働き方改革は業績にどう影響するのか。2012年から他社に先駆けて改革を推進してきたSCSKは、その問いにひとつの実績を示した。2011年度に169億円であった営業利益は、2024年度には661億円へと拡大。年次有給休暇17日、残業22時間/月の水準を維持しながらの変化である。人事として取り組みをリードしてきた河辺氏への取材に加え、営業現場で実践してきた森氏、中村氏の証言を通じて、同社の改革の実像に迫る。

SCSK株式会社 参与/シニアフェロー/エバンジェリスト
河辺 恵理 氏
住商情報システムとCSKの合併によって2011年に誕生したSCSKは、その翌年から働き方改革に着手した。2016年からは「スマートワーク・チャレンジ(スマチャレ)」をスタート。残業時間を月20時間以下、有給休暇を年20日取得する「20・20」を全社員で目指す取り組みである。
この取り組みのきっかけでもあり、成否を分けたひとつの大きな要因が、経営の強い意思決定である。当時、人事グループの副グループ長であった河辺氏(現・参与)は、「当時の社長は、合併を機に当社を一流企業にしたいという思いを強く持っていた。深夜まで働き、有給休暇も取れない企業は一流とはいえないと、人事に対策の検討を指示した」と振り返る。また、中間管理職だった森雅昭氏(現・産業事業グループ長)も、「昼休みに机に突っ伏して寝ている社員を見て、社長が『これは健全ではない』と強い危機感をにじませたのが強く印象に残っている」と語る。
とはいえ、発表当初、半信半疑だった現場も多かったという。当時から金融システムの開発・保守の部署に所属する中村朋世氏は、「現実には難しい、という空気があった。当初は半ば無視し、従来の働き方を続けていた人も多かった」と明かす。そんな空気を一変させたのが、「業績か、働き方か、で迷うなら、業績を捨てろ」という社長の言葉であった。「管理職は板挟みになる立場だが、この一言が大きな後ろ盾になった。会社の本気度を実感した瞬間でもあった」(森氏)。
その上で、改革を実効性あるものにした要素は次の3つに整理できる。
第1に、役員層の責任の明確化である。「20・20」の達成責任を事業グループ単位で負わせ、進捗は毎週の経営会議で報告させた。未達の場合は理由の説明を求めるなど、役員や管理職の実行責任を曖昧にしない仕組みを徹底した。
第2に、人事による仕掛けである。社員が主体的に取り組めるよう、さまざまな制度や施策を次々に打ち出した。中でも効果を発揮したのが、削減された残業代を原資とした、削減目標達成グループの社員全員へのボーナス支給だ。追加コストをかけることなくインセンティブを機能させた。また、改善効果の高かった施策の表彰や好事例の全社共有など、現場の工夫を引き出す取り組みも重ねた。
第3に、社員の意識変革である。一連の取り組みによって、社員一人ひとりの意識にも変化が生じていった。「他部署が『20・20』を達成する中、自分たちだけ未達では達成済みの他部署の足を引っ張ってしまう。そうした意識が芽生え、現場の取り組みは加速した」(中村氏)。こうしてトップの意思を起点に、マネジメント、人事施策、個人の意識が連動したことで、「20・20」は改革開始から2年後の2014年度に概ね達成した(図表1)。
同社の働き方改革を成功に導いたもうひとつの大きな鍵は、トップ主導で掲げた方針を現場で機能させた「現場の主体性」である。そして、その主体性を引き出したのが、数値化による「見える化」と、現場への裁量委譲であった。
「日頃から数値目標を見ながら動く現場に取り組みを浸透させるには、働き方改革も数値で示すことが不可欠だった」(河辺氏)。加えて、「20・20」をどのように達成するかは、各組織の判断に委ねられた。「当初は人員増で対応していたが、コストには限界がある。小さな改善から始め、徐々に業務の効率化で乗り越える方向へシフトさせていった」(森氏)。何をやめ、何を残すかを見極める中で、業務の生産性は着実に高まっていった。
同時に、その過程で進んだのが、業務の標準化と属人化の解消である。特定の個人に依存しない体制へと転換することで、休暇取得と生産性向上を両立できるようになった。「1人で抱え込まず複数体制にすることで、残業が発生してもどちらかが先に退社できるなど、業務運用の柔軟性が高まった」(中村氏)。
また、フレックスタイム制やテレワークの導入、直行直帰の容認により、移動時間の削減と働き方の柔軟化も実現した。「以前は客先訪問の前後に出社が必要であったが、直行直帰により残業時間が大幅に削減された」(河辺氏)。
さらに、顧客対応という業界特有の制約にも踏み込んだ。SIerは顧客先に常駐し、競合と同一現場で働くケースも多い。その中でSCSKの社員だけが休めば白眼視され、失注につながるリスクさえある。そこで、顧客企業の役員に対し、社長名でレターを送り、理解を求めたのだ。ここでもトップの本気が社員を支え、取り組みを前進させた。
改革開始から10年が経過した頃から、働き方改革は成果を上げる一方で、新たな課題も浮上し始めた。働きやすさの向上に伴い、「ゆるブラック」とも称される状態が指摘されるようになったのだ。「若手の中には、この環境で成長できるのかと不安の声もあった」(森氏)。
そこで同社は、2023年から「働きがい」の強化に軸足を移したWell-being経営を本格化させる。Well-beingについて、独自に7つの価値観〔健康/働き方/DEI/キャリア/組織/やりがい/未来創造〕を定義し、価値観ごとに測定指標(全25指標)を設けて状態を可視化。その上で、各部署における不足領域を特定し、各々が改善施策を講じている。例えば、1on1の強化や部署横断の交流、手挙げによるアサイン機会の拡充、研修の充実などだ。その結果、たった8カ月で「やりがい」や「未来創造」の指標が改善した部署も現れている。
全社的にも、タウンホールミーティングや部署を超えた交流機会を設けるなど、社員同士のつながりを強化する施策を推進している。こうした取り組みにより、「働きがい」の課題は着実に改善しつつある。なお、同社が2025年度に実施した京都女子大学の中田喜文教授との共同研究では、「働きやすさ」と「働きがい」の双方を強く感じている社員ほど、パフォーマンス発揮度が高いことが確認されている(図表2)。これは、これまでの取り組みの有効性を裏付ける結果といえるだろう。
働き方改革は、業績に寄与するのか。同社の歩みはその問いに一定の示唆を与えている。実際に、改革の推進と並行して、同社の営業利益は合併直後の2011年度の169億円から、2024年度には661億円へと約4倍に拡大している。これは、合併によるシナジーに加え、現場の生産性向上が結実した賜物といえる。また、採用面でも優秀な人材の安定的な確保につながっているという。
「仕事の進め方が洗練され、効率化が進んだことで、持続性の高い事業運営が可能になった」(河辺氏)。
一方で、同社は次の成長に向け、「未来創造」と「共創」に注力する。もっとも、先の共同研究の結果によれば、「未来創造」は必ずしも、働きやすさや働きがいに直結するわけではない。「未来創造とは、当社でいえば将来の成長に向けた投資領域や新規事業の取り組みなどにあたる。こうした分野は負荷も高く、成果創出にも時間を要するため、働きやすさや即時的なやりがいとは距離がある側面もあるだろう」(河辺氏)。それでも、「未来創造」なくして持続的成長はないという覚悟で挑む。働きやすさと働きがいを土台とし、環境変化に機敏に対応しながら挑戦と革新を続けられる組織へと進化できるか。SCSKの挑戦は、今後も続く。

