調査・研究コラム

労働力不足が最も深刻な福井県は、なぜ「はたらく幸福」日本一になれたのか―「ニッポンのはたらく地図2025」から読み解く地域の新たな生存戦略

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  研究員

研究員

中俣 良太

労働力不足が最も深刻な福井県は、なぜ「はたらく幸福」日本一になれたのか―「ニッポンのはたらく地図2025」から読み解く地域の新たな生存戦略

急速な人口減少と少子高齢化がもたらす、深刻な労働力不足。これは現在の日本社会が直面する、避けては通れない構造的な課題である。とりわけ地方においては、地域経済や社会インフラの維持さえ危ぶまれるほど、その影響は色濃く表れている。

こうした現状をデータで可視化すべく、パーソル総合研究所は「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を発表した。本レポートは、都道府県ごとの「はたらく」の現在地を、多角的な指標で明らかにすることを目的としている。

本コラムでは、レポートが浮き彫りにした1つの論点に光を当てる。一般に、労働力不足は企業経営の制約要因とされるが、同時に働き手にとっては雇用の安定や待遇改善の追い風となる側面も持つ。データは、この労働力不足という課題と「はたらく幸福(イキイキと働けているか)」の関係性が、単純ではない事実を示唆している。「労働力充足(労働力は足りているか)」が全国 47位と最下位でありながら、「はたらく幸福」「はたらく健康(健やかに働けているか)」がいずれも全国1位となった福井県を深掘りし、地方がこれから労働力不足という課題にどう向き合うべきか、その視座を提示する。

都市に集中し、地方で枯渇する労働力の実態

まず、「労働力充足(労働力は足りているか)」指標が示す日本の現状を確認しよう。本指標は、勤務先の「人手充足感」や「有効求人倍率」といった現在の状況に加え、2035年の「未来の労働力充足率」の推計値なども含んでおり、現在と未来双方の観点から地域の労働力の持続可能性を評価するものである(図表1)。

図表1:「労働力充足」の指標内項目一覧

図表1:「労働力充足」の指標内項目一覧

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」

「労働力充足」の都道府県ランキングを見ると、神奈川県(1位)、滋賀県(2位)、兵庫県(3位)といった大都市圏やその周辺が上位を占める一方、地方、特に東北の各県が下位という、いわゆる「都市>地方」の構造が鮮明に表れた(図表2)。これは、人口動態や産業構造の地域差を考えれば、ある意味で予想通りの結果といえるだろう。

図表2:「労働力充足」の都道府県ランキング

図表2:「労働力充足」の都道府県ランキング

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」

「労働力不足が深刻な地域」=「不幸な地域」なのか

労働力不足が深刻化すれば、企業側には事業縮小やサービス品質の低下といった問題が生じる。また、既存の従業員にとっても1人当たりの業務負荷の増大や、はたらきがいの低下といった負の影響が懸念される。

しかし、これはあくまで企業経営や業務負荷の側面から見た場合である。他方では、働き手の市場価値が高まることで、雇用の安定や待遇改善につながりやすいという側面も指摘できる。つまり、労働力不足は経営にとっては問題であっても、働き手によっては必ずしも悪いこととは限らない。

では、データはどのような実態を示したのか。事実は、少なくとも「労働力不足が深刻な地域」=「不幸な地域」という単純な図式にはならないことを示した。図表3は、9つのオリジナル指標の1つ、「はたらく幸福(イキイキと働けているか)」指標の都道府県ランキングである。これは、今回実施した独自の大規模調査の「はたらく幸せ実感」と「はたらく不幸せ実感」の回答スコアを基に作成しており、文字通り「はたらくことを通じて感じられる幸福度」を示す。

図表3:「はたらく幸福」の都道府県ランキング

図表3:「はたらく幸福」の都道府県ランキング

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」

「はたらく幸福」指標のランキングでは、福井県(1位)、沖縄県(2位)、島根県(3位)といった、労働力不足が比較的深刻とされる県が上位に名を連ねている。また、「はたらく幸福」を縦軸、「労働力充足」を横軸に定めた分布図からも、両者の間に明確な相関関係は見られない(図表4)。

