インタビュー

地域の人手不足を「働き方の革新」で突破する フィッシャーマン・ジャパンの担い手育成とマッチング戦略

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人口減少や高齢化、資源変動が同時進行する漁業・水産業において、担い手不足は地域の存続に直結する課題である。宮城県石巻市を拠点に活動するフィッシャーマン・ジャパンは、「漁業をカッコよく」をコンセプトに集まった東北の若手漁師集団。同団体で三陸の水産業者の変革に取り組まれ、担い手の育成や漁業の魅力を発信する渡部更夢氏にお話を伺った。(聞き手:パーソル総合研究所 小林 祐児・中俣 良太)

渡部更夢氏

一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン
事務局 職業紹介責任者 漁師見習い

渡部 更夢 氏

1995年秋田県生まれ。千葉大学院時代に都市計画を専攻、フィールドワークで三陸沿岸地域を訪れて水産業と出会う。海と陸の関係を漁業権の観点から深ぼる活動は今やライフワーク。現在は、水産業の担い手確保や短期雇用、就業支援の仕組みづくりを中心に自治体・漁業者・企業をつなぐコーディネートを担当。2024年9月から赤貝漁師見習いも開始して、自らも海に身を置いて持続的な水産業の形を模索している。

写真クレジット:竹内弘真

三陸から全国へ。「かっこよくて、稼げて、革新的」な水産業をつくる

――フィッシャーマン・ジャパンの設立背景と目指す姿を教えてください。

渡部氏:フィッシャーマン・ジャパンは2014年、三陸の漁師、魚屋・仲卸、震災復興の現場で活動していたヤフー(現:LINEヤフー)の長谷川琢也さんとボランティアメンバーが集結して立ち上げました。

2011年の震災後、水産庁の補助金で設備を再整備し、借入を抱えながら事業再開が進んだ一方、流通構造の変化、魚食の多様化、輸入品増加、自然環境の変化など、震災と無関係に存在する構造的課題が浮き彫りになりました。秋サケやサンマの不漁が続くなど、海の変化に強く左右される産業であることも危機感を強めました。

そこで各地で六次産業化や観光連携に挑む漁業者が、「三陸復興デパートメント」を担当していた長谷川さんと出会い、「各地の個別努力を束ねて産業を開く」ために設立したのがフィッシャーマン・ジャパンです。

東日本大震災後、被災地である東北(特に三陸)の生産者支援と販路拡大を目的にYahoo! JAPANが始めたプロジェクト。

目標は新3K、「かっこよくて、稼げて、革新的な水産業」を実現することです。従来の閉鎖的な枠組み(漁業協同組合・漁師・仲卸)に、クリエイターや事務仕事など「海に出ない仕事」をする多様な人材が関わる余地を広げ、「フィッシャーマン」を広く「関わる人」と定義して関係人口を増やしています。担い手育成だけでなく、環境保全や教育研究、流通・マーケティングの変革などを通じて水産業を地域に開き、持続可能性を高めるためのさまざまな事業に取り組んでいます。

――漁業は多くの産業と同じく、高齢化と就業者減少のダブルパンチです。担い手不足の課題に対して、どのように取り組んできましたか。

図表1:宮城県、石巻市それぞれの漁業就業者数の推移

図表1:宮城県、石巻市それぞれの漁業就業者数の推移

出所:水産庁(2025)指定漁港数一覧表,宮城県一覧表より渡部氏作成

渡部氏:私は2018年の大学院在学中にインターンシップとしてフィッシャーマン・ジャパンに参画し、1年間休学して島に住み込み、魚の出荷作業などに従事しました。「いつか漁師に」と考えましたが、漁業権などによる参入ハードルの高さが壁になりました。そこで、「ハードルを下げる側」として人材不足の解決にフォーカスし、大学院修了後の2021年に正社員としてフィッシャーマン・ジャパンに入りました。

沿岸の漁業(養殖・定置網・磯根資源などの漁業権漁業)における新規参入は特にハードルが高く、住所要件や3年以上の就業実績、資格審査委員会での承認など、地域コミュニティへの実質的な参加が求められます。従業員として雇用されることは比較的可能ですが、漁師、つまりは漁業協同組合の正・准組合員としてプラスすることが極めて難しい。この前提を踏まえ、従業員採用と組合員化の双方を支援しています。

石巻市などでは、沿岸部の人口確保・産業維持という行政課題に対し、委託事業で担い手の確保に取り組んできました(石巻市水産業担い手育成事業)。2025年までの直近9年間で50名以上の就業支援を行い、そのうち正・准組合員化は合わせて数名という数字ですが、参入障壁を踏まえると重要な成果です。「従業員採用」と「組合員化」を両輪で支えることが、水産業の持続可能性には不可欠です。

