多様な人がともに働く職場では、異なる視点や考え方が組み合わさることで創造性が高まり、イノベーションを生み出すことができるようになります。しかし実際には、意見の違いや認識の違いからコンフリクト(対立や軋轢)が生じ、組織に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
一方で、対立を避け続けることにもリスクがあります。議論が行われないまま声の大きい人の意見に流される、誰も発言しないまま妥協的な結論に落ち着く、さらには小さな派閥やサブグループが生まれる――このような状況では、多様性が本来もたらすはずの価値を活かすことができません。
だからこそ、多様性が活きる組織づくりにおいては、リーダーが建設的な対立や健全な葛藤を促進する役割を担うことが求められます。少数派であっても遠慮することなく声を上げられる環境を整えつつ、好き嫌いや感情的な対立に発展させない形で、個人やチームがよりよい解を追求できるよう、リーダーの影響力の発揮方法もアップデートが求められています。
本コラムでは、パーソル総合研究所が早稲田大学グローバルエディケーションセンター 森永雄太教授と協働して進めるプロジェクトの調査結果に基づき、多様性を前提とする時代に全員活躍を推進するリーダーの行動を体系化した「AUBEモデル」と、コンフリクトの関連について考察します。
「コンフリクト」ときくと、対立や分断が生まれているネガティブなイメージを持たれがちですが、実はすべてが悪いわけではありません。コンフリクトの内容を整理してみると、以下の2種類があります。
パーソル総合研究所が行った「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」では、「タスクコンフリクト」はイノベーション活動を促進し、はたらく幸せ実感(働くことを通じて幸せを感じている)を高め、はたらく不幸せ実感(働くことを通じて不幸せを感じている)を下げる傾向が確認されました。一方、「関係性コンフリクト」は、はたらく幸せ実感を下げ、はたらく不幸せ実感を高める傾向が確認されました。このことから、創造性を発揮しやすい組織づくりには、タスクコンフリクトを高めつつも、関係性コンフリクトを抑制する働きかけが望まれると解釈することができます。
加えて同調査では、図1に示すように、「タスクコンフリクト」「関係性コンフリクト」の平均値を軸として、組織を4つに類型化しています。
この4類型の中で、「風通し型組織」は、タスクコンフリクトが多く関係性コンフリクトが少ない組織です。仕事上の意見は対立しても、人間関係の軋轢を引きずることがない、創造性の発揮を期待できる組織であると捉えることができます。一方で、「冷戦型組織」は、人間関係では軋轢があり、仕事の進め方では異なる意見をすり合わせることがない、多様性が逆効果になってしまっている組織といえます。今回は、特に「風通し型組織」と「冷戦型組織」を中心に、比較を進めていきます。
出所:「組織のダイバーシティ(多様性)に関する調査 」(パーソル総合研究所、2026年)による分類
今回、この組織タイプのうち、「風通し型組織」と「冷戦型組織」でリーダーがどのような行動をとっているのか、AUBEの実践状況の特徴から確認をしました。AUBEモデルとは、前回コラムで紹介しているリーダー行動モデルです。AUBEモデルは、「U:独自性の発揮を支援する」「B:帰属感を高める支援をする」「E:チームづくりの見本を示す」「A:適応的にふるまう」の4つの要素から構成されています。
今回の調査結果を分析するにあたり、「風通し型組織」では「A:適応的にふるまう」行動が相対的に高くなるのではないか、という仮説を持っていました。その背景には次のような理由があります。
ところが今回の調査結果では、「風通し型組織」で特徴的なのは「A:適応的にふるまう」だけではありませんでした。分析の結果、「風通し型組織」では、「A:適応的にふるまう」だけではなく、AUBE4つの要素すべて高い水準で実施されていることがわかりました。 特に、「U:独自性を高める支援をする」「E:チームづくりの見本を示す」の得点が高い傾向がみられました。図3では、「風通し型組織」と「冷戦型組織」の2つについて、AUBEの実践度合いを比較しています。比較にあたっては、AUBEの各要素の平均値やバラつきの違いを揃えて、同じ基準でわかりやすく比較するために、平均値を0とする標準得点化の処理を用いています。
この結果からは、当初予想していたような、「対立が起きた時の対応」だけが、タスクコンフリクトを促進して関係性コンフリクトを抑制するのではないことがわかります。「一人ひとりが、個人として尊重され、集団におもねることなく意見を表明することを促進されている」「多様性を活かす姿勢をリーダー自らが示し率先している」という日常の関わり方そのものが、建設的なコンフリクトを支える土台になっているといえます。このようなリーダー行動は、メンバーに対して、異なる意見が存在することを当たり前として受け止め、違いがあっても感情的な対立に発展しにくい関係性を育むことにつながると考えられます。