図表4:「はたらく幸福」×「労働力充足」のプロット図

図表4:「はたらく幸福」×「労働力充足」のプロット図

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を基に筆者作成

さらに、福井県は「はたらく健康」においても1位を記録している(図表5)。「はたらく健康」指標は、ストレス反応の低さや長時間労働者の割合の低さ、仕事が原因の自殺率の低さなど、心身の健やかさのデータで構成される。「はたらく幸福」が《イキイキと働けているか》という側面だとすれば、「はたらく健康」は《健やかに働けているか》という心身の土台の安定性を示すものといえる。

図表5:「はたらく健康」の都道府県ランキング

図表5:「はたらく健康」の都道府県ランキング

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を基に筆者作成

「労働力充足」は47位でありながら、「はたらく幸福」と「はたらく健康」は共に1位。この事実は、「労働力不足=不幸」という単純な図式を覆すだけでなく、福井県の労働環境が、持続可能性の高いものであることを示唆している。

労働力不足という「逆境」が促した「幸福」

ではなぜ、最も働き手が足りていない福井県で、人々は心身ともに満たされて働くことができているのだろうか。その答えは、福井県が元来有する「強固な基盤」の上に、労働力不足という外圧が作用したことで生まれた特異なメカニズムにあると考える。本章では、福井県の基盤と外圧がどのように作用し、「はたらく幸福」・「はたらく健康」日本一をもたらしたのかについて考えていく。

「はたらく」を支える強固な基盤

福井県には、労働力不足という圧力に耐え、それをポジティブな改革へと転換することを可能にした社会経済基盤が存在すると考えられる。筆者は、この基盤を三つの要素に整理する。

1.安定した産業による雇用の安心感
福井県ではBtoB型の製造業が中心を占め、流行や景気変動の影響を受けにくい。この安定した事業モデルは堅実な雇用を生み出し、失業リスクの低さに直結する。その結果、県民は長期的な生活設計を描きやすく、将来に対する不安が小さい。

2.共助の社会システムによる活躍機会の確保
福井県は待機児童ゼロを維持する公的保育インフラに加え、三世代同居率が全国トップクラスに高く、祖父母による育児支援という私的ネットワークも強い。この公私の手厚いサポート体制が女性の正規雇用を後押しし、世帯所得と働き方の安定につながっている。また、保育や介護を家族と地域が支え合う文化は、働き盛り世代の心理的負担を軽減し、はたらきがいを高める。

3.ゆとりある生活環境が生む心身のゆとり
短い通勤時間や広い住居など、時間的・空間的に恵まれた生活環境も福井県の強みである。都市部では金銭と引き換えに失われがちなこれらの「無形の資産」は、日々のストレスを減らし、ワークライフバランスの充実に大きく寄与する。心身の土台が安定しているからこそ、人々は仕事に前向きな意味付けを見いだしやすい。

これら3つの要素は互いに補完し合い、【安定した雇用】→【安心感】→【主体的な挑戦】といった好循環を生み出しているものと考えられる。福井県の「はたらく幸福」・「はたらく健康」が全国1位となった背景には、この強固な基盤の存在が関係しているのではないだろうか。

労働力不足の深刻化に伴う働き方改革

盤石な基盤の上に、深刻な労働力不足という外圧が加わったことで、企業や社会の行動変容が加速した可能性がある。本レポートのデータは特定時点のものであり、直接的な因果関係を示すものではないが、労働力不足が働き方改革を後押しした兆しは随所に見られる。

1.全員参加を促す包摂的な雇用
深刻な労働力不足は、「今いる人材を最大限に生かす」発想を企業に促す。福井県では、女性やシニアの活躍を社会全体で支える取り組みが進み、本レポートにおける指標「女性活躍」で4位、「シニア活躍」で7位という高順位を記録している(図表6)。また、指標内項目「完全失業率の低さ」(1位)や「離職者訓練就職率の高さ」(6位)も、キャリアが途切れても再挑戦できるセーフティネットの充実を物語る。この「全員参加」型の雇用は、労働市場の参加率を高め、地域全体の活力につながっているのではないだろうか。

