昨今、多くの企業の営業部門において、営業プロセスの分業化やセールステックの活用など、様々な変革が進んでいます。一方で、そうした変革が顧客価値や業績の向上に必ずしもつながっていない状況も伺えます。
そのような問題意識のもと、パーソル総合研究所では営業部門の現状と課題の可視化を目的に、大規模な実態調査を2024年度から実施しています。2回目となる2025年度は、「アカウント営業」にフォーカスを置き、営業部門・顧客・人事部門の計3,000名を対象とした調査を実施しました。
本コラムでは、「営業実態調査2025 」の結果から得られた重要な示唆をいくつかピックアップしながら、「アカウント営業」の実践と生産性の向上における、人事的な要素も含む営業部門の直近の課題について考察します。
今回の調査で明らかにしたかったことの一つ、それは「アカウント営業のプロセスと成果の関係」です。つまり、営業部門がアカウント営業の実践において、「何にどのくらい取り組んでいるのか」、そして「その取り組みは業績に影響しているのか」ということです。調査の結果、アカウント営業において強化しているプロセスとして一番スコアが高かったのは、「事前準備」であり、反対に一番スコアが低いのが、「フォロー活動」でした(図1)。
既に取引があり、顧客からも「自社を理解してくれている」と思われている場合、初動の段階でお客様の期待に応えられるかどうかは非常に重要です。よって、たとえば面談の前に、お客様の状況、課題、ニーズを理解し、的確に自社の商品やサービスを紹介するための「事前準備」のプロセスを重視し強化している回答者が多いというのは、皆さんも理解できるところではないでしょうか。
一方、ここで注目したいのは、「強化しているそのプロセスは、実際に業績に影響しているか?」という点です。今回の調査の結果、「営業活動の結果としての業績に影響している可能性のある強化プロセス」として一番スコアが高かったのは、「事前準備」よりも「フォロー活動」の方でした(図2)。
さらに、「フォロー活動」の中身を見ていくと、特に「VOC(Voice of Customer:商品・サービス利用者の声)の収集」や、「導入後の継続的な情報提供」といったプロセスと業績との相関が高い、ということが分かりました(図2)。アカウント営業は、顧客との関係性の深化や取引の最大化をめざすものですが、この点において「フォロー活動」の不足は機会損失につながります。商品・サービスの導入後であっても、顧客側ではあらたな課題が絶えず生まれますので、営業は顧客の直近の状況や変化を察知し、さらなる課題解決のための情報提供や提案をしていくことが求められます。最近では、フォロー活動はフィールドセールスではなく、カスタマーサクセスが担当している営業部門も増えています。こうした分業体制においては、フォロー活動における各役割間の連携が不十分になっていないか、注意が必要です。
ちなみに今回の調査では、「事前準備」のうち、「お客様の状況や課題、ニーズの理解」の業績への影響はそれほど高くないという傾向が出ていますが(図2)、それとは別に、「顧客に深く入り込む関係構築行動への期待」についても調査しています。本コラムでは詳細は割愛しますが、全体的な傾向として明らかになったのは、「顧客が営業に対して期待することのレベルは、従来よりも高いものになっている」ということでした。昨今、顧客は自社におけるより上位の課題についての解決策を求めており、その課題に対する深い理解と明確な提案を営業に期待しています。その意味において、営業が「事前準備」によって目の前の課題やニーズの理解をするといったことは、もはや当たり前のレベルの期待になっている、と認識すべきなのかもしれません。
そのような顧客の高いレベルの期待に対応しつつ、アカウント営業の生産性を高めるには、「フォロー活動」も含めた顧客との様々な接点において、顧客の直近の状況や変化を察知すること、そしてより上位の課題を探ること、そしてその両者を結び付けて、「現場における変化や課題は、顧客の事業目標達成にどう影響してくるのか?」を常に考え、情報提供や提案の機会を創出していくことが、今後より強く求められるのではないでしょうか。
今回の調査でもう一つ取り上げたいのが、アカウント営業における「営業人材の最大活用についての考察」です。よって今年度の調査では、営業部門だけでなく人事部門も対象としました。また昨今の人手不足などの要素も考慮して、現在人事課題として強く認識されている「離職」「採用」「リスキリング」「ジョブ型雇用」「人的資本経営」という5つのテーマについて、対策を司る人事部門と営業現場との認識の違いや、会社業績との関係について調査をしました。本コラムでは、主に「採用」と「リスキリング」についての結果をピックアップしたいと思います。
● 採用
調査の結果、設定した5つのテーマのうち、業績への影響においてスコアが最も高かったのが「採用」でした。また、採用における営業現場と人事の認識の違いを分析していくと、両者の間でギャップが最も大きかったのは、「採用された営業人材は、現場で力を発揮できている」という要素でした(図3)。
