公開日 2025/02/26
近年、若手人材の採用・定着が重要課題となっている。しかしそのような中、20代のメンタルヘルス不調による休職・離職が増えていると指摘される。この10年ほどでメンタルヘルス対策はむしろ強化されてきたはずだが、なぜ今20代若手のメンタルヘルス不調が増えているのだろうか。
この問題をひもとくために、パーソル総合研究所では「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」を実施した。その結果、若手特有の「拒否回避志向(人目を気にする、怒られたくない、対立回避、受け身の姿勢、失敗への恐れ)」や将来のキャリアや生活への不安による影響が見えてきた。このような意識は、時代の変化に伴い強まってきており、世代間ギャップを形成しているといわれる。本コラムでは、拒否回避志向やキャリアの不安に着目し、その実態と対応策を見ていきたい。
近年の若者論の中で、若者の間で「他者からの批判や失敗のリスクを避ける志向」が強くなっていることが繰り返し指摘されている※1。本調査からも、このような志向は若年層ほど強いことが確かめられた(図表1)。ここでは、「人目を気にする」「受け身の姿勢」「失敗への恐れ」「怒られたくない」「対立回避」の志向をまとめて「拒否回避志向」と呼ぶことにする。
※1 金間 大介(2022). 先生、どうか皆の前でほめないで下さい ーいい子症候群の若者たち 東洋経済新報社、豊田 義博(2017). なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか? PHPビジネス新書、 舟津 昌平(2024). Z世代化する社会-お客様になっていく若者たち 東洋経済新報社 など
図表1:拒否回避志向の価値観[年代別]
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
若者の拒否回避志向の高まりには時代変化の影響があると指摘される。例えば、学校教育では競争よりも多様性と調和が重視されるようになった。また、SNSの普及により人目にさらされることが増え、過激なバッシングが社会問題化している。さらに、インターネットの普及は、手探りの試行錯誤よりもすでにある情報をいかにうまく活用するかを重視する価値観を生んだ。
本調査からも、子供~学生時代に「弱音を吐けば、誰かが助けてくれた」とする20代は4割もいるが、30~40代では2~3割にとどまる(図表2)。また、「物事の意味について0から自分なりに考えることはあまりなかった」も20代で4割に対し、30~40代で3割である。そして、若手の中でも子供~学生時代がこのような環境だった人ほど、拒否回避志向が強い傾向が確認された。
図表2:拒否回避志向と関連する子供~学生時代の経験[年代別]
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」より筆者作成
子供時代の経験と拒否回避志向の因果関係までは説明できないデータだが、時代変化によって他者からの批判や失敗を避ける若者が増えているという指摘は概ね確かめられたといえそうだ。
このような他者からの批判や失敗を避ける志向は、若手に限らずメンタルヘルス上のリスクを高める傾向が確認されている。拒否回避志向それ自体は個性であり否定されるべきではないが、社会人として生きていく上で批判や失敗を避けることが難しいのは確かである。
特に、「叱って育てるタイプの上司」と相対した時、このような志向が強い若手ではメンタルヘルス不調のリスクが高まりやすいことが分かった(図表3)。
図表3:上司の叱責の度合いと若手部下のストレス反応の関連[拒否回避志向別]
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」より筆者作成
ハラスメントを避ける風潮が広がっている現在でも、過去の常識から「叱ることが指導」と考える上司は多い。しかし、怒りのこもった指導は、拒否回避志向が高い若手が避けたい他者からの批判であり失敗の追及である。さらに、怒られた経験の少ない若手には、上司の「成長を期待しているから怒っている」という論理が理解できない。そのため、単なる批判や攻撃と受け取り、精神的に疲弊しやすいと考えられる。
メンタルヘルス不調と関連するジェネレーションギャップとしては、将来のキャリアや生活への不安感もある。 近年、老後年金問題や実質賃金の低迷、社会保険料や税金、奨学金などの負担増で若手の将来に向けた金銭的な不安が増している。加えて終身雇用が崩壊したといわれている中、キャリア形成に焦りを感じる若手が増えている。調査からも、将来のキャリアや生活に不安があるとした20代は約8割に上り、全年代で最も多かった(図表4)。