参入障壁を乗り越える地域ごとに最適な人材戦略と伴走型マッチング

――地域の漁業には特有の障壁があるということですね。そのなかで人を集める取り組み「TRITON PROJECT(トリトンプロジェクト)」を実施していると伺いました。詳しく教えてください。

渡部氏:「トリトンプロジェクト」は、地域ごとの産業構造に合わせて、人材面から水産業の持続可能性を高める取り組みの総称です。例えば、個人漁業者が密集し、資源や場所が競合する地域で組合員増加を進めると不幸を生むことがあります。その場合は既存事業者の利益最大化と人材定着を重視し、従業員育成・就業規則整備(社労士と連携)などの「受け皿づくり」に力を入れます。

図表2:「TRITON PROJECT」かわら版

図表2:「TRITON PROJECT」かわら版

出所:フィッシャーマン・ジャパンTRITON PROJECT

後継者不在が顕在化している地域では、漁協(漁業協同組合)と連携し、事業承継(船や養殖面の引き継ぎ)を地域合意の下で進めます。特徴的なモデルとして、親方と担い手が雇用関係を結びながら、数年後に担い手が准組合員として独立し、閑散期は自営、繁忙期は親方の従業員として戻る「兼業・循環型」の形を設計しています。これは地域の合意形成と良好な雇用関係が前提で、石巻ではこのモデルで3名程度が就業し、准組合員化の実績も出ています。地域ごとに最適な人材戦略を作る──その目線合わせが成功の大前提です。

体験から就業へ。「トリトンジョブ」「トリトンスクール」「スポット就業」の三位一体

――人材募集・マッチングはどのように進めていますか。

渡部氏:私たちは水産業特化の求人サイト「TRITON JOB(トリトンジョブ)」を運営し、人材マッチングを行っています。仕事のイメージが持ちやすく、地元の人以外も参入しやすいように、写真・コラム・仕事の年間スケジュールなどのコンテンツを丁寧に準備し、「仕事の具体像」が伝わるようにしました。現場に同行し、仕事の様子を撮影・取材することで、若い世代がネットから情報収集しやすい環境を整えています。

石巻では年間約150件の応募があり、半数が県外からです。大阪・岡山・群馬など首都圏・内陸からの応募も多く、釣り好きなど一次産業志望層の関心を掘り起こしています。ターゲットは主に20~30代で、高卒・新卒の受け入れも地域と協働して進めています。女性の応募も増えていますが、船舶トイレなどの設備面など、受け入れ環境整備は今後の課題です。

――就業前の「入口」を広げる取り組みについて教えてください。

渡部氏:就業前の「入口」を広げるため、漁業体験イベント「TRITON SCHOOL(トリトンスクール)」を定期開催しています。主に土日の一泊二日で、求人を出している事業者の現場に入り、通常業務の見学・体験を行います。これに参加した元証券会社の方や仙台の営業職の方が就業につながるなど、都市のホワイトカラーからのキャリアチェンジも生まれています。「まず海に来てもらう」体験の入口が、漁業への心理的ハードルを下げ、ミスマッチを予防します。

また、大学生向けに1カ月の課題解決型インターンシップをコーディネートし、水産加工・漁業者のEC支援、Webサイト制作など「海に出ない仕事」の側面も体験可能です。就業に直結しない層とも関係をつくり、産業理解を広げています。

図表3:漁師学校の風景

図表3:漁師学校の風景

出所:フィッシャーマン・ジャパン

――今、さまざまな産業にスキマバイト・スポットワークの活用が急激に広がっています。フィッシャーマン・ジャパンも短期・短時間のスポット就業のプラットフォームとの協業も始めたそうですね。狙いはどのあたりにありますか。

渡部氏:スポット就業は、ニーズが多様です。繁忙期のバイトはトリトンジョブで募集しています。一方、短時間・単日ニーズはスキマバイトサービスを活用し、数時間〜1日単位の募集も試行しています。沿岸部の僻地でも交通費支給などを工夫すれば人は来ます。「受け入れ側が業務を切り分ける」発想に切り替えることで、スポット人材の活用可能性が一気に広がります。

受け入れ側には、何でもできるスーパーマンを求めるのではなく、できる業務に限定して任せる設計を促しています。これは地方の現場で従来根強かった「万能人材前提」の採用観をアップデートする試みでもあり、スポットマッチングの実装に不可欠です。

――ミスマッチや受け入れ時の課題にはどう向き合っていますか。

渡部氏: 船酔いや自然との向き合い方などでミスマッチが就業前研修で判明するのは、命を扱う現場としては健全です。一方、言葉遣いやコミュニケーション、待遇・就業規則など、現代的な労務環境へのアップデートは私たちからも事業者に働きかけます。

より重大なのは「目指す進路の不一致」です。働く側が将来の独立・組合員化を望むのに、地域・漁協の構造的理由でそれが難しい場合、数年後に不幸な離職になります。逆に親方が事業承継希望していても、働き手が短期就労希望ではすれ違います。

