40〜50代の正規雇用女性は約560万人に上り、正規雇用者全体のおよそ6人に1人を占めている[注1]。この世代は企業内で管理職やプロフェッショナルとして活躍しており、組織の中核をなす存在である。一方で、この年代は更年期に差しかかる時期と重なり、心身の不調を抱える人も少なくない。
[注1]
総務省「令和4年(2022年)就業 構造基本調査」より集計
更年期症状は仕事のパフォーマンスや離職にも影響を及ぼすことから、本人によるセルフケアと、それを支える職場の支援が欠かせない。しかし現実には、本人でさえ更年期による不調であることに気づいていないケースが多く、セルフケアすら十分に行われていない。また、企業としての対応も遅れており、セルフケアの促進すら十分に行われていない中、ましてや上司や同僚による支援を後押しする施策にまで目が向けられていないのが実情である。
そこで、本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した「更年期の仕事と健康に関する定量調査」結果を基に、更年期に伴うパフォーマンス低下や離職を防ぐために、企業が取り組むべき支援策を「セルフケア」「ラインケア」「ピアサポート」の3つの柱に整理して紹介する。
※
本コラムでは便宜上、女性の更年期に焦点を当てているが、記載した支援策の多くは男性にも有効である。更年期男性についての分析結果は、報告書P.75を参照されたい。
更年期症状による仕事への影響は想像以上に大きい。ホットフラッシュや睡眠障害、気分の浮き沈みといった不調が、集中力や対人関係にまで影響する。パーソル総合研究所の調査でも、更年期症状を抱える人ほどパフォーマンスが低下しやすく、離職意向も高い傾向が見られた(詳細はコラム「更年期の健康は職場の問題である―経営リスクとして企業が今取り組むべき理由」参照)。
問題なのは、こうした課題が、しばしば「年齢のせい」や「仕方のないもの」として軽視され、対策が後手に回りがちなことである。しかし、実際には、次の3つの観点からの対応があるかどうかによって、パフォーマンスや離職意向に大きな違いが生じることがデータから分かっている(図表1)。
1つ目の観点は「セルフケア」である。本人自身が体調管理に取り組み、食事などの生活習慣を見直すことが、特にパフォーマンス低下防止に有効である。
2つ目の観点は「ラインケア」である。上司が、在宅勤務やフレックス制度、時間単位での休暇取得といった柔軟な働き方を許容することは、部下のパフォーマンスを下支えする。実際に、更年期症状と仕事を両立するにあたって役に立った制度や支援について調査で尋ねたところ、リモートワークやフレックスタイム制度について「症状が現れてもコントロールしやすい」「在宅勤務のおかげで通勤の負担が軽減されている」といった意見が見られた。また、「急な早退や休みに対応してもらえるので助かる」「薬をもらいに行くだけでの中休みも取りやすい」といった声も挙がっており、柔軟な働き方が体調管理のしやすさにつながっている様子がうかがえる。さらに、上司が日頃から健康の重要性を伝えていることや、評価基準が明確で透明性が高いことも、更年期症状を抱える人が職場で働き続けたいと感じることと密接に関係している。
最後の観点は「ピアサポート」である。ピアサポートとは、症状や対処、相談先、職場の制度などについての「情報提供」や、相談にのってくれた、体調を気遣ってくれたなどの「情緒的支援」による支え合いを指す。同じような経験を共有し、「自分もそうだったよ」と寄り添う言葉は安心感につながる。また、同じ立場から得られる症状や対処、相談先、職場の制度などの情報は役に立ちやすい。
特筆すべきは、本人のセルフケアに加え、上司や同僚の関与が仕事のパフォーマンスと離職意向に大きな影響を及ぼしている点である。職場における支援の有無は、パフォーマンスや継続就業を大きく左右する要因となっている。これは人事や上司にとっても、看過できない課題である。
一方で、「更年期ですか?」といった嘲笑的発言や軽視された経験が、深刻な心理的ダメージを与えることもある。支援体制を整えるには、職場全体の理解と配慮が欠かせない。
更年期の問題に対応する上で最も大きな壁のひとつが、本人がその不調を更年期によるものと自覚していない点である。更年期の始まりが曖昧であることもあり[注2]、自分の不調が更年期によるものだと気づかない人も多い。実際、要長期治療レベルの女性の4割以上、重度レベルの男性の7割近くが更年期症状であることを自覚していなかった(図表2)[注3]。
[注2]
