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台湾労働法制

台湾における解雇は厳格に制限されており、違法行為等による即時解雇が認められる他、基本的には労働基準法(Labor Standards Act)で定められている特定状況下における方法でしか使用者からの一方的解雇が認められていない。また、特定状況とは、例えば事業の停止や支配権の移転、会社の業績悪化等に限定されており、比較的、労働者に有利な労働政策がとられている。


労働許可及びビザの取得には、台湾労働部でまず労働許可を得てから、外交部にビザ申請を行い、適宜指定書類を提出することになる。就業可能職種は限定されているものの、技術面等での高度性を問うものはなく、比較的広い範囲での労働力を受け容れており、外国人のビザの取得条件それ自体は厳しいものではないといえる。


しかしながら、近時は新型コロナウィルス感染症の流行に伴い外国人の入境が一般的に制限されており、ビザの取得も相当程度困難になっている可能性もあるため注意が必要である。

労働管理において気を付けなければならない点、労務慣行の特徴、近年の労働政策の状況

2017年及び2018 年労働基準法改正

台湾においては、2016年12月に改正労働基準法(以下、「労働基準法」という。)が公布され、2017年1月1日より施行されている(以下、「2017年改正」という。)。この2017年改正においては、いくつか労働者の権利を保護する規定及び雇用主である会社に対して義務を課する規定が新設されたが、内容が労使双方にとって満足のいくものでなく、施行後に不満の声が高まったことから、2018年1月に同法が再改正され、2018年3月1日に施行されたものである(以下、「2018年改正」という。)。

これらの主な法改正の内容は次の通りである。

  1. 2017年改正において、「1例1休」という休日の制度が新たに施行された。これは、7日間(1週間)のうち、2日間の休日を労働者に与えなければならず、そのうちの1日は「休息日」と呼び、労使双方の同意があれば、労働者を出勤させることができ、他の1日は「例日」と呼び、天災等例外的な理由がある場合を除き、原則として労働者を出勤させることができないというものであった。例日を通じて、一週間の内に少なくとも1日の休日を労働者に付与することを目的とする制度であったが、産業界の強い反発を招いた。そこで、2018年改正において、原則週休2日制ではあるが、当局の同意に加え、労働組合の同意又は(労働組合がない場合は)労使協議による合意があれば7日ごとに休日の調整が可能とされた。また、振替休息日を取るための規則に関しては、使用者と従業員による交渉に任されている。従業員が休息日に就労した後に振替休息日を取る意思を表明しなかった場合、雇用主は依然として休息日の賃金を支払うべきである。雇用主が従業員を休息日に就労させた後に、振替休息日を取ることのみを選択できるように制限した場合には、労働基準法違反とみなされる可能性がある。
  2. 2017年改正において、休息日の残業代が引き上げられたが、更に2018年改正によって、残業代の金額を実働の稼働時間で計算するものとされた。
  3. 有給休暇の支給日数の増加及び有給休暇の買い取りの義務化
    2017年改正において、年度終了又は契約終了により取得しなかった有給休暇について、会社は、それを賃金に換算し、労働者に支給しなければならないとされた。更に2018年改正においては、未消化分は、労使協議による合意があれば次年度への繰り越しが可能とされた。ただし、次年度に繰り越した有給休暇が未消化となった場合は賃金換算して支給する必要がある。
  4. 勤続期間
    新法
    旧法
    6カ月以上、1年未満
    3日
    なし
    1年以上、2年未満
    7日
    7日
    2年以上、3年未満
    10日
    7日
    3年以上、5年未満
    14日
    10日
    5年以上、10年未満
    15日
    14日
    10年以上
    1年ごとに1日を加算し、最高30日まで
    1年ごとに1日を加算し、最高30日まで
  5. 2018年改正において、労働組合の同意、又は(労働組合がない場合には)労使協議による合意により、残業時間を1カ月46時間から1カ月54時間に、3カ月で138時間に増やすことができることとなった。なお、労働者は残業時間を代休に充てることが可能であるが、労働者が代休を合意した期間内に消化できなかった場合は、会社は、残業代として支給する必要がある。
  6. 昼夜交代制勤務に関して、当初は連続11時間の休息時間が必要であったが、2018年の改正において、当局が認める特殊な事情がある場合には、労働組合の同意又は(労働組合がない場合には)労使協議による合意により、休憩時間を短縮することができるようになった。ただし、休憩時間は連続8時間を下回ってはならない。
  7. 労働検査の強化及び違反過料の引き上げ
    会社の違法行為等に対し、主務官庁又は検査機構が労働者による申し立てを受理した後、そのような所轄官庁又は検査機構は、必要な調査を行い、その処理状況を60日以内に書面で労働者に知らせなければならないという規定が新設された。又、違反過料の上限額が45万台湾元から100万台湾元まで引き上げられた。更に、主務官庁は事業規模、違反人数又は違反事由に応じて、法定過料の最高額の50%までを更に加算することができる。

