公開日 2025/02/27
近年、若手人材の採用・定着が重要課題となっている。しかしそのような中、20代のメンタルヘルス不調による休職・離職が増えていると指摘される。この10年ほどでメンタルヘルス対策はむしろ強化されてきたはずだが、なぜ今20代若手のメンタルヘルス不調が増えているのだろうか。
この問題をひもとくために、パーソル総合研究所では「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」を実施した。その結果、新たなテクノロジーへの対応に伴って生じる「テクノストレス」の影響が強く出ていることが見えてきた。本コラムでは、テクノストレスによるメンタルヘルス不調の実態と職場にできる対応策について見ていきたい。
生成AIの登場をはじめ、急速に進化するテクノロジーは、人々の生活や産業に多大な恩恵をもたらしている。一方で、テクノロジーの普及による「テクノストレス」の問題も注目されている。
例えば、スクリーンタイム(スマホなどのデジタル機器の画面を見る時間)がメンタルヘルスにおよぼす悪影響である。スクリーンタイムが長いと、脳疲労から集中力や記憶力が低下し、目の疲れや首・肩のこりが引き起こされる。これが自律神経を乱れさせ、無気力、不安、イライラといったメンタル症状につながることが知られている。
また、オンラインコミュニケーションによるストレスもある。オンライン会議では、表情やジェスチャー、声色、視線、姿勢などの非言語情報や即時性が失われ、誤解や疎外感が生じやすいことが分かっている。コロナ禍で強制的なテレワークが広がった際も、孤独感からメンタルヘルス不調が増加したことが多数報告された※1。
※1 パーソル総合研究所(2020). テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査 など多数
さらに、業務時間外も鳴りやまないメッセージ通知によるストレスが深刻化しているため、「つながらない権利」が議論されている。また、テクノロジーに仕事を奪われることへの不安、テクノロジーへの適応を強いられるストレスについても古くから議論されてきた。
これらの中でも特に、若手社員のメンタルヘルス不調の増加と関連していることが分かったのが、長時間のスクリーンタイムの影響とテレワークによって生じる孤独感である。
スクリーンタイムを年代別に見ると、若手ほど長い傾向がある。特に、休日のスクリーンタイムで年代差が大きく、20代では1日あたり5時間以上のスクリーンタイムの人が約半数に上る(図表1)。仕事のある日よりもむしろ休日のスクリーンタイムのほうが長いのが20代の特徴である。
図表1:仕事のある日とない日のスクリーンタイム[1日当たり、年代別]
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
長時間のスクリーンタイムがメンタルヘルスを悪化させる可能性があるのは先述の通りである。調査によれば、スクリーンタイムが長い上位20%(週52時間以上、1日平均7.4時間以上)の20代若手社員は、下位20%の20代若手社員と比べ、脳疲労や眼精疲労の発生率が1.5倍、メンタル症状(不安感)の発生率が1.6倍も高かった(図表2)。
図表2:スクリーンタイムと疲労・ストレス反応との関連
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」より筆者作成
スクリーンタイムが長くなるほど、脳疲労、眼精疲労、メンタル症状が悪化することが明確に表れている。このような結果から、スクリーンタイムが長い人については、メンタルヘルス不調の直接の原因が仕事上の問題だったとしても、水面下ではスクリーンタイムが関与している可能性は否定できない。
20代若年層ではテレワーク希望者が多い反面、実際のテレワークに対する適応状態があまりよくないことは、過去の調査からも指摘されてきた。例えば、2021年のコロナ禍中に行われた調査では、20代のテレワーク実施者は非実施者に比べてオーバーワークになりやすく、疎外感を抱き、仕事の能力に自信が持てない割合が高かった※2。業務経験が浅く自律的な業務遂行が難しいが、テレワーク下では上司・同僚のサポートやフィードバックが得づらかったことが背景にあると考えられた。
※2 パーソル総合研究所(2021). はたらく人の幸せに関する調査【続報版】(テレワーカー分析編)
