これまで、OJTに関する議論は、「どう教えるか」に極めて偏ってきた。企業実務としても、メンター研修や管理職研修といった形で、現場の指導者を対象とした取り組みは多く見られるが、その一方で「どう教わるか」という視点はほとんど取り上げられてこなかったのが現実である。
つまりそれは、新人という存在は常に指導を受ける受動的な存在とみなされていたということだ。しかし実際には、新人とは育成プロセスのもう一方の主体であり、自ら学び取る力を発揮できるかどうかが成長を大きく左右することが学術研究からも分かっている。にもかかわらず、企業のOJT施策にはこの「教わる力」を高める仕組みがほとんど存在しないのが現状だ。
そこで本コラムでは、「教える側」だけでなく「教わる側」に焦点を当て、パーソル総合研究所が実施した「OJTに関する定量調査」から新人が主体的に学びを引き出す力を整理し、その育成の方向性を提案していきたい。
コラム「令和の新人にどう教える?OJTの機能不全を防ぐ」で整理したように、OJTにおける課題は、新人を「どう教えるか」という指導側、指導方法の問題がまず着目される。「イマドキの若手の育て方」「Z世代のしかり方」「若手が辞めてしまわないフィードバックの仕方」など、教え方の変化に戸惑う指導側の苦悩もよく語られるところだ。
また、人事側がトレーニングを用意する対象もまた、メンター研修や管理職研修といった形で指導側に偏り続けてきた。昨今では、ハラスメント防止への機運が高まり、現場での不適切な指導やハラスメントなどの問題を予防することに注意を払っている人事・労務担当者も多い。このような「教師と生徒」「師匠と弟子」といった伝統的かつ一方通行的な思考フレームがOJTの発想には染みついてきたといっていい。
そうした「教え方」への注目がある一方で、現在まったく不足しているのは、「教わる側」、つまり新人へのアプローチである。
新人とは、単に指示を待つ受け身の存在ではない。近年の組織行動研究においても、「プロアクティブ行動(proactive behavior)」が個人のキャリア形成や組織適応を促進する重要な要素であることは、国内外の研究で実証的に示されてきている。新人が自ら情報を収集したり、タスクに主体的に取り組んだりすることが、環境への適応速度を高め、長期的な成長に大きな影響を与えるとされている※。
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尾形真実哉「若年意思者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と先行優先に関する実証研究」経営行動科学29.2 (2016): 3.
田中聡 他「プロアクティブ行動がリフレクションを媒介して職場における能力向上に及ぼす影響 20代の若年労働者に着目して。」日本教育工学会論文誌45.2 (2021): 147-157.
そうした先行研究も参考にして実施したパーソル総合研究所の「OJTに関する定量調査」の分析からは、図表1のような5つの行動が新人の育成効果を大きく高めることが示された。それぞれ簡単に説明しよう。
これは、わからないことを放置せず、その場で具体的に質問する力である。新人の「これはこういう意味で合っていますか?」と確認する一言が、現場でのミスやタスクのやり直しを大きく減らすことにつながる。例えば、新人が仕様書を読んで疑問に思った部分を即座に質問すれば、作業の方向性を早期に正せるが、そうしなかった場合には、業務も成長も徐々に後ろに倒れていく。
これは、与えられた作業をこなすだけで終わらず、「この後どうなるか」を考えて先手を打って考え、用意する力だ。新人の準備の質と量が、現場での仕事を大きく左右する。例えば、イベント運営において備品をチェックするだけでなく、雨天時の代替案やトラブル対応についても準備したり、数カ月先の会議室の予約を進んで行ったりすることがこの力にあたる。この「先を読む」意識は、仕事の出来不出来の印象を大きく左右するものだが、きちんと論じられることが少ない力の一つだ。
組織内のすべての仕事は人とのつながりの中で進む。対面でもリモートでも、自分から「会う」力を発揮し、コミュニケーションの機会をつくり、相談しやすい関係性を築くことが欠かせない。特にテレワークしている新人は、社内外ネットワークを築けないと嘆くだけでなく、オンライン雑談会や懇親会を自ら提案・実施できるかどうかで、仕事を進めていくうえでの調整や知識の調達に雲泥の差がついていく。
これは優れた人の行動や考え方を観察し、積極的に模倣する力のことだ。ただ指導者の仕事ぶりを見ているだけでなく、意識して自分の行動に取り入れていくことでスキルの習得スピードは加速する。分析上でも、優れた先輩の行動・思考パターンを積極的に模倣し吸収する意識は、新人の成果を大きく左右していた。上司や先輩の一挙手一投足を観察し、数少ない経験から多くを吸収する心構えは、多忙な現場にとっては特に重要だ。
