組織は不祥事からいかに立ち直るのか

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近年、企業における不正・不祥事の発生が相次いでいる。企業内ではさまざまな対策が取られているが、それでもなお不正発生を完全に防ぐことは困難になっている。

そこで本コラムでは、不正が明るみになったあと、組織がどう立ち直るのかに焦点を当てたい。不正発覚後も働き続ける従業員の意識や、企業における適切な対応はどうあるべきかといった論点について、パーソル総合研究所が実施した「企業の不正・不祥事に関する定量調査」などのデータを基に議論していく。

  1. 増え続ける不正事案と残り続けるその影響
  2. 不正発生後、企業はどう対応するのか
  3. 「膿をだし」、「腹落ちさせ」、「吐き出させる」
  4. 従業員を前向きにさせる不正後の対応とは
  5. 「守り」発想の「一方通行」な対応から、「攻め」発想の「双方向」なコンプライアンス対策へ
  6. まとめ

増え続ける不正事案と残り続けるその影響

企業の不正が明るみになる事件は、後を絶たない。経営におけるコーポレート・ガバナンスの強化が叫ばれるようになってから数十年が経過しているが、むしろ不正の発生件数は増加している傾向が複数のデータから明らかになっている。

北見幸一がメディア報道からまとめたデータによれば、報じられた企業不祥事は2000年には137件であったものが、2010年には180件にのぼっていることが報告されている。また、東京商工リサーチによれば、2022年度の上場企業による不適切会計は、55社と10年前の27社から倍増し、個人情報漏えい・紛失事故をとっても150社と過去最高の件数にのぼった。(※)

(※)出所:北見幸一「企業社会関係資本と市場評価」、学文社、2010。東京商工リサーチ 2022年度「不適切な会計・経理の開示企業」調査、2022年「上場企業の個人情報漏えい・紛失事故」調査。

さて、そうした不正は、特に大手企業であればメディアによって大きく報じられ、多くのネガティブな反応を引き起こす。読者の方もいくつかすぐに思い浮かぶニュースがあるだろう。ソーシャル・メディアの発生やスマホの普及によって、不祥事のシーンや具体的な様子が記録されて世間の目にさらされるような事例も多くなった。

そうした不祥事が及ぼす影響としては、株価や業績といった直接的な被害、そして消費者や投資家といった企業外のプレイヤーへのネガティブな影響がまず議論される。しかし、忘れてはならないのは、「企業内」のプレイヤー、つまり従業員側の視点である。不祥事が起こっても多くの従業員はその企業で働き続け、企業の対応によって、心理や意識・行動は左右されていく。企業は、起きてしまった不祥事を繰り返さないためにも、不正を乗り越えて健全な状態へと立ち直る必要がある。

そこで、本コラムが注目したいのは、不正が起こった「後」の企業対応と、それに対する従業員の反応である。これまでの日本の不正・不祥事の研究は第三者委員会の報告書といった定性的な分析が多く定量的な分析が乏しいうえに、不正後の組織改善まで踏み込んだ研究はほぼ皆無といっていい。本コラムでは、そうした論点をカバーして実施されたパーソル総合研究所の調査「企業の不正・不祥事に関する定量調査」から、不正発生「後」の対応と組織について議論したい。

不正発生後、企業はどう対応するのか

まず、そもそもの問題として、何らかの不正・不祥事を従業員が認知しても、企業が「対応しない」ということがある。調査では、認識していた場合の企業からの対応があった割合は37.2%であった。その中には、不正があると報告する従業員の認識と齟齬がある場合もあったり、軽微な不正の場合には、大事にせず目をつぶってしまったりすることもある。例えば、サービス残業が日常的に続くような場合、多くの企業で上司も人事も見て見ぬふりをする、ということがある。組織の運営が人間によってなされる限り、「起こりうるすべての不正に対処する」ということは現実的ではないという見方もできるだろう。

図:不正発生後の会社の対応有無

図:不正発生後の会社の対応有無

出所:パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」


しかし、不正について対応しなければ、当然のことながら不正の改善はなかなか見込めない。今回の調査でも、会社の対応があった場合には、ない場合と比べ、不正が改善されている割合が約3倍になっていた。また、不正発生後に会社の対応があった者のほうが、仕事に対する「個人パフォーマンス」、「ワーク・エンゲイジメント」、「幸福度」ともに有意に高いことも同時に分かっている。逆にいえば、組織の中で不正が見過ごされ、放置され続ける状態は、そこで働く人のパフォーマンスやワーク・エンゲイジメントを下げ、不正の再発防止にもつながっていない。

さて、会社が対応した場合の具体的な対処について見ると、不正発生後の会社の対応は、「関与者へのヒアリング」が77.2%で最も多く、次いで「関与者以外の従業員への事実確認(46.2%)」が続く。

図:不正発生後の会社対応の内容

図:不正発生後の会社対応の内容

出所:パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」


このように、企業が対処すべき不正が起こった場合、まずは関係者にヒアリングを行って事実確認に努め、関与者に対する処分を決めるという流れで進むのが通常の流れである。その後、対応のマニュアル化や対外的な謝罪などまで及ぶのは、全体の11%程度である。