2.イノベーションと柔軟性の芽生え
労働力不足は、業務や制度の見直しを迫る。図表6に示した指標内項目において福井県は、「企業のイノベーション風土の醸成」(5位)や「短時間正社員制度の整備率の高さ」(7位)など、生産性向上や働き方の柔軟性に関する項目も上位に位置している。人材の多様な活用を進めることで、企業はこれまで埋もれていた能力を引き出し、新しい価値創造を図っているのではないだろうか。

図表6:福井県が10位以内に位置する指標内項目一覧

図表6:福井県が10位以内に位置する指標内項目一覧

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を基に筆者作成

3.従業員重視へと転換した経営姿勢
人材の獲得が困難な市場では、従業員の離職は大きな経営リスクとなる。その場合、企業の関心は「いかに働かせるか」から「いかに長く、気持ちよく働いてもらうか」へとシフトするだろう。図表7のデータを見ると、「はたらく幸福」を概ね予測することができる「はたらく幸せ/不幸せの7因子」尺度※1のうち、「自己裁量(仕事を自分の裁量で進められている)の高さ」(1位)や「役割認識(主体的に仕事に取り組めている)の高さ」(2位)など、仕事に対する自己決定感や意味の実感に関する指標で上位となっている。また、「オーバーワーク(仕事で精神的な余裕が作れていないと感じる)の低さ」(2位)や「理不尽(上位者から理不尽な要求をされることがある)の低さ」(2位)、「自己抑圧(仕事で成果を出す自信がない)の低さ」(4位)といった、ストレス要因の少なさも際立つ。これらは、労働者の交渉力が高まる中で企業が非金銭的報酬や職場環境に投資し、従業員の主体性を尊重するマネジメントへ転換した結果と読み取れる。

※1

井上 亮太郎・金本 麻里・保井 俊之・前野 隆司(2022).職業生活における主観的幸福感因子尺度/不幸感因子尺度の開発 エモーション・スタディーズ,8, 91‒104.
「はたらく人の幸せの7因子(はたらく幸せ7因子)/はたらく人の不幸せの7因子(はたらく不幸せ7因子)」と尺度は無償公開しています。https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/well-being/

図表7:「はたらく幸せ因子・不幸せ因子」における福井県の順位

図表7:「はたらく幸せ因子・不幸せ因子」における福井県の順位

出所:パーソル総合研究所(2025)「ニッポンのはたらく地図2025レポート」を基に筆者作成

このように、福井県では労働力不足という逆境が、包摂的な雇用政策や従業員志向のマネジメント、制度改革の触媒となり、結果として「はたらく幸福」や「はたらく健康」の向上につながっている可能性が考えられる。

おわりに:自らの「基盤」を見つめ、逆境を好機に変える

福井県の事例は、労働力不足が企業経営にとっては逆境であっても、働く個人にとっては必ずしもネガティブな側面だけではないことを示している。むしろ、それは旧来の働き方や社会構造を見直し、地域の魅力を再構築するための「好機」にもなりうる。

しかし、労働力不足という逆境を好機に変えるためには、その前提として地域が持つ固有の「基盤」が不可欠ではないだろうか。福井県の場合、それは安定した製造業や強固なコミュニティなど、長年にわたり培われてきた資産であった。これらは一朝一夕に築けるものではなく、他地域が安易に模倣できるものではない。

今問われているのは、それぞれの地域が自らの足元を見つめ直し、「自分たちの地域にとっての『基盤』とは何か」を考えることである。それは歴史的に育まれた産業かもしれないし、豊かな自然環境、独自の文化や人間関係の在り方かもしれない。その固有の基盤の上に、労働力不足という共通の課題をどう掛け合わせ、自地域ならではの働きやすく暮らしやすい社会をどう築いていくか。地方創生は、今まさにその真価を問われている。

執筆者紹介

  研究員 中俣 良太

研究員

中俣 良太 Ryota Nakamata

首都大学東京大学院 観光科学域 博士前期課程 修了。
大手市場調査会社にて、金融業界の調査・分析業務に従事した後、2022年8月より現職。人と組織に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。現在の主な調査・研究領域は、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

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