ソリューションコラム

なぜ今、アカウント営業が必要とされるのか ~「営業実態調査2025」が示す顧客期待と成功ポイント~

公開日:

執筆者

 ラーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング2グループ シニアコンサルタント

ラーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング2グループ シニアコンサルタント

高城 晴美

なぜ今、アカウント営業が必要とされるのか ~「営業実態調査2025」が示す顧客期待と成功ポイント~

近年、多くの企業で「新規顧客の獲得が難しい」「既存顧客からの売上が伸び悩んでいる」「顧客ニーズが高度化・複雑化している」といった課題が顕在化している。市場の成熟と競争激化により、従来型の営業スタイルでは成果を出しにくくなった。加えて営業の分業化や営業テクノロジーの普及で、プロダクト営業や御用聞き営業は、インサイドセールスやeコマースに移行していくという予測がある。結果として、フィールド営業は難度の高い案件を担うことが期待される。

こうした状況の中、注目されるのがアカウント営業である。単なる既存顧客のフォローではなく、顧客の事業や戦略に踏み込み、関係性を強化することにより価値提供を目指す営業スタイルだ。本稿では「営業実態調査2025 」から得られた示唆を手掛かりに、大手法人顧客の期待とアカウント営業の成功ポイントを整理する。

顧客が欲しいのは、“要望への回答”よりも“プロ視点”

顧客は営業に何を期待するのか、「営業実態調査2025」からは、 高額購買をする法人顧客ほど、営業に「鋭い示唆」や「先回りの情報提供」を求めていることが分かった。顧客の要望を満たすだけでなく、「自分たちがまだ言語化できていない論点」をプロ視点で提示してくれる相手が選ばれる(図1)。

図1:仕事上で課題の解決策を検討する際に、営業担当者に強く期待する行動

とりわけ顧客が“気づき”を求めるのは、同じやり方を惰性で続けている局面や、課題感はあるのに改善が進まない停滞局面だ。さらに管理職以上では、社会課題や新技術への対応などの探索局面でも、相談相手として営業が期待されている。

重要購買では、機能や価格だけでなく、「営業側の組織的な対応力」 が重視される。関与者が増えるほど、論点整理、部門間のすり合わせ、上位層の巻き込み、共同開発、実装・運用まで含めてやり切れるかが、選定の最後の一押しになる。言い換えれば、顧客は“困ったら呼ぶ”営業だけでなく、“変化に備えるために話せる”相手を探している。

アカウント営業は、取引回数が多く継続性が高い傾向にある(図2)。顧客は外部の相談相手として頼れる営業に、次の事案が発生したときにも声を掛けているようだ。「多くの関係者と論点を育てるプロセス」は時間も労力もかかるが、ある程度長い時間軸で捉えれば、継続的に大型案件に結び付くスタイルといえそうだ。

図2:自分が気づいていない視点を提供してくれた営業担当者との取引回数

“現場改善”から“経営説明”まで一緒に描く組織営業

顧客の現場のリアルに寄せて考えてみよう。問題解決にあたる現場責任者が抱えるプレッシャーは二重だ。「現場を回す」だけでなく、「経営に説明し 、承認を取り、関係者を動かす」ことまで求められる。改善のために何をすれば効果が上がるのかを判断するための材料が欲しい。しかし、そこに割く時間はない。
現場で起こっている問題解決のために、設備投資の決裁を取り付けた2つの事例 をみてみよう。

〈事例①〉異常対応の火消しから抜け出すための“効果試算”
ある製造業の品質課長は、異常検知の仕組みが工程ごとにバラバラで再検査が増え、高残業が常態化していた。
制御機器の営業は課題を整理し、技術部門の協力を得て改善効果を試算した。異常検知の自動化(70%)や再検査工数の削減(月80時間→30時間)など、製造部門へ改善の見通しを示した。また、品質課長が上層部への提案に使える資料の用意を支援し、無事に成約に至った。
品質課長は、「この資料があったから経営に説明できる自信が持てた」と営業への感謝を語っている。

〈事例②〉 部門間の壁を越えた、“巻き込み”が、全店導入を決めた
小売業の店舗管理本部の例もある。店舗ごとに発注・棚割・作業指示のやり方がバラバラで、欠品と過剰在庫、残業、監査対応が同時多発していた。
システム開発の営業は、まず「業務のばらつき」と「本部KPI(在庫回転・廃棄・作業時間)」を仮説で整理し、店長層~物流~経理まで関係者を束ねて現状を可視化した。解決策を提案し、まず1店舗で検証を行った。その結果を使って、本部承認が取れ、全店展開へつながった。
「意思決定を一緒に前に進めてくれたのがありがたかった」と企画課長は振り返る。