「膿をだし」、「腹落ちさせ」、「吐き出させる」

では、このような不正に関する会社の振る舞いについて、従業員はどう感じているのだろうか。残念ながら、一般的に企業が行うコンプライアンス対策については、「会社は現場の実態をよく理解していない」といった現場とのギャップを感じる従業員が51.3%にのぼるなど、その現場感のなさや対策の不徹底を感じられることが多くなっている。対策をいくら実施したとしても、従業員側にそれらの対策を形式的に「こなす」意識が高い場合、不正を防いでいないこともパーソル総合研究所の調査では明らかになっている(コラム:不正を防止するコンプライアンス対策とは)

その一方で、不正後の会社の対応について、「会社や組織の現状が悪いところも含めて理解できた」、「仕事や会社についてしっかりと話し合うことができた」といった感覚も生まれている。不正発覚というネガティブな事象は、従業員にとっては、そのことをきっかけとして「会社の悪い部分=膿を出す」感覚だったり、対応に納得して「腹落ち」したり、会社への思いを「吐き出す」きっかけになるようなポジティブな効果が少なからず含まれている。

図:不正発生後の会社の対応に対する従業員の意識

図:不正発生後の会社の対応に対する従業員の意識

出所:パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」


そこで詳しくデータを分析すると、こうした「膿だし感」「腹落ち感」は、その後の不正防止にプラスの関係が見られた。また、理解や納得といった「腹落ち感」に加えて、しっかり自分の気持ちを話せたという「吐き出し感」があることは、コンプライアンス対策を形式的に「こなす」意識を下げている。つまり、不正に対する会社のふるまいに納得するだけでなく、自分の意見や思いを吐露し表明する機会があることによって、コンプライアンス対策に対しても当事者意識を持たせることができているということだ。

図:会社対応への従業員の意識と不正の改善状況

図:会社対応への従業員の意識と不正の改善状況

出所:パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」

従業員を前向きにさせる不正後の対応とは

では、実際にこうした「膿だし」「腹落ち」「吐き出し」感のある会社の対応とは、具体的にどういったものだろうか。より詳細に会社の対応実態の内容を見たデータと、それらの関係を多変量解析で分析することによって示唆を得ることができた。

まず起きた不正に対して、従業員へ「詳細な共有・説明」を行うことは、「膿だし感」「腹落ち感」「吐き出し感」すべてにプラスの関係が見られた。起きたことの説明と情報共有を詳らかに行うことはやはり大前提のようである。

また、アンケート・対話会などによる従業員意見の「吸い上げ施策」が、「吐き出し感」とプラスの関係が見られた。しかし、そうした吸い上げ系の施策の平均実施率は、25.4%とかなり低いことも同時に分かっている。

図:従業員の意識にプラスの影響を与える対応

図:従業員の意識にプラスの影響を与える対応

出所:パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」


つまり、多くの企業は起きた不祥事について対応する場合、「調査」と「説明」はするが、従業員側との対話の機会の設定やアンケート実施といった、意見を「吸い上げる」タイプの施策には消極的だということだ。不正発覚に関連して、従業員からの批判や辛辣な意見が出てくることを恐れていたり、芋づる式に不正が発覚したりすることを回避したいという潜在的な願望もあるかもしれない。

しかし、そうした「意見を吸い上げる」施策が組み合わさることで、従業員の前向きな態度は最大化されている。調査からは、コンプライアンス研修の内容において、従業員との対話やワークショップの機会があることが対策に対する形式的な「こなし意識」を下げていることもわかっているが(コラム:不正を防止するコンプライアンス対策とは)、この「意見の吸出し」の重要性は、そうした発見とも響き合う。

「守り」発想の「一方通行」な対応から、「攻め」発想の「双方向」なコンプライアンス対策へ

端的にまとめれば、不正への対策や対応には、企業と従業員の「双方向性」のある施策が極めて重要だということだ。発生した不正は、ビジネスにおいては「暗部」であり、組織の「恥部」でもある。しかし、人事や経営がそのことを隠すように穏便に事を済ませようとしたり、見て見ぬふりを決め込んだり、一方的な説明で終わらせてしまっても、あまり組織は改善されていない。

図:不正発生後の会社対応の在り方

図:不正発生後の会社対応の在り方

出所:筆者作成


不正が明るみになり、報告会見などを開く際、多くの企業は、「不正の原因に真摯に向き合う」ことを宣言するものだ。しかし、データが示しているのは、本当に組織を立ち直らせるのであれば、不正の原因だけでなく、組織で働き続ける従業員の側にも真摯に向き合うことが企業には求められているということだ。

不正が防げなかったとしても、それをきっかけとして「これからは、この組織は良くなっていくはずだ」という展望を従業員が持てる「立ち直り」をいかに実現していくか。「守り一辺倒」なコンプライアンス対策では、それはほとんど実現できていない。ネガティブな事象が起こった後になお、一種の「攻め」の改善へと転じていく発想が、これからのコンプライアンス対策には求められよう。

まとめ

本コラムは、不正発生後の会社の対応についてデータを基に議論した。対応次第で、従業員の個人パフォーマンス、ワーク・エンゲイジメントや、再発防止は左右されている。不正発生後に、組織が立ち直っていくには、企業と従業員の「双方向性」のあるコンプライアンス対策が重要であることが分析からは示されている。働き続ける従業員にきちんと説明し、従業員側の意見を吸い上げるような施策こそが、理解と納得、そしてコンプライアンスへの当事者意識を引き出している。

逆に、従業員の調査にとどまる「守り」一辺倒の対策では、再発予防も、組織の状態の良化もあまり実現できていない。これからのコンプライアンス対策には、「これからこの会社は良くなっていくはずだ」という展望を従業員が持てることを目指す「攻め」の発想が求められる。

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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