労働派遣に関する労働基準法の改正

更に、台湾においては、2019年まで労務派遣を規制する法令がなかったが、同年5月に施行された労働法一部改正により、派遣労働者の権利を保護するための規定が追加された。主な改正点は以下の通りである。

  1. 2019年の改正において、派遣元企業と派遣労働者との間の契約は、期限の定めのない契約により締結しなければならない。
  2. 派遣元企業が派遣労働者の賃金の支払いを滞納した場合において、所管機関から賃金の支払いを求める命令が下されたにも関わらず、なお賃金の支払いを怠ったときは、派遣労働者は派遣先企業に対して直接支払いを求めることが出来る。
  3. 派遣先企業が派遣元企業と派遣労働者が契約をする前に、面接や事実上の採用を決定するいわゆる「偽装派遣」が禁止された。派遣先企業がこの規定に違反し、偽装派遣が行われた場合、派遣労働者は派遣先企業に直接雇用するよう請求することが出来る。
  4. 派遣労働者が労働災害にあった場合、派遣先企業及び派遣元企業は派遣社員に対して連帯賠償責任を負う。

高い離職率

台湾行政院主計総処の統計資料1によると、2020年末時点において、労働者が同一の会社に勤務する平均年数は6.2年である。台湾においては、労働者は比較的頻繁に転職を行うとはいえ、日本と比較すると、全体的に離職率が高い。したがって、会社においては、有能な労働者を確保するために条件面を改善し、魅力のある職場環境を作りあげる必要がある。

労働組合

台湾の労働組合の活動は、従前はあまり活発ではなかったが、近年、パイロットによるチャイナエアライン(中華航空)に対する2019年のストライキ(2019年)や、エバー(長栄)航空従業員によるストライキ(2020年)が、メディアに大きく取り上げられた。特に後者は期間が17日間におよび、台湾史上最大規模であった。これらの状況からすると、近時は労働組合が機能し始めているといえる。

労働検査

2017年2月、台湾にて30人以上が死亡した重大なバス横転事故が発生した。その事故の原因は過酷な労働環境による運転手の過労にあると考えられたため、労働部は、運送業、労働派遣、金融等の残業が多い業種に対して労働検査プロジェクトを行う計画を立案中である。地方主務官庁による労働検査も盛んに行われるようになってきているため、会社においては、適切な業務環境の構築が重要である。

基本的な労働法制の概要

台湾における、主な労働に関する制定法は以下の通りである。

労働条件関係

労働基準法

台湾における労務関連の基本的事項を定めるのが労働基準法である。同法は、労働者の権益保護のため、最低基準の労働条件を定めることを目的に制定された。労働基準法に違反する労働条件は無効となる。医師、外国人介護労働者等の例外の適用除外対象を除き、労働基準法は、国籍を問わず、すべての労働者に適用される。

労働事件法

2020年1月1日から新たに施行され、労働事件訴訟にかかる手続全般に関する特別法である。この労働事件法には、一般の民事訴訟手続に比べて短い訴訟手続期間、労働者の手続費用負担や立証責任の軽減等、労働者による会社に対する訴訟提起をしやすくするためのものと思われる規定が含まれる。したがって、会社としては、労働条件、労働時間や給与の支払い等について明確に労働者に説明したうえで記録に残し、労使間の紛争が裁判所に持ち込まれた際に証拠として提出できるような管理体制を整えることが重要である。