執行役員/産業事業グループ長
森 雅昭 氏
以前は、「IT業界は長時間労働が当たり前」と考えていました。しかし、今振り返ると、長く働くこと自体が「自己満足」に過ぎなかったと感じます。働き方改革以降は、限られた時間で成果を出すため、仕事の優先順位を見直さざるを得なくなりました。そのため、業務を大きく2つに分けて捉えています。ひとつは、提案書や顧客向け資料など、組織の判断で作業の質や量をコントロールできる業務です。本質的にやるべきことに絞り、不要なものは手放す判断をチームで共有しながら進めています。もうひとつは、プロジェクトとして成果を出す業務で、こちらは品質や量を落とすことはできません。少数の頑張りに依存すると属人化が進んでしまうため、リソースが不足する場合は人員を追加したり、互いにカバーし合ったりして、チーム全体で対応しています。
一方で、「できないと言える」風土が根付いたことも大きな変化です。早い段階でアラートを出し、顧客にも「言うべきときは言う」という姿勢の浸透が、リスクの最小化につながっています。ただし、残業削減だけでは個人の成果の総量が低下し、組織の持続性は保てません。社内にはオンライン講座などの学習環境も整備され、スキル向上に取り組める土台が用意されています。働き方改革と個人の成長、業績の向上がトレードオフとならないよう、現場では今も日々、創意工夫を重ねています。

金融システム第四事業本部 証券システム第一部第三課
中村 朋世 氏
私は現在4人の子どもの子育て中です。育休中に合併を知り、復職時に働き方改革が始まりました。それまでは朝から深夜まで働くのが当たり前でしたが、残業削減が求められるようになり、周囲に業務を委ねる場面が増えました。当初は、「想定通りに進められないのではないか」という戸惑いもありましたが、依頼の仕方を工夫し改善を重ねる中で、残業削減と成果創出を両立できるようになっていきました。一人で抱え込むよりも、結果的に良いものができることも多く、人に任せることで相手の成長にもつながります。今は、チームリーダーとして、メンバーにもそうした考え方を伝え、モチベーションの維持につなげています。
有給休暇はほとんど子どもの用事で消化されますが、業務を分担し合う体制が整ったことで、負い目を感じることなく休めるようになりました。一方で、限られた時間の中で成果を出すため、生産性を極限まで高める必要があるという厳しさも実感しています。現在は、期日通りにタスクをやり切る「PM(プロジェクトマネジャー)脳」と、時間をかけてでも顧客や社員との関係を重視する「SM(サービスマネジャー)脳」を使い分け、業務の特性に応じて最適な進め方を探っています。こうした試行錯誤を重ねながら、さらなる生産性向上を目指しています。
THEME
CONTACT US
こちらのフォームからお問い合わせいただけます
{{params.not_modal_movie| }}
{{params.modal_movie| }}