更年期は、閉経の前後10年間を指す。閉経は、月経が12か月以上停止した時点で、過去を振り返って判断されるため、閉経を迎えたかどうかは事後的にしか確認できない。このため、更年期の始まりをあらかじめ特定することはできない。更年期の定義については、公益社団法人 日本産科婦人科学会のホームページを参照。https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/
[注3]
更年期症状保有者の定義(症状レベル)
更年期の症状であることを自覚しているかどうかにかかわらず、具体的な症状をどの程度実感しているかについて、チェック項目の合計得点(更年期症状スコア[女性:SMI(Simplified Menopausal Index)/男性:AMS(Aging Males’ Symptoms)])を基に、以下の4区分に分類し、「軽度」以上のレベルに分類された40-50代の人を「症状保有者」として分析した。
*4区分化:女性:0~25点「なし」/26~50点「軽度」/51~65点「受診推奨」/66点以上「要長期治療」
男性:0~26点「なし」/27~36点「軽度」/37~49点「中程度」/ 50点以上「重度」
なお、このスコアは本人の自覚症状に基づく目安であり、医療的な診断とは異なる点に注意が必要である。更年期障害の診断には、閉経状況の確認や他の疾患の除外が必要とされる。
こうした「気づきの壁」は、セルフケアを実践する上での大きな障害となる。更年期を自覚している人は、自ら温度調整や食生活の見直し、リフレッシュなどの対処を行う傾向があるが(図表3)、自覚のない人は対処に至らず、結果として仕事のパフォーマンスに支障が出やすい。
だからこそ、企業としては、まず本人が気づくように後押しする必要がある。具体策としては、更年期チェックシートの配布やセルフチェックキットの周知、専門医の紹介、チラシの配布などが挙げられる。これらは、自覚につながりやすい事柄であるにもかかわらず、実際にそれらに接している人は少ない(図表4)。そのため、企業の支援策としてこれらを提供することには大きな意味がある。
更年期支援を企業として取り組む際は、「セルフケア」「ラインケア」「ピアサポート」の三本柱で考えると整理しやすい。いずれも制度や環境の整備だけでなく、現場で実際に使われる状態にすることが要となる。
【1】セルフケア促進
まず出発点となるのは、本人が不調を更年期によるものだと認識し、必要な対処行動をとれるようにすることである。更年期診断チェックシートの配布や、専門家への相談窓口の整備などがこの気づきを促す手段となる。
次に、対処行動を支えるためには、柔軟な働き方の制度(フルフレックス、時間単位休暇、特別休暇、在宅勤務など)と、日常の体調管理を後押しする工夫(保冷グッズ、栄養士による指導など)の両面からの支援が重要である。
また、本人が必要な対処行動をとるには、相談しやすい環境づくりも欠かせない。例えば、社内相談窓口やオンライン診療、知識提供などは、心理的ハードルを下げる有効な手段である。JALではオンライン診療の導入により、更年期症状の軽減が確認されている[注4]。
【2】ラインケア促進
上司が更年期についての理解を深め、柔軟に対応できるようになることは、部下との信頼関係を築き、部下の自律的な対処行動を後押しする上で重要である。こうした対応力を高めるには、管理職向けの研修やeラーニングに加え、人事部門による助言体制の整備が望ましい。
また、制度面では、評価基準の明確化や透明性の確保も欠かせない。さらに、経営層の理解と関与は全社的な取り組みの後押しとなる。実際にLINEヤフーでは、役員が「女性の健康検定」を受験しており、経営陣の知識と理解が女性の健康支援の成果につながっている[注5]。
[注5]
LINEヤフーの事例については、以下を参照:
・LINEヤフー株式会社 サストモ「”みんなの当たり前を増やす”ための女性活躍促進。これからの企業制度・施策の考え方」(2023.03.08) https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/149.html
・公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会「女性の健康経営アワード2023 受賞企業紹介」 https://www.meno-sg.net/health_management/menoawards/4626/#i-4
【3】ピアサポート促進