労使関係

台湾において、労働組合法、団体協約法及び労働紛争処理法は併せて「労働3法」と呼ばれ、労使関係に関する重要な法律となっている。これらの法律において、労働基本権である団結権、団体交渉権及び団体行動権(争議権)が規定されている。

(1)労働組合法(工会法)

労働組合の設立、会議召集、理事・監事の選挙、組合財政を含む労働組合の基本仕組みを規定する法令である。

(2)団体協約法(團體協約法)

労働協約の交渉・締結・内容等、団体交渉権に関する事項を規定する法令である。

(3)労働紛争処理法(勞資爭議處理法)

労働紛争の調停・仲裁・裁決手続及びストライキ等の争議権に関する事項を規定する法令である。

(4)大量労働者解雇保護法

6カ月以内に一定人数の労働者を解雇しようとする場合の特別適用法である。解雇計画書の作成や主務官庁に対する届け出等の規定が定められているため、より長時間の解雇手続が必要である。したがって、会社がその事業を清算しようとする際、大量労働者解雇保護法の適用があるか否かの確認が重要である。

社会福祉関係

(1)労工保険条例

「普通事故保険」及び「職業災害保険」の2種類の労働保険を規定する法令である。原則として、5人以上の労働者を雇用する会社は、労働部労工保険局にて労働保険単位を設立し、その労働者を労働保険に参加させなければならない。労働保険単位を設立していない会社に属する労働者は、任意で労働保険に参加することができる。

  1. 普通事故保険
    ・給付項目:「出産」、「傷病」、「労働能力喪失」、「老年」及び「死亡」の5種類
    ・保険料:労働者の保険加入ベースの月賃金の11%(一般的には、20%は労働者自己負担、70%は会社負担、10%は政府負担)。ただし、下記雇用保険に参加している労働者の保険料は、その月賃金の10%となる。
  2. 職業災害保険
    ・給付項目:「傷病」、「医療」、「労働能力喪失」及び「死亡」の4種類
    ・保険料:事業ごとに異なる(一般的には、100%が会社負担)

(2)雇用保険法(就業保險法)

労働者の失業中の一定期間内に基本生活を維持し、就職技能を促進することを目的とする法令である。保険料は、労働者の保険加入ベースの月賃金の1%である(そのうち、20%は労働者自己負担、70%は会社負担、10%は政府負担)。労働保険に参加していない労働者でも、強制的に雇用保険に参加させる。雇用保険の適用対象は、一般の外国人労働者を含まず、台湾国籍の労働者及び台湾人配偶者がいる外国人労働者のみである。

(3)労工退職金条例

2005年7月1日より実施された定年退職金制度を定める法律である。同条例に基づく定年退職金制度の詳細は、後述「4.賃金(賞与・退職金・残業代)等の法制の概要」の項目「4-3. 退職金」を参照。なお、労工退職金条例による定年退職金と上記労働保険の老年給付は別物である。

(4)職工福利金条例(職工福利金條例)

工場、鉱物の採集場所、50人以上の労働者を雇用する会社は、職工福利金委員会を設立し、その設立を主務官庁に申請しなければならない。なお、当該会社は、一定額の職工福利金を拠出し、その職工福利金を職工福利金委員会に移管し、労働者の福利のため使用しなければならない。実務上、当該職工福利金は、労働者のための活動の実施、労働者の結婚式又はその親族の葬式の補助金等として使われている。

(5)性別雇用平等法(性別工作平等法)

性別による差別の禁止、セクハラ防止、女性労働者のための休暇等を規定する法令である。女性労働者のための特別休暇を定める法令であるため、就業規則を作成する際、この法令のチェックは必要である。

労働安全衛生関係

(1)職業安全衛生法

職業災害を防ぐため、会社がとるべき予防措置を規定する法令である。

(2)職業災害労工保護法

職業病気の認定、職業災害を受けた労働者に対する支援等を規定する法令である。

(3)労働衛生保護規制

2017年11月に職業安全衛生法との整合を図ること及び筋骨格系疾患と職場における感情ストレスの予防を目的として、労働衛生保護規制が改正された。改正は第26条に記載されているように複数のフェーズに分かれて施行される。第一回目のフェーズは2018年7月1日である。重要と思われる改正点は、以下の通りである。

