経年調査から見る働くシニア就業者の変化

公開日 2023/12/11

執筆者:シンクタンク本部 研究員 金本 麻里

シニア定点調査コラムイメージ画像

働くシニアが増えている。シニアの就業率はこの10年間で大幅に上昇し、2022年では、60~64歳の73.0%、65~69歳の50.8%が働いている状況だ※1。背景の1つには、2021年4月より、改正高年齢者雇用安定法(70歳就業法)が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となったことがある。また、シニア個人の就労意識の変化もある。長い老後生活の金銭的負担や健康維持などを理由に働き続ける人が増加しているのだ。
このような就業率の上昇を受けて、近年、働くシニアの様相はどのように変化しているのだろうか。パーソル総合研究所が2017年から毎年調査を続けている「働く10,000人の就業・成長定点調査」から、60~69歳のシニア就業者のデータを取り上げ、実態を見ていきたい。

※1 厚生労働省「労働力調査」より

  1. 雇用されて働くシニア就業者の比率が増加
  2. シニア就業者自身の「何歳まで働きたいか」は変化なし
  3. 転職の理由は、契約期間満了から給与の不満に
  4. シニア就業者のWell-beingな就労と活躍に重要なこと
  5. まとめ

雇用されて働くシニア就業者の比率が増加

働くシニア就業者(60~69歳就業者)の外形的な変化を見ていくと、労働時間や年収、職種の分布は、2017年~2023年にかけてあまり変化がなかったが、雇用形態には変化が見られた。

図1を見ると、60代前半では、「会社員(正社員)」、60代後半では「パート・アルバイト」の割合が増加している。一方、「自営業」は減少傾向にある。従来、働くシニアには他年代に比べ、個人商店や農業といった自営業者の割合が多かったが、最近では雇用されて働く形態が増加していることがうかがえる。

図1:シニア就業者の雇用形態の変化(2017年~2023年)

図1:シニア就業者の雇用形態の変化(2017年~2023年)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」


2017年の時点で、65歳までの雇用確保措置(対象者を限定する企業も含む)は、ほとんどすべての企業で実施されているが、65歳定年制を導入する企業の割合は、2017年の15.3%から、2022年の21.2%まで増加した※2。このような動きが、60代前半就業者の正社員比率の上昇に表れているようだ。

また、70歳定年もしくは定年廃止企業は、2022年時点でいまだ数%にとどまっているが、継続雇用も含めて70歳以上まで働ける企業の割合は、2017年の22.6%から、2022年には38.2%にまで増加している※2。65歳以降の継続雇用ではパート・アルバイトとして働くケースも多いことから、60代後半のパート・アルバイト比率が増加していると考えられる。また、シルバー人材センター等で求人を探し、パート・アルバイトで転職するシニア就業者も多い。労働力不足の影響で、シニアのパート・アルバイトに対する需要が拡大していることも追い風になっている。

このように、シニアの就業率の上昇は、シニア就業者の雇用機会の拡大によって、下支えされていることが分かる。

※2 厚生労働省「令和4年 高年齢者雇用状況等報告」より

シニア就業者自身の「何歳まで働きたいか」は変化なし

では、シニア就業者個人の働くことについての意識は、どのように変化しているのだろうか。

本調査の結果では、各年代のシニア就業者の「働き続けたい年齢」は、2017年以降変化が見られなかった(図2)。「働き続けたい年齢」の平均は、60代前半では70歳前後、60代後半では73~74歳であり、横ばいで推移している。また、分布にも、大きな変化は見られない。

図2:シニア就業者の「何歳まで働きたいか」回答結果(2017年~2023年)

図2:シニア就業者の「何歳まで働きたいか」回答結果(2017年~2023年)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」


つまり、シニアの就業率は高まっているが、各年齢層において、「高齢になっても働きたい」と就業継続に対して意欲的になるシニアが増えているわけではないことが分かる。シニアの就業率の上昇は、雇用機会の拡大によって働き続ける機会が増えたことや、健康寿命の延伸によって働きたいが働けないという状況が減ったことなどの要因の影響と考えられる。ただし、就業率が高まったことで、これまで働かないことを選択してきた比較的就労意欲が低い層も働くようになったために、長く働きたい個人の増加を打ち消している可能性も考えられる。

なお、20代、30代の若手就業者の「働き続けたい年齢」の変化を見ると、はっきりと低下傾向が見られる(図3)。老後年金問題が騒がれたことは記憶に新しいが、将来不安とは裏腹に、早期リタイアしたいと考える若手が増えているようだ。「生涯現役」を望む割合も減少している。

図3:若手就業者の「何歳まで働きたいか」回答結果(2017年~2023年)

図3:若手就業者の「何歳まで働きたいか」回答結果(2017年~2023年)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」

転職の理由は、契約期間の満了から給与の不満に

シニア就業者の就業行動の変化も見えてきた。シニア就業者の過去1年間の転職率は18.2%であり、30代の就業者に次いで多い水準となっている※3が、その転職理由が変化しているのだ。60代での転職の理由を見ると、「契約期間の満了(定年退職等)」が減少し、「給与の不満」が増加している(図4)。おそらく、65歳以降も継続雇用する企業が増加したことで、契約期間満了による転職ではなく、継続雇用時の給与額の低さなどへの不満から、転職するシニア就業者が増えていると考えられる。