一方で、「冷戦型組織」では、逆の傾向がありました。AUBE各要素の得点すべてが、平均値を大きく下回る結果となったのです。個人の独自性を引き出す働きかけが弱く、さらにメンバー間の交流を促進する行動が少ないといえます。また、リーダー自ら多様な考え方を取り入れる姿勢を示すことがないため、メンバーにとっては規範が曖昧になってしまう状況が考えられます。リーダーがAUBEの要素を実践していない組織では、メンバーは自分らしい意見を表出することもないまま、互いへの印象や感情的な不満によって距離が生まれてしまいます。その結果、互いへの不満がさらに募り仕事に関する対話が進まない雰囲気を助長することにもつながり得ると考えます。
次に、具体的な行動レベルで、「風通し型組織」と「冷戦型組織」での実践度の違いが大きい行動を確認してみました。ここでは、5段階評価での平均値の差が大きい項目に着目して整理していきます。
スコア差が大きかった8項目は、図4に示す項目となりました。「U:独自性を高める支援をする」が3項目、「E:見本を示す」が3項目、「B:帰属感を高める支援をする」が1項目挙がっています。「独自性を高める支援をする」に関連する行動としては、個人の視点や着想、実験的な取り組みを、意図的に引き出す働きかけの違いが特徴的です。そして同時に、メンバー同士が交流する機会を丁寧につくっているかどうかの違いもみられます。さらに、リーダー自身が多様性を尊重する姿勢を言行一致で体現しているかどうかに大きな違いがありました。
このことから、「風通し型組織」は「冷戦型組織」と比べ、個人としての革新的な取り組みやアイデアを積極的に奨励していることが示唆されます。あわせてリーダー自らが、多様な意見を尊重し合うことを奨励するとともに、多様な意見を取り入れた意思決定を行う姿を見本として示している点が特徴的であると考えられます。
「冷戦型組織」は、個人としての意思表明は奨励されず、相互理解を深める交流の場も少ないことが伺えます。もともと「冷戦型組織」は、関係性コンフリクトが多く、メンバー間での個人的な不満や感情的な摩擦が顕在化していることが特徴的です。このような状況であれば、メンバー同士への理解が深まることはなく、さらに距離が広がり不満が募る悪循環が起こり得るとも考えられます。
今回の調査結果からは、コンフリクトを4つの種類に分けて分析しました。コンフリクトはストレスが多く、厄介なものだという印象も持たれがちですが、創造的な仕事を進める上ではむしろ効果的に活用する必要性が高いといえます。非生産的な、関係性のコンフリクトをコントロールし、仕事やタスクについては積極的に促進する形にできれば、性格や価値観の違いによる感情的なもつれに引きずられることなく、仕事をより創造的に進めることができます。
AUBE行動からみると、建設的な関係性を促進するためには、対立や葛藤が起こる場面の対処だけではなく、日常的に積み重なるAUBE行動全般がきわめて重要であることがわかりました。
「U:独自性の発揮を支援する」がなければ、そもそもその個人が、仕事や課題についてどのような意見やアイデアを持っているのかを表出させることができません。「B:帰属感を高める支援をする」は、同じ目的のもとに相互の交流を自然と行うことを促進します。そして、もう一つ重要な要素が「E:チームづくりの見本を示す」でした。自分とは異なる意見を取り入れながら新しい解を見出す言動を、リーダー自らが率先して示すことがとても重要です。多様性が重要であると伝えているつもりであったとしても、思っているほどメンバーには意識されていないとも考えられます。折に触れて、リーダーが発信する言葉やふるまいが、メンバーにとっての規範をつくっていきます。そして、「A:適応的にふるまう」は、上記の3つが機能するように場や関係性を調整する機能を果たしているといえます。
建設的なコンフリクトを促進するためには、リーダーがコンフリクトの場面で直接対処するだけではなく、日常でのメンバーやチームへのかかわりが非常に重要です。メンバーの多様性を引き出し、相互作用が生まれる関係性を支援し、自ら見本を示し牽引することが、コンフリクトを価値に変える鍵となります。
| 調査名称 | 早稲田大学 グローバル・エデュケーション・センター 森永雄太教授/株式会社パーソル総合研究所「AUBEモデルに関する実態調査」 |
|---|---|
| 調査方法 | 調査会社モニターを対象とするインターネット調査 |
| 調査回答者 | 以下の要件を満たすビジネスパーソン |
| 調査時期 | 第1回:2025年10月(1,417名から回収、うち不良回答を削除した1,174名を分析) |
| 実施主体 | 早稲田大学 グローバル・エデュケーション・センター 森永雄太教授/株式会社パーソル総合研究所 |
CONTACT US
こちらのフォームからお問い合わせいただけます