  1. 50人以上の労働者を有する事業は、産業の特定のニーズに応じて、労働者保健サービス関連の人員を雇用または保有し、300人以上の労働者を有する事業は労働者保健サービス関連の人員を雇用または保有し、職場での感情的ストレス等の健康被害から生じる新しい職業病の予防のためのオンサイト保健サービスを提供する。
  2. 雇用されたまたは保有されている労働者の保健サービス担当者がサービスを提供できない場合、雇用者は他の資格のある個人(医療従事者)に契約して代理する必要がある。
  3. 保健サービス員による現場でのサービス及び職業安全衛生法に基づく検査及び記録の保存期間の変更。
  4. 特定化学物質と接触のある労働者のための特別健康診断項目の改正。そのような物質を扱う労働者を検査する医療従事者に、最新の環境モニタリング記録を提供するよう雇用者に要求する改正。

その他

(1)雇用サービス法(就業服務法)

人材紹介業の設立・許可及び外国人雇用等雇用促進に関する規定を定める法令である。

(2)外国人雇用許可及び管理法(雇主聘僱外國人許可及管理辦法)

外国人労働者の雇用に関する条件や申請手続等を規定する法令である。

就業規則の作成義務及びその内容

就業規則の作成義務

台湾労働基準法第70条及び施行規則第37、38条によると、30人以上の労働者を雇用する会社は就業規則を作成し、30日以内に主務官庁に届け出なければならず、又、それを事業場所内に公告し、印刷して各労働者に配布しなければならない。就業規則を修正したとき、同じく30日以内に主務官庁に届け出なければならない。主務官庁の承認を得ていない就業規則の修正は、その効力を有しない。

会社に複数の支店がある場合、それぞれの支店に適用する異なる就業規則を作成するか、会社全体に適用する就業規則を作成するかは自由に選択でき、いずれでも問題がない。

この規定に違反した場合、2万〜30万台湾元の過料が科される可能性がある(会社の規模・違反状況により、主務官庁は45万台湾元までの過料を科することも可能である)。なお、主務官庁は、労働基準法第80条の1により、違反した会社の社名、事業主の名前及び責任者名を公告し、その改善を命ずべきことになっていたが、同条の2020年改正により、公告事項として更に処分の日、違反した条文及び過料の金額も公告すべきこととなった。

就業規則の内容

労働基準法第70条により、就業規則には次の事項を記載しなければならない。

  1. 就業時間、休憩、休日、法定祝日、特別休暇(有給休暇等)、継続性業務のシフト方法
  2. 賃金の基準、計算方法、支払いの時期
  3. 労働時間の延長
  4. 手当及び賞与
  5. 遵守すべき規律
    違約金、著作権の帰属等の事項は個別の労働者の同意を得る必要があるため、会社が一方的に当該事項を就業規則に定めることは認められない。
  6. 勤務評定、休暇申請、表彰及び制裁、昇格及び異動
    勤務評定、表彰及び制裁に関する規定は具体的、合理的、明確でなければならず、「その他の事情」という包括的な規定を定めてはならない。
  7. 雇用、解雇、退職、定年
  8. 災害傷病補償及び見舞金
  9. 福利厚生
  10. 労使双方が遵守すべき労働安全衛生規定
  11. 労使双方の意見の伝達と協力関係強化の方法
  12. その他の事項

法令の強制・禁止規定又は労使協議に違反する就業規則は無効となるため、日本で作成した就業規則をそのまま適用できず、台湾法に沿って改めて作成する必要がある。

就業規則の不利益変更

行政院労働委員会(80)台労働一字第27545号解釈によると、労働条件は労使双方の協議で決めるべき事項であるため、会社は就業規則の労働条件を不利益に変更しようとするときは、労働者との協議が必要である。実務上、不利益変更の就業規則を主務官庁に届け出る場合には、労働者全員の同意書又は労使会議の同意証明を求められることが多い。