図4:転職理由の変化 (2019年~2023年)

図4:転職理由の変化 (2019年~2023年)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」


シニア就業者の定年後再雇用では、給与が大幅に削減されるものの業務内容にはこれまでと変化がないといったケースも多く、不満を持つシニア就業者が少なくないことが指摘されている。またこのような処遇や、職場におけるエイジズム※4によって、シニア就業者自身が「期待されていない」と感じ、モチベーションを保つことができていないという問題も指摘されている※5

シニア就業者の継続雇用が広がる中、シニア就業者のモチベーションを維持し、生産的な形で雇用を続けることがより重要になると考えられる。

※3 厚生労働省「令和4年雇用動向調査」より
※4 年齢に対する偏見や固定概念(ステレオタイプ)、それに基づく年齢差別を指す
※5 石山 恒貴「定年前と定年後の働き方 ~サードエイジを生きる思考~」

シニア就業者のWell-beingな就労と活躍に重要なこと

では、シニア就業者が活躍するには何が重要なのだろうか。シニアがイキイキと幸福に働き、活躍することを表す概念として、「はたらくWell-being※6」に着目し、分析を行った。

※6 はたらくことを通じて幸せを感じており、かつ不幸せを感じていない状態を表す

その結果分かったことの1つは、シニア就業者のはたらく幸せ実感には、「仕事を通じた成長実感」が強く関連するということだ。過去1年間で成長を「まったく実感しなかった/実感しなかった」と答えたシニア就業者のうち、仕事で幸せを感じている割合は2割弱にすぎなかったが、「とても実感した/実感した」と答えたシニア就業者では約7割に上った。シニア就業者と成長が結び付けて語られることは少ないが、就業者の成長実感とWell-beingとの関連度に年代差はない。いくつになっても、仕事を通じて新たなことを学び、成長することは、仕事における幸福感を高める。

しかし、どのような出来事から成長を感じるかは、下の年代とは異なっていた。シニア就業者の約4割は「仕事に意義・やりがいを感じること」によって成長を実感しており、上司からの指導や同僚との切磋琢磨を挙げる声は少ない傾向があった(図5)。自分がやりがい・意義を感じることができる仕事を選ぶことが、シニア就業者にとって特に大切だといえる。

図5:年代別の成長できた理由(2023年)

図5:年代別の成長できた理由(2023年)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」


継続雇用後のシニア就業者は、年下上司のもとで働く場合が多い。一般に、年下上司が年上部下をマネジメントする際には、過去の立場が逆転することなどが原因で、関係がギクシャクしやすいといわれる。では、シニア部下にWell-beingに働き、活躍してもらうために、上司はどのような行動をとればよいのだろうか。

調査データを分析し、Well-beingに働くシニア就業者の上司の特徴を抽出した。なお、全体的な傾向のため、個々のシニア就業者に当てはまらない可能性がある点には留意されたい。図6のように、Well-beingに働くシニア部下の上司は、シニア部下の存在を認め、意見を取り入れる、ほかのメンバーと平等に接するといった行動をとりながらも、組織目標の伝達や業務の進捗支援といったトップダウンな支援も行っている傾向があった。ベテランとして尊重しながらも、上司として業務上の支援はしっかり行うということだろう。また、「成長機会の付与」や「仕事ぶりに見合った評価」、「感謝・ねぎらい」といった下の年代で重要とされる行動は、シニア就業者のWell-beingにはあまり重要ではないという結果だった。組織から評価され昇進・昇格を目指す段階ではないシニアにとって、これらの行動ではWell-beingを高めづらいと考えられる。

また、逆にWell-beingを低下させる上司の行動は、「プライベートな話を打ち明ける」や「悩みや不満を聞く」であった。関係性にもよるだろうが、上下関係のねじれがある年上部下に対する行動として、適切ではない場合が多いことが予想される。

図6:シニア就業者の「はたらくWell-being」を高める上司マネジメント(2023年)

図6:シニア就業者の「はたらくWell-being」を高める上司マネジメント(2023年)

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」

まとめ

本コラムでは、近年大きく変化するシニア就業者の様相について、「働く10,000人の就業・成長定点調査 2023」のデータから確認した。本コラムのポイントは以下の通りである。

・2017年から2023年にかけて、雇用されて働くシニア就業者が増加した。具体的には、60代前半では「正社員」、60代後半では「パート・アルバイト」の比率が増加。代わりに、「自営業」の比率は減少。

・シニア就業者自身の「働き続けたい年齢」は変化していない。全体傾向としては、シニア就業者の「長く働きたい」という意欲が高まっているわけではなさそうだ。

・2021年以降、契約期間満了(定年等)によるシニア就業者の転職が減少し、給与への不満による転職が増加している。拡大を続けるシニアの継続雇用において、給与の減額等によるモチベーション低下をいかに防ぐかが重要。

・シニア就業者がWell-beingに働くには、やりがい・意義ある仕事で成長を感じることや、上司がベテランとして尊重しながらもトップダウンな業務遂行上の支援もしっかりと行うことが重要。

本コラムが、シニア就業者の動向を把握する一助となれば幸いである。

執筆者紹介

金本 麻里

シンクタンク本部
研究員

金本 麻里

Mari Kanemoto

総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。


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