図表4:将来のキャリア・生活への不安感[年代別]
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
将来の不安はメンタルヘルス不調の直接的原因になることは少ないが、他の原因と相まってリスクを高める。実際、メンタルヘルス不調になった20代男性社員の約2割は、その原因の1つとして将来のキャリアへの不安を挙げた。仕事のプレッシャーや上司との関係で悩んだ時、将来の不安があるのとないのとでは感じ方が違ってくることは想像にかたくない。
このように、時代による意識変化が、若手のメンタルヘルス不調のリスクを高める側面があることが見えてきた。上司としては、若手部下の育成と定着を実現するために、どのような対応を心がけるとよいだろうか。
まず、拒否回避志向が強い若手部下に対しては、叱ることがメンタルヘルス不調のリスクとなりかねないことはすでに見てきた。しかし、そもそも拒否回避志向の高低によらず、感情的な叱責の育成効果には疑問が呈されてきた。先行研究によれば、感情的な叱責は恐怖や不安により一時的な行動の変化を促すものの、長期的にはモチベーションや自主性を損なうことが知られている。
また、拒否回避志向にかかわらず、若手部下に仕事を任せて放置する放任型のマネジメントも、ストレス反応を強く高める傾向がある。若手の主体性を育てようと、よかれと思って放置する上司もいるが、メンタルヘルス上のリスクが高い行動であることに注意する必要がある。
そのため、調査データからは、「仕事の成果ややり方についてのフィードバック」や「成長につながる業務の分担」を指導の中心とすることが、若手部下の成長・定着の両面で特に有効であることが見えてきた。モチベーション理論によれば、業務の成果や改善点についてのフィードバックは、部下のモチベーションを高めるとともに、自身を客観的に見つめさせ、改善行動を促すとされる。また、部下の能力よりも少しだけ難しい業務は、部下の集中力や自己効力感を高め、仕事へのモチベーションを高めることが知られている。
次に、キャリアの不安に対しては何ができるだろうか。調査からは、上司と親密な関係にある若手はキャリアの不安が少ない傾向が見えてきた。上司と親密であれば、具体的なキャリア形成上のアドバイスや、自分の強みや課題についての率直なフィードバックが得やすいためだと考えられる。
一方、上司が傾聴的態度をとっている場合、かえってキャリアの不安が高かった。若手のキャリアの不安の一因に、学校教育でいわゆる「自分探し」はするものの、現実的な職業体験や職業理解の機会が乏しいことが指摘される。そのためか、傾聴で内省を促すよりも、現実的なキャリアの選択肢や業界の動向などを教えるほうが有益だと考えられる。
ここまでの上司の対応ポイントをまとめると、図表5のようになる。
図表5:イマドキな若手部下への上司のNG対応とOK対応
出所:パーソル総合研究所(2024)「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
世代間ギャップは、上司によるマネジメントの難易度を上げていることは間違いない。しかし、少しの知識と配慮があれば、若手社員が健やかに、そしてイキイキと活躍できると考えられる。
本コラムでは、20代若手社員のメンタルヘルス不調が増えている要因として、若手で多い「拒否回避志向」や将来のキャリアへの不安を取り上げ、それに対する上司の対応策を考えた。本コラムのポイントは以下の通りである。
・他者からの批判や失敗を避ける「拒否回避志向」は若手ほど強い。このような志向が強い若手は、上司からの感情的叱責がメンタルヘルス不調のリスクとなりやすい。
・将来のキャリアに対する不安も若手で強く、メンタルヘルス不調の間接的要因となりうる。
・拒否回避志向が強い若手部下にメンタル面の負担をかけずに成長させるには、感情的叱責は控え、「業務の成果ややり方についてのフィードバック」や「成長を促す業務分担」を中心とすることが有効。また、将来のキャリアへの不安が強い若手に対しては、傾聴して内省を促すよりも上司が知っている具体的なキャリアの選択肢や業界の動向などを教えることが有効。
本コラムが、20代若手社員のマネジメントの一助となれば幸いである。
※このテキストは生成AIによるものです。
拒否回避志向
拒否回避志向とは、人目を気にし、怒られたくない、対立を避け、受け身の姿勢をとり、失敗を恐れる志向を指す。この志向が強い若手社員は、メンタルヘルス不調のリスクが高まる。
シンクタンク本部
研究員
金本 麻里
Mari Kanemoto
総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
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