賃金(賞与・退職金・残業代)等の法制の概要

賃金

  1. 最低賃金

    2023年1月1日から、最低賃金は月額26,400台湾元、1時間当たり176台湾元である。この最低賃金基準は、児童労働者にも適用される。

  2. 手当

    日本とは異なり、台湾においては、基本給の他に、住宅手当、役付手当、家族手当等の手当が支給されるケースは多くない。

  3. 全額支払いの原則

    法令又は労使間に別段の定めがある場合を除き、賃金は、労働者にその全額を支払わなければならない。又、会社は、違約金又は賠償費用の予定として、労働者の賃金からそれらを予め控除してはならない。例えば、退勤後、仕事用のSNSメッセージを読まないと罰金として一定の金額を賃金から控除することは禁じられている。

  4. 通貨払いの原則

    賃金は、原則として法定通貨で支払わなければならない。ただし、習慣又は職務内容の性質に基づき、雇用契約にその一部を現物で支払うことを定めることができる。

  5. 同一職種・同一賃金の原則

    近時の改正において、同一職種・同一賃金の原則が確立された。

残業代

残業代(週40時間を超える労働時間勤務及び休息日の労働時間に対する賃金をいう。)には大きく分けて下記の4種類があり、それぞれ計算方法が違うが、原則として「時給×残業時間×一定比率」という方法で計算する。

台湾において、月賃金制の「時給」計算方法は日本と異なるため、注意が必要である。日本においては、時給は月賃金を1カ月当たりの平均所定労働時間数(休日を差し引く)で割って計算されるが、台湾においては、時給は月賃金を240時間(休日を差し引かないで30日×8時間)で割って計算される。なお、冒頭で述べた通り、2018年改正により、残業時間の上限が変更(増加)された。また、労働者の選択により、残業代の代わりに代休を取得することもできるようになった。

  1. 平日の残業代


    最初の1時間目〜2時間目の残業代は:時給×残業時間×(1+1/3)

    3時間目〜4時間目*の残業代は:時給×残業時間×(1+2/3)
    *労働基準法により、平日の残業時間は1日4時間を上限とされているため、4時間を超える残業は法令上、認められない。しかしながら、実態としてはこの制限を超過する残業が行われるケースがあるのは他国と同様であるといえる。

  2. 休息日の残業代

    従前は、法定の休息日の労働に最低支払われるべき賃金を4時間分の賃金とし、勤務時間が4時間を超えるごとに4時間分の賃金を支払わなければならないとされていたが、2018年改正により、実働労働時間で計算することとされた。さらに、労働者が法定の休息日に8時間を超えて働いた場合には次の通りとなる。

    最初の1時間目〜2時間目の残業代:平日の時給×残業時間×(1+1+1/3)

    3時間目〜4時間目の残業代:平日の時給×残業時間×(1+1+2/3)

  3. 法定祝日の残業代

    第1〜8時間目の残業代は、1時間当たり賃金×残業時間8時間である*。
    *実際の残業時間が8時間未満(例えば3時間)だとしても、1日8時間の残業代を支払わなければならない。

  4. 例日の残業代

    第1〜8時間目の残業代は、(1時間当たり賃金×残業時間8時間*)+代休1日である。
    *実際の残業時間が8時間未満(例えば3時間)だとしても、1日8時間の残業代を支払わなければならない。

  5. 女性の夜勤労働に関して

    現行の労働基準法第49条においては、原則として女性による夜勤労働(午後10時から翌日午前6時まで)は禁止されているところ、これが憲法上の男女平等原則に反するとして失効し、2022年1月末、同条の改正案が台湾政府により出されている。これにより、現在は、女性の夜勤労働も原則としては禁止されない運用がなされている(ただし、健康上の理由又はその他の正当な理由により夜勤ができないときは強制してはならず、また、妊娠中及び授乳期間中の女性従業員に対しては、なお夜勤労働を命じることはできない。)。

退職金

台湾における退職金制度は、労働基準法に基づく旧退職金制度と労工退職金条例に基づく新退職金制度(2005年7月1日より実施)に分かれている。これらはいずれも現在有効な制度であるが、退職金の計算方法と積立規定が異なっている。

