調査・研究コラム

「相談」から始まる更年期支援―相談が生まれる職場の条件とは

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執筆者

  研究員

研究員

砂川 和泉

「相談」から始まる更年期支援―相談が生まれる職場の条件とは

更年期による体調不良を抱える部下に対し、声をかけることをためらう上司は少なくない。その背景には、更年期症状への理解不足がある。また、声かけによって誤解を招くのではないかという懸念も根強い。一方で、本人も職場での相談を避ける傾向があり、その結果、支援の機会が失われてしまう。こうした機会損失は、仕事のパフォーマンス低下や離職といった形で、組織にとって大きな痛手となる可能性がある。

更年期支援を機能させるには、まず相談行動が自然に生まれる職場環境を整える必要がある。そこで本コラムでは、相談を可能にする3つの条件を整理し、企業が取るべき対応の方向性を明らかにする。

なお、本コラムでは、女性の相談促進に焦点を当てるが、更年期の健康課題は男性にも生じうるものであり、男性に向けたアプローチも今後の検討課題である。

更年期症状についての相談の有無が、支援格差を生む

更年期に関する支援が得られるかは、本人の相談行動に大きく左右される。実際、更年期症状について同僚に相談した経験を持つ人は、情緒的なサポートや、症状や対処に関する情報を受けやすい傾向がある(図表1)。このように、相談の有無によって支援の届く人と届かない人の差が生じ、その結果、仕事のパフォーマンス維持や継続就業意欲にも影響を及ぼしている。

図表1:同僚からサポートを受けた割合<同僚への相談有無別>

図表1:同僚からサポートを受けた割合<同僚への相談有無別>

出所:パーソル総合研究所(2024)「更年期の仕事と健康に関する定量調査」より筆者作成

しかし現実には、更年期について相談する人は多くない。上司への相談は1割程度にとどまり、同僚への相談も2割未満に過ぎない(図表2)。言い換えると、9割の人が上司に、8割以上の人が同僚に相談していないのが現状である。

図表2:更年期症状について相談した人の割合

図表2:更年期症状について相談した人の割合

出所:パーソル総合研究所(2024)「更年期の仕事と健康に関する定量調査」より筆者作成

上司の性別は、相談の本質的な障壁ではない

「自分が男性上司だから相談されないのではないか」といった声は現場でも耳にするが、調査結果を見る限り、相談行動に影響するのはそれだけではない。実際には、女性上司に対しても相談しにくいと感じている女性が半数を超えている(図表3)。上司の性別よりも、「相談することで不利益を被るのではないか」「相談しても意味がないのでは」といった懸念や、健康や性にまつわる話題への抵抗感が、大きな壁になっている。こうした抵抗感は、他者に頼る力、すなわちヘルプシーキング力の不足とも関係がある。

だからこそ、相談のハードルを下げるには、上司の性別にこだわるよりも、心理的な壁を取り払う職場の風土の醸成、上司との信頼関係づくり、そして従業員本人の頼る力を高めるための心理的バリアの低減に目を向ける必要がある。

図表3:更年期症状についての相談のしにくさ

図表3:更年期症状についての相談のしにくさ

出所:パーソル総合研究所(2024)「更年期の仕事と健康に関する定量調査」より筆者作成

更年期症状についての相談が生まれる職場には、3つの条件がある

パーソル総合研究所が実施した「更年期の仕事と健康に関する定量調査」を踏まえると、職場で相談が生まれるための条件は次の3つである。

1つ目は、更年期に関する揶揄や軽視がない職場風土である。症状を笑いの対象としたり、真剣に受け止めなかったりする職場では、相談は起こりにくい。実際に「軽視された」「笑われた」といった経験がある人の8割近くが、「相談してもわかってもらえない」と回答している。こうした無理解を未然に防ぐには、正確な知識と対応を職場で共有することが欠かせない。

2つ目は、上司との信頼関係である。信頼がなければ、健康に関する相談は成り立たない。日頃から健康を大切にする姿勢を示し、公正な評価や柔軟な働き方の許容といった健康配慮型マネジメントを行うことを通じて、信頼の基盤を築いていく必要がある(図表4)。

図表4:上司への更年期症状の相談有無と上司のマネジメントとの関係性

図表4:上司への更年期症状の相談有無と上司のマネジメントとの関係性

出所:パーソル総合研究所(2024)「更年期の仕事と健康に関する定量調査」

そして、3つ目の要素として注目すべきなのが、従業員自身が「頼る力(=ヘルプシーキング力)」を持てているかどうかである。相談をためらう背景には、「恥ずかしい」「難しそう」「働き方を変えたくない」といった認知バイアスがあるが、正しい知識を得ることで、そうした思い込みはある程度和らぐ。例えば、更年期の典型的な症状や男女共通の課題であることを知るだけでも、相談への抵抗感は軽減されやすくなる(図表5)。

実際、これから更年期を迎える人へのアドバイスを募った自由回答では、相談することや助けを求めることを勧める声も複数見られた。例えば、「恥ずかしいことではないので、誰かに相談したり助けてもらったりしたほうが良い」といった意見もあり、一部の経験者が、認知を変えることの重要性を実感している様子もうかがえる。

図表5:更年期症状の知識と認知バイアス/認知バイアスとヘルプシーキング力との関係性

図表5:更年期症状の知識と認知バイアス/認知バイアスとヘルプシーキング力との関係性

出所:パーソル総合研究所(2024)「更年期の仕事と健康に関する定量調査」より筆者作成

企業が果たすべき更年期支援の役割と、取り組みの方向性

ここまでの内容を踏まえると、企業が果たすべき更年期支援の役割は明確である。

更年期を揶揄や軽視の対象としない職場風土の醸成、信頼される上司の育成、そして何よりも、従業員自身が安心して頼ることができる環境の整備が求められる。

特に3つ目の、従業員が安心して頼ることができる環境の整備は、今後ますます重要性を増すものである。相談しやすい環境を整えることに加え、本人への適切な情報提供も欠かせない。研修や社内報、健康通信などを通じた継続的な働きかけを通じて、更年期に関する知識や相談先の情報、相談しても問題がないというメッセージを届けることが重要である。これにより、相談の心理的ハードルが下がり、制度や支援を実効性あるものに変える起点となる。

まとめにかえて:更年期症状について相談されない職場に潜むリスクに目を向ける

更年期による不調は外見からは分かりにくく、本人も自覚していない場合が多い。こうした不調が支援されずに放置されることは、企業にとって大きなリスクとなる。しかし、そのリスクは未然に防ぐことができる。鍵となるのは、相談できる職場づくりである。更年期への理解がある風土信頼される上司、そして安心して支援を求められる従業員。この三要素が揃うことで、相談という行動が促され、支援も機能し始める。

声が上がらないからといって、問題がないとは限らない。声が上がらない背景には、言い出しづらい雰囲気や制度上の壁があるかもしれない。こうした前提に立ち、人事部門や経営層が主体となって、更年期症状についての相談が生まれる職場づくりを進めていくことが求められる。

[注]

 各リンク先の内容は、2025年7月29日時点で確認した情報に基づいています。

執筆者紹介

  研究員 砂川 和泉

研究員

砂川 和泉 Izumi Sunakawa

大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。各種定量・定性調査や顧客企業のビジネスデータ分析を担当したほか、自社の社員意識調査と人事データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。
著書に『学びをやめない生き方入門』(中原 淳、ベネッセ教育総合研究所との共著・テオリア)。

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