従業員同士の情報共有や情緒的な支え合いも、自然発生に任せるのではなく、企業が仕組みとして後押しすることが望ましい。従業員リソースグループ(ERG)や、語り合える場の整備はその一例である。例えば丸井グループでは、全事業所に「女性ウェルネスリーダー」を配置し、定期的な学習・情報交換を行うことで、各事業所の健康への取り組みを推進している[注6]。
[注6]
丸井グループの事例については、以下を参照:
東京都「働く女性のウェルネス向上委員会 企業の取組事例 『取締役の産業医を旗振り役に、従業員が自律的に行動する健康施策を実施』[株式会社丸井グループ]」(2023.12.05) https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/examples/08/
これら三本柱の施策を職場で確実に機能させるには、共通の土台が必要である。それが「教育・啓発」と「柔軟な働き方の整備」である。
教育・啓発では、更年期に対する無理解や偏見、そしてハラスメントを防ぐために、更年期に関する正しい知識と理解を職場全体に浸透させることが重要だ。具体的な手段としては、セミナー、eラーニング、イントラネットでの情報発信、社員の体験談の共有など、多角的なアプローチが効果を発揮する。例えば花王では、定期的に女性の健康に関するセミナーを実施するとともに、社内イントラネットにおいて「Women’s News」として女性の健康に関する情報発信を行っている[注7]。また、丸紅では性別を問わず全社員を対象にセミナーや情報提供を行うことで、職場全体での理解を深める取り組みが進められている[注8]。
[注7]
花王の事例については、以下を参照:
厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」 https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/kao-co.ltd.html
[注8]
柔軟な働き方については、特別休暇のような一時的な対応にとどまらず、日常的に利用しやすい環境を制度として整えることが重要である。フルフレックス、時間単位休暇、テレワークなどに加え、制度名の工夫によって利用の心理的ハードルを下げる工夫も有効だ。例えば、サイバーエージェントの「エフ休」(通常の有給休暇も含めて女性が取得するすべての休暇を総称) [注9]や、河村電器産業の「健康休暇」[注10]などがその一例である。
[注9]
サイバーエージェントの事例については、以下を参照:
東京都「働く女性のウェルネス向上委員会 企業の取組事例 『女性のための休暇「エフ休」を策定。福利厚生も斬新なネーミングで“バズ”らせる』[株式会社サイバーエージェント]」(2023.11.28) https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/examples/07/
[注10]
河村電器産業HP参照 https://www.kawamura.co.jp/recruit/newgraduate/personnel/
このように、「教育・啓発」と「柔軟な働き方」は、三本柱の支援策を職場で確実に機能させるために不可欠な土台であり、まず優先的に取り組むべき事柄である。
更年期症状は、企業の中核を担う年代の従業員に多く見られ、仕事のパフォーマンス低下や離職リスクと直結する深刻な課題である。中核人材の安定的な活躍を支えるには、本人任せにせず、職場全体で支える視点が欠かせない。
企業が目指すべきは、制度を整えるだけでなく、それが日常的に活用され、支え合う文化として根付くことである。そのためには、第一に、セルフケアを促進し、本人の気づきと行動を後押しすること。第二に、ラインケアを促進し、上司が健康に配慮した柔軟な対応を行うとともに、評価の透明性を保つこと。第三に、ピアサポートを促進し、従業員同士が支え合える環境をつくること。そして、これら三つの柱を機能させるための基盤として、教育・啓発の強化と、柔軟な働き方の整備が必要である。
更年期の健康は、組織で支え、ともに乗り越えるべき課題である。支援の必要性を認識し、自社にできる一歩から制度と風土を整えていくことが、持続可能な組織運営と中核人材の安定的な活躍を支える土台となる。
[注]
各リンク先の内容は、2025年7月29日時点で確認した情報に基づいています。
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