  1. 適用対象

    旧退職金制度

    2005年6月30日までに雇用され、2010年6月30日前に新退職金制度を選択しなかった労働者。すべての外国人労働者は、入社時期を問わず、旧退職金制度が適用される(ただし、台湾戸籍のある台湾人と結婚した外国人労働者又は台湾人と離婚した外国人労働者は新退職金制度が適用される)。

    新退職金制度

    2005年7月1日以降に雇用された労働者。

  2. 制度の概要

    旧退職金制度

    労働基準法によると、会社は、旧退職金制度を適用する労働者の月賃金の2%~15%に相当する金額を専門口座に積み立てなければならない。(a)同一の会社に勤続15年以上、かつ満55歳、(b)同一の会社に勤続25年以上、又は(c)同一の会社に勤続10年以上、かつ満60歳の労働者は退職金を取得することができる。ただし、旧退職金制度の退職金は会社単位の管理口座にあるため、労働者が退職して別の会社に就職した場合には、以前の会社での積立分については、原則として引き出すことができない。

    給付額

    勤続15年までの部分については1年につき平均月賃金(退職前6カ月間の平均月賃金)2カ月分、勤続15年超の部分については1年につき平均月賃金1カ月分を全額一括で支給する。ただし、45カ月分を上限とする。

    新退職金制度

    労工退職金条例によると、会社は、新退職金制度を適用する労働者の月賃金の6%を下回らない比率を拠出し、労工保険局の専門口座に預け入れなければならない。なお、労働者個人は、その月賃金の6%の範囲内で退職金の追加拠出をすることができる。(a)満62 歳(実際に退職したかどうかを問わず)に達した労働者、又は(b)62歳未満で死亡した労働者の遺族は積み立てられた退職金を取得することができる。新退職金制度の退職金は個人単位の管理口座にあるため、労働者が退職して別の会社に就職しても、以前の積立分はそのまま引き継ぐことになる。

    給付額

    ・月次給付:(実際積み立てられた個人退職金+累積運用収益)より、年金生命表、利率等の諸係数に基づき決定
    ・一括給付:実際積み立てられた個人退職金+累積運用収益


    2018年及び2019年の労工退職金条例の改正

    2018年に台湾において、高齢化の懸念から年金の支給開始年齢を、2026年までの間に改正前の満60歳から65歳まで段階的に引き上げることが決定している。また、2019年に新退職金制度の改正が再び行われ、年金の受給資格を得られる対象者の枠が広げられ、かつ、企業または年金基金運用者に対して、労働者の年金を適切に運用するよう罰則が強化された。主な改正点は以下の通りである。

    1. 2018年の新退職金制度の改正により、2020年より労働者保険加入者の受給申請年齢を62歳に引き上げる。また、2022年に63歳、2024年に64歳、そして2026年には65歳まで2年ごとに段階的に引き上げられることが決定している。
    2. 2019年の同制度の改正により、台湾において永久居留権を所有する外国人に対しても新退職年金制度が適用され、退職後の生活を保護することが決定された。また、自営業者等、従前は任意での年金支払いを行ってきた者に対して、これまで適用されなかった税優遇処置の対象とすることにより、対象者の年金加入を促進する対策が取られることとなった。
    3. 政府は、新退職金制度に違反して行政処分を受けた企業の社名、責任者の名前、違反した規定及び行政処分の日付と内容・罰金の金額を公告することとなった。
    4. 労働基準法78条に基づき、退職手当または年金を法定期日内に支払わないか支払いが遅れた企業に対する延滞金額につき、最大90万台湾元から最大150万台湾元に引き上げられた。
    5. 年金又は延滞金額の不払いで、不足額につき企業の資産を当てても精算に至らなかった場合、企業の代表者及び責任者が個人的に賠償責任を負うこととされた。

賞与

労働基準法第29条により、会社は、事業年度終了後、利益があった場合には、一年間継続勤務して過失のなかった労働者に対して、賞与を支給し、又は利益の分配をしなければならない。なお、実務上、台湾の会社は、旧正月の前に労働者に対して一定額のボーナスを支給する習慣がある。