これらの事例では、営業が、現場実態と課題を整理し、改善の道筋を描き、社内提案の準備まで顧客と一緒になって行ったことが、スピーディな案件化と意思決定の決め手になった。
ポイントは、営業が導入効果を“それらしく語る”のではなく、試算や検証によって数値と根拠を揃えたことだ。組織対応で確かな 解決策を提案できたことが、強い信頼を勝ち得ることにつながった。アカウント営業においては、組織対応が大きな力になる(図3)。

図3:組織営業の実践

“仮説提案”で前に進める個のスキル

このように重要購買ほど課題が大きく、関係者も多くなり、顧客側でも整理がついていない。ここで自社の商材に当てはまるような「ニーズを聞く」スタイルの営業では商談は迷走し、提案が刺さらない。必要なのは、仮説を出して対話を前に進めるやり方だ。仮説は“当てに行く答え”ではなく、論点を揃えるための叩き台である。

たとえば「業界動向と中期計画を拝見し、今後はデータの一元化や監査対応の負荷低減が重要テーマになりそうだと私なりに考えました。このことについて、どのようにお考えでしょうか」と投げかける。すると顧客は、自社の状況や関係部門の事情を語り始め、論点が言語化されていく。仮説があることで、次の一手も決めやすくなる。

仮説の切り口は、自社商材の機能ではなく顧客の“変化”に置く(図4)。市場・規制・人材・サプライチェーン・環境対応など、顧客が避けて通れない環境変化を起点にすると、社内に温度差があるテーマでも合意形成が進みやすい。仮説づくりの支援をしてくれるAIエージェントも出ているので活用してもよいだろう。

図4:顧客課題の仮説を立てる視点(ファイブシー)

アカウント営業の3つの強化ポイント

ここまで見てきたことを踏まえると、すでに複数の部門と取引があり、長年関係構築ができている顧客であれば、アカウント営業の足場は出来ているといえる。しかし、新たにアカウント営業を始める顧客に対しては、より戦略的な活動が必要となる。アプローチする部門と仮説を洗い出してアカウントプランを立て、仮説提案で課題を喚起、多セクション人脈で合意形成を進める——この連動ができるほど、商談は“単発案件”から“取引拡大”へ進みやすくなる。

アカウント営業を強化するためのポイントをまとめると、次の3つに集約される(図5)。

【 3つの強化ポイント】

図5:アカウント営業の強化ポイント

アカウント営業は、大手顧客との中長期的な継続取引により、LTV(顧客生涯価値)を最大化する営業スタイルともいえる。営業にも高度なスキルと行動力が求められる。そのため、アカウント営業は優秀な個人だけに依存しがちになるが、それでは組織として再現しにくい。「同じ型で前に進められる」状態を作ることも重要だ。例えば、次のようなことを整備すると組織で取り組める。

● 意思決定資料パッケージ
背景整理、効果試算など顧客が社内承認に使える資料のひな型を用意する

● 多セクション攻略の“プロセス”化
関係者マップ、合意形成の論点(費用・運用・体制など)のチェックリスト、自社の社内連携の仕組み作り

● 重要商談の「質」の評価
関係者の拡張、検討プロセスへの早期参画、導入後の改善提案といった「質」の指標を置く

上記のアイテムは、営業が使いやすく、継続的に活用されるように、現場とスタッフが協力して作ることが望まれる。

アカウント営業の成功は、課題解決のパートナーとなり、顧客が“次の一歩”を、今日踏み出す後押しができるかどうかで決まる。

文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

執筆者紹介

 ラーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング2グループ シニアコンサルタント 高城 晴美

ラーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング2グループ シニアコンサルタント

高城 晴美 Harumi Takashiro

人材開発コンサルティング会社にて、学びの情報プラットフォーム事業のマーケティング、法人営業を経験後、富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に転職。法人を対象とした営業力強化の研修商品の開発を担当。その後、営業力強化・組織力強化のコンサルタントとして、大手企業の研修企画・開発に携わる。新規事業の立ち上げを経て、現在は、責任者として営業力強化研修の商品開発に従事。

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