図表4:担い手確保・育成の既出パターン

図表4:担い手確保・育成の既出パターン

出所:「TRITON PROJECT」担い手募集スタートガイドより

そこで、図表4のようなガイドをつくり、Yes/Noチャートなどを用いながら就業前から「雇う側のビジョン」と「働く側の意思」を明確化しながら調整しています。複数事業者での研修を通じて相性比較も行います。就業後も定期的にヒアリングし、意思の変化があれば、親方・漁協と共有して承継準備や段階的な組合員化の道筋を整えます。「伴走型」で意思の変化に寄り添い、地域合意とキャリアの接続を丁寧に編み直すことが重要です。

――求人の「弾切れ」リスクに対して、どのように企業側の開拓を進めていますか。

渡部氏: 良い経営者の下には応募が集まり、マッチングも早い傾向があります。待遇改善、視座の高い経営、安定した事業構造がある事業者は自然と人材が定着します。一方で、地域の「求人の弾切れ」を避けるため、漁協と連携して売上規模などの指標をもとに新規事業者に働きかけ、事例を広く共有します。「独立型」「長期従業員型」「兼業循環型」など複数のモデルを示し、「自社に合う人材像」を具体的にイメージしてもらうことが重要です。

また、スキマバイトサービスなどの外部プラットフォームの活用を提案することで、これまでアプローチできなかった事業者層に接点をつくります。受け入れ未経験の事業者にとって、スポット募集は「受け入れてみる」初体験として有効で、結果として通年採用や承継に向けた意識変化にもつながります。

浜を持続可能にするために、協業・省力化・データで描く次の10年

――この国は構造的労働力不足が続きます。人手確保だけではなく、「必要な人手を少なくする」という方向性もやはり必要だと思いますが、生産性向上や機械化の現状と可能性については、どのような見立てですか。

渡部氏:完全な機械化には限界がありますが、部分的な省力化は進んでいます。定置網の水揚げでローラーや機器を導入して人員を半減させたり、船上にクレーンを備えて重量物の荷役を効率化したりする事例があります。標準化できる工程では効果が出ます。

ただし、海況の変化に日々対応する必要があること、海水・屋外環境による機器のメンテナンス負荷、投資の規模など、技術導入の難易度は高い領域です。したがって、協業・資本の集約・投資の共同化など「事業の入れ子」に踏み込む組織設計も併せて重要です。

本来は漁協が機能すべき領域ですが、漁場の調整業務や行政への報告、事務手続きなど、日々の窓口業務に追われる実態もあり、現実的には若手漁師の緩やかな連携・将来ビジョンの共有から地道に進めています。省力化と協業の両輪で、今いる人の生産性を最大化する──これが現実的な解です。

――地域の事業者のマインドの変化については、どのように見ていますか。

渡部氏:どの地域でも「人がいない」という声は共通ですが、深掘りすると「いつ」「どれくらい」「どのレイヤー(熟練か補助か)」など、ニーズの具体が多様です。通年雇用の売上規模に満たない事業者も存在します。したがって、漁業の前提知識を踏まえた精緻なヒアリング・分類が不可欠で、その難しさが大手の参入・継続を難しくしている面もあります。

マインドの変化は、劇的ではないものの、若い世代からの相談が増え、スマホベースの募集・管理を家族内で分担するなど、部分的な世代交代の兆しがあります。受け入れ側の「仕事の切り分け」発想も少しずつ浸透しています。「人がいない」を具体化し、対策を多層に設計することが、解決の近道です。

――地域の受け入れ側の準備やマインドを、客観的視点から広げていく必要があるのは、多くの業界で共通するように思います。最後に、今後の展望を教えてください。

渡部氏: 2014年から約10年の蓄積によって、担い手づくりの「型」が見えてきました。これまでは要望に応じたオーダーメイドで展開してきましたが、今後は「受け入れ設計」「入口拡大(トリトンジョブ/トリトンスクール/スポット就業)」「伴走・合意形成」の一連のフレームをパッケージ化し、全国へ展開していきます。

また、根拠のある必要人数(漁協存続に必要な就業者/組合員数)を地域データから設計し、数字から逃げずに持続可能性の筋道を示すことを強化します。「ジャパン」の名にふさわしく、地域横断で普遍的な解を届ける──それが次の10年の目標です。

最後に、フィッシャーマン・ジャパンは、「浜(漁業)」の現場に入り、仕事の具体像を伝え、地域と働き手の合意形成を伴走する存在であり続けます。人が集まり、働きがいが生まれ、浜が持続する──その未来を、地域の皆さまと共につくっていきます。

図表5:事務局の現場風景

図表5:事務局の現場風景

出所:フィッシャーマン・ジャパン

  • 文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

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