解雇の方法と留意点

台湾において、労働者は労働基準法の保護を受けており、会社は、法定の事由がなければ、労働者を解雇することができない。

台湾における解雇は、予告期間の有無によって、大きく分けて労働基準法第11、20条による「予告解雇」と労働基準法第12条による「即時解雇」の2種類がある。


予告解雇

  1. 法定解雇事由

    会社は、下記のいずれかの事由が生じたとき、労働者に予告し、雇用契約を解除することができる。

    1. 廃業又は営業・財産が譲渡され、法人格が消滅した場合
    2. 営業損失が生じ又は操業を短縮した場合
    3. 不可抗力による事業の一時停止が1カ月以上に及ぶ場合
    4. 事業の性質の変更によって労働者を減ずる必要があったが、その労働者に適当な配置転換の業務がない場合
    5. 労働者が担当している職務の遂行において、確実に能力上不適格である場合
    6. 会社が組織再編又は譲渡された場合
  2. 予告期間

    勤続期間
    予告期間
    3カ月以上1年未満勤続した労働者
    10日前まで
    1年以上3年未満勤続した労働者
    20日前まで
    3年以上勤続した労働者
    30日前まで

    会社は、予告せずに雇用契約を解除した場合、予告期間の賃金を労働者に支払わなければならない。

  3. 報告義務

    雇用サービス法によると、会社が予告解雇をするとき、労働者の離職日の10日前までに、解雇される労働者の氏名、性別、年齢、住所、電話番号、担当職務、解雇事由及び就労指導の必要性等の事項を資料に記載して現地の主務官庁及び公立就労服務機構に報告しなければならない。これにより、主務官庁及び公立就労服務機構は、当該解雇される労働者に対して適切な再就活の情報等を提供することができる。

  4. 解雇手当

    旧退職金制度を適用する労働者

    勤務年数1年につき平均月賃金(解雇前6カ月間の平均月賃金)1カ月分の解雇手当を雇用契約解除後30日以内に支払わなければならない。

    新退職金制度を適用する労働者

    勤務年数1年につき平均月賃金0.5カ月分の解雇手当を雇用契約解除後30日以内に支払わなければならない。ただし、6カ月分を上限とする。

即時解雇

労働者の責めに帰すべき法定の事由があった場合、会社は予告をせずに、雇用契約を即時に解除することができる。この場合、会社側に解雇手当の支払い義務等は存在しない。

  1. 法定解雇事由

    会社は、下記のいずれかの事由が生じたとき、労働者に予告せずに、雇用契約を解除することができる。

    1. 雇用契約を締結する際に虚偽の意思表示をして会社の判断を誤らせ、会社に損害を及ぼす恐れのある場合
    2. 雇用主、雇用主の家族、雇用主の代理人又は共同作業をしている他の労働者に対して、暴行を加え、又は重大な侮辱行為をした場合
    3. 有期懲役以上の確定判決を受け、刑の執行猶予又は罰金刑への減軽がなかった場合
    4. 雇用契約又は就業規則に違反し、その情状が重大な場合
    5. 機器、工具、原料、産製品その他会社の所有物品を故意に損耗させ、又は会社の技術上、営業上の機密を故意に漏洩し、会社に損害を及ぼした場合
    6. 正当な理由なしに無断欠勤が3日継続し又は1カ月内の無断欠勤が6日に達した場合

    上記第(1)、(2)、(4)、(5)、(6)号による雇用契約の解除について、会社はその事由を知った日から30日以内に行わなければならない。

解雇禁止期間

女性労働者及び労災労働者を保護するため、産前産後休業の期間及び労災休業の期間においては、天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となったときを除き、当該労働者の解雇は禁止されている。

大量労働者解雇保護法

30人未満の労働者を雇用する会社が60日以内に10人超の労働者を解雇、30人以上200人未満の労働者を雇用する会社が60日以内に10人超もしくは1日に20人超の労働者を解雇、200人以上500人未満の労働者を雇用する会社が60日以内に1/4の労働者もしくは1日に50人超の労働者を解雇、500人以上の労働者を雇用する会社が60日以内に1/5の労働者もしくは1日に80人超の労働者を解雇、又は、60日以内に200人超の労働者もしくは1日に100人超の労働者を解雇するとき、大量労働者解雇保護法が適用される。

