このコラムでわかること
・ パワハラの定義と指導との違い
・ 「業務目的」と「相手への尊重」で判断する適正な指導の具体ポイント
・ 見えないハラスメントの実態と、離職・生産性低下への影響
・ 効果的なハラスメント対策の要点
・ 回避的マネジメントのリスクと、防止と育成を両立するマネジメントの考え方
現代の組織マネジメントにおいて、パワーハラスメント(以下、パワハラ)への対応は避けて通れない課題の一つです。しかし、ハラスメントのリスクを恐れるあまり、本来必要な指導までもが疎かになり、組織の成長が停滞する「回避的マネジメント」に陥るケースが急増しています。
実際、パーソル総合研究所の調査資料『職場のハラスメントについての定量調査』によれば、ハラスメントを理由とした年間の離職者数は推計で86.5万人に上り、その被害を受けた従業員のパフォーマンスは本来の約8割(78.1%)にまで低下するという衝撃的なデータが出ています 。
本記事では、パワハラと指導の違いを法的な定義と実務的な視点から明確にします。また、離職者のデータの裏側に潜む、会社が把握しきれていない「ハラスメントの暗数」の実態とその解決策について掘り下げていきます。
さらに、対策の強化が招く副作用「回避的マネジメント」の罠についても言及し、ハラスメント対策をしつつ、上司が自信を持って指導できるポイントについても解説していきます。
職場における指導は従業員の成長を促すために不可欠なプロセスですが、一歩間違えればハラスメントと見なされるリスクを孕んでいます。この両者を分ける境界線はどこにあるのでしょうか。まずは、厚生労働省が定義するパワハラの3要素を確認し、客観的な基準から指導との差異を明確に理解していきましょう。
厚生労働省の資料『パワーハラスメントの定義について』には、職場におけるパワハラの定義は以下のように記載されています。
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
※
引用元:厚生労働省『パワーハラスメントの定義について』
具体的には、以下の3つのいずれかを満たすものをパワハラと定義します。
業務を遂行するうえで、抵抗や拒絶が難しい関係性を背景に行われる言動を指します。
▼該当しやすい例
重要なのは、必ずしも上司から部下に限らない点です。業務上の依存関係がある場合、同僚間でも優越性は成立します
社会通念に照らして、業務上の必要性がない、または態様が相当でない言動を指します。
▼該当しやすい例
なお、業務上の指導が必要な場面であっても、その伝え方や継続性によっては「相当な範囲」を超えることがあります。
当該言動により、労働者が身体的または精神的な苦痛を受け、能力の発揮に重大な悪影響が生じる状態を指します。判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」が基準とされます。
▼該当しやすい例
強度が高い場合は、1回の言動でもパワハラに該当することがあります。
※
パワハラと適正な指導の決定的な違いは、その言動に「業務上の必要性」と「相手への尊重」があるかどうかです。指導は、あくまで業務の遂行やスキルアップを目的として行われるものです。
例えば、ミスを指摘したうえで改善策を考えさせることは、内容が厳しくても、人格否定に至らず、かつ業務上必要な範囲内であれば、パワハラには該当しません。
重要なのは、感情をぶつけることではなく、事実と行動に基づいて伝えているかどうかです。指導の目的が「相手を変えること」ではなく、「業務を改善すること」に向いている場合、適正な指導と判断されやすくなります。
一方で、相手の尊厳を傷つける罵倒や、業務とは無関係な私生活への介入は、たとえ指導の名目であってもハラスメントと判断されます。
ハラスメントの問題は、表面化している事案だけではありません。人事部門や経営層が把握できていないハラスメントこそが、組織の活力を静かに、かつ確実に削いでいます。
『『職場のハラスメントについての定量調査』によると、ハラスメントを理由に離職した就業者は年間約86.5万人に上りますが、そのうち約57.3万人は、退職理由としてハラスメントがあったことを会社に伝えていません。このように、実際にはハラスメントが発生しているにもかかわらず、会社側が把握できていない数字を「暗数(あんすう)」と呼びます。
ハラスメントが暗数として潜在化してしまう主な要因の一つとして、職場に根付いた属人思考と、そこから生まれる相談無力感にあります。属人思考とは、事柄(コト)の内容よりも「誰が言ったか(ヒト)」を重視する思考様式のことです。「会議で誰が提案したかによって案の通り方が異なる」「トラブルの原因追及よりも、誰の責任かが優先される」といった風土が強い組織ほど、ハラスメントが発生しやすい傾向があります。
こうした環境では、「あの人の言うことだから仕方ない」「相談しても無駄だ」「むしろ自分の立場が悪くなる」といった認識が共有されやすくなります。その結果、被害者は声を上げることを諦め、沈黙したまま組織を去る選択をしてしまいます。これが、ハラスメントが表に出ないまま蓄積されていく「暗数」の正体です。
前述した属人思考についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ハラスメント対策に求められるのは、どのような行為がハラスメントにあたるかという判断基準を厳しく設ける「ハラスメント厳格度」です。ハラスメント対策を実施しているほど、従業員の「ハラスメント厳格度」が有意に高まることが確認されています。
特に「社内規則の整備(標準化偏回帰係数:0.109)」や「社内の実態把握(同:0.077)」、「相談窓口の設置(同:0.065)」といった取り組みは、いずれもハラスメント厳格度に対して統計的に有意な正の影響を与えています。
厳格度が高まることは、一見すると「些細なことでも訴えられるのではないか」という懸念材料に見えるかもしれません。しかし実際には、被害の早期発見や解決につながるポジティブな要素です。
重要なのは、厳格さを保ちつつ、現場の上司が萎縮しないよう「どうすればハラスメントにならずに部下を指導できるか」というスキルをあわせて習得させることです。
コンプライアンス意識の高まりは、本来歓迎すべきことです。一方で、ハラスメントと判定されることを過度に恐れる管理職が増加しています。
その結果として生じているのが、部下との摩擦を極端に避ける「回避的マネジメント」です。
回避的マネジメントとは、ハラスメント加害者になることを恐れるあまり、部下に対して必要な注意や指導を行わず、関わり自体を避けてしまう管理スタイルを指します。
『職場のハラスメントについての定量調査』によれば、管理職の多くが以下のような回避行動を取っていることが分かっています。
このように「腫れ物に触る」ような対応は、短期的にはトラブルを防ぐ効果があります。しかし、部下からすれば「自分に関心がない」「成長を期待されていない」と受け取られかねません。
ご自身のマネジメント、あるいは自社の管理職が、以下の状態に陥っていないか確認してみてください。
腫れ物に触るようなコミュニケーション
成長機会を奪う、フィードバックの欠如
無関心という名の安全策
こうした回避的マネジメントの罠を抜け出し、組織の成長を加速させるための具体的な戦略をまとめた資料をご用意しました。
資料のポイント
現場の管理職が自信を持って指導にあたり、従業員が安心してパフォーマンスを発揮できる環境づくりのために、ぜひ本資料をご参考ください。
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