今回の調査では、20代はテレワークの頻度が多いほど孤独感が増すことが明らかになった(図表3)。一方、30代以上ではテレワーク頻度と孤独感に関連はない。一般に孤独感の高まりはメンタルヘルスを悪化させる。
図表3:テレワーク頻度と孤独感の関係[20代、30代以上]
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
ただし、テレワークをしている20代若手が職場で人間関係を築けていないわけではない。「職場の個人的な悩みを相談できる人数」は、20代も30代以上もテレワーク実施者のほうが多い。このことから、問題は関係の量ではなく質にあると考えられる。
背景には、先述の通り経験が浅い中で、先輩や同僚の仕事ぶりを直接見て覚えたり、気軽な雑談を通じて仕事のアドバイスを得たりする機会が少ないことがあるだろう。加えて、他の同僚の仕事ぶりを見て自身の立ち位置を知ることや、仕事仲間との気軽な交流も、自身の職業的アイデンティティ(職業を通じて自分をどう定義し、社会との関係性をどのように位置づけるか)が確立されていない20代若手にとってより必要だと考えられる。
では、このような2つのテクノストレスに対し、職場はどのような対応ができるだろうか。
まず、スクリーンタイムについては、その悪影響を従業員の健康促進策の一環として啓発することが考えられる。プライベートのスクリーンタイムに職場が介入することは難しいが、啓発によってセルフケアを意識してもらうことはできる。また、IT系職種やテレワーク職場など、PCを使う時間が長い職場では、業務の中で眼精疲労対策をすることも重要である。具体的には、画面と適切な距離を保つ、画面輝度を調整する、休憩をとるなどの対策が知られている。また、そもそも長時間PC作業をしなくて済むように、業務効率化や残業規制をすることも重要だろう。
次に、若手のテレワークの孤独感を防ぐには、業務で頻繁に関わる相手と親密な関係を作ることが効果的である。
調査では「上司との親密さ」が孤独感を解消する傾向があった(図表4)。一方で、職場に相談できる相手が多くても、孤独感は解消されない傾向があった。また、意外にもプライベートの交流頻度や同居家族の効果もみられず、フルタイムで就業する正規雇用の20代若手社員において、仕事における人間関係がいかに重要であるかがうかがえた。ここから、チームメンバー同士で親睦を深める機会を設けると、テレワーク下の孤独感に即効性があることが分かった。
図表4:テレワーク下の孤独感を低減する要因
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」より筆者作成
近年注目されるスクリーンタイムやテレワークによるテクノストレスは、20代若手社員のメンタルヘルスを知らず知らずのうちに悪化させている可能性がある。テクノロジーの恩恵が大きいだけに、その悪影響は気付かれにくい。今後も社会全体でテクノロジーの活用が進むと考えられるため、職場においてもテクノストレスへの対策はますます重要になるだろう。
本コラムでは、20代若手社員のメンタルヘルス不調が増えている要因の1つであるテクノストレスの影響とその対応について見てきた。本コラムのポイントは以下の通りである。
・20代若手はスクリーンタイムが長い傾向にあり、このような若手は眼精疲労・脳疲労からストレス反応が高まりやすい。
・テレワークを行っている職場では、20代若手が特に孤独感を感じやすい傾向がある。
・職場の対応策としては、健康促進策の一環としてスクリーンタイムの悪影響を啓発し、セルフケアを促すことが有効。また、テレワークを多く実施している職場では、20代若手社員がチームメンバーと親睦を深める機会を設けることが、孤独感の解消に有効だ。
本コラムが、職場のメンタルヘルス対策について考える一助となれば幸いである。
※このテキストは生成AIによるものです。
テクノストレス
テクノストレスとは、新たなテクノロジーの普及に伴って生じるストレスを指す。特に若手社員に多く、スクリーンタイムの長さやテレワークによる孤独感がメンタルヘルス不調の一因となっている。
シンクタンク本部
研究員
金本 麻里
Mari Kanemoto
総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
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