これは、学んだことを自分の言葉で記録し、再利用できる形にする力を示す。記憶に頼らず書き残すことで、知識が自分の資産になる。例えば、毎日の終業時に5分だけ「今日教わったこと」「気づいたこと」をメモする習慣を続けた新人は、振り返りが容易になるだけでなく、その後の後輩指導にあたっても活用できるだろう。
これらの5つの行動が新人のパフォーマンスに紐づいていた力であった。図表2に示したように、これらの行動が高い層と低い層を比較すれば、圧倒的に高い方の新人が「仕事に慣れた」時期が早い。つまり、新人側の行動をよりプロアクティブな方向に向かわせることができれば、成長の速度は組織的に底上げできることを示している。
OJTを「教える側」と「教わる側」で整理すれば、図表3の左側、つまり「教える側」にとってどんなスキルや指導方法が重要なのかは、コラム「令和の新人にどう教える?OJTの機能不全を防ぐ」で述べた。現状、企業が行うOJT支援は、主にこちらの上司や指導者などの「教える側」への支援に偏っている。例えばOJTマニュアルの整備や指導力向上のためのトレーニングといった施策などだ。
しかし、難度を増し続けるOJTを今後も持続的に機能させるために筆者が提言したいのは、「教える側」と「教わる側」の両方にアプローチするいわば「両手型」の支援への転換だ。
教える側への支援は継続しつつ、今必要なのは図表3の右側、新人(教わる側)へのトレーニングや知識付与である。新人が先ほどのような「訊く力」「先を読む力」「真似る力」「記す力」を主体的に発揮できるようにするには、そうしたことを知り、トレーニングすることが事前に必要になる。すでに新人は、「教わることを教える」ことが必要なフェーズに入っているということだ。今のように、「教わり方を教わっていない」状態で現場に放り出すことをやめ、管理・人事部門が研修プログラムやオンボーディング支援を体系立てて設計・提供するべきと考える。
特に多くの会社で見直すべきは、現在の定型的で形骸化した新人研修である。社長あいさつ、各事業部紹介、ITツール研修、理念研修、コンプライアンス研修など――、導入研修プログラムはどこも「あれもこれも」で情報過多になりがちものだが、どの内容も、現場配属後のOJTの質を高めるものではない。現場に出たときに「どう教わるか」という力が不足したまま配属され、結局現場の上司や指導員の工夫に依存するという慣習が続いている。
具体的に提案したいのは、既存の新人研修の中に、「教わるスキル」を明示的に組み込むことだ。
先ほど見たようなプロアクティブ行動、例えば質問の仕方、先を読む思考法、学びのメモ化、先輩の観察ポイントなどを、演習やロールプレイを含めて体験させておく。さらに、オンボーディングの一環として「新人の5つの行動」をまとめたハンドブックを配布し、配属後も繰り返し参照できるようにする。
さらに重要なのは、上司やメンターに新人が事前に学んだ内容を共有することだ。仕組みを整えることで、指導者側は「新人はすでにここまで習得している」という前提の下で指導できる。「成長にとって重要なポイントがすでに伝達済みである」ということを知らせることで、指導側の負荷は一気に低減する。属人的な教え方のばらつきが減り、人事と現場が共通のフレームで育成に取り組めるようになる。
例えば、新人へのフィードバックにあたっても、指導員から「メモはとった方が良いよ」と注意するのではなく、「記す力が大事だと、研修でも教わったよね」と2方向からフィードバックできるようになる。このような形で指導の属人性を廃しつつ、「自己主張だけ激しい新人」や「成長意欲が見られない新人」といった、現場のマネジメントだけでは苦労する新人へ、会社として啓発や意識づけを行えるようにもなる。
こうした「新人側」への「面」で行う訓練は、人事部門からしか実施できない施策である。現在の「指導」偏重の支援を、「両手型」支援へと転換することで、現場の育成力を抜本的に底上げし、組織全体の成長に直結させていきたい。これは、新人を受け身から自走型の成長へと導き、「教える側」の過剰負荷を防ぎ、組織全体のOJTのスタンダードを底上げするための最も実践的な一手である。
従来型OJTは、「教える側」への偏重により、新人を受け身な存在に置きすぎていた。実際には、新人自身が「訊く・先を読む・会う・真似る・記す」といった主体的行動を発揮できるかどうかが、成長と適応を大きく左右する。
「今どきの新人は受け身だ」「熱意が感じられない」といった世代論交じりの嘆息はよく現場から聞かれるものだが、新人を「受け身な存在」へと矮小化してしまっているのは、人事含む既存社員側の思考スキームそのものともいえる。
難易度が上がり続けているこれからのOJTには、指導者だけでなく新人にも体系的な支援を行う「両手型」への転換が求められるし、現場主導ではそうした転換は難しい。「教わり方を教え、それを教える側にも共有する」という視点を導入することで、現場の育成力を抜本的に強化し、組織全体の成長を加速させることができるだろう。
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