大量労働者解雇保護法には、上記一般予告解雇より煩雑な手続きが定められている。例えば、大量解雇の60日前までに解雇計画書を主務官庁、労働組合及び解雇される労働者に提出し、又は公告しなければならない。なお、解雇計画書を提出してから10日間以内に労使協議会を開く必要がある。労使間で解雇について合意がなければ、主務官庁は協議委員会を組織し、積極的に労使協議に介入する。実務上、大量労働者解雇保護法の適用を回避するため、会社が法定解雇手当より高い水準の手当を労働者に提供し、労働者に自主退職をしてもらう場合もある。

外国人ビザの種類及び取得要件

外国人就業規制

台湾において、外国人を雇用する基本法は雇用サービス法(就業服務法)の第5章である。原則として、外国人を雇用するとき、まずは、労働力発展署に就労許可を申請しなければならない。その後、外交部領事局に居留ビザを申請し、当該外国人労働者が来台した後15日以内に、内政部移民署に居留証を申請する。

就労許可なしに台湾で就業した場合、会社と当該外国人は、過料及び台湾退去を命じられる可能性がある。

なお、外国人が就業できる業種、職種は限られており、業種ごとに会社の資格、労働者の資格及び最低賃金等について異なる制限があるため、個別にチェックが必要である。

外国人が就業可能な業種、職種は次の通りである。

  1. 専門性又は技術性を有する職業
  2. 台湾政府の許可を受けた外国人が投資又は設立した会社のディレクター/マネジャー/エグゼクティブ
  3. 公立又は登録済み私立大学又は外国人学校の教師、高校以下の学校の外国語教師、バイリンガル学部又はバイリンガル学校の教師
  4. 塾及び研修教育法により設立した短期学習塾の専任外国語教師
  5. スポーツコーチ及び選手
  6. 宗教、芸術、及び芸能に関する職業
  7. 船員
  8. 海洋漁業に関する職業
  9. 家庭手伝い及び介護に関する職業
  10. 台湾の重大建設プロジェクトや経済社会の発展に必要であり、主務官庁が指定する職業
  11. 国内の雇用市場におけるそのような専門家の不足と、そのような専門家を必要とするビジネス上の必要性のため、主務官庁の個別許可を得た職業

(1)及び(2)の2人目以降のマネジャーには、47,971台湾元の最低賃金の制限がある。

詳細は、「外国人雇用許可及び管理法」、「外国人が就業服務法第46条1項1号から6号に規定される業務に従事する際の資格及び審査基準」及び「外国人が就業服務法第46条1項8号から11号に規定される業務に従事する際の資格及び審査基準」等を参照する必要がある。

ビザの種類

原則として、台湾に長期滞在する外国人は居留ビザを保有することが必要である。その居留の目的によって、居留ビザは下記の種類がある。

ビザの種類 対象者
起業者 外国人起業者の来台投資を促進するため、投資審議委員会の定める起業家資格を満たした個人又は事業チームは、2015年から起業者ビザを申請することができる。
就労 就労許可を得て、台湾にて就業する外国人
投資 投資審議委員会の許可を受け、台湾の会社に対する投資金額が20万米ドル以上の外国投資家
インターン 内政部、投資審議委員会、衛生福利部等の主務官庁から許可を得て、台湾にてインターンをする外国人
家族 台湾国民の外国人配偶者及び未成年子
就学 台湾の大学、高校等に就学する外国留学生
研修 1、台湾の大学の中国語センターに就学する外国人
2、内政部、地方主務官庁から許可を得て、台湾の宗教団体にて宗教を研究する外国人
宗教宣伝 宗教団体の要請により台湾にて宣教する外国人

又、(1)連続5年、毎年183日超の時間、台湾にて合法的に居留した外国人、及び(2)台湾国民の配偶者又は子供で、10年以上台湾に合法な居留権があり、その内の5年間、毎年183日超の時間、台湾に在留した場合、永久居留権を申請することができる。永久居留権を有する外国人が台湾にて就業する際、会社を通じて就労許可を申請することは不要である。

もっとも、近時は新型コロナウィルス感染症の流行に伴い外国人の入境が一般的に制限されており、ビザの取得も相当程度困難になっている可能性もあるため台湾への入境を検討する場合には、常に最新の情報を確認しておく必要がある。

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