人手不足の昨今では、採用自体が非常に難しく、人事としては採用に成功し無事入社できたこと自体を成果として認識します。一方で、営業現場にとってはその人材が営業として活躍できるかがやはり重要です。単に量的な「人手不足」ではなく、「戦力となる人材の不足感」という質的な部分も解消するという意味で、効果的な採用ができているか。また採用・入社後のオンボーディングや育成、活躍支援を含めて、人事と営業(特に後述する、現場における営業マネジメント)が目線を合わせて連携できているか。「営業人材の最大活用」においては、これらの要素がより重要になっていることを示唆しているのではないでしょうか。
● リスキリング
5つのテーマのうち、「離職」や「採用」が「量的な人材力」の問題であるとすれば、「リスキリング」「ジョブ型」「人的資本」は「質的な人材力」の問題といえるでしょう。この「質的な人材力」において、営業と人事の認識の違いを分析すると、いずれのテーマにおいても、営業と人事の両者で必要性の認識はある一方で、実践度合いにおいてはギャップがあることが分かりました。
上述の「営業プロセス」との関連において特に注目したいギャップは、「リスキリング」における「営業DXやAI活用」です。営業・人事ともにリスキリングの必要性についての課題感は強いですが、人事側は「技術環境の変化」への対応に目を向ける傾向が強く、一方営業現場では「顧客の商習慣の変化」への対応により強い課題感を感じています(図4)。
ここでいう「顧客の商習慣の変化」とは、先ほどお伝えした通り、「顧客がより上位の課題解決を志向しており、営業に対しても上位課題への深い理解と解決策の提示を期待するようになったこと」を指しています。一口に「リスキリング」といっても、全社的な課題としての技術的な面でのリスキリングも重要ですが、理解すべき顧客情報の高度化に対応するためには、適切な指示・指導ができる現場マネジメントが必要です。
ちなみに、本コラムでは詳細は割愛しますが、「ジョブ型」「人的資本」においても、実践における現場のマネジメント力の影響が大きい、といったことも明らかになっています。「営業人材の最大活用」を考えるならば、環境の変化をふまえてどのような人材、どのようなスキルが必要かを見極め、適切に采配し、指導・育成できるマネジメント人材の強化もあわせて考えたいところです。
本コラムでは、「営業実態調査2025」の結果から得られた重要な示唆をいくつかピックアップしながら、人事的な要素も含む営業部門の直近の課題について考察しました。この他にも、様々な示唆に富んだ調査結果・分析の詳細を報告書として公開していますので、こちらの資料 を是非ご覧ください。また過日開催したセミナーでは、調査に関するより詳細な解説や、「シニア人材を活用したアカウント型インサイドセールス」など、課題解決の事例をお伝えしていますので、アーカイブ動画を是非ご視聴ください。
アカウント営業は、顧客との関係構築と取引の最大化をめざすものです。顧客が求める期待のレベルはますます高度化しており、営業部門は個人のスキルに依存することなく、組織として生産性を高めていくための施策がより一層求められます。本調査の結果と示唆をもとに、組織として営業プロセスを見直す必要はないか、役割間の連携不足によって機会損失が発生していないか、そして現場の営業人材のパフォーマンスにおいてマネジメントが機能しているかなど、自社のアカウント営業の現状と課題を整理してみてはいかがでしょうか。パーソル総合研究所では、営業力強化のための様々なソリューションを提供しております。まずは貴社の課題についての「壁打ち」のディスカッションをしてみませんか? 是非お気軽にご相談ください。
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文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。
ラーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング1グループ シニアコンサルタント
河村 亨 Toru Kawamura
機械商社を経て富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に入社。教育の営業・営業マネジメントを経て「SFAの現場定着」「戦略実行」をテーマとした営業マネジメント力強化コンサルティングに従事。その後自社マーケティング部にてABM(Account Based Marketing)を構想・実践、現在に至る。PMI認定PMP。
著書に「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」「Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化」、共著「訪問しない時代の営業力強化の教科書」など
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