女性活躍推進」こそ、男性中心文化が残る地域で無用な摩擦を避けつつ変革を浸透させる、現実的かつ賢明な戦略ではないだろうか。

まとめ:自地域の「活躍の質」を問う

本コラムは「ニッポンのはたらく地図2025レポート」のデータを基に、女性活躍の現状を分析した。とりわけ製造業中心地域(工業心臓部エリア)では、企業の推進意識や女性の労働参加(量)に比して雇用の「質」が伴わず、「活躍」ではなく「活用」にとどまる可能性が示唆された。

労働力不足が深刻化する今、もはや「量」の確保だけでは地域の持続可能性は担保できない。企業や自治体は、女性の労働参加の「量」だけでなく、その「質」――非正規比率、管理職比率、賃金格差――を直視する必要がある。

そして、もし自地域が「工業心臓部エリア」のような構造的課題を抱えるなら、スローガンの連呼ではなく、DXや生産性改革といった具体的な事業変革を通じて、実質的な「活躍」の土壌をいかに育てるかが鍵となる。もちろん、それ以外のエリアにおいても、それぞれが抱える「質」の課題から目をそむけてはならない。今、すべての地域がその将来を見据えた、冷静で戦略的な視座を問われている。

執筆者紹介

  研究員 中俣 良太

研究員

中俣 良太 Ryota Nakamata

首都大学東京大学院 観光科学域 博士前期課程 修了。
大手市場調査会社にて、金融業界の調査・分析業務に従事した後、2022年8月より現職。人と組織に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。現在の主な調査・研究領域は、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

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